災害医学・抄読会 2002/03/01

1月18日―21日

(河野博臣:震災診療日誌、岩波書店、東京 1995、p.18-38)


 災害医療は大きく分けて市民、医療者、行政の3つのファクターから成り立っていると考えられる。以下その3つに分けて説明をしたい。

<市民について>

  1. 市民の救急活動について:救急医療の原点は市民同志が、生き埋めになっているのを助け出し、心マッサージなどお互いに救助しあう機能を持つことである。実際阪神大震災では、最初の救急医療はレスキュー隊によって行われたのではなく、市民同志によって救助され、心マッサージが施されて病院に運ばれたのである。

  2. 個人的な問題点について:阪神大震災で市民は自分の生命、財産を自分で守る必要性を強く感じた。このような事態に備えて日常生活において家の補強や、家具の転倒を防ぐなどの努力をする必要があるだろう。

<医療者について>

  1. 災害医療の専門家の数について:災害医療では一度に何万人もの人を治療しなければならない。日本では少数の救急患者を相手にする平常時の医療ではない災害医療の専門家はほとんどいない。

  2. 電気、水道、ガスがなかったことによって救急医療が無力化したことについて:このような状態では現地にテントで野戦病院を作り、手術ができるようにする必要がある。実際アメリカではヘリコプターでプレハブの病院施設を吊り上げ被災地に運び込んだりしている。

  3. 阪神大震災発生後に被災地で求められる3Tについて:

    1.トリアージ(症状に応じ、素早く患者の選別をする)
    2.トランスポーテーション(患者の輸送)
    3.トリートメント(治療)

     阪神大震災では情報途絶、交通渋滞などによってあまりうまくいっていなかった。

  4. 救援までの時間について:受傷後最初の36時間(遅くても48時間)以内が救命のポイントとなる。第二段階としては3日目から1週間ぐらいで、直接命に関わらない外傷の手当てを行う。最後の段階において慢性疾患や風邪の治療、またストレスを受け精神的に不安定になった人やPTSDになってしまった人のケアなどを行う。

  5. 最初の医療活動に必要な医療者の確保について:多発外傷患者の治療ができる救命救急センターの医師が、最初の医療活動では必要となる。実際全国約130センターのうちの3分の1に当たる7,80人の専門医が集められたはずであるが、阪神大震災ではそのような出動の要請がなかった。それは医療側の連絡網の組織化がいまだ未熟であったことと、後述する行政対策本部の見通しの甘さに原因があると考えられた。

  6. 輸送体制について:一ヶ所の病院へ患者の搬送が集中したことで起こった輸送体制の遅れも大きな問題点であった。災害医療では患者の搬送分散が重要であり、そのためには日ごろから近隣府県の病院を含めた広い範囲での連携が必要となる。

<行政について>

  1. 交通渋滞について:当然予測されたことであったが交通規制とヘリコプターの活動が必要となる。しかし実際阪神大震災では非常にほとんど機能していない。従ってうまく機能させるためにはグラウンドのあるところに避難所を作るなどの措置が必要であろう。

  2. 薬について:阪神大震災では薬の欠乏も問題となった。しかし現在も一般の市中病院では薬の備蓄は少なく、また災害に備えての拡充も予算の問題から現実的には困難である。従って自治体、公立病院がこの点を解決すべきであろう。

  3. 行政の対策について:国や自治体のこれまでの行政計画では、災害時に病院や救急車が使えない事態を想定していなかった。阪神大震災を経てこのような前提条件で考え直す必要があると考えられる。

 以上3点に分けて説明を行ったが、阪神大震災の教訓を生かして個人、医療者、行政の問題点を改善し、次に起こりうる災害に備えることが必要となるだろう。


緊急特集:阪神大震災,その時看護は・・

(看護学雑誌 59: 470-475, 1995)


【自分には何ができるか,何を求められているのか】

(黒田裕子、看護学雑誌 59: 470-471, 1995)

 朝4時に起床し本を読んでいる時に地震発生。

 元の勤務先の病院の様子が一番に気になりおもわず、病院へ足を向けるも、現在の職場、市役所へ向かう。(この間市内の強いガスのにおいを感じる)

 市役所の災害対策本部で電話の応対。休むことなく、悲痛な電話の声。

 家の下敷きになっている人、負傷者の手当てのため、車を出そうとするも、市内のガス漏れのため危険と、出せず。

 消防隊より「市内の病院が溢れ帰り受け入れができない」との連絡あり。

 総合体育館を臨時救護センターにすることが決まり、責任者として、市民病院から医師・看護婦をつれ、救護センター開設。

 開設と同時に多くの患者が運び込まれる。体育館で手当てできない患者を市立病院へ搬送する手段にワゴン車を使用し看護婦1名を付き添いとしてピストンする。この時、安全面と患者の名前が取次がれないことに注意し紙に名前を書き名札として活用。

 体育館が避難所にもなる。

 多くの人がボランティアに駆けつける。


【災害医療の陰で地域を追われるお年寄りたち】

(道上圭子、看護学雑誌 59: 472-473, 1995)

 著者は最も被害の大きかった長田区南部の病院看護婦であり、同地区の124名の訪問患者を抱えている。

 震災後、124名の安否確認作業、人工呼吸の患者は臨床工学技士が病院に搬送、一人暮らしの患者の安否確認、しかし拡がる火災により困難になる。

 翌日より自宅訪問と避難所訪問、名簿の出来ていない避難所で大声で叫びながら回る。

 避難所の廊下にいる患者とその家族に会う。おむつ交換の臭気に気兼ねして部屋を出たらしい。入院の要請があるも自分の病院は受け入れ不可能で他院も重症患者に手一杯で寝たきりの患者まで受け入れられない。

 痴呆患者を抱える家族も避難所で苦労。

 震災直後30人以上避難所にいた居た元訪問患者は3週目に2〜3人に1カ月後には1人になった。 このような患者は避難所の環境は厳しく他院、施設への入所が相次ぐ。避難入所のショートステイサービスも3月末になると切れていく。

 入院入所にも期間・費用減免処置等の検討が望まれる。


【阪神大震災の中での分娩体験】

(吉田美穂ほか、看護学雑誌 59: 474-475, 1995)

3-1
 ナースコールで分娩室に行き産婦をベッドに挙げたところで地震。恐ろしくて震えそうなところ、産婦の恐怖に引きつった顔を見平静を取り戻す。産婦を勇気づける。余震の続く中、安全なうちに早めに分娩室へ運んだ。「母児の安全」を一番に考え行動した。

3-2
 宿舎の自室で寝ていたところ地震にあい部屋を飛び出した。下におりたところ病棟・患者の安否が頭をよぎりそのまま病棟へ向かう。患者は無事であり患者の夫も到着していた。夫は病院からの呼び出しがなかったらたんすの下敷きになっていたと言う。偶然とは思えない誕生に感動し、助産婦と言う職業のすばらしさを改めて感じた。

3-3
 病棟内の悲鳴で我に返り、棟内に放送を入れ陣痛室へ、1年目の助産婦が、泣き出してしまいながらもプライマリーナースががんばっていた。日々行っていた固定チーム継続受け持ち方式が役立ち、リーダーシップ、メンバーシップのの連係のとれた看護が行えた。


東海村核災害医療対応活動報告書

(原口義座、原口義座ほか編・ワークショップ:原子力災害に対する国際的医療対応のあり方、p.133-138, 2000)


【核災害での重要事項】

 サーベイの体制、除染、2次汚染の防止、精神面での対応

【住民健康診断】

目的
  1. 放射線とその健康影響についてある程度明らかにする
  2. 住民の不安の解消

手順

  1. 受付
  2. 最初の問診
  3. 採尿の指示、トイレ
  4. 尿を提出
  5. 採血
  6. 医師による問診
  7. 全身のサーベイ(希望者のみ)

検査項目

(血液生化学検査) GOT , GPT , BUN , Cr , BS , CRP , アミラーゼ
(血算) 赤血球数、血小板数、白血球数(分画数)
(尿検査) 一般
(放射線量測定) サーベイメーターによる被曝線量測定

健康調査従事者

(医師) 東京災害医療センター、広島・放影研、茨城県立こども病院、長崎赤十字病院ほか
(保健婦、臨床検査技師等) 広島・放影研、茨城県保健婦、東海村保健婦ほか

健康調査と放射線との関係
 地域(方向)、距離ごとに詳細な線量値が示されるまで待つこととなる。500m地点のγ線サーベイで4×10-2μSv/hr程度。これは1年で約0.04rad。バックグラウンド(自然放射線)レベルは1年で0.24rad。したがってγ線だけでいえばバックグラウンドレベルよりはるかに小さい値である。

【放射線関係の危機管理】

 核災害は、大事故になると、他の事故とは比べ物にならないくらい広い範囲・多くの人間・自然環境に長期的な影響を及ぼす可能性がある。また、2次災害防止の面からも派遣チーム自体の安全防御を十分に考慮する必要があり、具体的には以下のような準備をしなければならない。

  1. 放射能関連の事前準備体制
    • サーベイメーター、防御服、除染装置、除染用各種物品(クリーム類)など
    • ゴミ袋、文房具、ロープ、拡声器、放射線管理区域を示す標識、検体保存用各種容器、防水シートなど

  2. 放射線事故にかかわらず健康危機管理調整会議で装備品、推行品を常備しておく
    • 飲料水、食料、小型ラジオ(テレビ)、懐中電灯、携帯電話(+バッテリー)、紙製下着、洗面用具、携帯用小型折りたたみ椅子・机、可能であればモバイルパソコンなど

【考察:急性放射線障害の処置と治療】

1) 患者の処置

 放射性汚染のある被曝者の救助、搬送、初期治療の手順は、

  1. 事故現場から被曝のおそれのない場所に移す。
  2. サーベイメーターで被曝者身体の放射線汚染の範囲、程度を調べる。
  3. 汚染した衣服などは脱がせ、ビニール袋などに密封する。
  4. 可能ならば身体の汚染部位を石鹸と水で洗い流す。全身の汚染状況を性格に把握し、汚染度の高い所から除染を始める。あまり強くこすり、皮膚に創を作ると放射性物質が体内に摂取されることになるので注意する。ただし、被曝事故の際は、外傷、火傷などにより重症な場合もあり、その場合は後者の治療を優先する。
  5. これらの処置に当たるものは個人線量計を身につけ、処置終了後に被曝線量を測定する。

2) 救急処置室の設定

 放射性汚染のある被曝者が運ばれてくるとの連絡が入った場合、至急に対処するための体制をつくると同時に、被曝者を収容する特定の治療室を設定する必要がある。患者の搬入、治療に携わる者の出入りについても一定の方向に行い、汚染拡大を防止する。

3) 全身被曝に対する治療

 現在の医学において治療効果が期待できるのは、3?8Gy以下程度の被曝を受けた患者で、それ以下は処置しなくても問題なく、それ以上はいかなる治療法も功を奏さない。

I 群:1Gy以下程度の被曝(無症状群)

外来通院で経過観察を行う。

II 群:1〜3Gy程度の被曝(造血臓器障害の危険のある群)

 嘔気、嘔吐には制吐剤。汎血球減少症に対しては経過観察し、治療の必要が生じた場合は、輸血や抗生物質の投与を行う。

III 群:3〜8Gy程度の被曝(造血臓器障害必発群)

 この群は放置すれば死亡するが、治療により回復する可能性がある。治療の対象は、重症の骨髄抑制、消化管障害、二次性の腎、循環器障害である。被曝後直ちに入院させ、厳重に管理する。経静脈栄養により、カロリーと電解質を維持する。2?3週間後に骨髄抑制がみられたら患者の隔離と無菌操作を行い、抗生物質を経口的に投与する。汎血球減少に対しては、骨髄移植を行うが、効果の評価はまだ確定していない。消化管粘膜の障害が合併するため、食事は刺激の少ない吸収のよいものを与える。

IV 群:10Gy程度の被曝(消化管症状群)

 基本的にはV群と同じであるが、消化管症状が重症であり、胃チューブによる減圧、経静脈栄養と電解質バランスの維持、昇圧薬の使用に重点を置く。循環不全、腎不全が起こってくるが、人工透析は行っても効果がない。

V 群:数十Gy以上の被曝(中枢神経症状群)

 対症的に治療する。


鳥取県西部地震における岡山県基幹災害医療センターの対応と問題点

(石井史子ほか、日本集団災害医学会誌 6: 147, 2001)


 平成12年10月3日13時30分に鳥取県西部を震源とするマグニチュード7.3、震度6強の 地震が発生した。この地震において、岡山県の基幹災害医療センターである岡山赤十字病院 の対応を報告し、問題点について考察を加える。併せて、その問題点の解決に向けての 岡山県の対策を報告する。

地震発生後の経過

13:30 鳥取県西部に震度6強の地震発生。
13:35 岡山赤十字病院に災害対策本部を設置。医療救護班第1班出動待機命令
13:40 岡山県下災害拠点6病院(川崎医科大学、津山中央病院、倉敷中央病院、
    岡山済生会総合病院、落合病院、大杉病院)へ有線電話(NTT)で連絡す
    るも不通。
14:30 県より鳥取県庁の情報として「被災地からの情報少なく、まず鳥取赤十字
    病院に向かって欲しい」との連絡あり。
14:40 医療救護班第1班出動。
14:50 岡山県災害対策本部設置。有線電話は依然不通。
16:45 鳥取県から「被害は小さい」との連絡が岡山県に入る。岡山日赤病院医療救
    護班待機解除。
17:10 岡山赤十字病院災害対策本部解散。

本事例を通じて明かになった問題点

1.情報の集積と活用
 情報が入らず判断が難しい局面があった。地元の消防からの被災情報が 県や災害基幹病院に伝わらなかった。関連部署の連絡体制を日頃から 確認しておくこと、また集まった情報を収集・分析し、有効に活用する ためにどうするかを日頃から考えておく必要がある。

2.複数の通信手段の確保
 通常のNTTの電話回線は通じなかった。県や災害拠点病院間の情報のやりとり について、無線システムや衛星携帯電話を再構築する必要がある。

3.その他
 関連各部署の初動時の意志の統一が得られていなかった。更に、どの組織であれ、 「上部組織(責任者)からの指示がないと動けない」ということが初動では問題となる。 したがって、責任者は一人ではなく複数(但し順位は決めて)必要である。

鳥取県西部地震後の対応

A.災害医療体制構築に関わる連絡会議(岡山県)

1)集団災害発生時に県災害医療本部が立ち上がるまでの初動体制

  1. 地域の消防本部は医療救護班派遣の必要性がある時は、県及び岡山赤十字病院へ連絡
  2. 地域の医療機関は、圏域内の地域災害医療センターにその派遣要請を連絡
  3. 岡山赤十字病院は地域災害医療センターと派遣についての調整を行う
  4. 現場に救護班派遣
  5. トリア-ジ後、重症群を地域災害医療センターに搬送。対応できない場合は岡山 赤十字病院が他の災害医療センターと連携し、重症群を圏域外の搬送
  6. 岡山赤十字病院は県へ報告。
  7. 県災害医療本部設置後は、災害拠点病院はその指揮に従う。

2)情報伝達手段
 NTT回線が不通となった場合の情報伝達手段については、既にある県防災行政 通信ネットワークを各災害拠点病院、県医師会に設置する。これによって、 災害拠点病院間、行政(保健所、市町村)、消防本部および県医師会などにおいて、 各機関の内線電話から相互に通信可能となった。また、今回同様無線の活用は 有用である。

3)災害医療コーディネーター
 岡山赤十字病院と川崎医科大学附属病院(ドクターヘリを運行)を指名。

B.岡山赤十字病院における指揮命令系統について

 災害医療は国の責任で行われるが、その実施については 都道府県知事に委任されている。しかし、阪神・淡路大震災を教訓として、 即刻救護班活動の必要がある場合は指示を得たものとして出動できることとなった。 従って、国、県、日赤、日赤県支部からの指示で出動可能である。

今後の課題

 情報の集積と活用のための対策強化、休日・夜間の対応、病院自体が被災 した場合の対応、拠点病院やコーディネーターの権限確認、都道府県域を超えた 連携のための合意、広域災害・救急医療情報システムの活用などが 問題点として挙げられる。各問題点について検討、協議していく予定である。


自衛隊の災害派遣(医療支援)に関するアンケート調査結果
―災害拠点病院について―

(桑原紀之ほか、日本集団災害医学会誌 6: 105, 2001)


○目的

 各医療機関が自衛隊の衛生部門にどの程度の能力があり、どのように運用できるのかを認知させる。多機関が共同で行う災害救助活動を効果的に実施し、広く国民に寄与する。

○方法

 都道府県(政令指定都市)・保健所・国立病院・日赤病院・市区町・全国520の災害拠点病院に対し、小冊子『自衛隊の災害派遣(医療支援)』とアンケート用紙を配布・調査依頼し、災害拠点病院と自治体・国立病院・日赤病院との差を比較検討した。

○結果

 アンケート回収率は61.3%。

1. 災害時の自衛隊医療活動について(質問1および2)

2. 知事などからの要請の必要性と具体的要請手続きの理解度(質問3および4)

3. 自衛隊衛生への期待度(質問5〜7)

4. 防災訓練への参加(質問8〜10)

5. 自衛隊との連携強化の必要性事項(複数回答、質問11および12)

○ 考察

 災害拠点病院とは、「阪神・淡路大震災を契機とした災害医療体制のあり方に関する研究会」の報告を踏まえ、旧厚生省が平成8年5月に各都道府県知事に対し、「災害時における初期救急医療体制の充実強化について」の通知を出し、整備されたものである。この病院の要件と運営方針は以下のとおりである。

  1. 24時間緊急対応可能な体制の確保
  2. 災害発生時に、被災地からの傷病者の受け入れ拠点となること
  3. 災害発生時には、消防機関(緊急援助隊)と連携した医療救護班の派遣体制の確保
  4. 航空法上の基準を満たすヘリコプター離着陸場を有すること
  5. ヘリコプター搬送に同乗医師の派遣ができること
  6. 医療救護チームの派遣に必要な医療資機材を備え、地域の医療機関への応急資機材の貸し出し機能を有すること

 この病院の機能上、災害時などには自衛隊と連携して医療活動を行うことが他の病院に比べかなり多いと考えられる。しかし、現状では災害拠点病院が自衛隊との共同訓練を自治体ほどには実施しておらず、自衛隊出動要請方法をよく知っているとはいえない状況であり、災害発生時にその機能を十分に発揮できるか疑問に思う。災害拠点病院は、他の機関(都道府県・市区・町など)と同様に自衛隊の必要性を認めているので、自衛隊との連携がスムーズになっていない現在、災害拠点病院側の努力不足といわれてもしかたないと思われる。今後、災害拠点病院が自衛隊との災害時の連携を強め、国民のために十分な機能を発揮できるようになってもらいたい。


☆参考:アンケート内容

質問1 自衛隊派遣において、救護所の設置や伝染病管理などの医療支援があることを知ってますか?

質問2 自衛隊の医療支援に関心がありますか?

質問3 都道府県の機関の要求でしか自衛隊の医療支援を得られないことを知ってますか?

質問4 自衛隊の支援の要請方法を具体的に知ってますか?

質問5 災害時に自衛隊の医療支援を望みますか?

質問6 自衛隊の医療支援にはどんなものを望みますか?

質問7 要請からどのくらいの時間で自衛隊医療支援の到着を望みますか?

質問8 自分の機関の職員は、自分たちの地域の防災訓練に参加したことがありますか?

質問9 自衛隊が自分の地域の災害救援活動を行ったことがありますか?

質問10 自衛隊は活動としてどんなことをしましたか?

質問11 自分の機関と自衛隊がともに活動することが必要だと思いますか?

質問12 自分の機関と自衛隊とのより一層の連携強化に、何が必要だと思いますか?

質問13 災害救援時に自分の機関のマニュアルがありますか?

質問14 他の機関とともに活動するとき、マニュアルがありますか?


トリアージの実務

(東京都衛生局医療計画部医療対策課、災害時医療救護活動マニュアル、社会福祉法人 東京コロニー、1996、p.72-79)


 トリアージとは、災害発生時などに多数の傷病者が発生した場合に、傷病の緊急度や程度に応じ、適切な搬送・治療を行うことである。災害発生時の医療救護に当たって留意すべきこととして、現存する限られた医療スタッフや、現存する医薬品などの医療機能を最大限に活用して、可能な限り多数の傷病者治療をすることが必要であるが、そのためにトリアージは欠かせないと言える。

(トリアージの実施方法)

1) トリアージの実施場所

  1. 災害発生現場…望ましい場所としては、ある程度の広さが確保でき、安全で、医療救護所に隣接している場所が適当
  2. 緊急搬送のための車内
  3. 病院などの入口…院内での混乱を避けるために、病院等の玄関付近にトリアージエリアを設け、患者の院内への殺到を避けることが必要

2) トリアージ実施上の指揮・命令系統

  1. 災害発生現場での対応
    救急救命士等や医療救護班などの医師が協力して必要なトリアージを行うが、その際には指揮命令系統を明確にし、円滑な医療救護活動を行うように努める。

  2. 病院等での対応
    あらかじめ、トリアージ実施責任者及び責任者不在時の代理者について決定しておく。

3)トリアージの実施基準
 以下の表のように分類し、識別表(トリアージタッグ)をつける。

分類順位識別色症状の状態等
最優先治療群
(重症群)
第1順位赤色生命を救うため、直ちに処置を必要とするもの。窒息、多量の出血、ショックの危険のあるもの。
待機的治療群
(中等症群)
第2順位黄色ア 多少治療の時間が遅れても、生命には危険がないもの。
イ 基本的には、バイタルが安定しているもの。
保留群
(軽症群)
第3順位緑色上記以外の軽易な傷病で、ほとんど専門医の治療を必要としないものなど。
死亡群第4順位黒色すでに死亡しているもの、または明らかに即死状態であり、心肺蘇生を施しても蘇生可能性のないもの。

4)トリアージの実施方法

 トリアージは一回だけで終わるのではなく、災害発生現場への医師到着後、あるいは病院に到着後など必要に応じて繰り返し実施する。その際トリアージに要する時間は、傷病者数と症状の程度等により異なるが、一人当たり数十秒から数分程度の短時間で終わらせる。

 トリアージタッグは原則として、右手首関節部に付けるが、その部分が負傷している場合には、左手首関節部、右足関節部、左足関節部あるいは首の順で、つける部位を変える。

5)実施上の留意事項

(傷病者の家族などへの情報提供)

1) 症状の説明

 トリアージの結果について、傷病者及びその家族が納得できない場合も生じるが災害 時のトリアージの必要性や制約された医療環境に対する理解を求める必要がある。また、トリアージの時に、傷病者の状態に応じて対応を考慮する必要がある。

2) 搬送先医療機関


第3章 ハリケーン「ミッチ」―ハリケーン災害の分析

(国際赤十字赤新月社連合 世界災害報告 2000年版、p.42-54)


 「ミッチ」は1998年10月に中央アメリカを襲ったハリケーンである。その豪雨は、特にホンジュラスとニカラグア北西部に大打撃をもたらし、地滑りや洪水で約1万人が死亡した。ジャマイカとパナマの中間 地点のカリブ海南西部で発生し、暖かい海水からエネルギーを得てハリケーンに成長した。「ミッチ」の中心気圧は20世紀に大西洋上で発生したハリケーンの中で4番目に低い905ミリバールまで下がり、最大風速は時速290km(秒速72メートル)であった。この事例では、ハリケーンの勢力と陸上通過した際の進路の両方に問題があった。異常気象によりこれまでと異なった進路を通った為に予想が出来ない被害が起こったのである。また、ハリケーンの巨大さやその進路だけでなく、気象学上の災害以上の被害をもたらしたと考えられる。近代化と自然の猛威との軋轢、すなわち異常気象の打撃,環境悪化,貧困,人工増加,社会的不平等,対外債務,不平等な貿易が複合作用して発生した、「人災」であった。ここではこの「人災」について、具体的な例をあげて検証し、その問題点と災害時の救急医療について考察する。

1.川の氾濫

 ホンジュラスの山岳地帯の川は、狭い、時として曲がりくねった谷を流れて下る。「ミッチ」の時、水分が飽和状態にある山を下った鉄砲水は、増水を引き起こし、水量は通常の何百倍にもなった。大量の岩石や砂泥が一緒に流れた。ダムや道路の建設,森林伐採等による保水力の低下、それに加えて産業廃棄物の投棄,採鉱,貧弱な農業技術などが、洪水による被害をさらに大きなものにした。

2.地滑り

 「ミッチ」による雨は、急激に土壌の含水量を増大させ、土は泥となり下方へ向かって流出した。地滑りの数はホンジュラスだけで100万件以上あったとされる。地滑りの多くは大規模であった。しかし、時として致命的であったのは小規模の地滑りである。大規模の深い地滑りは分速数メートルで移動するが、小規模なものは時速kmもの速さで動いた。このため人々は逃げる時間がなかったのである。多くの地滑りは、昔起こった地滑りの再発であり、また残りのものは堤防の決壊による洪水でひきおこされた。ホンジュラスでは何万人もの人々が地滑りの影におびえて生活しているが、ほとんどの山腹地帯では危険度の査定評価さえされていない。この稚拙な治水と認識の甘さ、その根底にある経済状況が被害を拡大したといえよう。

 異常の2つを考える上で、農業・工業と建設の方法、農業経営のあり方が重要である。植物による覆いが土壌を保護し、それに対して剥き出しになっている土壌は被害を受けやすい。この地方では焼畑農業が行われている事が多く、そのため洪水の被害が増大した。また、大規模なバナナ農園の開発などにより多くの道路が建設されているが、これらの道は丘陵途中に人工的な「棚」を作ることによって建設されているのであるが、これにより道の上下の斜面が更に険しくなり、道の外側のへりが崩れるという結果になった。農園へのダメージは、農場が荒廃したというだけでなく、農場への交通の遮断でより一層深刻となった。道と同じに橋も流されていることがほとんどであった為、復旧に時間がかかり、農場は大量の解雇者を出すという事態になった。貧困はさらに進み、経済の回復は絶望的となっていった。そういう環境の中で、最も懸念されるのは知的開発の損失である。他国や様々な機関からの援助のもとで復興事業が展開されたが、このような状況の中ではそれは「贅沢」とされてしまうのである。社会問題は後手に回り、地方の上水道計画は都市の下水道建設よりも後回しにされる。そうなると結果として地方から都市への人工の流入が爆発的に起こり、川辺や急斜面にスラム街がさらに増える事が考えられる。「上意下達」の考え方を再建と復旧に不可欠である長期的視野に立つ「下から上へ」の考えに変換するタイミングが重要であることは間違いない。

 災害時における医療の重要性は誰もが認めるところである。今回も怪我の治療はもちろんのこと、その貧困と人口の過密による不衛生と感染症対策、特に伝染病対策は必須の課題であった。しかし、医療活動はその社会的基盤があってその真価を発揮する。情報網の整備、交通の整備による物資輸送、知的レベルの向上による衛生に対する正しい知識など、政治的社会的な基盤が、災害による被害をを最小限に食い止めるのである。このことをふまえ、再建と復旧のために必要なことは何かということを救援活動と同時に考えることが重要であり、そのことが、地球に対する「医療行為」へとつながるのではないであろうか。


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