アメリカ心臓協会(AHA)の心肺蘇生法ガイドライン 2005 第10部(9) 電気ショックと落雷
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■背景 ■一次救命処置の変更点 ■二次救命処置の変更点 ■要約 □参考文献 |
電気による外傷の部位と重症度を決める因子は、受けたエネルギ
ーの大きさ、電圧、電流に対する抵抗、電流の特性(type)、感電
源との接触の時間、および電流の経路である。
高圧電流は一般的に非常に高度な傷害(the most serious injuries)
を起こすが、致命的な感電死は家庭内の電源で起きているようだ(例え
ば、米国とカナダでは 110 V、ヨーロッパ、オーストラリアおよびアジアでは 220 V)1。
60サイクル/秒(アメリカの家庭、商用電源のほとんどで使われている)の
交流電流との接触は、強直性の痙攣を起こし、自分で電源から離れるこ
とができなくなることから、感電する時間が遷延してしまう。
交流電流の周波数(the repetitive frequency of
alternating current)は、心周期の相対的不応期(「受攻期」)に
電流が心臓を流れる可能性をも高くする。
このような感電は心室細動(VF)を起こし易くするが、これは R-on-T現象と類似している2。
雷撃
雷撃による死亡率は30%あり、生存者のうち重度の傷害が残す
(sustain significant morbidity)者が70%にも及ぶ3-5。
雷撃による障害の様態は様々で、同時に被害を受けた人々の中でさえも多岐
にわたる。犠牲者の中には、症状が軽度であったりほとんど医学的注意を払う必要がな
い者もいるが、一方で致死的となる場合もある7,8。
雷撃により致死的となる一次的な原因は心停止であり、その場合しばしば一
次性の心室細動か心静止を呈する(which may be associated with primary
VF or asystole)7-10。
雷撃は瞬間的かつ大規模な直流電流ショックとして働き、心筋全体を
同時に脱分極させる8,11。
多くの場合、固有の心臓の自動能により、まとまりのある心筋活動と血
流のあるリズムが自発的に回復する(intrinsic cardiac automaticity may
spontaneously restore organized cardiac activity and a perfusing
rhythm)。
しかし、胸筋のれん縮と大脳呼吸中枢の抑制が同時におこった結果、自発
循環回復の後にも呼吸停止が遷延することがある。
この場合、換気を補助しなければ二次的な低酸素(窒息)による心停止
に至ることになる12。
雷撃は心血管系にも広範囲な影響を及ぼし、多量のカテコーラミン
放出や過剰な自律神経の刺激を起こす可能性がある。
犠牲者は高血圧、頻脈、非特異的心電図変化(QT間隔延長と一過性のT波逆転)
および CK-MB分画の放出を伴う心筋壊死を呈する。
雷撃は末梢神経および中枢神経系の広汎な損傷を起こす可能性がある。
(流れた)電流は脳出血、脳浮腫および脳の小血管や神経の損傷を起こしうる。
心停止の結果、低酸素脳症を来たすこともある。
もし即時に呼吸もしくは心臓が停止して何の治療も受けなければ、犠牲者は
ほとんど電撃死となってしまう。
呼吸もしくは心臓が停止しなかったか(心肺停止後)すぐに治療に反応した場合、
回復の見込みは非常に高い。
それゆえ、落雷により同時に多数の犠牲者が発生した場合、救助者は呼吸も
しくは心臓が停止した患者を最優先としなければならない。
呼吸が停止した犠牲者では、二次的な低酸素性心停止を防ぐために換気
と酸素投与だけが必要となるだろう。
心停止の犠牲者には、早期に積極的にかつ持続的に治療を行うべきである。
雷撃による心停止の場合、蘇生の試みは他の原因による場合より成功率が
高く、蘇生開始までの時間が遅れた場合でさえ効果的である可能性がある12。
自発呼吸または循環が停止しているならば、救急システムに通報、迅速
にCPRを施行、また可能であれば除細動器を使用するなど、一次救命処
置(BLS)を直ちに実施する。
適応があれば(if needed)換気と胸骨圧迫を施行することは必須である。
さらに、自動体外式除細動器(AED)を用いて、心室頻拍または
心室細動を識別し治療する。
頭頚部の外傷の可能性がある場合には、救出および
治療の間、脊髄を不動化(spinal
stabilization)し続けなければならない。
雷撃、電気ショックともに、脊髄損傷、筋損傷(muscular strains)、内臓損傷、骨格筋の強直性の反応に
よる骨折などの多発外傷を来たす。
くすぶっている衣服や靴、ベルトを取り除き、熱によるさらなる損傷を防止する。
循環血液量減少性ショックまたは重度の組織破壊のある犠牲者には、急速な
輸液はショックを改善(counteract)し、サードスペース(third
space)への進行性の体液喪失を補正するために適応がある。
ミオグロビン、カリウムのほか組織破壊に伴う副産物(特に感電傷病者
で生じる)の排泄を促進するために尿量が維持されるよう、適切に輸液
をしなければならない。
電熱ショック後の体表の損傷が重篤であれば、その下にある組織損傷は
更に大きい。
このような損傷の治療に慣れた医師と施設(たとえば、熱傷センター)に
早期に紹介するか転送することが推奨される。
生存者は神経系または心臓の永続性の後遺症(permanent neurologic and cardiac sequelae)
を永続的に遺すことになるかもしれない。
脚注:「Circulation」誌のこの特別増刊号は http://www.circulationaha.org において無料で入手できる。
References
1. Budnick LD. Bathtub-related electrocutions in the United States, 1979 to1982. JAMA. 1984;252:918-920.
■背景
■一次救命処置の変更点
■二次救命処置の変更点
■要約
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13. Duclos PJ, Sanderson LM. An epidemiological description of lightningrelated deaths in the United States. Int J Epidemiol. 1990;19:673-679.
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