災害医療は、被害地の医療、患者搬送中の医療、病院での医療、その後の災害に関する全ての医療を含む。
災害現場において先ず最優先されるべきものは、患者の救急救命のための救出および応急処置などの初期治療(Treatment)などの人命救助である。災害発生直後は、種々の外傷、切傷、挫傷、出血などの外科的疾患や骨折などの整形外科的疾患が多く、歩行ができるか否か、意識の有無を確認し、バイタルサインを早急に観察しなければならない。そして、誰を先に救出し、処置し、運ばなければならないかの優先順位を付けなければならない(Triage)。
また最近、地震などで瓦礫の中や下などに負傷者が閉じこめられた場合に、瓦礫などを除去しながら災害現場の最前線まで医師や救急救命士が潜り込み、救急処置をしながら負傷者を救出する、いわゆる瓦礫の下の医療が注目を浴びている。また、瓦仙喋や家屋や家具などの下敷きに長時間閉じこめられると、身体が圧迫された状態が続き、循環機能の障害を来し、挫滅症候群(クラッシュ症候群)という災害時に特有な病態が発生する。この場合救出直後も輸液や血圧コントロールなどの全身管理が必須となる。
(2)患者搬送中の医療
災害現場での負傷者に対する初期治療、応急治療を施しながら、後方への負傷者の搬送(Transportation)が次の問題となる。被災地の中か近傍に負傷者の集合場所を設置するが、この場合にも患者のふるい分け(Triage)が必要となり、もちろん搬送中の負傷者に対する医療処置(Treatment)も必要である。
(3)病院での医療
病院に搬送された患者に対する医療は、設備の整った病院における、多くの専門的スタッフによる、救急救命医療(Treatment)を中心としたものになる。その場合も、内科か外科か、手術か経過観察か、手術の順番はなどと、入院患者にも必然的に治療の優先順位 (Triage) が必要となる。
すなわち、災害初期には、あらゆる場面で、応急・初期治療(Treatment)、搬送(Transportation)、治療などの優先順位を決めるトリアージ (Triage)の、3Tが重要なポイントとなる。
総合的防災行政の推進とは、平素から各自治体に所在する防災関係機関の意思疎通を図り、国や自治体、その他の防災関係機関が一貫した考えのもとに防災対策を準備し発災時にはそれぞれのレベルで対策本部を設置して、防災会議を通じて具体的対策を講じることを目標としています。
計画的防災行政の推進とは、中央防災会議が作成する「防災基本計画」に基づいて、指定行政機関や指定公共機関は「防災業務計画」を、また、都道府県や市町村は「地域防災計画」を作成することにより、総合的、長期的な観点から防災対策を整えていくことを目指しています。ここで大切なことは次の二点です。
このように、わが国の災害対策は、中央防災会議が定める方針にしたがって、都道府県や市町村は総合的視点から、国の行政機関や公共機関はそれぞれの所掌に応じて、相互に協力補完しながら総合的・計画的に防災対策に推進していくことになっており、法的には多数の防災関係機関が活動できるよう枠組みが整っています。
大規模災害時の国と地方自治体との役割分担については、平成16年4月に開催された中央防災会議における南関東地域直下の地震に関する資料によれば、次のように認識されています。
このように国は被災地の応急措置を補充する役割を担うとして主動的に対応しようとする姿勢が読み取れます。しかし、応急措置については国と自治体間での検証が未了であることもあり、自治体との十分な調整のもとに行われる応急措置にまで至っていません。一方、被災市町村長や都道府県知事には防災関係機関の活動を指揮統制する権限が担保されておらず、初動期の対応に限界があります。すなわち大規模災害に対する国の対応は、当面の事態解決にあたって全面的に責任を負うのか、あるいは被災市町村や都道府県を支援することに徹するのか、現時点において曖昧です。
国と被災自治体との連携不足は何も大規模災害に限ったものではなく、局地的な事案においても見られます。局地的な事案においてさえ国の対応が一方的である現状を考慮した場合、現行法が目指す総合的・計画的な防災行政を具現していくためには、今後、国、地方自治体、その他の防災関係機関が、双方向のコミュニケーションを通じて、さらに実質的かつ実効性の高い取り組みを行っていかなければならないと思います。
まず人的観点から言うと、本院は180床の民間救急病院であるが、基準看護を実施していないため、数十人の付添婦がいたこと、女子寮に空室がたくさんあったため、被災従業員を即収容できたこと、幹部医師が病院に隣接する宿舎にいたため、震災直後から的確な指示が出せたことなどが挙げられる。
構造的観点から言うと、本院は複数棟からなり、給配水系が複数あったため、全部が損壊しない限り、なんとか水道系が保てたこと、風呂もガスおよび重油ボイラーの二系統あり、ガスが使えなくても暖房については対応できたことなどが挙げられる。
反省点も挙がった。給食について、主食は電気炊飯器で容易に供給できたが、副食は卓上ガスコンロで調理したため、加熱不足により嘔吐、下痢が発生した。その後プロパンガスを簡単な工事で導入することができ、解決した。
停電は幸い早く復旧したため被害を被らなかったが、断水の対応が最初の深刻な問題となった。受水槽と高架水槽は大きな被害はなかったため、枯渇する13時までは給水されていたが、それから、小型給水車による補給を受けたが到底足りず、県外に10t大型タンクローリーを求め、市内貯水池から水をピストン輸送し、解消した。
栄養部は断水とガス途絶の影響を受け、震災当日は患者も職員もパンと牛乳だけ、その後は救援のおにぎりや弁当の支給でしのいでいたが、ガスが長期途絶となりそうであったため、LPガスを利用した。
原始力施設などの事故では患者(被曝した従業員、住民)に体表面汚染が生じていることがある。このため医療処置にあたる医療スタッフには、患者の身体に付着した放射性物質からの二次被曝とその放射性物質による二次的な体表面汚染や内部被曝の可能性がある。ただし事故によって被災者が直接的に受ける被曝や放射性物質による汚染と比べれば、医療処置に関わるスタッフの二次的な被曝や体表面汚はわずかだといえる。しかし、事故時の医療措置は通常、放射性物質を取り扱わない施設で行われることが多いのが現状である。
2)二次的な外部被曝、体表面汚染、内部被曝
汚染した患者への医療処置を行うとき、患者の身体表面に付着した放射性物質から放出される放射能によってわずかですが、医療スタッフに二次被曝が生じる。原子力災害によって体表面汚染の可能性がある核種(放射性物質の種類)のひとつである、コバルト(Co60)、ヨウ素(I-131)、セシウム(Cs-137)について、それぞれ1MBqの体表面汚染があると仮定した場合、患者から30cmの距離で三時間連続して処置を行った場合、同じく1MBqの放射性物質を体内に取り込んだと仮定した場合、患者から30cmの距離で、一日八時間、二週間連続して処置を行った場合も、汚染患者の医療処置による医療スタッフの二次的な外部被爆に対してほとんど被害がないことが分かっている。体表面汚染のある患者の処置を行う場合は、防護衣や手袋の着用などの基本的な汚染防止対策が必要になってくる。そのような対策を行っても、多少の体表面汚染がスタッフに生じる可能性はある。その際、身体表面に付着した放射性物質を経口で体内に取り込まないようにするために、処置を行う区域での飲食・喫煙は禁止され、それらにより効果的に医療スタッフの内部被爆を行っている。手指等に付着した放射線措置については、すみやかな除去が必要だが、前述のようにこの汚染もわずかなものである。医療処置に伴って発生する放射性物質によって汚染されたガーゼ等も、二次的な体表面汚染、内部被爆、及び外部被爆の原因となる可能性がある。しかしそれらの医療廃棄物をビニール袋等にきちんと入れ管理すれば、二次的な体表面汚染、内部被爆は十分に防ぐことができ、さらにそれらの廃棄物からの二次的な外部被曝もわずかである。結論として、医療処置に伴う医療スタッフの体表面汚染によって生じる外部被曝もわずかなもので、特に心配することはない。
さらに治療の必要性から上図の人々は次のように分けられる。
一方、対象を現場の作業者と一般住民に分けて考えると次のように整理される。総合的防災行政と計画的防災行政
(佐藤喜久二:主動の地震応急対策、東京、内外出版、2004、13-18)■1.総合的・計画的防災行政の意味
■2.現状での課題
小原病院/鐘紡記念病院
(奥野邦男、松浦役児:立道 清・編、検証 そのとき医師たちになにができたか、清文
社、大阪、1996、p.96-105)■1.小原病院
■2.鐘紡記念病院
被ばく医療の基本的知識
((財)原子力安全性研究会、緊急被ばく医療ポケットブック 12-20, 2005)■1.被曝患者からの医療スタッフの被曝
■2.緊急被曝医療の対象になる人
II 放射線事故などにより汚染や被曝が疑われ、かつ創傷、熱傷、骨折、打撲等の脳血管障。害や急性心筋梗塞等の緊急傷病を伴っている人。
I 直ちに治療を必要とする人々。
II 直ちに治療は必要としないが、長期的な医学的フォローアップを必要とする人々。
III 治療を必要としないが、医学的説明を必要とする人。
I 放射線や放射性物質を扱う現場の作業者→多くの放射線事故に直接巻き込まれるのは、作業者である。よって重大な被曝を受けるのは主に現場の作業者。
II 一般住民→放射線事故の規模や内容によっては、一般住民への対策が必要な場合もあるが、一般的に重大な被曝はほとんどない。しかし強力な放射線源を住民がそれと知らずもちだしてしまった、というゴイアニア事故のような例もある。