災害医学・抄読会 000121

兵庫県医師会としての災害時の役割と震災後の改善点

前田冨士夫、日本救急医学会災害医療検討委員会・編 大規模災害と医療, 東京, 1996, pp 120-127)


兵庫県医師会としての災害時の役割と震災後の改善点

〈医療機関の被害状況〉

 兵庫県の行った、被災地区の医療機関を対象とした災害医療の実態調査によると、診療機能を低下させた原因として、多くの医療施設が全半壊などのダメージを受けたこと、また全・半壊などのダメージを受けなかった医療機関においても、何らかの損害を受け、かつライフラインの途絶、マンパワーの不足、通信網の断絶が上げられている。

〈兵庫県医師会における災害医療システムの構築〉

 まず、救出された被災者の応急処置、トリアージ後搬送隊に託しての後送の時期に対応した初期救急を行うためには、小区域連携組織の構築が必要である。グループ内に外科系医療機関を中心に災害拠点を設け、災害医療を行うとともに情報基地としての機能を併せ持たせなければならない。

 低被害の後方病院における専門的緊急治療の対応のため、周辺医師会との連携も必要である。また、情報交換、支持、救援医師の依頼、行政よりの備蓄資材の医師会経由の救急のため、県医師会との連携が求められる。

 搬送体制の整備については、個人と医療機関の搬送車の優先順位の再検討が求められる。また情報システムの確立については災害優先電話の契約を済ませた。

兵庫県保健環境部の災害急性期医療に関する役割と連携

〈災害時の保健環境部の役割〉

 兵庫県の防災計画では、救護班の派遣、傷病者の収容、防疫をはじめとする保健衛生対策、死体検案、廃棄物処理といった応急対策と、各種施設の災害復旧が定められていた。

 しかし今回の震災は規模が大きく慢性疾患への対応、PTSDに対する心のケア、避難所、仮設住宅の被災者への医療確保も重要な課題となった。そうした中でマンパワーの不足、通信網の途絶が大きな問題となった。

〈兵庫県災害医療システムの構築〉

 災害医療システム検討委員会では、災害医療システムは平時においても救急医療システムとして稼動しているものであること、情報の収集・提供、搬送の指令、マンパワーの確保の一元化、救急医療と搬送の一体化が必要であると指摘された。

 システムのあり方として県下全域をカバーする災害情報指令センターを置く、また保健所を地域医療情報センターとする、またマンパワー確保のため、相互応援協定の提携することが計画される。また情報システムとして、衛星通信、専用回路等複数多重の回線で結ぶことが計画される。災害医療センターは平時から広範囲熱傷、放射線障害に対応できるようにする。また災害時の円滑な死体検案のため観察医務室を移設することも考えられている。

〈関係機関との連携体制〉

 災害医療連携という観点から振り返ると、医療機関から保健環境部への支援要請が少なく、医療機関・医師会等と普段から信頼関係を養うことが必要である。また運搬業務に関して保健環境部に権限がないことも問題であった。また他県の医療行政局との連携もぎくしゃくした。医療機関どうしの連携ではカルテの統一やマンパワーの受け入れの共通マニュアルが必要ではないかと考えられる。


日本赤十字社の組織と機能

河野正賢、日本救急医学会災害医療検討委員会・編 大規模災害と医療, 東京, 1996, pp 128-137


日本赤十字社の組織と機能

〈日赤救護事業の法的根拠と内容〉

 日赤の救護班は、被災者の応急医療、助産および死体の処置が任務とされていますが、その他の救護に必要な業務も、状況に応じてそれに携わることになっています。

 日赤の救護機構は国家機構と同じで、救護事業の指示は、日赤本社から日赤支部へ、トップダウン形式で発令されます。支部が統括する日赤病院からは救護班が出動し、出動した救護班は、被災県支部がコントロールするという形になっています。

〈阪神・淡路大震災に際しての問題点からの検討〉

 阪神・淡路大震災に際して、緊急出動はうまくいきましたが、その後の対応にいろいろな問題が生じました。

 まず第一に、今回も被災県支部がほとんど壊滅状態で、十分機能しなかった数日間があり、このときに、全国支部や本社からの事務職員の派遣による被災県支部の機能支援を系統的に行わなければならなかったという事、第二に、被災病院の支援についてですが、被災地域内の医療や被災病院の支援は、後方病院にしかできません。従って、後方病院からの救護班の出動による現地の負傷被災者の治療、あるいは、被災病院への支援斑の派遣体制を、更に充実していかなければならないと考えています。

 後方病院においては、発災直後から救護班・支援斑を出さなければならない事や、また人を派遣することにより、予定診療収入が減少するという事に対して、何らかの経済的な支援措置を考えなければいけないのではないかという事も検討中です。

災害時における日本医師会の役割

 災害が発生すると、まず発生した場所にいる医師が人命救助をするのが当然であり、またしなければなりません。しかも、その医師はボランティアの形で行っています。しかし、日赤や国立病院、公的な病院の医師はボランティアではなく任務(仕事)として救助活動を行います。

 従って、地域にいる医師が災害時に災害医療を行う場合、事故が起きても補償はなく、自分の資材を持ち出して医療を行っても、それに対する対価はありませんでした。(今回の阪神・淡路大震災では、後から医療保険適応という事になった)

 このような矛盾した事があるので、日本医師会としては、防災会議に医師の代表も入れ、災害時において医師が人命救助に参加する方法を決め、ボランティアではなく参加し、より一層スムーズに人命救助にあたれるよう行政に提案をしています。

自衛隊の災害派遣活動

 阪神・淡路大震災において、自衛隊は、発災当日の1月17日から4月27日までの101日間、延べ人員228万人、車両36万両、艦艇680隻、航空機1万3千機を用いて、災害派遣活動を実施した。人命救助165人、遺体の収容1,238体、給食支援58万食、給水支援6万2千t、医療支援2万4千人であった。

 災害派遣時における自衛隊の持ち味は、顎足持参の上、自前の移動手段で駆けつけられる「自己完結性」、ヘリの数に代表される「機動力」、そして自衛隊ならではの「組織力・マンパワー」です。逆に、ネガティブな持ち味は、自衛隊が自己完結的な長期決戦型の組織であるために、移動にも展開にもある程度の時間を要することと、地域密着型ではないため土地勘が少ないことです。

関係機関との連携

 日本の災害対策にはディザスター・マネージメント、すなわち災害対策を「仕切る」事の重要性への認識が薄く、ディザスター・マネージャー、すなわち「仕切り屋」が見えないという特徴がある。この意味で、日本の防災制度は、指揮者なきオーケストラにたとえられると思います。

 今、相互の連携のために必要なことは、災害対策にかかわる各自が、コンサートマスターのセンスを持つことではないかと思います。ある組織の人間(長)でありながら、動時に他の組織の動きを把握し、指揮者に成り代わり全体のハーモニーをリードするようなセンスを持つこと、そしてそのような者が各組織にいれば、指揮者のいないオーケストラでも、あるいは下手な指揮者がいるよりも美しいハーモニーを奏でることができると思います。そのためには、それぞれの楽器の音色や持ち味、すなわち、その組織は何ができるのか、何ができないのか、出来るようにするにはどうすればいいのかという点を、相互に把握することが必要であると思います。


大阪府における救急医療体制について

―救急拠点病院も含めて―

大北 昭ほか、日臨救医誌 1999; 2; 318-25


1. はじめに

 大阪における救急医療体制の現状は初期救急医療体制である休日診療所、夜間診療所を基礎とし、その後送体制としての二次救急医療機関を病院群輪番制及び救急告示医療機関で担当し、三次救急医療機関として救命救急センターが整備されている。それらの診療応需情報を大阪府救急医療情報センターで集約している。また、、夜間休日活動型の特定科目の救急医療体制を含む各科24時間体制の整備についても努力している。

 災害時医療に関しては、、阪神・淡路大震災や0−157による集団食中毒を教訓にして平成9年3月に修正された大阪府地域防災計画では、急性期の救命医療を主眼に、時系列的医療展開を含めた医療救護活動へと大幅に見直された。加えて災害医療機関間の連携、災害時における救急医療情報センターの活動、コマンダーとしての機能発揮への具体化について検討する。

2. 大阪府における救急医療体制

(1) 救急医療体制の現状

 住民の休日、夜間の救急需要は、地域消防本部の司令センター(119番)や大阪府救急医療情報センター、あるいは直接初期救急医療機関などに向けられる。さらに初期体制で対応し得ない場合、二次、三次へ必要に応じて高次医療機関へ向けられる。

(2) 救急医療情報システム

 大阪においては、コンピューターシステムを導入した救急医療情報システムの運用を開始し、常駐医師による救急救命士への救急処置の指示業務及び、オペレーターによる診療応需医療機関の案内業務を開始した。診療応需情報の照会状況は、時間帯別では通常の医療機関が終了する17:00頃から増加し、21:00台にピークを迎える傾向があり、17:00から24:00までの7時間で全体の約6割弱を占めていた。診療科目別では、小児科が27.7%を占め、以下耳鼻咽喉科、内科、眼科、整形外科と続く。これらの情報照会は週末及び休日に集中していることが特徴的である。

 また精神科については、情報照会件数そのものは少ないものの、応需情報がなく、大半が照会不能となっている。耳鼻咽喉科、眼科、歯科、産婦人科、精神科については深夜帯において応需情報を案内できなかった事があり、今後特定科目の時間外診療体制を整備する必要がある。各診療科における問題点を以下に示す。

<小児科>

24時間体制は完備されているが、各病院での小児科病床の減少が問題となっている。

<眼科・耳鼻咽喉科>

平日準夜・深夜の診療体制が不備であり、今後急病診療所への出務医師の確保、後送病院の確保と平日準夜・深夜帯の診療体制の確立が必要である。

<精神科>

精神科救急病院としての24時間輪番制が出来上がっているが、現実には公立病院の受入態勢が弱い。大都市型特有の薬物中毒、アルコール中毒、刑事事件関係患者に対応できないケースもある。

3. 災害拠点病院

(1) 災害医療情報の収集、伝達

 大震災による被災地でのライフラインの途絶、電話などの通信手段の欠如を経験し、現在携帯電話や、災害時優先電話回線を確保しており、あわせて広域災害、救急医療システムの整備を計画している。

(2) 災害時医療救護活動の基本

 被災地域内では、まず救命医療が最優先され、応急救護所での可能な限りのトリアージと共に最重症患者の被災地域外への広域搬送が求められる。その後、経時的に医療救護所の設置、軽症患者への応急処置、被災住民の健康管理などへと変化する医療ニーズへの対応が要求される。被災地域外では救護班の派遣、医薬品などの供給、搬送患者の受け入れ、治療、高度医療の提供などを担当する。災害拠点病院のみならず、被災地域内外を問わず、全ての医療機関での災害に対する医療の実施が求められる。

4. 今後の課題

(1) よりきめこまかな救急医療体制の構築

夜間・休日活動型の大都市として特定科目や高度医療を含め、各科24時間体制の整備、充実。

(2) 救急告示制度と病院群輪番制との整合

(3) 卒前卒後の救急医療教育

(4) 地域保険医療協議会救急医療部会での調整

二次医療圏での救急医療体制の完結を試行し、あわせて災害医療機関間の連携を構築する。

(5) 災害時の救急医療情報センターの役割

単に情報の集約のみならず、災害時メディカルコマンダーとしての機能を発揮できるよう努める。

(6)救急救命士活動に対する評価と府民への啓発


第2章 軍事介入と人道介入は共存できるか

国際赤十字・赤新月社連盟.世界災害報告 1997年版、p.23-34


 軍事介入と人道活動の研究を検証し、複合災害に焦点を当てて、これら二つの極めて異質の行為者の間でどのような関係を確立することが可能で妥当なのかを探る。

<本来の人道主義>

 中立、公平、独立の原則に従うことが人道活動の要件である。人道活動は非政治的であり、その定義上、軍事力の使用は認められない。従って軍を人道主義的と呼ぶことはできない。背後にあるのが国であれ、地域機構や国連であれ、どんな兵士も政治的統治の影響下にあるからである、人道活動の“純粋”さを保つことの第一義的な利益は、紛争の最も尖鋭な段階においても苦しんでいる人々に接近できることである。

<原因と結果>

 武力行使の有用性は、それが純粋の人道活動と正しく分離された時に明らかになる。人道活動は紛争の結果にしか対処することはできないが、政治的・軍事的行動は、人道主義を装えないと仮定すると、人道活動が関与することのできない苦しみの原因にその強制力を通じて対処することができる。人道活動と軍事活動を分離する必要性と分離された活動が相手の妨げになるのではなく互いに補完しあうためにどうすれば良いのかを見出すために、人道活動と軍事行動が行われる環境を安定的環境、不安定な環境、危機的環境、紛争状況の4つに分けるのが有用である。この4つは暴力と危険要因が増大する段階に対応する。

1.安定的環境

 安定的環境では、中立と合意は問題にされることはなく、ほとんどの場合無関係であるため、軍事活動は人道活動と密接に携帯することができる。この携帯によって両者の当面の使命が果たせなくなることはなく、将来的にイデオロギー的純粋性についての評価を傷つけることもない。

2.不安定な環境

 暴力の危険性が常に存在する不安定な治安環境では、公然の軍事−人道協力は双方の地位を脅し、従って双方ともに効果的な活動をすることはできない。効果的な活動は、政治的・軍事的領域と人道的領域の分離にかかっている。平行的に活動するというアプローチによって、軍と人道機関はそれぞれの独自の能力を十分に発揮することができる。

3.危機的な環境

 広範な紛争状況寸前の危機的環境下では、通常軍が様々な種類の平和維持活動を実施することが必要となる。危機的な状況における軍事活動−大抵は平和維持活動−の目的は通常現状を安定化し改善することである。有効な平和維持活動には、現地住民の大半と、紛争党派や政府機関の幹部の協力と合意が必要である。

4.紛争状況

 紛争が広範な場合または広範に拡大した場合、平和維持に代って平和執行が必要となり、これは合意によらず武力による強制を用いる。紛争状況では、平行的に軍と人道機関によるそれぞれ別個の活動は、包括的アプローチとなる。すなわち、軍は必要な資源と使命をもっていれば紛争の直接の原因に対処でき、人道機関は紛争の結果を緩和することができる。

 以上をまとめると、暴力の増大によって不安定な環境から危機的環境、そして紛争状況へと段階が進むにつれ、両者の関係は厄介になっていき、両者が各々効果的に任務を遂行するためにはますます大きな距離を取る必要がでてくる。軍事機関と人道機関がその独自の能力をそれぞれの領域で発揮するには、補完的でありつつ別個であることが最善の道である。そうすれば人々の苦しみの直接原因と結果の両方に対して平行的に対処することができる。

 そのような協力を達成するためには、次の条件が満たされる必要がある。第一に、暴力的な環境で活動する救援機関は中立と公平であろうとし、またそのように認められ、その結果住民の同意を得て活動しなければならない。第二に、軍事介入者特に軍司令官は、人道活動の目的と人道機関が従っているルールについての十分な理解を持つべきである。故にこの理解は、介入部隊に与えられる使命にも反映される必要がある。第三に、両者の行動は苦しみを和らげるという共通の目的を持ち、それぞれがとる行動によって相手の使命を補完したり妨害したりすることがあるので、定期的で公開のコミュニケーションが、現場レベルでも両者の活動を指導する政治的レベルでも必要となる。特に現場では人道組織と軍の間の信頼関係を築く必要がある。

 軍事的・人道的活動の平行的実施がうまくいった経験は、少しずつしか蓄積されていない。しかし、過去の多くの失敗から明らかなのは、そのような状況では人道活動は注意深くその公平、中立、独立を維持すべきであり、軍隊は暴力を取り締まり、人命を守るために政治的に支持されたその強制力を利用するのが最善の用法だということである。

<結 論>

 軍事介入と人道活動は共存できる。軍事介入は人道活動の成功の可能性を高めることができる。


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