災害の現場の情報を知るのは容易ではなく、また誤った情報が流布することで余計に混乱を招くこ とは珍しくない。災害時に"これが最善"という単一の通信手段があるわけではなく複数の手段をそ の機能を最大限に発揮させつつ併用することになる。
現場では、ありとあらゆる手段を用いて情報の収集と共有化を図り、無駄な努力を回避し、無駄な 不安が解消できることを努力目標とする。救助・医療チームは将来に備えて可能な限り記録を残 し、それ以外でも情報が保存できるように努力する。
このように災害の形態は単一ではなくそれぞれの災害に求められる要素は異なっている。
長岡赤十字病院は基幹災害医療センターで、中越地方で救命救急センターをもつ唯一の医療機関で
ある。したがって、災害時にはどこよりも積極的な「傷病者の受け入れ」「救護班の派遣」といっ
た活動が求められる。この時は、丁度地震の1週間前に平成16年度多数傷病者受け入れ訓練を終えた
ところであった。
地震後10日の受診者数は614名であり、そのうち半数は地震後24時間以内に集中していた。入院理
由は転倒による骨折や打撲、持病の悪化などであった。徐々にベッド確保が困難になっていった
が、予定手術の延期、入院延期、慢性患者の転院などの努力により、最後まで受け入れに支障をき
たすことはなかった。
山古志村では全村避難が10月25日に決定し、長期間にわたる避難生活、それに伴う心のケアも必
要と考え、救護活動に入った。受診は打撲、傷の患者が多かったが、地震の際に常備薬を持ち出す
ことができなかった高齢者もみられ、処方を行った。
10月以降は日中避難所にいる人は少なくなり、避難所における救護班の位置付けはマッサージ、
健康体操と同等であったが、地震の恐怖を口に出すと気持ちが楽になるという人も多く、心のケア
として診療の合間に体験談に耳を傾けた。
今回の問題として、全国から多くの救護班の協力を得たが、全体を統括する組織が無く、救護班
が1つの避難所に詰めかける、といったことがあった。そこで、保健師を窓口として活動に入り、活
動終了時には報告をして帰る、ということにしてからはこのようなトラブルはなくなった。
まず、幸運なこととして
の3つがあった。また、
課題としては、救護班等の調整をする災害時医療コーディネーターを地域ごとに考えておくこ
と、活動時期によって異なる医療ニーズに応じた備品、薬品を用意しておくことが考えられた。
最後に
今回の震災では、阪神淡路大震災の教訓が生かされ、医療支援のスピード、質、量は素晴らしい進
化をとげていた。災害は発生後1日が勝負であり、1日持ちこたえれば支援の手が差しのべられる
し、対応のシステム化も進む。DMAT(災害時医療派遣チーム)の養成も着々と進み、災害に対する
危機意識も高まっている。医療機関も住民も1日を乗り切れるだけの備えや、関連機関との関係構築
を進めておくことが重要である。
また、今回の新潟県における災害の救護活動を通して学んだ多くの経験を地域、全国に「中越大
震災の教訓」として伝えていくことが自分達の責務と考えている。
災害医療の中で行われる予防医学にもたくさんの種類があるが、他の世界の国々
と比較してみた場合、日本で飲料水の確保・
供給の問題や食物中毒の問題など衛生面での災害医療が必要になるケースという
のは比較的少ないと思われる。比較的新しい
例として2006年5月末に起こったジャワ島中部地震を挙げてみるが、現在現地で起
こっている問題としては、親と離れ離れに
なってしまった子供たちの保護や衣食住の支援がメインであり、また災害医療に
関しては破傷風の罹患患者の増加が大きな問
題となっている。この地域にはマラリアなどの風土病もあるので、今後も衛生状
態の悪化が続けば多数の犠牲者が出ることも
予想される。
こういった国々と比べてみると、日本は衛生状態も良く、ある程度普段からの
インフラも整っているので、東海地震や南海地
震で大きな被災を受けるとされている地域に住んでいる特別な地域の住民などを
除いては、日本人の災害後の衛生面の問題に
対する意識はあまり高くないのかもしれない。しかし、衛生面の問題が日本で問
題にならない背景には、予防医学からみた災
害医療の功績があったことも事実であるので、この資料に書かれていたような疾患
・感染予防のための飲料水の確保と供給
や、食物の取り扱いに関する環境衛生学的重要性を引き続き社会に提供していく必
要があると思われる。
この資料では主に衛生面の予防医学について述べられていたが、一方で日本で
は災害後の神経症やPTSDなどの精神面に問題を
起こす患者が多いとされているので、次のステップとして災害後の被災住民の精神
面でのケアが今後重要になってくると思わ
れる。また、衛生面の問題についても引き続き充実した内容の災害医療が行われ
ることが望ましく、衛生面、精神面の問題を
よりひとつに総合した予防医学のもとに災害医療が行われることを期待する。
災害救護活動時の個人の心構えは、災害の種類や時期、向き合った対象者などによって異なってくる。
そこで、災害から身を守るために個人の備えや災害救護活動時において個人は何を心掛け、何を理解し
ておくべきかについて水害を例に示しながら述べていきたい。
環境条件、周辺地理、周辺危険箇所を把握しておくことで二次災害に対応できるようにしておく。また、その地域の人口、医療機関の場所や数、県庁、役場、小学校、中学校などを把握しておくことで救護所や避難所の把握、連携、活動計画に役立てる。
水害の場合は打撲や擦過傷、感染症の出現・悪化、食中毒の発生が多く、これらに対する処置についての知識が必要である。また、糖尿病や高血圧などの持病の薬が流されることによって症状の急激な悪化が起こる。
用水路への転落、既往症の悪化、疲労など。
年齢、家族環境、生活状況。
災害関係者との災害時のネットワークを考慮し、日頃から積極的に情報の共有を心掛ける。
災害対策基本法、災害救助法などに一度目を通しておく。
報道内容の矛盾点や偏った情報ではないかなど、新聞・テレビ・ラジオなどの報道の正確な読み取りが重要。
地図や交通のアクセス情報を事前に把握しておく。水害ではボートが必要な場合もある。
災害の種類や季節に合った個人資材や服装が必要。
被災者・家族・支援者の心のケア。
負傷者の数・状況、避難者の数・状況、交通機関、建物の損壊、通信、ライフライン、医療体制、食事供給体制。
被災状況の確認、安全確保、物品の確保、支援要請。
水害の場合、水の被害か土砂の流入か、急激に流れてきたのか徐々に増水したのか、床上浸水か床下浸水かに
よって援助方法の予測が立つ。しかし、水害の被災者はこれまでに同じ体験をしたことがない人が多く看護必要
度の予測は困難となる。
自分の行動範囲で低い土地はどこかを前もって調べて図表にしておく。
浸水により停電するため、電気で作動するドアやエレベーターが使えなくなる。また、
水深26cm以上の圧力がドアにかかると、ドアを開けることができなくなる。浸水しそうな
場所に土嚢を積んでおくことで浸水を少し遅らせることができるので避難に余裕ができる。
このように避難に当たり注意することも念頭に置いておく。
第一に職員の行動フローチャートを作成する。「自宅にいる場合」、「事業所にいる場合」、「利用者宅にいる場合」に分類し、職員の行動マニュアルとした。
第二に緊急時対応用利用者表の作成である。氏名、疾患、病院、主治医名、自宅連絡先、第一・第二の緊急時連絡先の電話番号、住所、関連機関、緊急連絡の優先順位を記載した利用者表を作成した。この利用者表は職員全員が携帯し、緊急時に対応できるよう訪問バッグとともに自宅に保管することとした。
第三に利用者別の災害時対応の確認である。 訪問看護師は利用者、家族と避難方法等について相談し、各利用者ごとに対応方法を紙面に記録し、災害に備える対策とする。できれば、訪問看護利用の契約時のオリエンテーション内容に災害時対応策を組み入れる。また防災教育も兼ね、職員と話し合いながら検討する。
新潟県中越大震災被災地「長岡市」からの報告
内藤万砂文ほか:日本集団災害医学会誌 10:275-279, 2006新潟中越大地震の概要
傷病者受け入れの状況
中越大地震における救護班活動
考察
予防医学からみた災害医療
小池勇一:臨床と薬物治療 22:201-205, 2003▼ 要約
▽ 考察
災害救護活動時の個人の心構え
酒井明子:黒田裕子・酒井明子監修、災害看護、東京、メディカ出版、 2004、p.212-217【必要な事前知識】
【災害救援活動時の心構え】
【災害から身を守るための日頃からの個人の備え】
福井集中豪雨 被災経験を今後の活動につなげるために
渡邊真智子:訪問看護と介護 10(2):110-114, 2005)はじめに
豪雨発生当日から3日目まで
水がひいた後に
今後の課題