(情報開発研究所、東京、1985)
―Frederick M. burkle, Jr. M.D., M.P.H.
もし,すべてが計画どおりに進み,すべての患者が第三次外傷センタ
ーで行われるような標準的治療の恩恵を受けられるとすれば,現実に災
害が起こっているかどうか疑問に思うであろう.現実的な言葉でいえば,
伝統的あるいは創造的な気道確保の努力,呼吸,循環動態の維持,出血
の制御にただちに反応しないような外傷は,トリアージや救出システム
(evacuation system)の対象にははいらないのである.この冷酷な事実
は,災害医療の本来の目的に沿って,災害医療の実際を経験したことの
ない人には理解されないであろう.
実際,訓練された救急隊と進歩した組織をもって,迅速で効果的な
ABC(気道確保,呼吸と循環の維持)とその後の患者の状態の安定化を図
ることによって,犠牲者の救命率を高めることが可能となろう.
外傷における救命法の本質的知識は,災害医療に携わる人々の基本で
ある.災害医療に参加する医学生と医療関係者はシステムを改良し,救命率
を向上させようとしている.それにもかかわらず多くの犠牲者が死亡し
ている.この事実の認識が早ければ早いほど,医師の注意が生存する可
能性のある犠牲者に早く向けられることになる.そしてこのことはただ
ちにトリアージ指揮者によって指示される.もし標準的な治療法が奏効
しなければ,犠牲者は死を迎えるにあたって精神的な支えを必要とする.
聖職者はトリアージチームにおいて不可欠なメンバーであり,その精神
的加護の必要性は,軍隊では歴史的に認められてきた.
医師は犠牲者と同様に死の悲しみを分かち合わねばならない.それは
両者にとって,孤独で絶望的な時間である.医師はそのとき,何をして
やることができたであろうかといぶかりつつ,生涯を通じてジレンマに
悩むかもしれない.
卓越した指導性,決断力,また時には情緒的な反応に対する抑止力が,
災害医学の臨床実施者に望まれる最大の素質である.
われわれの生涯において,このような悩み多い現実を経験しなければ
幸運というべきであろう.
以下の各稿を読み進むにつれて,読者は自分たちができる最善の方法
を求めることができるだろう.しかし,これらの方法はたとえ習得した
としても実行できるとは限らないし,実行する羽目になりたくないもの
であることを忘れないでほしい.標準的治療法,患者搬出の原則を守り,
同じようにトリアージが適切に行われれば,非常に多くの人命が救われ
るであろう.
―Jack B. Peacock, Jr. M.D.
外傷の種類としては,熱傷,爆撃傷,爆風傷,挫減傷などが含まれる.
一般市民の外傷と軍隊の外傷には共通性がありながらも,その誘因には
かなり違いがあることを銘記すべきである.たとえば,軍で用いられる
武器は発射速度を高めてあるために,通常にみられる外傷より重度の外
傷を惹起する.
熱傷は,エネルギーや腐食性の物質が組織に接触することによって起
こる.熱傷を起こすエネルギーとして,熱(鏡射熱エネルギーの形で),
熱い液体や金属,電気的なエネルギー(高圧電流の形で)がある.酸やア
ルカリは熱傷を起こす最も普通の腐食性物質である.表III-1におもな熱
傷の三つの型を示す.
文明社会では,火災,電撃,化学物質への接触で熱湯が起こることが
最も多い.爆発に関連したものや熱核施設の爆発によって起こるイオン
性の爆射もみられるようになるかもしれない.
2)病 理
熱傷は,その原因の本態がどうであろうとも,起因との接触によって
細胞蛋白の破壊が生じ,それから凝固壊死が起こる.創の深さと範囲は,
起因との接触度,接触時間によって左右される.
皮膚の熱傷では,傷の程度と死亡率は,熱傷の範囲と深さに比例する.
しかし熱傷の起因は,熱傷の重症度と,ある程度の結果をまで左右する
重要な役割を演ずる.
傷の深さは熱傷の程度に応じて,表III-2のように,I〜III度に分類さ
れる.
I度熱傷では,一般的に早い創傷治癒がみられる.II度熱傷では,上
皮組織は健常のまま残存し,それはやがて上皮を形成する.III度熱傷で
は,上皮組織は保存されないので,癖痕組織を形成して治癒するか,皮
膚移植を必要とする.
I度熱傷は,臨床的にも生理学的にもほとんど重要性はない.しかし,
II,III度熱傷では,体液性防御の消退や温熱凝固が受傷皮膚に起こる.
そしてそれは感染の可能性をもつ開放創として取り扱われる.
3)特殊領域の治療
a)救命法
熱傷性ショックを予防するには受傷直後24時間以内に循環血液量を早
急に補う必要がある.補正は,平衡電解質液(乳酸加リンゲル液)で心機
能を正常化するに十分な量を輸液すれば容易に達成される.晶質液
(crystalloid solution)の補充推定量は熱傷の範囲をもとに計算され,表
III-3に示される標準公式を用いて算出される.
計算上の桶液必要量は熱傷患者における概算推定値にすぎず,個々の
患者にとって補液が適切に行われているかどうかは,常にモニタリング
によって確認されるべきであるということを強調しておく.バイタルサ
インや中心静脈圧,尿量,精神状態が正常に復することが救命法の到着
点である.成人では,尿量は35〜50 ml/h が適当と考えられている.小
児では,体重(kg)当たり 1 ml/h が適当である.
出血の持続する徴候がない限り,熱傷患者では輸血は一般的には不要
である.同様に,最初の24時間では血漿増量剤やコロイドはきわめてま
れにしか必要ではない.
10〜15%以下の熱傷では,他の危険因子がない限り,急速な輸液療法
や入院は不要である.さらに広範囲の熱傷では,入院や加療が必要とな
る.
重度の熱傷患者(20%以上)では,受傷後第一期にしばしば麻痺性イレ
ウスへと進行するので,こうした患者では,嘔吐と誤嚥を防ぐために胃
吸引管が適応となる.
b)創傷処置
系統的抗生物質の予防的使用は,初期においては逆効的で,不必要な
ことである.破傷風に対する免疫療法の妥当性は確認されるべきである
が,適応と判断したならば開始されるべきである.
4)特殊な問題点
a)気道熱傷
気道熱傷は,閉鎖された環境で熱傷を負った患者ではだれにでも起こ
ると考えるべきである.身体的所見は,1)頭部・顔面周辺に熱傷の存在
すること,2)鼻毛の焦げ,3)口・咽頭の熱傷の存在,4)痰中や上気道に
すすがあること,5)流涎や呼吸障害の徴候,などである.この疾患の早
期には,胸部の聴診やX線写真は診断に役立たない.最終的には,低酸
素血症による多呼吸や意識レベルの変動といった臨床的徴候が探される
べきである.
気道熱傷の加療は,気道の確保と十分な酸素化の維持を目的としてい
る.高濃度かつ湿潤な酸素が投与されるべきで,上気道の閉塞が起こり
そうな危険性があれば気管内挿管が適応となる.
b)化学性熱傷
c)電撃性熱傷
d)絞扼症候群(compartment syndrome)
絞扼症候群の診断は,増強する疼痛,神経筋性の機能の喪失,創末梢
の動脈血流の減少・欠如のような血管系の障害を示す身体的所見や疑い
に基づいてなされる.
治療は,電撃性熱傷における筋膜切開や全周性のIII度熱傷における腕
皮切開と同様,絞椀の解除を目的としている.痴皮切開は,無麻酔で輸
血なしに,熱傷痴皮をとおして皮下脂肪にまでギプスを切り取るように,
単に切開することでなされる(図III−2).
全周性のIII度熱傷が胸部にあると,呼吸を障害し人工換気を余儀なく
されることが時にある.胸部の痴皮切開はこの場合にのみ限定される.
e)合併損傷
f)年齢と合併疾患
5)資材計画の意義
a)装備と資材
h)トリアージと搬送
次の範疇の患者は重症熱傷であり,入院を要する.
爆撃傷は,火器,爆発物,爆発事故による創傷を含む.日常社会で一般的に使用されている火器は,軍隊の火器ほどの損傷力をもたない.し
かし,強力な火器は市民生活のなかでもしだいに増加し,軍隊の火器が
軍隊以外でもテロリストによって使用されるようになっている.軍の爆
発物は,金属片が爆発によって貫通することで損傷を与えるように設計
されている.この金属片が敵に向かって浴びせられる.一般社会での爆
発物は通常,爆風と,そのために破壊された建築物の破片(ガラス,木
片,石片)とによって損傷を引き起こす.
2)病 理
a)創傷における弾道学
エネルギーの大きい弾が固形組織に当たると,組織内の吸収・消費が
弾道周囲に弾そのものの大きさの数倍の組織破壊を起こしながら,一時
的に円筒状の損傷を生じる.軍隊で使用される火器(M-16, AK-47)で
は,特に銃口速度が速い.それゆえ,侵入部の皮膚損傷と,深部組織損
傷の広がりとは,関連がほとんどない.さらに,骨のような固形組織に
当たると固形組織自体が破片となり,組織損傷の範囲を広める.市民社
会で用いられる火器は通常,銃口速度が遅く,弾の貫通路に沿ったせま
い範囲の組織に損傷が起こる.
一般的に爆発破片は,距離の広がりによって,火器よりも損傷力がさ
らに小さくなる.ショットガンも同様である.しかし,破片やショット
ガンによる創は,火器と的との間隔にもよるが,数が多く,体の数か所
に散発する.近距離では,破片もショットガンも,破片の集中と爆発効
果の両方によって小さな範囲に破壊創を生じる.逆に距離が開くと,破
壊力は減じ,創は広く散らばり弾の侵入部は限局される.
b)傷の分布
爆弾によって生じた創の治療は,細かなことから離れて,四肢,生命
をおびやかすものであるか否かの判断とその治療を早期に開始すべきか
否かの判断にある.体腔(頭蓋腔,胸腔,腹腔)に貫通する創は,いずれ
も致命的である可能性があると考えるべきである.主要血管を含む四肢
の創は血管損傷や四肢損失の可能性がある.同様に,広範な組織の損傷
を呈した四肢の剣は,四肢損失と感染により二次的に生命をおびやかす
可能性を有する.最後に,血管障害の可能性のない表面の創は,大災害
医療においてはほとんどが取るに足りぬことと考えられる.
3)特殊領域の管理
a)出血とショック
I度の出血患者は出血にかかわらず無症状で,心血管系の異常(低血
圧,頻脈,組織潅流量の減少など)を示さない.III度の患者は,四肢で血
圧や脈拍がわずかに触れる程度かほとんどないかである.II度の患者で
は,中等度の低血圧,頻脈,組織潅流量の減少を示す.
成人の正常血液量が約 70 ml/kg であり,平均約5Lであることを考え
れば,患者の心血管機能や組織潅流量に基づいて出血量を大略評価しう
る.この予測は,実際の補液量の計算や,のちになって予測した出血量
と実際に必要とした輸血量の差を知ることによって,発見できない持続
的な出血を知るうえで有用である.
I度の患者では,晶質液のみで蘇生が完全に行われうるし,輸血は必
要ではない.II,III度の患者は晶質液とともに輸血を要する.
乳酸加リンゲル液は,受傷者の第一次救命法に選択しうる晶質液であ
る.生理食塩水は乳酸加リンゲル液が使用できないときに使われる.晶
質液の必要量は予測出血量の約3倍である.I度患者では,たとえば 750 mlの予測出血量があるとして,晶質液は 2,250 mlが必要とされる.
すべての患者に対して,輸液は太い径の針(14〜16G)の静脈カテーテ
ルを使って,心血行動態を正常化するために十分な速度で始めなければ
ならない.血液が必要なら,可能なときはクロスマッチを,少なくとも
血液型検査だけでもなされるべきである.血液型検査の時間がなければ
O型の血液が使用される.
救急蘇生中に必要なモニタリングは,血圧,脈拍,尿量,意識の鮮明
度である.当初のへマトクリットはあとの値との比較上有用ではあるが,
出血量の予測には役立たない.
b)心肺系の合併症
c)潜在性損傷の認識
主要血管の近くに創があるときには,創からの出血や末梢の虚血など
の古典的な徴候がなくとも血管系の損傷は疑わねばならない.
理学的検査上,創の末梢や血管の広がりや脈拍の有無を調べることは,
所見が陽性なら有用である.創の末梢の虚血,脈の欠如,血管の広がり
は診断的である.同様に,血管近くに創があれば神経損傷の存在も疑わ
れる.しかし,多くの血管損傷が末梢の虚血の徴候なしで起きることを
銘記することが重要である.それゆえ,医師は大血管近くの創では疑念
をより多くもつ必要があり,血管損傷の有無を確かめるために血管造影
や創の適切な検索をすれば四肢損失は避けられうるだろう.血管造影が
容易にできない場合には創の手術的検索が適応となる.
4)局所揖傷の治療
特殊臓器損傷の治療は本書のほかの稿で述べられる.局所の軟部組織
の損傷の治療は壊死組織の切除と感染の予防に向けられる.出血性ショ
ックと,生命,四肢の致命的な損傷の治療とに引き続いて,すべての傷
を外科的に検索い デブリドマンを行う.衣服,泥,ショットガンの薬
きょうのような,すべての異物は除去されねばならない.通常,金属片
は軟部組織から除去する必要はない.
デフリドマンののちに,創は滅菌生理食塩水で完全に洗わねばならな
い.市販の洗浄具(たとえば Water Pik)による噴射洗浄や,注射針や筒
による洗浄は,単に水をかけるよりすぐれている.感染率を低下させる
べくのちに行う一次縫合に適するよう,皮膚創はすべて開放のままにし
て包帯をする.後日の一次縫合は3〜5日後になされる.
系統的な抗生物質の使用は,すべての銃弾創に適応となろう.広域性
の抗生物質(第一世代のセファロスポリンのような)が,必要量を受傷後
可能な限り早期に経静脈的に投与されるべきである.受傷後2時間以上
たってから抗生物質を投与することは,創感染の予防に効果がない.
他の創と同じく,銃弾による負傷者でも破傷風に対する適当な免疫療
法がなされるべきである.
5)資材計画の意義
ショックからの蘇生術に酸素と酸素供給具が必須なのと同様,十分な
量の晶質液の補液と点滴具が必要となる.ほかの装備として,包帯やガ
ーゼと同様に,気管内挿管チューブまたは気管切開チューブ,胸腔カテ
ーテル,尿道カテーテル,経鼻胃管,ドレーンや縫合セットが必要とな
る.装備は最小でも,ポータブルのX線装置,X線現像機が,一般外科
や胸部外科の器械のセットとともに含まれるべきである.輸血のための
血液がただちに使用できる状態で用意されねばならないし ことにO型
の血液は確保しておかなければならない.供給者として非受傷者から採
血できることは,たえず血液を供給するうえからたいへんに重要である.
偶発的か意図的にか,爆発物や引火物が爆発した結果として起こるの
が爆風傷である.一般社会では,普通,工場事故やテロリストによる爆
破行為として起こる.軍隊では,熱核兵器,地雷,通常の爆弾,臼砲や
大砲など,対人爆発物の爆発の結果として起こる.
2)病 理
原因のいかんにかかわらず,爆風損傷による影響は表III-7のごとく三
つのグループに分類される.第一次の影響は,組織に対する環境圧の急
激な変化に伴う直接的な衝撃によって生じる.第一次の影響は,空中で
も水面下でも起こるのに対い 第二次,第三次の影響は空中の爆発によ
ってのみ起こる.最初の爆風は,鼓膜を破り突然の聾を起こす.さらに
重要なことは肺に対する影響で,その結果は肺挫傷や裂傷を生じる.水
面下の爆発は腹部臓器の損傷が多く腸管の損傷もまれではない.
第二次の影響は,爆風で生じたもの(石片,ガラス,その他),すなわ
ち加速された二次的な破片による傷害である.これら爆弾と同じものは,
犠牲者のどこに当たるかによって異なるが,種々の創を生じさせる.こ
れは表III-8に示した.加えて,熱傷が爆発によって生じうる.これは二
次的な損傷と考えられる.
第三次の影響では,爆発力が空間を通過するので,さらに犠牲者が増える.惹起される損傷は,爆風の加速と減速の割合と,犠牲者がどこを
受傷するかによる.予測される傷害は,脳震縁,頭蓋・脳損傷,実質臓
器(脾,肝)への損傷,骨折,関節脱臼などである.
このように爆風の影響は,圧迫,熱傷,弾創,鈍的外傷など,表III-9
に示すように種々の創をつくりだす.致死的な損傷として,大きな熱傷,
頭蓋,脳,胸部,腹腔内損傷があげられる.爆発初期を生き延びた人々
のうち大多数が入院を必要とし,2/3が72時間以上の入院を必要とする.
3)特殊領域の管理
爆風傷による損傷は,様々な症状を引き起こすため,患者は重篤な損
傷をもつ可能性があると考えられる.ことに,早期の診断と,肺合併症,
低容量性ショックの治療に注意が向けられるべきであり,医師は,胸腔
内,腹腔内に潜在性に存在する損傷の可能性に気をつけねばならない.
特殊臓器の治療の詳細については他の項に示されている.潜在性の腹
腔内損傷の診断に利用できるのは腹腔内洗浄である.
4)資材計画の意義
大爆発事故には,診断のための放射線設備,手術室,血液銀行の機能
を備えた緊急の病院設備を必要とする.受傷者の半数が手術的治療を要
し,犠牲者1人当たり概算で1単位の全血を要する.
挫減傷は,爆発や地震あるいは建築物の崩壊の際に受けた受傷部位が
虚脱して生じることがいちばん多い.時に交通事故,列車事故などによ
っても生じる.こうした状況下での,挫減傷患者の管理の主要な問題は,
救急救命と初期治療が効果的に働くよう犠牲者にアプローチすることで
ある.
2)病 理
a)局所病変
ことに四肢の筋群が損傷を受けると,筋肉を包む筋膜に絞掘されて浮
腫をきたした筋群は,筋組織の循環を制限して細胞を死に至らしめる.
さらに,四肢の主要血管は持続する筋の膨張で血流が障害され,末梢の
阻血を引き起こす.この病像の合併は,絞腕症候群と同様に四肢のどこ
の筋にでも起こりうる.その最終的な結果として,放置されれば受傷筋
群のみならず四肢のすべてに虚皿性壊死を生じる.
b)系統的病変
外傷性窒息とは,胸腔内圧の急激な上昇を反映する一連の徴候に対す
る誤った命名である.そうした徴候は,浮腫,出血斑,皮下出血であり,
それは顔面,眼険,頚部に顕著である.これらの所見は,受傷者が窒息
しているということにはならないが,医師は,同様の徴候を示す胸腔内
または腹腔内損傷の可能性に注意しなければならない.
遷延した細胞性虚血や組織壊死による代謝性アシドーシスや高カリウ
ム血症は童篤である.この事実は,受傷者が救命され,受傷部の組織循
環が回復するまでは明らかとならない.それゆえ,医師は救急・救命法
の段階でこの合併症に注意していなければならない.
循環血液量の不足,アシドーシス,受傷筋からのミオグロビンの放出
などに合併した影響として腎不全が起こりうる.
3)特殊領域の管理
a)ショックの治療
b)創の治療
絞扼症候群の治療は,筋密室の手術的開放と広範な筋膜の手術的な切
開が基本である.筋膜切開が循環状態を改善しないような状況では四肢
切断も適応となることがある.
c)腎合併症
d)換気障害
4)資材計画の意義
救急処置が遅れると,場合によっては蘇生術が現場で必要となる.こ
うした状況では,気道確保,酸素投与,補液,創処置の器材が必要であ
る.さらに,長い身体固定具,頚部カラーや四肢の固定具が,有用であ
る.
重篤患者の管理には装備の整った病院の機能が必要で,それは手術室,
血液銀行,X線検査設備,ICUを含む.
救助活動が障害されたり,建築物の崩壊や火災の危険が持続している
ような場所では,救命を容易にするために四肢切断の必要性も考慮すべ
きである.こうした状況下では,駆血帯をしたうえでギロチン式の切断
が生命を救うこともある.
致命的な傷害がほかに多数起こる可能性があるために,このような状
況のもとでは,童篤な神経系の損傷を有した患者や末期の心肺不全の患
者には,資材を消費すべきではないであろう.
受傷に伴う感染予防に対しては,創の細菌の種類,創の状態,受傷者
の予防力などに重大な考慮をはらうべきである.すべての開放創は細菌
によって汚染されている.最も多い菌は,皮膚,胃腸管,泌尿生殖器,
呼吸系に常在するものである.細菌性因子で重要なことは,細菌数,毒
性,相乗作用である.
野外では細菌の毒性に関して制御できることが少ないので,汚染細菌
を減ずることと続発する汚染を予防することに注意を向けなければなら
ない.異物や挫減組織,水分貯留が創内にあると,ごく小さな汚染でも
感染症に進む可能性がある.
創のデブリドマンを異物や挫減組織の除去とともに行うことは,細菌
感染を減じるうえで最も重要である.組織の生死は肉眼で判断され,生
着不可能な組織は鋭利に切除されるべきである.
噴射洗浄は,異物や細菌を除く方法として他のどの方法よりもすぐれ
ている.縫合に際しては編み糸よりモノフィラメント糸または吸収され
る縫合糸が使われるべきである.人工血管のような異物の使用は,でき
る限り避けるべきである.皮膚の縫合は手術後3〜5 日の待期的一次縫合
のために開放にして,滅菌ガーゼで覆っておく.
受傷者の免疫能は,早期の循環血液量の補正と心肺機能の正常化で増
強される.また早期の栄養補給についても注意すべきである.
抗生物質の使用には異論が残っている.しかし,経静脈的に適当な抗
生物質を投与することは,胸腹腔の開放創,中枢神経系の創,開放性骨
折や汚染された広範な軟部組織の損傷で感染の予防に効果があることが
証明されている.効果的使用のためにも,抗生物質は受傷時より2時間
以内に投与されねばならない.
すべての開放創は,あとになって破傷風を起こす可能性がある.患者
の破傷風免疫法は確立されており,表III-10にその概要を示す.
b.破傷風になりそうな傷では,
参考文献
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―訳・中村紘一郎III.災害医療における外傷の管理
災害医療における外傷の管理―序言
18.創傷の症状と治療
はじめに
A.熱 傷
温熱性熱傷 火,熱い液体,過熱金属,輻射熱,過熱物への直接の接触 化学性熱傷 腐食性物質への接触 電撃性熱傷 高圧電流
I 度熱傷 表皮に限局する II度熱傷 真皮に及ぶが上皮組織は健常である III度熱傷 皮庸組織のすべてを破枝する
受傷直後の24時間
乳酸加リンゲル液(または生理食塩水):
4 ml x 受傷面積%
輸液速度:全輸液1の 1/2を最初の8時間に,1/4を次
の8時間に,残りの 1/4をその後の8時間にその後の24時間 創傷からの水分喪失量を補正し,電解質濃度を維持す
るために必要な量の唯液と電解質液 B.爆撃傷
弾の大きさ 速度 (ft/sec)(m/sec) 22 short 900 (274) 25口径 800 (244) 38口径 925 (282) 45口径 850 (259) 30口径 1,970 (600) 7.62 mm 2,750 (838) 5.58 mm(M-16) 3,250 (991)
部位 弾創 その他 下肢 43% 35%
上肢 24% 27%
頭頚部 6% l2%
胸部 9% 9%
腹部 9% 5%
側腹部・背部 l2% 9%
I度 急性の出血が全血液量のl5%以下 II度 急性の出血が全血液量のl5〜30% III度 急性の出血が全血液量の30%以上 C.爆風傷
第一次 環境圧の急激な変化による損傷 第二次 二次性の破片による揖傷 第三次 犠牲の増加による揖傷
部位 % 上腕 25 下肢 18 頭頚部 38 躯幹 19 側腹部,背部 20
損傷 % 頭蓋,脳 44 胸部 20 腹部 lO 四肢 40 熱傷 30 表層の外傷 70 D.挫減傷
E.創の感染予防
1)0.5 mlの吸着トキソイドと
2)250単位(あるいはそれ以上)のヒト破傷風免疫グロブリンを投与
抗毒素と破傷風免疫グロブリン用の注射針筒と注射の部位は別々にする
3)抗生物質の投与の配慮