乳幼児のさまざまな疾患と処置

円山啓司(市立秋田総合病院 中央診療部 手術室)

(エマージェンシー・ナーシング Vol.12 (7): 636-41, 1999)


はじめに

 乳幼児の救急搬送例の中には、家族のちょっとした油断、認識不足、不注意等で起こ る病気や事故等がある。本稿では、乳幼児に多い病気や事故 、病気や事故に対する正しい認識、そしてその防止策、さらにはいざという時の対応 を知っておくことが大切であることを救急搬送症例を通して述べてみたい。

けいれん発作

 症例1. 2歳女児、朝から熱があったが、土曜日でもあり、家族と一緒にデパートに 買い物に行き、デパートで1-2分間のけいれんを発症した。

 症例2. 2歳男児、2日前から風邪をひき、突然けいれんを自宅で発症。自家用車にて 消防署に駆けつけた。母親は子供が舌を噛まないように口の中に自分の指を入れていた。

 症例3. 1歳男児、前日からの高体温のため、近医で治療中であったが、突然けいれ んを発症。救急隊が現場に到着したとき、母親が半狂乱の状態で子どもを抱き抱えな がらアパートの階段を降リてきた。幼児の口の周りには血液が付着し、口腔内にはタ オルが詰め込まれ、子どもはぐったりしていた。

 症例4. 1歳女児、入浴後、居間でけいれんを発症。けいれんは顔面より始まり、左 半身に強いけいれんが15間分以上継続していた。また、低酸素脳症の既往があった。 救急隊到着時、女児はあお向けに寝かされていた。

 症例1-3はいづれも熱性けいれんである。症例1では、朝から熱のある子供を買い物 に連れていき、けいれんを起した。たとえ元気であっても発熱は体力の消耗、脱水に もなりやすく、親の都合で子供を連れ回すのでなく、子供の状態を考えて行動しても らいたい。舌を咬むと、危険であるとの間違った認識を持っている親が多いため、子 供がけいれん発作を起こした時、舌を咬まないよう口の中に症例2では、自分の指を 、症例3ではタオルを入れていた。それ以外にも割りばしやスプーン等を入れている 場合もある。けいれん発作時に舌を噛まない様に口の中にものを入れる行為そのもの が症例3のように逆に気道閉塞を起こし、窒息を招く場合もある。突然起った状態の 中での間違った思い込みは時には逆の結果生むので、正しい対処法を教えることも大 切である。症例3では救急車のサイレンが聞こえた段階で、母親は安心し、1秒でも早 く病院に行こうとして救急車の所まで子供を抱いて走って来た。早く病院に行きたい 気持ちはわかるが、その間は必要な手当てを何も行うことが出来ない。たとえサイレ ンの音が聞こえても救急隊員が側に来るまで、必要な観察、手当を継続することが大 切である。症例4はてんかん重積発作で、症例1-3に比べ、けいれん時間が長く、局所 的であった。このような場合は119通報するだけでなく、救急隊が到着するまで、子 供の側で観察し、必要な場合は応急手当を行うべきである。

 熱性けいれんは通常38℃以上の乳幼児期に生じる発作性疾患(けいれん、非けいれ ん性発作を含む)で、中枢神経感染症、代謝異常、その他の明らかな発作の原因疾患 (異常)のないものであり1、慌てることはないが、表1に示すようなけいれん発作の 場合は病院で診てもらう方がよい。

 熱性けいれんの治療や発作時の対処の仕方に強い関心を母親は持っている2ので、 その対応等を発熱児が来院した場合に家族に十分説明していると、けいれんを発症し ても、慌てず適切な対処ができるものと思う。そのような説明もなく、その場に遭遇 すると、多くの母親は死んでしまうのではないかとかこのまま息が止まってしまうの では等の不安、恐怖を感じ3、パニック状態となって何もできない。また、間違った 対応をする場合もある。そうならないように家族にいざというときの対応等を十分に 説明してもらいたい。

転落/転倒

 症例1. 2歳女児、玄関先で子供をおぶったまま傘を差そうとして、母親の背中から コンクリートの床に子供が転落。

 症例2. ソファーに立上り、母親にしがみつこうとした10ヵ月の乳児が後に転倒し床 に頭をぶっつけた。

 症例3. 8ヵ月の男児、立っていて転倒し、フローリングの床に後頭部をぶっつけた 。受傷後、顔面蒼白となリ、嘔吐し、意識もなかった。救急隊到着時、母親に抱かれ て四肢を激しく動かし、弱々しく泣いていた。

 症例4. 2歳男児、自転車の補助イスに座らせていたところ、自転車が転倒し、頭部 を受傷した。

 症例5. 3ヶ月女児を抱きながら、部屋の中を歩いていたが、誤って転びそうになっ たので、子供をほうり投げてしまった。

 症例6. 1.6歳、男児、祖母が孫を背負おうとしたところ、転落。針立てに刺してあ った裁縫針が右側胸部に刺さり取れなくなった。

 小児は頭が重く、固い床等に転落した場合、症例1-3のように頭蓋骨骨折、硬膜外血 腫を伴う可能性もある。他にもスーパー等のカート、ベランダ、ベッドからの転落等 がよく見られる。自転車に子供を乗せる時は、まず親が自転車に乗ってから、子供を 乗せるようにすれば、症例4のような自転車での事故を減らすことができる。室内の 整理整頓がされていないと、症例5のようにつまづき、子供を離してしまうこともあ る。また、症例6のように子供を落としたところに針等があれば、針がささり、大惨 事になる事もありうる。

 症例3のように元気がなければ、すぐに病院に連れていくが、頭をぶっつけても全く 変わりなく元気に遊んでいる場合は気にも留めないかもしれない。しかし、安心しな いで、少し休ませて、状態を観察する事は必要である。時間が経つに連れ、吐き気、 嘔吐、頭痛等が見られた場合は、硬膜外血腫等で脳圧が亢進している可能性が高い。 救急車は近所迷惑だと考え、自家用車等で病院に行く場合があるが、途中で急変した 場合全く対応ができず、危険を伴う。このような場合はたとえ深夜であっても、躊躇 せずに救急車で病院に行く事が望ましい。

熱 傷

 症例1. 1歳の女児がポットに手をついたところ、ロックされていなかったためにお 湯が流れ出して足に熱傷を負った。

 症例2. 夕方、母親が「時間になったら風呂釜の火を止めるように」と子どもに言い 残して買物に出かけた。留守番中の7歳と5歳の姉妹は、つい遊びに夢中になり、火を 止めるのを忘れた。ハッと気づいて慌てて風呂場に行った時には既に風呂の湯は煮え たぎっていた。その時、一匹の蜂が窓ガラスにまとわリついて飛んでいたため、姉が 箒で追い払おうと風呂の蓋の上に上がった。熱で柔らかくなっていた蓋がへし折れ、 姉は転落、全身に熱傷を負ったものである。

 その他には、1)反射式ストーブに誤って手をついて熱傷。2)やかんのお湯が誤って 胸にかかって熱傷。3)カップ麺や味噌汁をこぼして熱傷。4)炊飯器の減圧弁からの 蒸気で顔を熱傷といったものもある。

 熱いお湯等がかかった場合は、すぐに水をかけて冷やす。熱は皮膚深く浸透してい くので、早く冷やさないと深いところまで傷害を受けてしまう。ただ、冷やしすぎて 低体温にならないように注意する必要はある。

溺 水

 症例1. 1歳の男児、母親が掃除中、子供の姿が見えないため、探しに行ったところ 、浴槽内で仰向けになって浮いていた。母親が引き上げたとき、呼吸はなく、心マッ サージを行った。

 症例2. 1歳、男児、6時頃布団からでて行ったが、なかなか戻らないため捜しに行っ た所、浴室にうつぶせになって浮いていた。119通報時、指令課員から口頭指導を受 けたが、パニック状態であったために、心肺蘇生法は行われていなかった。救急隊が 到着したとき、母親は布団に男児を包み、抱いていた。

 症例3. 1歳の女児、母親、4歳の姉の3人で入浴していたが、母親が先に上がり、そ の後二人で入浴していたとき、妹がけいれんを発症し、水没した。一緒に遊んでいた 姉は直ぐに妹を引き上げると同時に“お母さん”と助けを呼んだ。

 残り湯を捨てたり、外鍵を子供の手の届かないところにつけたりすることで、風呂 場での子供の事故を未然に防ぐことはできる。また、小さいうちから水泳を習うこと も大切である。症例3のように母親が先に風呂から上がり、子供だけが風呂場にいる のは危険である。救急はいつ何処で起るか解らないので、ちょっとした油断が大きな 事故につながることを知ってもらいたい。

 症例2のように、今まで元気であった子供が急に具合が悪くなったりすると、家族 特に母親は慌て何をしてよいかわからなくなってしまう。そのため、発見から通報ま で時間がかかったり、何もせず救急車のところまで子供を抱いて走ったりする。正し い対処ができるように日ごろから家庭内でおきやすい子供の事故や病気について正し い認識といざという時の応急手当等を知識として知っていることが大切である。

窒 息

 症例1. 2歳8ヶ月の男児、一ロゼリーを容器から吸い込んで食べようとして喉につま らせ、激しく暴れたのちぐったりなったため母親が救急要請。その後指令課の口頭指 導により母親が背中を叩いて取り出した。

 症例2. 7ヶ月男児、おやつにリンゴ(2x2x0.7)片を飲み込み、顔色が蒼白となった。

 症例3.1ヶ月女児、急に呼吸状態が悪くなり、チアノーゼが出現した。母親が背部叩打法を 行ったところ、痰の塊が出てきた。その後、呼吸状態は回復した。

 症例4. 1歳女児、おやつの時間に西瓜とパンを食べていて、詰まらせ、息ができな い状態となり、顔がまっ青になった4。5日前に習った異物除去法を試み、一部取り出 すことができた。

 気管内異物による窒息は特に1歳代の乳幼児に多く、異物の種類ではピーナツ等の 豆類が多い。子供が何か食べているのを目撃している家族は90%もいるにもかかわら ず、24時間以内に摘出されたのは39.5%と少ない5。突然の喘鳴、咳、呼吸困難が見 られたときは気管内異物を疑い、家族に症状の出現前に何か食べていなかったか問診 することも重要である。また、直径32m長さ57mmの筒の中に入るようなもの(ピーナ ッツ等の豆類も含め)は子供のそばに置かない、食べさせない事が予防につながる。 乳児では、授乳中空気を一緒に飲み込むので、ゲップと一緒に吐乳しやすく、窒息す る場合もある。ゲップを出してから寝かせると吐乳による誤嚥を防ぐことができる。 症例3はせき止めを服用していたため、痰を出しにくく、その結果、痰によって気道 が閉塞しかけたものと思われる。この様な場合もありうるので、予防だけでなく、い ざという時の対応(異物除去法)等も知識として持っていなければならない。事実、 症例4では5日前に習った異物除去法により、子供の命を助けているのだから。

誤 飲

 症例1. 空き缶に若干のジュースを残し、灰皿として使っていたが、父親が目を離し ていた隙に1歳の幼児がこれを飲んだ。

 症例2. 1歳男児、母親が目を離したすきに、灯油のポンプに入っていた灯油を飲んだ。

 症例3. 入浴中、女児が液体石鹸を飲んだ。

 症例4. 1歳女児、入浴中、カビ洗浄剤を目に入れた。

 家庭用品による誤飲では、タバコ、化粧品、洗剤、殺虫剤等が多く、特にタバコの誤 飲が多い6。タバコを食べて30分ぐらい無症状の場合はほとんど問題はない。また、 我が国では死亡例の報告はないので、慌てることはない。症例1のように灰皿がわり のジュース缶の残液を飲んだ場合はニコチンが融出しやすく、重篤になりやすいので 、ジュース缶を灰皿がわりにしたり、灰皿に水を入れてたばこを消したりしないこと も事故を防ぐ上で大切である。症例2のように灯油を飲んだ場合は、気管に入る方が 危険であるので、吐き出させることはしない。他にもアルカリ、酸、ガソリン、石油 を飲んだ場合や意識状態が悪い場合や6ヶ月以下の乳児の場合も催吐は禁忌である7。 症例4のように目に入れた場合は、水でよく洗い流すことが必要である。

 その他の事故等では、1)3歳の姉が4ヶ月の女児に抱きつき、顔面蒼白となった。2) 3歳男児、玄関のドアに手を挟む。3)2才女児の手袋とジャンバーを脱がせようとし た時、肘の付近からポキッと音がし、変形した。4)2歳男児が誤って足を滑らせ、 保育園内の小児用和式水洗トイレの排水溝の中に、足首から膝まではさんで抜けなく なった。5)2歳男児、母親が針金製のハンガーを取り上げようとした時、左目に引 っ掛かり受傷した。等があった。

 ここに示した症例は一部であるが、事故や病気から子供を守るためには、子供の視 野にたって、もう一度子供の周りを見つめ直す(表3)と同時に子供の病気について 正しい知識を持ち、いざという時にも慌てず適切な対処ができるよう日ごろから勉強 しておくことが大切である。

終わりに

 本稿を読まれた読者の方が乳幼児の事故、病気に対してどのように対処すべきか、 また、子供のみじかには如何に多くの危険があるかを理解し、多くの方に事故や病気 に対する正しい認識、予防、いざという時の対応等を看護婦の立場で啓蒙普及に努め ていただける事を切に願うものである。


表1 病院に連れていったほうがよい場合

                

1. けいれんが10分以上持続する。
2. 短い間隔で、繰り返し発作が起こり、この間意識障害が続く。
3. 全身的なけいれんでなく、局所的に起こる。
4. はじめてのけいれん(特に、1歳未満)。
5. 発熱と発作に加え、他の神経症状を伴う(遷延性意識障害、マヒ等)
6. いつものけいれんとは極端に違う。


表2 けいれん発作時の対応

                

1. 慌てず、冷静に、衣服を緩め、クビの周りを楽にする。

2. 横向きにする(昏睡体位)。必要なら、気道確保(あご先挙上法)。

3. 元に戻るまでそばを離れず、観察(体温の測定、発作持続時間、
  けいれんの状態、左右差、眼球偏移、意識状態、呼吸状態)を続ける。

4. 口から飲み物や薬を与えない。

5. 必要なら、心肺蘇生法等の応急手当を行う。


表3 乳幼児の事故防止のために


1. 子供の行動を過小評価しない。

2. 転がり落ちそうな所(テーブル、イスの上等)に子供を置かない。

4. 年齢にあったおもちゃを与える。
  重いもの、小さなもの、壊れやすいものは危険。

5. 安全な家庭環境維持。家具の側、水の側、台所、風呂場は危険。

6. 乳幼児が何をしているかいつも注意深く観察。

7. 触るな、食べるな、だめ、という言葉は早めに教える。
  側に走っていくよりも声のほうが早く伝わる。

7. 子供を一人にしない。ちょっとそこまで、それが危険のもと。

8. 家庭内だけでなく、家の周囲にも危険がないか目を向ける。
  家の周り(100m以内)での事故は多い。


文 献

  1. 福山幸夫、関亨、大塚親哉、三浦寿男、原美智子:熱性痙攣の指導ガイドライン、 小児科臨床 49: 207-215,1996

  2. 三宅捷太:熱性けいれんをもつ児の生活指導、New Mook 小児科 2 熱性けいれん二瓶健次編、金原出版、京都、1992、pp150-161

  3. 山谷美和、小西徹、本郷和久、八木信一、谷守正、窪田博道、鈴木好文:熱性けい れんの発作症状に関する検討、小児科臨床 49: 240-244, 1996

  4. 円山啓司、佐藤ワカナ、重臣宗伯、中村徳子、越智元郎:窒息例を通して、いざと いう時の保育園での対応を考えよう、保育情報 265: 26-28, 1999

  5. 円山啓司、光畑裕正、佐藤ワカナ、鈴樹正大:気管内異物症例の統計学的検討、麻 酔40, 1417-1422, 1991

  6. 田中哲郎:子供の事故の疫学、田中哲郎著、子供の事故防止マニュアル、東京、診 断と治療社、1995、pp10-62

  7. 毒物の除去:薬・毒物中毒救急マニュアル改定5版、西勝英監修、大阪、医薬ジャ ーナル、1994、pp14-21


著者連絡先

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