この文献では、災害・事故の急性期の後に続く問題、すなわち、被災者の引継ぎ、フォロー、精神衛
生上の援助となるデブリーフィング、対応の総括について記載されている。
デブリーフィングとは「振り返り」を意味するもので、この文献に於は、単純に災害発生後の対応に
対する監査という意味で用いられている場合と、非常事態ストレス・デブリーフィングcritical
incident stress debriefing(CISD)として用いられている場合がある。
災害に全般に対するデブリィーフィングの意義としては、参加した各機関が災害の帰結を理解し、将
来のより良い対応のためにその戦略を改善させることが挙げられる。よって、デブリーフィングを行
うこと自体が、災害に対する戦略にあらかじめ組み込まれるべきである。
被災者に対しCISDを行う理由として、患者も医療スタッフも化学災害や放射線災害のもたらす結果に
理解が無いために、それらに対する好ましからざる心的反応へのリスクが高く、心配や不安が募るか
らである。
被災者に対するCISDは、個別のカウンセリング室にて一対一、もしくは小グループの討議形式を用い
る。可能であれば家族や友人も参加すべきである。その主な内容としては、出来事の再構成を行い、
感情の発散(カタルシス)の場とし、今後起こりうるトラウマ反応に対し、カウンセラーからあらか
じめ心理教育を受けることが挙げられる。
医療スタッフに対するCISDも、被災者に対するCISD同様に速やかに行われるべきである。医療スタッ
フが受けるストレスは、一般の被災者に対し特殊な側面を持つからである。
CISDの対象者として、心的に好ましからざる反応を呈しやすい人々が居ることを認識しなくてはなら
ない。具体的には
また、外傷によって心にも多くの傷を負い、それによって精神傷害をきたすことを理解しなければな
らない。
文献の内容に対し、近年の研究ではCISDはPTSDの予後を改善しないとする説もある。例えば、CISDが
侵入症状や回避症状の自然回復のプロセスを阻害するのではないかとか、CISDは正常なトラウマ後反
応をかえってより意識させてしまい、トラウマ刺激に感作されやすくしてしまうのではないかといっ
た仮説が挙げられる。一方で、デブリーフィングには、参加者に満足感と援助してもらえた実感を与
えるという報告もあり、実証的研究のみで今後の施行の是非を問えるものではないとしつつも、最終
的には「デブリーフィングが慢性的な心理的後遺症への発展を予防するという主張は実証的には保証
されていない」と結論付けられる。
このように、デブリーフィングは、身体の激痛を局所麻酔によって一時的に緩和するように、一時的
な満足を得るためのものととらえる方が妥当であり、CISDによりPTSD完全に予防され癒されるという
考えは過剰な期待であるといえる。
参考
JSTSS 日本トラウマティック・ストレス学会―診断と治療
歩道橋は両側をポリカーボネイド透明板で上部まで蔽われているものの視界は利き、橋を通行しな
がら明石海峡大橋も望まれ、かつ一直線で海岸に向い花火大会の花火も真正面に十分に眺められる
上、橋の最南端75平方メートルの踊り場には視界を遮るもののない花火見物には絶好の位置を占め
ている。したがって歩道橋上そのものが花火見物の場所となり、花火打ち上げ開始前から時間を追っ
てつめかける群衆が滞留し橋上での事故危険をはらむ恐れがあった。
更に、これに加え花火大会当日は歩道橋を降りきった先の広場ではスイカの無料配布や約180店の
夜店が出店し、歩道橋から階段を伝って広場へ下りようとする群集の流れが滞留しないよう措置を
とっておく必要があった。
なお群集の歩道橋の利用は大蔵海岸へ向う一方向だけではなく、かつ花火が終わると集まった群集
は不測不軌の行動をとる性質があるのである。
朝霧歩道橋の階段部分の通行可能人数は、1時間当たり1.3人×3600秒×3メートル=14,040=約14,
000人と見積もられる。しかし混雑がすすむともっと流れは悪くなるためこれより低下すると思われ
る。
大会当日の広場は自由に動き回り入り込む事ができないくらいの混み様で歩道橋南端では花火見物の
ため動かない人たち、加えて夜店に立ち並ぶ人たちで大変混雑していた。
調査では花火終了時刻午後8時40分ころ階段部分を含めて橋上に滞留していた群集は6,400人前後と推
量されることから考えても、事前に適格な群衆整理の方法をとらずに無制限に歩道橋上に群集を流入
させたことは、信じ難いほどの無謀さであったというの他は無い。
このことで、本事故発生時の救急対応の遅れを必然的に生じさせる第一要因となったと考えられ
る。
今後、消防機関としても、不特定多数の群集が参集する可能性のある屋外イベント開催時には積極的
に自主消防救急計画の策定を行い、来場者の安全の確保に努める努力が必要であろう。
LAの防災都市計画とヘリの運用を考えるとき、カギとなるのは緻密な計算のもとに配置されている
多様なヘリポートの存在である。LAの10階建て以上のビルは、建築基準法により屋上にヘリポートを
設けることが義務づけられており、ヘリを活用する精神が貫かれている。ヘリポートはLAの防災都市
計画の中では災害用ヘリベース、消防用ヘリスポット、高層建造物用ヘリベース、高層建造物屋上ヘ
リスポット、夜間ヘリスポット、救助用ヘリスポットの6種類に分類されている。ヘリベースとは拠
点となるヘリポート、ヘリスポットは小型ヘリポートのことと考えてよい。
防災都市計画の見地から眺めると、LAの中心的ヘリポートであるバンナイズ空港の立地条件が非常
に興味深い。周辺を含むグレーター・ロサンゼルスと呼ばれる都市圏は、関東南部と同じ広さであ
る。それがLA郊外に位置するバンナイズ空港からだと、このグレーター・ロサンゼルスのどこに向け
てもヘリで20分以内に飛んでいける。さらに27ヶ所のヘリスポットが、バンナイズ空港を取り囲むよ
うに配置されている。これらはヘリ消火と救急出動のための拠点だが、それぞれの担当エリア内なら
ヘリが5分以内に急行できるよう計算されている。加えてLAカウンティー(郡)には、100ヶ所のヘリスポットがある。
これらのヘリ・システムがノースリッジ地震で威力を発揮したが、だからといってただ闇雲にヘリの数を増やせばいいというものではない。ヘリによる活動は、情報収集も空中消火も救助活動もヘリポートという活動拠点が防災都市計画の中に組み込まれていて初めて可能になる。水量にもよるが、ヘリが1回に投下する水の冷却効果は約10分しか持続しないとされている。その時間内に間髪いれずに次々と水を投下しないことには消火はおぼつかない。ノースリッジ地震のとき、消防局のヘリは1件の建物火災を平均4回の水の投下で消し止めたとされる。4機のヘリが、立て続けに消火にあたることができたからだ。言葉を換えれば防災都市計画上の計算が、ヘリ運用にとって重要なポイントになる。これらがあって初めて建物に対するヘリによる空中消火も可能になったからだ。
このヘリ中心的拠点・バンナイズ空港では、LA市が備えるヘリ32機全てのメンテナンスが行われており、常に80%が稼動できるようコントロールされており、間違っても「定期点検中で出動できない」などということはありえない仕組みになっている。これらを支えているのは緻密に計算された防災都市計画と連動したヘリ・システムであるといえる。
1995年5月現在、日本の地方自治体が保有する消防・防災ヘリは、38機である。ヘリの整備は進む方向であるが、防災都市計画とリンクしたヘリポートが決定的に不足している状態である。
第4部 復旧
(島崎修次・総監修、化学物質による災害管理、メヂカルレビュー社、大阪、2001、 p.61-68)
http://www.jstss.org/topic/treatment/treatment_05.html
http://www.survival.org/kokoro-net/topic/base1014.htm
http://www.sheport.co.jp/site/mcpo/materials/pdf/self_deb.pdf第1部 事故原因の調査及び判断
(第32回明石市民夏まつりにおける花火大会事故調査報告書
2002年1月、p27-32)
(第4章 朝霧橋歩道橋、第5章 救急体制)1.朝霧歩道橋
2.花火大会
3.救急体制
3 災害における logistics
(奥村順子:山本保博ほか・監修:災害医学、南山堂、東京、2002、p.157-63)Heli-systems
(小川和久:ロスアンゼルス危機管理マニュアル、集英社、東京、1995、p.114-33)II 災害救助体制 消防の立場から
(金子 勉、救急医学 26巻2号 Page147-151、2002)