災害医学・抄読会 2000/12/22

4.疾病

西村明儒、吉岡敏治ほか編・集団災害医療マニュアル、へるす出版、東京、2000年、pp.36-43


 震災のような災害時にはとかく外傷患者の発生状況が注目されるが、生活環境の悪化や精神的ストレスが疾病の発症にも影響を与えたことが推測される。今回の阪神淡路大震災の教訓を今後に生かし、災害時の救急医療システムを確立するためには、災害時に各医療機関に求められるニーズを知る必要があり、災害時の疾病患者の発生状況と動向を明らかにしておくことが重要である。

 今回の阪神淡路大震災に関わる初期救急医療実態調査では、震災後新たに入院した3389例(3904疾患)の疾病患者が明らかになった。これらの症例の発生、入院、集中治療の施行状況および転送状況に関してデータを分析した。

 震災後新たに入院することになった原因の疾病の内訳は、肺炎が最も多く、感冒、気管支炎、喘息などの呼吸器疾患や、心不全、脱水、脳血管障害、虚血性心疾患、消化性潰瘍などの急性疾患、その他悪性腫瘍や慢性腎不全などの慢性疾患と正常分娩が主な入院原因となっていた。

 悪性腫瘍の割合は、平成5年度の患者調査と今回の調査においてほぼ同程度であったが、虚血性心疾患、消化性潰瘍、脳血管障害及び喘息などの急性疾患は2〜4倍の増加を示し、肺炎は1.1%から18.3%に著しく上昇していた。震災により入院患者の疾病構造に変化が生じ、急性疾患の占める割合が増加することが明らかになった。特に、肺炎などの呼吸器感染症の蔓延が強く示唆された。

 患者の住所別に疾病による入院患者数を実数と地域別人口比の両方で集計すると、被害の特に大きかった東灘区、灘区、中央区、兵庫区、長田区において疾病による入院患者数が多く、被害の大きさが疾病の発症率及び入院数に影響を与えたことが想像される。そこで、各地域の被害状況を全壊全焼した世帯数の各地域の全世帯数に占める割合(全壊全焼世帯率)で表わし、各地域の全人口に対する新入院症例数の割合との相関を検討してみると、全壊全焼世帯率は長田区、灘区、兵庫区、東灘区の順に高く、これら4区では30%を超えていた。各地域の新入院患者の割合は、全壊全焼世帯率と極めて強い相関を示した。これは震災による被害の大きさが疾病による新入院患者数を増加させることを表わしており、被災地の各医療機関は被災状況に応じ外傷のみならず疾病患者に対しても平素以上の対応を求められることが明らかになった。

 震災が急性疾患の発症率を増加させるかどうかを知るために、入院症例数の多かった肺炎、急性心不全、脱水、脳血管障害、喘息、虚血性心疾患、消化性潰瘍について全壊全焼世帯率と発症率との相関を検討した。消化性潰瘍、肺炎、脱水、喘息発作、心不全、脳血管障害、虚血性心疾患などの急性疾患の発症率は全壊全焼世帯率と有意に相関しており、震災による被害状況がこれら急性疾患の発症率を増加させていた。特に消化性潰瘍、肺炎と脱水の発症率は被害状況の影響を強く受けていた。

 正常分娩や慢性疾患の中で入院患者数が最も多かった悪性腫瘍は、震災後の新規発症率と被害状況の間に有意な関係は認められなかった。震災以前から通院治療中であった悪性腫瘍患者の入院理由を検討すると、震災を契機に症状が悪化した症例や自宅あるいは通院中の病院が被害を受け通院不可能となったために入院した症例が多数存在した。しかも、通院治療中の患者で入院を必要とした患者の割合は全壊全焼世帯率と有意な相関を示し、被害状況の大きさがこのような慢性期の患者の入院を増加させていた。また、慢性腎不全患者や脳血管障害後自宅療養中の患者、その他の慢性疾患患者の中にも症状の悪化や社会的適応による入院を多数認め、震災により急性疾患のみならず慢性疾患や基礎疾患を持つ患者の医療ニーズが高まることが明らかになった。

 疾病患者のうち10.3%が死亡という不幸な転帰をとった。悪性腫瘍による死亡が最も多く、次いで肺炎、その他心不全、脳血管障害、心筋梗塞による死亡が多かった。  疾病患者の年齢分布を各年齢層の構成人口当たりの百分率で示すと、総入院患者数は総人口の0.083%に相当する。高齢者の入院率が圧倒的に高く、60歳以上で0.1%を超え、80歳以上では0.59%に及んだ。疾患別に検討しても高齢者の発症率が高く、特に脳血管障害、虚血性心疾患、心不全でその傾向が著明であった。肺炎と脱水は高年齢層のみならず乳幼児にも多数の発症を認めた。

 疾病による入院患者のうち51.6%が自宅からの入院で、27.7%が避難所で発生した。今回の震災ではピーク時に全人口の約8%が避難所生活を余儀なくされた。疾病の発症場所としては自宅での発症が避難所の約2倍を占めていたが、避難者数を考慮すると避難所における疾病の発症率は自宅の5倍以上に相当する。特に肺炎、脱水、心不全、喘息などの疾患は避難所での発症が優位で、避難所生活によって引き起こされる生活環境の悪化がその原因であると思われた。ストレスが誘因と考えられる虚血性心疾患や消化性潰瘍においては、避難所での発生率が肺炎などほど高くなく、今回の大震災が自宅の倒壊を免れた人々にも多大な精神的苦痛を与えたことが推測される。

 疾病患者の死亡率は被災地内病院(10.2%)と後方病院(10.6%)の間に差を認めなかった。また、集中治療が施行された症例の割合もほぼ同程度で、今回調査対象となった被災地内病院では積極的に集中治療を施行したことが分かる。しかしながら、集中治療を施行された症例の死亡率は、後方病院の25.5%に対し被災地内病院では34.5%で、被災地内病院において集中治療を施行された症例の死亡率が高かった。特に死亡率の高い急性疾患である心筋梗塞や脳出血では、被災地内病院のほうが後方病院に比べ集中治療の施行率は低く死亡率は高い傾向を示した。

 被災地内の調査対象病院に震災後新たに入院してきた患者の後方病院への転送率はわずかに6.0%で、心筋梗塞、心不全、脳出血などの重篤な急性疾患でも転送率は10%以下であった。一方、被災地内の調査対象病院では、慢性腎不全による新入院患者の22.5%が、悪性腫瘍では16.4%の患者が後方病院に転送された。今回の調査で明らかになった疾病患者の動向の特徴は、震災当日入院中の患者が多数後方病院に転送されていたことと、調査対象になった被災地内の病院では、新たに発症した重篤な急性疾患よりも悪性腫瘍などの自力で移動可能な慢性疾患患者を優先的に後方病院に転送したことである。また、被災地内の病院での集中治療施行率は後方病院とほぼ同程度であったことなどを総括すると、今回調査対象にした被災地内の病院は地域の基幹病院であり、震災時これらの病院では殺到する外傷患者や重篤な急性疾患患者に対処するために、自力で移動可能な入院中の患者や慢性疾患患者を後方病院へ転送し、重症患者の治療に積極的に取り組んでいた。

 しかし、今回の震災時、被災地内の基幹病院が入院中の患者や慢性疾患患者を優先的に転送した理由は、主には重症患者を転送するための情報収集と搬送手段の確保ができなかったためであると思われるが、後方病院への搬送の決定が患者の重症度や集中治療の必要性によって行われなかった可能性もありうる。そして、これらの患者の転送先として後方の基幹病院が選択されており、本来重症患者を受け入れるべき病院のベッドが慢性患者によって占有された。このことは、災害時の救急医療体制についての問題点として提起されるであろう。


3.クラッシュ症候群

西村明儒、吉岡敏治ほか編・集団災害医療マニュアル、へるす出版、東京、2000年、pp.29-36


<阪神・淡路大震災時の調査によって得られた結果 対象数372例>

 クラッシュ症候群の年齢分布は他の入院治療例とは異なる傾向を示す。すなわち他の外因や疾病症例では高齢になるほど症例数が増加していくのに対し、クラッシュ症候群では20歳代、30歳代の症例も少なくない。これは、クラッシュ症候群は何かの下敷きになるという機会に遭遇するかどうかで発生が決まり、好発年齢があるというわけではないからである。ただし、20歳未満の症例が少ないことや高齢となるに従い死亡率が増加することは他の外因症例と同様の傾向がある。

 地域分布では損壊家屋数が多い地域で患者発生頻度が高く、損壊家屋数とクラッシュ症候群の発生数には有意な正の相関が認められる。また、受傷場所はほとんどが屋内であり受傷機転はほぼ全例が震災時に倒壊した家屋や家具の下敷きによって発症したものであった。

受傷部位・主な合併損傷・予後

 受傷部位は下肢が317例(84.4%)と高率であった。また体幹に受傷した症例では、計28例中13例(46.4%)と最も高率に死亡している。主な合併損傷は骨盤骨折(37例)や四肢の骨折(29例)である。腹腔内臓器損傷を合併した16例の症例では、半数の8例が死亡した。体幹にまで及んだクラッシュ症候群28例の症例では、20例(71%)に腎不全を認め、また腹腔内臓器損傷や骨盤骨折を合併している場合にその頻度が高く重症例が多いことが明らかであった。クラッシュ症候群の救出までの時間と予後を今回の調査から論じることは難しいが、一般的なgolden timeは受傷後6〜8時間である。

 死亡例は計50例(13.4%)と他の外因症例が5.5%であったのに比較して高率で、うち37例(74%)が受傷早期(1週間以内)の死亡であった。早期死亡例の死因は崩壊した筋肉から流出したカリウムによる高カリウム血症と、損傷部位への体液シフトによる循環不全死であると考えられた。高カリウム血症や循環不全といった早期死亡をのりきった以降の死亡例13例(26%)では、敗血症や多臓器不全(MOF)が主な死因であった。

 減張切開は372例中49例(13%)に施行され、施行部位では下肢が46例と大半を占めた。減張切開部位に感染を生じたのは49例中12例(24%)で、このうち3例は患肢の切断を余儀なくされた。また49例のうち7例は(14%)が死亡している。これら7例の死亡のうち早期死亡が5例であり、いずれも循環不全による死亡であった。2例のみが減張切開後、創部の感染より敗血症を引き起こし死亡した。

重症度別にみたクラッシュ症候群

 受傷部位が両下肢と体幹に及ぶ場合はCPK値が25万を超えており、最も高値である。また損傷部位の数が多いほどCPK値が高く障害を受けた筋肉量に比例し、損傷部位数とCPK値との関係より、おおむね一肢の損傷につきCPK値が5万U/l程度の増加が予測された。

 経過を追って測定し得た164例の最高CPK値と最高クレアチニン(Cr)値との関係を、CPK値が5万U/l、Cr値が5mg/dlで区切って、164例を4群に分類した。T群はCPK値が5万U/l以上、Cr値が5mg/dl以上。U群はCPK値が5万U/l以上、Cr値が5mg/dl以下。V群はCPK値が5万U/l以下、Cr値が5mg/dl以上。W群はCPK値が5万U/l以下、Cr値が5mg/dl以下である。T群の46例はほぼ全例が腎不全に陥っており、クラッシュ症候群の中では最も重症であると考えられる。U群の25例はCPK値が5万U/l以上であるが、半数は腎不全を生じていない。一方、V群の30例はCPK値が5万U/l以下であるにもかかわらず、高率に腎不全に陥っている。W群の65例はCPK値も高くなく、また腎不全もほとんど生じていない。これら各群の生命予後についてみると、T群では46例中6例が死亡しており、U群では4例、V群、W群では各々2例ずつが死亡した。全体で7例が初期に循環不全で死亡しているが、これら死亡症例の初期3日間平均輸液量は、重症例にもかかわらずいずれも維持程度の輸液量であった。上記の症例群とは別に、CPKやCrが測定されていない死亡例14例のうち、12例では投与された輸液量は極めて少なく、いずれの症例も早期に高カリウム血症や循環不全により死亡していた。

クラッシュ症候群の重症度分類の試み

 初診医療機関においてクラッシュ症候群の重症度を評価することは、トリアージの観点から重要である。そこで初診時に測定された臨床検査データとバイタルサインを分析し、クラッシュ症候群の重症度の評価を試みた。来院時の血圧、脈拍、ヘマトクリット値(Ht)、base excess(BE)値、来院後数時間の尿所見など、比較的被災地内でも測定可能な項目を用い、各症例のCPKの最高値と比較した。

 収縮期血圧はほとんどの症例で保たれており、またCPK値とは相関しない。脈拍数も同様の結果で、血圧や脈拍数のみからは重症度を判定することは困難であった。

 尿所見は無尿、ミオグロビン尿などの異常所見を呈した症例が80%以上に達し、クラッシュ症候群の重症度の指標とはならないが、クラッシュ症候群の発症を強く疑わせる診断根拠となることが示唆された。

 Ht値はCPK値が高いほど上昇しており、重症例ほど血液濃縮の強いことが示唆された。また最高CPK値が高くなるに従いBEは負に傾き、代謝性アシドーシスが強くなる傾向であった。    以上の結果より、初診時の血圧や脈拍数といった循環動態の指標はばらつきが大きく、クラッシュ症候群の重症度の指標にはならないが、Ht値やBE値がクラッシュ症候群の重症度を比較的よく反映する指標となることが示唆された。


テロリズム 2.新たなる大規模影響力兵器

Maniscalco PM, et al、救急医療ジャーナル 第7巻第6号通巻40号 28-33, 1999


はじめに

 生物兵器物質を拡散させるための爆発物の使用、生物兵器用物質が人体に及ぼす影響、およびコンピューターテロリズムによる救急医療サービスやその他の機関の機能麻痺について検討する。

1.爆発物

 全テロリスト行為のうち約70%は、爆発装置を用いたものである。爆発装置は独立した武器としても、生物兵器用物質、化学物質、核物質の発射、拡散システムとしても利用できる。激しい爆発が起こると次のような結果が生じる。

  1. 爆発それ自体により生じる突風圧:エネルギーの放出によって、爆発の中心部から、過剰圧(正の突風圧)が急激に周囲に展開する。その後、爆発部で生じた真空状態が陰圧を生み、これは過剰圧相の3倍も長く持続する。

  2. 爆発で生じた破砕効果:破片が高速で、しばしば非常に遠くまで吹き飛ばされる。

  3. 爆発反応の際に生じた熱による温熱効果:爆発による温度変化は爆発物の性状に大きく影響される。爆発で生じる二次的延焼は爆発物の温熱効果を延長させたり化学反応を増強させるために、加えられた触媒の影響などに注意しなければいけない。

  4. 大規模な爆発により生じる地震様効果:爆発地点からはるか遠く離れた場所でも、地震と同じような地面の動きが探知される。他にも爆発物による障害があり、それは鼓膜の破損から熱傷、挫滅症候群、多発外傷まで幅広い。

2.生物兵器用物質

 生物兵器テロリズムとは、細菌、真菌、ウイルス、毒素を用いて病気や死を引き起こすことである。過程はいわばスローモーションの攻撃であり、24時間から10日の期間にわたって多くの人々が気がつかないうちに被害を受ける。テロリストが使用する可能性のある主な生物兵器用物質は以下のものである。

  1. 炭疽菌:芽胞形成性細菌であり、芽胞の吸入あるいは経口摂取によって感染する。また自然に存在する菌であり芽胞は何年間も生存可能である。症状は暴露後1〜6日以内に発生する。臨床症状は全身痛あるいは広範な筋肉痛、せき、発熱、疲労、無気力などである。治療を受けていない患者は、急速に重症の呼吸困難やショック状態に陥る。そしてこれらの患者は24〜36時間後には死亡する。

  2. ボツリヌス菌毒素:突然の意識消失、痙攣、麻痺、及び呼吸停止の原因として知られる神経ガス'VX'よりも1万5千倍も強い毒性をもっている。臨床症状は発生困難、嚥下困難、視野のかすみ、散瞳、眼瞼下垂、複視などが挙げられる。重症例では持続する下行性の麻痺が生じ、最終的には横隔膜および呼吸補助筋が侵されて呼吸停止に至る。

  3. コレラ菌:感染後早期に発症する。突然の悪心、嘔吐、腸管の差し込む痛み、大量の水様性下痢及び疲労感が特徴であるので電解質のアンバランスが生じる。

  4. ペスト菌:ほとんどの場合、菌を保有したノミに刺されることで感染するが空気感染も起こりうる。主な臨床症状は発熱、喀血、リンパ腺の病的破壊である。また伝染性がきわめて高く人から人へ感染し致死的になり易い。

  5. リシン:トウゴマ(ヒマ)由来の水溶性物質である。リシンのエアゾール化された粒子を吸入した場合、暴露後4時間以内に疲労、脱力、咳、胸部絞扼感などの症状が現れる。重症の呼吸不全、肺水腫、低酸素血症により36〜72時間以内に心停止となる。治療は気道の確保と酸素投与がまず第一である。胃洗浄、活性炭、さらに積極的な薬物療法が必要となる。

  6. 天然痘ウイルス:天然痘ウイルスはエアゾールの形では感染性、伝染性が強く、死亡率も高い。症状は一般に暴露後7〜17日以内に現れ、初発臨床症状は疲労、広範な筋肉痛、と背部痛、発熱、頭痛、嘔吐などであり発症後48〜72時間以内に顔面、上下肢に痘瘡様の発疹が現れ、数日のうちに体幹にも広がる。暴露された人のうち発症するのは約30%である。治療は支持的対症療法が中心となる。痂皮が完全に治癒するまで少なくとも17日間は患者を隔離しなければならない。

3.サイバーテロリズム

 サイバーテロリズムを連邦政府は「重要なインフラストラクチャ(社会基盤)を管理する情報、通信手段に対する電気、無線周波、またはコンピューターを用いた脅威」と定義しており、近年、増加傾向である。「重要なインフラストラクチャ」には、緊急サービス組織(救急医療サービス、法執行官、消防・救助)、発電システム、通信、ガス・石油、銀行・金融、交通、水道、行政サービスの継続などがある。これらのサービスはそれぞれの管轄領域において極めて重要なものとして考えられているため、これらを機能停止状態にしたり、破壊したりすれば、国全体に大きなダメージが与えられる。

 システムに直接アクセスすることで、ハッカーは様々な被害をもたらす可能性がある。例えばシリアル(穀物食品)製造工場の中央コンピューターにアクセスし、鉄分の補充レベルを変えることで何百、何千人もの人々を病気にしたり、死亡させたりする。また、犯罪組織はその気になれば鉄道のスイッチを切り替えて列車の衝突事故を起こしたり、航空管制システムをストップさせたり、送電や証券取引所の機能を停止させたりすることもできる。日常生活や仕事をする上でもコンピューターは非常に便利で効率的なものだが、同時に無防備のままでは我々を危険にさらすことにもなるのである。

 コンピューターの脆弱さを狙ったテロリズムは比較的新しい脅威である。サイバーテロリズムに対する戦略としてはまずここのシステムが持つ弱点を技術的に見極める、関係者の行動を制限する、また無制限に公開、提供しても危険を伴わないのはどのレベルなのかを政策的に決定しなければならない。


テロリズム 3.テロリストおよび戦術的暴力事件への対処法

Christenn HT, et al、救急医療ジャーナル 第8巻第1号通巻41号 42-49, 2000


 テロリストによる戦術的暴力事件では、最初に駆けつける救助者は予測のつかない危険な状態に直面する。こうした事件は、多元的で、影響力の大きな、大量の犠牲者を伴う事故となり、危険物取扱者や犯罪捜査活動を必要とすることが多い。このような事件に安全に有効に対処するためには以下の重要な要素を実行しなければならない。

【1.自警団】

 自警団は公共事業団体、郵便局、運送会社、交通局などの運転手、私的警備員、ボランティアなどの市民有志で構成されており、テロリストによる戦術的暴力的事件があると、現場の支援のために集まってくる。多くは、無線通信設備や携帯電話のある車を運転し、進行中のテロリストによる戦術的暴力事件に関して、早く正確で貴重な報告を提供することが可能である。救急医療システムにおいて、救急隊員は最初の救助活動者とされるが実際は最初に到着するのは稀で、現場に一番に到着するのは自警団である。よって、万一のときの潜在的救助者を訓練しておく必要がある。

【2.状況認識】

 戦術的暴力事件の現場は加熱した危険地帯(ホットゾーン)であり、兵器、発砲犯、爆発装置、罠、火災、及び建物の崩壊など様々な危険が存在する。またテロリストによる戦術的暴力事件の際の救急通報で、はじめからその状況が正確に伝わることは稀である。到着時、救急医療班は明らかな損害・被害を受けた地域のみでなく、周辺を含めた全体を入念に見るべきである。現場では常に脅威に対して隙だらけの状態であるから、危険な現場の徴候を探し、その周囲をすばやく調べ、悪意の徴候がないかを探し、また、前方の死体の列(FBL:forward body line。事件に出動し、殉職した救助隊員の一群)を探す。このFBL、すなわち現場に到達できなかった多くの救助隊員の存在によって、危険地帯を決定できる。

 職業安全健康委員会の新ガイドライン2-in/2-outによると、組織活動で二人の隊員がIDLHの様相を持つ環境に突入する時、互いに連絡を維持しながら一緒に退去すべきである。他の二人は、必要に応じて救助隊員を救うためにIDLH区外に残り、救助者を救助する計画をたてる必要がある。2-in/2-outの原則は、テロリストによる戦術的暴力的事件において、現場が不安定な時は全ての第一出勤者(救急医療班、消防、警察)に適用される。もう一つの効果的な原則に、テロリズムに対応する5原則(LACES)がある。

【3.新たな驚異:二次的爆発装置】

 救急隊員が事件に深く関わると、テロリストによる二次的時限装置(偽装爆弾や爆弾といった最初の装置の脅迫によって、救助者を特定の場所に誘い込み、その後、タイマーや遠隔操作などで、自警団や最初の救助活動者を死傷させるもの)がある。最初に到着する救助者は、二次的爆発装置の脅威の下で、救助活動や部隊展開の戦術を臨機応変に計画しなければならない。このためには、隊員は単純な方針に従うのが賢明である。見知らぬ場所へ向かって危険を冒す前に自分の居場所の安全を確認し、もし不審物を見つけたら離れた場所に移動し、二次的装置の捜索を再開する。隊員はそれでも、破砕物による負傷を被るであろうが、少なくとも致命的でない領域にいる。司令本部、活動拠点、および治療のための区域に二次的爆発装置があるかどうかを点検することは絶対に必要である。

【4.現場における作戦上の手順】

 特定の場所で事件が繰り返し起こった場合、以前の事件はテロリストによるその後の救助活動を探るためのおとりの可能性がある。救助活動のレベルやそこで用いる戦略を査定し、その後救助者を標的にする場合に、戦略的優位を得ようとする。よって救助隊は、同じ位置に二度と司令本部を設置すべきでない。繰り返し起こる地域への対応として、以下の手順で罠を疑い、行動すべきである。

【5.メディアとの関係】

 メディアによるテロリストの戦術的暴力の報道は、戦略や戦術を敵に曝露することになる。これを防ぐためメディアは規制されるべきである。

【6.弾丸のホットゾーン】

 超暴力はテロリストらが最新の自動兵器を連帯して防御服を身に纏っているのが特徴で、警察官よりも銃装備で勝ることが珍しくないので、救急医療隊や消防隊員らが十字砲火の現場にはまってしまうことも起こりうる。最善の防御は、状況把握の原則を遵守してホットゾーンへの出入りを避けることである。万が一、兵器の銃撃戦の現場にさらされたなら、その現場を離れるか遮蔽物の陰に隠れるかが唯一の選択である。(戦術的転進)

【7.化学物質のホットゾーン】

 生物兵器の効果は、徴候が現れるのに数日から数週間を要するため、単一の場で生物兵器による大量の死傷者事件が生じるのは稀である。化学物質攻撃や放射線兵器は、全く様相が異なっている。急送される情報は多分状況を明確には描写しない。事件は大勢の中で一人の不定愁訴で始まるかもしれない。その上、危険物質による事故を示唆する手がかりも、化学物質を確認できる材料も何もない。最初の出動者はすぐには化学物質による事件だとわかりにくい。危険物質の存在を正確に確認するには数日かかる。最初に現場に到着した救助隊は何らかの徴候を示すものを見つけなければならない。

【8.一番乗りの部隊】

 一番乗りの部隊はあらゆる意味で事件の成り行きや結果に重要な影響を与える。事故管理システムの基本原則は一番乗りの部隊が事件を管理し、初期の作業、兵站業務や今後の計画に対し責任を担うことで、優先順位の決定と職務の委任が必要となる。まず適切な救助を得、すばやく現場の調査をし、適切な通信報告を送る。最初の報告で本部の設置場所と事件の基本的な描写を伝えなければならない。一方で、非暴力の大量の犠牲者発生事件では、隊の一部は患者の振り分け作業を始める。そして、危険地帯の範囲、患者の大体の数と負傷の機序を確定する。

【9.現場管理】

 現場管理の目的は、事件発生地域への出入りを管理するために、現場の危険地帯周辺の安全領域を決定することである。しかし、テロリストによる戦術的暴力の危険地帯はダイナミックに変化するため、不発弾や二次的装置発見のためには、全ての方向に置いて装置の上下を含め約300mの距離の避難を必要とする。化学、生物、放射線物質の事件においては、汚染された犠牲者が、けがや病気の原因を散布する危険があるため、安全に犠牲者を収容施設に搬送するまでは緊急汚染除去地域に留めておかねばならない。しかし、救急医療隊が患者の現場からの退去を管理することは、非常に困難である。

【10.救助活動のトレーニング】

 緊急活動組織は、教育と訓練により、テロリストの戦術的暴力事件から生き延びるために必要な技術を開発しなければならない。最も重要な要素はIMS(事故管理システム)の履行と日常での使用である。IMSは救助及び援助組織活動のスタンダードで、あらゆる組織は基本的IMSの訓練を行わなければならない。


北海道における救急業務の現状と課題

佐藤文男、救急医療ジャーナル 第8巻第1号通巻41号 8-15, 2000


救急医療対策と休日・夜間診療体制

初期救急医療体制

(1)救急告示医療機関制度

(2)休日・夜間在宅当番医制度

 実施方法として、当番医療機関名を一般新聞や自治体広報誌などに公表する公開方式と、医師、テレホンセンター、消防本部などからの紹介による非公開方式がある。各地の事情により診療日、診察時間帯は様々である。

(3)休日夜間急患センター

 一定の場所にセンターを設立し、医師が交互に、あるいは専従医師を置きながら応需体制を取るもので、原則として人口5万人以上の市において、専用医療機関として整備されてきている。本道においては99年7月現在、14ヶ所に設置され、その診療対象は37市町村、対象人口は本道の7割に及んでいる。

二次救急医療体制

 病院群輪番制;地域の主要な病院が輪番制方式により、休日・夜間における入院治療を必要とする重症救急患者に対応するものである。道内21医療圏域のうち20圏域で実施されており、全体で114の病院が参加している。

三次救急医療体制

 初期救急医療施設や病院群輪番制度の二次救急医療施設の後方病院として、心筋梗塞、脳卒中、頭部外傷などの重篤な救急患者に対応する24時間体勢の医療機関として重要な役割を担っている。道内では7ヶ所整備されている。

救急搬送体制

(1)航空機を活用した救急搬送

 北海道警察、自衛隊、海上保安庁の協力のもと、離島や僻地で発生した緊急の患者、または地域の医療機関では対応が困難な重症患者を、高次医療機関へ搬送する体制が整備されてきている。救急患者搬送に使用可能な航空機は、ヘリコプター46機、固定翼機7機の合計53機が配備されている。その緊急運行状況は現在、1038件を数え、このうち離島からの救急患者搬送件数は451件で全体の43.4%を占める。

(2)救急自動車を活用した救急搬送

 救急患者を医療機関に搬送する業務は、消防業務の一環として位置づけられており、道内の72の消防本部において実施されている。平成9年度の統計で主な事故別では急病が全体の約半数を占め、次いで交通事故、一般負傷の順になっている。

(3)今後の救急搬送体制の方向

 航空機による救急搬送体制において、1.搬送先救急医療機関の確保、2.医師等の同乗体制の確保、3.搬送途上での治療、処置、4.搬送途上の情報伝達手段の確保、5.搬送所用時間の短縮等が課題である。救急自動車を活用した救急搬送体制では、1)協力医療機関の確保、2)救急救命士に対する指示医師の確保、3)消防機関と医療機関との連携体制の確立、4)高規格救急自動車の整備、促進が望まれる。

今後の救急医療体制

 消防法の「救急告知病院」等厚生省の初期、二次、三次救急医療機関を一元化し、それぞれの機能の分担を図った上で、効率的な救急医療体制を構築する報告書が厚生省から公表された。初期救急医療では、休日・夜間診療体制を更に強化する必要性が指摘された。二次救急医療では、24時間医療体制とし、地域全体で体制整備を図る方向を示し、救急患者が優先的に使用できる病床または専用床、救急隊による患者搬入に適した構造設備を有することも要件となっている。三次救急医療機関の救命救急センターは全国に135ヶ所整備され、量的には当初の目標を達成したとし、今後は既存施設の再評価、機能強化と合わせて、地域事情と応じて整備することとしている。

災害医療対策

災害拠点病院

 阪神・淡路大震災の教訓を生かし、被災地の医療の確保、被災した地域への医療支援を行うための災害拠点病院(基幹災害医療センター、地域災害医療センター)を整備する事業が開始され、基幹災害医療センターは各都道府県に1ヶ所、地域災害医療センターは原則として二次救急医療福祉圏に1ヶ所設置することとなった。指定要件は24時間緊急対応可能で、救護班の派遣、医薬品の備蓄、ヘリポートを有することなどである。北海道では基幹災害医療センターは1病院、地域災害医療センターは22病院である。

 他に災害(事故)対策現地合同本部、原子力災害対策、医療救護活動に関する協定を作成、実施している。

北海道救急医療・広域災害情報システム

システムの目的

 「北海道救急医療、広域災害情報システム」は、救急医療機関、消防機関、救急医療情報案内センターなどをインターネットで結び、救急医療に必要な医療機関情報などを迅速に提供する。

システムの内容

(1)一般道民に対する情報提供
(2)消防機関に対する情報提供
(3)医療機関に対する情報提供
(4)消防機関・医療機関に対する情報提供
(5)大規模災害発生時における情報提供
(6)その他の情報提供


JCOウラン加工施設臨界事故と緊急被爆医療

プレホスピタルケア 第13巻第1号通巻35号, 18-21, 2000


 1999年9月30日茨城のウラン加工施設でわが国初めての臨界事故があった。その際、事故の内容が知らされてなかったため救急隊員が放射線被爆してしまった。被爆した3人の救急隊員の体内ナトリウムー24放射能量から推定された外部被爆線量は微量であった。3人の救急隊員の被爆線量はただちに健康に影響するものではなかったことは幸いであった。原子力防災計画では、原子力発電所等での事故に発生する軽度汚染患者や汚染のない一般救急患者は付近の医療機関(第一次医療機関)が対応し、より重度の患者の治療は第二次医療機関で対応し、最重症の患者を放医研が治療することになっている。現在、最重症の患者に十分な治療をするためにわが放医研を中心として救急医学、外科、内科、皮膚科などの専門家集団を集めたネットワーク組織しているが、今回は初めてのわりにはうまくいったとおもわれる。しかし、わが国初めての事故であったため医療機関にとまどいがあったことも否めない。患者が一時医療機関を素通りして二次医療機関に直接搬送されてしまったり、二次医療機関も受け取りにとまどいもあった。緊急被爆医療ネットワークが万全に機能するため、放射線事故医療研究会、緊急被爆医療フォ−ラムを1997年8月から発足させ、会員相互の教育・訓練・情報の相互発信などを行い、人の面での高度化を計っている。

 救急隊員が知っておくべき事として汚染患者の取り扱いがある。放射線物質が体表面に付着したり(体表面汚染)、体内に取り込んだりした(体内汚染)患者の取り扱いには注意が必要である。汚染患者を取り扱う自分自身が二次汚染しないために、患者を素手で触らないように手袋をし、マスクを着用し汚染物質を吸い込まないように予防し、ビニールエプロンなどを着用する。外部被爆患者はいくら患者自身が高線量被爆をしていても、救急隊員自身はなんら危険もない。汚染のない外部被爆患者は、普通の救急患者とおなじようにあつかってもよい。ただし、汚染しているかどうかわからないときには、汚染患者の取り扱いの項で説明したように、自分自身が汚染しないような注意が必要である。ただし、ただし、今回の臨界事故のように、中性子線による血液中のナトリウムー24(半減期約15時間)という放射線物質に変化した場合には注意を要する。隊員は自分を放射能から守る努力をしなければならない。放射線はエネルギーであり、物質を透過する。これらをふまえて以下のことに注意する。放射能汚染した物質はそれ自体が汚染物資である。放射線に曝される時間を短くする。遮断することを考える。ガンマ線は鉛などでブロックできる。中性子線は水やコンクリートで遮断できる。あと、汚染物質から距離を保つことが大事である。


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