災害医学・抄読会 2001/12/21

Part 3 火災:ワーストケース

(竹内 均、迫り来る巨大地震 Newton別冊、2001年2月10日号、p.48-75)


【はじめに】

  巨大地震が大都市を襲った時、家屋の倒壊や鉄道の脱線、高架橋の落下のような物理的な被害が起きる。しかしこれらによる被害には限度があり、実際に最悪の被害をもたらすものは火災である。火災による被害の大きさは、1)風の強さなどの気象条件、2)地震発生の時間帯、3)人口、建物、交通の密度、4)工場の数、などにより全く異なってくる可能性がある。したがって、今回は阪神淡路大震災のケースを元に、地震による火災のワーストケースの想定を行った。

【1995年阪神淡路大震災の状況】

発生部位:震度7…神戸市須磨区〜東灘区、芦屋市、西宮市にかけて。
発生時間:午前5時46分
気象条件:冬(1月11日)、風はほとんど吹いていなかった。
世帯数:阪神地域で52万8046世帯、人口密度:5350人/km2
工場の数:神戸で6027
17日中に神戸市、芦屋市、西宮市で起こった火災:215件
最終的に神戸市、芦屋市、西宮市、大阪府などで地震により起こった火災:294件
  (ただし神戸市だけでは175件)
全  焼:7121棟(計0.66 km2の消失)

    阪神淡路大震災では、発生時に就寝中の人が多く人々の活動時間ではなかったため、暖房や調理器具などの火器器具はあまり使用されていなかった。それにも関わらず、上記のような火災による被害が発生した。

【ワーストケースの想定】

 Newtonでは阪神淡路大震災の発生時間を「飲食店のほとんどが営業し、多くの家庭で夕食の準備をしている午後6時半頃」と想定すると、最低でも20倍の火災が発生したであろうと考えている。では神戸よりも大規模な都市であった場合、どのような被害が発生すると考えられるのだろうか。

 1997年、東京都は「東京における直下型地震の被害想定に関する調査報告書」を発表した。条件は以下の通りである。

 また、東京の基本状況は以下のようになっている。

世帯数:365万7766世帯、人口密度:1万2900人/km2
自動車台数:平均281万5184台/日(神戸の約5.4倍)
JR利用客:721万2077人/日(神戸の約16.8倍)
 JR線、私鉄、地下鉄が網の目状に密集している。
工場の数:5万9473…石炭・石油製品製造工場では特に大火災が発生する可能性がある。
化学工場では燃えやすい物質を高音・高圧下で取り扱うことが多 く、これも火災が発生する可能性がある。

 このような状態で震源が区部直下の大地震が起こった場合、区部だけで627件、多摩地区まで合わせると824件の出火があると想定されている。この想定には、住民が火の始末や初期消火を行うこと、住民が対応できない火災には消防によって消火活動がなされることが考慮されているが、実際には大地震の中で特に住民による消火活動を行うことは難しく、被害は想定を上回る可能性があると考えられる。

 また、巨大地震により火災が同時多発した時には、急速に火災が広がる可能性のある、火災合流・火災旋風などの状況も考えなければならない。大規模な火災が同時多発した場合、各炎が合流し巨大な炎となることがあり、これを火災合流という。

 巨大な炎では、空気中の酸素はほとんど火災の周縁部で使われてしまうため、火災の中央付近で発生した可燃性のガスは酸素と反応しないまま上昇し、酸素がある部位に到達してから燃焼する。このため大規模な火災のときは通常よりも非常に炎が高くなることがある。火災が大きくなると輻射熱が増え燃え残った住宅から可燃ガスが発生し、このガスにより火災がより大きくなり、それがさらに可燃ガスの発生を促進させるという悪循環が見られる場合もある。

 火災旋風とは大規模な火災のときにしばしば発生する火炎・火の粉・煙・有毒ガスなどをはらんだ竜巻様のものである。1923年の関東大震災では被服廠跡だけで約3万8000人の死者が出たが、この一因として火災旋風が考えられている。どのような状況で起こるかは現在のところまだはっきりと解明されていないため、東京都の被害想定には火災旋風による被害は含まれていない。しかし、大規模な火災の場合はいつでも火災旋風が起こる可能性があり、また火災旋風が起きた場合は避難場所も安全では無くなるため、被害が飛躍的に大きくなることが予想される。急速に火災が広がる状況には、他に工場やトンネル内、地下(地下鉄、地下街)での出火なども考えられる。

【考察】

 今回は大都市での地震による火災について学習したが、これは地方でも非常に重要な問題であると思われる。愛媛県では地震被害想定調査を行っていない状況で、今年3月芸予地震が起こった。幸い火災による被害は多くなかったが、これも条件によっては大火災が発生する可能性があったことは否めない。愛媛には活断層が通っていることもあり、今後いつ大地震が起こるか分からない状況であるため、地震被害想定調査をきちんと行い、その対策を立てておくべきであると考えられる。


松本サリン事件と救急医療活動

(清水幹夫、松本市の保健衛生 vol.22 別冊、2000、pp.98-103)


 1994年6月27日松本サリン事件、95年1月阪神大震災、3月地下鉄サリン事件が発生しその度に集団災害時における救急医療体制の問題点である医療体制の不備、不足、遅れが指摘されてきた。今回のレポートの目的は「松本サリン事件」から学んだ経験をより一般化し、集団災害が引き起こされた際の迅速な救急医療初期対応を行うため手引き書作成である。

経過の概略

 松本サリン事件発生後、ドクターカー搭乗医師と救急隊員による搬送とトリアージが行われた。頭痛、吐き気、鼻水、下痢、「目がチカチカする」、「目の前がサングラスをかけたようになった」などの症状を訴える患者に縮瞳と血清コリンエステラーゼ値の顕著な低下が認められた。これらの症状から有機リン系薬剤による中毒と診断した。以前に経験した有機リン系農薬中毒では説明できない集団被災に直面し、従来の有機リン中毒の治療をそのまま適応してよいのかと疑問したため、7月4日に「実診療者連絡会議」が開催され、中毒事故の対応を行った。協議会などの活動報告は地下鉄サリン事件の治療に際して参考として活用された。

患者の特定病院への集中

 中毒発生地点に最短距離の病院へ患者は集中していた。サリン事件は限局した範囲で引き起こされた人為災害であり病院機能、交通手段も機能しており震災とは異なる範疇に入る集団災害である。しかし、重傷度が混在した多数の患者を限られたスタッフで診療するのは無理であり、これら二次病院においてもトリアージの概念を導入し患者を重症度に応じて振り分ける必要がある。ここでいうトリアージとは「限られた時間を有効に活用するため」の緊急度と重症度の判定である。トリアージを誰が行うかを病院であらかじめ指名しておくべきである。そして軽度外傷で通院治療が可能な程度の傷病者には地域のほかの病院の状況を知らせ予備力のある病院へ誘導することも必要である。さらに重症者は集中治療室を有する地域基幹病院へ転送することも重要である。また、集団災害に巻き込まれた際は被災地から車でほんの数分離れた病院へ行けば患者集中を回避できることを平常時に市民教育することも大切である。

治療

 1)中毒情報の入手:

 7月3日に長野県衛生公害研究所から「サリンと推定される物質が検出された」という発表が行われるまで、その当時日本で誰も経験をしたことのない物質であった。サリンに関する情報は極端に少なく、日本の文献はなく、パソコン通信を介してアメリカの文献検索を行い、ようやく僅かなサリン中毒についての情報を得られた。

 2)治療方針の標準化:

 有機リン系薬剤による中毒としか解明されていない段階では、治療は従来の方法を選択することとした。サリンと分析結果が出され、文献を調査したところ治療法は有機リン系薬剤中毒と変わるところはなく治療方針の適正が確認された。

二次被災

 1)搬送中と病着後:

 中毒事故との情報しか伝達されなかった混乱した状態では患者の衣類などに毒物が付着しているとは想像もできなかったと思われる。中毒患者の救助や治療にあたる医療従事者は患者の嘔吐物や衣類に含まれる中毒物質で二次被災を受けることが以前から指摘されており、手順を省略したことも二次被災を増加させた一因と思われる。病着後、可能なら患者にシャワーを行い除染し、換気の良い部屋で治療を行うべきである。

 2)地区住民への二次被災:

 被害の出た区域では環境調査が終了するまで地 区住民、報道関係者などの立ち入りを制限し、サリンガスによる汚染がないことが確認されてから制限を解除すべきである。

『司令塔』『窓口』としてのメディカルコントロールセンターの立ち上げ

 集団災害の混乱した状態では直ちに医療情報をコントロールする『司令塔』を立ち上げるべきである。同時多発した患者は各病院へ分散して収容される。一般的に病院には独自性があり、救急期の患者を主に扱う病院や慢性型病院など施設によってその得意分野が異なるのである。しかし、特殊な傷病ではそれまでに経験したことのない治療を実施しなければならない局面に立たされるからである。また、『窓口』を作ることも大事であり、あらゆる情報はテレビや新聞を通じて地域住民に伝達される。

まとめ

 サリン事件、阪神大震災などを契機として救急医療は確実に転機を迎えている。近隣の地区同士の連携も進展し、ヘリコプターによる患者搬送システムも実用化しようとしている。サリンによる集団災害を経験しての結論は「想像できないことが起こる」ことを前提に臨機応変な救急医療体制を整備すべきであるということである。


放射線医学総合研究所の放射能災害時の医療への取り組み

(明石真言、原口義座ほか編・ワークショップ:原子力災害に対する国際的医療対応のあり方、p.121-144, 2000)


【日本の緊急被爆医療体制について】

 以前は、中央防災会議で定められている「防災基本計画」には原子力災害というものは書かれていなかった。しかし、平成9年6月以降、防災基本計画第10編に「原子力災学対策編」が加わった。今まで原子力災害がそれほど認識されていなかったが、核燃料サイクル機構のアスファルト固化施設で事故があった事、阪神淡路大震災の反省の元に設けられた。

【放医研について】

<役割>

<活動>


3.トリアージタッグの記載方法

(山本保博ほか監修、トリアージ、荘道社、東京、1999、p.31-46)


I、トリアージとは

 大きな災害が短期間のうちに起きるときには傷病者の数も短時間のうちに大量に発生す る。しかしその傷病者を救護するには医療の物的、人的資源は非常に制限されることにな る。ここの災害の中で限られた医療資源を生かし、多数の傷病者に最善の医療措置を実施 する事が非常に重要である。そこで災害時に医療資源や被災状況を前提に重症度や緊急度 に従った傷病者の選別が必要になる。そこで生まれてきたのが「トリアージ」の概念であ る。

II、トリアージタッグの記載方法

  1. タッグのNo.
     トリアージには通し番号をつけることになっている。

  2. 氏名、年齢、性別、住所、電話番号
     これらは必ず記載する。漢字よりなるべくカタカナのほうがより迅速に記載できる。

  3. 実施月日、時刻
     分の単位まで記載する。

  4. 実施者名
     フルネームで記載する。

  5. 搬送機関名
     「○○消防本部○○救急隊」、「家族の自家用車」等と具体的に記載する。

  6. トリアージ実施場所
     「○○駅前現場救護所」、「○○学校医療救護所」等と具体的に記載する。

  7. 収容医療機関名
     「○○病院」、「○○診療所」等と具体的に表記する。

  8. トリアージ実施機関
     「○○大学病院班」、「○○地区医師会」等とトリアージを行ったものの所属する機関 名を記載する。またあわせてトリアージを行ったものの職種も医師、救急救命師、そ の他の3種の中から選択し○印をつける。

  9. 傷病名
     現場においては最も疑わしい傷病名や病態を記載する。

  10. トリアージ区分  記載欄のすぐ下にはタッグ本体の4色のラベルがプリントされている。4色識別の最 下端はIII(緑)、続いてII(黄)、I(赤)、0(黒)の順番でラベルされている。こ の色の境目にはミシン目が入っておりここをもぎり、トリアージ区分記入欄の区分の 記号に○をつける。例えば色識別ラベルのIII(緑)をもぎ取ればII(黄)が最下端に なりII(黄)にトリアージしたことになる。

  11. 特記事項

  12. 人体図

 以上のようなものが記載されている。ここまで見てきて血液型が抜けているのに気付く が災害現場では正確な血液型は判定しがたいという理由がある。

III、トリアージタッグの記載事項

 トリアージタッグの記載情報を完結させるのは記載者自身であるという認識を持ち、 記載情報が不足することをなるべく避ける。ただし記載情報の住所は聞き出して記録する のに手間がかかるので後から保管した方が良い場合がある。記載の優先順位としては、1)氏 名、2)性別、3)電話番号、4)年齢、5)住所である。

IV、記載済みトリアージタッグの保存について

 トリアージタッグは3種類あり、災害現場用、搬送機関用、収容医療機関用である。 災害現場用のものはそこで剥がし番号順に保存し、搬送機関に傷病者を引きわたす。搬 送者用のものは収容医療機関に引き渡した場合に剥がしてトリアージ実施場所ごとに番 号順に保存する。収容医療機関用のものはカルテの代用として使用する。搬送者が個人 が自家用車を用いて個人的に搬送してきたような場合は搬送者用のものも剥がして保存 する。また収容医療機関で初めてトリアージが行われた場合は、災害用も搬送機関用も2 枚一緒に剥がし保存する。

V、トリアージタッグの統一化について

 今までは各消防機関、空港、病院、自衛隊などで各機関が独自に作成してきたが、数々 の組織が参集する災害現場においては異なったトリアージの使用は混乱を招く。そうい った理由から全国レベルでのトリアージタッグの統一化が図られる運びとなった。この トリアージタッグの特徴としては、
  1. タッグにおける情報の表示の(識別)の統一
  2. タッグへの情報の記載の統一
  3. 扱いやすさ(様式、作表、カード機能など)の統一
  4. 材質の適正(いたまない、くずれない、破れないなど)の統一
  5. 事後処理への対応の統一

などが挙げられる。また原則として装着は右手首とし、この部分が負傷していたり切断さ れていたりする場合は左手首、右足首、左足首、首の順番で装着する部位を決める。首は 最後の手段である。また衣類や靴に装着することは有ってはならないことである。


第2章 被災地内の医療救護班活動マニュアル

(東京都衛生局医療計画部医療対策課、災害時医療救護活動マニュアル、社会福祉法人 東京コロニー、1996、p.27-39)


●医療救護班の対応

(1)地区医師会災害対策本部の設置

 概ね震度6以上の地震が発生した場合には、地区医師会内にすみやかに災害対策本部を設置し、情報連絡、医療救護班編成、広報部門など、災害に対応できるよう努めることとします。

(2)区市町村との連携

 区市町村災害対策本部と、防災行政無線などにより連絡をとり、被害状況を把握し、医療救護班の出動要請に対応できるようにします。また、定期的な連絡方法を定め、被害状況など、最新情報の把握と連絡に努めることとします。

(3)医療救護班の編成及び出動

 地区医師会は、あらかじめ定められた医療救護班を編成し、要請のあった場所に出動させるものとします。医療救護班は、原則として、医師1名、看護婦1名、事務1名、をもって1班を編成するものとします。地区医師会会員は、電話連絡などが不能な場合には、指示伝達を待つことなく、あらかじめ定められた参集場所(病院や保健所)などに、自ら出動するものとします。

●医療救護班の活動内容等

(1)医療救護班の活動場所

 医療救護班の活動場所は、被災直後の初動期においては、負傷者が多数発生した災害現場等又は負傷者が殺到する病院など、医療救護所の活動を中心にしますが、その後は、避難所における医療救護所を中心とします。救護活動は、原則として、区市町村が設置する医療救護所において行うものとしますが、災害現場等において救命措置が必要な場合には、医療救護班員等の安全に十分留意の上、事故現場などにおいても活動するものとします。

(2)医療救護班の活動内容

  1. 傷病者に対する応急処置
  2. 後方医療施設への転送の要否、及び転送順位の決定
  3. 輸送困難な患者、軽症患者等に対する医療
  4. 助産救護
  5. 死亡の確認

以上の他にも、状況に応じて、遺体の検索に協力します。

(3)医療救護班の指揮

 複数の機関やボランティアによる救護班などが共同して活動する場合は、当該地域事情を最も知っている、地元医師会の会員が指揮をとるものとします。

●災害現場等での応急医療救護の実施

(1)トリアージの実施

 医療救護所の入り口等で、原則として医師がトリアージを行います。時間の経過や、傷病者等の状況等を勘案し、必要に応じて、2回目以降のトリアージを行います。

(2)応急処置の実施

 災害発生現場での応急処置は、原則として必要最小限の処置にとどめ、より多くの傷病者に迅速に対応します。重傷者がいる場合は、できるだけ設備の整っている後方医療機関への搬送に努めることとします。

(3)重症患者の搬送

 トリアージの結果に基づき、緊急治療群から順次、後方医療機関へ、搬送を行います。

●避難所等での医療救護活動

 被災から概ね3日経過したあとは、避難所での医療救護対応が中心となります。これらの避難所等での医療救護活動については、原則として、当初は被災地外から出動する「応援医療救護班」があたることとします。避難所生活が長期にわたる場合は、できるだけ地区医師会の協力を得て、さらに、被災地の医療機関の機能回復にともなって、関係機関との連携の下に、避難所の医療救護所の縮小を図り、本来の地域医療体制で対応するようにします。

●平常時からの準備等

(1)医療救護班要員の参集等

 一定規模以上の災害が発生した場合に備えて、参集場所の指定、「緊急連絡網」の整備、地区別班編成などをあらかじめ徹底するようにします。

(2)医薬品・医療器材の備蓄

 医療救護班は、最低3日間程度、自給自足で活動できるように、食料および宿泊に必要な携行品も備えておくように努めます。

(3)医療救護活動に関する研修

(4)防災訓練の実施


第4編 緊急災害広報・広聴の推進

(地震防災対策研究会、自主防災組織のための大規模地震時の避難生活マニュアル、(株)ぎょうせい、東京、1999, pp.255-276)


<序論>

 緊急災害時、特に地震などの場合には、電気・通信等の途絶・遮断等により、通常の 情報入手方法である映像メディアからの情報の収集が不能となり、情報不足による混乱の 発生も予想されるが、一方で災害に関する住民のニーズに応えていくためには緊急災害広報の推進が必要である。

<緊急災害広報の目標>

 緊急災害広報の目標としては、主に地震について考えた場合、1)被災者の生命・身体の安全、2)被災者の健康な生活確保、3)被災者の自律の促進、4)以上を通じた情報不足による混乱の発生を防ぐ、ことなどが挙げられる。そのためには災害発生直後からの情報ニーズに適切に対応して、 被災者等が必要とする正確な情報を必要な時期に提供することが重要である。

<広報内容及び手段の基本方針>

 広報の内容は、前述の広報の目標に沿ったものである必要があり、また、その内容を あらゆる情報伝達機器の特性を活かした効率的な運用を行えるように、準備しておかなければ ならない。具体的な広報内容としては、地震・津波情報、余震情報、地震時の一般的注意事項 に関する情報、被害情報、避難に関する情報、救援物資に関する情報などがある。また、 広報手段にはラジオ・TV・新聞、各種無線、広報車、航空機、CATV・インターネット などが考えられる。

<発災後からの段階別の広報>

 被災者の情報ニーズは初動期、避難所運営組織確立期、避難継続中、避難終了後と段階に応じて 変化してくる。災害広報が、このような被災者の情報ニーズの変化に柔軟に対応する ためには、災害医療応急対策及び災害復旧対策に対応した適切な内容のものを適切な広報手段を 駆使して行えるよう努めることも必要である。以下に段階別にの留意事項を記載する。

<救急災害広報の体制の整備>

 これらの広報を円滑かつ迅速に進めるためには、市町村、自主防災組織、その他防災関係者が協力り、一元化された内容の情報を適切な手段で提供できるようにすることが必要である。

 また、市町村においては緊急災害広報に関する役割を明確に定めておく必要がある。但し、実際に大規模地震が発生した直後の段階では、様々な混乱した状況が予想されるため、あらかじめ定めた広報体制が確立するまでの間は、どの職員でも緊急広報について応急的な対応ができるよう、緊急災害広報のフロー図を形成するなどして、広報内容をわかりやすくしておくことも必要である。

 その他防災機関とは、警察署・電話会社・電力会社・ガス会社・公共交通機関などが含まれ、 これらとの協力をスムーズに行えるよう努力すべきである。


第1章 環境の傾向、災害とその影響

(世界災害報告 1999年版、p.9-26)


現在の世界環境の傾向

 現在、世界は次第に自然災害に対する脆弱性を高めている。津波や地震から洪水、飢饉に至るまで、人類は様々な自然災害に脅かされている状況にある。非計画的な都市のスラム街に住む人の数は現在10億人に達し、森林伐採は大きな自然災害に対する生態系の防衛力を破壊しており、また地球温暖化により、風雨や太陽の影響力を予測しそれに対処することが難しくなってきている。

 その実例として、ここ最近約10年間で、ハリケーン「ミッチ」は中央アメリカの国々を縦断して恐ろしい被害をもたらした。中国では洪水によって、およそ1億8000万の人々の命と生活が被害を蒙った。

世界環境と災害

 現在、世界環境において大きな問題になっているのは地球温暖化である。地球温暖化それ自体はゆっくりとした変化だが、その影響は激しく、予測できないものになる。地球温暖化の影響として、1.沿岸部の洪水の深刻化、2.内陸の乾燥、3.感染症の広がりが挙げられる。

1.沿岸部の洪水の深刻化

 沿岸地域には最も肥沃な農業用地の多くと、大都市地域があり、世界人口の半数の約30億人が住んでいる。沿岸地域の人口は世界平均の2倍の速さで増加している。

 そのため沿岸地域は、真っ先に洪水の危機に直面し、その被害は深刻化することが予想される。世界的に潮の高さは、過去1世紀で平均20センチ上昇してきており、気象学者は2080年までに海水面は44センチ上昇すると予測されている。東京、上海、ラゴス、シドニーなど世界の各都市はその危険にされされており、堤防を建設し都市を保護しなければならなくなる。しかし、現在における最大の問題は低海抜の島国と河川のデルタ地域にある。低海抜の島国は島全体の沈没にされされており、デルタ地域は海水面の上昇による洪水の被害の拡大がおこっている。

2.内陸の乾燥

 海水面の上昇による被害がある一方で、乾燥による破滅的な干ばつと飢饉のリスクが増大している。地球の温暖化は内陸部の高温の砂漠地帯が広がるのを推し進めている。また、降雨の減少により河川の水流も減少することが予想され、これにより飢饉・飢餓のリスクがサハラ、アジア、ラテンアメリカの熱帯地帯において増加している。

3.感染症

 高い気温の下では、大気汚染や、空気中の花粉やカビの胞子が人命を奪うほどの原因となり、高い気温に関係する死亡が今後増加していくと考えられる。また、熱帯性の感染症である、回旋糸状虫、マラリア、従血吸虫症、デング熱、黄熱病などが、いままで見られなかった地域に既に拡大している。

エルニーニョに関して

 エルニーニョとは貿易風が弱まるか逆に吹き、暖かい表層水がラテンアメリカ沖に集まり、季節外れ激しい雨と洪水をもたらす。他方、西太平洋と東南アジアは厳しい干ばつにみまわれる状態のことである。エルニーニョは周期的な自然現象であるが、ここ20年間で頻発に発生し、これは地球温暖化に起因すると考えられている。この近年の現象は地球の気象状態の不安定さを表しており、予想もできない地域に極端な天候を引き起こしており、ひいては自然災害発生の原因となっている。

その他の災害危険因子

 都市への人口集中は高層ビルによる地震の被害増大、コンクリートによる洪水の悪化、スラム街の形成による結核、エイズ、コレラなどの重篤な感染症の拡大がある。

 森林伐採による世界的な森林消滅は、予防できるはずの自然災害が起きる原因となり、地球温暖化の一因ともなっている。

 財政的に余裕のない国家では十分な準備がなく、災害が拡大する傾向にある。その例として、朝鮮民主主義人民共和国は90年代後半におきた一連の自然災害に絡み数百万人が飢餓に苦しんできた。

国際的な取り組み

 災害の発生とその被害は今後、異常な気象現象と急速な経済や社会制度の変化等と複雑な関係を呈していくと予想される。現在、自然災害による全死者の96%が開発途上国に住む人々となっている。しかし、開発途上国のみではその災害に対する予防、災害時の対応は不可能に近く、他の国々の援助を必要としている。

 災害時の世界的な対応としての国際緊急サービスが必要であり、人道援助機関がその役割を担っている。しかし、その活動は必ずしもうまくいっているとは言えず、その活動資金も先進国の援助に頼っており、年々減少している状況である。今後の改善点として、地元の組織との協力を密にし、より早く、取り正確にニーズに応じた活動をしていかなければならない。

まとめ

 災害は、自然環境、経済、政治などが複雑に絡み合い発生し、その予防、発生時の対応、事後処理を難しくしている。これを解決するには「地球規模で考え、地域で行動する。」という原則に立ち返ることが必要である。


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