DISASTER MEDICINE

Application for the Immediate Management and Triage of Civilian and Military Disaster Victims

Burcle FM Jr, Sanner PH and Wolcott BW

翻訳・青野 允、谷 壮吉、森 秀麿、中村紘一郎

(情報開発研究所、東京、1985)


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25.神経学的外傷

 −Richard A.Pratt,M.D.


はじめに

 本稿の目的は,孤立した環境における神経学的多発災害外傷を支える 早期の管理についての情報を提供することであり,それは被災者の評価, 予後.トリアージ.救出,頭部脊椎損傷の治療方法を含む.本稿はでき るだけ完全で実際的な情報を含むものにしたいと思っている.


A.頭部外傷

 頭部外傷をもつ患者は,二つの大きなカテゴリーにまとめられる.そ れは明らかに完全に回復する一過性の意識不明のもの(脳震盪)と神経学 的な障害の持続するものである.第二のグループは,精神錯乱をもつ患 者,発作のある患者,明らかな貫通創や開放創のある患者である.神経 学的な損傷は単独では起こらない.神経系に対する損傷は,臨床的に考 えて呼吸および循環管理がまえもってうまく行われている場合にのみ考 慮の対象になるということを理解しておくことがたいせつである.あま りに頻繁に未熟で臨床的な目が神経損傷に向けられた結果,他の診断が 遅れたり,妥協的な管理がなされている.

1)一過性の意識不明があり完全に回復する息者(脳震盪)

 通常の診察で,医師のうちの何人かは,意識の一過性の消失をすべての 患者にみることがある.このことは医師に患者の合併症の存在の可能性 を早期に知らしめ,その結果,患者に回復のよい機会を与えることにな る.この考え方は状況が許すならば,集団災害の場でも配慮されなけれ ばならない.接線方向に頭部外傷を受けた患者は遷延性の頭蓋内出血の 頻度が増し,観察を要するので大きな施設に転送されるべきである.こ れらの患者は遷延性の頭蓋内血腫が進行する可能性が高い.殴打や落下 のような昔受傷した古い外傷によって一過性の意識の消失のみられる患 者は,集団災害の場でも鑑別して管理されなければならない.臨床上重 要なことは,最も合併症を起こしそうな患者を選別し,観察し,合併症 の起こる可能性の非常に低い患者を解放することである.

 患者の管理上,病歴は,大きな損傷の重症度と合併症の起こりやすさ と関連している.もし,意識不明の時間が短い(1分間以内)ならば合併症 は起こりそうもないし,患者が現在意識があり,3〜6時間後に見当識が あり,頭痛,視野不全,思考の鈍麻,筋力低下,感覚異常,体調不全を 否定するならば,検査をしても結果は良好であろう.こうした患者は, もし異常があれば引き返すように指示をしたうえで勤務や役務に復しう るであろう.

 もし,意識不明の持続時間がわからなければ,健忘の長さが傷害を決 めるうえで検者に有用であろう.一般には,意識を失ったことのある患 者はすべて,事故を含むその後のことについても記憶がない.これを外 傷後健忘という.時に患者は,事故以前のことについても忘れてしまう. これを逆行性健忘という.もし,健忘の全時間が10分以内で,患者が現 在意識があり,見当識があり,神経学的な異常がなければ,患者は解放 してもたぶん安全であろう.しかし,患者は神経学的検査と頭部X線写 真が正常でなければならない.

 神経学的検査は.患者のパイタルサインの把握と意識のレベルの把握 (Glasgow Coma Scaleを用いて調べると便利で信頼できる)から始める べきである.この尺度が三つの領域で患者の神経学的反応を把握する. 目を開ける,言語の反応, 運動(動作)の反応である.

 これらの領域は,個々に点数をつけ,合計すると3〜15点になる.第 一領域は開眼で,自発的に目を開ければ4点,話かけに対して目を開け れば3点,疼痛刺激に対してなら2点,そして目を開けなければ1点と する.第二領域は言語の反応で,患者が見当識があれば5点,適切に話 すが少し混乱があれば4点,もし不適切な言葉を使えば3点,わけのわ からないことを言えば2点,そして何も話さなければ1点である.動作 の反応はおそらくいちばん重要な領域である.もし簡単な命令に患者が 従えば6点,局在痛(たとえば上眼窩を圧す)に反応して検者の手を振り 放そうとすれば5点,痛みから逃げ出そうと全身を動かせば4点,痛み に対して前腕を屈曲する姿勢(除皮質)は3点,痛みに対して前腕の伸展 位(除脳)をとれば2点,全然反応しなければ1点とする.

 頭蓋損傷の有無を検査する.外耳道の損傷の有無と脳脊髄液(cerebrospinal fluid;CSF) の漏出の有無との両方を調べる.眼周囲の皮下出 血や耳後部の皮下出血は骨折を意味し,さらに聴力,視力,嗅覚の注意 深い評価を必要とする.瞳孔の反応と大きさを記録する.脳神経,頸椎, 頸動脈の機能と四肢の運動反応,知覚を検査し記録しなければならない.

 すべての頭部外傷患者がX線写真を必要とするわけではない.今まで 述べられた外傷性意識不明が1分間以上持続する患者,頭蓋貫通の可能 性のある患者,頭蓋の触診でわかる陥没,乳様突起や眼周囲の皮下出血, 鼻腔や外耳道からの排液のある患者は,頭蓋のX線写真を撮る必要があ ると考えるべきである.

 トリアージの場で観察を続けなければならない患者は,経口摂取を禁 じる.輸液は普通必要ではない.もし輸液が選ばれるなら5%糖液1に 対して,生理食塩水2の割合の輸液を,平均的な成人では1時間に 50〜60mlを投与する.もし鎮痛薬が必要ならコデイン30〜60mgを, 3時間ごとに筋注で必要に応じて使う.コデインは神経学的損傷から生じ る疼痛のほとんどの症状を抑制し,意識のレベルや瞳孔反射をかえるこ とはない.神経学的な再評価は1〜2時間ごとに損傷の程度と医療人員の 程度に応じて行わなければならない.Glasgow Coma Scale は続ける. 1点の評価の変化は臨床的に重要で,点数がさがれば合併症を疑わしめ, 早急な再評価の必要がある.外傷に経験を積んだ外科医は,合併症の発 症に最も信頼のおける徴候は運動反射の低下である,と信じている.24 時間安定している患者は退院させてもよいであろう.

2)頭部外傷後神経学的損傷の持続する患者の管理

 神経学的損傷患者は,臨床的な予測を必要とすることを再強調するこ とが重要である.気道が確保され,保たれることが必要である.呼吸も 適切にしたうえで,血液の循環は補助されねばならない.循環の補助の ために輸液は必要に応じて行う.脳浮腫を予防するための水分の制限は 二次的なことだと考えねばならない.

 頸部は(X線写真が頸椎の骨折を否定するまでは)固定せねばならない が,テープか砂嚢で固定するほうがよい.

 集団災害の状況においては,Glasgow Coma Scale はトリアージの価 値ある手段である.患者の到着時点での3〜5点は15%,6−8点は35% の完全回復の機会を有する.入院時の点数が7点.それ以上なら80% で,最良の結果が得られる.

3)分裂気質の患者

 頭部外傷があって神経学的損傷の持続する患者は,分裂的で精神が錯 乱しているかもしれない.生命の保証と同情は,資材の与えうる範囲内 に限定されるべきである.鎮静が必要ならばハロペリドール(Haldol(R)) の筋注が有効である.Haldol(R)は患者の意識のレベルやGlasgow Coma Scale を不均等に変化させずに抑制するであろう.

4)外傷性痙攣

 外傷性や外傷後の痙攣は,一般的には,全身的な緊張性,間代性痙攣 (大発作)である.気道を確保し,抗痙攣薬を投与する.痙攣はジフェニ ルヒタントイン(Dilantin(R))1gを成人では1分間に50mgの速度で経静 脈的に投与すればよい.小児では1分間に体重1kg当たり15mgを1分 間に2mgを超えない速度で投与する.もしこれで不十分ならフェノバル ビタールを成人で500〜1,000mg,小児で体重1kg当たり6〜30mgを静 注で追加する.

 フエノバルビタールは静注で,ゆっくりと呼吸抑制の徴候に注意しな がら与えなければならない.

 まえに述ベた一過性の損傷をもつ患者は,けっして予防的な抗痙攣薬 は必要ではない.神経学的な損傷の持続する患者は,予防的な抗痙攣薬 の投与予定者であると考えねばならない.貫通創や脳の開放創患者は常 に,予防的な抗痙攣薬を投与せねばならない.Dilantin(R) が最も効果的 である.効果的な血中濃度は1gの静注か経口で得られる.経口による Dilantin(R)の投与は400mgで,2時間後と4時間後に300mgを追加す る.

 筋注のDilantin(R)は軟部組織に数年も残留し,効果的に吸収されない ので無効である.

5)頭部外傷後の意識レベルの持続的抑制

 これらの患者は,まえの三つのグループに従って一般的な評価と治療 を要する.状態の安定のために,Glasgow Coma Scale が6か,それ以 下なら特に気管内挿管を必要とするであろう.動脈血炭酸ガス分圧を 25〜35mmHgにするための過換気は,急速な(30秒以内に)血管収縮を起 こし,頭蓋内血液を頭皮の血管に短絡させて頭蓋内圧を減じる.血液ガ スがはかれないような野外状況下では,1分間に18〜24回の速度の換気 で動脈血炭酸ガス分圧がこのレベルに達するはずである.患者のベッド の頭側を単に45度あげるだけで頭蓋内圧をさげるだろう.さらにマンニ トールの0.5〜2g/kgの点滴も頭蓋内圧をさげるであろう.マンニトール は,急速に悪化した患者の治療や外科的に大量の病変部を治療した患者 のためにとっておくことが最善である.フロセミド(ラシックス(R))をマン ニトールのまえに投与すれば,マンニトール単独よりも頭蓋内圧を急速 に減じるであろう.

 孤立した状況では,予防のための抗生物質は,開放創やCSFの漏出し たすべての患者に投与すべきである.CSF惨出の患者は,単独のペニシ リンの調製剤による治療を行うべきである.脳実質の貫通を伴う貫通創 には,抗生物質(たとえば,メチシリンとクロロマイセチン)の投与がい ちばんよい治療法である.

 コルチコステロイドが頭部外傷の治療に数年来使用されてきた.近年 の研究は,これらの薬剤が効果的だという結論的な証拠を見出すのに失 敗しているし,多くの脳外科医はその使用をやめている.

 治療のゴールは患者を安定させ,患者をよりよい資材が使える他の施 設へ転送させることである.すべての努力がパイタルサインに向けられ なければならない.患者は気象上の環境からも保護されなければならな い(「12.環境による障害」参照).もし,時間と資材が許せば付加的な 検査を行ってよい.しかし,検査のために患者の移送が遅れてはならな い.

6)孤立化した状況下での救命的な限定された緊急開頭術

 例外的な状況下では,頭蓋内血腫の可能性のために限られた開頭術が 正当化されうる.外科的資材が使えるうえで,瞳孔散大や片麻痺の神経 学的徴候の有無にかかわらず,Glasgow Coma Scale で神経学的損傷の 徴候があるならば,緊急開頭術の適応がある.

 a)どのような器具が必要か

(1)ハドソン固定器   1
(2)デリコの穿頭器   1
(3)乳様突筋鉤     2
(4)レクセルの骨鉗子 1
(5)アドソンの筋鉤   2
(6)焼灼器
(7)吸引器
(8)止血薬

 b)手術のゴールは何か

 外科医は硬膜外出血を除去するために制限された方法をとらねばなら ない.これは頭蓋を血腫がありそうなところで開頭し,穴を開け,硬膜 を露出するのに必要な骨を除去するだけでよい.一般的な原則として, 硬膜下血腫や頭董内血腫には有効ではないので,硬膜は未熟な外科医が 開けるべきでない.このように孤立した原始的な状況では,試験的関頭 術は患者の状態を悪化させ,わずかしかない資材を消費し,患者のため にはならない.当然,よく訓練された外科医は臨床上の判断をすべきで あるし,トリアージの状況で自分が最善だと思うことをしなければなら ない.

 c)いつ緊急移送を考えるべきか

 もし患者を4時間以内に,設備のよい,人員の整った施設の手術台に のせられうるなら,移送がすすめられる.もし可能なら,手術するか否 か,移送するか否かの決定は脳外科医とともにすることが必須である. 移送の間はマンニトールを輸液し,患者を過換気にする.手術は,死に かかってはいるが,脳外科的な単純な手技による手術で助けられるかも しれない患者に行うべきである.

 d)どこを手術するか

 頭皮を切開し,鉤をかけると頭蓋骨が露出する.バーホールを正中線 より1インチ(2.54cm)側方へ離れた冠状縫合の少し前方におく.ほかに も外耳の1インチ(2.54cm)上後方に開け.最後に側頭窩に一つつくる. もし硬膜外血腫の集積がみられたら,バーホールをレクセルの骨鉗子で 広げる.凝血塊を除去し,もし,出血点がみられたら止血薬や焼灼器で 制御する.骨片はもとの位置に戻さない.ドレインを硬膜外腔におき, 頭皮を無菌ガーゼを用いて閉鎖する.もし瞳孔の不均等があれば,最初 のバーホールを大きな瞳孔の側につくり,手術時の術野の被覆は対側の 手術が簡単にできるように,頭が容易に向きをかえられるようにしてお く(図III-5).

7)貫通創と開放性損傷

 意識レベルの障害は,頭蓋損傷や貫通創に合併するかもしれない.これらは,陥没骨折,高速性貫通創,低速性貫通創,刺傷,鼻や耳からの CSFの漏出を含む.

 (1)正中線より1インチ(2.54cm)側方で,冠状縫合の少し前方の切開.(2)外耳道より上方に1 インチ.前方へ1インチ離れた切開.最下部は頬骨のライン.(3)耳介の上方1インチ.後方 1インチ.切開線の下端が耳介最上部の高さ.(4)後頭骨下切開は外側後頭隆起に向かって1 インチ側方に置くべきで,側頭縫合溝より1インチ下から始めなければならない. (Kahn EA(ed.):Correlative Neurosurgery,2nd ed, Courtesy of Charles C Thomas.Publishers.Springfield ,illinois.より引用)

 図III-5 バーホールの場所を示した頭蓋の模式図

 

 陥没骨折は,神経学的な損傷を伴う場合とそうでない場合とがあるこ とを理解することが重要である.もし神経学的な検査で異常がなければ, 陥没している骨を持ち上げるのは待期的でよい.もし開放創であっても, 骨拳上が24時間遅れでも死亡率と罹患率が上昇することはない.最終的 な外科治療が待期的で延期しうるとしても,監視を続けねばならないし, 合併症が起こればすみやかに再評価をしなければならない.頭皮の局部 的な損傷の治療は延ばしてはならない.

 銃弾創は低速性と高速性の二つに分けられる(「18.創傷の症状と治療」 参照).低速性損傷は,小口径の銃により.市民社会においてみられる. 高速性損傷は軍隊の小武器によって起こる.一般に小銃砲による低速性 損傷は観察していてよい.銃弾や破片による脳の創は,しつこくデブリ ドマンを行い,硬膜を閉じる必要があるが,これはより大きな施設でな されるべきである.すべての骨と破片をていねいに除去する必要はない. デブリドマンはそれによって重要な中枢がさらに損傷されうるので,確 かな判断のもとで試みるぺきである.

 頭部の接線方向の創は,内部の方向に相当な動的なエネルギーを与え うる.こうした創のある患者は,意識不明の時間がなくても入院させて 監視すべきである.

 鼻や耳からのCSFの漏出はよくみられる.患者は安静にして体位変動 を制限し,喫煙は許可しない.抗生物質(ペニシリンまたはサルファ剤) 投与を始めるべきである.

8)頭蓋刺創

 頭蓋や脳内にナイフや金属性の鋭的破片の一部が刺さったままの患者 が現れるかもしれない.異物としての物が出血の塞栓効果となっている かもしれないので,その物は除去せずそのままで移送すべきである.


B.脊髄損傷の可能性のある患者の評価と管理

 患者の腕と脚の予備的な運動性を早期に評価すべきである.頸椎のX 線写真を可及的早期に撮る.cross table lateral(臥位にして側面から撮影 する)のX線写真がいちばん有用である.大きなカセットで撮れば,頭蓋 側面と頸部が一枚でみられる.もし極端な呼吸障害があり,挿管が危 険であったり不可能なら,X線写真を撮るまえに輪状甲状膜切開術が施 行されるべきである.理想をいえば,cross table lateral が七つのすべ ての頸椎を撮影すべきである.低い頸椎をみるために,肩を下へ引くと よい.この方法でも,時には七つのすべての頸椎を示すのに失敗するこ とがある.妥当な妥協案としては,第7頸椎の頂点の半分までをみるこ とである.C7とT1の間の骨折はほとんどみられないので,多発外傷の 状況ではこれで十分であろう.X線撮影を繰り返して時間を浪費するこ とは,治療を邪魔する.頸椎の写真は,系統的に分析する.頸椎の前部 の軟部組織の陰影の厚さに注意する.それは正常では,上部頸椎の矢状 面での椎体の大きさの1/3より小さい.もし陰影が厚くなれば,重大な 外傷が頸椎に起こっており,骨折も生じているかもしれないということ を意味する.側面写真は椎体の前縁,後縁の変位から脱臼の有無をチェ ックする.関節面は上下いずれでも整っていなければならない.

 もし頸椎骨折や脱臼がわかったら,固定が適応となる.もしさらに救 出が可能なら,両側に砂嚢を置き,広い絆創膏で前額と顎の部分で固定 すると最善である.ストレッチャーや背板に患者を固定するために,ベ ルトを用いて体を縛る.頸推カラーは,誤った安心感を与え,多分に気 道の開通を邪魔したり,頸部でのマスクの広がりを邪魔したりするので 用いるべきではない.

 もし神経学的な損傷があれば,導尿カテーテルと経鼻胃管を挿入する. 患者は少し頭部を低くし,背臥位にして循環と呼吸を改善するようにし て移送するのが最善である.輸液はパイタルサインを維持するだけに用 いる.一部には,コルチコステロイド(デカドロン.ソルメドロール)を 大量に早期に投与すると有益であると信じている人もいる.

 もし移送が不可能なら,固定は直達牽引を行う.いくつかの頸部はさ み具の改良型が使用可能である.第1頸椎の椎体側面と外耳道をつきと める.側頭筋が頭蓋にはいる直下にラインを延ばしてはさみ具の釘を差 し込む.毛髪は剃毛する.刺入に際して疼痛を避けるために大量の局所 麻酔薬を浸潤させる.はさみ具についている指示書に従って滑車をつけ, 滑車の重さを調節する.これは障害のある椎体の番号に5をかけたポン ドで表される.たとえば,もし第4頸椎に骨折があれば,4×5=20ポン ド(約10kg)で牽引する.もしこの道具がなければはずな(絞首索)をコー ドとABCパッドで改良して使える.

 患者は,できれば回転枠の上に置くべきである.そのような骨組みは 二つの野外キャンバスストレッチャーを二面が合うようにして,顔面, 導尿部,殿部に合うように穴を切ってつくることができる.患者はサン ドウィッチ状にされ,回転ができるように二つのストレッチャーの間に いれる.理想的には,回転は辱瘡を防ぐために2時間ごとに行う.足踝 部は,枠やストレッチャーに当たらないようにする.イレウスの危険性 のために経口接取は48〜72時間は遅らせる.頸椎の並び具合をみるため に定期的にX線写真を撮る.

 脊髄損傷の多くは,対称的な一貫した運動と知覚のレベルをもってい る.そのレベル決定の簡単なシステムは次のごとくである.

(1)手指内転の麻痺はT1の部位の損傷を示す
(2)把持操作の麻痺はC8の部位の損傷を示す
(3)手指伸展の麻痺はC7の部位の損傷を示す
(4)手首の伸展の麻痺はC6の部位の損傷を示す
(5)肩の内転の麻痺はC5の部位の損傷を示す

 ほかにもあまり一般的ではない病変部がある.ブラウンーセカール症候 群は,脊髄の半側横断を代表し,同側の運動神経の麻痺と病変部以下の 位置感覚の欠如,対側の疼痛感覚と温度感覚の欠如によって特徴づけら れる.管理は基本的には,完全対称性の病変と同様である.

 脊髄中心部症候群(central cord syndrome)は,まれである.この傷 害は一般には脊髄の過伸展損傷にみられる.それは臨床的に手指の脱力, 手の機能の低下,手・腕の疼痛,温度感覚の減弱によって特徴づけられ る.管理は基本的には上記と同様である.

 脊髄前部症候群(anterior cord syndrome)は,早期の手術が有効で, もし環境が許せば緊急の移送を考慮されるべきだという点で特徴がある. この患者は最初に述べた全横断の場合の症状とは一致するが,しかし, 一般にこの症候群では下肢の位置感覚が残っている.早急の救助の決定 は,脳外科医と連絡をとってなされるべきである.


C.神経学的外傷におけるトリアージ

 神経学的な災害は,ほとんどの市民災害や軍事災害においてよく起こ ることである.トリアージの決定は,臨床症状に基づかねばならない. なぜなら,診断のための検査はできないからである. トリアージ医師は,被災者の症状を安定させ,救助しなければならな い.神経学的被災者の第一に救助されるべきグループは,救命できる者 でなければならない.もっといえば,小さな損傷のある患者や,状態が 悪化しつつある患者は,救助の最初に相当しよう.これらの患者の何人 かは,最初の症状で緊急開頭術が必要かもしれない.意識レベルの落ち た患者は,二次施設で救命されるペく,彼らの症状に応じて移送される べきである.卓越した技能の外科医の治療を必要とする患者は,救助の 最後の人となるべきであろう.


 参考文献

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 〜訳 中村紘一郎


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