透析医会では、都道府県を単位とした地域透析施設間の災害対策確立を呼びかけるともに、都道府県透析医会支部からの医師と臨床工学技師をメンバーとする「災害情報ネットワーク」を組織し、さらに国や地方自治体、透析関連団体、企業などとの連絡体制づくりを推進してきた。これを支える情報共用システムには、インターネットのホームページと電子メールを利用したシステムを構築した。
ホームページは「災害情報伝達・集計専用ページ(http://www.saigai-touseki.net)」である。
電子メールによる情報共有手段としては、二つのメーリングリストを運用している。一つはおもに透析医会会員および透析医会会員の所属する施設で災害対策に関わっている方をメンバーとして広く情報提供を呼びかけるもの、もう一つは透析関係団体、厚生労働省、地方公共団体の災害対策担当者をメンバーとした、災害発生時の対策会議を目的とするものである。
活動基準は、震度5以上の地震、その他国または地方公共団体が災害救助法を適用するような広範囲にわたる被害発生時に利用する。
災害時情報の事例として2004年10月に発生した新潟中越地震がある。透析医会では、10月23日17時56分の地震発生直後から、情報伝達サイト掲示板とメーリングリスト、さらには電話やFAXも用いて、地震発生の通知と支援情報・被災情報の提供を呼びかけた。11月15日には、被災施設の透析医療体制が回復したため情報伝達活動を終了したが、この日までの間に、情報伝達サイトには10000を超えるアクセスと90を超える施設情報登録があり、メーリングリストには100通を超えるメールが投稿されていた。地震発生直後24時間を待たずに、災害対策の中心となる施設、透析受け入れ施設と移送手段などの具体的な対応が行われた。
災害時情報共有システムとして有用であったと評価できるが、被災地とその周辺地域の施設間には、日ごろから深い交流があり、このことが迅速な連携と対応を可能にしたと考えられる。今後は情報伝達サイトのさらなる周知拡大と、コンピュータがなくても情報登録や確認ができるシステム、発災時に施設情報発信を促すシステムなどが必要である。現在、携帯電話のインターネット機能を利用して情報伝達サイトと連動することを検討している。
最後により大きな都市型災害などでは、患者は安全な地域へ脱出して透析治療を依頼すること、受け入れ施設は被災患者に対してできるかぎりの治療提供することが大規模災害時の大原則であることも再確認しておきたい。
近年、我が国では外傷初期対応法の標準化が進められており、その代表的なものにJPTECとJATECがある。JPTECは日本救急医学会公認の病院前外傷教育プログラムであり、医師向けのJapan Advanced Trauma Evaluation and Care
(JATEC) との整合性を保つことにより、病院前から病院内まで一貫した思想のもとに標準的な外傷教育を行い、我が国において、防ぎうる外傷死亡(preventable trauma death; PTD)の撲滅を目指すものであ
る。JATECでは外傷診療における大原則を次のような5か条にまとめている。
この考え方はJPTECにも共通している。
JPTECやJATECは、日常の救急現場における外傷患者「1人」を対象としてプログラムが組まれているが、災害時にも応用することができる。
【例)日本DMAT隊員養成研修におけるJPTECとJATEC】
厚生労働省が推進している日本DMAT(Disaster Medical Assistance Team)隊員養成研修では、災害急性期での医療対応を系統的に教えており、そこでもJPTEC、JATECの考え方が取り入れられている。
トリアージの方式として、篩い分けトリアージ」と「並べ替えトリアージ」の二方式がとられている。前者では医療器具なしに生理学的評価のみを行うSTART法変法が採用されており、一方後者では、JPTECの初期評価・全身観察と「救急搬送における重症度・緊急度判断基準」に準じて行うよう指導されている。ただし、並べ替えトリアージではバイタルサインなどの具体的数字も積極的に取り入れている点でJPTECとの違いがある。
次に医師による診察では、JATECに準じた診療方法が教えられる。ただし、災害時には使用できる医療器材の制限や、時間が十分かけられないといった制約があり、DMAT研修ではそこにも配慮した工夫が臨機応変に求められる。
2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震津波は、インド洋の国々を襲い死者22万人、被災者200万人の未曾有の被害をもたらした。この被災者の医療救援活動を行うため、日赤は最も被害の大きかったスマトラ島アチェ州に約4ヶ月間、計6班77名の医療チームを派遣した。初動班は発災後3日目に現地に到着して活動を開始した。町で唯一の病院は、津波の被害を免れたものの病院スタッフの多くが被災し、スタッフがいない中、津波による負傷者が次々に運ばれ、病院としての機能は完全に麻痺していた。日赤は他国の救援チームとともにこの病院の診療支援を行った。第2班からは避難民キャンプに診療所(ERU)を開設して診療活動を行った。1日100名ほどの被災者の診療を行い、当初は津波関連の外傷が多かったが、徐々に内科系の疾患、また不眠、頭痛を主訴とした心のケアを必要とする被災者も多くなった。長期にわたるキャンプ生活で体調を崩した被災者も多くみられた。診療所での疾患分類はFig.5に示すとおりで、呼吸器疾患(24%)、外傷(16%)、皮膚疾患(19%)等が多かった。診療所内の活動だけでなく、助産師が積極的にキャンプ内を巡回して妊婦や乳幼児の診察も行った。
災害時には様々な組織が活動するため、有意義な救援活動を行うためには各組織間の連携と調整が不可欠となる。今回は早い時期にUNOCHA(国際人道問題調整事務所)が各国救援チームの調整役を担当し、連日ミーティングを開いてチーム間の連携を図っていた。
まず、下痢症を含む水系伝染病の予防対策で最も重要とされるのは安全な飲料水の確保である。スペイン赤十字社を中心とした給水チームにより早期から被災者への給水活動が行われ、1日60トンを超える大量の飲料水が避難民キャンプを中心に配給された。日赤の活動の中でも、被災地や難民キャンプでのトイレ、ゴミ捨て場、井戸水等の生活環境や衛生状況について調査・情報収集を行い、被災者への保健衛生指導を行ったことは伝染病対策に非常に有益であったと思われる。
予防接種、栄養についてはUNICEFが主導的な立場で担当した。発展途上国では災害の発生後に避難所などで小児の麻疹流行が大きな問題として注目されており、麻疹の予防接種は災害後には最も優先度の高い対策のひとつとされている。今回はUNICEFによる調整のもと、他のNGOと協力して地域を分担し、麻疹の予防接種キャンペーンを実施した。また、破傷風の予防接種を被災者、特にリスクの高い負傷者、妊婦、遺体の回収作業に携わるボランティアを対象に実施した。
被災地での蚊の異常発生によるマラリアの流行も懸念されていたため、マラリアの迅速診断キット、マラリアの治療薬、殺虫剤の噴射、被災者への蚊帳の配布、の4本柱でマラリア対策が実施されていた。特に、マラリアの診断、治療についてはMentorというNGOが熱帯熱マラリアの迅速診断キットとマラリア治療薬ACTを導入し、それを現地で救援活動を行っていたNGOに無料で配布し、その使用法を指導していた。
これらの対策が実施された結果、津波発生から4ヶ月以内には、一部の地域で破傷風、血清下痢症、麻疹の発生があったものの、WHOが地震津波発災10日後の2005年1月5日に、『津波被災者に対する水や衛生面などの対策が十分に行わなければ、感染症流行により新たに15万人が死亡する危険性がある』と警告を発したような大規模な感染症流行は見られなかった。
災害から数ヶ月がたち人々の関心が薄くなっても、被災者のキャンプでの過酷な生活は変わらず、支援の必要な状態がつづく。日赤の救護活動は4ヶ月でひとつの区切りをつけ、その後は数年に及ぶ長期的な展望で医療以外の保健医療施設建設等にかかわる復興支援を継続することとした。
授業時間の不足を補えるように、自己学習の検討が必要である。また、災害の特徴から考え、災害看護活動に関わった経験をもつ教員は少ないと思われるため、文献などから情報を収集し、それをこれまでの看護活動で培ったものと統合させ、授業の準備をする。さらに、各領域における災害看護の特徴を教員同士が持ち寄り、授業内容を検討することが必要であろう。
(2)教員の研鑽
災害看護について、学習を継続する。そして災害医療に携わる職種の教育内容を知り、看護の基礎教育では、何が必要であるか研究していく。災害看護は、災害が発生したときから始まるのではない。それは、毎日が災害のサイクルのいずれかに当たっているからである。そして災害が発生すると、同時にあらゆる場で多くの被災者が発生し、復旧が完了するまでのあらゆる支援が必要である。看護基礎教育において「災害とは何か」「看護活動の場が施設内外を問わず広いこと」「サイクルに応じた看護の役割」を理解すること、その上で、医療施設の役割として「災害時における救急救命医療」を理解すること、さらに、地域における看護の役割についても学ぶことが必要と考える。
外傷治療 (1)JPTECとJATEC
(久保山一敏.EMERGENCY CARE 2007新春増刊 Page 164-169)スマトラ島地震津波災害の教訓―日赤ERUチームによる救援活動を通して―
(石川 清ほか.日本集団災害医学会誌 12: 48-53, 2007)二葉看護学院の災害看護教育
(山田里津ほか.インターナショナルナーシングレビュー 28: 120-125, 2005)【はじめに】
【災害看護の教育について】
【授業展開】
【授業の評価】
【今後の課題】