災害医学・抄読会 2001/09/28

Part 1 巨大地震は東京に必ずやってくる

竹内 均、迫り来る巨大地震 Newton別冊、2001年2月10日号、p.6-31


[問題提起]

   日本列島は4つのプレートが近づきあっている部分にあり、非常に地震が起こりやすい状況である。しかしながら、6400人もの死者を出した1995年の阪神・淡路大震災や2001年の芸予地震などの大規模災害で浮き彫りになったようにわが国では地震に対する十分な対策が講じられていないのが現実である。また、今年8月27日には政府の地震調査委員会により、マグニチュード8を越すと想定される東南海地震と南海地震について今後30年以内に起きる確率は40〜50%に達するとの評価結果が公表され、関東から九州までの幅広い地域に大津波や強い揺れによる被害が心配されるため、中央防災会議は国として対策を立てる方針となった。そもそも日本列島の南側では、フィリピン海プレートが陸のプレートを引きずり込みながら沈み込み、四国沖にかけての海底に南海トラフと呼ばれるくぼみを作っている。このトラフ沿いに地震が起こるとされ、陸のプレートのひずみが限界に達するとばねのように跳ね返って巨大地震になる。西日本では南海地震が近づくと列島内部の地震が増えるという見方があり、阪神大震災を皮切りに、鳥取県西部地震・芸予地震と続発する地震に警戒を強めている。消防庁においては沿岸の津波対策のほか、古い住宅の耐震化、住民の防災意識の啓発、広域的な連携などを今後の課題としていく方針である。

 よって、この度は震災時における対策などについて考えていこうと思う。

[対策と方針]

 ●阪神大震災においては地震被害の内容が中央(東京)へ届いたのは地震発生から数時間も経過してからであった。これに対しては、危機の全容をリアルタイムで把握できるようなシステムが必要で、例えば、人工衛星・コンピューター通信・テレビ・ラジオなどをフルに活用すべきである。中央へ必要な情報が伝われば、そこから有効な災害対策が直ちにスタートされることとなる。アメリカにおいてはすでにこのような早期災害把握システムが存在しており、大規模な災害に対して多大な貢献をしている。

 ●住民自身に身を守るための備えが必要である。まず、大きな揺れが発生したときにはほとんどの人が動くことができなくなる。つまり、例え家具が倒れてきたとしてもどうすることもできない状況になってしまう。この対策として、私たちは倒れる危険性のある家具・食器棚・冷蔵庫などについては金具で固定するなどの予防を行うべきである。また、高いところにあり、落ちてくる危険性のある重いものについても極力下ろしておくほうがよい。観音開きの扉であれば、扉を金具でとめておく必要がある。とにかくこうした危険がないか、日頃から点検をしておくとよい。加えて、情報収集のためのラジオ・テレビを用意しておくことも忘れてはならない。このほかに、阪神大震災において役立ったものとしては、靴、これは瓦礫の山と化した路上を歩く上で非常に重要であった、地震直後の安全スペースを確保するための大きくて丈夫なテーブル、消火に役立つ水にぬれたシーツ、水を入れるためのビニール袋やペットボトル、防災ずきん、軍手、懐中電灯、ろうそく、ポケットヒーター、乾パンや缶詰、現金などがあった。さらに、ガラス飛散防止のための粘着テープなどもあるとよいことが分かっている。こうした身の回りのものをひとつにまとめていつでも持ち出せるように日頃から準備しておくべきである。

 ●地震が発生したときには、自宅や職場などばらばらに散らばっている家人、親戚との連絡が欠かせないのだが、災害によって通信がマヒしてしまうことも少なくない。これに対しても日頃から、連絡法、集合場所などについて話し合っておくと非常によい。また、災害時における緊急連絡ルートも国や機関が確保できるようにしていくべきである。

 ●[他の資料の引用] 医療体制についてだが、阪神大震災では、1)全体像を把握し、指令を行うべき中央機関自体が被害を受け、医療施設の被害状況や活動状況等についての情報収集が困難であったこと、2)医療搬送ニーズに加え、消防・救急救助ニーズも同時にあり、併せて道路の被害や被災者の避難などで大変な混雑となったため、円滑な患者搬送、医療物質の供給が困難であったこと、3)医療施設自体は損壊を免れてもライフラインが破壊されたとか、設備もしくは設備配管が損壊したために診療機能が低下した医療機関が多く見られたことなどの問題点があげられた。

 よって今後、1.災害医療情報システムネットワークの確立、2.災害医療拠点病院の整備、3.地域レベルでの災害対策の強化、4.病院レベルでの災害対策の強化(建物自身の耐震性の確認・自家発電装置・貯水槽・設備機械の固定・手動式医療器具の確保・防災対策マニュアルの作成と訓練・トリアージなど)、5.医療品などの供給システムの整備、6.災害時の搬送システムおよび広域搬送システムの確立(救急車・自家用車・ヘリコプターなど)、7.医療関係者に対しての災害医療に対する研修・訓練の実施・医療ボランティアの活用、8.国民に対する一次救命処置などの普及などが緊急に整備されるべきであると提言されている。

[感想]

 今後もし、以上のような対策が実行されれば、例え大きな災害が起ころうとも、かつてのような大惨事は避けることができるのではないかと思う。しかし、対策を講じるべき内容が膨大で複雑であるため、確立までにはまだ時間がかかりそうである。よって、まずは家や持ち物など身の回りの災害対策から始めていきたい。そして何よりも私たちは、過去の災害を決して忘れることなく、今後災害が起こることを想定した上でそれぞれの立場で防災に注意を払っていく必要があるのではないかと考える。


第 IV 章 災害現場における緊急医療のための救急医療セットと出動装備に関する研究

二宮宣文、平成8年度 災害時の救助・救急活動への医療支援に関する研究委員会報告書 p.54-70


1、 基本的概念

 (1)救出現場

 負傷者をまさに救出している現場であって、危険な状況での救命処置が行われる。装備は、個人が軽快に搬送できる量に集約されるべきである。

 (2)現場救護所

 救出された負傷者を一時的に収容し、トリアージ、応急処置を行い後方救急病院に搬送されるまで患者の生命、状態を維持するところであり、その患者滞在時間により小規模救護所、中規模救護所、大規模救護所がある。

2、 救出現場(出動装備)

 (1)ユニホーム

ア、安全性・・二次災害として負傷しないような丈夫な素材、安全なデザイン。
イ、装着性・・体力の消耗を最低限にし、快適に医療活動を行う服。
ウ、作業性、機能性・・悪条件の中、少人数で医療活動をおこなうための作業、機能性が必要である。
エ、収納性・・移動をしながらの治療が予想され、医療用具を整理し収納するポケットが必要である。

 (2) 装備

ア、ヘルメット・・現場で落下物から頭部を保護する。
イ、帽子・・日差しを避け雨よけにもなる。防水性でひさしの付いた軽いもの。
ウ、医療用ベスト・ブルゾン・・医療器具器材を収納し、迅速な初療ができ るもの。さらに発汗性、速乾性がよく、医療スタッフであることを明確にするよう視認性がよく、負 傷者が安心できるようなデザイン、カラーがよい。
エ、ズボン・・通気性、作業性がよく丈夫なものがよい。
オ、靴・・丈夫で装着性がよいもの。全天候性で、底の厚い安全性の高いもの。

 (3)個人携帯救急医療セット

 コンパクトで、リュック機能や車輪があり、重量10s以下におさえたものがよい。

 1)観察・診察セット、2)気道確保、人工呼吸セット、3)静脈路確保、輸液セット。4)胸腔ドレナージ、5)導尿セット、6)小外科セット、7)四肢切断セット、8)衛生材料・固定器具

 9)救急医薬品:心臓血管系(エピネフリン、硫酸アトロピン、フロセミド、ニトログリセリン、プロプラノロール、アダラート舌下カプセル等)、外科系(塩酸ケタミン―静脈麻酔薬、ジアゼパム、ペンタゾシン―鎮痛薬、リドカイン―局麻薬、マンニトール、重炭酸ナトリウム消毒薬等)、その他(1号輸液、ジアゼパム、インスリン、洗浄用生理食塩水)、10)酸素ボンベ 11)ヒートバック(寒冷地において患者をあたためるキット)

3、現場救護所

 (1)小規模救護所

 数時間以内で後方救急病院に搬送できる体制である。診療用テントおよび風雨、直射日光から患者を 保護し数時間患者を収容できる簡易テントが必要であり、緊急無線や衛生通信機材があるとよい。診 療用機材として消毒、固定、輸液などの応急処置が可能な医療セットとバイタルサインチェック機材 が必要である。さらに簡易ベッド、または担架も必要である。

 (2)中規模救護所

 地域救急病院が被災し数日間機能しなくなったり、能力以上の患者発生にて受け入れ不可能となった 時、被災地域外への患者搬送が可能となるまでの数日間患者を入院加療できる施設。デブリードマ ン、四肢切断などの小規模手術室セットがある方がよい。

 (3)大規模救護所

 搬送先である後方病院も被害をうけ、緊急患者転送ができなくなった状態の時に必要となる救護所で ある。1週間以上の入院治療設備があるいわゆる野戦病院である。

まとめ

 災害現場における緊急医療のための救急医療セットと出動装備は小規模のものから災害規模や既存 の医療施設の被害にあわせた対応が必要である。装備・備蓄は、個人装備のレベルから、地域復興ま での地域医療レベル維持のための病院までを考えて備えておかなければならない。さらに、これらの 装備等は災害時だけでなく普段の診療活動でも救急医療・レスキュー医療隊出動などに使用してお き、平時の医療活動の延長として装備を使いこなすようにしておくことが重要である。

考 察

 災害時の医療では、現場におけるtriage、搬送のtransportation、医療機関での治療treatmentの 3つの頭文字をとってthreeTが必要といわれている。現場における救命処置が適切に行われなけれ ば、threeTの第一段階でつまずくこととなる。災害が起こることによって、通常では対処可能な傷 病者の治療も行えない状況に陥ってしまう可能性がある。そのような現場で医療従事者が冷静に判断 し、適切な救命処置を行えるかどうかが、大量の患者の予後を大きく左右する。

 災害現場において、装備、救急医療セットが本当に使用できるか、必要なものが欠けてないか、不必 要なものはないか、など、変化していく社会にあわせた対策を常に考えていく必要があるだろう。


第 V 章 災害現場における救急医療の実践に関する研究

金田正樹、平成8年度 災害時の救助・救急活動への医療支援に関する研究委員会報告書 p.71-86


【はじめに】

 1985年のメキシコ地震は「今世紀最大の都市型地震」と言われ、死者1万人負傷者4万人の人的被害を出した。数多くの倒壊した建物の中に生き埋めになった者があり、これらに対して各国のレスキューチームの救出救助が早期から開始された。様々なレスキューチームが活躍する中で、印象的だったのがレスキュードッグとレスキューチームの存在であった。また、瓦礫の中でレスキューチームと共に行動するドクターの存在も大きな驚きであった。

 これは救出救助の場面に医療が直結して医療の空白時間をなくし、人命救助を進めるのに大いに役立つことであった。しかし、現在の日本においてもまだこの図式は明確ではなく、交通事故や航空機事故などの現場で医師が活躍した例はあっても、現場で緊急手術をした例はない。ここでは1分1秒を争そう人命救助の災害現場において、レスキューチームと医師がどのような協力のもとにSRMを展開してゆくべきかを実践的観点から述べてみたい。

 1.救出現場の状況

 まず災害の中でもその発生した原点が、「点」であるのか「面」であるのかによって、場面は大きく変わってくる。例えば列車事故や航空機事故、玉突き事故などの「点」である場合は現場へのレスキューなどのアクセスなどは問題なく医療チームが現場で行動するにしても問題はない。しかし地震災害などの「面」の場合では救助地点が数多く存在するために救助は困難である。そのため平時からかなり計画性のあるSRMを考えておくことが大切だと言える。

 2.現場での医療判断基準

 被災地から多数の要救助者の要請があった場合、どこから優先して救助するのか?というと、非常に難しい問題ではあるが、その優先順位は 1)複数の生存者がいる場所、2)二次災害発生の危険性が少ない場所、3)要救助者のバイタルサインが確実にとれ、緊急を要している事 などが挙げられる。つまり、複数の救助者が生じた場合は、救助しやすい所から優先していくべきと考えられる。

 3.現場医療の実際

 現場では患者の状態把握が大きなポイントになる。それにはまず患者の外見が観察できるかどうか、バイタルサインは測定できるか、局所状態も観察できるかの状況によって変わってくる。これが救助活動の成否を決める鍵になる。

 現場において、医師が知っておくべき8つの項目というものがある。

 1.脱水の管理、2.脱臼の整復、3.創傷の処置法、4.刺入物の抜去法、5.疼痛の管理、6.頭部外傷、脊髄損傷の診断と応急処置、7.低体温症の管理、8.CPRの限界 である。

 救出救助に手足が瓦礫などの下敷きになり、救出困難な場合、救出時間が長引き、これ以上の時間経過は患者の生命の危険に関わると判断したのなら手足の切断をもって救出したい。現場の医療としては最も決断がいる時でできれば複数の医師または看護婦がいて、一人は全身状態の管理をし、一人は切断術を施行するチームであることが望ましいと言える。現場での医療は、望ましい状態で医療を行えることはないので、はじめから悪条件の中で切断術を施行するという認識をもってあたらなければいけない。

4.後方搬送

 災害にあった傷病者は、救出後も全身管理や手術が必要となるので一刻も早い救急車、ヘリコプターなどによる搬送が必要となる。また受け皿となる病院も災害にあっていては、正常な医療活動ができないため、被災地からはなれた病院に搬送するのが望ましいといえる。

5.救護所での医療

 同じ地域に多数の要救助者がいた場合、学校などを臨時救護所とし、後方搬送などの拠点とする。大規模災害においては、この臨時救護所の設置が大きな役割を果たす。

6.考察

 災害現場でSRMが実施できれば、その救命率が高くなるのは目に見えている。しかし、実際問題としてこれに参加できる医療関係者がはたしてどのくらいいるのか。また、レスキュードクターの養成はどのようにするのか。現実に、実行にあたっては問題がたくさんあるように思われる。わが国では、今までSRMに関する医学的な研究もなされてこなかった。したがって、今回の研究を機に災害時の「人間の命」を救う研究が、これからも続けていかなければいけないし、それを確立していかなければならないと思う。


ドクターヘリコプターにおける看護職の役割

嶋田幸恵ほか:エマージェンシー・ナーシング 14: 968-975,2001


【目的】

 ドクターヘリコプター(以下ドクターへリと略す)は医師を傷病者の発生 現場に派遣することで早期に治療を開始し、救命率改善と後遺症害軽減に 結び付ける医療として近年関心が高まっている。このたび、ドクターへリ に同乗した看護婦(士)の意識調査を行い、ドクターヘリにおける看護職 の役割を明らかにすることを試みた。

【調査方法】

 2000年8月、ドクターヘリに同乗経験のある看護婦(士)にインタビュー を行い、回答を得た。質問項目は、a)ドクターヘリ同乗における実際の看 護内容、b)ドクターヘリに同乗して感じたこと、c)同乗時に困ったこと、 d)同乗時に重視したこと、e)看護職がドクターヘリに同乗する利点・問題 点、である。

 対象は救急看護に精通している看護婦(士)6名で、年齢は20歳代4名、 30歳代2名であり、男女各3名ずつであった。臨床経験年齢は平均6.7年 で、ヘリ同乗回数は6?51回とばらつきがみられた。

 なお、ドクターヘリには医師1名と看護婦1名が搭乗した。

【結果】

 1)ドクターヘリ同乗における実際の看護内容

 患者、家族への看護として、以下の6つのカテゴリーがみられた。

  1. 事前情報収集;急な要請のため情報は少なく、現場での観察も重視。
  2. 現場での患者の状態把握;バイタル、意識レベル、言動や表情の確認。
  3. 機内での看護;説明や声かけ、モニター確認、酸素投与、薬剤追加等。
  4. コミュニケーション;大きな声で耳元で、ジェスチャー、タッチング。
  5. 家族がいるときの対応;できる限り同乗を勧める、家族への声かけ。
  6. 受け入れ病院への連絡;患者の状態や今後のケアの方向性について。

 2)ドクターヘリ同乗時に重視したこと

 医師・スタッフとの協力を大切に、ミスをしない確実な援助を重視して いた。

 3)ドクターヘリ同乗におけるストレスと学び

 1人で看護する緊張感、現場での戸惑いなどから身体的・精神的ストレ スを感じながらも、やりがいや成長を実感していた。また入院前の現場 の理解が得られ、看護婦(士)としての視野の広がりを感じていた。

 4)看護職の同乗する利点と問題点

 利点として、医師とともに患者の早期治療に協力できるということや、 患者や家族の心理面への援助、看護の継続性など医師にはできない役割 もあげられる。逆に問題点としては、現場での処置や精神的援助の限界 が述べられ、医師が2名乗るほうが良いとの意見もあった。

【考察】

 将来的に今後、看護婦(士)が病院内だけでなく活躍の場を広げて、積極 的に自分の能力や可能性を地域社会で役立てていくことが必要となる時 代において、ドクターヘリに看護婦(士)が同乗することは、医療者の一 員としての地域社会への貢献にもつながり、その経験が看護の質の向上に もつながると期待される。


第2章 公衆衛生に関する優先課題の評価と対象の設定

世界災害報告 2000年版、p.36-51


 概要; 救援機関が活動している世界はめまぐるしい速さで変化してきた。災害は公衆衛生の発展を阻害し、脆弱な公衆衛生の基盤を作りだし、これらの因果関係の悪循環により、人道援助機関は複雑な状況に追い込まれている。そこでこの状況に対応するための政策として、素早い現状回復ではなくもっと長期的でかつ限られた資源で有効な支援を調査し選択するという試みが必要となってきた。今後直面する多くの難題に対処するための原則として以下の3つが挙げられる。

 1.勝ち負けよりも手法; 援助機関およびドナーは、共通の方法と標準の追求、開発と導入に共同で取り組まなければならない。売名目的で被災地を利用してはならない。全体を主導する役割を担う機関という考え方は実際の活動では機能しないようだ。理由は援助の世界に軍隊組織のような命令服従はないからである。調整の問題については主導的機関の地位を巡って議論するより「主導する方法論」に焦点を合わせることのほうが協同や協調につながり、より生産的であろう。

 2.戦略的かつ技術的パートナーシップ; 国境や専門分野を越えた協力体制は新しい手法を生み出し、その効果を増大させる。また、増加し多様化する緊急事態に迅速に対応するという必要性に迫られた活動環境の中に冷静で慎重な分析と考察を反映するには、各機関の間のパートナーシップを推し進め、スタッフに自らの活動について討論したり文書にしてまとめさせることによって判定と評価を行い、公衆衛生分野の援助にかかわる援助機関の説明責任と透明性を確立しなければいけない。

 3.現地の対応能力; 新しい手法は訓練を受けたものの手により初めて効果を発揮する。公衆衛生を改善するということは、人材と技術に投資することである。それにより現地の自助能力を高め、進行中の公衆衛生上の危機および将来的な災害の被害を軽減することができる。

 これらの原則を実現するためには、援助関係者は将来計画、研修、災害対策について真剣に考えなければならない。また、このためにはメディアの報道に左右されない一貫したぐらつかない資金調達が必要である。援助関係者は競争ではなく協力すべきであり自身の制約を超えて知恵を出し合い、より想像力を持ってより現地レベルでパートナーシップを生かした活動をしなければならない。

 学生による考察

 論文に掲げられた3原則は成功すれば強力な公衆衛生の基盤の元に世界全体の災害対策は大きく飛躍することだろう。しかし、筆者が援助関係者に要求していることが現実にすんなりと行うことができるかどうかは疑問である。これらの活動の拠点とも言える援助関係者およびドナーに対して、戦略的かつ技術的パートナーシップと現地の対応能力の改善のついては問題ないにしても、競争なき協力に直ちに順応できるだろうか。また、一貫した資金調達が可能であろうか。例えば発展途上国に対して先進国は明らかに社会的に経済的に優位な立場である。しかしそれはあくまで世界を客観的に見た場合であって、ドナーとして主観的な立場にたってみたところで、個人的には別だとしても、1つの機関として大きな不利益を抱えた自己犠牲とも言える課題にたいして果たして行動を起こすことができるであろうか。それが困難ならば、あるいは他方でこのリスクを緩和できるような逆の可能性も探ってみる価値があるかもしれない。


(4)各班の担当業務等に関する連絡調整 ―避難所運営会議

地震防災対策研究会、自主防災組織のための大規模地震時の避難生活マニュアル、(株)ぎょうせい、東京、1999, p.157-178


 避難所運営組織である避難所運営委員会が避難所の運営業務全体を統括し、重要事項の検討・決定にあたるとともに対外的には、避難所を代表して、市町村災害対策本部をはじめとする外部との折衝、調整等にあたります。なかでも管理班は、発災直後の避難誘導、避難所開設等の補助にあたる他、避難所の全般的運営管理に係る業務全般の執行にあたることになります。管理班の主な業務の執行のあり方については下記のとおりです。

1.避難所施設の管理

2.避難所施設の防犯、防火その他秩序の維持

 発災直後は、治安の悪化が懸念されるので防犯、防火のために対策が必要である。

3.環境衛生の維持

4.ボランティアの受け入れ・管理

5.記録の整理

 避難所の出来事を正しく記録するというだけにとどまらず、将来への教訓としても有用な資料となるので重要である。

6.備品の準備・管理

 事務用品、清掃用品などの在庫を確認し管理する。


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