DISASTER MEDICINE

Application for the Immediate Management and Triage of Civilian and Military Disaster Victims

Burcle FM Jr, Sanner PH and Wolcott BW

翻訳・青野 允、谷 壮吉、森 秀麿、中村紘一郎

(情報開発研究所、東京、1985)


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22.整形外科的外傷

Oscar M.Jardon,M.D.


 はじめに

 骨格の損傷が外傷の60%にみられる.重症の多発外傷患者は,低循環 血液量に対する麻酔からトリアージの配慮に至るまでの種々の問題をも っている.外傷時の骨格損傷は,閉鎖性骨折もあるが,重症外傷では大 部分は開放性骨折である.閉鎖性骨折はどのような観点からも,随伴す る創の治療以上には緊急の問題となることはない.災害現場から楽にか つ安全に搬送するためにただちに副子を当てる必要がある.これに対す る外科手術は(治療施設が使えるか否かによるが)2〜3日後,あるいは数 週間後でよい.

 開放性骨折や脱臼,関節の刺創,血管損傷を伴う骨折,あるいは広い 軟部組織の挫滅は,真の意味の緊急であり,治療は発見とともにすぐに なされるべきである.患者の気道が確保されたら,出血の制御(通常,指 による圧迫,時に駆血帯でなされるが,適当な圧迫部位をみつけたら圧 迫包帯でタンポナーデを行う)がなされる.他の止血法が可能になるまで のわずかな短い時間以外には,駆血帯を出血の制御のために用いるべき ではない.圧迫包帯で出血を制御するために,動脈上の一点に圧迫を加 える.損傷した四肢の動脈性出血の制御は通常容易である.致命的な出 血はまれで,治療は必要ない.四肢の血管は示指以上に大きなものはな く,直接,指で圧迫することで制御できる.大部分の症例では,同部位 に使われた圧迫包帯は,出血を制御するために続けて使ってよい.もし, できなければ,指で出血点を圧迫し続ける.

 出血の制御のあとの第一の目的は,副子を当てることである.古いこ とわざである“(骨折が)あるがままの形で副子を当てる”とは,早急に副 子を当てることを意味し,骨折のある四肢をおかしな格好のままにした り,そのままの形で副子を当てることを意味しているのではない.

 開放性骨折は,できれば無菌ガーゼで包帯をし,その後,四肢を静か に長軸方向に引っ張り,正しい位置に置く.その後副子を当てる(方法に ついては,本稿の後半で述べる).

 次の段階は,感染の予防と四肢の機能保持である.このために傷のす みやかな処置が必要で,時には動脈再建や筋膜切開も必要である.注意 深いデブリドマンと待期的創閉鎖(段階的創傷管理)が,創感染予防の鍵 である.あるケースでは,手術が予防の第一の手段であり,抗生物質は 単に補助的手段の場合がある.これらの患者の治療に当たっては,段階 的創傷管理から大きくはずれた治療を行うと,感染,死,不具の恐ろし い結果を引き起こすので許されない.

 開放創は,できるだけ早期にデブリドマンを行い,洗浄をする.けっ して閉じてはいけない.待期的に閉鎖された創も組織学的には14〜16日 後の閉鎖創と同様である.感染,汚染が起こっていたり,決定的な治療 が遅れるような状況では,けっして一次縫合は適応ではない.

 結論として,閉鎖性骨折は緊急ではなく,致死的でもない.緊急の問 題は,次のことである.

(1)開放性骨折
(2)出血や動脈損傷を伴った骨折
(3)開放性脱臼
(4)関節刺創
(5)完全または部分切断
(6)循環不全を伴った骨折

 頭部と脊椎の損傷については,本書の他の稿でふれる.


 A.受傷場所での管理

 緊急の治療は迅速な患者評価から始まる.もし,気道閉塞があれば治 す.出血もあれば圧迫包帯で動脈の真上を圧迫して制御する.駆血帯は めったに必要ではない.それから創はガーゼか包帯をして前述のごとく 副子を当てる.開放性骨折は創の処置後,整復して副子を当てる.開放 性,閉鎖性のいずれにしろ,すべての骨折は.二次的損傷を防止するた めに移動に先立って副子をつける.それから患者を第一次救急センター へ移送する準備をする.時に移送前や移送中にも訓練された人員ならば, 補液と救命処置を始めてよい.

1)副子

 副子については多くが書かれており,たぶんそのためにかえって混乱 がある.副子の第一の目的は,軟部組織と骨に現在以上の損傷が加わる ことを避け,疼痛を軽減することにある.第二の目的は,より疼痛を軽 くして移送を簡単にすることにある.多くの場合,細工を加えた副子は, 手もとにないし現実には必要でない.

 上腕の骨折はすべて,腕と手を胸壁に三角布とValpeau包帯でくくり つけることで十分に副子となる.下肢の骨折はすべて,受傷した側をも う一方の側に固定することで十分である.両側が受傷した際には,十分 にパッドを詰めた副子を両側の間にいれて固定しうる.

 もし利用できるなら,空気副子が便利である.しかし,それは骨折が 膝や肘の下方にあるときにだけ目的を果たす.上腕や大腿の骨折では, それは骨折を悪化させるてこになるので有害である.

 上腕骨折は.三角布とValpeau包帯で副子の役をさせる.大腿骨折 は,健側脚に固定するか,もしあればほかの牽引副子を行うべきである (直達牽引).

 前腕や下肢の骨折は,板状副子,パッド入り板,毛布,枕を四肢の上 に結びつけて副子にする.固くて,あらかじめつくられた,“誰にでも合 う副子”は,誰にも合わないし,もし使うとしても圧迫包帯をした上から の使用に限られる.それは圧迫包帯が四肢全体にわたって着用されてい ない限り着用すべきではない.皮膚に水泡を形成し,皮膚の損傷は手術 を遅らせるからである.

 副子の着用の規則は,簡単で有意義である.

(1)あらかじめ材料を集めておいて,傷害の評価が終わったあとに役立てる.
(2)開放創を洗浄し,包帯をする.
(3)適当なパッドで正常な骨の隆起を保護する.
(4)長軸にそってゆるやかに引っ張って整復する.
(5)副子や包帯を骨折部が快適になるように着用し.骨折部位の上下の関節を固定する. 牽引副子の装用はこの五つの目的を果たすが,さらに七つの段階がある.
(6)足を挙上して,副子を置き牽引を続ける.
(7)固定基部としての坐骨突起に対して副子を当て,適当な包帯で強く固定する.
(8)牽引の引き具を,足,足首に結び,副子の末端にも結ぶ.
(9)巻きあげ牽引器をつける.
(10)巻きあげ牽引による効果がでたら.手による牽引をやめる.
(11)脚,大腿を副子棒の下に包帯で支える.
(12)踝に圧がかかるのを防ぐために副子の端をあげる.

 創が包帯され,出血が制御され,副子が適当に当てられたら,患者は 搬送の準備が完了する.搬送は静かに注意深く行われるべきである.モ ルヒネや他の強い鎮痛薬は,通常適切に副子が当てられた患者では不要 で,強度の疼痛にのみ,疼痛をとるための最小量だけが使われる.多く の傷は受傷後の数分は極端には痛くないし,適当な副子によってほとん どの痛みは開放される.


 B.第一次救急センターでの管理

 もし副子と一次救命処置が適当になされたら.次の段階は,損傷の完 全な把握と診断である.検査は体全体にわたらねばならない.検査は多 発外傷を頭部,胸部,脊椎,骨盤,腹部,四肢,また骨格も軟部組織を も含めて検査する.低容量性ショックを起こしがちな唯一の整形外科的 損傷は,骨盤と大腿の骨折である.「20.野外状況下におけるショック とその治療」で述べたごとく,この場合はCVPの監視と尿量をチェック しながら,輸液による補正を必要とする.尿路の損傷がない限り緊急手 術はめったに必要ではない.

 開放性骨折の外科的治療の箇所で述べられたごとく,開放性骨折は原 則に従って十分に安定させたのち,適当な麻酔下にデブリドマンがなさ れ,手術を受けることになる.検者は粉砕骨の数,周囲組織への損傷、の 程度,神経や動脈の損傷の有無を骨折部位とともに知るべきである.ま た,脱臼の有無も知るべきである.

 これらの検索は視診でなされ,視診で変形,皮下出血,腫脹,組織損 傷の性状を把握できる.触診は局所の痛み,時には絞扼,限局した血管 外漏出の動脈性拍動,捻髪音を発見する.脈拍,色調,皮膚温は,循環 状態の変化としてとらえられる.神経損傷を調べるために,知覚と運動 を整復前後で調べる.二方向のX線像は,骨折の珍断と整復の評価に役 立つであろう.関節の損傷では,さらに斜位のX線写真が必要となろう.

 致命的損傷のない他の四肢の非開放性骨折は,整復後ギプスを巻く. 不完全な整復は後日正しく整復することができるので完全を期すために 時間を費やしてはならない.髄内固定は使用しない.全周性の石膏ギプ スは.骨折部位の上下二関節を固定するのに役立つ.これは二片性(上下 端を皮膚まで割をいれる)にすると腫脹のための空間をつくれるし,検査 のためにとりはずしが容易となる.麦穂包帯は,担架や担架のかわりに 用いる搬送用のドアに合うように小さく巻く.患肢挙上は腫脹を減じる.

 骨折の合併症は,患者の訴えでしばしば診断される.増強する重症の 局所痛の場合には,後発する損傷の徴候や絞扼症候群を調べるためにギ プスをはずす必要がある.脂肪塞栓は治療の早期に起こりうるし,考慮 にいれておかねばならない.


C.整形外科的損傷の安定化

 持続的な大出血の可能性は,比較的少ない.骨盤骨折や大腿軸骨折の うちのあるものは,低容量性ショックを起こすことがある.骨折や脱臼 に伴う血管の損傷は,重篤な合併症であり,骨折そのものよりはるかに 重大な問題を起こす.

 気道確保の処置は,第一に優先される処置である.低血流量の補正, 出血の制御が次の配慮である.運動機能,知覚機能,脈拍,毛細血管灌流 の把握が骨格筋の外傷では非常に重要で,他の優先処置に続くべきも のである.

 骨折の臨床所見は簡単である.圧痛,変形,腫脹,皮下出血,異常可 動性,捻髪音は,この損傷を示している.骨折そのものは致命的ではな く,トリアージの場では低い優先権をもつことを記憶しておく.合併症 のない副子の当てられた骨折と,よくデブリドマンがなされ,見固定さ れた開放性骨折とは.後日に治療をする症例である.

 骨折患者の安定を保つことは,他の創が低血流量や呼吸系の問題がな い限り大きな問題とはならない.これらの問題の解決については,本書 の他の稿で論ずる.

1)開放性骨折の管理

 開放性骨折は基本的には,軟部組織の創に対してのみ緊急の配慮を要 する.第一優先は,感染の予防と合併症のない治癒の促進である.創の 修復は,創から治癒への持続した過程である.これは三つの因子によっ て決まる.受傷から最初の外科的治療までの時間,最初の外科的治療の 適切さ,全身的あるいは局所的な損傷組織に対する加護である.

開放性骨折の管理には.三つの段階がある.

(1)創全体を開放し,鋭的なデブリドマンを行う.
(2)清潔な症例はデブリドマンのあと4〜10日後に二次的創閉鎖をする.
(3)骨折は.治癒するか,必要な再建手術が施行されるまで固定する.

 最初の創の開放とデブリドマンは,外科的清浄化が可能な場所で,で きるだけ早期に行われるべきである.その際,次のものが必要となる.

(1)最低限の野外用外科セット
(2)洗浄水
(3)ガーゼ,包帯
(4)適切な麻酔
(5)デブリドマンに熟練した医師

 二次的創閉鎖と再建は,もっとあとになされる.抗生物質は補助的な ものでしかないし,本当にたいせつなのは,注意深い鋭的なデブリドマ ンと十分な洗浄である.その洗浄液は,普通の石鹸水+生理食塩水,ベ タジン液(ヨウ素薬)20〜50%+生理食塩水またはリンゲル液が使われ, 何もないときには石鹸水+清浄水でもよい.

 もし可能ならX線写真を二方向(関節が含まれていればさらに多くの写 真)から撮ったあとに,デブリドマンの準備がなされる.これは異物を見 出したり,骨格の損傷の広がりを知るのに役立つ.破傷風の予防は早期 になされ,広域性の抗生物質の有効量を投与する.

2)整形外科的創のデブリドマンの手技

 麻酔導入後患者の包帯を除き,外科的に清潔にする.デブリドマンの 最中に出血を制御するのに駆血帯は便利であり,動脈の流れを閉じるに 十分な圧をかける.手術のための1〜2時間以上は,駆血帯をかけたまま にしてはならない.

 十分な創の露出は,適切かつ正確なデブリドマンの鍵である.切開は 四肢の長軸に沿うようにすれば,必要なら延長できる.切開は皮下組織 と筋膜を通して行う.死滅した皮膚片は最小限度切除する.関節を交差 している創では切開はS字型にする.筋肉や他の組織は静かに分け,創 の到達路を調べる.異物は除き,創は繰り返し洗浄し,死滅片の除去に 役立てる.

 生着可能な筋は,色調(薄いピンク色),血液の良好な循環,つまんだ り切ったりすると収縮することで判断される.死滅筋肉は,暗色で,出 血せず,収縮をしない.死んだ筋肉は鋭いナイフで除去し,生着する筋 はそのままにする.はさみの使用は,組織をはさんで損傷を生ずる.ま た取り扱いがむずかしく,生きている組織を損傷する.汚れて毛羽立っ た結合組織は取り除く.死んだ組織や筋を完全に除去する際に,神経, 血管,大きな骨折片や皮膚はできるだけ残すようにする必要がある.デ ブリドマンは,組織に気を配りながら静かに行うべきである.大きな血 管は修復し,生きた組織で覆う.神経は修復せず,やはり組織で覆う. 骨も覆うが,必ずしも必要ではない.腱は広くデブリドマンすべきでは なく,のちに修復する.

 創は繰り返し洗浄し,すべての異物を除去する.デブリドマンが終わ ったら,駆血帯をはずし,止血を入念にする.非閉鎖性の包帯を着用し, ドレナージが不可能なら創のドレナージ確保のために反対側を切開する. 閉鎖性のパッキングは許されない.創閉鎖は部分的にしろ試みてはなら ない.創は広く開放にしておく.創にガーゼを置き,それから骨折を可 能な限り整複し,ギプスを巻く.ギプスは二片性にし,あとで起こる腫 脹に耐えるようにし,適当なときに二次的創閉鎖や視診のためにはずし やすいようにしておく.ギプスには日付をいれる.血管,神経損傷は骨 折と同様に記録しておく.ひとたび清浄化し,組織が治癒すれば,開放 性骨折は非開放性骨折と同じであろう.再建は同じ方法で行われるから である.


D.関節の貫通創

 市民社会と軍隊の双方の調査から,弾丸や他の物体で貫通した関節は 感染の高い可能性があることを指摘している.これらの感染した50%以 上の症例が,結果として切断をしている.

 次の規則が関節の貫通創の治療に適応できよう.

  1.  刺入創を広げるか,時に関節切開によって関節を開放する.膝関節 では通常,正中かまたはその側方に四肢の長軸に沿って平行に切開する. 他の関節では,血管や神経を避けて,しかも視野が広がるような標準切 開が使われる.
  2.  前後像と2枚の斜位のX線写真が,可能ならば有効である.
  3.  開放された関節は繰り返し洗浄する.小骨折破片,異物,凝血塊が 除去される.大きな骨片はその場所に置いておく.
  4.  関節のすべての陥没部位は開放し,洗浄する.
  5.  広域性の抗生物質を早期に投与し,1〜3日間続ける.破傷風予防も また早期に行う.
  6.  創は閉鎖しない.滑膜は関節がまったく清潔だという絶対的確認が ない限り閉じない(それを確認できることは,きわめてまれである).
  7.  骨折創と同様に,関節もパッキングをせずに滅菌ガーゼで覆い,ギ プスをする.ギプスは二片性にする.
  8.  創は4〜10日後に二次的創閉鎖をする.
  9.  再建手術は施行せずに,後日にまわす.

 E.脱臼

 脱臼は,開放性であれば開放性骨折と同様に扱う.もし閉鎖性ならば 可及的早期に整復する.しばしば麻酔よりも無痛法で十分施行できる. これは,小さな関節や,整復の試みが損傷のごく初期ならば,ことに真 実である.

 整復のあと引き続いて,肩の場合はValpeau包帯で,腰の場合はヘッ ドで軽く牽引をして固定する.他の脱臼は副子をするかギプスを巻く. 合併症のない脱臼は,外科的優先権のないのが普通である.

 以下の二つは血管や神経学的な損傷を伴うものとして悪評が高い.

  1.  肩は整復の前後で神経血管系の異常を確かめておくべきで,靭帯の 損傷は後日の修復を待つ.
  2.  完全に脱臼した膝関節は,しばしば膝窩動脈を破壊し,動脈再建を 要する.動脈の再建の失敗は70〜80%の下肢切断を招く.脱臼した膝周 囲の腱の損傷は,可能なら8〜10日間以内に外科的に治療すべきである.

F.捻挫

 捻挫は疼痛を伴った健の伸展である.これらはよく起こる損傷で,野 外状況下では圧迫包帯と鎮痛薬でよく処理される.極端に疼痛がひどく ギプスを巻くようなケース以外は,患者も救助活動に参加すベきである. 捻挫はただちに大きな外科的治療を要せず,大部分は最少の治療で治癒 する.好発部位は,足首,膝,足母指である.


G.四肢の血管修復

 多くの切断は,損傷血管の再建再吻合で予防できるか,より低い部位 での切断ですますことができる.これはしばしば野戦病院の状態でも可 能である.必要なものは,Shod鉗子,血管鉗子,血管縫合糸,動脈吻合 の原則を理解している外科医である.施行の際には,筋膜切開をこの稿 で述べたように血管吻合より下の部位で行うことが必要となる.絞扼症 候群を防ぐためである.

 患者の全身状態は,血管の修復が必要となるような状態に合致する. そのなかの何人かは,救命処置を要するような他の部位の重度傷害を負 っているか,または主要血管が修復できないほど傷害されている場合も ある.そしてしばしば必要な手術時間の間,患者が生き長らえるかどう か疑問のことがある.

 すべての動脈損傷が緊急修復を要するわけではない.いくつかの症例 では,動脈造影で検査して,結紮部を吻合することによって,本格的に 治療されるまで数日間遅らせることができるものもある.四肢の拍動す る血腫の上の圧迫包帯は,のちの修復で治療できる.LaCroixが普仏戦 争(1870〜71年)で述べた腋窩動脈の破損の経験は,一定期間腕を生かす に十分な側副血行路があることを示している.それゆえ,これは待期的 な方法で治療される.しかし外科の能力が満足すべきものであり,患者 が十分に元気なら,動脈損傷の手術的加療をただちに選ぶべきである.

 外科的修復は大部分が端〜端吻合であろうが,時としては,本管から出 ている分枝の裂けた場合や,短い鋭的な切断による側壁の修復などとと もに自家静脈による移植術も行われるであろう.

 もし,修復が効果的であると信じられ,手術可能な外科医がいれば. 再建術は早期になされるべきである.一般にほとんどの外科医は,現在 では訓練され技能をもっている.しかしながら,再建は,十分な支援が あり,外科設備があるときに限られるべきである.

 時に血管損傷の診断は,むずかしいことがある.冷たく,拍動がなく, 暗色の四肢が,整復できない骨折や脱臼や捻挫損傷で起こることがある. 一つには,大血管付近の弾創を疑うべきである.これには,血栓を伴っ た裂傷や局所の裂傷から血栓を伴った致命傷までが含まれ,明らかに上 述の創である.

 冷たく,四肢にチアノーゼがみられ,拍動がなく,拍動があってもそ の後消えてしまうような場合には,動脈損傷が考えられる.伸展すると 痛んだり,無感覚であったり,蒼白な色は,血管損傷を暗示する.外出 血は時としてみられたり,みられなかったりするので指針とはならない.

 その修復のタイミングは重要で,可能な限り早期になされるべきであ る.受傷から修復までの時間が長引くにつれて,合併症が高率となり, 成功率は低下して,手術が適応とされない8〜10時間後の成功率にまで 落ちる.血流の回復がみられる理想的な時間は,4時間以内である.

 圧迫,駆血帯,鉗子によって出血が制御された動脈を個々に調べる. 時に小さな動脈切開をして,フォガティーのカテーテルかまたは他の方 法で凝血塊を除去し,血流が確かめられたら切開部の縫合を行えば十分 である.

 しかしながら,血管に対する損傷が存在すれば,正常な内膜の部位ま で切除せねばならない.しかし過剰に切除する必要はない.ほとんど死 滅しかかった血管だけを切除する.デブリドマンの原則は保存的に行う ことである.

 末梢の通過性は,フォガティーのバルーンカテーテルを血栓除去のた めに通過させて逆流を確かめる.しかし本当に末梢が開いているかの唯 一の指針は,末梢の拍動の再開である.そこで動脈は端〜端(内膜〜内膜) 吻合が可能なら施行され,時には中枢と末梢側を逆にした静脈移植片を 間に挿入する.

 端〜端吻合は,縫合線に対して緊張が過度でないときに施行される.多 くの修復は,損傷していない内膜を外反し,連続縫合の3〜4針で行う.

 伴走する裂けた大きな静脈もできるだけ保存し,時に大きな静脈の側 方にできた小さな損傷は修復する.主動脈の結紮は理想的な治療ではな く,切断を要する壊死を起こす率が高い.四肢は生着しても血行不全を 生じ,機能が高度に障害される.戦時の外科の調査では,膝窩動脈でほ とんど100%,大腿総動脈で90%.上腕動脈で50%の壊疽の発生率を 示している.結紮は全身状態の悪い患者の最後の手段か,ほかに何もで きないときの手技である.

 動脈損傷を伴った骨折は副子で管理されうるし,骨が失われたときに は牽引で長さを維持しうる.内部まで汚れが固着したり,汚染された創 を戦場(野外)で髄内固定することは適当ではない.牽引用の釘とギプス または外固定は,非常にまれな場合にしか適応とならない.

 血管修復ののちに,絞扼症候群を防ぐために筋膜切開が施され,四肢 は高くも低くもせず水平に置く.壊疽,枯草菌筋炎や他の重症の二次的 出血は,野外医療の状況では切断の適応となる.

 部分的な壊疽は,2〜3日後の境界線の形成を待って切断することがで きる.治療が数時間も遅れた場合には,再移植の適応はない.切断端を, 氷,生理食塩水のなかに保存する意義はない.


 H.神経損傷

 末梢神経の損傷は重度の外傷にしばしば起こり,その程度は,一過性 の振盪性の損傷から,回復に時間を要する挫傷,修復術を要する裂創, 切断にまで至る.

 神経を含む創の外科的治療の第一段階は,神経組織を残して十分で安 全なデブリドマンを行うことである.もし神経が見えたらその現状と位 置を,将来の参考と治療のために記録しておくべきである.神経損傷は 緊急でないばかりか,創の治療が完全に終わったあとにのみ修復される べきである.結果がきわめて悪いので,一次的修復の試みはなされるべ きではない.効果的な修復には緻密な外科手技を必要とするので,野外 や集団災害の状況では一次修復の試みはなされるべきではない.それは しばしば近代的な病院にあっても正当化されない.

 閉鎖性神経損傷を外科的に露出することは,緊急の状況ではけっして 適応とならない.もし適応があるとしても,損傷後3〜4週間後に待期的 手術として計画するとよい.

 末梢神経の損傷は,周囲組織の保全と創のデブリドマン以上のことは 必要でない.せいぜい開放創のなかの神経末端を,生きている組織のな かに保護とのちの修復のために置くだけでよい.ブラブラした四肢は, 機能位で副子を当てる.無感覚部位は熱,冷温,圧から保護を要する.


 I.四肢の銃弾創

 受傷部の下に,動脈,神経,骨に対する損傷が隠されている.銃弾創 の骨折はまさしく整形外科医の関心事である.創から骨片を除去するこ とは,骨のずれを起こしやすいので危険である.他のすべての死滅組織 を切除することは,感染の予防に不可欠である.

 ペニシリン,ストレプトマイシン,セファロスポリンのような抗生物 質は,適応と考えられるが,実際には結果をよくするという証拠には乏 しい.逆に,すぐれたデブリドマンと段階的創傷管理は,創の固定との ちの再建術とに伴って,悲惨な合併症に対する最も効果のある防止策で ある.

 ショットガンによる創は,創内に泥土をいれたり,組織をもち去った りするような多くの破片が集中して起こる高速度物による創の特性をも っている.砲弾や銃弾は,拡散し,一般に軟部組織の重大な損傷を起こ す.これは高速度物による創の場合と同様に,開放デブリドマンと治療 とを要する.

 銃弾創による骨折は,他の開放性骨折と同様に治療する.低速度,高 速度のいずれでも,関節を含むすべての創は開放し,異物や細片の洗浄 を行う二大血管の近くの創は,よく調べ,可能なら動脈造影をする.

 結論として,小さな処置ですむ銃弾創は,低速度のピストルや22口径 ライフルの標準銃だけである.他の銃弾創は,種々の複雑な因子をもつ 特殊な外科的問題となる.興味ある読者はK.G.Swanの銃弾創につい ての文献を参照されたい(「参考文献」参照)


 J.切断

 切断をするうえで二つの原則がある.

(1)切断は適応がなければ施行すべきではない.
(2)最大長が残されるべきである.

 この二つの教訓に注意すれば,最大の機能が残される.

 広範囲損傷,多発損傷の状態,後方での十分な治療にまで数時間を要 する野外医療を考えれば,切断は断端を処理し,最大長を残し,のちに 断端を閉鎖することのみが必要とされる.切断の外科的手技は部分切断, 完全切断ともに等しく応用され,以下本稿で概要が述べられる.

 四肢の保存は三つの要素にかかっている.

(1)患者の全身状態は主要動脈の修復が可能な状態でなければならない.
(2)四肢の状態は,保存に成功すれば十分使用できるものでなければな らない.
(3)動脈血流と静脈環流を修復しうる外科的な技術があること.

 外科医にとっては,より長い切断肢をつくる努力として,中枢の動脈 損傷の修復を考えることは,賢明である(大腿動脈の修復は膝から下を残 し,外腸骨動脈では膝より上の長さか時には膝以下の切断をも可能とす る).もし,外科医が熟練していれば野戦病院の状況下で切断されるとし ても,このことはよく当てはまる.

 以下は緊急切断の明確な適応となる.

  1. 四肢の構造の大部分が破壊された損傷で,修復不能なことが明らか であり,明瞭な死滅組織を有すること.
  2. 適切な外科的治療,抗生物質にもかかわらず,優勢な局所の感染が あり,致命的(24〜36時間以内というほどではなく)である場合.
  3. 皮膚,筋肉,神経,骨の損失があり,使用に耐える機能が失われて いる症例.
  4. 枯草菌筋炎(ガス壊痕)は全体に及べば,これも切断の適応である. 一つの筋群に局在すれば創の切開がよりよい選択である.この状態は数 時間で進み,適切なデブリドマンと待期的管理で予防できる.
  5. 四肢の死(壊疽)を起こす血管性損傷は切断の適応である.単に血液 供給が疑わしいだけでは,適応とすべきではない.減圧のための筋膜切 開によって,骨折,脱臼などの疑わしい症例でも,生着に十分な循環を 再び取り戻すことがしばしばある.

1)野外における切断の手技

 最大長を保存することが第一優先であり,創の感染予防がそれに直結 している,ということを銘記しておく.つまり切断のレベルは,生着の 可能性が最も低い部位となる.生着可能な末端の非損傷性の全層の皮膚 弁の長さは幅の1〜1.5倍以上にならないようにして,のちの創閉鎖のた めに残す.

 古典的な緊急切断法は,環状の開放切断かギロチン切断である.これ は症例において,皮膚と筋膜の弁がうまく合致するように,または弁の 周囲を二次的創閉鎖ができるようにトリミングする.しかし野外状況下 で最も受け入れられる切断は,環状の開放切断である.これは以下の方 法で施行する.

  1. 皮膚は全周にわたって深部筋膜まで生着する最低のレベルで切開す る(大きな静脈は結紮する).こうすれば皮膚が退縮しても,それ以上断 端の切除を要しない.
  2. 中枢側へ退縮した皮膚を目安として,各筋肉束を分け,そのレベル で切開する.大きな血管は止血する.
  3. 大きな動脈は個別に分け,止血切断後に結紮する.大きな静脈を結紮 する.
  4. 神経は末梢へ引っ張って切断すると退縮する.
  5. 骨が露出する骨膜は,はいだり,損傷させたりしない.骨膜は筋肉 が退縮するレベルの部位で環状に切開する.この部位がのこぎりのはい るマークとなる.骨が切断されると肢の切断は終わる.
  6. 駆血帯をはずし,入念に止血する.柔らかい軽いガーゼを断端に当 て,伸縮包帯で圧迫気味に包む.
  7. 汚染や薗血症を起こしやすい状況では,断端はけっして一次創閉鎖 をしない.もし皮膚弁や他の弁が残されたら,厚めのガーゼをのせ,肢 は圧迫包帯で包む.

 完全離断術では,生着しない汚い組織や断端を不整にするものだけが 切除されるような方法に単純化する.止血と包帯は上述のごとく行い, 皮膚を2〜2.5kgで牽引する.

 皮膚の牽引は皮膚にぴったりしたストッキネットを断端の少し上につ ければ行える.このネットに重りをつけるか,針金の橋状副子または似 たような皮膚牽引の道具が伸縮包帯を装着するのに役立つ.

 断端が清潔なら閉鎖は5〜7日後に行ってよい.時に皮膚の牽引は切断 がうまくなされていれば.再切開なしに皮膚の閉鎖を可能にする.

 結論として,次の原則が切断手術を支配する.

  1.  明らかに使用できないか,または生命をおびやかす肢は,早期に切 断する.
  2.  切断は患者の生命を救うためになされる.
  3.  切断創は開放しておく.
  4.  野外における切断の理想的部位は,最大長を残す部位である.
  5.  凍傷は早期の切断の適応にはならない.
  6.  理想的には,皮膚の退縮を予防するため皮膚牽引(2〜2.5kg)を行う べきである.
  7.  創が感染していないことが確実になるまで,創閉鎖を延期させる.

 K.挫滅傷

 この損傷は通常,落下破片や交通事故で発生する.圧迫が1時間かそ れ以上続くと患者は挫滅症候群として知られるものに進行する.圧迫が 解かれると,挫滅した部位は損傷した毛細管のために急速に浮腫をきた し,時には低容量性ショックに陥る.腎合併症を予防するために,低血 圧は治療されねばならない.筋ミオグロビン,カリウム,乳酸が大量に 放出され,低血流量性の患者の腎障害を増悪する.

 挫滅傷は副子を当て,四肢は代謝性の負荷を減少させるために冷やす. 過剰の包帯はよくない.極度に腫れた四肢は,緊急の処置としての圧迫 除去の筋膜切開が行われるべきである.圧迫損傷の理由からだけではな く,壊疽や他の適応(本稿「J.切断」で前述)のために切断がなされる.

 挫滅傷患者は,循環状態改善のために,血漿,血液,輸液の投与を必 要とする.過剰輸液を防ぐためにCVPを維持し,尿の性状,比重,量を 知るために導尿カテーテルをいれる必要がある.尿量を1時間当たり50 mlかそれ以上に保つ.もちろん,経口的に水分投与の可能な場合もあり うる.乳酸アシドーシスを補正するために重炭酸塩が用いられ,補正輸 液が行われている間に尿量を維持するためにマンニトールが使用される.

 可能なら血圧と心電図を監視する.腎不全の症例には補液を著しく少 なくし,透析が必要となるかもしれない.これは医師にとってトリアー ジ上の配慮となろう.


 L.絞扼症候群と筋膜切開

 絞扼症候群による筋と神経の虚血の唯一の効果的な治療は,外科的な 圧迫除去である.この症候群は灌流圧(27mmHg)以上の圧が閉鎖性の骨 膜筋内空間に加わることと定義される.

 この症候群は種々の状況(外傷,阻血,過度の運動,術後,薬品やアル コール嗜癖,挫滅傷,鈍的外傷)で起こるので,医師の能力の最善を要求 する.他の状況でも同様の徴候を示すので診断は容易ではない.

 典型的な状態では絞扼部や四肢の圧痛,緊張が健側と比べて強い.能 動的に動かすと痛みがあり,のちに麻痺が生じ,そして絞扼部を通る神 経の傷害によって知覚神経の無痛覚が起こる.末梢の拍動は通常存在し, 動脈の通過障害と対称的に色調の蒼白さはみられない.

 病理学的な問題は,その部に含まれるものが強く縮められることであ る.治療は,その部の解放と拡張である.肢を挙上することは局所循環 を減少させるので役立たない.氷による冷罨法は悪化を遅らせるだけで ある.圧迫包帯は問題を複雑にする.絞扼症候群が疑われたときに行う 最初のことは,検査と圧の測定,また局所循環の改善の可能性のために きつく縮められた包帯をすべて除くことである.

 組織の圧は,疑いがあれば内芯カテーテル(ジェルコカテーテル)かス プリットカテーテルを絞扼部にいれれば測定できる.カテーテルは持続 的に水で満たされた管にトランスデューサを接続し,直接の圧を読む. また三方活栓に接続し,一方は普通の水銀血圧計に接続して測定する.

 30mmHg以上の直接記録か,40mmHg以上の水銀柱圧が有意であ る.疼痛,圧痛,能動的な伸展に伴う痛み,麻痺,無感覚の徴候のうち, 一つでも圧の上昇とともに存在すれば,筋膜切開が適応となる.


 M.筋膜切開の手技

 1)下肢

 下肢では,2か所の筋膜切開がすすめられる.前側方と前面の絞扼部室 への到達は,腰骨のすぐ前方,ふくらはぎの真ん中に8〜10cmの長さで 施行する.これは深部筋膜まで行う.ひらめ筋の上の筋膜は,上下に二 方向にはさみで切開する.脛骨の上の筋膜も同様の方式で切開される. 総腓腹神経,深腓腹神経を損傷しないように注意する.

 後方の部(浅くても深くても)は,腓骨と筋膜の正中部の境界のすぐ後 方で,腓腹筋とひらめ筋の上方で,前同様の方法にて,縦に中枢,末梢 への二方向に切開する.これらの筋は筋膜の切開部から膨出する.深い 絞扼部(腰骨後方と屈筋群の間)を確かめ,この筋膜も上下二方向に切開 する.方法の的確さは,圧を繰り返し読みながら確かめる.筋は,ガー ゼ,包帯をして後日に閉じる.皮膚移植はあまり必要ではない.

 2)上肢

 前腕の筋膜切開は,縦の切開で皮膚を通して掌側か背側に,またはそ の両方に切開可能である.表在性または深部の筋は,圧を減じるために 縦に切開する.神経や大きな血管を切らないように注意する.前腕では, 掌側の圧迫の減圧はしばしば背面の絞扼を減圧し,またその逆も起こる. これは下肢では起こらないことである.他の部の筋膜切開のあとにも, 前腕の未解放の絞扼部室の圧が高いままであるならば,その部も切開す るべきである.創の処置は下肢と同様である.骨折があるならば,肢は ギプスを巻き,ギプスは包帯後に二つに割る.もし疼痛,排液,進行性 の改善があれば,包帯交換を行う.創が安定し感染がなくなったあとに, 二次的創閉鎖をする.


 N.脂肪塞栓

 脂肪塞栓は,多発外傷によく起こる早期の合併症である.徴候は一般 に大腿骨折や他の長管骨折に伴って起こる.この疾病は,肺,脳,他の 臓器に脂肪球が異常に集まること,と定義される.

 二つの病因が考えられている.一つは骨折部からの貯蔵脂肪の外傷に よる放出であり,もう一つはリン脂質の代謝異常によって脂肪が集合し て大きな乳状脂粒を形成するという説である.著者には後者の説が有力 と思われる.ヘモグロビンの異常,減圧病,感染,麻酔,肝炎,熱傷, 糖尿病,腫瘍,輸液,腎梗塞やその他の多くの疾病が外傷以外にも原因 として述べられている.

 脂肪塞栓は,第一次世界大戦中の多発外傷において10%の発生率が報 告されている呼吸系の疾病である.たぶん,発生率はもっと高く,市民 社会でも戦時でも大略同率であろう.

 未治療の脂肪塞栓症例の65%は死亡するといわれている.この状態 は,1970年代後半のモントリオールでの研究によると,子供にも起こ る.その影響は脂肪の肺組織への集積による二次的無酸素症である.こ の疾病は受傷後4時間から3日までに発症する.12時間まではそのうち の25%が症状を呈し,24〜36時間では75%,48時間では85%が症状 を示す.意識鮮明時間が常に強調されるが,必ずしも存在しない.脳外 傷は最大の鑑別診断である.

 早期の症状は,意識混濁,説明不能な尿失禁,瀕脈,発熱,頻回の呼 吸,遅発する昏睡,一定しない中枢性の脳症状などである.顔面,結膜, 上胸壁の反重力性に分布する皮下出血斑は遅発性の徴候である.

 検査で脂肪を判別する試みは,診断の助けとはならない.酸素分圧が 60mmHg以下に減じ,炭酸ガス分圧が正常域であれば,診断の助けとな る.病態は肺内血流の短絡であり,酸素運搬能が減少して,小さな梗塞 が,肺,脳,腎,網膜に生ずる.生存者では脳の永久的な傷害はまれで ある.

 最も頻度の高い損傷の組み合わせは,腹腔内,胸腔内,頭蓋内,大動 脈の各損傷に伴う複数の骨折である.

 治療は呼吸系の補助である.マスクによる酸素投与が用いられ(鼻管は 酸素分圧を十分にあげない),酸素分圧を調べて,もし65mmHg以上な ら十分である.もし酸素分圧が維持されないと呼気終末陽圧による呼吸 補助(PEEPやCPAP)が必要である.これは通常,奏効し,多くの症例 が1週間以内に改善し,この期間中,気管内チューブに耐えられるので 気管切開はほとんど必要としない.

 ヘパリン加アルコール,糖,副腎皮質ホルモンは,治療上実際には使 われない.治療の鍵は呼吸補助と適切な補液である.じょうずに副子の なされた患者をていねいに取り扱えば,的確な早期の補液と同じく多く の患者を救えるように思われる.


 O.整形外科におけるトリアージ

 (1)前述のごとく,患者に大きな出血を起こさせるのは,たった二つの 骨折しかない.それは骨盤と大腿の骨折である.それほど頻繁にはこれ は起こらないが,可能性のある問題ではある.これは輸血で治療され, 通常は緊急の手術をする問題ではなく,したがって手術の優先権をもた ない.

 (2)骨折それだけでは緊急の問題ではなく,閉鎖性なら後日の治療分類 にいれられる.

 (3)開放性骨折は,四肢における銃弾創や関節の開放性貫通創のごとく 外科的治療の優先権を有する.一度デブリドマンされ固定されたなら, 4〜10日後の二次的創閉鎖まで十分に清潔であれば創の包帯交換とデブリ ドマンは必要でない.

 このように,整形外科的損傷のトリアージに対する配慮は,筋骨格そ のものの損傷よりも合併損傷に対するものであるといえよう.ひとたび この概念が広く理解されたなら,骨折症例のトリアージは,合併損傷の 重症度の単純な分類と同様である.


 参考文献

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 -訳 中村紘一郎


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