もうすぐ1月17日

国立明石病院外科 村山良雄(980111. neweml 1182)


 この資料は私信としてお送りいただいた阪神・淡路大震災に関する手 記をホームページ担当者がお願いをして、 このペ−ジから発信させていただいたものです。

目 次

Part 1  Part 2  Part 3  Part 4  Part 5
 


Part 1

Date: Sun, 11 Jan 1998 22:06:24 +0900
Subject: [neweml:1182] もうすぐ1月17日#1

小生の勤務する国立明石病院は神戸の西隣にあり、淡路島北端の岩屋に
分院を併設しております。平成3年の滋賀県信楽高原鉄道事故発生に際
して直近に国立信楽療養所があり、普段は療養所のためにほとんど救急
患者を受け入れておりませんでしたが、一番近い病院として予期せぬ多
数の患者を受け入れ、その詳細を近畿地方医務局がまとめ、各国立病院
のみに配布致しました。

当院南約200米に新幹線が走り、その報告書を見た外科スタッフから、
もし、新幹線が事故を起こしたらどうなるかと言う素朴な提言から当院
では平成4年から大規模交通災害に対するマニュアルを試作してまいり
ました。

その結果を平成6年12月の国立病院総合医学会で発表する事になり、全
く偶然に、震災の1ヵ月前の医局会で災害とは何ぞやというような意味
の話しをしました。

その直後という訳で約1名以外の全医師が地震直後にすぐ病院にかけつ
け、午前6時15分頃から診療を開始しました。

事前に1、災害や大事故が発生すれば全職員は自主的に病院に向かう。
2、病院の全資産を災害医療に充てる。3、またずに積極的に受け入れ
を表明する。と言う合意があり、助かりました。

もちろん水道、電気、ガス等のライフラインは途絶し、建物のヒビ割れ
は数百箇所、エレベーターも使用不能、多数の医療機器も損害を受けま
した。

職員数名が負傷、自宅全壊、半壊数件、一部職員家族に不幸もあり、医
師の多くが神戸市内に居住し、全員、何らかの被災をしましたが、詳細
な情報の無いままに、ほとんどすぐに出勤しました。後日、多数の友人
に聞きましたが、地震直後に自宅を出た医師は混乱した神戸市内を通っ
ても、街はがらがらで普段より早く病院に到着し、定刻に出発した医師
のほとんどが大幅に遅れたり到着不能であったそうです。

当院では経営改善のために医事業務を外部業者に委託しており、若い女
性が窓口業務を担当しておりますが、震災で全員出勤せず、そのために
当日のカルテ作成が出来ず、何名の外来患者を受け入れたか記録があり
ません。一部の職員が午前中に144名まで縫合処置を行った患者数を
数えておりましたが、その後、止めてしまいました。


Part 2

今回の経験で、若干の教訓めいたものがありますので少し述べさせて頂 きます。 まず、よく話題になる電話を中心とした通信問題ですが、当日は午前8 時頃までは通じていましたが、その後、被災地に通話が殺到し、NTT により一般回線が遮断されてしまい、ほとんど通話不能となりました。 NTTに確認したところ、災害発生時に50%の回線が遮断され、今回 のような大きな災害では100%規制されるそうです。各病院の一部回 線は災害時優先電話として若干の回線が確保されています。   所要回線数  災害時優先電話回線 ********************   1〜3回線     1回線 ********************   4〜15回線    2回線 ********************  16〜34回線    3回線 ********************   35回線以上   所要回線の1割 ********************  消防・警察はその2倍 病院ではこの少ない回線に多数の通話が殺到したために常に話し中の状 態になってしまいました。またNTTの回線網はインターネットと同様 に網目状となり数箇所切断されても他地域を迂回して回線が確保されま すが、国立病院では経営改善のために長距離通話はNTTではなく第二 電電回線と契約しており、震災でそれらの回線が遮断されたために、当 院から長距離電話はかなり長い間、使用不能になってしまいました。 当日は110番、119番も通話不能でしたが、警察や消防の一般加入 電話にはほとんど問題無く通話出来ました。小生も地域防災計画書を以 前から入手しておりましたが、これらの電話番号を調べる以外には実際 の災害には、これらの計画書は役にたちませんでした。他病院への連絡 もほとんど話し中で通話出来ませんでしたが、意外とFaxは問題無く 交信が可能で、助かりました。

Part 3

通信内容そのものにも若干の問題がありました。前述のように当院岩屋 分院に午前7時頃電話したところ、その時点で外科医2人で十分対応が 可能で応援不要との事でしたが、その後、午前8時頃より多数の患者が 殺到し、応援が必要な事態となりました。しかし、電話が不通となり、 断続的につながるのみで、近畿地方の国立病院を統括している医務局か ら当院に連絡があり、それを事情のよく分からない事務官が受け、単に 当院にも多数の患者が殺到していると報告し、それを聞いて医務局では 加古川と神戸病院にはそれほど多くの患者がおらず、そこから応援・救 護班を派遣する事に決定し、当院からは応援を派遣しなくても結構との 連絡が入りました。 しかしながら病院前の東行き国道は完全に停滞、通行不能で、そのよう な状態では加古川から連絡船の出る明石港まで行ける訳がありません。 我々も来院した患者から周辺の交通事情を聞いており、それを確信しま した。結局、断続的にしか医務局と連絡がとれず独断で応援を派遣する 事を決め、パトカーに先導を依頼し、対向車線を走って港まで急行し、 結局、最後に出発した当院応援班が一番早く到着しました。 災害発生時の情報伝達では伝達手段に問題が無くても、その内容やそれ によって下される決断も大切で、大いに考えさせられました。 また、港に到着してびっくり。何と桟橋が沈没し、連絡船が着岸出来ず、 沖合いに停泊しているとの事。事務所から船舶無線で船長にどこでもい いから着岸して乗せて欲しいとお願いしました。結局、保安庁の岸壁に 船を臨時に着けてもらい、バケツリレーで救援物資を積み込み、直後に 到着した神戸病院からの非常食料を見てびっくり! 重いのでなんだろ うかと調べたところ何と救援食品として高価なカニ缶でした。それでも いいのですが、同じ国立病院とは言え、全くナンセンスです。 もちろん我々はガーゼ、イソジン、輸液、縫合セット、その他の外科処 置具と看護婦5名、外科、整形外科、内科医の3名でした。分院の内科 医は出勤不能と判断し内科医も同行させました。我々はスーパーの買い 物かごや紙袋にいれて持参しましたが、バラで持ってきた神戸の物資の 連絡船からの搬出に困り、乗り合わせた乗客にお願いしたところ、全員 が気持ちよく運んで頂けました。 救護班の派遣方法、手段、救援物資、搬送手段等にも注意する必要があ ります。

Part 4

責任者不在に中で当日夕方に緊急会議を開催し、1)全病床を災害医療 に充てる。2)外部からの受入は各科ごとではなく一元化し、統括者を 任命し、統括者が全病床を把握する。3)当面、通常診療は行わない。 4)外部からの電話は交換手が制限、外部への0発信電話もかけない。 5)当分の間、休診しない(土日も)。と言う合意が行われました。                   ■一部、省略あり(web担当者) 患者搬送に関して、、、。 ご承知の通り、道路が大渋滞して救急車による搬送は十分行えませんで したが、深夜帯にはさすがの渋滞も解消して神戸から多数の患者が搬送 されて来ました。このような災害では夜も昼も関係無く患者を受け入れ るべきです。またヘリも当日から使用を考えましたが、当日は神戸市内 のほとんどの空き地が避難者や車両で占拠され着陸困難との連絡があり、 周辺の空き地まで被災地病院や避難所から搬送する手段が無いとの事で 数日後からヘリの利用を開始しました。しかし、自衛隊の中型ヘリでさ え一度に3名の患者しか搬送出来ず、それも医師の同乗が求められまし た。搬出を希望する病院には十分な医師が確保出来ない訳で、ここだけ の話し、誰でもよいから白衣を着せて医師のまねをしなさいと連絡し、 結局、どう見ても事務員と思われる若い人が同乗して来ました。非常時 には許される行為と考えます。ヘリでは多数の患者を搬送出来ないので 慎重なトリアージをして搬送すべき患者を選択しなければなりません。

Part 5

ライフラインに関して、、、。 神戸市内の大きな被害のあった病院でさえ、電気の回復は驚くほど早く ほとんどの病院が半日程度で回復しております。東京ではもっと時間が かかると思いますが、経験から24時間以上も停電するような場合には その病院に留まるよりも外部に移った方がよいのではないかと考えます。 それよりも困った事は停電や震度5以上の地震でエレベーターが停止し、 それを再作動させるには専門家の点検・安全確認が必要で、今回の震災 ではそれらの業者そのものも被災し、再作動まで時間がかかってしまい ました。そのために患者の搬送はもちろん、給食の配膳に大変困りまし た。皆さん、ご存じかどうか分かりませんが、非常発電装置は外部から の電力供給停止で作動し、院内の事故に際しては作動しないのですね。 注意して下さい。当院では非常発電装置の点検中に誤って停電させてし まい、そのため大切な非常発電が出来ずにパニックになった事がありま す。非常発電そのもには先日の越智先生のmailにあるとおりです。 水道ですが、大きな地震では屋上の高架受水槽が破壊され、またスプリ ンクラーのパイプが破断されます。停電を伴う地震が発生したら、直後 に利用可能な全容器に水道から水を溜めて下さい。すぐに断水します。 これによりかなりな量の水を確保出来ます。水洗トイレの使用を制限し なければなりません。敷地内にマンホールがあれば、蓋をはずして、周 りを適当なもので囲い、臨時トイレに使用出来ます。下手に水洗トイレ を使用すると排水管が破損している場合、大変な状況になります。 それから大きな問題ですが、日本では救急医が災害も対応する訳です。 そのために停電時の人工呼吸器や挫滅症候群等が大きくクローズアップ されます。もちろん、日頃から積極的に救急医療に対応していないと災 害にうまく対応出来ませんが、災害医療は決して救急医療の延長ではな いと考えます。災害医療に救急医療の要素が沢山あるとは思いますが。 とにかく知ってはいましたが実際にトリアージをして見ると、そう実感 しました。

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