災害訓練において「大地震が発生し、多数の傷病者が発生し、入院を要する傷病者を4施設 に搬送する」との災害想定に、4つの大量患者受け入れ施設から訓練評価を要請された。当 院の常備救護班員より、医師・看護婦・事務職各1名を1チームとして各施設にそれぞれ検証 チームを派遣した。その際、事前にチェックリストを作成し、これを用いて訓練評価を行っ たので、その有用性について報告する。
また、フリーコメント欄を設け、写真撮影など記録することを推奨したり、否定的見解で はなく建設的な肯定的評価を行うべきであるとする留意事項を加えたりするなどの工夫を入 れた。
災害訓練に対する評価は、他施設の評価を行うことへの苦手意識も手伝って、その多くが 単にいくらかの印象を述べるに過ぎない講評が多いように思われる。災害訓練後の検証や評 価について、その重要性は誰もが認めるものの、実際に評価に盛り込む項目や方法論につい ては、未だ標準となるものが示されていないのが現状である。
一方、防災に強い関心を持つ施設では、独自に訓練を始めつつあり、災害拠点病院などに 助言・指導などの他に、訓練についても率直で厳正な検証を望みつつあるのが実感される。 災害拠点病院は他施設の行っている訓練の是非についての疑問に答えなければならない時代 を迎えている。これは、防災訓練の評価・検証の方法について真に標準となるものが必要と なってきたことを意味すると思われる。
今回のチェックリストの作成による評価では見落としが少なかったことを考えると、検証 に不慣れな班員を時間的余裕のない状況で検証班として派遣するためには、評価に客観性を 持たせるという意味でチェックリストを作成した上評価することが最善と考えた。
2.職種別の評価
それぞれ職種の異なる者を1チームとして派遣したのは、それぞれの立場でそれぞれの職 種の動きをよく把握できると考えたからであるが、結果としてそれぞれの立場でそれぞれの 職種の動きを注意深く検証することで共通の認識と職種独自の発見をしており、その狙いは 正しかったと思われる。
3.評価の標準化と個別化
前述のようにチェックリストの使用によって評価に客観性を持たせることには成功した が、災害には多種多様な設定が必要であり、今後、それぞれの状況設定に応じて検証するた めのチェック項目やチェックリストが必要であると思われる。
ただ、どの災害訓練でも共通に評価・検証しなければならない項目も存在するはずであ り、問題は、どの項目を重要と考えて盛り込むかにある。それにより、ある程度標準化され たチェックリストも作成可能かも知れない。
2.タッグの紙質
3.タッグの形式
4.タッグ用紙の枚数
5.タッグに用いる色の区分
北大西洋条約機構(NATO)は、アルバニア系住民に対して
犯した戦争犯罪で起訴されているスロボダン・ミエロビッチ大統領率いる
セルビア系中心のユーゴスロビア系政府に対し、この半世紀の間ヨーロッパ大陸で
前例のない厳しい爆撃を行った。この紛争により、100万人以上の難民がコソボを
離れざるを得なかった。
しかし、初期の人道援助は、多くの意味において、現代ヨーロッパの難民危機に
おいて、十分に対応できるものではなかった。集中的なメデイアの報道により、
数百の援助機関がコソボに群がり、また、各NATO加盟国の人道的、政治的
関心とあいまって、支援活動の調整は困難であった。「コソボでは、様々な
人々が事業を展開しており、さながら人道援助機関にとっての
クロンダイク(ゴールドラッシュ)のようだ」と赤十字国際委員会保健医療担当
調整官、フォーク・ランペンは語った。
さらに、最も問題とすべきことは、これまでの緊急事態と同様、
国連およびNGOによる人道活動の効果的な調整が行われなかった
ことであろう。そのため、救援活動や物資の重複が生じたり、
多くの団体のプロジェクトが不適切で短期間に終わったり、実際
必要数の2〜3倍ともなる海外からの医療チームの過剰が
生じるなどの問題が発生した。また、不適切な医薬品が企業や
ドナーから大量流入してくるという特殊な状況の中で、
製薬会社が不要な在庫を処分するために、人道危機を利用すると
いうような事態まで発生した。
以上の状況により、WHOはNATO軍による空爆に先立ち、
WHOの緊急援助部門が行った保健医療ニーズの事前調査に基づき、
コソボ危機における公衆衛生支援の調整を行った。
以上の事態より、今回の対策の問題点を考えてみる。
コソボでは、現在緊急事態は脱出できたが、長期的フォローが必要な様々な問題が
出現している。そのため、現在の問題点とその対策を考えてみる。
世界最悪の原子力事故として知られる爆発事故が、1986年4月26日、現在のウクライナ北部の
チェルノブイリ原子力発電所で起こった。この爆発により推定1億5,000万から2億キュリーの
放射能が大気中に放出され、700万人以上が住む約15万5,000平方キロメートルの地域が汚染
された。事故から約15年たち、チェルノブイリはメディアの関心対象ではなくなってきた
が、この事故で被害を受けた人々の体・心・生活に与えた影響は大きく、現在でも非常に多
くニーズが満たされないまま残っている。
現在チェルノブイリ事故が原因とされる唯一明白な病気は、ヨウ素131を原因とする甲状腺癌
である。チェルノブイリ事故の影響を受けた地域における、事故前の甲状腺癌の年間報告例
は、100万人に0.5件から1件であった。事故後この内いくつかの地域では、甲状腺癌が100倍
まで急増した。
甲状腺癌の発生率が急増した原因として、チェルノブイリ付近の地域性も挙げられる。この
付近では昔からヨウ素欠乏症が多くみられ、人々の体は放出されたヨウ素131を吸収しやすく
なっていた。最も被害を受けたのは、胎児と事故当時4歳未満であった子供たちで、両者をあ
わせると甲状腺癌患者の42%にものぼった。彼らの被爆理由として、事故当時汚染されてい
ない食料が手に入りにくく、汚染した牧草を食べた乳牛のミルクを飲むしかなかったこと、
予防用のヨウ素錠剤の備蓄が無かったことが挙げられる。事故後、生乳飲用が即座に停止さ
れ、ヨウ素錠剤が予防策としてただちに配布されていれば、甲状腺癌の発生の急増は予防で
きたかもしれない。また、甲状腺癌は早期に発見して治療すれば、治癒率は95%にのぼる。
現在までにいくつかの都市では健康診断が実施されてきたが、今後の課題は都市より離れた
地域に住む人々にも十分な検査・治療を提供できる活動を行っていくことであると考えられ
る。
現在チェルノブイリ事故との明らかな関連性が示されているのは甲状腺癌のみである。しか
しチェルノブイリの被害を受けた人々では、白血病の発生率も全国平均の4倍にのぼってお
り、広島・長崎での原爆投下後初めにみつかった癌の症例が白血病であったことからも、白
血病発生率の増加へのチェルノブイリの影響を否定することはできない。
チェルノブイリ事故は、甲状腺癌発生率の増加、白血病発生率の増加にととまらず、他の癌
や先天異常、妊娠期の異常の増加にも影響していると言われている。
平成11年9月30日に東海村の核燃料加工施設において、わが国初の臨界事故が発生
した。同事故の教訓を踏まえ、このような事故が再び起きることのないよう、
安全規制体制の抜本的強化を図ると共に、万が一の事態に備えた万全の原子力防災
体制を構築するため、「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律」および「原子力災害対策特別措置法」が、慎重な審議を経て平成11年12月13日に可決、
同年12月17日に交付された。「炉規制法一部改正法」は平成12年7月1日に施行された。
上記2つの法律の整備により、より早く事故情報を得、原子力事業者からの情報で
事故の規模の大きさや二次災害の可能性の有無を確認することができれば、
被ばく者をより少なくし、また治療開始時刻を早めることができる。
原子力事故は万が一にも起こってはならないが、事故がおきないとは
言い切れない。万々が一の事故のための対策を各医療機関においても
練っておくことが必要ではないだろうか。
1999年8月17日に発生したトルコ・マルマラ地震は17000人以上の死者と多くの行方不明者を
出した。各国からの被災地への国際支援やボランティア団体の活動など、衣食住への継続的
な様々な支援活動が行われてきた。
トルコ地震被災地支援調査団の見聞では行政や民間団体等の応急対応について学ぶべきもの
は多かった。
トルコ・マルマラ地震の発生して直ちに被災地で救助活動を組織的に行ったのは救命ボラン
ティア組織であり、救助救急組織としての消防組織ではなかった。トルコの消防隊員の総数
は18678人とのことであるが、自治体に属して公務を行っており活動は限られた範囲にとど
まっている。
これについてトルコ大使館から提供された資料では以下のように説明されている。
トルコにおける自然災害に対する救助支援組織としては市民防衛隊が存在している。トル
コ・マルマラ地震でもこの組織は活動している。指揮系統が整うまでに多少の時間がかかっ
たが3時に起こった地震に対して7時30分には被災者の救助活動をはじめている。
市民防衛組織の組織内容としては内務省に直属しており、中央においては順番に大臣、次
官、副次官および市民防衛本部長、地方においては県長官(官選)、市長官(官選)が責任
者である。
市民防衛組織の隊員教育は市民防衛学校で行われている。
隊員以外への教育は地方市民防衛組織の講演で行われている。また国民教育省に属する学校
では市民防衛が授業の中で教えられている。
また、あるマスコミの人がどのように震災を見ていたかについては以下のように説明されて
いる。
〇地震教育について
〇地震時の政府の対応について
〇地震後の政府について
〇トルコ人の地震時の対応について
トルコの建物について
トルコの赤十字社について
総括
政府の発表では地震の4時間後から消防組織が行動していたとあるが現実には一番早かった行
動を挙げていると思われ、市民の感じるところとはかなりずれがある内容になっている。こ
のことは日本でも同じだと考えられ、大規模な組織では指示系統がしっかりするのに時間が
かかるため、災害時の救命活動には非政府組織の活動や地域単位での組織のほうが適してい
ると考えられる。地域単位での組織活動を展開するためにも地震教育などの災害教育は大切
なものだと考える。
災害発生時において、長期間にわたり避難所での生活を強いられる避難者の心理的・身体的
ストレスは計り知れないものがある。近年では阪神・淡路大震災後の避難所生活において大
きな問題とされた。以降「災害時の避難者に対する心理的支援プログラム」の作成が求めら
れ、日本赤十字社(以下日赤)において研究されてきた。
その研究をふまえ、平成12年3月31日の有珠山噴火に伴う避難者に対して、日赤にとって初め
ての系統的に組織された心理的支援活動が実施された。
その活動の具体的内容・結果を分析・評価することは、心理的支援プログラムを改良するた
めに必要不可欠であると考えられる。
調査の結果、行政の指示により生活する上での基本的な援助はあったものの、
プライバシーが保てない・床が硬くて眠れないといった避難生活そのものから来る問題、自
宅などの財産に対する被害の問題、情報不足による将来への不安という問題がみられた。
そこで下記のように3段階の心理的支援のプログラムを作成した。
PRIVATE CAREとしては、
SPECIAL CAREとしては前述のように、
心理的支援プログラムの実施にあたって、MASS CARE ・PRIVATE CAREに関しては、ボランティアや学生、理学療法士や作業療法士など幅広い職種の多くの人々の協力により、多彩な支援が可能となった。心理の専門家のみが支援にあたったならば実施は不可能であったことは容易に予想される。
一方より高度なPRIVATE CARE、またはSPECIAL CAREに関しては、十分な対応ができていないのが現実である。それらを実施するには一定以上の技能を持った人間が求められるが、現在は人数・技能ともに不足している。実際の支援活動の大部分をボランティアに依存している現状で、今後より多くの被災者に対応するためには、平時から心理的支援の専門ボランティアを養成し、人数を確保しておくことが重要だと思われる。
訓練での使用経験からみた本邦のトリア−ジタッグの問題点
溝端康光ほか、日本集団災害医学会誌 6:17-23, 2001
【トリアージ・タッグの統一モデル】
【記載方法及び記載内容】
【記載上の注意事項】
【記載情報】
【トリアージの変更】
第6章 コソボ:人道援助機関にとってのクロンダイク(ゴールドラッシュ)
国際赤十字・赤新月社連盟 世界災害報告 2000年版 p.110-127
<調整の欠如で生じた混乱>
<調整の改善点>
<コソボの現在の問題点>
<今後の方針>
第5章 チェルノブイリ:長期にわたる災害
国際赤十字・赤新月社連盟 世界災害報告 2000年版 p.92-109身体への影響
ヨウ素131 半減期8日で、甲状腺癌の原因となる。 セシウム137 消滅まで今後300年かかる。食物連鎖に入り込み、野生食物に蓄積する。 ストロンチウム90 分解に西暦2266年までかかる。骨髄を冒す。 プルトニウム239 24万4000年存在し続ける。塵として吸い込むことにより肺癌を引き起こす。 2.心への影響
3.生活への影響
[学生の考察]
「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律」および
「原子力災害対策特別措置法」について
月刊消防
「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律」概要
「原子力災害対策特別措置法」概要
原子力災害には以下のような特性がある。トルコ・マルマラ地震被災地の実情について
山下 亮、月刊消防 22巻 8号(通巻 252号)p.50-55, 2000
災害時の避難者に対する心理的支援プログラム
槇島敏治:日本集団災害医学会 6: 31-36, 2001【初期調査】
【具体的プログラムの作成】
【プログラムの実施】
子供や老人を対象に遊びや会話の相手をする(不特定に対し)
健康教室(健康体操の指導)
ストレス解消法のプリントの配布 等が実施された。
会話の相手をする(ストレスが高いと思われる避難者に対し)
カウンセラーによるカウンセリング 等が実施された。
精神科医師による個別治療を提供する 等が実施された。【考察】