災害医学・抄読会 2003/06/27

阪神大震災からのレポート その1

(鈴木俊夫:健康教室 1995年8月号、p.16-23)


1.外からみた阪神淡路大震災 被災地を訪ねてみて

〜学校歯科医として思うこと〜

*神戸市東灘区を回り、その実情を垣間見た。

*養護学校を訪れ、養護教諭など学校関係者の声を聞いた。

 校医は自分の身辺のことはもちろんであるが、学校歯科医としての務めや、学校にいる被災者への対応も忘れてはならない。

*全国各地の歯科医師会から派遣された巡回診療バス

*被災者の心のケアに歯科衛生士の活用を

*食

2.保健室からのレポート

*保健室の開放から

*学校再開

 子供たち自身が健康的な生活をみつけられるような指導が必要である。また、心の問題についてもアンテナを張って、学校生活を応援したい。

3.学校歯科医からのレポート

*校長室を歯科診療室に

*問題点


8 災害と精神医学

(上條吉人、山本保博ほか・監修:災害医学、南山堂、東京、2002、pp.257-267)


a. 災害の及ぼす心理学的問題

1.心理的反応に影響する要因

 災害に遭遇した際に個々がどのような心理的反応をきたすかは災害の性質、被災の状況、被災前の身体的・精神的健康状態など様々な要因がある。Greenらは心理的反応に影響する要因として脅威の程度、身体受傷の程度、グロテスクな光景を目の当たりにすること、近親者の不慮の死を目撃したり知ること、有害物質に曝露されたことを知ること、他人を死なせたり大怪我をさせたりすることなどを挙げている。また、Flynnは無警戒であること、個々の安全に対して強い脅威を覚えること、グロテスクな状況に晒されること、身体的健康問題、再発の可能性、今後起こりうる未知の健康問題などを挙げている。

2.心理的反応段階

(1) 衝撃期

 災害が発生し、多数の死傷者を出し、ライフラインが破壊される時期に相当し、生命の危機に遭遇し精神的衝撃や恐怖は強い。この時期の心理学的反応は次の3群に分けられる。第1群:生存者の12〜25%から成り、冷静で落ち着いており、状況をよく認識して行動計画を立て、それを遂行することができる。第2群:生存者の75%から成り、一過性に動転して困惑状態に陥るが、正常範囲の反応で収まり、まもなく消退する。第3群:生存者の10〜25%から成り、錯乱、不安、無気力、ヒステリー状態などの病的な反応を生じる。

(2) 反動期

 災害というストレス要因が消滅したり、非難などにより災害の直接的影響を回避したときから始まる。被災民は次第に自分を取り戻し、異常な体験や様々な喪失を認識し、歓喜、安堵、恐怖、悲観など多くの極端な感情を抱くようになる。また、この時期に蜜月期(ハネムーン期)を迎えることがある。これは生命に対する脅威の中で生き残ったことへの称賛、安堵や感謝、被災前の抑圧的な生活や対人関係からの開放感、被災体験を共有したという相互連帯感、避難所生活における貧富の差の消失に基づく良好な感情などが生じる時期である。

(3) 後外傷期

 災害によって失ったものの大きさを十分に評価できるようになると、悲嘆、抑うつ、怒りや幻滅などの感情を抱く時期がある。

(4) 解決期

 次第に災害による異常な体験や喪失を受容し、自分の人生に対して前向きになる時期である。被災という逆境を乗り越えて以前と同様な心理状態に至るものがいれば、さらに逞しくなり新たな苦境を迎えて以前よりも良好に対処できるものもいる。しかし一方で、PTSDなどの心理的瘢痕を残すものもいる。

3.被災地でのメンタルヘルス・サービス

 災害時にメンタルヘルス・サービスを提供する際には、まず地域コミュニティーへの働きかけとアウトリーチを基本姿勢とすることが重要である。被災者は自発的にはメンタルヘルス・サービスを受けたがらない。学校、家、避難所などの被災者が働き、生活し、集う場所に赴いてサービスを提供することが必要である。また、被災者の精神状態は健康から病的レベルまでの連続的なスペクトルであることを理解し、いかなる精神状態にも対応できるメンタルヘルス・サービスを被災地域全体に組み立てる必要がある。災害時にメンタルヘルス・サービスを提供する際に、限られた資源しかないという場合には家屋や近親者を喪失していたり、家族のサポートが弱かったり、精神障害のリスクが大きいなどの理由で精神的苦悩の大きい被災者をトリアージして、優先的にサービスを提供することが重要となる。

4.メンタルヘルス・サポートのポイント

(1) 潜在的対処能力の自覚

 ほとんどの人は、今までの人生の中で何か非常に困難なことに遭遇しても乗り越えてきている。それをどのように巧みに対処したのかを回想させ、潜在的な対処能力を自覚してもらうことが重要である。

(2) 正常化

 災害に暴露された際には様々な認知、感情、行動、身体的異常をきたすことがあるが、それが正常であることを理解してもらうことが重要である。

(3) 指示的な援助

 被災者のほとんどは極めて特異的な問題に対して具体的な方向性を示してくれる援助を必要としている。

(4) 仕事のオーガナイズ

 例えば、家が倒壊、全壊したあとに役所、保険会社、建築会社、銀行などと交渉するような仕事を被災者がオーガナイズしたり、優先順位を決めたりするのを援助することは被災者のストレスを非常に軽減する。

(5) 積極的に耳を傾ける

 被災者の声に積極的に耳を傾けることにより癒しの効果が見られ、被災者は様々な心理的な問題を正常化し、コントロールできるようになる。

(6) 非難の感情を抑える

 非難の感情を抑えることは被災者を支援する上で重要である。

(7) 現実的な期待

 生存者の期待を理にかなった範囲にとどめておくことは重要である(実現し難いことを言うと逆に不信感を募らせたり、災害支援プログラム自体を危うくしたりする)。

(8) 紹介・斡旋

 実用的な専門家への紹介システムの確立は重要である。

b. 災害関連の精神障害

1.災害関連ストレス症状

 次のような災害関連ストレス症状を認めることがある。

1)身体の異常

 心拍数や血圧の増加、悪心、発汗や悪寒、チック、細かい震戦、視野狭窄、頭痛、下背部痛、のどにつっかえる塊があるという感覚、易疲労感、感染に対する抵抗力の低下など。

2)行動の異常

 一般活動性の変化、能率の低下、コミュニケーションが滑らかでなくなる、落ち着いて休息できない、食事や睡眠パターンの変化、性的な関わりかたの変化、アルコール、タバコや薬物の使用頻度の増加、社会的引きこもり、および事故を起こしやすくするなど。

3)認知の異常

 注意を持続できない、集中が困難、決断が困難、ものの名前が出てこない、滑らかに思考することができない、責任転嫁をしてしまう、災害のことが頭から離れないなど。

4)情緒の異常

 すぐに泣いてしまう、感情が不安定、不適切な感情を抱く、不死身感、不安、怒り、いらいら、自己嫌悪や生き残ったことに対する罪悪感、失望、無感動など。

5)その他

 長期症状としては仕事や学業の成績の低下、夫婦間のトラブル、薬物の乱用、および繰り返される悪夢など。

2.PTSD

(1) トラウマについて

 アメリカ精神医学会により『精神障害の診断統計マニュアル第4版(DSM-W)』では「危うく死ぬ、または重傷を負うような出来事、あるいは、自分または他人の身体の保全に迫る危機を、体験したり目撃したり直面したりすること」と定義されているが、個人差があり、「個人の対処能力を超えるような大きな打撃を受けたときにできる精神的な傷」または「対処能力を支える心的機構の歪曲ないし破綻」と定義されたりもする。また、Eriksonは災害の際に認められるトラウマを個人トラウマと集団トラウマの二タイプに分類している。個人トラウマとは、個々の防衛能力あまりにも突然にあまりにも残虐に打ち破るために効果的な対処ができないほどの精神への打撃である。集団トラウマとは人と人とを結び付けている絆に傷をつけ、社会生活を送る上で必要な組織である共同体に害を及ぼす打撃である。

(2) PTSDの診断基準

 アメリカ精神医学会により『精神障害の診断統計マニュアル第4版(DSM-W)』ではPTSDは不安障害のサブカテゴリーに分類され、本質的には、トラウマが病因となっていること、ついで1,外傷的出来事の再体験2,外傷関連刺激からの回避または感情の麻痺3,覚醒の亢進状態の3つの領域の症状が存在していることを特徴としている。

(3) PTSDの生物学的異常

 PTSDでは健常対照群に比べて血漿ノルエピネフリン濃度と中枢性ノルエピネフリンの代謝物である3-methoxy-4-hydroxyphenylethylleneglycol(MHPG)レベルが上昇することが報告されている。また、視床下部−下垂体−副腎皮質(HPA)系におけるネガティブフィードバックの強調が指摘され、ストレス低耐性との関連が考えられている。

(4) PTSDの治療

○薬物療法

  1. 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
  2. セロトニン拮抗・再取り込み阻害薬(SARI)
  3. 三環系抗うつ薬
  4. 抗アドレナリン作動薬
  5. ベンゾジアゼピン系
  6. 抗痙攣薬

○その他の療法

災害によるPTSDに対する認知行動療法としては、欧米では系統的脱感作療法、刺激被曝療法などの曝露法が取り入れられて一部で有効性が報告されている。

(5) PTSDの予後

 PTSDを発症した60%の患者では72ヶ月後までに症状は改善するが、それ以外の患者の場合、適切な治療を受けないと症状が遷延する。また、身体的障害を負ったり、家族を亡くしたりなど直接的被害の大きい患者のほうがより慢性化しやすいという指摘もある。

(6) PTSDと合併精神障害

 PTSDの多くは他の精神障害を合併していることが知られている。男性PTSD患者の88%、女性PTSD患者の79%に合併精神障害が見られる。


5 災害と感染症

(中村安秀、山本保博ほか・監修:災害医学、南山堂、東京、2002、pp.85-90)


a.災害と感染症と特殊性

 被災地では災害直後から、感染症との戦いが始まっている。感染症による被害の 大きさは災害の種類によって異なるが、難民においては、すべての死亡のうち51%か ら95%は感染症に起因するといわれている。世界的にみると、災害時の主な感染症と しては、下痢症、急性呼吸器感染症、麻疹、マラリアが挙げられ、これらはキャンプ 地における4大死因として特に留意する必要がある。

 災害時における感染症の特徴は、以下のようにまとめられる。

 1) 劣悪な衛生環境は感染症流行の大きな要因となりうる。

 2) 大量の住民が移動するのに伴い、元の土地にあった病原体を持ち込んでしまう。

 3) 移動先の地元住民の間で流行している疾患に対する免疫がないために、被災集団 に突然感染症が流行することがある。

 4) 難民や自然災害時には、栄養失調を背景に持つ感染症が少なくない。

b.被災地の保健衛生

 被災地では多数の被災者が集団生活を余儀なくされている。そのため、感染症の治療 や対策以前に、住居の確保、食料、水、トイレ、ごみの廃棄といった衛生や環境問題 を解決することが緊急かつ重要な課題である。

 被災地の状況によって水の必要最低量は異なるが、一般的には1人あたり1日15〜 20リットルの水の消費量を見込む必要がある。飲料水は熱帯地域では1人当たり1日6 リットルが必要であり、最低1分間煮沸するか塩素化合物あるいはヨウ素で消毒した 水を用いる。集団生活を営むには最低でも100人に1ヶ所の簡易トイレが最低限必要 であり、1人当たり1日 0.5sといわれる固形廃棄物の処理場も確保する必要がある。

 緊急時には1人当たり1日2,100 kcalの食料が最小限必要とされる。特に、子供や 高齢者などのvulnerable group(弱者集団)にきちんと食料が届いているか確認し、栄 養失調の乳幼児には特別の補助栄養を行う。

c.災害時に多い感染症とその対策

疾病名主要要因予防対策治療
下痢性疾患飲料水や食物の汚染飲料水供給、健康教育経口補水塩
急性呼吸器感染症劣悪な住居、毛布や衣服の不足住居の確保、毛布の配布早期発見、抗生物質
マラリア新しい環境蚊帳の配布、水溜りの除去抗マラリア薬
麻疹(はしか)密集予防接種 
結核密集住居の確保、早期発見治療 
髄膜菌性髄膜炎密集(流行地のみ)予防接種 
寄生虫疾患密集、劣悪な衛生環境健康教育、安全な飲料水 
破傷風外傷、出産時の不潔な処置創傷の治療、予防接種 
疥癬水の不足生活水と石鹸の配給 

 熱帯感染症に関する流行状況と治療や予防に関する情報は、インターネットから 最新情報を入手する時代になった。また、小児の感染症治療に関しては、現在、WHO とUNICEFの指導のもとに多くの途上国でIMCI (Integrated Management of Childhood Illness)プログラムが実施されている。

d.公平さと参加を目指して

 緊急援助を行うときには、いつも被災者以外の現地コミュニティの存在を忘れて はならない。

 緊急保健医療の遂行に当たり、現地政府や赤十字などの保険医療関係者やコミュ ニティのヘルスボランティアの人的協力は欠かせない。現地事情に最も精通している 相手国の保険医療関係者が計画や実施に主体的に参加できるような感染症対策が望ま れる。

 最後に、国際協力の視点から、緊急援助活動の以前と以後が重要であることを強 調しておきたい。災害が起こる前の準備、すなわち防災対策が十分に機能すれば感染 症による被害も縮小される。そして、災害後の感染症対策は地域保険そのものであ り、Primary Health Care(PHC)の理念に則って長期体制で計画実施すべきである。


8 災害看護

(山崎達枝、山本保博ほか・監修:災害医学、南山堂、東京、2002、pp.211-220)


1、災害看護とは

 「時々刻々と変化する状況の中で被災者に必要とされる医療及び看護の専門知識を提供することであ り、看護者の能力を最大限に生かして被災地域・被災者のために働く」ことである。けっして災害急 性期の被災負傷者への援助だけに終わるものではなく、災害全体・災害サイクルを理解し対処してい くことである。

2、災害医療の特殊性と看護

 平常時の救急医療と異なり、以下のような事象が随伴しがちである。

 以上の様なことに対し、柔軟に対応することが望まれる。

3、救急災害看護

 災害発生時における看護婦の役割として、
  1. 救出、救助期、亜急性期の救命救急看護
  2. 保健衛生看護
  3. 被災者の心身の健康の建て直しへの生活支援
とに大きく分けられる。

1)急性期災害看護

 「救命第一、一人でも多くの人を助ける」を目標に効果的な医療を行う。災害時の3Ts 【Triage,Transportation,Treatment】の原則を守り実践することが重要である。八最後いかに早く 治療を開始できるかが災害医療のポイントである。また災害の形態や種類によって生じる傷病のパ ターンなどを、予めある程度理解しておくこともひつようである。災害発生直後の看護婦の活動は病 院内と災害現場との活動がありえる。

2)保健衛生看護

 大混乱の急性期が過ぎると、避難所を出て家に戻る人、家の修復にとりかかる人、知人を頼って移 動する人、避難所から仕事場に出勤する人などが出てくる一方、避難所生活が長期にわたる人も生じ てくる。避難所内の保健衛生、栄養問題、精神衛生問題、ストレスの多い集団生活での健康喪失な ど、今までになかった新しい問題への対処が必要となる。

3)災害に伴う精神保健

 外科的処置や内科的治療の影で見落とされがちであるが、災害後の精神的な支援、看護は決して忘 れられてはならない重要なことである。こころの傷は目に見えず、深く沈潜して長い経過を辿ること が少なくない。目に見えないこころの動きの看護は難しいが、心のストレス反応を理解し、被災者及 びその家族の気持ちが少しずつ回復するよう、むしろ日々の身体や生活のケアの中でこころのケアを すすめていくことが大切である。「こころのケア」は災害看護の中で最も重要なテーマの一つであ る。

4、災害看護に関わる人的要件と教育

 災害看護は、統合的、多角的な実践能力が要求される業務である。災害の時相によって看護のニーズ も大きく変化するので、その時々に看護者一人一人が持っている能力が発揮される可能性がある。

1)看護婦に期待される基本条件(3C)

  1. Communicapability 意思疎通能力
  2. Cooperation 協調性
  3. Coordination 調整能力
 チーム全体としてこれらの資質のある人を集めることが望ましい。

2)災害看護教育、訓練

 医療に従事する看護婦は、災害に関する基本的な知識を学び、災害訓練などにも積極的に参加し て災害対応の心得を身に付けておくべきである。知識としては災害のサイクルとそれに伴うニーズの 変化、トリアージ、災害に伴う特殊病態、災害弱者、保健衛生管理、病院管理などが要求される。ま た訓練は参加型教育訓練が効果的である。

まとめ

 災害時には平常時の看護者の役割を越えた業務も要求されるであろうが、臨機応変に対応しなければ ならない。その背後にあるべき基本的姿勢は「最大多数に最善を尽くすこと(The greatest good for the greatest number)」である。


9 市中病院における災害対策

(石原 哲、山本保博ほか・監修:災害医学、南山堂、東京、2002、pp.221-238)


 阪神淡路大震災から都道府県レベルで災害対策が行われている。全国に災害拠点病院が指定され、各 都道府県でも基幹災害拠点病院と地域災害拠点病院が指定されている。しかし、各地域の防災におい て基幹病院、地域拠点病院だけでは対応ができないため地域内すべての医療機関が連携し防災対策を 行う必要がある。

病院防災マニュアルの必要性

 大災害時、多数傷病者のなかで平時であれば救命しえたであろうに救うことができなかった患者をい かに最小限にするかが問題である。病院としての機能をフルに発揮するには病院幹部の意識が統一さ れていなければならず、災害発生時には災害対策本部を設置することから始めなければならない。

病院防災対策の事前調査

初動対策のポイント

 災害発生時は混乱状態に陥る。職員がマニュアル通りに行動すれば混乱も減るはずである。そのため に、決められた役割を果たせるように訓練が必要となる。職員の作業分担が分かるように指揮系統図 を作成し、どう行動するかが一目で分かるようなフローチャートを作成しなければならない。

 初動時職員行動は本部および病棟職員がチェックリストに従って確認する。

本部職員行動チェックリスト

病棟職員行動チェックリスト

トリア−ジセンター開設準備

 トリア−ジセンターは病院前に開設し、重傷者をいち早く後方病院、救命救急センター などに搬送する。

防災訓練のポイント

 災害が起きた時、ライフライン途絶に対し、いち早く復旧することが要求される。病院 防災訓練は(1)ライフライン途絶時への対応訓練、(2)避難訓練、(3)トリア−ジ訓練、(4) 通信訓練、(5)搬送訓練 を想定し計画する。

まとめ

 自然災害、人的災害などの予測できない災害が実際起きると、状況は混乱するはず である。平時からこのような訓練を行っておくことは災害時の対応に有用だと考え られる。病院防災対策として職員一人ひとりが行うべき行動を記載したフローチャート などのマニュアル作成は重要であり、年度ごとに見直し、変更は必要である。実践的な 訓練を繰り返すことで災害に対応できる病院をつくっていかなければならない。また、 職員の連携や近隣病院支援ねとの強化も同時に行っていく必要がある。


2 火山噴火災害

(山口孝治、山本保博ほか・監修:災害医学、南山堂、東京、2002、pp.61-68)


a.火山活動と火山噴火災害

 火砕流・・・ 地下の高温の溶岩と、ガスの混合物が流れ出る現象。速度が非常に速く、避難勧告が出されるのが遅れがちになる。

避難勧告:強制力がない

警戒区域:法律により危険区域への立ち入りを制限または禁止し、違反者には罰金が課せられる。

 (長所)人命を守ることができる。

 (短所)住民が長期間立ち入ることができないため、被災地域住民の生活を脅かす結果になる。

b.火山噴火災害の特徴

1)火山噴火に伴う加害因子と災害要因

 加害因子・・・火山性ガス・降下火砕物・火砕流・火山泥流・溶岩流

火山噴火災害が大災害化する因子は「流れ」

 代表例)火砕流・火山泥流・溶岩流

2)火山噴火活動と加害因子の推移

 火山噴火活動の時期によって加害因子は推移し、発生する人的被害も変化する。

  例)火山灰堆積→土石流発生→噴火活動活発化→火砕流発生

3)他の自然災害との比較

c.火山噴火災害の疫学

 1971年草津白根山:硫化水素などの火山ガスにより6名死亡

 1986年ニオス湖(カメルーン):二酸化炭素ガス噴出により1734名死亡

 1990年雲仙普賢岳:40名死亡

など、多数あり

d.災害に伴う傷病の特徴

1)火砕流による傷病

 火砕流による被災者の特徴的な所見は、高温ガス・火山灰の吸入による気道熱傷を伴う広範囲な熱傷。

【原因】

2)火山性ガスによる傷病

 火山性ガスによる中毒死は、硫化水素が原因であることがほとんど。

表1.吸気中の硫化水素濃度と症状

   治療に関しては被災者の汚染の除去を十分に行い、二次災害の発生を防止することが必要である。

e.医療対策

 火砕流災害のような重症熱傷が同時に多発する場合に、トリアージは被災者の予後を決定する重要な因子となる。

表2.転送時のトリアージ

 重症の熱傷患者でも初期の輸液・呼吸管理などの生命の安定化を図る治療が適切に行われていれば、遠距離の搬送にも十分耐え得ることが可能。


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