美浜発電所蒸気漏れ事故の総括

寺澤秀一:平成17年度緊急被ばく医療全国拡大フォーラム講演録集 p.17-41


<事故後の経過>

 15時22分 美浜発電所での蒸気漏れにより、11人が被災。
 16時18分 市立敦賀病院、国立病院機構福井病院に全員搬送完了。
 17時43分 福井県立病院救急センターから救急医と形成外科医が防災ヘリで市立敦賀病院に到 着。
 18時 9分 市立敦賀病院から陸路で搬送された重症患者A氏が福井大学病院へ到着。
 18時26分 福井大学病院医師が県警ヘリで国立病院機構福井病院に到着。
 18時18分 国立病院機構福井病院に搬送された患者B氏を防災ヘリで大学病院に搬送。応援で派遣 された救急医と形成外科医がこのヘリに同乗。患者を搬送後再び敦賀病院へ戻る。
 18時51分 患者C氏を防災ヘリで福井県立病院に搬送。

<事故の対応でよかった点>

<反省点>

<今後の課題>

<事故後の変化>


生活の側面を重視した災害看護教育の実際

小原真理子、黒田 裕子・酒井明子監修、災害看護、東京、メディカ出版、 2004、p.220-230


 阪神・大震災を契機に、災害医療および災害看護に対する関心が高まり、災害看護関連科目を導入 する看護教育機関も出現している。本項では日本赤十字武蔵野短期大学看護学科を実例に取り上 げ、看護基礎教育における災害看護教育の展開を述べた上で、看護学生および保健師学生に対する 教授法の一環として、被災者の生活面に視点を当てた避難所の生活環境を整える机上シミュレー ションを紹介する。

 日本赤十字武蔵野短期大学では、2年次の看護専門分野の中に必修科目として1998年に災害救護論を 開始し、3年次には成人看護学実習に位置づけられた災害救護実習を1999年に開始した。本学では 赤十字救護活動の実践から抽出された災害看護の役割を基盤に、普遍的な災害看護の要素も取り入 れた災害看護教育を展開している。その中で学生の学習ニーズを捉えた結果、知識の具現化として 実習の必要性が生み出され、具体的に被災地設定した机上シミュレーションや技術演習、訓練を中 心とするプログラムを立案した。

 災害救護論設置の意図として、まず第1に、赤十字看護の特徴が、赤十字の理念である「人道」の具 現化として、病院内に留まらず災害現場に赴き救護活動を行うことにあること。第2に、先進国の中 で日本の災害看護の構築が遅れている原因が、伝統的に看護活動を施設内に制限するという外枠が あり、広く社会のニーズに応える技術を持たなかったことによるため、災害医療および災害看護の 土台作りが必要に迫られていること。第3に世界に活躍できる看護職の育成が看護基礎教育の現場で も求められている時代であることが挙げられる。

 災害救護論の主旨は、被災者に対し住居、衣料、食料、医療を提供する救護活動の全体像から看護 の役割を理解させることとし、以下に示す6つの分野から授業を構成した。3.の「災害看護の特殊性 と基本」では災害看護で重要視されている被災者のストレス、心的外傷後ストレス障害(PTSD)お よび心のケアについて強調した。災害救護論に対する学生の学習ニーズについてアンケート調査を 行ったところ、特に興味を持った授業テーマとしてトリアージ・救援者のストレス、被災者のスト レス、今後授業の中で学びたいテーマや内容として応急処置・国際救護活動・実践的な対処方法が 挙げられた。(1998年)

  1. 赤十字の国内救護体制
  2. 災害と国際教育
  3. 災害看護の特殊性と基本
  4. 救護者の自己管理
  5. 災害救護訓練への参加のねらい
  6. 赤十字救急法

 害救護実習を行うにあたっては、知識に裏付けられた「的確な判断・意思決定」と訓練によって 習得した「救護技術」は、救護活動に対する「心構えと態度」、「行動力」を生み出すと考え、こ れらの要素を枠組みに実習目的・目標を設定した。実習目標に向かって段階的に学べるように、机 上シミュレーション、救護技術の演習、トリアージの訓練、総合訓練の4段階の実習形態で行っ た。災害救護の場面において、避難所での看護は重要である。災害時には今までの生活習慣のほと んどが失われてしまうため、看護職は生活環境を整えることと、保健指導に大きなウエイトが置か れる。特に生活支援と、心理的な面への援助が中心となってくる。

 学生に対する授業展開の実例として、看護学生を対象とした災害看護論における「避難所における 看護」の授業では、まず災害時のVTRにより被災者、避難所の状況についてイメージ化をはかり、特 に要支援被災者に対する看護の役割について考えさせた。

 保健師学生を対象とした災害看護論の授業は看護学生と異なる次のような方法で展開している。

  1. VTR「阪神・淡路大震災の保険活動」を素材に、震災時の活動内容と保健師の役割を抽出する演習
  2. 災害衣料・災害看護の基本的事項の講義
  3. トリアージの基本的事項の講義と映像シミュレーション
  4. 「避難所設営」の机上シミュレーション(都内丸の内を震源、M7.0)
  5. 被災地の経時的情報に関する課題

 避難所設営シミュレーションは、避難所看護に必要な情報収集の内容と方法及び援助方法を考え、 また看護者としての役割を動機付ける守看方法として効果があると考える。実践につながる能力を 育成するためには、災害時の具体的活動について紹介し、災害時の状況をイメージできるような視 聴覚教材、自らを当事者としての対応を考える教授方法の開発や創意工夫が重要である。特に実際 の役割等を行動として理解するには地域と協働の訓練が必要であり、今後の課題である。


必須医薬品の供給とその管理

田中 寛:臨床と薬物治療 22:184-191, 2003.03


 2000年5月1日時点では、45都道府県の51基幹病院及び481地域拠点病院の計532施設が災害医療支援 拠点病院に指定されている。それらの災害支援拠点病院が想定している災害というものは大きく分 けて自然災害、人為災害、混合型災害(自然と人為の混合)、難民などに分類されている。その中 でも特に想定されている災害は、台風、地震、津波、火山噴火などの短期型の自然災害である。 (但し2001年の米国同時多発テロ事件以降の想定災害は各施設ともことなっていく可能性があ る。)

 過去の事例からして災害時に要望の多い医薬品は災害の種類のみならず、災害が起こった場所、 季節、時間帯によって変わると考えられる。また、主な使用医薬品の種類は震災後3日間までと震 災後4〜7日後では異なることも事実である。阪神・淡路大震災においては、震災後3日間にリン ゲル液などの電解質、昇圧薬、抗生剤などの使用が平時救急の200倍近く使用されたとの報告もあ る。

 災害時においては、災害発生後3日程度経過すれば医薬品の搬送が可能になると考えられてい る。しかし、これは各施設の立地条件に大きく左右されると考えられ、各施設レベルでの入念な対 策が必要であると考えられる。

 実際、国立病院東京災害医療センターにおいては、災害発生直後に周辺の橋が通行不能になる可能 性や薬品の卸業者の搬入が長期に不可能になる可能性などを想定して対策がなされている。また、 平均月間使用量の1週間分の医薬品を頑強な医薬品備蓄庫に有しており、南関東大地震を想定した 場合、初動期の3日間において十分な医薬品の安定供給は可能である。医療資源の無駄遣いを回避 するための対策として、備蓄医薬品はランニングストック方式を採用しており、備蓄医薬品の有効 期限切れがないようなシステムが構築されている。

 では、各病院レベルではなく、各自治体、または国家がとるべき対策についてはどうか。

 災害医療における初動活動のことをさして国際的にSRMという。Sは捜査(search)、Rは救助 (rescue)、Mは医療(medical assist)を指す。緊急性の高い外傷に対しては受傷から1時間以内 に手術などの根治手術を行えば生存率が最大となる。瓦礫の下の生存者を救うためには、その存在 を救急チームがいち早く察知し、救出し、適切な処置を施すことが重要であると考えられる。我が 国ではこれらに関して十分な環境は整っておらず、将来的にはこれらを補完するシステムが採用さ れることが望まれる。

 大規模災害が発生したときに、例え災害が長期化したとしても必須医薬品の供給とその管理にしっ かりあたることは必須の業務であると考えられる。その業務を円滑に行うために、国立病院におい てはHOSPnet(国立病院等総合情報ネットワーク)を活用して各施設における医薬品の備蓄状況を ネットワーク化することが可能である。国立病院に限らず、全国532施設の各災害拠点病院が、災害 医療対策の3Csと言われるcommunity(地域間の連携、広域システムの構築)、communication(通 信網の確立、的確な情報)、coordination(統合調整、縦割り行政における横断的調整)を調整実施することが、国民を災害か ら守る重要な対策であるといえる。


行政システムの充実を

河野克彬ほか:病院防災の指針、日総研出版、1995、p.38-43


 今回私が担当した論文は、阪神淡路大震災を教訓に病院防災について書かれたものであった。

 阪神淡路大震災は平成7年(1995年)1月17日午前5時46分に発生した、淡路島北淡町野 島断層を震源とするマグニチュード7.3の地震だった。

 淡路島、神戸市、西宮市、芦屋市など、震度7の烈しい揺れに見舞われ、死者6,433人。行 方不明3人、重軽傷者43,792人。避難者約35万人。断水130万世帯。停電260万戸。 ガス停止86万世帯。同時多発火災約290件の大惨事に発展した。すでに10年以上の歳月が経過 したとは思えないほど、その被害は記憶に新しい。

 そのような状況の中で、災害時医療活動はどのように行われたのだろうか。被災地の病院では、 水、ガス、電気といったライフラインが確保できないため、活動できない医療機関が続発したとい う。一方、ライフラインの確保ができている病院には、震災当日から一週間ぐらいまで、外傷患 者、特に脊椎の圧迫骨折のような整形外科的患者が多く運び込まれた。また被災地からは脊髄損傷 やクラッシュシンドロームの患者も搬送されてきた。震災発生から一週間が過ぎると、内科系の重 症患者が多く搬送されてくるようになった。ライフラインが寸断された被災地では、断水のため透 析を受けることが出来なかったり、停電のためレスピレーター管理が出来なかったからである。ま た、この震災で新たに浮上したのが在宅医療の問題である。地震で避難所に入ったが、それまで家 族でしていた介護が出来なくなったため、避難している間入院させて欲しいという紹介が多数寄せ られたのだ。実際は重傷度の高い患者が優先されるためこのような患者は入院をあきらめてもらわ ざるをえなくなる。これは、介護する側にとってもされる側にとっても大きな負担になるであろ う。今後、このような災害時の対処は介護に関しても大きな課題になっていくだろう。

 このような大惨事の中、現場で救助にあたっていた医師たちは、災害時におけるライフラインの確 保、薬品不足、移送手段の確保の重要性を指摘している。

 ライフラインの確保に関しては、各病院が常にある程度の水や食料を備蓄し、自家発電装置がいつ でも作動できるように点検、保守することで対処が出来る。しかし、薬品の不足に関しては、災害 時に備え、各病院で薬品を備蓄しておくということは、薬品や消毒した器具に使用期間が存在する ことを考慮すると、経営的に見ても不可能である。このため、個々の病院で貯蓄するというより、 行政サイドで必要な医薬品、物品類を備蓄するシステムか、緊急に他府県から搬送できるシステム を作るべきである。このようなシステムを効果的に発動させるためには、確実な搬送手段を確保す ることが肝心である。

 今回の震災を経験した医師達が最もその重要性を訴えたのも搬送手段の確保であった。実際、震 災直後の被災地では、道路が寸断されたことで患者の搬送が思うように進まず、被害が少なかった 近隣の病院へ患者を移送できなかったことが大きな問題となった。患者の受け入れ体制は整ってい るものの、患者が到着しないということが起こったのだ。このような災害時において、近隣の病院 の受け入れ体制を正確に把握することが出来、患者を搬送する手段があれば、もっと効率よく患者 を救援できたはずである。通常患者の搬送は救急車を使って行われるが、地震などの災害時には道 路は寸断され、迅速かつ正確な搬送は不可能となってしまう。このような状況のときは、ヘリコプ ターによる空路を使っての搬送を積極的に利用できるようにするべきである。

 今まで述べてきた災害時における薬品の確保と補充、医療施設間の協力による救助活動、患者や物 品の移送といった問題点に対処するために医療行政の介入による大規模なシステム作りが必要とさ れている。そのひとつの案として既存の医療情報ネットワークを災害時の病院間の情報ネットワー クに発達させるというものがある。阪神淡路大震災の発生した大阪府では、周産期医療の医療情報 ネットワークとしてOGCS(Obstetric & Gynecologic Cooperative System、産婦人科診療相互援助 システム)とNMCS(Neonatal Mutual Cooperative System、新生児診療相互援助システム)という2 つのシステムがある。これらのシステムでは、パソコンやファックスによる通信で大阪府下の基幹 病院と準基幹病院を中心とする病院を結んで、各施設のベッドの空き状況、受け入れ体制など掌握 できるようになっている。このシステムを利用すれば、特殊な設備や技術が必要なとき、受け入れ 可能な病院をリアルタイムの情報で探せるのだ。このような既存のシステムを参考にし、災害時に は、各病院で救援活動に当っている医師や看護士の数、薬品の在庫、食料や水、ライフラインの状 態、空きベッドの数、作動可能な設備の種類や状況といった情報を地域の病院間で確認することを 可能にするシステムを構築するのだ。このことで、より迅速に効率よくおおくの患者を救うことが 出来るようになるであろう。

 このシステムは広域にわたり多くの病院に参加してもらうことが望ましく、このような大規模シス テムの構築には医療行政の介入が必要となってくる。災害時における病院の間に行政が情報と搬送 手段というパイプを通すことで、患者がスムーズに搬送され適切な処置を受けることが出来るよう な災害時情報ネットワークを構築し普及することが出来れば、日本における災害時の医療活動は大 きく発展するだろう。


災害拠点病院としての応急体制整備

横山順一郎、OPE nursing 19: 966-981, 2005


 厚生労働省は平成8年に災害時における初期救急医療体制の充実強化を図るため、地域医療機関を 支援する災害拠点病院を指定した。静岡県立総合病院も災害拠点病院に指定され、災害時には医療 救護計画の上で中心的役割を果たすために、以下のような災害時の応急体制を行っている。

 災害時ライフライン途絶状況下での医療活動を可能にするためにも、耐震対策の取り組み、特に 電気、ガス、水道については設備の点検及び災害時対策を行っている。電気は停電時に自家発電装 置が自動的に作動する。断水対策として、耐震性の高置水槽の設置および井戸設備を設置してい る。また飲料水の備蓄も行っている。医療ガスは、地震により供給が停止した場合には酸素ボンベ に切り替える必要があるため、手術室を初めとした各部署に酸素ボンベを常備している。また空気 の供給停止により人工呼吸器が停止してしまうため、ポータブルコンプレッサーを常備している。 医療品・食料・毛布などは備蓄されている。さらには非常時の供給ルートの確保もあらかじめ決め てある。

 大地震による多数の負傷者が想定される中で、負傷者の受け入れ、被災地への医師の派遣等、地 震に対する万全の対策を図るため、地震防災マニュアル、個人行動マニュアルなどを作成し、各部 署や個人に配布している。

 地震防災訓練は年3回実施している。行政機関、消防署、地元自治会などと協力して、できる限 り実践的な訓練を行うようにしている。特に市民参加によるトリアージ訓練を行い、職員の訓練の みならず地域住民に大災害時のトリアージの必要性を理解してもらうように努めている。それ以外 にも県が実施する地震防災訓練に参加し、情報伝達訓練や動員訓練などを随時行っている。

 災害で通常の電話が発信できない場合などには、次のような方法を用いて関係機関に連絡を取る ようになっている。災害時救急電話、災害用携帯電話、衛星系無線電話・FAX、衛星携帯電話が設置 されている。またインターネットによる広域災害救急医療情報システムにより、災害時における医 療機関の稼働状況、医師・看護師等スタッフの状況、ライフラインの確保状況、医薬品等の備蓄状 況等に関する情報の収集・提供が可能となっている。

 非常時情報連絡網があり、職員全体が所属するセクション等の連絡網を所持している。地震判定会召集時には、連絡網により電話連絡をとり全職員が病院に参集する。

 病院北館屋上がヘリポートになっており、災害時の傷病者や医療物資などの搬送・搬入できる体制になっている。

 手術室の備えとして、各医療機器には止め具を付け、固定できるものはできる限り固定し、各手術室には停電時などの緊急事態に備えて酸素ボンベ、アンビューバッグなどを常備しており、バッテリー付きの麻酔器を使用している。廊下には防災用ヘルメットを常備している。災害時では原則的には予定手術は中止とし、実施中の手術はすみやかに終了させる。そして地震に備えて、勤務計画の点検・見直し、器材の転倒などの事故防止、避難路の確保、緊急手術に必要な材料の準備などを行う。

 発災後は、患者及び職員の安全確認の状況、手術室の被害状況、医療機器、器具の被害状況を調査し、災害対策本部に報告する。そして手術用機器などの作動確認を行い、緊急手術に備える。

 以上のように、マニュアルに従って行動することになっている。手術の控え室には、マニュアルや連絡網が貼ってあり、つねに災害時の対応を意識し、確認できるようにしている。

 地震に対するマニュアルの作成や防災訓練の実施はかなり行われるようになった。しかし、手術室での本格的な防災訓練は行われておらず、災害時により迅速に適切な対応を可能とするためにも、手術室でのより実践的な防災訓練を行い、マニュアルや態勢の見直しなどを検討する必要がある。


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