災害医学・抄読会 2002/01/18

Part 5 過去の地震被害と将来の被害予測(下)

(竹内 均、迫り来る巨大地震 Newton別冊、2001年2月10日号、p.132-145)


今回四国4県について、各自治体は地震防災対策の一環として、いくつかの地震を想定して、それが発生したときにどのような被害をもたらすかについての被害想定調査について紹介する。なお、各自治体の被害想定調査で設定されている地震は防災対策を考えるうえでのモデルケースとして考えられているケースが多い。実際にその地震がおきるかどうかとは関係ない。

〈徳島県〉

 徳島県では、県に大きな災害をもたらす恐れのある3つのケースについて、地震を想定した。

 このうち三つでは、想定地震2がもっとも大きな被害が予想されている。想定地震2では震度5から7が予想されている。木造建物全壊6万4308棟、半壊4万4655棟、出火2713棟、焼失棟数8108棟、死者6000人あまりなどと言った想定結果になっている。

〈香川県〉

 香川県では、県に大きな災害をもたらす恐れのある3つのケースについて、地震を想定した。

 このうち三つでは、想定地震3がもっとも大きな被害が予想されている。想定地震3では県内の震度が5から7が予想されている。長尾断層に近い平野部と引田町沿岸部では震度7になると予想された。建物全壊8万棟、半壊14万棟、県内全体で出火340件、死者6692人、負傷者3万6188人あまりなどと言った想定結果になっている。想定した震源に近い高松市での死者が全体の62.5%にあたる4184人、負傷者が全体の43.3%にあたる1万5690人と予想されている。

〈高知県〉

 高知県の沖合いには、駿河湾南方から四国西端にかけて横たわる南海トラフが存在する。南海トラフはフィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界にあたる。南海トラフの紀伊半島沖から四国沖を震源とする南海地震は100年から150年間隔で発生する巨大地震である。これまでの高知県は南海地震を中心とする海洋型地震のゆれや津波によって大きな被害を受けてきた。

 過去に被害をもたらしたおもな海洋型地震には1707年の宝永地震M8.4、1854年の安政南海地震M8.4、1946年の南海地震M8.0などがある。いずれもM8クラスの巨大地震である。

 1946年の南海地震を最後に、南海道から東海道沖では海洋型の巨大地震は発生していない。高知県の報告書には、次の南海地震は、「21世紀の中ごろまでには発生することを考えておかなければならない」と記されている。

 高知県では、南海トラフ上で発生するM8クラスの地震を設定して地震動による被害想定を行っている。発生時刻は冬の夕方としている。

 この地震による最大震度は7で県全体が震度4以上のゆれにみまわれる。死者1433人、負傷者は6374人である。建物の被害は火災の発生件数が231件で、7360棟が焼失する。全壊が9954棟、半壊が3万4953棟と想定されている。

〈愛媛県〉

 愛媛県では、南海トラフ沿いの地震によって被害を受けたことがある。1707年の宝永地震M8.4では、死者12人、負傷者24人など、1854年の安政南海地震では死者2人などの被害があった。1946年の南海地震では死者26人、負傷者32人、住宅の全半壊580棟などの被害があった。

 県内には東西に中央構造線が走っている。中央構造線は活断層であるが、それによる被害地震は記録に無い。また中央構造線以外に県内には活断層は見つかっていない。なお愛媛県では、地震被害想定調査を行っていない(雑誌発行現在)。


第III章 現場トリアージ、1.現場におけるトリアージ

(山本保博ほか監修、トリアージ、荘道社、東京、1999、p.48-58)


1)現場救護所の定義

 現場救護所はcollecting areaとAMP(Advance Medical Post)からなる。collecting areaとは大災害発生時、被災傷病者が集められる場所ことである。また、AMPとはその傷病者が搬送される施設、即ち災害現場に近接した重症患者に対する医療行為を行える医療機材が準備された施設のことで、トリアージとstabilizationが行われる。AMPは被災地のすぐ近くに設営し、この入口でトリアージを行い、緊急治療群(赤)の傷病者はこのAMPで応急処置を行い、準緊急治療群(黄)の状態にして、その後病院へ搬送する。このAMPの特徴は、1)stabilizationを目的とした積極的な医療を行うこと、2)AMPのトリアージポストからすぐ病院へ搬送するのは、緊急手術のみ救命可能と判断された緊急治療群(赤)の傷病者とする、というところにある。

2)現場救護所の目的と役割

 目的:限られた人員、医療資機材を用いて最大限の救命を行う。

 役割:3つのT――Triage,Treatment,Transportation

  1. 傷病者のトリアージ
  2. 重傷者のstabilization
  3. 後方搬送のための準備

3)現場救護所設置場所の選択

  1. 二次災害の危険のない場所
  2. 搬送のための道路の直接アクセスできる場所
  3. 広くて、できるだけ平坦な場所(ヘリコプター離着陸可能なスペースがあると望ましい)
  4. 皆が良く知っており、連絡がとりやすい場所
  5. 道路が複数(2車線以上)確保できる場所(道路が二次災害などで破壊されたとき、他の道路が利用可能であるため)

4)現場救護所の構造

  1. トリアージ部門

    • 入口は原則として1ヶ所とし、傷病者は必ずこの場所を通過させる。
    • 同時に2名の傷病者を通過させない。
    • 傷病者の流れは一方向とする。

  2. 治療部門

    • 緊急、非緊急部門の2つに分ける。
    • 緊急部門は搬送部門に近接させる。
    • 広さは緊急部>非緊急部とする。

  3. 搬送部門

  4. 搬送のための車の流れは一方向とする(図)

5)現場救護所での人員配置

 各部門のチームリーダーを決定する。

 A.トリアージ部門

(1)緊急部門(2)非緊急部門
  1. トリアージ担当者(最も経験のある医師1名)
  2. アシスタント(トリアージ担当者の記録係も最低1名)
  3. 登録業務のため事務員
  1. トリアージ担当者
  2. アシスタント
  3. 登録業務のため事務員

 B.治療部門

 (1)緊急治療部門

  1. 緊急治療部門管理担当者

    • 指揮者との連絡、各治療部門への物資の供給、他の部門との調整、通信手段の手配を行う。

  2. トリアージ(赤)治療部

    • チームリーダー
    • アシスタント
    • 搬送担当者

  3. トリアージ(黄)治療部

    • チームリーダー
    • アシスタント
    • 搬送担当者

(2)非緊急治療部門

  1. トリアージ(緑)治療部

    • チームリーダー
    • アシスタント
    • 搬送担当者

  2. 遺体安置部門

    • 医療従事者は必要ではなく、場合によっては警察に管理してもらう。

 C.搬送部門

  1. チームリーダー
    • 傷病者の状態が安定しているかの再評価を行うとともに、全体の流れを監督し、付き添いが必要ならば用意する。
  2. 事務員
  3. 搬送担当者


第3章 被災地外の医療救護班活動マニュアル

(東京都衛生局医療計画部医療対策課、災害時医療救護活動マニュアル、社会福祉法人 東京コロニー、1996、p.42-48)


  大規模な災害が起こった時、被災地の医療機関のみでは被災者の救援は難しい。今回は東京都のマニュアルを参考に、被災地外の医療支援体制についてまとめた。

I.準備

(1)応援医療救護班の確保

(2)医薬品、医療資器材および食料等の準備

(3)応援医療救護班の服装

II.出動要請

(1)発災後の出動要請

 出動要請は原則的に都が行い――
  a)被災地域の区市町村から要請があった場合
  b)被害が甚大で、被災地域内の応援医療救護活動が必要であると、都が判断した場合
――において、防災行政無線等により行う。また、各機関に対する出動要請は原則的にそれぞれの 所属長等の指揮者を経由して依頼する。

(2)出動要請の方法

  出動要請には「出動待機」及び「出動」の2種類とする。
「出動待機」:以下のときに行う

  1. 警戒宣言が発令されたとき
  2. 都内において大規模な災害が発生したが、被害状況などが不明であるとき
  3. 災害発生の危険があり、医療救護班の応援が必要と判断したとき
    「出動」:一時に多数の負傷者が発生し、医療救護活動を緊急に必要とする場合に行う。

(3)出動要請の際の留意事項

III.災害現場等での応急医療救護の実施

 災害発生直後から3日以内の現場等での対応は以下の事を主に行う。

(1)トリアージの実施
(2)応急処置の実施
(3)重症患者の搬送
(4)カルテの作成

IV.避難所等での応援医療救護の実施

 被災から概ね3日経過した後は、避難所での医療救護が中心となる。医療救護所は原則として500人以上の避難所や二次避難所に設置される。活動時間は24時間体制とし、経過観察や患者の一時収容などを行う。

V.引継ぎ

 指示された派遣期間を終了した場合は、次期医療救護班へ、必要事項を引き継がなければならない。


放射線災害対策への取り組みの経験

(篠原照彦、原口義座ほか編・ワークショップ:原子力災害に対する国際的医療対応のあり方、p.85-104, 2000)


【環境モニタリング】

 中性子線測定器の設置がなかった。

 評価と情報管理に乱れがあった。正しい情報を正しく発表する機関があれば、パニックや風評被害も小さくて済んだのではないだろうか。

【住民の屋内退避と避難】

 「350m以内は屋内退避」の指示が出て、仕事から原発地近くの家に帰り、かえって被爆が増えた人もいた。

 関係機関の設立が大幅に遅れ、最も必要な時期の勧告・指示が大きく遅れた。また、行動調査がすぐには行われなかった。

【臨界終息の努力】

 「放射線源の封じ込め作業」は、事業者の当然の責務だが、事業者に努力のあとがなく、あったとしても不可能であったと思われる。

【高線量被爆者の初期対応】

 所員は警報機がなって事故を知り、転換棟で被災者の痙攣する様子を見て「癲癇発作」と早合点した。

【情報不足とそれに基づく対応からくる誤解や誤報】

 傷病人がいるといわれて急行した救急隊員に原子力災害緊急時医療の知識がなかった。隊員が連絡した原子力研究所も対応を知らなかった。

【原子力災害時医療】

1)第一次緊急医療

 救護所がこれにあたるが、事故発生直後に発生した医療に対する対応を行う厚生省系列の保健福祉部、保健予防課は訓練などを行っていなかった。

2)第二次緊急医療

 茨城県原子力医療センターがこれにあたることになっている。

 特色ある装置としてガンマ線測定装置などを備えており、放射線関係職員は24時間態勢で対応し、測定機器類も常時使用可能の状態であった。

3)第三次緊急時医療

 国の放射線障害専門病院(放医研)に依頼するが、国の方針は原発中心であり、それ以外の原子力施設の多数ある現在、この方針は疑問である。

【周辺の環境変化】

 原子力施設を誘致した時代には、基本的に人口の少ない地域に設置されていたが、原子力施設ができてから東海村に移ってきた住民も多く、人口は原子力施設ができる前の3倍になっていた。

【防災行政の混乱】

 今回の事故では科学技術庁長官を本部長とする「事故対策本部」と首相を本部長とする「政府対策本部」が作られ、制度上の混乱が見られた。「原子力災害特別措置法」では初期動作の迅速化が図られている。

【関係機関との連携】

 指示を出す組織・機関が多く、指示を受ける現地ではその内容に乱れが多かった。新法では国と現地対策本部の連携を強めるために「原子力災害合同対策協議会」を設置することになっている。

【線量評価に対する不安】

 科学技術庁が発表した値と他の関係者の発表した値に矛盾が見られ、線量評価に対する信頼性が失われた。

【緊急被爆医療】

 話題が緊急被爆医療に及ぶと高線量被爆者が中心となるが、今後のことを考えたときには周辺住民の低線量被爆者の問題を考慮すべきであると思われる。

【事故後の各省庁等の整備の動き】

  1. 国立病院に無菌室などの整備が進んでいる。

  2. 原発県である茨城県にホールボデイカウンターの予算が計上された。

  3. 茨城県医師会はプロジェクト委員会を作り、原子力災害緊急医療の対応を検討している。

  4. 支援・研修センターが科学技術庁の予算で検討に入っている。

  5. 原子力災害特別措置法が発効した。

  6. 防災基本計画原子力災害対策編が改定され、医療に関しては放射線障害専門病院を大学病院や国 立病院にまで広げた。

【原子力災害包括医療】

 施設によって事故は違ってくるはずで、どの施設にどのような事故が起こりうるかを良く検討 し、その対応を考えるべきである。全国一律の整備には疑問が残る。


健康調査結果(第3次〜第7次)―サリン中毒の長期的影響について―

(関島良樹、松本市の保健衛生 vol.22 別冊、2000、p.36-41)


概要

 これまでにサリンの人体に対する長期的な影響の報告はないことから、急性期以後も定期的に アンケート調査および健康診断を行い、被災者の健康に対する影響を検討しています。本稿では 松本サリン事件発生1年後、1年8カ月後、2年8ヶ月後、3年8ヶ月後、4年8ヵ月後に信州 大学医学部付属病院において施行した健康診断の結果を報告しています。

調査方法

 被災者の中で急性期に縮瞳あるいはChEの低下を認めたもの、健康診断の希望者を対象にし ている。

 *急性期の重傷度の判定を次のように行っている。

 健康診断の内容は問診、内科的診察、神経学的診察、眼科学的検査を前受診者に行い、 必要に応じて血液検査、心電図、ホルター心電図、脳波、神経伝導速度、単純X線撮影、CT、MRIなどを施行した。

 *健康診断の結果判定は次のように分類している。

A判定:中毒事故と関連する異常なし。
B判定:診察、検査結果に異常を認めるが、中毒との関連は低いもの。
C判定:中毒と関連している疑いのある異常あり。

結果

健康診断 対象者 受診者 異常者(判定C)
第3次(1年) 154 72
第4次(1年8ヶ月) 121 29
第5次(2年8ヶ月) 87 31
第6次(3年8ヶ月) 15 10
第7次(4年8ヶ月) 17 15
合計  107 12

 複数回健康診断を受診している被災者を含んでいるので重複を差し引くとこれら5回の健康診断を受診した住民は合計で107名この内サリン曝露との関連が疑われる異常所見を認めた受信者は12名であった。


表.急性期の重症度と慢性期の異常所見との関連

重症度 受診者 異常者 異常所見の内容
軽症 74 PTSD (4)
中等症 27 求心性視野狭窄(1)、PTSD(4)
重症 脳波異常(4)、末梢神経障害(1) 心室性期外収縮(1)、 心筋障害(1)、低酸素血症(1) 微熱(1)、網膜感度の低下(1) 外傷後ストレス障害(1)
合計10712 


 軽症例は74名で4名にPTSDを認めた、中等症例は27名でPTSDと求心性視野狭 窄をそれぞれ1名認め重症例6例全員に異常を認めた。以上から身体的な異常所 見(後遺症)は、急性期の曝露量に相関していることが 明らかではあるが、異常所見の内容が均一ではなく個体差 や低酸素状態などの影響も考えられる。PTSDは急 性期の重症度とは相関せず、被災者の性格や生活環境の影響をうける。

個々の後遺症についての考察

1)中枢神経系

 被災1年後以降に急性期の重症者6名中4名と高頻度にてんかん性の脳波異常を認めた。しかし、その後の経過観察で2年8ヶ月以降に正常化する症例が認められるようになり、4年8ヶ月後の時点では4名中3名の脳波が正常化していた。文献的にも動物実験でサリンによる長期的な脳波への影響が報告されており、GABAレセプターに対する直接毒性や急性期の低酸素状態による影響の可能性が機序として考えられる。

2)末梢神経系

 末梢神経系では、急性期に入院患者の約40%に手足のしびれが一過性に出現した。この痺れは全例で改善したが、これとは別に1重症例で被災7ヶ月後から四肢遠位部のしびれが出現した。

3)循環器系

 循環器系では、多原性の心室性期外収縮1重症例で被災直後から認められ4年8ヶ月の時点でも改善を認められなかった。文献的には有機リン系の農薬による心室性不整脈及び心筋障害が報告されており、その機序として、kチャネルの障害、Na/KATPaseの抑制、心筋の壊死などの心筋細胞への直接障害、および低酸素状態による心筋の障害が考えられている。

4)呼吸器系

 有機リン中毒では、遷延性の呼吸器障害がintermediate syndromeとしてしられている。Intermediate syndromeは有機リン中毒の約7%に発生すると報告されており、neuromuscular junctionのpostsynaptic blockが原因と考えられている。

5)精神系

 今回の健康診断受診者の中では、PTSDと考えられる症例が6名存在した。PTSDはサリン中毒の重症度との関連はそれほど認められず、個人の性格や生活環境の影響が大きいと考えられた。

まとめ

 健康診断の受診者は全員が社会生活に復帰しており、重篤な後遺症を有する者は認めなかった。しかし、特に急性期のChEが正常下限の25%未満であった重症の被災者では、脳波異常、末梢神経障害、心室性期外収縮、心筋障害、低酸素血症、発熱などの異常所見が長期間持続しており、これらの被災者については今後も個別に経過観察を行う必要がある。


第2章 緊急災害広聴の推進

(地震防災対策研究会、自主防災組織のための大規模地震時の避難生活マニュアル、(株)ぎょうせい、東京、1999, pp.277-289)


 大規模地震が発生すると、家族や身内を失った悲しみに打ちひしがれる、地震で受けた衝撃や余震への恐怖により心の傷を負う、生活の基本である家や財産をなくす、勤務先の被災により失業に追い込まれる、生活再建への不安を訴えるなど、被災者の多くが身体的にも精神的にも大きな苦難に直面する。

 こうした状況に対応し、被災者の抱える生活上の不安、悩み等の相談、照会、要望、苦情等に応じる緊急災害広聴の推進のあり方については、以下のとおりである。

緊急災害広聴の基本的考え方

 発災直後からの緊急災害広聴については、以下のような基本的考え方に従って、市町村等が広聴計画を策定し、自主防災組織と協力して推進することになる。

(1) 緊急災害広聴の目標

ア 緊急災害広聴の基本目標

イ 災害広聴の行動目標

 上記のような基本目標に資するための緊急災害広聴自体の行動目標としては、例えば、次のようなことがあげられる。

(2) 広聴事項及び方策の基本方向

 上記の目標を達成するための広聴事項及び方策の基本方向については、次のとおりである。

(3) 発災直後からの段階別の広聴の基本方向

 被災者の広聴に関するニーズは、発災直後の初動期、発災直後の避難所運営組織確立期、避難生活長期化と段階的に応じて変化していく。このようなニーズに応じた緊急災害の広聴を推進する必要がある。

  1. 発災直後からの初動期における救助要請、余震情報等に関する広聴

    • 救助の要請に関すること
    • 余震に関すること
    • 避難場所等に関すること

  2. 発災直後の避難所運営組織確立期における安否の確認、救援物資の要請等に関する広聴

    • 避難所の開設状況に関すること
    • 被災者の安否確認に関すること
    • 救援物資の配布に関すること

  3. 避難生活長期化後の生活再建等に関する広聴

    • 各種貸付・融資制度に関すること
    • 借地・借家関係などの法律に関すること
    • 登記手続きなどの土地・建物の登記相談に関すること
    • 減免等の税務相談に関すること
    • 雇用保険などの社会保険に関する相談に関すること
    • 住宅の応急修繕相談に関すること
    • 仮設住宅又は公営住宅への入居相談に関すること
    • 長期収容施設への入居相談に関すること

(4) 緊急災害広聴の実施体制の整備

ア 市町村等の災害対策本部の広聴専属本部班の設置

 大規模地震時に緊急災害広聴に関する事務を適切かつ能率的に遂行するため、市町村等の災害対策本部に緊急災害広聴に関する事務を総括する広聴専属班を設置して対応する。

○ 広聴専属班の所掌事務の例

イ 自主防災組織との間の緊急災害広聴協力体制の整備

 上記のような緊急災害広聴のための相談窓口事務等を適切かつ能率的に遂行するためには、相談窓口等の開設に関する情報が相談等を求める被災者に的確に伝達されることが必要である。このため、日頃から市町村等と自主防災組織とが協力し、情報伝達体制の整備を図ることも必要である。


第8章 国際災害援助法の制定を目指して

(世界災害報告 2000年版、p.144-157)


 トルコ大地震、インドのサイクロン、ベネズエラやモザンビークの大洪水など、より多くの人々が自然災害や技術災害に巻き込まれることになり、各国政府その他の救援機関による災害救助は限界を超えるまでに活動している。しかし、この分野における国際法の整備に関しては、そうした難題に立ち向かおうとする人道的努力に追いついていないのが現状である。

(1)国際法−なぜ重要なのか

 災害救援活動は手続き上の混乱及び救援要員・機材・物資の効果的な配備を難しくするような政策によってしばしば妨げられている。国境を超えた救援を迅速かつ建設的に実施することを義務付け、指針を与えるような法律が存在していれば、もっと多くの人命を救うことができ、さらなる発展が必要な法の弱点や見解相違を確認するための枠組みが与えられることになる。

(2)国際法と災害支援

 自然災害や技術災害に対する国際的な人道支援に関する規則やガイドラインは、長年の間にいくつかは形作られてきたものの、それらを広範に規定する法に類するものは存在しない。1990年代にはいくつかの組織的進展があった。国連総会は1990年から2000年を国際防災の10年と宣言し、災害に対応する国連人権問題調整事務所が設置された。現在進められているスフィア・プロジェクトでは何百という機関を巻き込んで、災害救援について専門的な最低実施基準を確立しようとしている。

(3)スフィアプロジェクト(人道憲章と災害援助に関する最低基準の策定プロジェクト)について

 被災者の生命と尊厳をシステムとして保護できなかった状況を改善することを最重要な目標としている。これにより各援助機関は共同で活動の質を高め、法的な人道責任について各国政府に主張できるようになる。水と衛生、栄養、食料援助、避難所とその場所の選定、保健医療の主要5分野において、人道原則と基本的人権に基づいて合意された最低基準を設定している。

(4)国際救援法

 国際災害援助法はまとまりのない多くの規則や法規を系統だった形にしていくための概念的枠組みとして提唱された。具体的形態についての考えや議論は多様なレベルで進められている。

*さらなる法的発展が求められる問題

(5)まとめ

 21世紀の幕開けにあたり、国際災害援助法への一貫したアプローチは20世紀初めにおける状況から余り前進してはいない。我々の災害救援能力はたとえ自然災害と技術災害が地球上のさらに遠く広範に及ぶまで広がっても、向上している。強力かつ新たな災害救援に関する国際法が、地球社会への貢献の1つとしてみなされるべきだろう。


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