災害医学・抄読会 2001/12/07

Part 2 日本を揺るがした巨大地震

(竹内 均、迫り来る巨大地震 Newton別冊、2001年2月10日号、p.32-47)


〈地震の型〉

 海溝型地震:

海溝で地球内部に沈み込んでいくプレートは陸のプレートの端を引きずり込んでいるが、陸のプレートの戻ろうとする力がプレート同士の摩擦力を上回った時、陸のプレートがはねあがって戻り発生する。非常に規模が大きく、ゆれは広範囲に及ぶ。(例)関東大震災(1923)

 直下型地震:

1)活断層によって起きるもの、2)重なり合った2枚のプレートの境界で起きるもの、3)プレートの内部が壊れて起こるものがある。海溝型と比べると地震の規模そのものは小さくなるが、震源が浅い場合には大きな被害を及ぼす恐れがある。(例)阪神大震災(1995)

〈マグニチュードと震度〉

 マグニチュード(M):地震そのものの大きさを示す単位

 震度:地表でどのくらいゆれたかを示すもの

〈過去の大地震〉

 日本は地震列島と呼ばれるように非常に地震の多い国である。被害を生じた地震は被害地震と呼ばれるが、過去、被害地震は日本の各地で発生してきた。東日本の太平洋沖では、日本海溝などを震源域とするM8クラスの巨大地震が何度も発生しており、日本海沖では近年になって大きな地震が連なるように発生している。海洋型の巨大地震は津波による被害をもたらすことが多いが、震源が陸地に近い場合はゆれなどによる被害ももたらすことになる。西日本では海洋で発生する被害地震の多くが太平洋側に分布している。日本の内陸部で発生する直下型地震でM8に達するものは少ない(1981年の濃尾地震はM8で内陸型としては日本最大の地震といわれている)。

〈地震と火災〉

 巨大地震が大都市を襲った時に、最悪の被害をもたらすのは火災である。家屋の倒壊や鉄道の脱線、高架橋の落下等のような物理的な被害には限度があるが、火災は風の強さなど気象条件によって被害の大きさがまったく違ったものになる可能性を持っている。1995年1月17日の阪神淡路大震災を引き起こした地震は午前5時46分に発生したが、その時間帯は人々が活動を始める前で火気器具を使用している人は少なかったと考えられる。それでも、火災は全体で294件発生し、合計7121棟が全焼、0.66m2が焼失するという戦後最悪の火災となった。地震の発生を午後6時半頃に想定すると火災に関して最悪の事態が見えてくるが、もしこの地震がその頃に発生していたら最低でも20倍(13.2m2の焼失)の火災が発生したと考えられている。東京は人口、飲食店なども阪神地方に比べ非常に規模が大きく、このような地震が東京の区部で発生したと想定した時、118m2が焼失する計算になる。これは東京23区の約19%にあたる面積である。

 火災が同時発生して大規模な火災に発展してしまうと、小規模火災の時とは異なる現象がみられる。火災が起きた場所では上昇気流が発生しているが、大規模火災では上昇気流によりすすの粉が高く巻き上げられ、それに水蒸気が凝結して雨が降ることがある。また、大規模火災では炎上している建物の炎同士が集まって合流し巨大な炎になることがある。火災の時には可燃性ガスと酸素との反応により炎が作られるが、巨大な炎の中央付近の酸素と反応できない可燃性ガスは酸素のある場所まで上昇して燃焼するため、非常に炎が高くなることがある。火災が合流して大きくなると周囲への輻射熱が増加し可燃性ガスの産生を促進し、炎が大きくなりさらに可燃性ガスの産生を促進するという悪循環を繰り返すことになるため、火災は大きくなるほど制御困難で暴走しやすい性質を持っているといえる。

 さらに大規模火災では火災旋風が発生することがある。これは炎や火の粉、煙、有毒ガスなどを巻き込んだ竜巻のようなもので非常に危険である。関東大震災の時に避難場所であった被服廠跡では多数の死者(約3万8000人)が出たが、この要因の一つとして火災旋風の発生が考えられている。この火災旋風についてはまだはっきりとしたことは分かっていないが、一つの可能性として次のようなメカニズムが考えられている。『火災で発生した上昇気流に横風が衝突すると、上昇気流は横風により傾くと同時に断面はコの字形(U字形)になり、そのくぼみの所に横風がまわり込む。まわり込む風は常に一定なわけではなく強弱があり、横風は上昇気流よりも温度が低いため上昇気流の一部を切断する役目を持つ。切断された部分が渦をまき、炎を巻き込みながら移動し火災旋風となる。』移動先に燃えやすいものがあると旋風の移動に伴って火災は拡大していく。そのため、避難場所に可燃物が持ち込まれると被害を増大させる可能性がある。

 また地震における建物以外での火災の原因として、ガスタンクや石油タンク、化学工場や石油・石炭製品の製造工場等が挙げられる。これらの場所では地震対策をとることは大事だが、特に埋立地や地盤の弱い場所では火災発生の可能性は否定できない。さらにトンネル内事故による火災なども考えられる。

〈地震と都市〉

 鉄道や高速道路、地下街など都市の施設は人々の快適な生活には不可欠な存在であるが、巨大地震が発生するとそれらは人命に危険を与えるものへと変貌しうる。阪神淡路大震災では鉄道の脱線や高速道路の倒壊、地下鉄の天井の陥没など、さまざまな被害が同時多発的に発生した。朝のラッシュ時であったなら、多大な被害が出たであろう。巨大都市では特にこうした危険性も念頭に置く必要がある。

〈地震の心得〉

 大きな被害をもたらす直下型地震は、日本列島のほぼ全域で発生する可能性がある。しかし阪神淡路大震災後に行われたアンケートによると、地震の最中に火元の点検・消火を行った人は8.5%、机の下などに隠れた人は2.4%であった。それに対し何もできなかったと答えた人は39.5%、布団をかぶった人は28.0%、自分の身を守るのに精一杯と答えた人は20.5%であった。このことから人は大きなゆれの中では何もできない状態にあることが分かる。そのため前もって高い所に重い物を置かないようにしたり、倒れてくるおそれのある家具を固定したりしておくとよい。また、食料をはじめとする備えも大切である。

 また、すばやく被災状況を把握することで、被害を最小限に食い止めることができる。阪神淡路大震災では首相官邸に震災の情報が届くのに数時間を要していた。今後は早期もしくはリアルタイムで災害の情報が政府機関などに伝えられ、有効な災害対策をただちにスタートできるような体制を整えていくことが望まれる。


4.多数傷病者事故に対する消防救急活動

救急隊員標準テキスト、東京、へるす出版 2001、p.251-256


I.活動の原則

1.消防活動

 消防活動は、傷病者を迅速に救命するため救出・救護活動を最優先として消防部隊が相互に連携し効率的な組織活動を行う。実施体性は以下のようにまとめられる。

 医療救護対策実施体制

1)実施本部の設置、2)現地連絡所の設置、3)緊急幹部会議、4)現地救護所の設置、5)医療救護班の編成と派遣、6)後送医療機関、7)医薬品などの確保

2.救急活動

 救急活動は、傷病者が短時間に集中して発生するので救命活動を最優先とし、必要最小限の救命処置と傷病者の迅速、安全な搬送を優先した活動を行う。

3.関係機関との連携

 災害現場の都道府県、区市町村、医療機関、警察、その他関係者と連絡を密にし、傷病者の効率的な救護などに当たる。

II.出場計画

 救急隊出場の運用に当たっては、最先到着指揮者は、多数の傷病者が発生している場合または発生する恐れがあると認められる場合は、速やかに必要とされる救急隊の応援を要請する。

 消防本部は、事故の通報または現場報告などによって、多数傷病者事故と判断される場合は、必要とされる救急隊の増強を早期に指令する。

III.最先到着救急隊の任務

1.災害現場の把握

 最先到着救急隊長は、指揮本部長が到着するまで次の任務を行う。

1)災害現場の把握、2)現場報告および応援要請、3)現場救護所の設置準備

2.現場報告および応援要請

(1)現場報告は、災害現場の把握事項を速やかに警防本部に報告する。
(2)災害の規模などから判断して救急隊、救助隊等の数および必要器材について要請する。

3.救命処置の実施

 応援要請実施後、必要に応じて傷病者の救命処置を実施する。

IV.現場指揮本部

 多数傷病者の救護活動を容易かつ円滑に実施するためには、現場指揮本部の元に前進指揮所および救急指揮所、ならびに出場各隊を統括指揮し活動方針を決定するとともに関係機関との連携を密にし、適切な救出救護活動、傷病者管理、搬送体制を確立し、活動の中枢として最大の効率を上げるよう努めるものとする。

V.前進指揮所

 前進指揮所の設置:災害現場が広範囲の場合、または災害内容が救助、救急などが複合し、個別の指揮体制を必要とする場合には、別個に前進指揮所を設置し、効果的な部隊運用を行うことが必要である。

VI.救急指揮所

 救急指揮所の設置:現場指揮所を指揮統括できる同一場所に設置する。

VII.現場救護所

1.現場救護所の設置

 現場救護所は、原則として現場指揮本部に扶持し、二次的災害の危険がなく、救急隊の進入および搬送路が確保でき、地形が平坦で容易に救護活動ができる場所とする。

2.現場救護所における傷病者取り扱いの手順

1)医師到着前

  1. 災害現場より救助・誘導、現場救護所への移動
  2. トリアージ担当による緊急度区分
  3. 現場処置担当による救急処置
  4. 搬送指示担当による搬送順位の指定
  5. 救急車またはヘリコプター(緊急度第1および2順位の傷病者)、人員輸送車等(緊急度第3順位の傷病者)による医療機関への搬送

2)医師到着後

トリアージ担当による緊急度区分後、医師による再ドリアージおよび処置を行う。なお再トリアージは医師が必要と判断した場合にのみ行う。また医師は死亡診断を行い、遺体は死体安置場所へと移動する。その他の手順は医師到着前と同様に行う。

3.現場救護所の任務

 現場救護所では、トリアージ担当、現場処置担当、搬送指示担当、おのおの担当者を定めることが望ましい。なお、トリアージ担当は医師不在の場合は救急隊長が当たること。

1)トリアージ担当:傷病者の受付と観察に基づく分類、選別・表示など

  1. 傷病者の緊急度区分に応じたトリアージ
  2. トリアージタッグへの傷病者番号の記載
  3. トリアージタッグの表示
  4. 収容場所の指示

2)現場処置担当

  1. 救急処置
  2. 傷病者管理
  3. トリアージタッグへの傷病者氏名等の記載

3)搬送指示担当

  1. 緊急度区分に基づく搬送順位の決定
  2. 救急車の収容人数の調整

4)トリアージタッグの処理の流れ
 以下の表(省略)に示す。

IX.担架隊

 多数の傷病者が発生し、出場救急隊員のみでは傷病者の搬送に対応できない場合は、担架隊を編成して出場させ災害現場から現場救護所までの傷病者搬送を担当する。


松本サリン事件と東京地下鉄サリン事件

松本市広域消防局警防課、松本市の保健衛生 vol.22 別冊、2000、pp.94-97


1.松本サリン事件と東京地下鉄サリン事件の間に東京では何が行われたか

 阪神大震災に気を取られていたこともあり医療機関,消防機関においては身に迫った危機として捉えていなかった感があり、実効的な対策は行われなかった(しかし東京地下鉄サリン事件発生時においては、松本サリン事件に対応した関係者と東京の救急部の責任者が電話でディスカッションを行い重要な情報の交換がなされたということもあった。)

 唯一の例外が分析で、警察機関は両事件の間に分析技術を進歩させていた(各研究所間の連携が東京地下鉄サリン事件での事件後2時間以内のサリン同定に至るスピード分析につながった)。

2.露わになった危機管理情報管理体性の不備

 既存の情報ネットワークが有効に機能しなかった点が問題点として残った。医療機関、警察、消防、都の関連機関、報道機関がばらばらに情報収集を行い、しかもお互い連携がとれていなかったことが明らかとなった。(警察の原因物質がサリンという発表は同定後1時間もかかっており、また医療機関はもちろん、東京消防庁ですら報道でそのことを知った。また、中毒情報センターへの問い合わせも回線が輻輳し機能しなかった)。

3.両サリン事件以降の情報管理

 事件後、各分野で、災害・中毒情報体性強化への取り組みがなされている。その究極の目的は如何に効果的なインシデント・コマンド・システムを確立するかということで、情報を一手に集め、判断し、その判断をどう効果的に現場の対応に還元していくべきか、その一連のシステムが問われている。また専門化組織への情報経路発動以前の問題も重要で各地域での初動体制を速めるために救急医療機関、救急診療担当者における化学災害やテロへの想定の感度を上げる必要がある。

4.いかに危機管理体制を作り上げるか

 〇地方自治体:
被害者の生命予後においては、発災後2時間〜12時間が重要で、災害,事件対応の第一義的な単位は現場のコミュニティであることを再認識し、また地方自治体における防災意識を向上させることが求められる。

 〇中央政府:

現場の責任者が如何に危機に対応しやすい状況を作れるかに集約され、地方自治体の危機管理要員に共通の基本概念を確立し、教育,訓練し災害コーディネーター等を育てていくことが求められる。
(米国の基本概念は、初動対応,復興,災害の軽減化,準備の4つで地方レベル,州レベル,国レベルの各組織毎に徹底している。)

5.事件後の被害者フォローの問題

 松本では事件後早期から地域包括医療協議会が事件のフォローを一括して行うことができているが、東京においては被害者が東京在住者よりもむしろ他県からのサラリーマン・学生が多かったこと、また研究機関・大学が数多く存在しどこがイニシアティブを取るべきか複雑であることが災いし進んでいない。(本年になって「サリン事件等共助基金」をはじめた私立病院はある。)サリン暴露の後遺症は国際的にも結論がでておらず、神経学的な変化を中心に身体的な後遺症のフォローアップを細心の注意を持ってする必要がある。そのため「化学兵器被害者援護法」、「NBC兵器被害者援護法」のようなものを立法化するか、それに代わる行政的な措置が強く望まれる。またそのためにも同じ大量殺戮兵器の被害者、後援者の連携が重要である。

6.両サリン事件の国際的な意味

 両サリン事件は国際的には危機管理上のwake up callといわれていて、欧米においてはNBCテロはifという次元からwhenという次元で論議されるようになっている。全米各地ではすでに200以上の自治体、公的機関が集団除染システムを導入している。また医療機関においては4分の3の機関で生物化学兵器対策を立てておらず社会問題になっているが逆にいえば4分の1の機関で生物化学兵器対策を立てている。日本においては医療機関はおろか消防機関ですらほとんど対策を立ててなく、また国民の関心もほとんど向けられていない。準備と被害の軽減化にかける経済的先行投資が、無防備にして失われるであろう貴重な生命と健康とを何倍にも救い得るという共通認識が国民の間で受け入れられる必要がある。


高線量被ばく事故による放射線皮膚障害とその治療

田中秀治ほか、原口義座ほか編・ワークショップ:原子力災害に対する国際的医療対応のあり方、p.39-48, 2000


概念

 放射線皮膚障害とは高線量の放射線の被曝によって発生する 皮膚の障害のことである。放射線皮膚障害は大きく分類して Thermal effectによる障害と Radiation effectによる障害 の2種類の損傷形態に分けられる。

〇 Thermal effectによる障害

 被曝直後の放射熱により発生する体表部分の紅斑または 衣服の燃焼によって起こる損傷を意味する。よって直後の 病態は通常の温熱熱傷と同じである。

〇 Radiation effectによる障害

 放射線エネルギ−によるDNA損傷が中心で、組織のターンオーバー に位置して細胞や組織死が徐々に進行していく状態のことを 意味する。被曝直後に皮膚症状を呈するものは少ないが、 一定の潜伏期間を置いて症状が悪化することが特徴である。

 具体的に Thermal effectとの違いを列挙していくと、以下の ようなものが挙げられる。

  1. 初期の皮膚症状の無自覚
    病初期の痛みがなく、被曝した部分やその被曝線量を可及的早期に 把握することが極めて困難であり、治療上その重症度を即時に 判断することは難しい。

  2. 症状の遅発性
    通常14日以上の潜伏期を経てから症状が出現する。また潜伏期の 間隔に関しては被曝線量との関係が深い。

  3. 難治性
    Thermal effectの場合、通常表層の障害が最も強く深部ほど その障害は軽い。感染を伴わない限り受傷後に深部が拡大する ことはないが、Thermal effectではしばしば深達性であり、 大量被曝の場合骨や深部組織にまで障害が及ぶ可能性が高く、 難治性となる。

  4. 反復性
    Thermal effectと違い、障害が反復したり6カ月以上の経過後 でも数年単位で血管に対する障害と局所の血流障害のため壊死 が深部に進行することがある。

Radiation effectによる障害

 核種・被曝線量・被曝部位の放射線感受性など、様々な 因子が存在する。

【病態&症状】

【治療】

 治療法の選択には重症度の判定が必要だが、放射線皮膚障害は 上述したように時期ごとに変化しまたその経過は長いため、温熱 熱傷のような深度分類だけでは充分な重症度(深達度)の判断 はできない。今回提示された資料には以下のような臨床症状、 潜伏期間を盛り込み、時期や臨床症状双方を合わせて判断する よう注意を促す深度分類が記されていた。

深度臨床症状潜伏期 間治療法
Is無症状〜軽度色素沈着4週間保湿
Id落屑が見られるが、障害を受けた部分からの 表皮の再生が始まる4週間軟膏療法
IIs水疱がみられ表皮が剥離するが、周囲ないし附属器 から表皮が再生する。4週間軟膏療法
(抗菌 作用を有するもの)
IId表皮が剥離、真皮層が潰瘍化しフィブリン 膜に覆われて上皮化しない2週間植皮術
III表皮・真皮ともに血流に乏しく壊死となる 1週間植皮術


第7章 予想外の増加に転じた世界の援助

世界災害報告 2000年版、p.74-91


 1998年、開発途上国に対する資金援助は予想外に増加した。これは、ODAが前年を上回り同時期の民間資本流入の減少分を帳消しにした結果であった。

〇ODA:

  1. 1998年 519億米ドル(+9.6%)
  2. 1992〜1997年は下降傾向(1996 555億米ドル 1997 484億米ドル)
  3. 保健衛生に対するODAの額は1991年以来最悪であり、そのうち基礎保健に向けられるシェアは下落し続けている。
  4. 主要7カ国の援助は国民総生産(GNP)比でみると低い。

〇民間による資金援助:

 1998年、開発途上国への民間資本流入が落ち込んだことは、開発途上国に大きな影響を与えた。ここで、民間資本の中ではより安定した形である海外直接援助(FDI)を例に挙げて考えてみる。

海外直接投資(FDI)

  • 1997年の1730億米ドルから1998年の1660億米ドルに下落した。この減少分は同期間のODA増加分の2倍分であり、変化が激しい。
  • 一握りの大きな国に集中する傾向がある。
  • 民間資本の流入は必ずしも有効に使われてはいない。
    →経済変動に対する防御手段として予備的に蓄えられるか、新たな生産能力を強化するよりも、現地の会社を買収するために使われている。
  • 社会サービスが弱い地域や、経済開発が必要な地域に投資される保障はない。
  • 海外企業は投資から高いリターンを求めている。(リスクの高いとみなされている非常に貧しい国々への投資の埋め合わせとして)
    →債務問題

    債務問題について

     この問題を解決するためにHIPC(重債務貧困国)債務救済イニシアチブが国際的に行われている。これは、過重債務にある最貧国に対し債務から抜け出す恒久的な方法を提供するもので、この債務救済を受けるためには債務国は、主な債権国と多国籍機関の影響下で作成される構造調節プログラムといった経済計画を受けなければならない。しかし、これは債務を終わらせることが目的であって、保健、教育への支出に資金を提供するものではない。そのため、公共衛生に対して様々な影響を受ける。(保健予算の縮小etc)また、債務の見直しは複雑なものであるため、イニシアチブの措置後にそれまで以上に高額の債務返済に直面する可能性がある。

    現在の問題点

     ODAに関しては、長い期間減少していたが、1998年に緩やかに回復した。しかし、累積した不足分は、回復分をはるかに上回る。また、各国のGNP比は平均0.24%であり国連の目標値である0.7%をはるかに下回っている。(目標に達しているのはデンマーク、ノルウェー、オランダ、スウェーデンの4カ国のみである。)もし、より多くの国が国連の目標値に達していれば、開発途上国の貧困の大部分を回避できたであろうと思われる。

     民間資本に関しては、変化が激しく、開発途上国に対して大きな影響を与える。また、社会サービスのために利用するわけでもない。そのため、民間資本の投資に頼ることは危険であると思われる。

     このように、援助の規模は対象を絞らずにただ増やすだけでは、逆に、開発途上国の発展を遅らせる場合もある。今後は、貧困削減、保健・教育の発展などに対していかに債務救済と援助増加を調節していくかが重要になると思われる。


    第1章 都における災害時医療救護活動の概要(下)

    東京都衛生局医療計画部医療対策課、災害時医療救護活動マニュアル、社会福祉法人 東京コロニー、1996、p.15-25


    区市町村と都の役割

     災害時に区市町村は、地域の被害状況に応じて開設する医療救護所に、救護班を派遣するとともに、医薬品や医療資器材の備蓄に努める事となっている。

     都は、区市町村を応援・補完するために、都直轄医療救護班の派遣や医薬品・医療資器材などの備蓄を行うとともに、重症者を収容して治療を行う、後方医療施設を整備する事となっている。

    災害時後方医療施設の整備

     後方医療施設とは、東京都災害時後方医療施設、救急告示医療機関及びその他の病院等で、被災を免れたすべての医療機関をいう。災害時に旧互助では対応できない重症者については、後方の医療施設に搬送し、入院・治療などの救護を行う事になる。

    医薬品等の備蓄体制

    (1)医薬品・医療資器材の確保

     医療救護班が使用する医薬品・医療資器材を確保するため、区市町村においては2日分、都においては、直轄医療救護班が5日間活動できる量の117000人分と、緊急補充用22500人分、計139500人分を備蓄している。また、医療救護活動用の医薬品などが不足した場合には、東京都医薬品卸共同組合の協力を得て、幹事卸会社15社の物流センターなどを活用し、調達する事になっている。

    (2)血液製剤の確保

     都は、日本赤十字社東京支部及び献血供給事業団との連携を図り、災害時に必要となる血液製剤を備蓄するとともに、供給体制の整備に努めている。

     平成8年2月末日現在、都の血液製剤の備蓄状況は、ヒト血清アルブミン(20%, 50 ml/1本)を計8760本、新鮮凍結ヒト血漿(80ml/1本)を計4000本である。

    搬送体制

    (1)負傷者などの搬送

     医療救護所の責任者は、後方医療施設に収容する必要のある者が発生した場合は、都衛生局長または区市町村長に搬送を要請する。

     搬送は、原則として被災現場可ら医療救護所までは、区市町村が対応し、医療救護所から後方医療施設までは、都及び区市町村が対応する事になっている。

    (2)医療スタッフ・医薬品などの搬送

     医療救護班などの医療スタッフや医療救護活動に必要な医薬品・医療資器材の搬送は、原則として、区市町村の派遣する医療救護班については区市町村が、都衛生局の派遣する医療救護班などについては都が対応する。

     都は、区市町村長の要請により、搬送の応援体制を確立するとともに、必要に応じて、応援協定等に基づき、国や関係市等に広域搬送を要請する。

    (3)搬送体制の整備など

     都は、自動車・ヘリコプター・船舶など、複数の搬送手段を確保するとともに、ヘリコプター緊急離発着現場の整備を図る事になっている。

     また、相互応援協定に基づき、国や関係県市等との広域的搬送体制の整備に努めている。

    医療救護活動への支援

    (1)医療機関の防災能力向上への支援

     都では、災害時の地域の医療拠点として、「東京都災害時後方医療施設」の整備を進めているが、多数発生する負傷者等を、全て収容する事は困難であるため、被災を免れた医療機関の空床や廊下、会議室などを臨時の収容所にするなどして、負傷者などの収容を行う事としている。このため、上下水道・電力・ガスなどのライフライン機能が停止した場合に備えた対策をはじめ、医療スタッフや医薬品などの確保、施設・設備の耐震化指導、防災訓練マニュアルの作成などを通じて、医療機関の防災能力の向上に努めている。さらに、近県市等との広域後方医療に関する応援体制の確立にも努めている。

    (2)都立病院などの整備

     都立病院は震災発生時には、各地域の後方医療施設として救護活動の拠点となるもので、現在の施設のうち、老朽化などにより改築の必要性が認められる施設については、安全に災害時医療救護活動ができるよう、必要な改築を行う事としている。

    関係機関の連携と役割分担

    機関別活動内容

    (1) 区市町村

    1. 区市町村長は、必要に応じ、地区医師会の協力を得て医療救護班を派遣するとともに、派遣状況を都衛生局長に報告する。また、区市町村の対応能力のみでは充分でないと認められる時は、都衛生局長及びその他関係機関に協力を要請する。

    2. 市町村は、医療救護の実施にあたり、関係機関と十分協力する事となっている。

    (2)都衛生局

    1. 都衛生局長は、区市町村から医療救護班の派遣及び医薬品などの供給要請があった場合、又は被災状況により医療救護の必要を認めた場合には、速やかに直轄医療救護班の派遣や必要な医薬品などの供給を行う。

    (3)関東信越地方医務局

    1. 都からの要請により、国立病院などの医療救護班を派遣して、医療救護活動を行う。

    (4)日本赤十字社東京都支部

    1. 指定公共機関としての責務に基づき、都の要請の無い場合でも、積極的に医療救護活動に協力する。

    (5)都医師会

    1. 指定地方公共機関としての責務に基づき、積極的に医療救護活動などに協力する。

    (6)都歯科医師会

    1. 指定地方公共機関としての責務に基づき、積極的に歯科医療救護活動等に協力する。

    (7)都薬剤師会

    1. 指定地方公共機関としての責務に基づき、積極的に医療救護活動などに協力する。

    (8)献血供給事業団

    1. 指定地方公共機関としての責務に基づき、積極的に医療救護活動などに協力する。
    2. 都衛生局長から、血液製剤の供給要請があった時は、日本赤十字社東京都支部などと協力して行う。


    第3編 第1章 事前のライフスポット・システムの整備

    地震防災対策研究会、自主防災組織のための大規模地震時の避難生活マニュアル、(株)ぎょうせい、東京、1999, pp.238-249


    ≪必要性≫

     災害直後にライフラインが途絶した場合においても、救援物資が届くまでの間、被災者が最低限の自立した生活が送れる程度の生活関連物資などの確保を図るために、事前のライフスポット・システムの整備が必要である。

    ≪ライフラインとは≫

     水道、電気、ガス、下水道、生活物資、情報通信、交通など、生活関連物資を提供するルートのこと。

    ≪ライフスポットとは≫

     災害時にライフラインが途絶した場合でも自立した生活を確保できるよう、ライフラインに頼ることなく生活を支援できる拠点のこと。

    ≪ライフスポット・システムとは≫

     近隣の生活圏の公園、小中学校、社会福祉施設、医療施設、生協、コンビニエンス・ストア、給油所などの地域の既存ストックを地域の防災システムに組み入れ、緊急時の防災活動に活用しようとするシステムのこと。

    ≪事前のライフスポット・システムの整備の手順≫

    1)ライフラインの途絶状況など、被害の想定

    2)生活関連物資などの確保水準に関する目標の設定

     *個別の生活関連物資ごとの確保水準の目標

    (i)食糧の確保
    1. 一般被災者用のアルファ米、乾パン、缶詰など
    2. 要援護者用の流動食
    3. 乳幼児用の調整粉乳

    (ii)水の確保

    1. 飲料水(一人1日当たり3リットル)
    2. その他の生活用水(一人1日当たり20リットル)

    (iii)エネルギーの確保

    1. 非常電源(照明、小型ポンプ、情報通信機器などのため)
    2. 乾電池(携帯ラジオ、懐中電灯など)
    3. 灯油(冬季の暖房用)

    (iv)その他の生活関連物資などの確保

    1. 炊き出し用品(大鍋、食器など)
    2. 衛生用品(生理用品、紙おむつなど)
    3. 毛布、下着(要援護者用)
    4. 防災資機材(担架、テント、小型ポンプ、仮設トイレなど)
    5. 救助用資機材(バール、ペンチなど)

    3)ライフスポット・システム整備の基本方向の決定

    (i)ライフスポット機能の内容

     ライフラインの代替として次のような機能を果たすことが必要である。

    (ii)ライフスポット・システムの整備を推進する生活圏のあり方

     近隣の生活圏のコンビニエンスストア、給油所、小中学校、社会福祉施設、医療施設、生協など種々の公共施設や民間施設が連携・補完し、地域のストックを有効に活用できるようにする。自治会・町内会を母体とする自主防災組織同士が小学校区レベルで連携し、日常から災害時に備えた地域活動を展開することが大切である。

    (iii)ライフスポット・システムと家庭・地方公共団体の備蓄との関係

     大規模災害時には各家庭や地方公共団体が備蓄をしていても、予想外の生活関連物資などの不足が生じ得ること、地方公共団体が備蓄をしていても、避難場所などに搬送するのに相当の時間を要することから、ライフスポット・システムには以下の二つの考え方がある。

    4)各ライフスポット機能別整備の具体的方向の決定

     全ての生活関連物資などを整備することは困難であるので、特に緊急を要するもの、要援護者に必要な物資、代替性のない物資に重点をおいて整備を進める。

    (i)食糧関連機能の整備
    (ii)水供給関連機能の整備
    (iii)エネルギー関連機能の整備
    (iv)その他

     以上のことにおいて具体的に、何を、どこに、どれだけ備蓄するかを検討し、定期的に備蓄の更新を図っていく。


    ■救急・災害医療ホ−ムペ−ジへ/ 災害医学・抄読会 目次へ