アメリカ心臓協会(AHA)の心肺蘇生法ガイドライン 2005

第10部(6)アナフィラキシー
(Part 10.6: Anaphylaxis)

目次
はじめに(Introduction)
病態生理学(Pathophysiology)
病因(Etiology)
徴候と症状(Signs and Symptoms)
鑑別診断(Differential Diagnoses)
心停止を予防するための処置
(Interventions to Prevent Cardiopulmonary Arrest)
気道閉塞(Airway Obstruction)
心停止(Cardiac Arrest)
要約(Summary)
参考文献



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■はじめに(Introduction)

 アナフィラキシーは重篤な全身性アレルギー反応で、皮膚、気道、血管系 及び消化管などの多臓器の障害を特徴とする。 重症例では気道の完全閉塞、心血管系虚脱、さらに死に至る。 古典的アナフィラキシーという用語は抗体のうち免疫グロブリン IgE および IgG サブクラスに媒介されて(mediated)おこる過敏 性反応をいう。 先にアレル ゲンへの感作が起こり、抗原特異的免疫グロブリンが産生される。 次にアレルゲンへ再暴露される とアナフィラキシー反応が起こる。 しかし、多くのアナフィラキシー反応は明確な先行曝露の病歴 がなくても起こる。

 アナフィラキシー様反応(Anaphylactoid reactions)または 偽性アナフィラキシー反応(pseudoanaphylactic reactions) は臨床的に類似した症候群であるが、 免疫には関連していない。 これら 2つの病態に対する治療は類似している。


■病態生理学(Pathophysiology)

 原因となるアレルゲン(the inciting allergen)は先行感 作された好塩基球及び肥満細胞に蓄積された抗原特異的 IgEと結合する。 これらの細胞はほとんどすぐにヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグラ ンディン、トロンボキサン、ブラディキニンなど一連のメディエータを放出 する。 これらのメディエータは局所及び全身性に放出されると粘膜分泌物を増 加させ、また毛細血管の透過性と漏出を増加させ、血管(血管拡張)及び気管支 の平滑筋緊張を著明に減弱させる。


■病因(Etiology)

 IgEを活性化することのできる抗原は全てアナフィラキシーの引き金となる。 病因論の中で、研究者は通常、以下の原因分類を示す 。それは薬物、ラテックス、虫刺傷および食物である。 5%に及ぶ症例では抗原物質が同定できない。

薬剤: 抗生剤(特に非経口的ペニシリン系と他のβラクタム系)、 アスピリンおよび非ステロイド性抗炎症薬、そして静脈内造影剤 (IV contrast agents)が致死的アナフィラキシーの最も多い原因薬 剤となっている。また、ラテックスによるアナフィラキシー について注目されるようになったが、実際は極 めて稀である1,2。 英国での10年に及ぶアナフィラキシー死の登録にはラテックス関連死は記録 されていなかった3,4

虫刺傷: 致死的アナフィラキシーはアリ、ミツバチ、スズメバチ、アシナガ バチおよびスズメバチ(ants, bees, hornets, wasps, and yellow jackets)などの膜翅類(膜様羽根の昆虫)による刺傷と長年関連してきた。 先行刺傷により IgE抗体を産生した人が再度刺された時に致死的アナフィラ キシーとなる場合がある。 致死的反応は10〜15分で起こる。 心血管系虚脱は(訳者註:致死的アナフィラキシ−の)最も よくあるメカニズムである。

食物: ピーナッツ、木の実(tree-grown nuts)、 海産物および小麦は致死的アナフィラキシーと最も関連性の高い食物であ る6。 気管支攣縮および窒息が(訳者註:致死的アナフィラキシ−の) 最もよくあるメカニズムである。


■徴候と症状 (Signs and Symptoms)

 もし、2つ以上の身体器官(皮膚、呼吸器系、心血管系、神経系、消化管系) の反応が認められたらアナフィラキシーを考慮する。ただし、 心血管系、呼吸器系には症状が出ないことがある。 アナフィラキー原因物質と接触してから、反応が起きるまで の時間(the interval between exposure and reaction) が短いほど、反応は重症となる。 徴候と症状には以下のものがある。


■鑑別診断 (Differential Diagnoses)

 (訳者註:アナフィラキシ−以外の)多くの病態で、 いくつかのアナフィラキー同様の徴候や症状を呈する。 診断として、アナフィラキーを除外した後にだけ、他の原因を考慮する。なぜ ならば、アナフィラキーを同定し適切に治療しなければ、致死的になる可 能性があるからである7,8


■心停止を予防するための処置 
(Interventions to Prevent Cardiopulmonary Arrest)

 病因や臨床徴候(重症度や経過など)、そして関連する臓器が多岐にわた るため、心肺停止を予防するための推奨を標準化することは困難である。 治療の方向性(treatment approaches)についての無作為 化試験はほとんど報告されていない。 しかし、患者が急速に悪化することがあり、プロバイダーは気道、換気、循 環の緊急的な補助が必須であることを知っている必要がある。 以下の治療は一般的に用いられ、広く認められてはいるが、エ ビデンスよりはコンセンサスに基づいたものである。

 ショック下では皮下投与後の吸収や最高血漿濃度への到達は遅く、有意に遅延する10,11。 このため、筋注(IM)の方が好ましい(is favored)。

 ―もしアナフィラキシーが差し迫った生命の危機的徴候を伴うほど重篤であ ればアドレナリンの静脈内投与を行う12

 ―致死的なアドレナリン過量投与の報告があり、注意深いモニタリングが重要 である3,14

 ―β遮断薬服用中の患者はアナフィラキシーの頻度と重症度が増加しており、 アドレナリンに対して、逆説的反応を呈することがある15。 このような患者にはイプラトロピウムだけでなくグルカゴンも考慮する (下記参照)。

積極的輸液蘇生(aggressive fluid resuscitation)。 もし、低血圧がありアドレナリンにすぐに反応しなければ、等張晶質液(例 えば、生理食塩水)を投与する。 初期には1〜2Lまたは4Lにも及ぶ急速輸液が必要になるかもしれない。

抗ヒスタミン薬。 抗ヒスタミン薬をゆっくり静注もしくは筋注する(たとえば、25〜50mgのジ フェンヒドラミン)

H2遮断薬。シメチジンのようなH2遮断薬を投与する(300mg経口、筋注もしくは静注)16

βアドレナリン作動薬の吸入。 気管支攣縮が主な徴候であればアルブテロールの吸入を準備する。 β遮断薬服用中患者の気管支攣縮の治療には特にイプラトロピウムの吸入が 有用である。 瀕死の喘息として治療されている患者で実際はアナフィラキシーという場合もあるが、 それらの患者ではアドレナリンでなくむしろ、 常用量の気管支拡張薬が繰り返し投与されることがあることに注意する17訳者註:重症喘息にみえるが実際にはアナフィラキシ−である 患者に対しては、気管支拡張薬ではなくアドレナリンが必要である)。

副腎皮質ステロイド剤。 治療初期に(early in the course of therapy)高用量の副腎皮質ステロイドを静注する。 有用な作用発現には少なくとも 4〜6時間かかる。

毒腺の除去。蜂刺傷(スズメバチを除く)では、傷病者の皮膚に毒腺が残留している可能性があ る。 初期評価のいずれかの時点で刺傷部位を観察し、毒針を発見したら直ちに ナイフの鈍的な部分を用いて毒腺や昆虫の遺残組織を全て刺傷部位からそぎ 落とす18。昆虫の遺残組 織を圧迫したり搾るとさらに毒素が体内注入されるので避ける。

可能性のある治療法

観察(observation)

 治療に反応した患者は観察する必要があるが、 どれだけの期間観察する必要があるかということを示唆するエビデンスはない。 一部の(多ければ20%)患者では無症状期をはさみ、1〜 8時間 以内に症状が再発する(二相性反応)。 二相性反応は最初の反応から最大で36時間後に発生することが報告さ れている15,16,21-24。治療後 4時間無症状であれば退院 してもよいかもしれない25。 しかし、反応が重篤であったり他に問題点があれば、より長期間の経過観察 が必要かもしれない。


■気道閉塞(Airway Obstruction)

 早期の選択的挿管は、嗄声または舌浮腫、喘鳴(stridor)、口咽頭腫脹が 認められる患者に推奨される。 血管性浮腫を伴う患者は急激な病態悪化の危険が高いので、 特に厄介な問題を引き起こす。 たいていはある程度の口唇または顔面の腫脹が現れる。 嗄声や舌浮腫、口咽頭腫脹を伴う患者には特に呼吸障害の危険がある。

 患者は進行性の喘鳴(stridor)、発声障害や失声、喉頭浮腫、広範な舌 腫脹、顔面・頸部の腫脹、低酸素血症を伴い、短時間(0.5〜3時間)のうちに悪 化する。 このことは、患者の病院への受診(presentation)が遅れ たり、治療がうまくいかない時に起こり得る。

 この時点で、ラリンジアルマスクやコンビチューブの使用はどちらも無効 であるだろうし、気管挿管と輪状甲状切開は困難または不可能であるかも しれない。 気管挿管を試みることは喉頭浮腫をさらに悪化させるか、気道損傷を起こ すだけかもしれない。 プロバイダーが高度気道確保の手技に不慣れな場合、気道確保が困難である可能性がある(the potentially difficult airway)と早期に判断することで、これらの手 技の訓練を受けている人々による、また麻 酔科や耳鼻咽喉科の専門医に相談することも含め、代わりの 気道管理を計画することができる。


■心停止(Cardiac Arrest)

 心停止が生じた場合、CPRや輸液(volume administration)、アドレナリン作動性薬が治療の基本である。 主要な(critical)治療は次の通りである。


■要約(Summary)

 アナフィラキシーの管理には早期の認識、増悪の予測、さらに気道、酸素化、 換気、および循環の積極的な補助などがある。 起こり得る(potential)致命的合併症としては気道閉塞 と心血管の虚脱がある。 たとえ心停止に陥っても、迅速で積極的な治療が成功する可能性がある。

 脚注:「Circulation」誌のこの特別増刊号は http://www.circulationaha.org において無料で入手できる。


References

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