「Resuscitation」誌のILCOR-CoSTR 関連文献:

論説1: 国際蘇生法連絡委員会(ILCOR)−過去と現在
The International Liaison Committee on Resuscitation (ILCOR) - Past and present


[最終更新 070328、原文ダウンロード参考文献

編集:国際蘇生法委員会設立メンバー
 このILCORに関する短い概要(overview)を、故Peter Safarと科学の発展と蘇生医学の実践の改良に 尽力する世界中の科学者、研究者、トレーナーその他の個人に捧げる。

 国際蘇生法連絡委員会(ILCOR)の創設により、過去15年間、蘇生ガイドラ インとその実践についての国際的な協同作業のための唯一の機会(a unique opportunity) が与えられてきた。 以下は、画期的なイベントとこの組織の歩みの簡単なあらましである。このよう な歩みを経て、 委員会は、国内のおよび国際的な蘇生ガイドラインの背景となる科学についてのコン センサスを成立させる上で権威のある発言力 を発揮するまでに発展してきたので ある。

1990年

 1990年6月、アメリカ心臓病協会(AHA)、ヨーロッパ蘇生協議会(ERC)、カ ナダ 心臓卒中財団(HSFC)、オーストラリア蘇生協議会(ARC)の代表が、ノ ルウェーMosteroyの離れ小島にあるUtstein修道院で行われたLaerdal 財団主催の会議に出席した。 この会議の目的は、蘇生用語(resuscitation nomenclature) に関する問題点や、成人の病院外心停止について報告する際の標準記載 様式(standardised language)がないということについて、議論をする ことであった。 これが、存在する既存の世界中の蘇生協議会が参加した最初の重要な冒 険的共同事業(the first important collaborative venture)であった。 これに続く会議が1990年12月にイングランドのSurreyで 行われた。そこでは、病院外心停止におけるデータを統一 された方法で報告するための(for the uniform reporting of data) 「Utstein様式」を採用することが決定された1。 このUtstein修道院で行われた最初の 画期的な会議の後の数年間に、たくさんの「Utstein様式」 国際的コンセンサス声明が追加出版された(many additional ‘Utstein- style’international consensus statements were published)。その 中には、新生児2と小児3のALSについて、 研究室でのCPR研究について4、病院内での蘇生について5、 CPRの記録について6の統一された報告方法がある。

1992年

 1992年2月に、心肺蘇生(CPR)と緊急心血管治療(ECC)についての第5回全国(国内)協議会が 合衆国のテキサス州ダラスで行われた。 AHAの寛大な配慮により(Through the generosity of the AHA)、出席者の25%以上を25 の国と53の国際組織を代表する米国外の人々が占めることになった。 この会議によって、最初の Utstein会議の時に既に達せられて いた協力の下に、国際的な問題を話し合うのに理想的な機会が得られた。 この会議では3つの国際的問題が取り扱われた。(1)各国にとって効果的なECCを発展させる 上で国際援助をすることが望ましいこと、(2)国際的な協力のための恒 久的な基盤を作ること、および(3)普遍的な国際ガイドラインを作りCPR とECCについての国際会議を行うことが望ましいこと、である。 Richard CumminsとDouglas Chamberlain が共同議長となった、CPRとECCに ついての国際的なパネルディスカッションには、アメリカ、 カナダ、ヨーロッパ、オーストラリア、南アフリカからの演者が参加した。 その報告はこう発表されている。

 「協議会は、CPRとECCのガイドラインを作る責任のある現行の主要組織が、ガイドラインの 再評価を同時的に行い(synchronize their review of guidelines)、同じ年に最新ガイドラインを発表することを目指すよう推奨した。 このようなスケジュールのもとに、各組織は、世界中の各分野の主だった専門 家が参加する国際的なワーキンググループを作ること ができた。 これらのグループでは文献の国際的な再評価を行い(offer international reviews of the literature)、そして共有された 科学と経験に基いて、ガイドラインの改良を提案することができた。 提案された修正点は、その基となった科学 により裏付けられながら(supported by the science that generated them)、主要な国際的組織がそ れぞれの会議や討議を行う際にエビデンスとして提供されねばならない これは AHAや、CHSF、ERC、ラテンアメリカやオースト ラリア、アフリカ、アジアの協会や団体、すなわち 参加を望む全ての国や多国籍組織について当てはまる。 提案されたこれらの修正点は、各組織で検討されることになる。 もしその科学性が妥当なものとされれば、その修正点はそのま まか、あるいは地域毎の求めや実情(local needs and realities)を 考慮に入れて<地域毎の需要や実情を考慮に入れて変更された上で、採 用されるであろう。
 このような国際協力の計画は、今まであった取り決めよりも明らか に有利な点を有しているはずであるであろう。曰く、(1)世界を引っ張 る専門家達が実りあるコミュニケーションと協力関係を築くであろう。 (2)ガイドラインのための助言は、習慣や伝統、同僚の圧力で妨げられにくい (less likely to be tainted)であろう。(3)このような方法で生み 出されたガイドラインは現在の各組織の中で 広く受け入れられるに違いない。(4)できたガイドラインの大いなる 類似性(というよりむしろ同一性)を達成 するのに、あるグループが別のグループに崩壊させら れつつあるという恐れはないであろう(
訳者註)。(5) 究極の普遍的ガイドライン(eventual universal guidelines) ができあがる可能性がある、(6)現在の各組織がその独立性や自主性が損なわ れる危険性を感じることがないであろう。」

訳者註:われわれの訳が原文をうまく汲み取ったものになっているか 心配である。この文は、各団体が策定したガイドラインが類似してい たりさらにはほぼ同一なものとなることすらあり得るが、それはある 考え方のグループが彼らと一致しない考え方のグループを圧倒し滅ぼ してしまったというようなことではなく、各グループ間の相互理解の 結果として似通ったガイドラインを持つに至るという可能性について 述べていると考えられる。

 1992年11月にイングランドのブリッジトンで行われた蘇生「92」(Resuscitation '92')は、 ERCによって主催された最初の国際会議であった。 会議の最後に、ガイドラインを策定する(訳者註:権限のある)各組織、 すなわちERC、AHA、HSFC、ARC、南アフ リカ蘇生協議会の代表は、国際蘇生連絡協議会 (ILCOR)についての最初の会合を開いた。 Douglas Chamberlainを議長として行われたこの会合では、恒久的な連絡委員会 を通して国際的な協力が続くことが望ましいと提案された。その 連絡委員会は、活動があって定着しており、現在ガイドラインを作成中であり、 通常多国籍であるか一国の中で多数の専門からなる(generally multinational or multidisciplinary in nature) 組織で構成されているのがよいと提案された。

1993年

 続く最新版として、1993年3月にオーストリアのウィーン で行われた突発的心臓死会議で、新しく設立された蘇生連絡協議会の 2回目 の会議が行われ、そこでは以下のような公式の綱領(Mission Statement)が採択された。

 「何らかのコンセンサス機構(訳者註)によって、緊急心血管治療に関連した国際的な科学と 知識を同定し、再評価することは可能である。 この「コンセンサス機構」は、BLS、PLS、ALSの ための緊急心血管治療の一貫した国際ガイドラインを定めるのに役に立つだ ろう。 主眼は治療のガイドラインにおかれるだろうが、運営委員会 (the steering committee)はさらに教育的アプローチ、トレーニングア プローチの効果や、緊急心血管治療の組織や実行に関わる話題を取り扱うであろう。 運営委員会(the Committee)はまた、ガイドラインを作成する日取りや、さまざまな国の 蘇生協議会を集めた会議の日取りを調整することも奨励するだろう。 そして、こうした国際ガイドラインはBLS、ALS、PLSのための科学に基づいた共 通性を目的とするだろう。」

訳者註:「コンセンサス機構(a consensus mechanism)」は「心肺 蘇生に関して関係者がコンセンサスに到達するための機構」を指してい るものと考える。

 ここでは以下のような同意が得 られた。それは、どの地で開催されるにしても会議を 国際的な蘇生に関するイベントに組み合わせて行うこと、費用効果が 高くなるようにすること、蘇生学の各分野の指導者たちが会し定期的 に情報や技術(expertise)を共有できるようにすること、多くの国の さまざまな学問領域の聴衆を参加させること(with a wide multinational and multidisciplinary audience)である(表1)。 3回目の会議は、Douglas ChamberlainとRichard Cumminsが 共同議長であったが、公式のBLS、ALS、PLSワーキンググループが作られ、その仕事(task) としておのおのの領域の学術 研究報告の科学的データを査定(review)するように割り振られた。

1994年

 ERCが蘇生ガイドラインを発表したとき、その委員長であったPeter Baskettは次のように報告している。「ERCは単独で仕事を してきたのではない。AHAの緊急心血管治療委員会や、ARC、HSFC、RCSA、 その他多くの蘇生協議会やヨーロッパ中の第一人者たちの暖かく実りある協力を喜んで受け入れてき た。 われわれの将来的な目標は、協力者とともにガイド ラインをつくり(to collaborate with our colleagues to produce guidelines)、それが広く世界中に受け入れられることである。 国際連絡協議会がこの目標に向けて活動しているので、私達は 満場一致で21世紀を迎えることができる(we can enter the 21st century with unanimity)。

1995年

 アメリカの小児科アカデミーのJohn Kattwinkelによって、小児のワーキン ググループに新生児のサブグループを作ったらどうかという提案がなされ、 検討された。 また、病院内蘇生に関する評価、報告、研究(conducting research) をするために推奨されるガイドラインについて同意が得られた6。 ある代表が、協力の精神が一般的になっていることをよくとらえた次のよう な言葉(an observation that captured the prevailing spirit of cooperation)を残している。「国際連絡委員会の 7つの会議の 場では、委員会が投票を必要とした問題は 1つもなかった。」

1996年

 南アフリカのWalter Kloeckの提案により、1996年5月に「国際蘇生法連絡委員 会(ILCOR)」という言葉が正式に採択された。 これは病気の心臓を治療するガイドラインを作るということに関連した、よ く考えられた言葉遊び(a deliberate play on words)で ある。(ラテン語で)「illcor」、病気の心臓とは! また「助言声明(Advisory Statements)」を作る必要性が大いにあると結論され、 おのおののワーキンググループで最新版のコンセンサス声明を作ることが義務づけられた。

1997年

 1997年4月、「ラテンアメリカ蘇生協議会(CLAR)」が、ラテンアメリカの国々の 代表として、ILCORの 7番目の公式のメンバー組織となった。 ILCORによる勧告(ILCOR Advisory Statements) として、 1人の救助者による BLS7、世界共通の ALSアルゴリズム8、 早期除細動9、 PLS10、特殊な状況での蘇生11に ついての声明が世界に向けて発表された。

1998年

 ニュージーランドの蘇生協議会とオーストラリアの蘇生協議会が加わり、多国 籍の蘇生委員会という名が実体あるものとなった。ERCのPetter Steenが、Richard CumminsとともにILCORの共同議長に任命され、続いてDouglas Chamberlainが設立共 同委員長(the Founding Co-Chairman)の座を退いた。 ガイドラインの作成において、専門家の意見やコンセンサス のディスカッション(expert opinion and consensus discussions)を用いるのをやめて、 もっと明白でエビデンスに基づいた過程を 経ることおよび「エビデンスレベル」や「推奨のクラス」を用いることが決定された。

1999年

 中国、台湾、タイ、日本、マレーシアの代表がオブザーバーとしてILCORの会 議に迎え入れられた。ILCORの管理事務局はオーストラリア・ニュージーランド蘇生委 員会(ANZCOR)が管理するということで意見の一致をみた。ILCORは新生児の蘇生につ いての勧告を発表した2。また「ガイドライン2000会議」に先立って、エビデン ス評価会議(an Evidence Evaluation Conference)が1999年9月にダラスで行われた。

2000年

 2000年2月、ダラスで行われたガイドライン2000会議は、国際蘇生ガイドライ ンを作るために特別に召集された世界で最初の国際会議であった12。AHAのBill MontgomeryがERCのPetter SteenとともにILCORの共同議長として選ばれた。

2001年

 蘇生法の教育について、ILCORで最初のシンポジウムが2001年6月、Laerdal財 団の協賛でUtstein修道院で行われた13。この会議では、ILCORの正式な法制定が行 われた。

2002年

 ILCORはオーストラリアのメルボルンで会議を主催した。病院外お よび病院内での心停止例について報告するためのUtstein様式を最新化しより単純にすることと、 蘇生の登録方法についての推奨を作ることを目的とした会議である。ERCのJerry Nolanが、AHAのBill MontgomeryとともにILCORの共同議長に選出された。 ILCORが Cochraneの心臓グループ(the Cochrane Heart Group)の助言グループとなることで合意し、Ian Jacobs がオフィシャルコーディネーターとして任命された。 新生児特別委員会と、蘇生の疫学、教 育、倫理などの問題を扱う学際特別委員会が設けられた。

2003年

 ILCORは溺水14、心停止後の低体温療法15、小児への AED使用16 におけるデータの統一した報告法についての推奨勧告を発表した。また、インターアメリカ心臓財団 (IAHF)がCLARに代わって中南米の国々を代表する公式メンバー組織となった。蘇生科 学についての2005コンセンサスというすばらしい計画(intense planning)が、ブラジルのIRCOR会議で始 められた。

2004年

 蘇生研究のためのUtstein様式が、各国の蘇生評議会の代 表によって最初に作られたのは1990年のことだったが、その最新版がILCORの後援で 発表された6。ILCORの正式なロゴが可決採択され、ILCORを正式に非営利組織とし て法人化する計画が立てられた。 ダラスとブダペストで行われた会議では、引き続き 2005年の蘇生科学の最 新コンセンサスの準備が進められた。そしてこの過程においては、 専用の(dedicated)体系的エビデンス評価ツールが 使われた。

2005年

 治療勧告を含むECCとCPR科学における2005国際コンセンサス(CoSTR)会議がAHA 主催により行われた。この会議は、かつて行われた蘇生科学の再評価のうち最もすば らしいものであり、今までILCORで行われた中でもっとも国際協力を必要とする (involved the greatest degree of international cooperation)もの であった。

 1992年から2005年の間に開催されたILCORの22の公式会議と 各会議の関連の催し(表1)、そして関連する区切りとなる出版物 (the accompanying landmark co-publications)1-16から見て取れるよ うに、ひたむきな協力の精神と、緊 急治療を実践する上でのスタンダードを作りたいという真摯な望みが、更 なる多くの命を救うという結果をもたらすだろう。 ILCORの設立メンバーは、このプロセスに貢献したすべての人々に敬意 を表するものである。


表1 ILCORの国際会議

#関連した国際イベント開催日主催開催地
1Resuscitation‘92 CongressNovember 1992ERCBrighton, UK
2Sudden Cardiac Death CongressMarch 1993ERCVienna, Austria
3AHA Scientific SessionsNovember 1993AHADallas, USA
4CPR & ECC Update‘94 CongressMay 1994AHARichmond, USA
5Resuscitation ‘94 CongressOctober 1994ERCMainz, Germany
6In-Hospital Utstein ConsensusJune 1995ERCMosteroy, Norway
7ASA CongressOctober 1995AHAAtlanta, USA
8CPR & ECC Update‘96 CongressMay 1996HSFCMontreal, Canada
9AHA Scientific SessionsNovember 1996AHADallas, USA
10CPR ’97 CongressApril 1997ERCBrighton, UK
11CPR & ECC Update 98 CongressMay 1998AHAOrlando, USA
12AHA MeetingsMarch 1999AHADallas, USA
13Resuscitation 2000 CongressJune 2000ERCAntwerp, Belgium
14Education Utstein ConsensusJune 2001ERCMosteroy, Norway
15Spark of Life 2002 CongressApril 2002ARCMelbourne, Australia
16Resuscitation 2002 CongressOctober 2002ERCFlorence, Italy
17AHA MeetingsApril 2003AHADallas, USA
18IAHF MeetingsSeptember 2003IAHFRecife, Brazil
19AHA MeetingsMarch 2004AHADallas, USA
20Resuscitation 2004 CongressSeptember 2004ERCBudapest, Hungary
21CoSTR CongressJanuary 2005AHADallas, USA
22CoSTR Editorial BoardApril 2005AHAJersey City, USA

References

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