災害医学・抄読会 2000/07/07

災害医療救援の標準化と普及に関する提言

災害医療救援の標準化と普及に関する提言


 災害医療援助は、迅速性を要求されるため、また異なった組織の人間と協力して行う必要があるため、概念・用語・手技など標準化できるものは標準化しておく必要がある。被災地に迅速評価法・救出救助医療・トリアージ手技など標準化が必要と思われる事柄について論述する。

I.救出救助期

A. 迅速評価

 災害医療救援を行う上で被災地・災害現場の情報を収集するのは必須であるが、実際は混乱しており情報収集は容易でない。厚生省は、広域災害救急医療情報システムを構築し情報を収集しようとしているが、コンピューターに依存しており、停電の時などのライフラインの途絶時に十分に機能する保証はない。そのためにも、被災地周辺の災害拠点病院より被災地内の医療情報を調べるチームを派遣することを検討する必要があり、災害拠点病院連絡協議会などの協議会を立ち上げ、そこで標準化された迅速評価法を確立する必要がある。

B. 救出救助医療

 救出救助期に救助隊と協力下に行う医療は、単に医療従事者、あるいは救急医や麻酔科医といえども簡単に行えるものでなく、その状況に応じた医療援助ができるように標準化された教育と実地訓練が必須である。

II.急性期医療・亜急性期医療

A. トリアージ

 災害医療の急性期は3つのTと言われているTriage(トリアージ)・Transportation(搬送)・Treatment (応急処置)が重要だと言われている。トリアージタッグは阪神大震災以降、標準化が図られ統一化したタッグが作成されたが、トリアージの方法に関しては標準化された手法は開発されていない。現在、著者らは、START法を講義しているが特に標準化された方法でないため、今後、日本集団災害医学会などが中心になり、標準化されたトリアージ法の開発が望まれる。

B. 災害医療救援の医薬品・医療資器材の標準化

 現在、多くの組織は歴史も長く独自の考え方で医薬品・医療資器材のセット化に取り組んでおり、標準化に困難を伴うことが予想されるが、急性期に必要な外傷を対象とした医薬品セット、亜急性期に避難所などで必要な内科系疾患を対象としたセットなど標準化できるものは標準化し、これらを都道府県の備蓄基地あるいは交通の便がよい場所に集中管理し緊急用あるいは補充用に当てる様なことも考えられる。

C. 亜急性期医療援助と保健衛生管理・疫学サーベイランス

 亜急性期の医療援助の目的の一つに保健衛生管理と疫学サーベイランスがある。先進国である日本において医療事情に見合った災害時の保健衛生管理と疫学サーベイランス法を開発し、災害医療救援に参加する医療従事者に知らしめる必要があると思われる。

III.災害準備期

 災害準備期は、災害教育や訓練・過去の災害医療の検証を通じて、知識の共有化を来る災害に対して行う時期である。この時期では、災害用語の標準化、教育の標準化が考えられる。


4.医薬品等の確保供給

(中村 顕、吉岡敏治ほか編・集団災害医療マニュアル、へるす出版、東京、2000年、pp.140-144


 まず、医薬品等の確保であるが、阪神・淡路大震災の場合、医療物資の物流が本格化するまでおおむね3日間を要したことから、被災地内で行う医薬品等の事前の確保は、主として発災から3日程度の間に必要となるものが中心と考えられる。その確保の方法としては各都道府県ともおおむね以下のような方法のうち、いくつかによって確保が行われている。

  1. 都道府県が自ら備蓄倉庫などで確保していく方法。

  2. 都道府県と医薬品卸売業者(医薬品卸協同組合)の間で災害用医薬品等の備蓄・供給に関する協定あるいは契約を締結して医薬品卸売業者がランニングストックとして確保し、災害時に供出する方法。

  3. 薬剤師会の運営する医薬分業推進支援センターなどがある場合、医薬品等の備蓄、供給に関する協定等を結び、これを活用する方法。

  4. 都道府県と医療機関(災害拠点病院など)の間で災害用医薬品等の備蓄・供給に関する協定あるいは契約を締結し、災害拠点病院などの中核医療機関において医薬品等の確保を行い、発災時には地域の医療機関にも供給を行う方法。

 このうち、4.のように医療機関内で備蓄することの最大のメリットは、患者が集まる医療機関に、発災直後から医療物資が確保できる点である。他の方法では、被災地内に倉庫があっても、都道府県や卸業者などの職員による供給体制が整わない限り、実際に医療機関へ供給できない危険性がある。

 次に、医薬品等の供給であるが、医薬品等の供給については、原則として医薬品卸売業者が医療機関の需要に対応する。さらに救護所などに対しては、都道府県または市町村が備蓄している医薬品等および被災地外からの救援医薬品等を供給することになっている。 しかし、災害時発生当初は多くの患者は救護所ではなく地域の医療機関を受診するものと考えられる。そのため、まずは医療機関に対する医薬品等の供給が重要であり、都道府県などの備蓄医薬品等を必要に応じて医療機関に供給するなど、臨機応変な対応を行うことが必要になる。なお、救護所、避難所などへの医薬品供給に当たっては、被災地外からの救援物資などをいったん集める集積所を設置することが効率的である。大都市においては中心的かつ大規模な第一次集積所と現場に近い第二次集積所の2段階で集積所を設置することも一つの方法である。

 最後に、医薬品等の仕分け・管理であるが、被災地外から供給される医薬品については、特定銘柄の医薬品の確保は困難であるため、供給される医薬品等を事前に同種同効別に単純化して仕分けしておくことが効率的である。仕分けについてであるが、阪神・淡路大震災などの経験から、大規模災害時には災害発生直後〜3日目位までとそれ以降で傷病構造は変化し、それに伴い必要となる医薬品等の需要も異なることが知られているため、災害発生後3日目までとそれ以降、さらに避難所生活が長期化する場合に分けて、医薬品の仕分けをするとよい。具体的には、

  1. 発災より3日間<主に外科系措置(重症患者は医療機関へ搬送までの応急措置)用>の医薬品等。

    予想される傷病:多発外傷、熱傷、挫滅傷、切傷、打撲、骨折等。

  2. 外部から救援が見込まれる3日目以降<主に急性疾患措置用>の医薬品等。

    予想される傷病:心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安症、不眠症、過労、便秘症、食欲不振、腰痛、感冒、消化器疾患、外傷の二次感染症等。

    季節的な疾病:インフルエンザ、食中毒等。

  3. 避難所生活が長期化する頃<主に慢性疾患措置用>の医薬品等=医療機関へ引き継ぐまでの応急的措置用。

    予想される傷病:急性疾患の他、高血圧、呼吸器疾患、糖尿病、心臓病等。

    季節的な疾病:花粉症、喘息、真菌症等。

である。

 また、医薬品の管理においては、冷暗所保存および向精神薬などの管理に注意する必要があり、このため冷蔵庫および施錠可能なスペースの確保や、盗難事故や不正流通防止のため、責任者が出入庫管理を行う必要がある。そして、保管・管理については、医薬品に関する専門的知識を有する薬剤師の協力を得ることが必要であり、そのための医療救護班(薬剤師班)を編成しておくことが望ましい。


一人の力が大きな力に

―東京消防庁災害時支援ボランティア―

東京消防庁防災部防災課、月刊消防 第22巻3号、2000


1、災害時支援ボランティアの特徴

 ボランティアの災害時の活動は,消防隊が行う活動を直接支援することや,活動に広域性があることなどの特徴があり消防職員や消防団員と連携して被害の軽減に当たる。また,各自が消防署に登録しており,そこで様々な訓練や講習を受け専門的な知識や技術を習得している。

2、ボランティアへの登録

 東京都に在住し,満18歳以上65歳未満の健康で消防隊支援活動を行う意志のある人であればボランティアに登録することができる。なお,その活動内容から,普通救命講習以上の応急救護技術を身につけていることが必要となるがそのほかに条件はない。

3、活動

 東京消防庁管内に震度6弱以上の地震が発生し大きな被害が生じている場合に災害時支援ボランティアは,自発的に自分の登録している消防署に参集する。主な活動内容は,応急救護活動,消火活動,救護活動の支援,災害情報収集活動などで,それぞれの現場で必要とされる活動に応じてチームを編成し,消防隊と連携した災害応急活動を行う。

 また,そのほかに消防用設備などの機能維持や危険物施設の安全確保などの支援活動を行う予防分野のボランティアもあり,こちらは消防設備士や危険物取扱者の資格を持つ人を登録の対象としている。

4、各講習の実施

(1)ボランティア講習

 新たに登録した人を対象とするもので,ボランティアとして活動するために必要最低限の知識,技術を習得するための講習。

(2)リーダー講習

 ボランティア講習終了者を対象とし,チームリーダーとしてより高度な知識,技術を身につけるための講習。

(3)コーディネーター講習

 リーダー講習終了者を対象とし署に参集したボランティア全体をまとめるコーディネーターを育成する。署員とボランティアの間にたってボランティアの活動を調整する技術などを身につける。

(4)再講習

 各講習受講後3年を経過した人が研修内容の再確認および技術の向上をはかるために受講する。

(5)専門講習

 消防用設備関係,危険物関係及び火災調査の支援活動を行う人が対象である。

5、地域に密着した訓練

(1)震災図上訓練と防災マップの作成

 震災図上訓練とは震災が起きたときを被害想定したもので,訓練に集まったボランティアが,白地図を前に非難場所,非難道路,防災器材倉庫などを記入し,自分たちが住んでいる町の防災上の特徴を検討する。

(2)リーダー会議

 災害時支援ボランティアはチーム活動が原則であるがこのチームの核となるリーダーを集め定期的にリーダー会議を行っている。

(3)ネットワーク作り

 消防署とメンバーを結ぶボランティア通信を定期的に発行している。


兵庫県災害救援専門ボランティア制度について

兵庫県知事公室企画課、月刊消防 第22巻3号、2000


 震災時の災害救援活動を通じて,ボランティアの必要性,とりわけ専門性を有するボランティアの必要性が強く認識された。そうした人材を迅速に確保し,被災地に派遣するためには組織化された仕組が不可欠であるという認識に基づきボランティア登録派遣制度が創設された。


第10章 効果的な救援の事実と数値

国際赤十字・赤新月社連盟.世界災害報告 1997年版、p.110-115


 災害自称に関するデータ、それが人々に与える影響、それが国にもたらす費用に関するデータは部分的に集まっているに過ぎない。

1.「世界災害報告1997年版」:データを5つの主要な情報源から得ている。

  1. 災害疫学研究センター(CRED)

    4つの情報源からの情報が毎日更新されている。
    1、 UNCHA状況報告書
    2、 国際赤十字・赤新月社連盟状況報告書
    3、 ロイドのCasualty Week(ロンドンのロイドが発行。)
    4、 W.W.W.のホームページ(特定地域の災害情報を毎日提供)

  2. 米国難民委員会(USCR)

    目的は世界中の生まれ育った土地を離れた人々の生活に建設的な変化をもたらすこと。難民、国内避難民、亡命者に影響を及ぼす状況にとりくんでいる。

  3. スウェーデンのウプサラ大学平和・紛争研究学部(DPCR)
    平和と紛争に関する研究を行う。活動の中心は紛争の起源と力学、紛争解決と国際安全保障。

  4. 経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)
    発展途上国との協力問題を扱う際の主要組織

  5. 世界食糧計画(WFP)のINTERFAIS情報システム
    食糧援助のマネージメント、調整、統計分析を改善するために、食糧援助の割当および輸送を監視することが可能。

災害データ収集に関する今日の主要な問題

大規模な武力戦争

 定義:

  1. 政府が紛争の一方の側に立ち、組織された武装対抗勢力(別の政府あるいは組織された分派)に対立している紛争。データは二つの当事者が紛争状況にある場合の、組織されていて偶発的ではない戦闘行為を対象とする。すなわち、ひとつの武装分派が武装していない市民を虐殺することはふくまれない。

  2. 紛争の過程で記録された戦闘関連の支社が少なくとも1000名を越えるような紛争。戦闘関連の死者には民間人であれ軍人であれ、戦争の標的となった犠牲者はふくまれるが、社会の崩壊による飢餓など、紛争による他の影響の犠牲者は含まれない。

  3. 統治あるいは領土支配に関する政治戦争。犯罪者集団間の紛争はその目的が明らかに経済的利益のみであるために含まれない。ストライキや他の社会的混乱も、それが現政府の交代を要求するようににならない限り、含まれない。


■救急・災害医療ホ−ムペ−ジへ/ 災害医学・抄読会 目次へ