[病院施設内トリアージ]
治療および手術の優先順位のために行われる。
搬入時のトリアージ
治療前のトリアージ
トリアージでは、日常の臨床の経験が生かされるため、日常の医療現場から五感を生かす体験をしておくべきである。トリアージの目標である「一人でも多くの人を助ける」ためには、日頃の医療連携を確立しておくことが重要となってくる。
10年前の1月17日、兵庫県南部地震が起こった。地震直後、災害対策本部を設置し緊急対策が講じられたが、最終的に6,000体を超える「死体の検案」が取りあえずの課題となった。検案は日本法医学会の協力もあって順調に進み、遺体埋葬に関しても発災後11日目にほぼ火葬を完了することができた。検案結果によると、9割以上が窒息、圧死などによる即死となっており、医療による救命には限界があり、住宅の耐震化の有用性が強く示唆された。
2.医療救護
発災後7日目で被災地内の全病院の被害状況が把握できた。後の調査によるとほとんどの病院で何らかの被害があり、全診療部門が対応可能な病院は44%であった。一方、診療所では発災後1週間経っても全体の48%しか機能していなかった。
患者数は震災後1週間の入院数は4.2倍、院内死亡数は1.9倍となった。DOA(Dead on Arrival:到着時すでに死亡していた者)は約半年分が一度に搬入されたが、その数は病院ごとに違っていた。重症患者は被災地外の医療機関に転送されたが、ヘリコプタ−や船舶による搬送は2.2%、1.3%と少なかった。これは平時からヘリコプタ−搬送に慣れていなかったことや、医療サイドが搬送指示権限を有していなかったことが原因であった。
緊急医療対策の中で特に急がれたのは、「透析医療」の確保と「挫滅症候群」への対応であった。前者は医療機関の連携によって被災透析患者の腎不全による死亡は食い止めることができた。一方、後者においては早期に注意喚起をしたが、372人中50人が死亡した。挫滅症候群の救命率向上のためには、平時医療を行うことのできる後方病院へ速やかに転送することが重要である。
3.避難所等における応急対策
避難所には避難者の医療確保のために「救護所」が設けられ、それだけでは不十分な地域には「救護センター」も設けられた。発災後1週間目には二次救急の「病院群輪番制」の復旧により、避難所で医師の看取りのないまま死亡することはみられなくなった。避難所ではインフルエンザが多数を占めていたことから、インフルエンザ・ワクチンの接種を行ったり、結核対策を行ったり、寝たきり防止策として機能訓練を実施したりした。また精神障害者に対する継続的医療の確保のため「精神科救護所」を設けたりした。
4.生活環境対策
避難所の防疫対策としてクレゾール、逆性石けんを確保し、手洗いなどの保健指導、食品に対する指導・啓発を行った結果、食中毒発生の報告はなかった。「仮設トイレ」も設けていたが、バキューム車の確保が困難であったり交通渋滞により、場所によっては屎尿処理が間に合わない所もあった。
5.生活環境対策
仮設住宅が整備されるにつれて、保健所では「PTSD対策」に力点を置き、アルコール関連問題や「孤独死」への対策が必要となって行った。これは、仮設住宅地域で単身所帯数の増加が起こっていることによるものだった。対策として「ふれあいセンター」を設けた。医療機関に関して、仮設住宅の集中などによる人口集中によって医療需給バランスの崩れが見られたため、人口1,200人当たり1カ所の一般医科診療所を設けることを標準とした。
これほどの医療機関の早期復旧が実現した裏には、国の補正予算による「政策医療」に対する手厚い資金援助や、社会福祉・医療事業団の融資に関しても、有利な条件を取り付けることができたことが挙げられる。
災害後の検討委員会で、従来の「救急医療情報システム」は、迅速かつ的確な医療情報の収集や患者搬送の指示が行えるよう「広域災害救急医療情報システム」として機能を拡大した。そして、災害医療の提供、ヘリコプタ−による患者搬送、医薬品の備蓄等を行う中枢施設として機能する「兵庫県災害医療センター」を整備した。これだけでは補いきれない、行政医師が配置されていない市町には、この弱点を補うために災害拠点病院の救急部長などの中から、県と町をつなぐ「災害医療コーディネーター」を選任した。
2)創造的復興
阪神・淡路大震災では「ヒューマンケア」の大切さについて考えさせられるものがあった。そこでヒューマンケアの理念の普及・啓発を目的に「ひと未来館」が設立された。
3)残された課題
阪神・淡路大震災時の医療対応に際しては、患者搬送の指揮が困難であった。今後は初期、二次、三次救急医療体制と救急告示制度の一元化とを併せて、実質的な連携強化が急がれる。さらに災害救助法適用下での知事の指揮による円滑な保健対応の実施のためには、特に保健所制令化が進められて行く中にあっては、県と保健所政令市との信頼と連携が必要である。
全国の消防本部数は900、消防職員数は約15万5千人(平成14年4月時点)。
1−B 消防本部間の応援体制
消防はその管轄区域における災害に対処するが、大規模な災害、特殊な災害などでは消防本部相互の応援体制がとられている。各市町村には相互応援に対する努力義務が規定され(消防組織法第21条)、協定を締結するなどの応援体制を整えている。大規模災害時には、消防庁長官は災害発生都道府県知事からの要請により、それ以外の都道府県知事に対し応援措置をとることを求めることができる。また、緊急時には知事からの要請を待たずして非被災地の都道府県知事にまたは直接市町村に対し応援措置を求めることができる(消防組織法第24条の3)。さらに、2つ以上の都道府県に及ぶ大規模災害または毒性物質等による特殊災害には、緊急消防救助隊の出動を支持することもできる。
*緊急消防救助隊:消防組織法第24条の3に基づく広域応援のための部隊。救助部隊、救急部隊、消火部隊および特殊部隊など全国に2028隊が登録されている(平成14年4月時点)。
従前より消防機関では化学工場や有毒ガス発生場所での火災や漏えい事故への消防活動を行ってきた。近年の生物・化学テロ事件を踏まえ、生物・化学テロに起因する災害に対しても消防機関が対応する可能性が生じ、それに対応できる体制の整備が行われてきた。
2−B 生物・化学災害対応資機材の整備
一定規模の市町村の救助隊では従前より化学防護服や防毒マスク、有毒ガス測定器などの資機材を整備することとされてきたが、地下鉄サリン事件、そしてアメリカ同時多発テロ以降、特に生物・化学テロの危険について指摘されさらに毒性の高い生物剤・化学剤に対応できる資機材を整備することが求められた。
これを受けて消防庁では、各都道府県の代表的な消防本部の救助隊等に対して、陽圧式化学防護服、生物剤・化学剤の簡易検知器および除染シャワーなどの資機材が配置され、さらに地域の実情に応じて救助隊に備えるべき資機材としてこれらが新たに救助隊編成・装備・配置の基準に加えられた。
生物・化学テロによる災害時の消防活動は、強い指揮統制と関係機関との連携の下、災害の実態、危険性の早期把握、隊員の安全確保を行いつつ、被害の拡大防止と住民の安全確保を最重点に活動する。(以下に列挙)
3−B 化学テロによる災害時の消防活動要領
1)覚知と化学テロの予測
テロ発生初期には消防や警察に第一報が入っても、初期から「テロ」と判断するのは困難である。通報内容から通常発生し得ない場所、複数の人の異変、呼吸苦、異臭などの情報が得られた場合にはテロであることを疑い、部隊編成や車両、資機材の積載等対応を行う。
2)現場到着時の措置
風向、風速、地形、建物状況、後着隊進入・救急隊出発経路などを考慮し、風上または風横から進入し、化学剤による危険のない安全な場所に部隊を集結する。さらに放射性物質や生物剤によるテロの疑いについても考慮する。到着後は速やかに要救助者および負傷者の有無の確認、危険性の把握を最重点に情報収集を行う。
3)消防警戒区域等の設定
消防警戒区域:現場の状況により化学剤の可能性が高い場合設定し、関係者以外にその区域からの退去を命じ区域内への出入りを禁止もしくは禁止できる。
危険区域:消防警戒区域内において、化学剤が確認または検知された区域、人命危険が高いと認められる区域。必要な防護措置を講じた必要最小限の隊員以外はすべての出入りを制限するなどの統制がとられる区域。
準危険区域:危険区域からの被害者、隊員等を除染するために危険区域外の安全な区域に設定する。区域外への被害拡大を防止する。
4)救助活動
危険区域内では上述のとおり、必要な防護措置を講じた必要最小限の隊員により行われる。検知活動、化学剤の拡散防止措置等を同時に実施できる場合は併せて行う。
5)検知活動
風上、風横側からの安全な地域から危険側へと範囲を狭める方法で実施する。検知器では検知不可能な化学剤もあることも想定しながら注意して活動を行う必要がある。警察等の連携機関が検知活動を実施している場合は相互に情報交換を行うとともに、知りえた検知結果は警察、保健所、医療機関等に速やかに情報提供する。
6)除染活動
被害者の一次除染、活動隊員および資機材の除染、汚染区域の除染等、汚染拡大・被害拡大防止のための措置を十分な対策方法で対応する。大規模など場合によっては自衛隊部隊の派遣要請も行う。
7)救急搬送
負傷者の救急車内への収容は一次除染後に行う。また、現場での一次除染では完全な除染が行えていないことも考えられるので、二次汚染防止のため車内収容に際し被害者を被覆し、搬送救急隊員は身体防護措置を講じる。医師引継ぎ時には、傷病者の状態や現場の状況、化学剤の情報、他の負傷者の状況など必要な情報を伝える。また、医療機関から傷病者の症状などより推測される物質名、他に収容した被害者の容態の変化などの情報を得た場合は、速やかに通信司令部署、指揮本部に連絡し、他の傷病者を収容する他医療機関にも情報提供を行う。医療機関収容後は救急車を介した汚染拡大防止の目的で車内および使用し機材の除染を行う。
ショックとは、「有効な血液が維持できず組織灌流の低下のため組織機能が保てなくなる状態」である。外傷時に見られるショックを外傷性ショックと呼び、その治療として輸液療法が重要な役割を占める。ショックは出血性ショック、心原性ショックおよび神経性ショックに分類されるが、外傷性ショックの大部分は出血性ショックである。
輸液された乳酸リンゲル液は、血管内と組織間質に1:3の割合で分布する。このため出血性ショックにおいて循環血液量を乳酸リンゲル液のみで補充するには、血液量の約4倍量が必要となる。そのため輸液量が増え、体内水分量の増加と低アルブミン血症が生じる。また、組織間質への分布は臓器によって異なり、とくに肺や膵臓には水やナトリウムが貯留しやすいので、晶質液の大量輸液は肺水腫の発生原因の一つになると考えられる。
これらは震度5以上の地震、国または地方公共団体が災害救助法を適用するような広範囲にわたる被害発生時に利用することになっており、ここで得られた情報は厚生労働省をはじめとした公共機関へも報告され、情報、水、医薬品等の提供・要請が行われることになっている(図1)。
情報ネットワークの手段として以下のホームページとメーリングリストが用いられている。
I、ホームページ
インターネットに情報伝達サイト(http://www.saigai-touseki.net/)を開設した。災害時の施設情報は「災害時情報送信」で表示される送信フォームに従って入力、送信することでサーバのデータベースに登録され、「情報集計結果」「登録施設一覧」「全登録情報一覧」をリアルタイムに確認可能とした(図2)
II、メーリングリスト
メーリングリストには情報ネット委員のほか厚生労働省、日本透析医会、静岡県透析施設災害ネットワーク、神戸大学危機管理・海上支援ネットワーク、日本臨床工学技士会、日本腎不全看護学会、医療機器・医薬品メーカーなど201アドレスが登録されている。さらに災害発生時には被災地周辺施設のメールアドレスも一時的に登録し、被災情報を報告しやすくしている。
このような情報ネットワークが構築されたなかで2004年10月23日17時56分新潟県中越地震が発生した。地震で3つの透析施設が3日から1週間にわたり透析治療不能となった。一時的に他施設での透析を余儀なくされた患者は336名にのぼった。
震災直後より情報ネット上で地震発生の通知と支援情報、被災情報が呼びかけられ、揺れの大きかった地域の透析施設名を伝達した。各医療施設からも情報伝達がなされ、地震発生から活動を終了した11月15日までに情報伝達サイトには延べ10,000を超えるアクセスと延べ200件の施設情報が登録され、メーリングリストには100件を超えるメールが投稿された。これにFAXによる情報や調査結果の内容が加えられ、透析医療施設に関する地震被害の全容がほぼ明らかになった。地震発生翌日の24日には透析受け入れ可能の施設と移送手段など具体的な対応が伝達され、バスや自家用車、救急車、ヘリコプターなどの移送手段によって患者は受け入れ施設へ搬送され、被災施設の患者全員の透析が予定通り行われた。透析施設の復旧が完了し透析が再開された後も余震に対する情報収集や避難生活長期化により入院が必要となった患者の受け入れ病院の斡旋、臨床
工学士や透析看護師などのボランティア派遣への対応などを各会の災害対策本部と連絡を取りつつ行った。
また被災地とその周辺施設間には日ごろから深い交流があり、症例検討会などを通して事前に顔見知りの間柄であった。このことが新潟県の災害に対して施設間の迅速な連携と対応を可能にしたと考えられる。
本地震での情報ネットワークにおける反省点としては、地震発生後2日間における情報伝達サイトへの自主的な情報登録が新潟県全施設全体の20%程度と少なく、残りはFAX等で得た情報を情報ネット本部が代理で登録したものであったことがあげられる。これは情報伝達サイトの周知度が低かったためであろうが、もっと多くの自主的な情報提供があればより迅速な収集・集計と伝達の機能を発揮できたと思われる。
また支援施設の医師からの、組織的ボランティアコーディネートの初動が地震発生から4日後と遅れたことから今後は初動時からネットワークシステムを使用すべきである、という意見や、被災施設の医師からの、パソコンが使用できない状況にあったため情報伝達サイトは携帯電話にも対応して欲しい、という要望があった。
以上を踏まえた上で、新潟県中越地震を通して透析情報ネットワークの今後の課題と思われることは、さらなる周知拡大と携帯電話への対応など情報伝達サイトの機能充実を進めることである。
阪神大震災では神戸周辺45ヶ所の透析施設のうち、21ヶ所で治療が出来なくなり、約3000人の患者が透析可能な施設を求めてさまよった。
この教訓を生かして新潟県中越地震では地震発生後3日目にはすべての患者の搬送・透析が行われた。その背景には本文にあるように日本透析医会による情報ネットワークによるところも大きかったが、同時に課題も残した。
この教訓を生かすべく透析医会は事前に各施設の固定電話などを「災害時優先」に登録し、非常時には前述の情報ネットワークのインターネット上の専用掲示板で情報を共有することを決め、日頃からある施設が使えなくなっても別の施設が代わって患者を受け入れるシミュレーションを繰り返してきた。
このような備えにより、福岡県西方沖地震では新潟以上に迅速な対応が可能となった。発生直後から各施設からの受け入れ可能人数や被災状況がインターネット掲示板に刻々と入力され、発生一時間後には優先電話、メールや掲示板の情報を集めて県透析医会会長が近隣施設と協議を行い、3時間後には患者の各施設への振り分けが確定し、テレビ局にテロップを要請し自宅で心配する患者にも伝達することができた。
これら過去の3つの大地震を見ても前震災の教訓が活かされ、より素早い対応が可能となったことがわかる。これは日本透析医会の情報ネットワークや平常時の搬送シュミレーションが大きく貢献したといえる。震災時にはこれらの手段を利用し、医療従事者は情報提供・収集、透析患者及びその家族は情報収集に努め、早急に対策を講じる必要がある。
自然災害と公衆衛生活動:阪神・淡路大震災時の対応
後藤 武、公衆衛生 69: 445-449, 2005保健・医療対応の経験と教訓
新たな災害対策と強化
関連機関の生物・化学テロ対処に関わる活動 1.消防における活動
生物化学テロ災害対処研究会:必携―生物化学テロ対処ハンドブック、診断と治療社、東京、2003、p.194-1991 消防の概要
基本的には市町村単位で設置されるが、地域によっては広域化が図られていることもある。2 消防における生物・化学災害対策
3 生物・化学テロ災害時における消防活動
など多発外傷の薬物療法
後藤友美子、臨床と薬物治療 22:224-228, 20031.多発外傷の病態
2.出血性ショックの病態
3.晶質液輸液と膠質液輸液
4.晶質液輸液
5.膠質液輸液
6.高張液輸液
7.輸液療法の実際
新潟県中越地震における(社)日本透析医会災害情報ネットワークの検証
武田稔男、日本集団災害医学会誌 10:280-284, 2006<要約>
<感想>