第7部:新生児の蘇生
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上記以外の新生児には、状態に応じて以下に列挙する処置を次々に実施する必要がある。
蘇生をさらに進めるかどうかは、3つのバイタルサイン(呼吸、心拍数、皮膚色)を同時に評価することで判断する。蘇生のステップはひとつひとつを確実にこなす必要がある。一つのステップに30秒程度を割り振って確実にこなし、その効果を再評価し、次のステップに進むかどうかを決める(図7.1)。
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前回のILCOR報告の発表以来1、新生児蘇生に関するいくつかの争点が課題としてあがっていた。文献を再検討することで、酸素投与の役割、分娩中の胎便処理、換気戦略、人工気道(気管チューブやLMA)の位置を確認する用具、薬剤投与、体温保持、蘇生後管理、そして蘇生の見送りと中止について、専門家による合意を得た。
科学的コンセンサス:
窒息動物の蘇生に100%酸素と21%酸素を用いて、血圧、脳潅流、細胞障害の生化学的指標を検討した研究では、相反する結果が得られている(LOE 6)2-6。ある研究では、在胎33週未満の早期産児に80%酸素を曝露したところ、21%酸素で状態を安定させた児よりも脳血流が少ないことがわかった(LOE 2)7。いくつかの動物実験では逆の結果が得られており、空気では100%酸素よりも血圧と脳潅流が減少していた(LOE 6)2。
ヒトで実施された4つの研究のメタ解析では、空気による蘇生は100%酸素による蘇生よりも死亡率が減少し、悪影響を認めなかった(LOE 1)8,9。ヒト新生児で室内空気と酸素による蘇生を検討した最も大規模な2つの研究は、盲検化されていなかった。それらの研究では、90秒間で反応がなければ空気で蘇生された児は酸素投与に変更された。しかし、同様に酸素投与に反応しなかった被験児が室内空気に変更されることはなかった10,11。これらの結果は方法論的な問題(患者選択や盲検の欠如、無作為化の方法や経過観察)が見過ごせないため、慎重に解析する必要がある。
出生体重1000g未満、先天性肺疾患またはチアノーゼ性心疾患、さらに出生時に生存していると認識できない新生児については、検討会は細かな点まで精査をしなかった10-13。継続して酸素飽和度を観察した研究によると、満期産児では酸素飽和度が95%以上に達するのに、動脈管より中枢側で出生後10分以上、動脈管より末梢側でほぼ1時間かかることが示された(LOE 5)14-16。
推奨される治療:
現時点では蘇生着手時に使用すべき酸素濃度を規定するために十分な証拠が揃っていない。出生時の最初のステップの処置によっても呼吸努力が認められないか微弱なときは、肺の膨張と換気を優先すべきである。適切な換気が確保されても心拍数が少ないときに、すでに投与されている酸素濃度を変更すべきか否かは、証拠がない。それよりも心臓マッサージと人工呼吸による心拍出量の確保を優先すべきである。中枢性チアノーゼが遷延する児には酸素投与を考慮すべきである。高酸素血症を避けるためにパルスオキシメータ値による酸素の調整を主張するむきもあるが、通常は出生後に酸素ヘモグロビン飽和度が緩徐に上昇して観察結果が修飾されるため、酸素飽和度の目標値を決定するための証拠が十分に得られていない。過剰な組織酸素は酸化障害を引き起こすかもしれないので避けるべきで、特に早期産児で注意が必要である。
分娩中の胎便処理
分娩中の吸引 W206
これまでの研究では、胎便による羊水混濁が認められた児の口咽頭および鼻咽頭の分娩中吸引の意義について、相反する結果が出ている(LOE 3)17、(LOE 4)18,19。最近の大規模多施設無作為化臨床試験では、分娩中の胎便吸引は胎便吸引症候群の発生頻度を減少させないことがわかった (LOE 1)20。
推奨される治療:
胎便による羊水混濁が認められた児の口咽頭および鼻咽頭を分娩中にルーチンに吸引することは、もはや推奨しない。
気管吸引 W206
無作為化臨床試験では、胎便による羊水混濁が認められるが出生時に活気がある新生児に、気管挿管して吸引することに利点がないことが示された(LOE 1)17。胎便による羊水混濁が認められて活気のない児に対する気管吸引の利点は、系統的に研究されていない(LOE 5)21-23。
推奨される治療:
器具が揃っていて熟練者が対応できるならば、胎便による羊水混濁が認められて活気のない児には、出生直後で刺激をする前に気管を吸引をすべきである。胎便による羊水混濁が認められるが出生時に活気がある新生児には、必ずしも気管吸引をしなくてもよい。
換気戦略
初期の呼吸 W203A,W203C
適切に実施すれば、ほとんどすべての無呼吸や徐脈の娩出直後の新生児の蘇生には、陽圧換気だけで十分である(LOE 5)24。初期の呼吸が適切かどうかの基本的な目安は、直ちに心拍数が改善することである(LOE 6)25-27。胸郭の動きの有無について言及されているが、十分な評価は下されていない(LOE 5)28。
満期産児では、自発呼吸であれ補助呼吸であれ、初期の肺膨張が肺の機能的残気量(FRC)を作り出す(LOE 5)28-33。有効なFRCを確立するために必要な理想的な吸気圧、吸気時間、吸気流速は、いまだ確定されていない。ヒト満期産児の初回換気に関連した生理学的変化を報告した一連の症例報告では、初回換気で用いた最大吸気圧には大きな幅がある(18〜60 cm H2O)。平均して30〜40 cm H2Oの初期最大吸気圧が、反応のない満期産児の換気に有効であった(LOE 5)31-35。ある小規模研究では、蘇生を必要とする満期産児の初回呼吸に30 cm H2Oの陽圧を5秒間保持することで、有効に肺容量を確立することができた(LOE 5)31。この方法の危険性と利点は精査されていない。毎分30〜60回の換気回数が通常用いられているが、様々な換気回数のうち、どれが相対的に有効であるかについては検討されたことがない(LOE 8)。
推奨される治療:
分娩室で生まれたばかりの新生児が無呼吸や徐脈である場合、有効な換気の確立が治療の第一目標である。徐脈の新生児では迅速な心拍数の改善が、初期換気が適切に実施されていることの基本的な目安である;心拍数が改善しないときは胸郭の動きを評価すべきである。心拍数増加や胸郭の動きを得るために必要な初期の最大吸気圧は様々であり、予測することはできないので、毎回の呼吸の度に調節すべきである。吸気圧をモニターしていれば、初期最大吸気圧は20 cm H2Oで十分と考えられるが、満期産児によっては30〜40 cm H2Oを超える陽圧が必要なこともある。吸気圧をモニターしていれば、心拍数増加が得られる最小の吸気を用いるべきである。初回およびその後の換気に最適な吸気時間を推奨するには証拠が不足している。
補助換気器具 W203B
ヒトやマネキンの研究によれば、有効な換気は送気膨張式および自己膨張式バッグや、送気圧が調整できるTピース機械式器具の、いずれでも有効な換気が実施できる(LOE 4)36,37、(LOE 5)38。自己膨張式バッグのポップオフバルブは流量に依存するが、蘇生中に用いる圧はポップオフバルブの設定圧を超えることがある(LOE 6)39。機械模型では、目標とする吸気圧と長めの吸気時間は、バッグよりもTピース器具の方が、より一定に加えることができるが(LOE 6)40、臨床との絡みは明確でない。医療従事者が意図する吸気圧を得るためには、自己膨張式バッグよりも送気膨張式バッグの方が多くのトレーニングを必要とする(LOE 6)41。
推奨される治療:
新生児のバッグマスク換気には、必要に応じて圧を調節できるように設計された自己膨張式バッグ、送気膨張式バッグ、Tピース機械式器具を用いることができる。
ラリンゲアルマスクエアウェイ(LMA) W215A,W215B
喉頭入口部にフィットするマスクは出生直後の満期産児の換気に有効である(LOE 2)42、(LOE 5)43。小さな早期産児へのこれらの器具の適用に関するデータは限られている(LOE 5)44,45。現時点では、新生児の蘇生でLMAとバッグマスク換気と直接比較した証拠はない。2つの一連の症例報告では、LMAは現行の蘇生指針に沿った時間の枠内では有効に換気ができることが示された(LOE 5)43,46。無作為割付臨床試験では、熟練者による帝王切開後の新生児蘇生において、LMAと気管挿管で有意差を認めなかった(LOE 2)42。複数の症例報告で、フェイスマスクによる換気がうまくいかず、気管挿管も不成功か無理な場合に、LMAで有効に換気できることが示唆されている。
推奨される治療:
新生児の蘇生で、バッグマスク換気がうまくいかず、気管挿管も不成功か無理な場合、LMAで有効に換気できることがある。新生児蘇生や、胎便による羊水混濁が認められた状況で、心臓マッサージが必要な場合や薬剤の気管投与のために、LMAを第一選択の気道確保法として推奨するには、十分な証拠が得られていない。
早期産児の換気戦略 W203A,W203C
早期産児の蘇生の初期換気戦略を評価した研究はほとんどない。動物実験で、早期産児の肺は過膨張によって容易に傷むことが示されている(LOE 6)49。他の動物実験では、出生直後に陽圧換気を行う場合、終末呼気陽圧が肺障害を予防して肺コンプライアンスとガス交換を改善することが示されている(LOE 6)50,51。無呼吸の早期産児の多くは20〜25 cm H2Oの初期吸気圧で換気可能なことが、新生児の一連の症例研究で示されている(LOE 5)52,53。
推奨される治療:
早期産児の出生直後の換気にあたって、蘇生担当者は胸郭の動きが過剰にならないようにすべきである。刻一刻と変化しつつある呼吸メカニクスの状況からは、最大吸気圧を測定しても実際の換気量と相関するわけではないが、吸気圧を測定すれば一定の換気量を保ちつつ不要に高い吸気圧を避けることができるかもしれない。陽圧換気が必要な場合、初期吸気圧は大部分の早期産児で20〜25 cm H2Oで十分である。それでも心拍数や胸郭の動きの改善が直ちに認められないときは、より高い吸気圧が必要かもしれない。
持続気道陽圧(CPAP)もしくは呼気終末陽圧(PEEP) W204A,W204B
自発呼吸の新生児は、そうでない児よりも早期により低い肺胞圧で機能的残気量が確立する(LOE 5)32。健常でない新生児では、持続気道陽圧(CPAP)が肺機能の安定化と改善に役立つ(LOE 4)54。しかし過剰なCPAPは肺を過膨張させて呼吸仕事量を増大させ、心拍出量と組織潅流を減少させる(LOE 6)55,56。早期産児や満期産児の蘇生で、CPAPと陽圧換気(フェイスマスクまたは気管チューブを介した用手換気)を比較した統計学的有意差を示しうる前向き無作為対照臨床研究はない。過去症例を対照とした比較研究では、極めて未熟な新生児に対して分娩室でCPAPを行うと、気管挿管の必要性や人工呼吸日数、出生後ステロイド使用が減少した(LOE 4)53。小規模で統計学的検出力が十分でない臨床研究では、分娩室におけるCPAPまたはPEEPの実施の有無は早期の転帰に有意差を認めなかった(LOE 2)57。
推奨される治療:
分娩室における蘇生中もしくは蘇生後のルーチンなCPAP実施の是非についての十分なデータはない。
呼気CO2検出器による気管チューブの位置確認 W212A,W212B
気管挿管後、適切に換気をすれば直ちに心拍数が上昇する(LOE 5)35。呼気中CO2の検出は新生児の気管挿管で信頼できる指標である。試験陽性(呼気中CO2の検出)であれば気管チューブが正しく気管に留置されたことが確認される一方で、試験陰性は食道挿管が強く疑われる(LOE 5)58,60,61。肺血流が少なかったり流れていなければ擬陰性となる可能性があるが、心停止でなければ、ほぼ全例で気管挿管が正しく確認できる(LOE 7)62。心拍出量が低下している重症新生児では擬陰性の結果によって、誤って抜管してしまう可能性がある。
呼気CO2検出器は臨床的評価よりも早期に食道挿管がわかる(LOE 5)58,61。気管チューブが正しく気管に挿管されたことを臨床的に確認する方法(呼気で気管チューブに結露を生じることや胸郭の動きなど)は、新生児では系統的に評価されていない。
推奨される治療:
挿管後は気管チューブの位置を確認しなくてはならず、特に心拍数の改善が認められない場合は不可欠である。呼気CO2の検出は気管チューブの位置確認に有用である。心停止患児の挿管で呼気CO2が検出できないときは、喉頭展開して気管チューブの位置を確認すべきである。
エピネフリン
エピネフリン(アドレナリン)は蘇生中に広範に用いられるが、ヒト新生児の心停止のどの時点であれ、気管投与と静脈投与のいずれも、無作為化臨床試験による評価はされていない。小児での研究(LOE 7)63や動物の新生児による研究(LOE 6)64,65では、高用量エピネフリン(100 μg/kg)の静脈投与は何の利点もなく、生存率の低下傾向と神経学的予後の悪化傾向が示された。動物とヒト成人の研究では、エピネフリンを気管投与する場合、現在推奨されているよりもある程度多い投与量でなければ効果が得られないことが示された(LOE 6)66-68。
動物の新生児に現在推奨されているエピネフリンの気管投与量(10 μg/kg)を用いた研究では効果が認められなかった(LOE 6)69。蘇生を必要とした早期産児9例のコホート研究では、気管に投与されたエピネフリンが吸収されることが示されたが、その研究では現在の推奨量の7〜25倍の量が用いられた(LOE 5)70。
推奨される治療:
ヒトのデータは無いが、適切な換気と心臓マッサージでも心拍数が60bpmより増加しない場合のエピネフリン投与を継続することは合理的である。静脈が確保され次第、エピネフリンは静脈投与する。静脈投与の推奨量は0.01〜0.03mg/kgである。気管投与は高用量(最高0.1mg/kgまで)を用いる。このような高用量の気管投与の安全性は検討されていない。静脈投与で高用量エピネフリンを用いてはならない。
容量負荷
新生児の無作為化臨床研究が3つあり、低血圧の治療で等張晶質液はアルブミンと同等の効果があった(LOE 7)71-73。蘇生中に晶質液が有利であることを調べた研究はない。
推奨される治療:
コストと理論上の危険性を考慮すれば、新生児蘇生の容量負荷にはアルブミンよりも等張晶質液を用いるべきである。
その他の薬剤
母体に投与された麻薬による重篤な呼吸抑制を呈する新生児に対して、ナロキソン投与を検討した研究はない。麻薬を投与された母親から生まれた活気のある新生児では、ナロキソンによって短時間ではあるが肺胞換気が改善し、ApgarスコアやpH、PaCO2、呼吸数への影響は認められなかった(LOE 7)74。ナロキソンの静脈投与は筋注と比較して高い血漿濃度が得られるが、半減期は短い(LOE 5)75。新生児では気管投与や皮下投与は検討されておらず、現行の推奨投与量である0.1mg/kgの妥当性を検討した報告もない。
ナロキソンは内因性麻薬物質の重要な機能を妨害して大脳白質の長期的な神経組織学的障害を悪化させる可能性が窒息動物で示されている(LOE 6)76,77。特に多量のナロキソンが投与された症例で、不整脈、高血圧、非心原性肺水腫が思春期と成人で報告されている(LOE 7)78。麻薬中毒の母親から生まれた新生児へのナロキソン投与で痙攣を合併した79。
推奨される治療:
分娩室で呼吸抑制のある新生児の初期蘇生にナロキソンを用いることは推奨しない。ナロキソン投与前に、換気により心拍と皮膚色を回復させる必要がある。静注か筋注での投与が望ましい。気管投与は推奨しない。現行投与量の0.1mg/kgの是非については、データが存在しない。
娩出直後の体温保持に色々な方法(身体を乾かしてぐるぐる巻きにしたり、暖かいパッドを当てたり、新生児を母親に素肌で抱かせて母子一緒に包み込む、など)が採用されているが、未熟児をラップフィルムでくるむ方法との比較はされていない(LOE 8)86,87。
推奨される治療:
超低出生体重の未熟児には低体温のリスクがある。体温保持のために、従来の標準的な方法に加えて、放射加温器を備えた処置台でビニール袋やラップフィルムにくるむ方法を考慮すべきである。初期蘇生のすべてのステップ、すなわち気管挿管、心マッサージ、ライン確保などは、上記のような温度調節管理が前提である。
母体が発熱(体温38℃以上)していた場合、生まれた児の死亡や呼吸抑制、新生児痙攣、脳性麻痺のリスクが増大する(LOE 4)88,89。成人では脳卒中後24時間で、発熱が死亡を含む神経学的合併症と関連している(LOE 7)90,91。成体の動物実験では虚血中や虚血後の高体温が脳損傷の進行に関連していることが示されている(LOE 6)92,93。
推奨される治療:
蘇生が必要な新生児では、正常体温の維持と医原性高体温の予防をはかる。
治療的低体温 W211A、W211B
実験的新生児モデルでは、脳虚血後に体温を2〜3℃下げると(軽度低体温)、脳代謝・生化学的異常や脳障害が軽減し、機能を改善する(LOE 6)94-96。成人では、12〜24時間の人為的低体温(32〜34℃)が心室性不整脈による心停止後の神経学的転帰を改善するが、外傷や脳卒中による心停止後の神経学的転帰は改善しない(LOE 7)97。仮死が疑われる症例(出生時の蘇生の必要性、代謝性アシドーシス、早期脳障害で判断)に関する多施設臨床試験では、直腸温を34〜35℃に維持する選択的頭部冷却が、生後18ヶ月の時点で重度障害を伴う全体的な生存数が有意でないものの減少傾向を示し、中等度脳障害をきたしたサブグループでは有意な利点を認めた(LOE 2)98。
重度の脳波抑制と痙攣をきたした新生児には軽度低体温の利点がない(LOE 2)98。仮死新生児に早期に直腸温を33℃に維持する人為的全身低体温を導入した小規模割付予備研究では、12ヵ月後の死亡数と障害発生数が減少した(LOE 2)99。
軽度低体温は除脈や血圧上昇を伴い、通常は治療を必要としないが、急激に復温すると低血圧を引き起こすことがある(LOE 5)100。高度低体温(中核温<33℃)は、不整脈や出血、塞栓、敗血症の原因となりうるが、軽度低体温で治療された新生児ではそのような合併症は報告されていない(LOE 2)98,99,101,102。
推奨される治療:
仮死が疑われる新生児の蘇生後に、全身低体温や選択的脳低温の常用を推奨するにはデータが不十分である。冷却による治療の有益性を確認し、治療効果のある新生児対象を見極め、最も効果的な冷却の方法と時期を決定するためには、さらに臨床研究を進める必要がある。
一般的な支持療法
出生時仮死と蘇生の動物モデルでは、低血糖は神経学的転帰の悪化を伴った(LOE6 )103。動物実験で、無酸素もしくは低酸素と虚血状態の時点の低血糖は、対照群と比較して脳梗塞領域の拡大や生存率低下をもたらした(LOE 6)104,105。ある臨床研究では蘇生直後の低血糖(血糖値40mg/dl未満)と新生児仮死の神経学的転帰不良の関連を認めた(LOE 4)106。
低酸素虚血の新生児動物モデルを高血糖にすると、脳損傷の広がりは一定しなかった(LOE 6)107,108。臨床でこの話題を検討した新生児の研究はない。
推奨される治療:
現時点で得られるエビデンスに基く限り、仮死と蘇生に続発する脳損傷を最小限とする血糖値の至適範囲を決めることはできない。蘇生を要する新生児では、血糖値をモニターして正常範囲を維持するように治療すべきである。
臍帯結紮のタイミング W216A、W216B
未熟児で臍帯結紮を遅らせる(娩出30〜120秒後)と、平均血圧とヘマトクリットの上昇と脳室内出血頻度の低下を伴ったが、研究対象となったほとんどの児は蘇生を必要としていなかった(LOE 1)109;(LOE 2)110。蘇生を要しない満期産新生児では、臍帯結紮を遅らせても、生後4〜6時間の状態安定化に臨床的に意味のある改善は認めなかった(LOE 3)111,112。
推奨される治療:
蘇生を必要とする新生児に推奨すべき臍帯結紮のタイミングは明らかでない。
蘇生努力の見送りと中止 W209A、W209B
新生児の死亡率と疾病罹患率は地域や医療資源の供給力によって一定でない(LOE 5)113。社会科学的研究では、重度に障害された新生児の蘇生開始と生命維持治療の継続に、児の両親がもっと関わりを持ちたいと考えていることが示されている。そのような(見込みが厳しい:訳者注)新生児に対する積極的治療の利点と欠点についての意見は、治療者によって大きく異なる(LOE 5)114,115。
高い死亡率と転帰不良につながる状況の見極めに役立つ、データがいくつか存在する(LOE 5)80,116。極端な未熟性や極度に高い死亡率や早期死亡が予測される奇形を伴う児などが、その例として挙げられる。
継続的かつ適切な蘇生努力にもかかわらず、出生から少なくとも10分以上生命兆候が認められない新生児のデータでは、高率に死亡するか重度の神経発達障害をきたした(LOE 5)117,118。
推奨される治療:
産科および新生児科チームと児の両親が、一貫性と協調性をもって個々の症例に取り組むことが大切な目標である。蘇生を開始しないことと、蘇生中や蘇生後の生命維持治療の中止は、倫理的に同義であり、機能的生存がほとんど見込めない場合に臨床家は治療中止を躊躇すべきでない。以下の指針は、その時点の地域の成績と社会通念に基づいて解釈する必要がある。
継続的かつ適切な蘇生努力を10分以上行っても生命兆候が認められないときは、蘇生の中止が妥当かもしれない。
脚注
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■初期蘇生(Initial Resuscitation)
■薬剤投与(Medications)
■支持療法(Supportive Therapy)
■蘇生後の管理(Postresuscitation Management)
この記事は「Resuscitation」誌との共同出版である。