災害医学・抄読会 080208

災害時の対応―現在 (3)スタッフの招集と配置、患者連絡の確立

(富山小夜美ほか.臨床透析 22:1525-1532, 2006)


 要旨:地震の多い町として知られている北海道浦河町での地震発生時の状況とその対応について述べることとする。十勝沖地震発生時、浦河赤十字病院ではどのようにスタッフが招集され、そのスタッフ配置と役割についてはどのようなものであったのか。また、地域密着型と都市型では患者連絡方法が違うことに提言する。


はじめに

 平成15年十勝沖地震(震度6)の際、建物の被害が生じ、透析が不能となってもおかしくない状況のなかで、病院全体が午前8時30分からの通常業務が可能であった。そのとき何が起こって、どのような対応をしたのかについて述べる。

I.被害状況

1. ライフライン

 水道:水道料に制限はあるが、完全断水はなかった。
 電気:通常電源停電(午前4時50分〜6時00分)
 ガス:当院のガスはプロパンガスを栄養科のみで使用。地震後すぐに元栓が締められる。
 食事:非常食にて通常時間に配膳された。

2. 建物の被害

 建物の不同沈下など、透析室渡り廊下の損傷、接合部上部の損壊、配水管の損傷など。

3. 入院患者の状況

 212名の入院患者の被害は、外傷は打撲と指の切創の軽傷が2名。また地震中、不安で歩き出す人、不隠になった人、ベッド転落した人は各1名、大きな混乱を招くことはなかった。

4. 透析室の状況

 35台の患者監視装置およびベッドはともに定位置より最大1m移動していたが、転倒・故障なし。書類・物品は落下し散乱していた。

II.スタッフの召集・地震発生時マニュアル

 当院の地震発生時マニュアルには、登院について記載されている。被害の拡大を防止するためには迅速な対応が要求され、そのためにはマンパワーが必要である。災害時は電話がつながりにくくなるため、連絡することなく人員の確保と、その行動内容がわかるように看護部にはマニュアルがある。震度5以上の地震発生時が対象で、勤務者の役割、非勤務者は速やかに登院し活動を開始する内容が記載されている。震度4以下の場合でも被害発生が予測される場合は、このマニュアルに準じて行動することとなっている。

III.スタッフの配置と役割

 透析室スタッフの8割が地震発生後30分以内に、その日の勤務シフトにかかわらず自発的に集合し後片付けを行っていた。医師、臨床工学技士、看護師長とで本日透析ができるか否かの協議を行った。

<役割>

  1. 医師:病院本部と連絡を取り合い病院の状況の確認をし、透析を実施することを報告。関係機関との連絡調整。治療方針の決定。
  2. 臨床工学技士:医療機器の作動状況、水道・電気の状況のチェック。透析の準備。
  3. 看護職員:後片付け。薬品の被害状況チェック。透析の準備。患者観察。
  4. 係長:チームリーダーとして透析の準備。入室してきた患者の状況確認、情報の伝達。
  5. 看護師長:職員の被害状況の確認。透析室内の被害状況の確認。病院本部看護部との連絡・報告。
スタッフが一丸となって業務を行うには、カンファレンスでの意思統一と情報伝達が重要。

IV.患者連絡方法・患者搬入

 当院患者会で連絡網があるが、地震当日は活用されなかった。患者は病院もしくは役場からの連絡を待っていて、連絡網自体理解していない者もいた。

 患者連絡方法について、透析室では以前より各町行政との連携がある。各町行政では、移送サービスや生活支援のため、患者の透析曜日について把握している。

 看護師長が各町役場もしくは支援センターに連絡を行い、透析室の状況から治療が可能であるか否か、今後予測されることの情報を提供し、各町からは被害状況、透析患者の被害の有無、通院のための道路の状況についての情報を提供してもらい、社会福祉協議会は、患者を病院に移送できるかの情報を各町もしくは支援センターからもらい調整をはかった。そして透析室に来る患者、待機しなければならない患者の連絡を各町に依頼した。

 地域密着型施設では、連絡を確実に行ってくれ、患者との信頼関係もある地域の保健師や社会福祉協議会との連携を普段から深めておくことが大切である。日常的に行っていることが災害時(地震、台風による大雨・土砂崩れ)にも役に立つ。

おわりに−都市型と地域密着型の違い

 十勝沖地震では透析療法ができないということはなかった。また、患者の避難もなかった。避難所に行くようなことがあっても、地域の保健師もしくはヘルパーが各町で患者の安否の確認をし、透析室と連絡を取りながら、社会福祉協議会が安全に患者を病院まで搬送してくれる。透析患者の地域マップのようなものが各町にあり、病院と行政が情報を共有しながら災害時に対応するシステムが構築されている。当院で透析治療が不可能な状況になった場合は患者を他の施設に移送しなければならない。このときは受け入れ施設を北海道透析医会のネットワークで確保し、患者を安全に移送する手段を行政が担うこととなる。このように、地域密着型の施設では、患者・施設・病院が連携をとって情報を共有するシステムを構築する必要がある。

 都市型の災害は被災人口が多く、災害時施設間コーディネートなどが働くまでに時間がかかり、情報が共有されにくいことが想定される。透析施設が、すべての患者の状況把握と今後の対応をコントロールできないと考える。そのため、都市型の災害では、早急に具体的な対応を行うためのITを活用した防災対策や災害時施設間コーディネートが必要となる。


Confined Space Medicine

(吉永和正.EMERGENCY CARE 2007新春増刊 Page 204-210)


 2005年4月に起こったJR福知山線列車脱線事故によって、震災後整備されてきた災害医療システムが新しい展開を見せた。その中で特筆すべきことは車内に閉じ込められた患者に対してConfined space medicine(CSM)が実践されたことである。

 Confined space medicineとは、閉じ込められた、出入りの制限された空間を意味する。もともとは、閉鎖空間に近い行動や、トンネル、マンホール工事などの現場で、崩落などにより中に人が閉じ込められた状況が考えられていた。しかし、災害時の救出という視点からはビルの崩壊、列車事故などでも閉鎖空間が生じ、その中での閉じ込めは、救出の困難さを考えれば同じものであり、このような状況をまとめてConfined spaceと呼んでいる。

CSMの準備

1)情報の収集

 既に現地で活動しているものや、地元の人々から被災者の想定を確認する。できるだけ具体的な情報を聴取する。また、漏電、有毒ガス、化学物質の流出などの危険物の確認も必要である。

 これに引き続いて実際の被災者探索が行われる。通常の呼びかけに加えて救助犬や電子機器を用いた操作が行われる。要救助者が見つかればボイスコンタクトで情報評価を行い、具体的な進入経路、活動方法などを決定する。

2)装備

 1.ライトつきヘルメット、2.ゴーグル、3.防塵マスク、N95できれば吸収管付き、4.皮手袋
 5.安全靴、6.プロテクター(肘、膝)、7.通信機器、ホイッスル

3)地域の状況把握

 救出した傷病者にその後、どのように医療を継続するかもCSMの課題である。救出した直後に現場近くでどのような医療支援が受けられるのが、周辺にどのような医療施設があるのか、どのような搬送手段が可能なのかなどを念頭に置いて、傷病者に医療の空白時間が生じないように計画を立てるための情報を収集しておく。

活動の実際

1)特殊な状況、病態

 対象が外傷患者である以上、通常の外傷診療で遭遇するのと同様の病態を考えなければならない。皮膚の損傷(挫創、裂傷)、骨折に加えて頭部外傷による意識障害、鈍的外傷による内蔵損傷などである。これらに加えてConfined spaceに特有の状況や病態が進行することが問題となる。

2)特殊な活動

Confined spaceからの救出

 現代社会の中でConfined spaceに遭遇する機会が多いのは鉱山やトンネル工事での事故よりも震災や交通事故である。このような状況で多数の傷病者が出た場合、探査と救出を担当するチームの派遣が必要となる。通常の外傷医療と比べるとCSMではがれきのしたという限られた空間、しかも暗い中で医療活動をしなければならない。ソコにはガラス片、先鋭な障害物などがあり、活動は大きく制限される。温度環境も室内とは違い、傷病者はもちろん救助者にも大きな影響を与える。水分の多い環境である場合もあり、粉塵が舞うことも多い。活動は救出が完了して病院搬送が行われるまで続けられるが、それまでには長時間に及ぶことがある。がれきの下にはいるときには十分な防護対策を講じておかなければならないが、その装備が細かい医療上の操作を妨げることになる。

 また二次災害の危険性も高く、常に自分自身の安全確保を念頭に置きながら活動しなければならない点もCSMと通常の外傷医療との違いである。医療活動の隣では救出のための作業も平行して行われているが、時にその騒音や振動が医療活動の妨げになることもある。空間に持ち込める機材も制限されており、診察は聴診器や五感を使う触診、聴診、打診が中心となる。周囲と連絡を取りながら診察を進めていかなければならない。通常の飲料でいつ看護師や助手は傍にくる余裕は無いので、基本的にすべての操作は自分でしなければならない。

 活動対象も多彩である。年齢、性別はもとより、基礎疾患(背景因子)、受傷転機もそれぞれ異なる。外国人の場合は言語も考慮しなければならない。


諏訪大社下社御柱祭における救護体制の構築

(上條幸弘ほか.日本集団災害医学会誌 12: 38-43, 2007)


 諏訪大社下社御柱祭は7年ごとに開催される伝統ある祭典で、多数の見物客が集まる。見物客は徒歩で集まり、負傷者や急病者も発生する。また、祭り参加者や見物客は飲酒することが多い。

 往来の諏訪大社下社御柱祭医療救護体制は警護の一部に含まれており、各地域の御柱委員会からそれぞれの医療機関に対して医師や看護師の派遣要請が出されるのみであった。したがって、救護所における連絡体制や傷病者の搬送、多数傷病者発生時での対応などの指揮命令系統の不備、傷病者数・傷病名の記録も不十分であるなど、統括的な医療救護体制が構築されていなかった。

 2004年は、地域医師会と諏訪赤十字病院などの基幹病院、下諏訪消防が連携し、下諏訪町役場が中心となり、救護部会設置の準備を進めた。医療救護の統括・指揮、災害時の対応、会場での傷病者の救出・搬送、医療救護の安全管理については消防が担当し、会場での警備、観客・祭り参加者の統制、災害時の非難ルートの確保、災害時の安全管理は警察が担当した。また、救急搬送時の白バイによる救急車の先導も担当した。救護所での傷病者の診察や救急搬送が必要な傷病者の受け入れは地域の医師会、諏訪地域の7基幹病院のうち主に近隣の5病院が担当した。

 このような体制をとったことにより、以下の2つの表のような結果となった。

救護所で救護した傷病者の特徴
 1日目2日目3日目合計
怪我25323390
病気(点滴)10(8)27(12)17(13)54(3)
その他2002
合計375950146(33)

救急搬送した傷病者
 1日目2日目3日目合計
重症0(0)3(3)4(4)7(7)
中等症1(0)6(1)3(2)10(3)
軽症8(5)9(3)2(2)19(10)
合計9(5)18(7)9(8)36(20)

 3日間の観客数は、523,000名で、前回(1998年)より37,000名増加した。救護所で救護した傷病者は、前回より102名増加し146名で、そのうち33名に対し点滴治療を行い、全員徒歩にて帰宅した。救急搬送した傷病者は軽症19名、中等症10名、重症7名の計36名で前回から3名増加した。

 従来の慣習を踏襲することが多い伝統的な祭典では、新たな医療・救護体制の構築をするために、行政や祭典関係者との連携や相互理解を深めることが重要であり、構築できた要因としては、行政にまとまりがあり、祭典の安全性に対する危機感が大きかったこと、事前に十分な検討がなされ各機関の連携が良かったことや祭典関係者の理解を得ることができたことがあげられる。また、警察との連携は、群集のコントロールや白バイでの先導などにより安全で効率の良い搬送ができ、今後の救急医療や、災害時での協力体制の構築には有用であると考えられた。また、救護所で救護した傷病者は、前回より102名増加し146名となったが、これは好天に恵まれ気温も上昇したため、飲酒や脱水により点滴治療を行う傷病者が多かったことと、救護体制が整備され軽症傷病者を救護所で処置したためと考えられる。このように医療救護体制を整えることにより、総傷病者数の増加に比べて、救急車搬送数を前回より3名の増加にとどめることができ、また、より多くの傷病者に効率的な医療サービスを提供できたと考えられる。

 一方で、医師・看護師・事務員・赤十字救護員については、救護活動中や移動時のけが、あるいは医療事故として訴えられた場合の責任の所在があやふやになったことが、今後の大きな課題として残った。


書籍・研究論文・ガイドラインから学ぶ災害看護

(酒井明子.インターナショナルナーシングレビュー 28: 136-143, 2005)


 災害看護では、生活している人間の全体としての変化の状態に関心を持つことが重要なため、人間を取り巻く地球環境、社会構造、人間関係、地域と関係が重要な要因となる。また、災害の起こり方や原因、人の心の健康、人間関係の希薄さなどの要因が災害時の現象を複雑化にし、被災者のニーズを多様化させているため、これらの重要な要因によって影響を受ける生命と生活に視点をおく必要がある。以上のことから災害看護は「人間の生命と生活を守る」事と定義される。

 看護は実践の科学であり、哲学である。看護が対象にしているのは、生活を基盤とし、常に変化し続けている人間である。したがって、重要なことは、災害の種類別や災害時の疾患別などに類型化して一般の看護を学ぶことではない。災害時に何がそこで起きていたのかを時間経過を追って丁寧に掘り起こしていき、現象をありのままに捉えていくことが重要なのである。そのためには、過去に起こった災害事例を読むことが薦められる。この際、被災者の生命や生活に視点を置いて熟読し、その後、災害種類別、対象者別、災害時期別、避難所や仮設住宅などの生活の場所など必要な枠組みにそって読み取り、これらの関連性を分析することが必要である。以上のことが、書籍から災害看護を学ぶ際の注意点である。

 論文も災害看護を学ぶ際に重要な手助けとなる。災害看護研究は、まだその端緒についたばかりである。これまでの災害看護の実践を貴重な資源として積み上げている段階である。人々の命や生活に大きな影響を与えた阪神・淡路大震災以降では、明らかに、被災者の生活や、災害時の被災者や援助者の心のケアに関する文献が増加している。また、国内で発生した地震や水害における災害看護の役割を明確化、概念化しようとする試みもなされている。これらは、災害看護学の確立を視野に入れており、災害看護における実践的活動や教育に役立つような系統的、継続的な知識の蓄積を目的としている。今後は、病院では災害時に支援優先度の高い疾病を有する患者など、リスクの高い患者に対する看護の視点からの対象者別研究、また災害現場では生活の場に共通した問題の分析と看護介入の検討が長期的な視点がなされることが期待されている。

 日本における介護ガイドラインは、これから開発・普及がなされていく段階であろう。特に、災害や災害看護の領域は、阪神・淡路大震災以降に組織的な取り組みや研究が盛んに行われるようになったため、看護ガイドラインの根拠となる災害看護研究自体が少ない現状である。しかし、災害看護領域における看護ガイドライン作成の必要性や意義は認識されつつある。つまり、災害は突然に発生するため、緊急時に対応できるガイドラインは実践で有効に活用できる。また、災害は発生直後から刻々と変化するため、時期に応じた看護ガイドラインが必要であり、避難所や仮設住宅などの場や対象者に応じた看護ガイドライン作成も意義深い。このような看護ガイドラインが一般化され、広い範囲で用いられていくことは、被災地や病院など現場におけるケアの質向上につながる。したがって、今後、エビデンスに基づいた看護ガイドラインが作成されていくためには災害事例を長期的な視点で分析し検討を積み重ねていく必要があるだろう。

 多くの看護師は災害がいつどこで起きるか予測がつかないと考え、平常時から災害に対する知識・技術・人間性に対する備えを行い、さらに関係団体が連携していくことの重要性を認識し始めた。しかし、一方で災害看護は何か特別な領域とも考えられており、災害看護の学習方法に対する質問は多い。災害看護を学ぶということは、人間の生命と生活を守るために必要な知識を学ぶことであり、平常時に行っている専門家としての看護実践そのものが基本になると考えている。ただここで重要なのは、災害時には刻々と変化する災害状況に応じて、その技術を柔軟に活用していく能力が求められていることを認識するということである。


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