災害医学・抄読会 2003/07/25

豊中の子どもたちの震災体験

(大野弘之:現代のエスプリ1996年2月別冊、p.76-87)


 阪神淡路大震災において豊中は大阪府内で最大規模の被害を被った。1996年6月30日における被害状況は死者6人重傷者101人軽傷者829人避難者3225人住宅全壊3050世帯住宅半壊12657世帯となっている。また、豊中は兵庫県に隣接しており、被災地と同時に被災者の受け入れ地でもあった。

 ほとんどの子供達が生まれて初めて経験する衝撃的な地震の揺れによってさまざまな心の揺れやショックを経験することになった。その受け止め方によって、内的な経験は一様でなく、おそらく一人一人異なると考えられる。その一例としてとして小学4年生の作文が紹介されている(別図)。ここには、父親が帰ってきたことの安心感と、それによって浮き彫りにされた恐怖感が見てとれる。多くの子供達は一時的に大きなショックを受けながらも、時間とともに急速にあるいは少しずつ日常生活に戻っていった。しかし様々な条件が重なった例や、より大きい被害を受けた地域から転入してきた子供たちの中には専門的なケアを必要とする子供たちも見られたという。保護者達も自分が受けたショックや、生活の建て直しに追われて、なかなか子供の心の面にまでは手が回らないという状況があり、子供達への援助は後手後手にまわりやすい傾向があった。

 その中で、いくつかの広報手段や相談施設が設立されていった。うち、豊中市立教育研究所が受理したケースについて別図に示す。それぞれについて興味深いがこれらを分析すると

  1. 3月末までは市内 で被災した人の相談がほとんどで避難所から相談に来た一件を除いて自宅が住める状態にあった。
  2. 4月以降は豊中で被災して他市に転居したケースや他市で被災し豊中に転居したケースなど自宅に住 めなくなった場合が多くなった。
  3. 当初は反応性と思われる不眠・放心状態・恐怖・分離不安などの 相談が多かったが後半になると脅迫症状を主訴とするケースが多くなった。
  4. 脅迫症状やイライラに 伴って家庭などで暴力的になるケースも目立ってきている。
  5. 年齢別の特徴としては3歳未満と高校 生の相談はなく、3歳から6歳未満の幼児が一番多く、ついで小学生、中学生となっている。3歳未満 の子供達は早く反応が出て早くおさまったことなどの理由が考えられるが高校生がゼロなのは理由不 明としている。


第32回明石市民夏まつりにおける花火大会事故調査報告書 序章

(明石市民夏まつり事故調査委員会:第32回明石市民夏まつりにおける花火大会事故調査報告書 2002年1月、p1-11)


第1章 委員会の設置

 平成13年7月21日午後8時45分ころ、兵庫県明石市の通称大倉海岸で行われた第32回明石市民夏まつり 行事の花火大会に集まってきた群衆により、最寄りのJR朝霧駅から花火大会会場に通ずる朝霧歩道橋 上で群衆なだれが起こり、転倒、負傷、圧死するなど死者11人負傷者247人の重大な人身災害が発生 した。

 これを受け、主催者側の明石市は事故原因の解明と再発防止策の提言を求め、明石市民夏まつり事故 調査委員会を設置した。当委員会は15回の調査を重ねた末、調査結果をまとめここに報告書を提出す るものである。

第2章 委員会の会議

 会議の公開の是非について、当委員会は討論会や研究会といった性格のものではなく、深く思考を沈 潜させて行う作業を必須のものとし、また個人のプライバシーの保護が必要とされる可能性もあるこ とから、委員全員一致の意見として非公開とし傍聴を認めないこととした。

第3章 用語の定義と大蔵海岸全体図

<大蔵海岸>

(1)大蔵海岸の位置と構成

 明石市大蔵海岸1丁目および2丁目に位置し、面積約32ha、海岸延長約1.5kmを有している。

(2)大蔵海岸へのアクセス

 公共交通機関の近隣駅から徒歩による大蔵海岸まで経路概要は次の通りである。

  1. JR朝霧駅からの第一の経路は、駅前広場を経て、南へ全長約100mの朝霧歩道橋により大蔵海 岸の東端付近に至る。第二の経路は、朝霧駅から西に約600m進み、市道朝霧242号線を南に約250m進 み横断歩道や東地下道で国道28号を横断し、計約1200mの道のりにて東交差点付近に到着する。

  2. 山陽電鉄大蔵谷駅からは国道2号の歩道や一般道を通り横断歩道や地下道で国道28号を横断 し、約900mで東交差点付近に到達する。

  3. 山陽電鉄人丸前駅からは国道2号の歩道や一般道を通り横断歩道や地下道で国道28号を横断 し、約1500mで東交差点付近に到達する。

  4. JRならびに山陽電鉄の各明石駅からは南南東に約2500mの道のりで、国道2号の歩道や一般道 を通り横断歩道や地下道で国道28号を横断し、東交差点付近に到達する。

  5. 明石港からは国道28号を東へ約2300mで東交差点付近に到達する。

  6. 路線バスでは、明石駅からの明石市バスの定期運行バスがあり、西側から大蔵海岸西口、大 蔵海岸公園前、大蔵海岸のバス停留所がある。

     花火大会当日明石駅から大蔵海岸公園前への臨時バス運行がされており、往路は午後5時から7時まで に11便を運行し、復路は午後8時30分から10時まで6便が運行された。

<朝霧歩道橋>

 市道大蔵町53号線として明石市大蔵海岸〜大蔵谷字狩口(JR朝霧駅)を結ぶ歩道橋である。通路部分 は、途中3箇所の橋桁に支えられており、両端の橋台間103.7m、幅8.4m、歩行有効幅6m、この通路部 分は左右から内側に反り込んだ最上部約3.2mの開口した無色、透明のポリカードネイド製の高さ約3. 1mのシェルターが架けられている。南端は歩道橋南側踊り場の西端にエレベーター一基(15人乗り福 祉タイプ)と約80度に西向きに折れた幅3m、48段(うち踊り場2箇所)の階段により7.2m下の砂浜に至っ ている。北端の朝霧駅側は、扇型に広がる7段の階段と車椅子用のスロープにより、駅舎ならびに駅 前ロータリーに繋がっている。

 南端の階段幅は7,8月の海水浴シーズン1日の歩道橋利用者数を取り、この全てが1日の最大利用時間 帯2時間に渡るものとして、1時間あたり7200人をもって基本通路幅3mを設けている。通路部分の幅 は、基本通路幅に車椅子がすれ違えるスペース及び眺望スペース左右各0.5mを加えたものとなってい る。

 構造の特徴は、上部が開口したシェルターにより線路等への落下物の防止と強い横風から横断者を保 護していること、朝霧駅側は歩道橋より広いテラス、大蔵海岸側は歩道橋より狭い階段に繋がってい るので、全体としてボトルネック構造となっていることである。

<JR朝霧駅>

 プラットホームは全長166m、最大幅員8.48mで、11人乗りエレベーター1基と振り分け階段により陸橋 に登り、陸橋とほぼ同じ高さにある駅舎に至る。一日の平均乗降客は約36000人である。駅前は路線 バスのターミナル駅となっている。

<花火大会会場>

 大蔵海岸のうち大蔵海岸1丁目(東地区)の区域。

<人出>

 会場や会場外から花火を楽しんだ延べ人数。

<西地区>

 大蔵海岸のうち、朝霧川西側の大蔵海岸2丁目のうち大蔵海岸公園を除く部分。

<磯浜地区>

 大蔵海岸公園とその海岸部。

<東交差点>

 国道28号の大蔵海岸東信号の横断歩道周辺。

<中交差点>

 国道28号と市道大蔵町48号線及び市道朝霧242号線が交差する、大蔵海岸中信号が設置された交差 点。

<西交差点>

 国道28号と市道大蔵町48号線が交差する、大蔵海岸西信号が設置された交差点。

<花火開始時刻>

 従事職員の証言により、午後7時45分ころと推定される。

<花火終了時刻>

 花火の状況を撮影したビデオテープの記録から、午後8時31分ころと推定される。


ウェスカム社製ジャイロカメラ・システム

(小川和久:ロスアンゼルス危機管理マニュアル、集英社、東京、1995、p.49-78)


 LAがノースリッジ地震を克服した背景には、ウェスカム社製ジャイロカメラ・システム(ヘリコプターからの情報収集の視覚情報システム)とその情報を操作するEOC(緊急対策本部)の存在にある。

ウェスカム社製ジャイロカメラ・システム

 レンズの直径により16D、24D、36Dの3つのシリーズがある。最も強力な36Dシリーズでは最高倍率220倍となり、600m先の人物を識別でき、動いている車では24q手前から探知できる。また、マイクロ・ウェーブを使用し、EOCに生中継することができる。このシステムではヘリの姿勢や振動に関係なく鮮明で安定した映像を送ることができる。

EOC(緊急対策本部)

 EOCはEOO(緊急対策機構)の13組織のメンバーで活動なされている。

EOO:ロス市警 消防局/レスキュー隊 交通局 公共事業局 水道電力局
ジェネラルサービス局 建造物安全局 人事局  公園管理局 港湾局
空港局 動物管理局 行政企画局

活動開始

 LA市に広範な被害をもたらす災害が発生すると、市のEOCが活動を開始する。地下4階に設けられたEOCは通信機器、補助電力、食糧、その他の補給物資など、センター要員の活動を約2週間支えるために必要な重要物資が備蓄されている。このEOCが使用不能になった場合には、MEOC(移動式緊急対策センター)が動員される。

緊急時の市職員の活動

 市職員は緊急対策機構の基本計画に従い、被害状況の情報収集及び分析、さらには市の総合災害対策への資源の割当などの調整にあたる。資源は市の各部局や緊急対策機構の13の部署、政府機関、民間企業などから集められる。

 緊急時の活動、特に消防や警察、医療業務に関係するほかの省庁や、公共及び民間の資源を活用するための物資補給業務を受け持つ機関との密接な協力関係を確立する。壊滅的な被害をもたらす災害に対し、市の各部署は市長の指示に基づいて策定した災害対応計画を実施する。各部署の災害対応計画は、基本計画に規定されたLA市緊急対策機構の職務に位置付けられ、市の業務、機能の迅速な復旧を目標としている。

MEOC(移動式緊急対策センター)

 阪神大震災のような直下型の巨大地震に直撃されたら、ハイレベルな機能を備えた市庁舎地下4階のEOCであっても一瞬で壊滅する可能性を否定できない。そのため、MEOC(移動式緊急対策センター)はEOCが機能不全に陥ったときを想定して準備されている。

 MEOCは長さ40フィートの巨大なトレーラーにEOCと同じ指揮通信機能を搭載したシステムであり、現在5台が格納されている。

CEOC(ロサンゼルス郡緊急対策センター)

 CEOCは、LAカウンティー(ロサンゼルス郡:面積4,000平方マイル、1,000万人近い人口を抱える88の市が含まれる)の救急対策センターである。

 このCEOCは、EMIS(緊急対策情報伝達システム)、LAN、WANに連結されている。LANはGIS(地理情報伝達システム)のワークステーションを内蔵し、WANはセンターのコンピューターと郡内30ヶ所の緊急対策センター支部、CUBE(カリフォルニア工科大学の地理情報システム)を結んでいる。隣接する自治体とはマイクロ波のほか地下に埋められた光ファイバーでつながれ、切断されてもバックアップ機能が働くようになっている。

市・郡・州・連邦とボランティア団体の関係


Biological Disasters

(藤井達也、山本保博ほか・監修:災害医学、南山堂、東京、2002、p.348-62)


生物化学兵器による災害の特徴

 生物化学兵器はその大量殺戮性と低コスト生産から「貧者の核兵器」とも称される。一般に生物剤攻 撃には潜伏期があり、即効性の化学剤攻撃に比して露見しにくい。また、化学剤は有臭であるが、生 物剤は無味無臭で極めて微量でも有害な効果を発揮するため、その同定は難しい。しかも生物剤は種 類が異なれば対処は大きく異なることも特徴である。

 生物剤のヒトへの侵入経路としては経気道と経口、皮膚粘膜などがあるが、感染効率の点からは経気 道感染が群を抜いている。よって長時間浮遊するよう粒子径1〜5μm以下に加工されたエアロゾル化 剤が最大の脅威と考えられる。生物剤に対するワクチンは、既知の生物剤の10%未満のみしか存在し ないことも脅威である。

生物化学兵器による災害への対処

 多くの自然災害においては、救急医療活動が最優先された後、二次的に公衆衛生・防疫活動が導入さ れる。ところが、生物剤による災害においては公衆衛生・防疫活動がすべての対処活動全般の成否を 左右するといっても過言ではない。これこそが最大の特徴であり、盲点となりうる。また、平常時か らの準備や態勢が、そのまま大きく結果制御とりわけ感染制御の成績に反映される。

疫学監視と情報伝達

 生物剤の曝露による初期症状は非特異的なものが少なくなく、一般の臨床医が生物剤による災害だと 認知する可能性は低く、疫学的監視により災害と認識される可能性が高い。初期対応においては、ト リアージと救急救命処置および群集管理・パニック対処が必要である。それらの情報伝達・指揮命令 系統については対策委員会の設置・危機管理マニュアル・疫学専門家の育成・医療従事者への教育な どが必要である。日本にはアメリカのようなFBIやFEMAのような専門の省庁はなく、医療従事者が生 物剤による災害に備えることが、最大の危機管理につながるのである。

除染とトリアージ

 生物剤による災害における除染の意義は、化学災害によるそれと比較して小さいと考えられてきた。 その理由は、covert attackではすでに環境や体表から生物剤は消失しているか、除染の時機を逸し ている可能性が高いこと、更には再エアロゾル化の量は概して微量でありその吸入によって二次的に 感染するリスクは非常に低いと考えられるからである。災害発生時には大量に暴露された者に対して 除染が必要となる。

炭疽の特徴と対応

 炭疽菌は強い毒性を持ち、エアロゾル化が容易であり、生物兵器に必要なものは全て備えている。 炭疽の臨床型は吸入炭疽、皮膚炭疽、胃腸炭疽があり、芽胞を形成するという微生物学的特徴があ る。自然発生では皮膚炭疽が中心であるが、バイオテロでは吸入炭疽が中心となる。確かな菌の曝露 後は躊躇することなく抗菌剤を投与する。炭疽はヒトからヒトへの感染はないため、患者を隔離する 必要はなく、感染防御は標準的でよい。

天然痘の特徴と対応

 天然痘の自然発生例は、1977年のソマリアの症例が最後で、今日まで1例も報告されていない。小 児期のワクチン接種も日本では1976年に廃止された。低温および乾燥でも安定なため、生物剤として は炭疽に並ぶ脅威と認識されている。死亡率は30%で、感染力は強く、放置すれば患者数は1週ごとに 10倍に増えると推定されている。伝染性のある間は、隔離し、空気・接触感染制御が必要である。患 者家族や親密な接触者には種痘を実施する。

(参考)生物剤使用を疑わせる疫学的特徴


災害看護の考え方と実際

(高橋章子:救急医学 26巻2号 Page133-7、2002)


1. 災害看護とは

 災害医療における災害看護の位置づけとして、看護婦の役割には医師と一体になって通常業務の範 疇にこだわらず柔軟に対応することもさることながら、負傷者への対応が一段落すると看護婦は保健 婦など他地域の看護職やボランティア地域住民などと連携しながら、他職種がカバーできにくい被災 者の健康全般にかかわる活動をする。また被災地域全体の医療ニーズに迅速に対応し、社会資源を有 効に活用した早期復興をめざす広い視点から見ると、救急医療をその一部に包括し、平行して生活支 援、精神ケア、復興期におけるリハビリテーションなどの多面的な活動が期待されている。

2. 災害医療チームにおける災害看護

(1)災害準備期

 この時期は、医師や他の医療職と協働して防災計画を立て、マニュアルを作成し、訓練を実施す る。この際、看護婦の立場から各対策の策定に意見を述べるとともに、シミュレーションや実践訓練 による対策の検証などに積極的に参加して役割を担わなければならない。

(2)発災−災害急性期

 この時期には医師と看護婦の緊密な連携が要る。絶対的マンパワー不足のなかでの効率的な救命活 動には、有効な人材活用が不可欠であり、職種を越えたチームワークと柔軟な役割分担によって、赤 タッグ者(救命可能でもっとも重傷者)に対する救命処置の介助とその二次搬送にエネルギーを集中 する。

(3)亜急性−慢性期

 救出のゴールデンタイムを過ぎると、マンパワーは救助者の治療に振り向けられる。病院では救出 者の集中治療、避難所においては環境条件による各種感染症対応、災害による心的外傷反応への対応 と心的外傷後障害の予防、などが重要になる。

(4)復興期・リハビリテーション期

 この時期の看護婦の役割は、災害に伴う遷延する健康ニーズへの対応、災害の体験から得た知識や 技術の収集と分析、新しい災害看護体系の構築、というような点に重点がおかれる。

3. 災害看護の実際

 阪神・淡路大震災において、発災直後の医療と看護の対応には少なからず問題があったことが反省 されている。発災時の入院患者に対しては的確な安全管理が行われた一方で、災害時対応としての 「トリアージ」「緊急時の処置と対応技術」「具体的な後方支援・搬送のネットワーク」「情報の相 互交換」などが不十分であったと自覚されている。その後、有珠山では噴火の予兆が的確に行われた ため、被災病院の患者避難搬送に阪神での反省が生かされた。また受け入れ病院では2000年問題対応 のノウハウが被災病院の患者や職員の受け入れにも生かされ、スムーズに対応できたことが報告され ており、準備訓練と他者の体験を学ぶことの重要性が証明された。

4. 災害看護の課題

 災害看護は急性期から慢性期までのあらゆる傷病と年齢層へのケアであり、社会生活をも包括した 長期的なかかわりである。さらに、災害医療チームにおける看護職の役割は、医療ニーズに応じて多 様な変容を求められるところに難しさがある。今後の災害看護の課題としては、
(1)災害医療における災害看護の位置づけ
(2)災害看護の教育と訓練
(3)災害に備えた危機管理の見直し
(4)災害時の相互支援体制の制定
(5)災害看護の構築
といったものが挙げられる。


災害医学・災害看護 災害医学の潮流

(太田宗夫(東洋医療専門学校):救急医学 26巻2号 Page127-131、2002)


災害医学に関する研究の歴史

1. WADEM:World Association for Disaster Medicine

 1976年に設立された"Club of Mainz"がWADEMと改称。今日の災害医学を世界的にリードしてきた。災害によって多数の生命が失われる事実と、その被害を最小にとどめるためには特別の医療展開が必要であるという共通認識が生まれた。

2. APCDM:Asian Pacific Conference on Disaster Medicine

 災害発生頻度がもっとも高い地域であるアジア太平洋地域における災害を論ずること、国際援助のあり方を問うことなどを目的に設立。

3. 日本集団災害医学会

 1996年に設立した国内医学会。国内組織であることから、看護、災害対策研究者、災害科学研究者、情報研究者、行政など、医師以外の参加者を歓迎した結果、災害医学を学際的に捉えられる点が注目されている。

4. JMTDR:Japan Medicine Team for Disaster Relief

 カンボジア難民医療支援を契機に、国際救急援助医療組織の必要性が認識された。日本国際救急医療チームJMTDRが設置され、その後JDRに改変し、今日までに40件余りの海外災害に出動している。

5. 難民医療・保健医療とのかかわり

 complex disaster・・・貧困その他の理由から大規模災害後の復帰が難渋して保険環境が劣悪化する結果、多数の健康被害が続発するもの。21世紀における災害の一タイプとされている。

6. 地球的環境変化との関係

 温暖化、産業廃棄物の山積、核危険の増大、食料不足、エネルギー不足、限界に近づく人口増加、紛争の激化

災害医学の路線

1. 研究対象となる災害

2. 研究方法

研究スタイルとして重視されてきたのは学際性

第一の理由・・・研究自体が非医学系の知見を利用しなければならない
第二の理由・・・災害医療の実践面が情報・兵站・救助などの医療外要素なくしては成立しない
第三の理由・・・災害医療自身が内蔵する社会性

災害医学の医学体系

 「災害医学」は近代医学としての立場を主張できるであろうか。

 臨床系医学の医学体系が承認される条件

  1. 系統的医学思考体系

     災害医学の場合は要因が固定できないため、軸となる現象も災害種によって異なると思われがちだが、災害医学が軸とするのは多数の被災者に発生したあらゆる身体被害で、しかも時系列的に変動する。

  2. 明確に線引きできる医療対象

     線引きは量的特質に限定でき、通常の救急医療体制では消化できない場合、あるいはパニックなど、影響する範囲が通常の救急事例発生時とは範囲と質が異なる場合に線を引く。

  3. 実践面を保障する優先選択性

     災害医療の実践面を考えても、また実例を反省しても、それを保証する災害医学が必要である。

  4. 特徴的な研究手法を採用する研究集団の存在

     独特の研究手法として用いられるのが事例分析で、過去の各災害でどのような身体被害があり、どのように対応したかを調査し、これを土台にして望ましい展開を構築する。

  5. 特有の医療実績評価法

     適切な医療展開が行われたならば救命できたと思われる無為な死亡、の多少をもって尺度とする。

  6. 妥当な医学思考

     参加する医療者も災害医学研究者も「災害死亡を最大の被害とする思想」を原点とする。


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