災害医学・抄読会 2003/06/13

トルコ・マルマラ地震被災地の実状

(山下 了、近代消防)


☆災害救出援助ボランティアAKUTとその活動☆

 トルコ・マルマラ地震は17000人以上の死者と多数の行方不明者を出した。この地震で直ちに被災地での救援活動を組織的に行ったのは救命ボランティア組織で、救助救急組織としての消防組織ではなかった。このようなボランティア組織のうち、内外のマスコミにとりあげられ有名になった団体にAKUTがある。

1)AKUTとは

 「Arama(探す) Kurtarama(救出する)」の略語である。トルコでは登山中の人身事故が多かったため、トルコで初めて「登山事故救助チーム」として登山家7人で創設された。救命活動とは応急処置、けが人の搬送方法、ロープの結び方等の応急救助方法であり登山事故と同じことが地震災害等にも応用出来るということを知り、地震での救助活動も行うようになった。この団体は1998年のトルコ南部で発生したアダナ地震で、地震での救助活動を初めて行った。市民に呼びかけて救出ボランティアグループを結成し、AKUTの会員とともに災害発生現場に送ったり、現地の災害情報の収集や食事の提供などを行った。以前トルコの災害救出は軍隊によって行われていた。現在は市民防衛隊が中心である。また、AKUTは有志によるボランティア集団であり、救出活動の宣伝は行わず、活動資金は全て寄付である。さらに、オフィスは民間事業所を無償で提供してもらい、救助機材についても販売店から無料で提供してもらっている。救助犬などの教育にもスポンサーが存在し、企業によるボランティア支援組織を形成している。民間からの協力はAKUTが活動を続けていくために重要である。

2)マルマラ地震での救助活動の実情について

 マルマラ地震では電話が不通であったためAKUTでは全員が携帯ラジオを持ち、ラジオ放送によりお互いに無線連絡をとることで情報を得ていた。また、ラジオ以外にも多くの情報収集手段を持ち、可能な限り電気に依存しない形で情報交流機材を持って行動するようにした。メディア情報以外にアマチュア無線からも情報が入るようになっていた。また、被災地への足はバイクが効果的で、バイクで遠くの被災地に行き、それぞれの村での救援ニーズ情報を収集していった。

★トルコでのAKUTの活動におけるこれからの課題★

1.全ての機関で統一された救助の専門用語の普及

 救助の専門用語等が機関ごとに異なるとコミュニケーションが取りにくいため、軍、警察、市民防衛隊、消防が一緒に救助セミナーに参加することが望まれる。

2.充実した教育訓練の実施

 今までは時間や場所の関係で忙しい環境での教育訓練が行われてきたが、マルマラ地震での評価により多くの機関や団体がAKUTの訓練に参加するものに特別の休暇を与えてくれるようになった。また、救出救助の訓練学校を建てる予定もあり、海外との救出教育の相互交流、建物を破壊しての訓練、倒壊建物からの救出方策の研究の充実、自然の中での救助訓練が可能となることが期待できる。

3.防災教育のためのマニュアルの作成

 トルコでは学校で教えるためのマニュアルができていない。マニュアル作成にあたり、国により救出救助に関する常識が異なっていることが一番の問題と言える。日本の建物は耐震基準が厳守されているため、地震の時も崩れずテーブルの下にもぐることで頭への落下は防ぐことが出来る。トルコでは建物の耐震性が不明か低いことが常識であるために、実際に教室のデスクの下にもぐった子は圧死して通路にいた子は助かったという事例も多い。このような事例を標準化、マニュアル化し、早くマニュアルを作らなくてはならない。また住民には、それぞれの、家の耐震性の点検を訴えなければならない。標準にあっているなら、地震のとき建物内のどこに隠れればよいか教えることが出来る。標準以下なら標準的な建物と同じことを教えるわけにはいかない。地震の際のあらゆる場面を想定してテキストを作ることは不可能であり、現在AKUTでは、救助の体験記録集を作っている。

4.日本での実情とこれからの課題

 トルコでは20歳になると兵役に就き軍事訓練を受け、災害救助に似た訓練を受けるため市民の救助ボランティアは相当な成果があげられる。大災害対応演習を受けている市民防衛隊も同じことが言える。このように、トルコでの災害救助における救出救助活動の実力は日本よりも上である。日本でも、家屋の倒壊率の高い地震ではトルコ・マルマラ地震と同様な被災状況となり、自衛隊、消防救助隊、消防団だけでは不十分となる場合が想像される。また大規模な組織では指示系統がしっかりするのに時間がかかるため、災害時の救命活動には非政府組織の活動や地域単位での組織の方が適している。地域単位での組織活動を展開するためにも災害教育は大切である。わが国でも焼津市などで住民による救助隊を編成する動きがある。また、救助専門家の指導のもとで住民主導型の災害救助訓練を実施する必要がある。


災害看護の実際

1.診療所の設営と看護管理、2.国際救援に使用する医薬品

(小原真理子、山本保博ほか監修、国際看護交流協会災害看護研修運営委員会・編:国際災害看護マニュアル、真興交易医書出版部、東京、2002、p.93-105)


 国際救援医療活動としての災害看護は、被災国の災害対策本部の取り仕切り下で被災国救援チームと外国人救援チームが協力して行われる。対象となる傷病者は、戦傷外科患者や感染症患者、精神的に打撃を受けた人々など多岐にわたる。この国際救援医療活動では異文化と異なる言語を持つ傷病者を相手すること、現地ヘルスワーカーを雇用し診療所を運営すること、外国人チームとの協力が必要、熱帯病や風土病など日本には見られない疾患があること、日本の医療水準と異なることなど、日本における災害看護と相違する点が多くある。これらの特徴を踏まえて、傷病者のための診療所や看護管理の現状を1)診療所の目的や設営条件、2)被災地における他医療機関との連携、3)現地ヘルスワーカーの必要性、に分けて述べる。

1.診療所について

 診療所の目的は、医療資機材、人員、場所等に制限のある災害時の現状下で、効果的な医療を行い可能な限りの救命を行うことと、PHC(Primary Health Care)に基づいた予防的医療を行うことである。その役割は3つのTで代表される。(傷病者のTriage、Treatment、Transportation)この3つのTを効果的に行うためには、後方病院との連携や、被災国や外国の機関が行っているその他の保険医療活動との連携が必要となる。

 次に診療所の設営条件として以下のものがあげられる。二次災害の危険のない安全な場所であること、診療所としての広さを確保できること、上水・トイレの確保ができること、傷病者を搬送するための道路と駐車場を確保できること、傷病者の待い合い室・死体安置所の確保できること、救援チームの休息室の確保できること、診療所内の物品の配置が重要となる。

2.被災地における他医療機関との連携

 被災害地には多くの医療機関が活動している。それらの機関と互いに情報収集し、必要時、患者の治療に活用するため連携することが必要となる。

3.ヘルスワーカーについて

 国際救援活動をする上でヘルスワーカーの存在は欠かせないものである。彼らと協力するにあたり重要となることは、被災者でもある彼らの心情や文化を理解すること、そして救援の目的に向かって彼らを円滑に動かすことである。そのためにも、風土病や外科的処置などは現地ワーカーの経験や知識を大いに取り入れ、治療や処置に役立てたり、有効と診断される彼らの伝統を積極的に取り入れたりするが必要である。また国際救援活動を終え外国人チームが撤退後も現地ワーカー自身の手で医療活動できるようにすることも大切なこととなる。

 以上のように国際救援医療活動は、互いの国の事情が異なるために医療行為や災害看護を施すに限られたものではない。これは医薬品事情に関しても同様に当てはまることで、医療品が日本ほど揃ってない国も多ければ、冷凍保存も不可能である国がある。薬剤師が不在のため、誤薬もあるとなる。このように活動を行う際に留意する点がいくつか生じてくるのである。これらを考慮しながら、はじめて充実した国際救援医療活動ができるものと思われる。


高まる国際保健医療協力の必要性

(小原真理子、山本保博ほか監修、国際看護交流協会災害看護研修運営委員会・編:国際災害看護マニュアル、真興交易医書出版部、東京、2002、p.1-7)


 戦後、様々な分野でめざましい発展をとげた日本にとって、保健医療分野においても 目を見張る進展があり、そのおかげとして、世界一の長寿を享受することができたのです。

 これに対し、多くの開発途上国での保健医療水準の改善は遅れており、劣悪な環境の中での生活 を余儀なくされています。これらの国々の平均寿命は依然として50歳を下回るものであり、 先進国との隔たりは大きくなるばかりです。

 この隔たりを少しでもなくすために、日本コーリンは保健医療水準の改善に向け、より 一層の責任を担うべきであると思われます。

1)貧困と紛争に対して

 貧困と紛争は国際間の不安定要因です。紛争中あるいは終結直後には、人命を守り 最低限の生活を可能にするために難民や紛争当事国・周辺国への人道緊急 援助が実施されます。紛争が終結し緊急期を過ぎると、紛争で破壊された社会 ・経済基盤を復旧するための復興・開発支援が必要となります。復興・開発 支援の目的は紛争前の状態に戻すことではなく、平和構築と持続可能な開発の基礎を 構築することです。そのためには特に政治制度を強化し、治安および安全保障制度を 確保し、経済と社会を再活性化することが重要となります。紛争後の和平復興においては、 軍事的枠組み、政治的枠組み、および開発援助を組み合わせて、平和構築支援を実施する ことが重要であると考えられます。

 また貧困層を対象とした直接的な貧困対策事業を拡充するために、地域の人々の ニーズに合致した事業を数多く実施しています。「貧困」はジェンダー、環境などと 同様に農林水産、保健医療、社会開発、鉱工業など、あらゆる分野と密接な関係が あるため、国際協力事業に「貧困削減」の視点が組み込まれるよう配慮しています。また 90年代に入り、貧困削減をプロジェクトの目標に組み込んだ事業を実施してきており、 発展途上国の住民自身による生活環境の改善や総合的な生活向上活動への支援を通じて、 住民が利用しつつ共生できる環境づくりを目指しています。

2)人口問題への援助、その新たな展開

 1950年に約25億人であった世界人口は現在60億人を超え、2000年版国連人口推計によると 2050年には93億人に達すると予測されています。このような急激な人口増加を安定化 させるために、国連はこれまで10年ごとに人口問題に関する世界的な国際会議を 開催しておりますが、1994年のカイロでの「国際人口・開発会議(ICPD)」においては、人口政策の 焦点がこれまでのマクロ(国レベル)からミクロ(個人レベル)に転換し、人口問題解決の ためのアプローチた大きく変化しました。

 これまで日本は、開発途上国の人口問題の解決に向け、技術協力や国際機関 への拠出金などを通じ貢献している。しかしながら、環境、食料、開発などと 密接な関係を有する人口問題は、依然として人類、とりわけ開発途上国の人々にとって 大きな課題となっており、さらに複雑化、深刻化しています。また、地域紛争が多発している 状況において、紛争予防や復興支援において、通常の支援を行う際にも、平和維持に配慮していく ことが不可欠であるとしています。そのためには、平和構築への理解と配慮を徹底し、国別 計画やプロジェクト・サイクルの中にも平和構築の概念を浸透させていくことや、復興・開発援助 においては、直接・間接的に紛争の再発予防につながる援助を実施すると共に、通常の援助がhんそうの再発要因を助長しないよう留意することが重要であると指摘されています。また、平和構築の新しい分野(安全保障部門改革、除隊兵士の社会復帰、小型武器規制、児童兵対策、平和教育など)への 支援を拡充する方策について継続的に検討すること、併せて平和構築支援に際しては、NGO、他のドナー等との連携、貧困、ジェンダー、環境等ほかのグローバル・イシューへの配慮、平和構築に従事する人材の育成と確保に努めると共に、これらの援助人材の安全管理に十分留意することが重要であることも強調されています。


災害外科

(二宮宣文、山本保博ほか監修、国際看護交流協会災害看護研修運営委員会・編:国際災害看護マニュアル、真興交易医書出版部、東京、2002、p.48-57)


 災害において外傷患者に治療を施さない場合の生存率と、十分な治療を行った場合の生存率とでは約10%もの違いがあると言われている。しかし十分な治療と言っても災害時に行う外科は平常時に行うそれと比べて多くの相違点がある。まず、災害は清潔環境を破壊するので衛生状態が悪化し汚染環境となる。電気やガス、水などの供給が停止した場合は十分な病院機能を発揮できない状況で治療せざるをえなくなる。また、災害は全ての人に平等に降りかかるわけで当然医療従事者も被災者となる。よって正常の勤務体制よりも少ない医師、看護士で患者に対処する必要も出てくる。医療従事者が少ない状況にもかかわらず、災害のため数多くの患者が発生し治療、看護を行わなければならない。このように災害時に治療を施す事は生存率を上げる点で重要な事だが、平常時の外科と比べると災害外科には多くの点で限界がある。なお実際の災害外科では普段から行っている基本手技でもって行われ、特殊な専門治療は行わない。また術後集中治療が必要になるほど侵襲の高い手術は行わない。

 負傷者が運ばれてきたらすばやくバイタルサインのチェックを行い、外傷の部位、程度を迅速評価する。そしてトリアージを行い治療優先順位を決定する。もし余裕があり検査が可能ならば、血液型、Hb、単純レントゲン撮影などの検査を行う。検査により手術可能な全身状態にするために補正が必要であると判断した場合は輸液などの治療を行ってから手術を行う。災害外科では救命の手術は四肢の手術より優先される。ただし順番は患者の様態により臨機応変に変える。術後はただちに輸液、次回の包交時期、食事開始時期、バイタルサインチェック間隔などを看護士らに指示する。

 手術の準備としては創消毒、覆布、術者・助手の消毒、術者・助手のガウン装着がある。創消毒薬としてはポピドンヨードが多く用いられる。消毒は創の中心から外側に向かって行う。四肢切断創は汚染創をビニール袋などでカバーしてから行うと無駄が少ない。次に覆布だが、2次感染を防ぐために清潔な布で出来る限り広い範囲を覆うようにする。術者・助手は石鹸、ポピドンヨード等でブラシなどを使い十分に洗浄する。この時手先から肘にかけて順番に手洗いし、手先を上にして肘を洗って不潔になった洗浄液が肘から指先に流れないように気をつける。その後、清潔ガウンを装着する。もしなければ半袖シャツにて衣服が術野に触れないようにする。そして、清潔手術用ゴム手袋を不潔にならないよう気をつけて装着する。

 麻酔には局所麻酔と全身麻酔の2種類がある。局所麻酔では一般的にリドカインがよく用いられる。しかし実際に用いる前には患者に薬物アレルギーの有無を尋ねてから注入する。次に全身麻酔だが、全身麻酔には静脈麻酔とガス麻酔の2種類がある。静脈麻酔は局所麻酔を用いた場合では大量の麻酔薬が必要になる時に行う。手技は輸液を確保しバイタルサインをチェック後、ケタミン、ジアゼパムを静脈ラインから注入する。麻酔導入初期には呼吸障害をきたす事があるから気道確保に十分気をつける。ガス麻酔とは麻酔器を使用し麻酔をかけるのだがコントロールが難しく経験のある外科医か専門の麻酔医がかけるのが良い。

 手術はデブリードマンを行う。デブリードマンの原則は汚染創の除去である。デブリードマン後は十分に止血を行い、その後にもう1度創部を洗浄後ガーゼ等で圧迫し包帯を巻く。2回目の創処置は原則として3日後から5日後に行い、創が感染を起こしていなければ創縫合を行い閉鎖する。もし感染創であるならば洗浄と再デブリードマンを行う必要がある。初回手術の時は基本的に創を解放とし感染徴候がなくなった時点で創閉鎖を行う。しかし頭部、顔面の創の場合は基本的に初回手術の時に創を縫合閉鎖する。腹部汚染創の場合は必ず減張縫合を行い術後に創が開かないよう予防する。なお災害外科において、骨折は原則として髄内定などを使用せずに創外固定を行う。皮膚欠損のある場合は、数日オープンとし感染の可能性が少なくなった時点で植皮を行う。

 術後管理として、包交は3〜5日後に行う。感染防止のためにペニシリン等の基本的抗生物質を5日投与する。それでも感染の徴候が見られた場合はさらに追加する。なお栄養は出来るかぎり経口で摂取させるのが望ましい。これはバクテリアルトランスロケーションを防ぐ目的である。そして創部の抜糸は7〜10日後に創閉鎖の程度を見て行う。しかし顔面は美容上の問題も含めて3〜4日後に抜糸を行うのがよい。

 このように災害外科では平常時よりも限られた状況下で治療を行わざるをえない。よって、災害外科とはどういうものかということを事前に把握し、手順を理解しておく事が大切であると思われる。


トリア−ジの教育・訓練法(上)

(近藤久禎ほか、山本保博ほか監修:トリアージ その意義と実際、荘道社、東京、 1999、p.83-91)


 トリアージという考え方及びその実務は、災害時には非常に重要である。そして医療従事者、消防関係者であれば誰もが実施できなければならない。そこで、このトリアージの教育、訓練について検討していきたい。

 まず、教育の対象にあげられるのは、消防・救急隊、医師、看護師、そして一般市民である。災害時にいちはやく現場に到着する可能性が高く、現場トリアージを行う場面が多くなると推察され、搬送トリアージもその仕事になるであろう消防・救急隊の責務は非常に重いといえる。彼らの特徴として、日常の救急搬送とトリアージの業務に関連性があり、災害に対しての意識も高い事があげられる。そして、救急救命士とそれ以外の間に、医療技術、知識の格差があることも留意しなければならない。 医師についてだが、病院の医師は病院の前、中でのトリアージを担当する可能性が高い。そして、救急や一部の外科系診療科の医師にとっては、トリアージの業務が日常の診療と関連性があるが、それ以外の科ではその限りではないという特徴がある。また、緊急援助チームとして派遣された医師は、日常の診療と関連性が低い現場トリアージがその責務となる。次に、看護師についてだが、日常の業務とトリアージの実務との関連性は低いが、医師の介助を行ううえでトリアージに関する知識が要求される。そして、一般市民は、トリアージオフィサーになる可能性は少ない。しかし、ボランティアとして関与するうえで、トリアージの認識は必要である。

 では次に、災害医療、トリアージについての教育の場について話をすすめていこうと思う。医師や看護師、救急救命士には、その養成段階での教育が考えられる。つまり、大学や学校でのカリキュラムに組み込むという方法である。しかし、教育時間は医学部でも、とても少ないのが現状である。短期の研修というのもある。一日〜一週間程度の短期のものであり、簡便でコストも低く、実施しやすい。しかし、その効果の評価や効果を広げるための戦略、効果の持続性については、さらなる検討が必要である。長期の研修というのももちろん存在する。厚生省主催のものや海外のものがあり、参加者への影響は非常に大きいと考えられる。他には災害訓練があげられる。最も一般に広まっており、ほぼ毎年繰り返し行われるため、教育の効果、継続性に優れた方法である。

 さて次に教育方法について述べていこうと思う。形式として、座学、シミュレーション、実演(実習)があげられ、そのバランスがよいカリキュラムを組む事が重要である。しかし、トリアージを実際に行うことができるようにするための教育には、参加者が考え、理解し、意識を変えることが求められる。教育の内容は、業務に基づき現場、搬送、病院の3段階におけるトリアージについて分かれ、災害種別としては地震のように広域大規模災害、集団災害である航空機災害、列車事故などの大規模な事故との2つに分かれる。教育を行う際には、この2つのタイプのいずれかを想定して行うとよい。

 さて一つ一つの形式への説明に入りたいと思う。まず講義の目的だが、それは基礎的な知識を与えることである。利点は受講者の負担が少なく、企画側としても簡易に行える点であり、欠点は受講者が受け身になりやすい点である。後、講義形式は研修等のトリアージ教育の導入時に有効である事を付け足す。

 次に、シミュレーションについてだが、方法としてはある災害を想定しその場面、場面でどのような対応をするかを議論する方法である。利点は参加者が自主的に考えられる点、時間や費用の制約が少なく多種の想定が可能な点、実演(実習)に比べて多くの対象傷病者数を想定して行える。不利な点は診療やトリアージ・タッグの使用など、技術的なことについては実演(実習)形式ほどの効果が期待できない。

 さて、実演(実習)とはある災害想定のもと、あらかじめ模擬患者を用意し、その模擬患者に対し実際にトリアージ・タッグを用いて、トリアージの実演(実習)を行うことである。利点として、印象に残ること、診察面で現実性が増すこと、トリアージ・タッグを行う経験を持つこと。問題点は、現状のマネージメント等の全般的な流れについての実演が困難である点模擬患者を用意し教育、メイクアップをするためのコストがかかる点などである。

 最後に、災害訓練についてだが、目的は災害時の対応の中でのトリアージの実際について訓練することにある。利点は災害対応全体の中での流れが経験できる点、毎年繰り返し行われる点が挙げられる。問題点は模擬患者への高度な教育が必要となる点である。


災害の種類による疾病構造

(金田正樹、山本保博ほか監修、国際看護交流協会災害看護研修運営委員会・編:国際災害看護マニュアル、真興交易医書出版部、東京、2002、p.32-40)


1. 災害の疾病構造

1. 地震

 人的被害の原因は、建物の損壊、落下物、津波、火災、山崩れ、土石流など。

 また、発展途上国の地震災害では建物の強度の問題で地震の規模に比較して人的被害が大きい。

2. 水害

 日本では、河川の氾濫と土石流により家屋が倒壊したための外傷が多い。

 アジア、中南米諸国では、外傷というよりは災害後の衛生環境の悪化による伝染病、下痢などが主。ニカラグア・ハリケーン災害では、上気道感染、風邪、喘息などの呼吸器疾患が、下痢などの消化器疾患が多く、外傷は数%。バングラディッシュ水害では、下痢、赤痢、マラリアが発生した。

3. 火山噴火

 人的被害の原因は火山灰、泥流、火砕流、海底噴火による津波・ガス噴出などである。雲仙普賢岳の噴火では、火砕流が発生し、熱風による熱傷や気道熱傷による死者が出た。ピナツボ火山の噴火では、避難民のキャンプ生活で衛生環境が悪化し、麻疹や肺炎による死者が発生した。

4. 列車事故

 ドイツ高速列車事故では、200km/hでの走行中に脱線転覆し、死因は外傷性窒息死がほとんどであった。

5. 航空機事故

 事故件数は非常に少ないが、一度起きると死亡率は高い。外傷は骨折を含む重度のものが多く、航空燃料の火災による熱傷が必ず含まれる。

6. 戦争と難民

 戦争では、外傷の原因は爆弾の破片による損傷が最も多く、地雷、弾丸損傷と続く。外傷部位は四肢外傷が70%で、重要臓器の外傷は死亡率が高い。

 難民は、災害弱者といわれる乳児、老人などの疾病が多い。モザンビーク難民では、コレラが最も多く、栄養失調、下痢、マラリア、麻疹の順であった。クルド難民、ルワンダ難民では、多くが下痢症であった。

 難民の健康状態を知るにはキャンプの死亡率を知ることである。Crude mortality rate(CMR)は1日に10,000人あたり何人死亡したかを表す指標である。CMRが2以上になると危機的状況といわれる。ルワンダでは20〜35となった。

 海外での医療援助活動に参加しようとするとき、災害の疾病構造を知っておくことは当然であるが、熱帯病や伝染病の知識を習得しておくことも重要である。


□災害医学論文集へ/ ■災害医学・抄読会 目次へ