社会的な対策としては、被災時のライフラインの確保、また災害規模の早期把握シ ステムを設けておく事が必要と思われる。早期に行政によって災害対策が始められれ ば被害を最小限度に抑えられるという事実は先の阪神大震災(1995年, マグニチュー ド7.2, 死者6432人)とロサンゼルス地震(1994年, マグニチュード6.8, 死者61人)と の比較で知られている事実でもある。
1.重信, 北方, 川上断層
2.小松断層
3.岡村断層
○ただし、この解析及び評価は、愛媛県の見解である
この調査結果は愛媛県においてもマグニチュード7クラスの大地震が起こる可能性 を十分に示唆している。これに対し、本県は地震災害が少なく危機意識も他県と比べ 低い事が予想されるため、地震が起こった際には大災害に発展する恐れがある。日頃 から防災意識を持つよう」、行政を通じての広報が望ましいと考えられる。
最後に参考までに愛媛県の防災本部の問い合わせ先を併記しておく。
災害医学の視点から言うと、松本サリン事件は市街地で起きた一般市民を対象とした
歴史上初の神経ガスによるテロリズムとみなされる。治療に関わった救急医の立場に
限定するなら、1)初期の救出活動へのドクターカーの派遣、2)有機リン中毒の診断、
3)早期よりの各病院における治療状況の情報交換、4)行政や医師会等による診断
包括医療協議会による対策ならびに調査研究活動の一元化、などの諸点が地方都市における
危機管理体制を考える上で重要であったと考えられる。このそれぞれの経過について、地域
に密着した災害対策の実例としてさらなる分析や検討を行うことが、結果として地域の
危機管理体制の構築にとって重要なステップとなると考えられる。
専門家の意見によると、原因不明の多数負傷者発生時に、現地に救出本部を設置する
ことは危険を伴うことを認識すべきであるという要旨の指摘をしている。諸外国の災害
対応の各種マニュアルにも、原因不明の災害においては、現地からの避難を最優先し、
指揮本部や救護所は、一定の距離をおいた安全が確保された場所に設置するべきであるとの記載が
ある。また、救出スタッフにおける防護対策も重要であり、軽症であったとはいえ、
救急隊員に二次被災者が出た点は今後の大きな課題と言える。発展的に考えるなら、今後
の同様の事例においては、指揮本部を安全が確保された一定の距離に設置すべきである。
この事件のような原因物質が不明な災害時の対応は、これまで経験されている各種化学災害
においても同様に検討されるべきである。
次に、災害の発生地域をカバーする救急隊の最大救助能力を超える事態に対する対策
の重要性を指摘する。松本サリン事件での松本広域消防局の対応は現地の救助能力の
限界に近い状態となった。被災者がこの規模を上回った場合には、救助の効率が著しく
低下するのみならず、地域の通常の救急搬送に支障を来すことは明かである。このような場合に、近隣市町村や自衛隊との緊急時の応援協定等の実効性の再確認が必要であると考えられる。
翌年、東京地下鉄サリン事件が発生した際に、松本サリン事件において活躍した
信州大学には問い合わせが殺到し、病院をあげての遠隔支援を行うこととなった。しかし
この支援状況は2つの事件の特異性を物語るものであると言える。
最後に、松本サリン事件に対する救助活動や治療、健康調査活動などは、地域における
災害対策や危機管理を考える重要な契機となったと考えられる。日本の災害への対応は、
諸外国に比べて遅れをとっているが、このような地域毎の身近な事例の集積と調査・分析
を積み重ねることによって、日本における集団災害対策や危機管理体制が構築されるもの
と思われる。
2)立ち入り禁止スペースの指定
2)居住組の編成および各居住スペースの割り当て
3)災害弱者への配慮
4)仮設トイレの設置
5)発電機・投光機の設置
6)救護室・相談室の開設
7)臨時遺体安置スペースの確保・指定
平成7年1月の阪神・淡路大震災の後、国の政策として災害拠点病院構想が打ち出された。災害医療支援機能を有し、各都道府県に1ヶ所の24時間対応可能な災害拠点病院を整備し、2次医療圏には1〜2ヶ所の地域災害医療センターを作ることが目標とされ(Table 1)、すでに大方が指定された。さらに、病院建設やヘリポートの設置などハード面での整備計画の動きがみられている。一方、指定された病院など医療側の多くで対応が積極的でないことに問題があると思われる。
そこで、災害拠点病院構想との整合性をみるべく、各都道府県や市町村で作られている地域防災計画を検討し、災害拠点病院の運営のあり方や充実化の方法などに考察を加え、提言する。
(1)地域防災センター
地域防災センターはTable2に示す内容で県内11地区に置かれている県合同庁舎に機能を持った防災センターとして作られている。
(2)災害予防計画
水害予防計画、文化財災害予防計画、市街地防災計画、災害訓練計画、防災知識普及計画、資材器材等点検整備計画、通信手段確保計画等々、災害予防のソフトウェアに相当する事項が記載されている。
(3)災害応急対策計画
(4)医療・助産計画
実施主体はまず市長村長である。次に救護に不足を生じた場合には市町村長が所轄保健所を経由して知事へ医療班の派遣を申請する。災害拠点病院・地域災害医療センターは知事が指定整備運営すると決められている。
(5)災害拠点病院整備
知事は基幹災害医療センターおよび地域災害医療センターを指定して、その医療機関の協力を得て施設・設備の整備に努めると定めている。また災害拠点病院は多発外傷等重篤患者に対する診察機能を備えた上で診療にあたり、後方病院としての機能を果たすことも定められている。
(6)防災ヘリコプター
広域的で活動性に富んだヘリコプターを活用して、災害応急対策の充実化を図ろうとしている。
(7)県と委託契約のある複数医療機関の存在
災害医療支援機能を有し、24時間対応可能な拠点病院を整備することが目的とされている。全国的に
は53ヶ所の基幹災害医療センターと470ヶ所の地域災害医療センターが指定されている。平成9年に全
国48の基幹災害医療センターにアンケートした結果、アンケートの回答率は43施設で90%であるが、
病院対応のマニュアルを作成している施設は18病院で、全体の37%のみで低調ぶりが明らかである。
さらに平成11年の報告でも依然として40%に満たない。一方、災害拠点病院でのハード面での整備は
すでに始まっている。前橋赤十字病院では国や県からの支援を得て既存の救命救急センターに接し、
2000年春に3階建ての災害医療センターが竣工した。各災害拠点病院は行政当局からの指示を待つという消極的な態度ではなく、積極的にハードとソフトの整備を進めるべきである。
(2)県内医療機関の協調体制と指揮命令系統の確立
指示伝達ルートは介在する部署が少ないほうがよい。救護に不足を生じた場合には市町村長が所轄保
健所を経由して知事へ医療班の派遣を申請するとなっているが、さらに群馬県では日赤と群馬県医師
会が県との間で災害時協力協定を締結している。出動した災害現場では国・公・私立の病院・地元医
師会との協調を保ちながら活動ができるような、役割分担や指揮命令系統の確立が必要である。それ
には日頃からの県内の連絡協議会などを構築して、勉強や訓練とともにお互いを知る機会を増やす努
力が大切である。
(3)災害時患者搬送体制とヘリコプターの活用
その地域の医療能力を超えた多数の重傷者や被災者が生じた場合には、隣接地域や遠隔地にでも躊躇
することなく搬送する必要がある。したがって、時には他府県を含めた広域での連携訓練も実施すべ
きである。緊急性や遠隔地の場合にはヘリコプター搬送が有効手段であり、重要になる。現在のとこ
ろ、ヘリポートまで整備した拠点病院は8病院しかないようである。大規模災害時のヘリコプターを
利用した搬送計画はまだこれからの段階と思われる。
(4)災害時のトリアージや応急処置訓練
救援医療チームが救急出動する場合に必要とされることは、現地対策本部の指揮下に入ること、救護
所の場所の選定や機能的な配置に設営すること、災害現場での医療能力の規模にあったトリアージの
実施、各種の適切な処置ができること、自己完結型の医療救護斑の編成などである。災害発生時に出
動する医療従事者が任務を果たすためには、日頃から繰り返し行われる勉強会や訓練で習得すること
が肝要である。
(5)行政への提言
災害時の医療と呼びながら厚生省からの指示は県の衛生部や医務課宛であるために、県内で消防・防
災を把握している防災課は間接的存在である。災害に関しては県庁内を統括できるような災害医療対
策課的存在ができることを希望したい。
昭和62年7月に西春日井郡西春町の名鉄踏切で急行電車と大型トレーラーの衝突事故に際し、軽症者が救急車に殺到し、混乱を来した。このことから列車転覆事故、高速道路での大事故、ビル災害、空港災害等、局地で多数の死傷者の発生する大災害での医療活動においては、初期選別、応急処置による患者の安定化、搬送順位の決定が重要となる。近年、航空機の大型化、ジェット化は大量輸送時代をもたらし、一度事故を起こすと瞬時に多数の犠牲者が発生し、大惨事になる可能性がある。特に、空港および周辺航空機事故の医療救助に際し、1)選別、2)負傷者の救難、3)応急処置による安定化ならびに搬送という三つの部分からなる医療原則が確立された。
ということで、集団災害時にはきわめて重要なことである。
優先度 I(重症)
優先度 II(中等症)
優先度 III(軽症)
選別には外傷の部位及び意識障害の有無、バイタルサイン、熱傷の程度など可能な限り的確に行う。また、負傷者に対して付けられる負傷者標識票には次のような事項の記載が必要である。
1)識別番号 2)負傷者の氏名(イニシャルでも可) 3)負傷者の住所又は国名 4)医療救護班員が診察・処置した時刻 5)医療救護班員のサイン又はイニシャル 6)確認識別できた外傷の部位(図示) 7)行われた応急処置
1.気道の確保及び心肺蘇生法 2.止血と包帯による処置 3.骨折の副木固定 4.熱傷の処置 5.ショックに対する手当て 6.精神錯乱に対する対策
<参考>
1 救急医療休制の整備
空港の立地に伴う人口増加、交通量の増大等による重篤救急患者の増加に対処するとともに、空港災害時における救急医療の確保を図るため、高度救急医療施設及びその基盤となる初療、二次の救急医療体制を国、市町、民間医療機関等の協力の下に整備するとともに、へリコプターの活用など迅速な搬送体制の確保について検討を進め、地域における救急医療のシステム化を図る。
2 高度医療体制の整備
3 感染症対策
松本サリン事件の初期経過
勤務時間外に地震が発生した場合の避難所の開設の仕方
地震防災対策研究会、自主防災組織のための大規模地震時の避難生活マニュアル、(株)ぎょうせい、東京、1999, pp.140-148
また、避難所が設置されたことについては、担当職員が放送設備などを用いて屋外避難者を含む地域の住民に報告する。地域防災計画に基づいた災害拠点病院の役割とあり方について
饗庭庄一、日本集団災害医学会誌 5:95-101, 2001
−群馬県の実例から−<地域防災計画に決められている事項>
<地域防災計画に基づいた災害拠点病院のあり方>
空港災害とトリアージ
栗田高三、名古屋空港における中華航空機事故と医師会活動 1994、pp.125-1431. トリアージ
2. 初期救難活動
3. 選別(トリアージ)
優先度 II 中等症:黄色コード、II、亀の記号
優先度 III 軽症 :緑色コード、III ×、印付救急車記号
優先度 0 死亡者:黒色コード、0、十字記号
などの記載が必要であり、現場での応急処置としては、
等にとどめ、その後については救急隊による搬送で後方医療機関に任せるべきである。
〔関西国際空港関連地域整備計画/大阪府 昭和61年12月〕より抜粋
第6 救急医療体制等の整備