DISASTER MEDICINE

Application for the Immediate Management and Triage of Civilian and Military Disaster Victims

Burcle FM Jr, Sanner PH and Wolcott BW

翻訳・青野 允、谷 壮吉、森 秀麿、中村紘一郎

(情報開発研究所、東京、1985)


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 23.腹腔と骨盤内臓器の外傷

 Valeriy Moysaenko,M.D.


 はじめに

 腹部外傷は通常,直接的で,気道,呼吸,循環の致命的な問題が是正 されたあとに検討される.大災害状況においては,もしただちに開腹が 必要でも,それが救命の手段として施行されないのであれば,その患者 は待期的な手術の適応として考えられる.そして限られた資材や人員を それに費やしてはいけない.患者の全体的な把握としてなされるべき唯 一の決定は,腹腔内損傷があるか否かだけである.


 A.損傷の種類

1)腹腔内損傷の種類

 腹腔内損傷の種類には,(1)貫通性外傷と(2)鈍的外傷との二つのものが ある.

 すべての腹部貫通創は.開腹されるべきである.鈍的外傷では,腹腔 内損傷が起こっているか否かの決定が必要である.

2)腹部外傷の結果

 手術を要する腹部外傷によって起こる状況は以下のものを含む.

 a)出血

(1)肝破裂
(2)脾破裂
(3)血管破裂
(4)腎破裂

 肝,脾,腎の実質臓器の損傷による出血は,止まりやすい.それゆえ, 当初この型の損傷を有し,ショックを呈していても,血管内血液量を増 量することで安定させることができる.実質臓器の損傷が重症ならば, 患者はすぐには安定しない.すぐに手術が可能なら患者は救命できる. もし,不可能なら待期的に扱う.腹腔の大血管の破裂には,どのような 救命法も役立たない.

 腹腔内出血の患者は,腹部外傷の表在的な徴候(皮下出血,擦過創, 裂創などとともに,あるいは単独に肋骨や骨盤骨折)を示すことがある. 腹部膨満,腸雑音の欠如,直接的あるいは反跳性圧痛などもそうである. もし,損傷が疑われるが上述の徴候が欠如するならば,腹腔内洗浄が事 態を明らかにする.

 b)内容物の漏出

(1)胆道系
(2)膵臓系
(3)腸管
(4)膀胱

 管腔脱器の破裂のあとの内容物の漏出は,非常に希薄であるかもしれ ない.腹部外傷の表在性の徴候が時にある(皮下出血,擦過創,裂創,骨 折など).しかし急性腹症の状態でも腹部は平坦で,腸雑音は亢進し,比 較的圧痛は少ないこともある.患者のパイタルサインも落ち着いている かもしれない.しかし,繰り返し検査すると腹痛がしだいに強くなり, 腸雑音が減じてくるのがわかる.この所見と徴候は6時間くらいたって 進行してくる.再びここで,管腔臓器の損傷が強く疑われたり,他の損傷 (意識不鮮明,局在的な骨折,薬品)によって正確な珍断が困難であれ ば,腹腔内洗浄を行う.それで胆汁,アミラーゼ,便,尿などが返って きたら腹腔内損傷の確定診断ができて,治療の計画や救出の優先権の確 立に役立つ.

 c)内臓脱出

 内臓脱出は,内容物の漏出を伴った脱出臓器の穿通,実質臓器の実質 損傷,または臓器の血管傷害を引き起こす.


B.腹腔内損傷の評価

 腹部外傷の適切な評価のために,身体的検査を論理的に繰り返すこと が必要である.

1)身体の理学的検査

 a)腹部の前面と背面の視珍,会陰部の視珍

 次のことを観察する.

(1)貫通創の有無,内臓脱出の有無
(2)皮下出血斑,擦過創,挫傷,裂創
(3)血尿

 b)聴診

(1)腸雑音欠如:腹腔内損傷がありうる.
(2)腸雑音存在:腹腔内損傷があるかもしれないし,のちに雑音が消え るかもしれない.

 c)触診

(1)局在性疼痛
(2)反跳痛
(3)関連痛
(4)骨盤の触診,下肢の触診
(5)直腸内指診(前立腺,直腸璧)
(6)女性においては骨盤腔の双手診

2)腹部外傷の確認

 a)臨床所見

(1)腹部膨満
(2)疼痛(直接,反跳性に)
(3)腸雑音の欠如
(4)貫通創
(5)内臓脱出
(6)直腸内出血
(7)高位騎乗の前立腺

 b)腹腔内洗浄

 もし,身体の理学的検査が腹腔内損傷を結論づけたら,それ以上の検 査をする必要はない.しかし,安定しているがなお腹腔内損傷が疑われ, 臨床的には確定されないならば,腹腔内洗浄は診断の補助となろう.腹 腔内洗浄は,後腹膜損傷はわからないが,通常,緊急の外科的決定に役 立つので施行される.大集団災害の状況では,外科的手術がすぐにはで きないので,本法はトリアージと救出決定のうえて助けになるであろう.

 c)X線検査による評価

 X線検査が可能なら,腹腔内,後腹膜腔内損傷がわかるかもしれな い.有用な検査は,単純と立位のX線写真である.

(1)腹腔内遊離ガス
(2)造影検査

(a)IVP(腎,尿管破裂)
(b)ガストログラフィン上部消化管検査(胃,十二指腸破裂)
(c)膀胱造影(膀帆,尿道破裂)


 C.管理

 すべての腹腔内損傷は手術を要する.しかしそのなかのいくつかは, 安定し,緊急かつ致命的でないので保存的に処置される.手術の結果に 差がないので,最終的な手術は6時間は延ばされうる.12時間後になる と適切な手術を受けても,もはや救命率は向上しない.それゆえ,受傷 後6時間以内に外科的治療を行う緊急性がある.12時間以上遅延した場 合は,緊急性はなくなる.このことは救出上の論拠に有用である.適切 な補助的治療は,次のごとくである.

1)経鼻胃管による吸引と排泄

 (1)腹部膨満の減少

 (2)予防

(a)誤嚥
(b)腹部膨満による呼吸障害
(c)急性胃拡張によるショック

2)経静脈的補液

 (1)蘇生法(補液による救命)

 (2)抗生物質

3)フオーリーカテーテル

 (1)血尿の検査

 (2)補液療法の効果のチェック

4)脱出臓器の上に湿潤ガーゼを置く

 けっして腹腔内へ臓器を還納しようとしてはいけない.

5)骨盤骨折

 骨盤損傷は失血の問題がある.しかし血漿増量剤で治療されうる.骨 盤損傷は,直腸,泌尿生殖器の損傷の前徴であるかもしれず,注意深い 評価を要する.膀胱や直腸の損傷は,通常の腹腔内損傷と同じく治療さ れうるが,尿道の破裂は膀胱切開によるカテーテルの挿入を必要とする. おわりに

 腹部損傷は,謎の多い致命的な損傷ではない.大災害の状況において も,ただちに手術ができなくても患者は救命されうる.重症でなければ, 実質損傷の出血は,かなり高い確率で止まり,適切な補助的治療で生き 延びうる.管腔臓器損傷の50〜60%の患者は重症でなければ,病状を有 しながらも手術を施行することなしで生き延びうる.次の事実が治療, トリアージ,救出の参考となる.

 (1)腹部の貫通創は手術を要する.

 (2)内容物の漏出のあるものは,6〜12時間以内に手術を要する.それ以 上たてば,死亡率が高い.60%くらいまでは手術をしなくても生存でき る.

 (3)内臓脱出は,管腔臓器の内容物漏出と同意義である.

 (4)腹腔内出血の速度が速いとただちに生命救助のための手術を要する. もし手術が不可能なら,可能となるまで待期せざるを得ない.


 参考文献

 Walt AJ and Wilson RF:Management of Trauma:Pitfalls and Practice. Philadelphia,Lea and Febiger,1975.

 Committee on Trauma,American College of Surgeons:Advanced Trauma Life Support.American College of Surgeons,1981.

 Swan KG,Swan RC and Levine MG:Management of gunshot wounds. Contemp Surg 17:1ト36,1980.

 Lindsey D and Silverstein M:Abdominal trauma:When to go in,When to stay out ? Ariz Med 33(9):701−707,1976.

 Lindsey D:Teaching the initial management of major multiple system trauma.J Trauma 20(2):160−162,1980.

 -訳 中村紘一郎


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