第11回日本中毒学会中国四国地方会・講演要旨

(愛媛大学開学50周年記念講演会)


目次


特別講演 ダイオキシンをめぐって

脇本忠明 (愛媛大学農学部教授・環境計測学)

 人類活動に伴って発生する猛毒ダイオキシン類は、今や大きな社会問題になってきました。毒性の全 容と汚染の実態について、現時点での状況を報告したい。


教育講演 1 急性中毒における初期治療の常識

白川洋一(愛媛大学医学部教授・救急医学)

 急性中毒は、原因物質が不明でも対症療法をしっかり行うことによって予後は大きく改善する。加え て、可能な限り早期に除染を実施し、原因物質しだいでは特殊な治療が奏効する場合もある。初期治 療の過程でとくに留意すべき事項をまとめて紹介する。


教育講演2 インターネットで探す中毒情報

西岡憲吾(県立広島病院・麻酔集中治療科)

 薬物中毒を始め、家庭製品の誤飲事故、自然毒による中毒、化学物質による災害などの場合、原因と なった薬物や物質の情報や資料などを収集することは、治療を行ったり、二次災害を防ぐためにきわ めて重要である。近年のインターネットの普及はすさまじいもので、様々な施設などから、中毒に関 連する情報が提供されている。また、電子メールを用いて、中毒関連の情報交換を行っているメーリ ングリストも活発な活動が行われている。今回、インターネットを利用した中毒情報の探し方につい て紹介したい。


日本中毒学会中国四国地方会・一般口演抄録


1 致死的重クロム酸中毒の一例

香川医科大学 麻酔・救急医学、法医学1

古泉真理、川口秀二、関 啓輔、相引眞幸、木下順弘、飴野 清1、井尻 巌1



 症例は61歳男性。自殺企図にて重クロム酸カリウム粉末を数グラム、水に混ぜて服用した。初発症状 として吐下血を認めたが、バイタルサインは安定していたため、近医にて入院後、輸液、利尿剤、キ レート剤等を投与された。しだいに、無尿となり急性腎不全の診断で当院に転院した。血液検査では 著明な血液濃縮がみられ、輸液負荷と利尿剤をさらに投与したが、腎機能は回復せずCHDFを導入し た。転院後2日目に腹部症状を訴え、徐々に血圧低下、血液ガスも悪化し、腹部CTにて急性膵炎の所見 が認められたため、人工呼吸、腹膜灌流も実施した。これらの治療に反応せず、転院後4日目にショッ クより離脱できず死亡した。剖検所見、血中濃度のデータも合わせ、今回我々が経験した重クロム酸 中毒の症例について考察する。


2  クロム化合物服毒の一剖検例

香川医科大学 法医学講座、麻酔・救急医学講座1、 香川県警察本部科学捜査研究所2

木下博之、古泉真理1、井尻 巖、飴野節子、田中直康、張 霞、辻中正壮、関 啓輔1、木 下順弘1、小栗顕二1、組橋 充2、芝山貴幸2、宮内 博2、飴野 清



 クロム化合物を経口摂取後死亡した中毒例の剖検およびクロム濃度の測定を行ったので報告する。

【解剖所見】61歳男性。身長169cm。左右の胸腔内にそれぞれ約350ml、約700mlの貯留液を容れ、肺は 左521g、右659g、広範な無気肺を呈していた。腹腔内には約200mlの血性液が貯留していた。肝臓は重 さ1851g、蒼白ないし黄色を呈していた。腎臓は左263g、右306g、浮腫状で実質内に出血を認めた。消 化管は胃から小腸のほぼ全長にわたって粘膜のびらんと出血を認め、内腔には血性液の貯留をそれぞ れ認めたものの、壁には穿孔を認めなかった。

【中毒学的検査】吐物および剖検時の血液より高濃度のクロム(20μg/g、0.1μg/g)を検出した。

【考察】患者は初診医にクロム化合物を服毒したことを話しており、剖検および中毒学的検査の結果はこ の話と矛盾しない。消化管粘膜のびらんと出血はクロム化合物による腐蝕性変化と思われる。また、 肝臓、腎臓の変化はクロム化合物の直接作用によるものと考えられる。死因はクロム化合物の服毒に よる多臓器不全と判断した。


3  鉄粉の刺入により血清鉄の上昇をみた一症例

山口大学 先進救急医療センター

河村宜克、鶴田良介、井上健、山下久幾、小田泰崇、本田真広 定光大海、前川剛志



 爆発で飛散した溶鋼に曝露され、経過とともに血清鉄が上昇した症例を経験した。

 症例は55歳、男 性。製鉄所で溶鋼の移し替え作業中に水蒸気爆発が発生し、患者は爆発地点より5m離れた場所で受傷 した。顔面熱傷と軽度嗄声により気道熱傷が疑われたため、当院救急部へ搬送された。視診上左顔面 から頸部にかけてI度(体表面積の2〜3%)の熱傷と黒色の小斑点が無数に認められた。左手背部にも 同様の小斑点と約3cmの切創を認めた。X線撮影により黒色斑点は水蒸気爆発時に溶鋼が爆風にのって 散布され皮内や皮下に残留した鉄粉と判断した。血清鉄は受傷後2日目24μg/dl、7日目61μg/dl、21 日目122μg/dlと、正常範囲内であるが上昇傾向を示した。

 鉄は通常食物等の摂取によって上部小腸 から吸収されるが、本症例では組織に沈着した鉄粉が血清鉄の上昇をもたらしたものと考えられる。 鉄粉が刺青として残留すれば、長期にわたり鉄を供給し続けるものと思われ、経過観察が必要であ る。


4  火災被害者剖検例における血中シアン濃度の中毒学的意義

高知医科大学 法医学教室

守屋文夫、橋本良明



 血中シアン濃度は、シアン化水素の易揮発性と組織反応性により、死亡後シアンの分析に至るまでの 間にかなり低下する可能性がある。本研究では、気化平衡 GC により血中シアンの安定性について検討した。気化平衡 GC の概略は、次の通りである。血液資料 0.5 mlおよび 1μg/mlアセトニトリル(内部標準)水溶液 0.5 mlを内容 15 mlの硝子バイアルに入れ、テフロンキャップとアルミキャップで密栓後、50%リン酸 0.2 mlをシリンジで添加した。56℃で 15 minインキュベート後、気層 0.5 mlを GC-FTD(30 m x 0.537 mm GS-Qカラム)に注入した。焼死体 5例の血中シアン濃度を定量したところ、死後経過時間が 12-15 hであった 4例では 0.07-2.05 μg/ml、3-5日であった 1例では複数箇所から採取したほとんどの血液試料で最小定量限界(0.02μg/ml)未満であった。血中 シアンの in vitro 安定性について検討したところ、 4℃では 3日間に渡りシアン濃度に変化は認められなかったが、20-25℃では 24hで約30%の濃度低下が認められた。70℃ではシアンは6hでほぼ完全に消失した。EDTAや NaFを添加しても、室温におけるシアンの消失にはほとんど変化は認められなかった。なお、炭酸緩衝 液の添加によりシアンの分解が促進された。本研究により、死体血中シアンの消失には、解剖後シア ンの分析に至るまでよりも死亡後解剖に至るまでの温度・時間因子の方が大きく関与することが示唆 された。


5  低コリンエステラーゼ血症と縮瞳により有機リン中毒が疑われた一症例

愛媛県立中央病院 麻酔科

池宗啓蔵、平賀徳人、坪田信三、渡辺敏光



 症例は68歳男性。数年前からパーキンソン病、脳梗塞後遺症で加療中であった。98年5月より尿閉とな り、近医で臭化ジスチグミン5mg/日を投与されていた。9月上旬頃より、歩行困難等出現し、徐々に食 欲も低下していた。9月11日前医入院。15日より意識レベルの低下がみられ、25日当院転院となった。 来院時、血液生化学検査などから意識障害の原因は高度の脱水と判断、挿管し輸液を行った。27日に 一旦意識が回復し抜管したが、90分後には再び意識レベルが低下したため再挿管した。同日のChEは< 5IU/Lと極度に低下しており(入院時86IU/l)、縮瞳、振戦、徐脈も出現したため、遅発性の有機リン 中毒の疑いをもった。その後ChE値は4日間<5IU/Lが続き、5日目に14IU/Lまで回復した。徐脈も同様 に改善したが、縮瞳はその後2日以上遅れて改善傾向となった。患者は10月1日頃より腹膜炎を併発、 消化管穿孔を強く疑ったが、DICに陥っており手術不能であったため、10月5日死亡した。

 本症例は、 血中・尿中からの定性試験で有機リンが検出されず、また寝たきりで前医に入院中であったことか ら、有機リンとの接触はなかった可能性が強い。一方、これまでに臭化ジスチグミンは、そのChE活性 阻害によりコリン作動性クリーゼを引き起こすことが数例報告されている。本症例の低コリンエステ ラーゼ血症について若干の文献をふまえ考察したい。


6  ロテノン中毒が疑われた一例

川崎医科大学 救急医学、検査部1、法医学2
三井 浩、奥村 徹、鈴木幸一郎、小林良三、木村文彦、福田充宏、藤井千穂、 小濱啓次、松田貴美子1、富田正文2



 【症例】特に既往歴のない67歳、男性。朝8時までは、普段と変わりないところを家人に目撃されてい たが、昼間には友人に自殺をほのめかす電話をかけていた。同日20時に知人に倒れているところを発 見され、現場には開封されたロテノン3%粒剤の袋とそれを溶かした液体が半分残ったビールジョッキ が残されていた。同7分救急車到着時には、意識レベル300なるも、脈は触知できていた。搬送中の同 20分、心肺停止となり、同51分、当院に到着した。当院到着後、救急隊に引き続いて心肺蘇生を行っ たが、蘇生せず、死亡した。身体所見、一般血液検査、レントゲン写真上、死因を特定できる情報は 得られなかった。状況よりロテノン中毒が疑われ、摂取量が致死量に達していたかどうかも疑問だっ たが、他に死因と断定できる原因も見当たらず、死亡診断書の診断名は、薬物中毒疑いとした。法律 に従って警察に連絡したが、検視のうえ、司法解剖にはならず、剖検も家族の同意を得られなかっ た。その後、99年9月、当救急センターに毒劇物分析機器が導入されたのを機会に冷凍保存していた胃 洗浄液、血清の分析を行った。しかし死因と思われる毒物は、同定されなかった。

 【考察】年間多数 の心肺停止が搬入される救急センターでは、その場で死因をはっきり特定できない事例も多い。薬物 中毒のより正確な診断を自己完結的に行えると言う意味では、毒劇物分析機器導入は評価できた。


7  受傷後早期に著明な出血傾向を呈したマムシ咬傷の一症例

愛媛県立中央病院 麻酔科

平賀徳人、池宗啓蔵、坪田信三、渡辺敏光



 今回我々は、受傷後早期に著明な出血傾向を来たした1症例を経験したので報告する。

 症例は48歳女 性。9月11日21時頃自宅車庫で左足をマムシにかまれた。局所の疼痛とともに全身のしびれを自覚。嘔 吐して前医を受診した。このとき咽頭部の閉塞感を訴えていた。22時40分、血小板が1.4×104と著明 に低下し、血尿も認めたため、23時30分当院を受診した。来院時、意識清明で血圧125/65mmHg、脈拍 81bpm、肉眼的血尿を認め、血小板数は1.6×104、出血時間は10分以上であった。ICU収容後、マムシ 抗毒素6000U、セファランチン10mgとともに、FOY1500mgを投与した。翌12日2時に血小板数は9.4×10 4、7時には19.1×104まで改善した(PT78.2%、APTT43.5sec.)。その後の経過は順調で、左下腿の 腫脹は最大でも膝関節以下にとどまり、第19病日退院した。

 これまでにいくつかの症例でマムシ咬傷 による出血傾向、DICが報告されている。しかし本症例のように、腫脹が激しくないにもかかわらず、 受傷後わずか1時間40分で血小板減少、出血傾向を認めるものはほとんどない。本症例のようにマムシ 咬傷で急速に出血傾向を認める症例があり、たとえ入院時に軽症であっても厳重な経過観察が必要で あると思われた。またこのように急速な症状の進行が現れた症例には抗毒素血清の投与が有効と思わ れた。


8  中毒メーリングリストを通じたカンボジア洪水後の蛇毒血清入手のための情報支援

愛媛大学救急医学、WHO緊急人道援助部(アジア西太平洋地区担当)1、 日本蛇族学術研究所2、広島大学法医学3

越智元郎、朝日茂樹1、鳥羽 通久2、屋敷幹雄3、田原憲一、前川聡一、山口佳昭、 白川洋一



 インターネットを用いた中毒情報ネットワークである ml-poisonによる情報支援が、カンボジア洪水後の蛇毒血清入手の活動に寄与した。

 1997年8月6日、カンボジア政府からWHO西太平洋支部、緊急人道局(EHA)に100人分の蛇毒多価 血清を入手したいという要請があった。同国では最近のメコン川の大洪水により、多数の蛇咬傷の発 生が予想されていた。しかし、EHAでは依頼のあった時点で、何種類かの単価血清を確保できたに過ぎ ず、またカンボジアに生息する毒蛇の種類やどこで血清を入手できるかについての情報を持っていな かった。EHAから愛媛大学を経由して、ml-poisonを初めとする関連メーリングリストに問い合わせの 電子メールが送られ、その結果、日本蛇毒センターおよびインド血清センターとの連絡が取れた。血 清がカンボジアへ空路送られたのは8月16日であった。この事例から、ml-poisonをはじめとする、救 急関連メーリングリストの有用性が確認された。


9  Diaminodiphenyl sulphone(DDS)内服により重篤な肝障害をきたした一例

広島大学医学部附属病院 救急部集中治療部

林 經堯 、岩崎泰昌、芳原敬士、山野上敬夫、岡林清司、大谷美奈子



 DDSは皮膚科領域において、癩をはじめとするさまざまな疾患に広く用いられている。今回私たちは DDS内服により重篤な副作用である肝障害をきたした一例を経験したので報告する。

 【症例】26歳の女 性。10歳頃アトピー性皮膚炎と診断され、23歳頃より某病院にて加療中であった。H11.4.19よりDDSを 2週間(用量不明)内服し、5.9より38℃の発熱、両側顎下リンパ節腫脹、黄疸が出現した。5.20より 近医に入院したが、重篤な肝機能不全が出現したため、5.24当院第1内科に入院となった。第1内科入 院時、T-Bil 13.2、GOT 203、GPT 389であり、血漿交換療法を行うも肝機能がさらに悪化し、呼吸不全も合併してきたため、6.22当院 ICUに全身管理目的で入室となった。この時点でも肝障害の原因は判らなかったが、患者家族に以前の 投薬内容を詳しく聞いたところ、6.24になってDDSを服用したことが判明し、DDS症候群と診断した。 そこで、DDS症候群の治療薬であるステロイドを投与したところ、肝機能は改善したが、6.11より下 血、6.24より小腸に出血・動脈露出を認め、クリッピング・ポリドカノール局注術を施行した。6.25 には消化管穿孔し人工肛門を造設した。その後、症状は改善し、現在は人工肛門閉鎖術のため、入院 中である。若年者の原因不明の肝障害の際には、肝障害を来たしうる薬物の服用歴を、詳細に検索す ることが重要であると考えられた。


10  高度徐脈を呈した塩酸トラゾドンによる中毒の一症例

川崎医科大学 救急医学

奥村徹、鈴木幸一郎、山根一和、木村文彦、宮軒将、熊田恵介、福田充宏、青木光広、藤井 千穂、小濱啓次



 【症例】抑うつ状態にて通院中の24歳女性。塩酸トラゾドン 1050mg、エスタゾラム28mg、スルピリド1.4g、ロルメタゼパム 14mgを自殺目的にて摂取し、近医より紹介され、服毒後10時間後に救急車にて当救命救急センターに 来院。救急車内でも、血圧90台、脈拍30台にてバイタルサインは不安定のままであった。来院時、洞 性徐脈ながらも脈拍数が20台まで下がっており、血圧も触知できなかった。ベンゾジアゼピン系薬剤 の影響も考え、フルマゼニルを0.5mg静注したが、バイタルサイン安定せず、硫酸アトロピン0.5mg静 注にて、脈拍、血圧、次いで意識状態も回復した。しかしその後も徐脈のため、塩酸イソプロテレ ノールの持続静注を余儀なくされた。第2病日からはバイタルサインも安定し、カテコラミンや硫酸 アトロピンからも離脱でき、第7病日には軽快退院できた。

 【考察】塩酸トラゾドンは軽度のセロトニ ン再取り込み阻害作用を有する抗うつ剤である。環系の抗うつ剤と比較して、安全な薬剤と言われて いる。文献上も心血管系に対する中毒報告は比較的稀であり、徐脈に関する報告は、フランスにて1例 のみ報告されているにすぎない。しかし、最近の選択的セロトニン再取り込み阻害剤、いわゆるSSRI 剤の本邦での導入に伴い、同様の中毒も増加する可能性があり、その中毒には、高度徐脈も、今後大 いに注意を要するべきものと思われた。


11  三環系抗うつ薬を含む多種類の薬物による中毒患者の治 療経験

松山赤十字病院 麻酔科

津野信輔、竹吉 悟



 【症例】24歳、男性 主訴:意識障害 

 【既往歴】20歳虫垂炎、23歳うつ病、23歳10ヶ月薬物中毒 

 【現病歴】平成11年8月31日23時以降9月1日朝までの間に大量の薬剤を服用した。 9月1日午後知人に意識不明で倒れているのを発見され、救急車にて当院を受診した。来院時所見:意 識障害(JCS300)あり。呼吸は微弱で、酸素飽和度は酸素投与下で 85%であった。脈拍は100回/分、血圧は70mmHgであった。服用したと思われる薬物は25mg塩酸イミプ ラミン88錠、5mgブロマゼパム150錠、1mgエチゾラム27錠、25mgメフェナム酸8錠、5mgレボメプロマジ ン6錠、80mgセンナエキス3錠、アストフィリンTM(ジプロフィリン100mgを含む合剤)240錠であっ た。治療経過:直ちに気管内挿管をしたが、100%酸素投与下でも酸素飽和度は94%前後であり、胸部 エックス線写真で右上肺野を中心に浸潤影を認め誤嚥性肺炎が疑われた。血圧の維持のため輸液と塩 酸ドパミンの投与を開始した。胃管を挿入し約500mlの白色の薬品臭を伴う液体を吸引した後、胃洗浄 と活性炭の投与を行った。さらに、抗うつ薬以外の薬物の排泄促進のため大量輸液による強制利尿を 行った。経過中、心電図には洞性頻脈以外の異常はなかった。呼吸循環動態及び意識障害は徐々に改 善し、入院3日目に抜管、16日目に退院した。

 上記の症例を報告し、若干の考察を加える。


12  急性覚醒剤中毒により急性腎不全と壊死性腸炎を来した一例

徳島大学医学部 救急部集中治療部、麻酔科1

飯富貴之、荒瀬友子、黒田泰弘、阿部 正1、福田 靖、岸 史子、佐藤由美子1、 大西芳明、大下修造1



 急性覚醒剤中毒により急性腎不全と壊死性腸炎を来した症例を経験した。

 【症例】51歳,男性。身長178cm,体重65kg。平成11年2月3日、山中を徘徊していて警察に保護され、その時尿中の覚醒剤反応が 陽性であった。留置中、腹痛を来たし2月4日に当院へ緊急入院となった。入室時、GCS (E2V4M3)、BP 60/42mmHg、HR 110/分、四肢末梢は冷感が著明、血液ガスで著明な代謝性アシドーシスを呈していた。このため直ち に気管内挿管し人工呼吸管理を開始した。血液検査所見にてWBC 33700 /μL、Hb 15.2g/dL、PLT 25.6x104/μL、GOT 270IU/L、GPT 80IU/L、LDH 1860IU/L、T-Bil 1.8mg/dL、CK 2153IU/L、BUN 95mg/dL、CRE 4.1mg/dL 、K 6.1mEq/Lと上昇し、尿潜血反応が3+であった。横紋筋融解症に伴う急性腎不全と診断し、持続血液濾 過を開始した。2月5日に WBC 2500/μL、PLT 8.1×104/μLと著減した。腹部CT後、試験開腹術を施行し、広範な壊死性腸炎を認めたためドレナー ジ、腸切除術を施行した。

 【考察】急性覚醒剤中毒では、高体温、代謝亢進により循環血液量低下を 来す。本例では脱水、DICが原因となって、虚血により壊死性腸炎を来したと考えられた。


■愛媛大学医学部    □同救急医学教室