神戸協同病院/社会保険神戸中央病院

(石川靖二、西岡文三:立道 清・編、検証 そのとき医師たちになにができたか、清文 社、大阪、1996、p.115-126)


 この論文は、阪神淡路大震災における神戸の病院の活動を記録したものである。

神戸協同病院の例

【概要】

 神戸協同病院は被害の最も大きかった長田区南部にあった。建物の倒壊は免れたが、電気や水の供給が停止した。電気は非常電源により供給されたが、水はポリタンクでピストン輸送した。また、この病院は全日本民医連からの人的・物的支援が豊富であった。

【問題点】

【よかった点】

 縦の命令がなくても、職員各々が自発的に適切な行動をとれた。/震災直後、全国から協力な医療支援を受けることが出来た。/日頃から地域に密着した医療を心がけていたため、スムーズに動けた。

社会保険神戸中央病院の例

【概要】

 社会保険神戸中央病院は被害が比較的軽かった北区にあるため、病院の物的・人的被害は軽微であり、診療に支障をきたすことはなかった。また、一時的に電気の供給がストップしたものの、基本的には電気・水道・ガスとも停止することはなかった。

【災害対策本部の設置・被災者の受け入れ】

 震災発生直後から人員と宿泊場所、食料、医薬品、診療材料を確保し、受け入れを開始した。初期は創傷、熱傷、打撲など軽症の患者が自力で来院することが多かった。しかし、被害の大きかった浜側からはほとんど緊急搬送などはなかった。来る患者は軽症や慢性期フォローが多かった。

【物資・人材の確保】

 食料や医薬品を全社連や近隣社会保険病院から送ってもらい、確保した。また、職員には一人の死傷者もおらず、また医師・看護師宿舎が院内にあることから人材の確保は容易であった。

【振り返って】

 病院機能がほぼ完全に保持されていたが、救急搬送や手術はほぼ皆無で、ほとんどが慢性疾患だった。行政の管理や交通網の改善があれば、より円滑に医療を施せたのではないかと思う。


第5章 成果を生み出す防災訓練(中):3 訓練管理にあたって留意する事項

(佐藤喜久二:主動の地震応急対策、東京、内外出版、2004、137-144)


(訓練管理とは)

 効果的な訓練を行うために、訓練計画を作成し、それに基づいた実践的訓練を実施し、実施結果を評価・分析し、さらに予算の確保や訓練資機材の整備など訓練の基盤を整備するといった訓練に係わる一連の業務を体系的に管理することである。

【留意すること】

(1)訓練の本質は個人、組織を鍛えること

 全ての訓練は人を対象に行われ、発災時における組織や職員の対応能力の向上を目指さなくてはいけない。形式ばった訓練よりは事の本質を正しく周知して組織や地域社会を啓発して行うことのほうが防災体制を強化する上ではるかに有益である。

(2)訓練の目的と目標の関係を理解すること

 訓練の目的を達成するには、達成すべき目標がある。そのため訓練を計画する場合訓練目的を明確にし、その目的を達成するためにはどのような項目を訓練すべきかを考えていかなくてはならない。

(3)訓練を体系的に管理する

 訓練効果を高めるには、個々の訓練のほかに年次の訓練を体系的に管理する必要がある。

のように訓練対象、訓練内容を段階的に拡充していく。また関連する訓練を時期的に順次実施していくことで同一の訓練を積み上げていき、かつ新たな訓練内容を取り込んでいく。

(4)その他の留意すること


災害亜急性期における保健活動と医療コーディネーターの必要性

(山本光映ほか:日本集団災害医学会誌 11: 7-15, 2006)


1.はじめに

 2004年に発生した新潟中越地震において、小千谷市より要請され医療チームと保健医療チームを現地に派遣した。保健医療チームは、災害亜急性期において市街中心部に存在する大規模な避難所のひとつである小千谷小学校で避難者の健康調査などの保健活動を行った。 本論文では、災害救援派遣において集団を対象とした保健活動を行うにあたり戸惑った点などを、初期・中間・最終ステージに分類し報告し、今後活動を行う上での留意点、被災地において医療組織間における医療コーディネーターの必要性について論じた。

2.活動状況

 10月28日〜11月8日の計12日間にわたり、聖路加国際病院看護部および聖路加看護大学大学院生の看護職2~3名・事務職数名で構成された計5班が、3日間ずつ現地に滞在した。毎日9時から20時頃まで活動を行った。

3.避難所の概要

 派遣された当初はライフラインが断絶し、避難所である小学校には1500〜2000人が避難していたが、撤退時には、ライフラインの復旧・学校再開に伴い避難者数は200人程度となった。次第に避難所も縮小され、活動中は避難所内外での移動が多く避難者の把握に困難した。  また、同小学校には、日赤医療班・薬剤師会・ボランティアなどが活動を行っていたが、医療チームは各々が独自に活動を展開しており、各組織を統括する機関はなく、情報交換の場はなかった。

4.健康センターより依頼された業務と連携

 現地入りした時には、医師を中心として巡回医療チームはほぼ充足していると判断した。当チームに依頼された活動内容は 1.避難所の環境・衛生状態の把握、2.避難者の人数・世帯・要介護度・健康状態などの把握、3.健康問題への対応(環境整備・感染症予防・血栓予防など)といった保健活動であった。また、避難者への健康調査・相談、健康管理に向けた啓蒙活動等も行った。活動の主な目的は保健活動であり、救援チームが退いた後でも避難所内の力で活動を継続していけるような体制作りも担っていた。

5,チームの役割と活動内容

 人や状況が大きく変わる時期であり、活動時期によってもチームの役割は変化した。

 初期ステージは、状況把握が優先され、各々の環境と膨大な避難者の情報やニーズを把握せねばならなかった。また、独自で活動を展開している他の組織とも連携をとる手段・体制を模索する必要があった。中間ステージとしては、支援組織との協力体制を確立させながら、健康問題に対して具体的なアプローチを行う必要があった。最終ステージは活動内容の整理、体制の整備を行い、健康センターへの業務の引き継ぎなどを行った。

  1. 初期ステージ

     避難者や他の支援機関への自分たちの活動目的の告知や避難所全体の把握などにつとめた。具体的な保健活動として、乾燥した天気が続いた時期、避難者への1.うがい、2.マスクの着用、3.避難所内の換気を中心に行った。また、この時期、エコノミー症候群による肺塞栓症が危惧されるようになっていたため、予防策をはじめとした様々な健康情報を避難者に伝達・提供するための効果的な方法を模索した。

  2. 中間ステージ

     避難者自身が環境整備を自発的に行えるようになり、ライフラインも復旧し、保健活動の方法を変更する必要が生じた。避難者の減少により、要介護者など対象を絞った巡回・個別的な情報収集、問題整理ができるようになった。また、拠点テントに相談窓口を設け、医師の診察が必要な場合は日赤医療班など他の組織とも連携を取り合った。また、食生活の変化による下痢、精神的ストレスの増加、復旧作業中の怪我といった新たな問題が増加し、そういう傾向にも注意し対処していく必要が生じた。

  3. 最終ステージ

     全てのライフラインが復旧し、帰宅する避難者も増え、避難場所も縮小したので、これを機にチーム撤収に向け活動内容の整理を行い、保健センターへ引き継いだ。環境整備は避難者自身の手でできるよう調整した。また、1日1回の巡回診療で身体面でのフォローのみならず、体の不自由な高齢者においては生活面でのフォローも必要である旨を伝えた。

6,結語

 当チームは避難所で、感染症対策・要介護者への対応・慢性疾患者への対応・生活援助など医療チームと連携しつつ看護職としての役割を果たせた。しかし、今回の派遣で、災害看護の具体的な役割は、災害の種類、地域の特異性、活動の場、災害の時期によっても多様であると分かり、それらに柔軟に対応する必要性を感じた。

 また、当チームの相談窓口を訪れた避難者に対して他の医療機関とも連携できたが、全ての避難者に対して、専門チーム・医療機関間で、医療的問題を抱えた家族どこがどのようにフォローしているのかという情報を共有できなかった。医療組織間で情報共有の場を作ることは、互いの活動内容を理解し、役割分担をでき、避難者の健康問題・ニーズに早く対応でき、何より避難者の混乱をなくすことができると考える。この際、互いの役割分担を円滑にし、ニーズに対して誰が何をできるかなどの話し合いや調整する場を提供する医療コーディネーターの存在を必要と感じた。これらを統合し調整する役割を担うのは、やはりあらゆる医療サービスに精通した保健師が適任であると考えられる。


第5章 NBC災害―日本は全てを経験した国―:4 生物剤について

(白濱龍興:医師の目から見た「災害」、東京、内外出版、2005、p.103-111)


 生物剤とは、微生物であり、人、動物もしくは植物の中で増殖する場合にこれらに発病させ死亡させもしくは枯死させるもの、または毒物をいう。そしてエアロゾル(生物剤を人工的に浮遊遊子物質にしたもの)化されたものや、生物剤そのものを武力行使のの手段として使用するものを生物兵器という。さらにそれらを媒介する生物を充填したものを生物兵器という。生物剤としては最近、ウイルス、リケッチア及び毒素などが使用される。また生物剤を兵器として使用する場合、種々の病気を媒介するノミ、シラミなどの小動物が使われることもよく知られている。

■生物剤略史

■使用されるもの

 アメリカ疾病管理予防センター(CDC)では1)病気の伝播力、2)高い死亡率、3)社会にパニックを起こす などの観点より、最優先病原体として炭疽菌、ペスト菌、ボツリヌス菌毒素、野兎病菌(ツラレミア菌)、天然痘、ウイルス性出血熱をあげた。

■生物剤曝露が考えられるのは

 原因不明の感染症の同時多発発生、数カ所の時間差をもって感染症発生、死亡者数の急激な増加、上気道・消化器・中枢神経系の感染症の不自然な増加、軽症・中等症・重症例の混在性の増加、地域関連性のある症例の発生、非常に不自然な感染症の増加 など。

■医師の対応

  1. 症状はいつ発現したか、何を食べ飲み吸ったかなどの問診

  2. インフルエンザや髄膜炎様症状、下痢や腹痛などの消化器疾患様症状を示す患者の吐物、血液、尿、便、胃洗浄液、唾液などのサンプルの採取と分析

■生物剤と予防接種・予防投与


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