災害医学・抄読会 2005/07/01

東京DMAT(Disaster Medical Assistance Team)設立―主に行政的側面から

(佐々木 勝ほか:日本集団災害医学会誌 9:299-304, 2005)


 東京DMATとは、従来の医療救護班と異なり、災害時の急性期に活動できる機動性を持ち、さらに事 前に災害時の医療訓練教育を受けた医療チームである。自然災害および都市型災害における被災現 場の医療不在の状況を能動的に解決するために発足された本邦初の組織である。

 東京都は平成8年から現在まで防災の日に合わせ総合防災訓練を行ってきた。また、阪神・淡路大震 災後、従来経験のなかった直下型地震に対する被災想定・対応、地下鉄サリン事件後、自然災害の みならずテロも想定したNBC(Nuclear,Bio,Chemical)対策(DMATの前身)、時代の変遷に合せ START(Simple Triage and Rapid treatment)方式など新たな知識を盛り込んだ災害対策のマニュ アルの改訂など様々な対策を講じてきた。

 住民の安全を守るという危機管理の中での災害対策は急務である。この時流から災害対策の一環と して、東京都は主に災害現場で働く警察・消防・医師からなる災害救助医療チーム(東京DMAT)を 編成することになった。しかし設立に至るまでには行政との間で問題があった。行政側は、予算・ サービスにおける優先順位などの課題が山積する中、危機管理は持ち続け種々の対策を講じてきた にもかかわらず、結果として、災害医療関係者の方々から行政は何か起こるまでは何もしないとい う批判を受けてきた。そこで、行政側の意識と災害医療関係者の理想論との大きな隔たりを解消す るために、東京都健康局医療政策部救急災害医療課災害医療係は災害関係者を集め、事前検討委員 会を主催し平成15年11月27日東京都は平成16年度重点事業として救急災害派遣チーム"東京DMAT(仮 称)"を発表し、平成15年12月19日、東京DMAT計画運営検討委員会(TDMAS;Tokyo Disaster Medical System Council)を発足させた。

 本委員会は災害発生時の情報により、東京都知事経由ま たは東京消防庁経由で健康局長の下、月一回招集、各課題検討してきた。具体的に掲げる大きな目 標は、現場における救急医療、患者搬送、根本治療の3つである。特に現場における医師の最大の 役割は、for the victim and for the team、災害時派遣人員のためにも医療サービスを提供するこ とである。実際には、東京消防庁が災害に応じて東京DMATを派遣し、委員会には事後承諾とする実 戦形式を採用した。また、行政側から見ると、災害のみを対象としていては経済的側面など多くの 理解を得難いためDRカー的側面も付加、結果的に現場のERといっても過言ではない一面も付加させ た。初年度予算は0.4億円と平成16年度東京都重点事業計210億円の0.19%に過ぎないものの、行政 的な事業として予算化された実績は事業の継続・充実・拡大という面からは大きな進歩であり、明 確な基盤を持つことができた。

 実践活動に向けて、89名が東京DMATBT(basic training)研修やRS(registered staff)研修を行 い、資材や体制の整備が完了した後、平成16年8月18日から実働を開始した。

 東京DMATの活動としては、自然災害、人的災害、Stan-byの3項目を掲げた。平成16年10月23日に は、新潟中越地震後、東京DMAT計画運営検討委員会委員長の出動喚起を受け、自主待機、翌日13時 に出動要請、14時に自衛隊ヘリで出動した。25日現在で災害による外傷患者の診療補助はなく、当 初の目的は達成したと考えられる。人的災害としては、6回出動したが、DMAT到着前に救出がなされ たりして、大きな活動には至らなかった。また、2004年アテネオリンピックにおける聖火リレーに 際し、DMAT数名が装備を準備した上で参集し、災害に備えていた。


化学剤の医療対処 1.神経剤

(生物化学テロ災害対処研究会:必携―生物化学テロ対処ハンドブック、 診断と治療社、東京、2003、p.95-105)


物理/化学的特徴

 神経剤はリン酸基と脱離基からなる。ここで脱離基の違いによりG剤、V剤に分類す ることができる。G剤の脱離基はタブンのCN以外はフッ素である。V剤の脱離基には、 硫黄マスタードの毒性官能基である ?SCH2CH2- が含まれている。G剤にはGA(タブ ン)、GB(サリン)、GD(ソマン)、GE、GF(シクロサリン)があり、V剤にはVX、 VE、VG(アミトン)、VMがある。

 神経剤は普通、液体であるが揮発性の高いものでは蒸気と液体による危険性を有す る。サリンは最も揮発性が高く、GFは神経剤の中では揮発性が弱い。VXは揮発性が弱 いが、最も殺傷力が強力である。

特性・作用機序

 神経剤はAchEの作用を阻害することにより毒性を示す。AchEはコリン作動性受容体 部位(筋肉、腺、神経組織など)でアセチルコリンの加水分解を行っているため、こ れが阻害されるとアセチルコリンがシナプス中に急速に蓄積・過剰状態になり、標的臓器での持続的刺激状態を惹起する。このため筋線維性攣縮が現れ、筋が疲弊す ると収縮を止め、呼吸筋では麻痺状態となり死亡する。分泌腺や眼では流涙・縮瞳な どとなって現れる。

臨床症状

 神経剤暴露の症状は暴露容量と暴露経路(蒸気/液体)に依存する。

 非特異的な症状としてSLUDGEがある。Salivation(唾液分泌)、Lacrimation(流 涙)、Urination(尿失禁)、Defecation(便失禁)、Gastric Emptying(空腹感)

鑑別診断

 上気道・アレルギー疾患、消化器系疾患。縮瞳や赤血球ChE活性によって鑑別。

検査所見

 血中ChE値低下(急性期には血漿ChE値よりも、赤血球ChE値のほうが感受性が高 い)。

 初期局所症状とChE値は相関しない。全身症状は赤血球ChE活性が50%以下まで落ちな ければ出現しないとされているが、70〜80%阻害されると重症となる。

治療

 除染(次亜塩素酸または大量の水)、呼吸管理、拮抗薬投与、支持療法などを行 う。急性期には気道確保、分泌物の頻回な吸引と循環管理が重要。

a)拮抗薬 アトロピン:抗コリン剤。末梢性ムスカリン作動部位において過剰アセ チルコリンの効果を阻止する。投与量の目安は分泌物量と換気の容易さ。

PAM:神経剤とAChEの結合を解除し、AChEを再開することにより作用す る。PAMはリン酸化コリンエステラーゼのエージング(老化)現象のために、ある時 間以上経過すると投与しても無効となる。投与終了目安は自発呼吸の再開。

b)ジアゼパム:直接神経剤には作用しないが、攣縮持続で生じる脳障害を抑制す る。

予防処置

 カーバメート剤は有機リン剤と同じ機序で神経筋接合部においてAChEと結合し、カ ルバミル化する。その間AChEは神経剤から保護され、カーバメート剤の半減期が 15-30分と短いので間もなくAChEは活性を回復する。


災害看護の定義と概要

(山本捷子、黒田 裕子・酒井明子監修:災害看護、東京、メディカ出版、2004、p.3-12)


 災害看護とは、「災害に対する看護独自の知識や技術を体系的に、かつ柔軟に用いるとともに、他の 専門分野と協力して、災害の及ぼす生命や健康生活への被害を極力少なくするための活動を展開する こと」と定義されている。この災害とは、「重大かつ急激な出来事で、人類とその環境に対して広範 囲な破壊が生じ、その地域のみでは対応に非常に困難があり、時に外部援助を必要とする大規模な非 常事態」と定義づけられ、火山爆発や地震、台風、洪水などが原因で起こる自然災害と、交通機関の 事故や放射線事故、武力紛争のように人間が起こす人為災害とに分類される。

 災害看護ではまず健康問題をアセスメントする。特に「災害弱者」あるいは「優先要支援者」といわ れる子どもや高齢者、妊産婦、慢性疾患を持つ人などは、災害から直接的に受ける衝撃が大きく、そ の後の生活状況から二次的な被害を受け健康を害しやすい。

 災害直後に起こる健康障害のうち最も多いのは、物理的な衝撃による外傷や骨折、火事や爆発による 火傷・熱傷、銃撃による銃創、水害による溺水などである。長期にわたる避難所生活や食料供給が不 十分な状況では、不眠や食欲不振、頭痛などの不定愁訴、消化器障害、肺炎・膀胱炎・皮膚病などの 感染症が多くなる。また糖尿病や腎疾患、結核などの患者は生活管理が阻害され、悪化するきっかけ ともなる。

 また、災害は心理的衝撃も与える。恐怖体験や喪失体験は「こころの傷」となり、フラッシュバック や心的外傷後ストレス障害 (PTSD)をもたらすことが多く、被災直後から長期にわたる「こころのケ ア」が重要である。ことに、子どもにとって災害の衝撃はその後の心身の成長発達に影響を及ぼすこ とが多い。

 災害が発生してからの時間の経過を災害サイクルといい、災害発生時、急性期、亜急性期、リハビ リ期、静穏期に分けられる。災害発生時には消防レスキュー隊や生存者による救出が最優先される。 続く1日目〜2日間程度が急性期で、安全な場所への搬送と応急処置を行う。救命や処置の優先度判別 のトリアージを必要とし、重症者は救急病院や医療機関に後方搬送される。その後1ヶ月を亜急性期と 呼び、医療処置のほか、衣・食・住の生活環境を整えて健康を維持し病気を予防する。次のリハビリ 期は数ヶ月から数年続き、ライフラインや住居が復旧し被災者の日常生活は取り戻せるが、喪失体験 や経済的な心配など、心理的な問題が表面化してくる。その後の静穏期は警戒期や前兆期ともいい、 災害の記憶が風化してきたこの時期に避難訓練や救護訓練、防災設備の整備や点検を行い、災害に備 えることが必要となる。

 国際的な災害救護活動として、わが国では開発途上国における大地震などの災害発生時に国際緊急 援助隊や日本赤十字社国際救護センターの医療チームの派遣を行っている。また、防災や復興後の保 健向上のために、ODAや日本赤十字社が相手国の「capacity building(対応能力の強化)」の考えを 基盤に、中・長期的な開発協力として取り組んでいる。


平成14年度集団医療救護訓練 実施記録
I. 訓練の概要、II.検証

(広島県医師会速報(第1826号)附録、2003、p.3-12)


 「災害時における医療救護活動に対する関係諸機関の体制を強化するとともに、医療救護活動が 円滑かつ効果的に実施されるよう、関係諸機関相互の連携体制を確立するため必要な知識と技術を 習得する」という目的において、平成14年10月12日に県立広島病院講堂で、集団医療救護訓練が行 われた。訓練の想定としては「山陽新幹線下りのぞみ○○○号が、安芸トンネル出口付近で壁面崩 落により脱線、転覆した。多数の死傷者が発生した。傷病者は市内の各病院へ分散して搬送され、 県立広島病院へも50名程度が搬送された。」であった。

 上記の想定の下、訓練が行われたが、特に訓練の内容としては 1)トリアージ・応急手当に主眼を置く、 2)ノー看板方式(特殊メイキャップ)訓練を行う、3)「ふるいわけトリアージ」(START方式)と「選 別トリアージ」を行う、4)災害対策本部設置のシミュレーションを行う、の四つの項目が目的となっ た。

1)トリアージ・応急手当に主眼を置くでは、医療関係者のトリアージへの造詣を深めることに焦 点を当てたものである。広域災害発生時には医療者を含む様々なグループが有機的に作業できるこ とや、それらのグループ間の連絡体制といったことが必要である。トリアージは医療救護に携わる 者にとっての役割であり、その有機的作業の一部となりうる。したがって、これを確認することは 訓練としては必要不可欠である。

2)ノー看板方式(特殊メイキャップ)訓練を行うでは、特殊メイ キャップを用いて視覚に訴える模擬患者を作成し、より現実に近づける臨場感を演出することによ り、トリアージ訓練の質を高めることを目的としている。訓練に先立ち、演技指導があり、演技の 要点と留意点が解説された。その後、順次メイキャップが施されたが、その時、医療救護班(D- MAT)の目に触れないよう注意を払った。

3)「ふるいわけトリアージ」(START方式)と「選別トリ アージ」を行うでは、ふるいわけトリアージ(一次トリアージ)と選別トリアージ(二次トリアー ジ)の確認とその説明がなされた。また、患者の情報はa)メイキャップb)予め与えられたシナリオ による模擬患者の演技c)演技できない部分は診察したら答える、の3つの方法で得られることになっ た。

4)災害対策本部設置のシミュレーションを行う、は災害基幹病院である県立広島病院の中での 連絡体制、および災害対策本部設置のシミュレーションを行った。

 訓練終了後、約1時間にわたり討議が行われた。そこでの意見交換では、トリアージの技術面、時 間の余裕のなさとトリアージ・タッグの正確な記入のジレンマ、軽症患者の救護の難しさなど多岐 に渡った。それに対して、「トリアージには間違いがつきものであるから、とにかく繰り返しトリ アージを行い、繰り返し記入すること」、「緑の患者はできるだけ自分で処置させること」の2点が 強調された。

 評価シートを配布して、その集計、検証してみた。

 トリアージ・タッグは52名の模擬患者のうち46名分が回収された。傷病者の名前は87%に記入された が、氏名の完全記載は48%であった。年齢・性別はほぼ半数にのみ記載。住所の記載も半数、そのう ち完全記載されたものは全体の17%であった。今回の訓練の主眼であるトリアージ区分の記入率は 85%であったが、15%は記載されていなかった。トリアージは生理学的区分であるのにもかかわら ず、病名診断が先行して、意識レベルや呼吸・循環のサインの記載がない例もあった。また、裏面 の人体図への書き込みは皆無に近かった。

 模擬患者からの評価としては、赤、黄、緑、のそれぞれからの意見が得られた。特に、今回は模擬 患者も医療関係者であることから医学的部分も評価できることを期待した。評価としては、トリ アージ・タッグの取り付け、記入に関する基本的な間違い、D-MAT内でのチームプレーの問題点、さ らに傷病者に対しての処置の誤り、心タンポナーデの患者に視診がない、喘息に対して区分が間 違っているなどの各論的な指摘もあった。また、重症度の悪化への対応が正しくないとの指摘も多 かった。誰が医者で誰が看護師かが全くわからなかったという意見も多かった。

 D-MATによる自己活動の評価も行われた。これは一次トリアージ担当者と二次トリアージ担当者から 意見が寄せられた。その中で、知識経験不足だった、タグの記載方法がわからない、チームプレー ができていない、といった意見が多かった。中にはSTART方式がわかっていないと思わせる意見も あった。また、いつが訓練の終わりであるか明示がなく混乱したという主催者に対する意見もあっ た。

 全体のまとめとなるアンケート結果では、開催の意義があると感じた参加者は96%となった。一方、 訓練の設定や方法については、少し批判的な意見のパーセンテージが高かった。


平成14年度集団医療救護訓練 実施記録
III. 総合評価

(今中 聡ほか:広島県医師会速報(第1826号)附録、2003、p.13-19)


 平成14年10月12日(土)午後(12時〜17時)、県立広島病院講堂および正面玄関周辺を訓練場所とし て広島県集団災害医療救護訓練が実施された。

 従来、災害訓練ではデモンストレーションの側面が強調され、現実に即していないとの批判が多く 寄せられてきた。訓練に参加する関係部門は事前に綿密な打ち合わせを行い、厳密な作業スケ ジュールに基づいて時間どおりにかつ滞りなく終えることが優先されてきた。トリアージも同様 で、傷病者役の手首には症状と重症度が既に記入されており、重症度分類された傷病者は既に割り 当てられた治療エリアへ移動、手際よく救急車により搬出される云々。これに対して、実際の災害 は時と場所を選ばない。そして情報が錯綜する中で容赦なくスタートし、非日常的な「混乱」は必 然である。それを予測した災害対応を準備することが肝要である。

 こうした集団災害時には患者が短時間に病院にどっと流れ込んでくる。そのためトリアージ(重症 度選別)という作業が非常に重要になってくるが、誰でもができる簡単なルールを作成したものが START式トリアージである。コツとしてはまず二分する、歩けるもの(緑)、死亡者(黒)のグルー プはまずは院内に入れない、歩行不可の赤と黄色のみ院内へ導く。緑は騒ぐので必ず何かをさせる (お互いの応急手当、止血程度)・・・ガーゼ、包帯を与える。黒は場合によっては家族にCPRさせ る(事務レベルや婦長がCPR指導)・・・納得するまで。赤、黄色の識別は呼吸数、ブランチテスト (爪再充血時間)で行う。これであれば誰でも簡単にトリアージが可能である。(トリアージは何 回も繰り返し行うので、ミスを恐れない。また世界的モラルにより、他人のトリアージを批判して はならないとなっている)

 しかし、ゾーニングポスト(二次トリアージ)は別である。ゾーニングコマンダーは専門的知識を 要し、常に本部と交信し専門科目、検査、手術室、ICU、病棟、転院搬送を頭に描きながら、処置に 専念することなく、交通整理と指示が必要とされる。

 たとえば、手術室は何室使えるか?Ope順位は?家族は?レ線へは何人行っている?CTへは? ICUは何人入れる?眼科医は?産科医は?応援は?近隣で転院搬送できる病院は?である。 今回の訓練では、ノー看板方式と呼ばれる特殊メイク(ムラージュ)を施した模擬患者を使用して 実施した。傷病者は様々な仮装・演技を行い、その評価は医療チーム自身で行わなければならな い。このおかげでトリアージや傷病者の治療などにおいて多くの混乱と戸惑いが生まれた。しかし ながら、これはまさに訓練企画者の意図するところであろう。多くの参加者が非日常的な混乱を経 験し、それを予測した災害対応の次のステップへと踏み出す一助となった。

 2000年代における災害は戦争と内乱、核そして生物・化学兵器によるものなど多種多様な様相を 呈するであろう。進化する災害への新たな対応を模索する時期に来ている。


第2章 救援能力の強化―その倫理面について

(国際赤十字・赤新月社連盟:世界災害報告 2003年版、p.43-66)


 災害直撃後、数分から数日は 1)公的な立場にないグループ、2)国内外からの支援グ ループ、のどちらが重要な役割をはたすか?・・・・・Answer 1)

 →被災地の個人やグループコミュニティ、組織はどんな災害においても常に最前線に 立ち、災害救援と復興の過程で中心となって活動している。

 ⇒この公的な立場にないグループの能力を上げることが最重要なのである。

能力の向上に関する倫理的課題

1、国際機関が能力を蝕む可能性

ニュース雑誌「インディア・トゥディ」の記者ラウル・パタックの記事:「気前 よすぎる贈り物はさらに多くを望む飽くなき欲望を生み出し、足ることを知る人は一 人もいなくなる。」→自力で自宅を再建しようとしない村人たちの姿。

 ⇒こうしたジレンマにどのように対応していけばよいのだろうか?

2、外部の援助供給システムと、人々のニーズのミスマッチ

 →「何もないよりあるほうがまし。」という考え方。
 But 地域の能力を把握し、次にそれを効果的な対応に取り込むというプロセスを おくと、災害救護が著しく減速してしまうという大義名分。

 ⇒その地域の人々や組織こそが災害救護の第一の砦であることを理解する。

3、外部組織と地元組織の間における不平等な関係

 →お互いがお互いに介入しにくい状況に追い込んでしまう現実。
 ⇒認識されている以上に供給先行型になっているということ。

4、政府機関との活動に対し、いかに効果的かつ政治的に中立な態度で臨むか

 →様々な政府の介入による役割の重複とそれによる混乱
 ⇒災害緩和の責任を地域政府レベルに与える。

5、外部により事前に決められている援助協議事項の履行

 ⇒乏しい援助財源を深刻で急を要する要求を満たすために投資するのか、重要には 違いないがまだ見ぬ将来に恩恵をもたらすために投資をするのか、という両者のバラ ンスをいかに取るかを判断する。

6、各機関はどの程度まで災害に対する脆弱性の根本原因と取り組めるか。また、取 り組むべきなのか。

 →自然災害の場合、人々の脆弱性の根本的な原因に取り組み、災害を社会的な変革 の原動力として利用する。という道徳責任を国外の機関は負うとよく言われる。

 ⇒脆弱性の根本的な原因と戦うということが最も正しい能力強化への取り組み。
 But やり遂げることのできないことをあるいは持続に必要な環境を与えるための 終了計画が策定できないことを始めるのは倫理に反するということである。

7、成功を形作るものとは何か、どのように成功を測るか

 →多面的な性質を持っているためだけでなく、能力向上のプロセスが効力を発揮す るまでに必要な時間の長さや、多くの場合は変化が漠然としているという性質によ る。

 ⇒援助機関はドナーに対して現在使われている物質的なアウトプットを単純に測量 するよりも、より洗練された効果査定法を働きかけるべきなのである。

8、援助介入によってもたらされる、予期外で時としては損害を与える結果

 →グアテマラ地震・・・「階級別地震」
 ⇒援助団体は能力向上の取り組みによるよい結果だけではなく、起こりうる悪い結 果についても分析し、真の変化をもたらすためには、ほかのどのような条件を考慮す べきかを見極めなければならない。

さらに倫理的な取り組みのために−正しい問いを投げかける

 A 弱い人々や被災者が心から望み、必要としていることは何か。
 B 我々の活動が、現実にこれらのニーズを満たすことに貢献しているだろうか。

⇒基本的な疑問
  1. 我々はなぜ援助をしているのか
  2. どのように派遣を実施しているのだろうか
  3. 与えられた条件下で、必要な資源を持って、そして許された時間内で自分たちの目的が達成できるかどうか
  4. 我々の行動に伴う二次的な結果は何であろうか

⇒具体的な疑問

  1. 我々の決定によって生じることが期待される恩恵は、起こりうる障害や負の結果に勝るだろうか
  2. 自分たちの目的を達成するために現実的な機会なのだろうか。
  3. 能力向上をどのように捉えればよいか。
  4. その計画内で、我々は本当に能力を向上させているか。
  5. 誰が個々の具体的な援助を提供すべきか。
  6. 採択した方法が貢献できるものとして最善であるとどのように判断したか。
  7. さらに重要なあるいは急を要する他のニーズはないだろうか。
  8. 包括的な最終目標を達成するために提供できる最高の支援は実際、何なのか。
  9. 我々の他の活動がどのように地域組織に影響を与えるか。
  10. 全ての行動と全ての決定が、地域の能力に可能な限り確実によい結果を与えるため に、我々には何ができるのか。

こうした単純な問いかけが、時に最も必要なのである。


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