第6部 小児の一次・二次救命処置
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いくつかのトピックについては、エビデンスに基づく作業表を準備して検討した が、エビデンスが十分ではなかったり(例えば、心停止に対する線溶薬 W13、小児の気管チューブの確実な固定W2)、小児へのイン ピーダンス識閾装置の使用W2、蘇生処置が長引いた時の重炭酸ソーダ W34)、新しいエビデンスが見つからなかった(例えば、毛細血管再充満 [capillary refill]の評価W10、ナロキソン投与前の換気 W18、外傷に対する待機的容量負荷W17、ショック時の高浸透 圧性生理的食塩水の使用W16)ため、今回の報告には含めなかった。
小児蘇生に関する勧告として、前回2000年のILCORレビュー1,2からの 重要な変更点のまとめは以下の通りである。これらの勧告の科学的根拠を本報告にま とめた。
医療従事者がCPRを2人で行う場合: 15:2
ILCOR小児作業部会は、「新生児」、「乳児」、「小児」と「成人」の定義を再評価した。これらの 定義に幾分あいまいな点はあるが、治療として推奨する内容によっては、患者の体格 や心停止の原因として最も考えられる病態によって異なるために、明確な定義は重要 である [訳者(IKG)註:ILCOR97のStatementsでは「年齢だけでの区別では不十 分」であり、「どの年齢で区切ったところで、確かな根拠がある訳ではない」として いた。ここではそれを撤回したのではなかろうか?] 。一般市民の救助者には、蘇生 対象を問わず統一した胸骨圧迫と換気の割合を推奨することで、小児と成人を区別す る必要はなくなった。新生児と乳児、そして乳児と小児の間では、治療の推奨内容に 若干の相違が残っているが、相違点のほとんどは蘇生の訓練と実地に即したものであ る。要点を以下に示す。
小児蘇生で討論対象となったトピック:
前回の勧告で、脈の触知確認が一般市民に求める評価項目から除外された。医療従 事者が脈の触知確認に時間をかけ過ぎたり、脈の有無を正しく判定できないかもしれ ないとのエビデンスがある。これは胸骨圧迫の中断につながり、蘇生の質に影響する かもしれない。
乳児への人工呼吸の手技と、乳児への胸郭包込み両母指圧迫法と二本指胸骨圧迫法 の手技の比較に関して、専門家がデータを再評価した。
2005年のコンセンサス会議で討論された最も革新的なトピックの1つが胸骨圧迫と 人工呼吸の割合であった。勧告の基礎となるべき科学的根拠は希薄で、合意への道の りは険しかった。割合を5:1よりも高くすべきとのエビデンスが提示されたが、最適 な割合はわからなかった。圧迫と換気の割合を15:2より高くすることを提示した唯一 のデータは数学モデルであった。専門家たちは、一般市民救助者(特に救助者単独での蘇生) のトレーニングを単純化することによる教育上の利点を認め、乳児、小児、成人を通じて単一 の割合を採用し、単純化された形で蘇生法を学び、記憶し、実践する一般市民を増やせる のではないかと期待した。専門家たちはそのような基本認識のもとに、単一の圧迫と換気の割合を 30:2にすることで合意した。医療従事者は一般に蘇生の経験があり、頻 回に蘇生を実施すると考えられる。このように経験を積んだ人たちは、2人で実施す る蘇生法を学ぶだろうし、彼らには救助者2名での圧迫と換気の割合とし て15:2が推奨される。
一般市民の一部は口対口人工呼吸を躊躇する。乳児や小児の心停止の治療として は、胸骨圧迫のみの実施は何もしないよりもましだが、換気と胸骨圧迫の組み合わせ には及ばない。
従来、小児の蘇生は片手による胸骨圧迫が推奨されていた。この推奨の根拠となる エビデンスの再評価が行われた。教育上の観点から、小児と成人の胸骨圧迫を同一手 技とすることで、トレーニングが簡単になるであろうと意見が一致した。
緊急医療サービスへの通報とAEDの取り寄せ W4
小児の心停止のほとんどは、呼吸停止(と、それに引き続く低酸素血症)(*訳者註)が原因である(LOE 4)3-6。小児で 心室細動でない心停止を観察した研究では、バイスタンダーによる蘇生と神経学的障害のな い転帰の関連を認めた(LOE 4)6-8。呼吸停止による心停止では、圧迫と換 気の組み合わせによる蘇生の方が、胸骨圧迫だけあるいは換気だけの蘇生より優れてい ることが動物実験で示されている(LOE 6)9。
推奨される治療法:
緊急医療サービス(EMS)に通報してAEDを取り寄せる前に、直ちに蘇生を一定時間 行うこと(「急いで通報」)が、小児の心停止の大部分で適応となるが、それは呼吸停止 が原因であったり時間が経っていることが推測されるからである。目撃されてた突然 の虚脱(たとえば、運動競技中)では、原因が心室細動である可能性が高く、救助者 が1人ならば、専門的救助を要請するために通報し、蘇生開始前にAEDを取り寄せ(入 手可能であれば)、適応があればAEDを使用する。除細動を実施するまで救助者は胸骨圧迫 をできるだけ中断させないようにしてCPRを行うべきである。
まとめると、目撃されていないか突然でない小児の虚脱におけるの優先順位は次の通り:
目撃された突然の小児の虚脱における優先順位は次の通り:
脈の確認 W5A,W5B
10編の研究(LOE 2)20,21;(LOE 4)22-26;(LOE 5) 27;(LOE 6)28,29で、一般市民23,25,30でも医 療従事者20,21,24,26-29でも、多くの場合で10秒以内に正確に脈の有無 を判定できないことが示されている。乳児対象の2編の研究(LOE 5) 31,32では、胸部聴診で短時間に心臓が動いていることを知り得たと報告 されているが、実施者はこどもが健康なことをあらかじめ知っていたので、先入観に 影響された可能性がある。
推奨される治療法:
一般市民では、乳児や小児が刺激に反応せず、身動きや息がなければ、胸骨圧迫を 開始すべきである。医療従事者では脈拍を確認してもよいが、10秒以内に脈拍を触知 できない場合や脈があるかどうか確信が持てない場合は、蘇生を開始すべきである。
乳児の換気 W7A,W7B
乳児への口対鼻人工呼吸を評価した報告が、LOE 5の研究で1編33、 LOE 7の研究で10編34-43ある。LOE 5の研究33は、口対鼻人 工呼吸を実施した乳児3例の事例報告である。LOE 7の報告では、死後解剖 34や鼻呼吸の生理35-37、口対鼻人工呼吸にまつわる呼吸の 論点38,39、そして成人の口と乳児の顔面の測定値の比較 40-43などが触れられている。これらの測定値には大きなばらつきがある が、それは定義が正確でないか一貫性を欠いているためであろう。
推奨される治療法:
乳児への口対口鼻人工呼吸の勧告を変更する必然性を示すデータはない。ただし、 救助者が自分の口で乳児の口と鼻を密着して覆うことが難しいときは、口対口か口対 鼻のどちらかの方法で人工呼吸を試みてもよい(LEO 5)33。
胸郭包込み両母指圧迫法と二本指胸骨圧迫法の優劣
人形を用いた2編の研究(LEO 6)44,45と2編の動物実験(LOE 6) 46,47で、胸郭を両手で包み込んで絞るようにして二本の拇指で胸部を圧 迫する方法は、いわゆる二本指胸骨圧迫よりも高い冠灌流圧をもたらすと共に、胸部 圧迫の程度と力加減が一定になることが示されている。
胸骨圧迫を受けた乳児の血行動態の症例報告(LOE 5)48,49では、胸 郭包み込み両母指圧迫が二本指法よりも、収縮期・拡張期ともに高い動脈圧が得らるこ とが示された。
推奨される治療法:
胸郭を絞り込む胸郭包込み両母指圧迫法は、2名の救助者による乳児CPRに適した 方法である。二本指法は胸骨圧迫と換気の切り替えが容易で胸骨圧迫の中断を最小限 にできるので、乳児のCPRを単独で行う場合に好ましいやり方である。救助者が2名 の場合も、二本指法で胸骨圧迫をしても差し支えない。
胸骨圧迫は片手と両手のどちらが良いか
小児の胸骨圧迫が片手と両手のどちらが良いかを、転帰で比較した研究はない。ある 研究(LOE 6)50では、小児のマネキンで胸骨下半分を胸郭前後径の約 1/3の深さまで圧迫したときに、両手を使った方がより高い圧が得られることが報告 された。両手を用いた胸骨圧迫は容易であったとのことである。
推奨される治療法:
胸骨の下半分を胸郭前後径の約1/3の深さまで圧迫する限り、小児の胸骨圧迫は片 手でも両手でも差し支えない。教育を簡素化するするためには、成人・小児を問わ ず、同じ方法(すなわち、両手)で教えても差し支えない。
胸骨圧迫と換気の割合 W3A,W3B,W3C
小児蘇生における最適な胸骨圧迫と換気の割合を確定するには十分なデータがない。マ ネキンを用いた研究(LOE 6)51-54で、15:2と5:1のどちらの圧迫と換気 の割合が良いかが検討されてきた。救助者が単独の場合、5:1の比率では、望ましい 1分間あたりの圧迫回数をこなすことができない。数学モデル(LOE 7) 55は、乳児と小児に対する圧迫と換気の割合を5:1よりも多くすることを 支持している。
動物の研究2編(LOE 6)56,57で、蘇生成功の鍵を握る冠灌流圧が、 胸骨圧迫の中断で低下することが示されている。さらに、いったん圧迫を中断する と、中断前の冠灌流圧に戻るまでに数回の胸骨圧迫が必要となる。胸骨圧迫を頻回に 中断すると(例えば、5:1の圧迫と換気の割合)、冠灌流圧が低いままの時間が遷延 する。胸骨圧迫の中断が長引くことは、マネキンを用いた研究(LOE 6) 58,59や、病院内外の成人CPRの研究(LOE 7)60,61でも報告 されている。このような中断は心拍再開の可能性を減少させる(LOE 7) 62-64。
5編の動物実験(LOE 6)9,56,57,65,66と1編のレビュー(LOE 7) 67で、心室細動や無脈性心室頻拍(VT)による心停止傷病者では、呼吸停止 による心停止傷病者と比べて換気の重要性がやや小さいことが示唆されている。 呼吸停止による心停止でさえ、胸骨圧迫で得られる低心拍出状態(必然的に肺血流 も低下している)では、わずかな換気で換気と潅流の割合は適切に維持される。
推奨される治療法:
教育を簡素化して内容を記憶しやすくするために、救助者が単独で行うときの圧迫 と換気の割合は、乳児(新生児は第7部「新生児の蘇生」を参照のこと)、小児、成 人すべてに共通して、30:2を推奨する。医療従事者が2人で蘇生を行うときは、 15:2の圧迫と換気の割合を推奨する。高度な人工気道(例えば、気管チューブ、食道 ・気管コンビチューブ[コンビチューブ]、または、ラリンゲアルマスクエアウエイ [LMA])が確保されたときは、換気のために胸骨圧迫を中断する必要はない。
何らかの蘇生処置が実施される場合と、何もしない場合の比較 W8
バイスタンダーによる蘇生が実施された小児心停止の救命例が多数報告されている(LOE 5)4,5,8,68-70。これらの報告の蘇生法には、人工呼吸の み、胸骨圧迫のみ、あるいは圧迫と換気の両方の場合とがある。
成人心室細動における1編の前向き研究と3編の後ろ向き研究(LOE 7) 71-74、そして動物を用いた多数の心室細動心停止の研究(LOE 6) 56,57,66,75-79では、胸骨圧迫のみの蘇生でも胸骨圧迫に換気を加えた 蘇生でも同等の長期生存が得られ、どちらの方法も蘇生を行わなかった群より転帰が良 好であった。乳児や小児における心停止の機序としてより一般的と考えられる、呼吸停止によ る心停止を研究した動物実験(LOE 6)9では、胸骨圧迫と換気の組み合 わせで最もよい結果が得られた。もっとも、換気のみか胸骨圧迫のみの蘇生でも、 蘇生を全くしないよりは良かった。
推奨される治療法:
バイスタンダーによる蘇生は心停止傷病者を救命する上で重要である。熟練した救助者であれ ば、換気と胸骨圧迫の両方を実施するように奨励すべきである。ただし、人工呼吸に 躊躇するときは、胸骨圧迫のみを絶え間なく実施するように奨励すべきであ る。
除細動に関しては、最適な通電波形、通電用量、除細動戦略(例えば、複数回通電 する場合に同一通電用量を繰り返すのか通電用量を増やしていくのか、通電手順を単 回で区切るのか3回連続とするのか)を決定するのに十分なエビデンスがない。小児 の除細動手順の新しい勧告内容は、二相性除細動器を用いた成人と動物の研究からの 推定データや、心室細動の除細動で二相性波形が初回通電で高い成功率を示すデー タ、さらに胸骨圧迫の中断が冠灌流圧を低下させるとの知見に基づいている。つま り、単回通電戦略が2000年版ECC指針2で勧告した3回連続通電より好ま しい可能性がある。詳細は、第3部「除細動」を参照のこと。
AEDアルゴリズムについては、すべてではないものの、その多くは小児で除細動適 応となる不整脈を認識するのに十分な感度と検出力があることが示されている。標準 的なAED(成人用除細動パッドとケーブルで構成される「成人用」AED)は、概ね8歳 以上で体重が25kgを超える小児に使用できる。既に多くのメーカーが通電用量出力を 減らす方法を採用して、もっと小さな小児にも同じAEDを使えるようにしている (例えば、除細動パッドとケーブル構成を利用したり、キーやスイッチ付きのAEDで 少ない通電用量が選べる)。
上室性頻拍の管理
上室性頻拍(SVT)に対する迷走神経刺激手技 W36
1編の前向き研究(LOE 3)80と9編の観察研究(LOE 4) 81;(LOE 5)82,83;(LOE 7)84-89は、迷走神 経刺激手技は小児の上室性頻拍(SVT)を停止させるのに、ある程度効果があること を示している。頸動脈洞マッサージや氷で顔面を冷やす潜水反射誘発には合併症が報 告されている(LOE 5)90,91が、バルサルバ操作による合併症は皆無に 等しい。
推奨される治療:
バルサルバ操作と顔面氷冷法は、血行動態的が安定している乳児や小児の上室性頻 拍(SVT)の治療として行っても差し支えない。正しく行えば、これらの手技は素早 く安全に始めることができ、効果がなくてもその後の治療に影響しない。
血行動態的に安定した上室性頻拍(SVT)に対するアミオダロン W38
1編の前向き研究(LOE 3)92と10編の観察研究(LOE 5) 93-102は、アミオダロンが小児の上室性頻拍(SVT)の治療に有効である ことを示している。このエビデンスで限定されているのは、小児を対象とするほとん どの研究が、術後の接合部異所性頻拍の治療を取り扱っていることである。
推奨される治療:
血行動態的に安定していて迷走神経刺激手技やアデノシンに不応性の上室性頻拍 (SVT)には、アミオダロンを考慮してもよい。まれではあるが顕著な急性副作用と して、徐脈、低血圧、多形性心室頻拍が挙げられる(LOE 5)103-105。
血行動態的に安定した上室性頻拍(SVT)に対するプロカインアミド W37
小児でのプロカインアミドの使用経験は限られている。LOE 5の研究12編 106-117とLOE 6の観察研究4編118-121は、他の薬剤に抵抗 性の上室性頻拍(SVT)をプロカインアミドで停止できることを示している。これら の報告のほとんどは、対象に成人と小児が入り交じっている。プロカインアミド投与 に引き続いておこる低血圧は、陰性変力作用というよりも、その血管拡張作用に起因 している(LOE 5)122,123;(LOE 6)124。
推奨される治療:
血行動態的に安定していて迷走神経刺激手技やアデノシンに不応性の上室性頻拍 (SVT)には、プロカインアミドを考慮してもよい。
安定した幅広QRS頻拍の管理
アミオダロン W39A、W39B、W40
1編の症例集積研究(LOE 5)125で、小児の幅広QRS頻拍は心室よりも 上位の上室起源の可能性が高いことが示唆されている。前向き研究2編(LOE 3) 92,126と症例集積研究13編(LOE 5)93-102,127-129で、ア ミオダロンが様々な小児の頻拍性不整脈に有効であることが示されている。いずれの 報告も、安定している起源不明の幅広QRS頻拍という状況下でのアミオダロンの役割 を特段に評価しているわけではない。
推奨される治療:
安定している小児の幅広QRS頻拍は、上室性頻拍(SVT)として治療しても差し支え ない。心室頻拍の診断が確定すれば、アミオダロンを考慮すべきである。
安定した心室頻拍に対するプロカインアミド W35
主に成人が対象だが小児症例も含む、20編のLOE 5106,115,123,130-146と2編のLOE 6118,124の観察研究で は、プロカインアミドが安定した心室頻拍の治療に有効であることが示されている。
推奨される治療:
血行動態的に安定した心室頻拍の治療には、プロカインアミドを考慮してもよい。
不安定な心室頻拍の管理
小規模な小児の症例集積研究(LOE 3)100;(LOE 5) 93,95,97,99,147-149や、動物実験(LOE 6)150,151と成人 の研究(LOE 7)152-165から推定すると、アミオダロンは小児の血行動 態的に不安定な心室頻拍に対して安全かつ有効である。
推奨される治療:
同期カルディオバージョンが不安定な心室頻拍に第一選択の治療であることに変わ りはない。血行動態的に不安定な心室頻拍の治療にアミオダロンを考慮してもよい。
小児の除細動
手動除細動と自動体外式除細動(AED) W41A, W41B
小児の除細動で安全かつ有効な理想的な通電用量は不明である。成人のデータ (LOE 1)166,167;(LOE 2)168-170と幼少動物の研究 (LOE 6)171-173からの推定では、二相性通電は単相性通電と少なくと も同程度に有効で、通電後の心筋障害がより少ないことが示唆される。ある研究 (LOE 5)174と、さらに別の研究(LOE 6)171では、単相性 でも二相性でも初回通電用量の2J/kgで、通常は小児の心室細動を停止させることが 示されている。小児の症例集積研究2編(LOE 5)171,175,176で、 4J/kgを超える通電用量(最高9J/kgまで)が12歳未満の小児で有効な除細動ができ、 副作用は無視できる程度であったことが報告されている。
5編の動物実験(LOE 6)172,173,177-179では、若年動物の心臓では 成体のそれよりも小さい(体重当たりの)通電用量で心筋障害を来した。 3編の動物実験(LOE 6)173,179,180と1編の小規模な小児 の症例集積研究(LOE 5)176では、小児の除細動パッドとケーブルのシ ステムを介した二相性50Jの通電が、心室細動を停止して生存に至らせた。幼少豚 (13〜26kg)を用いた研究(LOE 6)179は、AEDによる小児の二相性通電 用量(50/75/86 J)が心室細動を停止させ、成人の二相性通電用量(200/300/360 J)よりも少ない心筋障害で良好な転帰が得られたことを示した。
推奨される治療:
小児の心室細動と無脈性心室頻拍の治療の第一選択は迅速な除細動であるが、最適 な通電用量に関しては不明である。手動除細動では、2J/kg(二相性もしくは単相性波形)を 初回の通電用量として推奨する。この用量で心室細動を停止させられない場合は、その後 の通電用量を4J/kgとすべきである。
自動除細動については、1歳から8歳、体重が約25kg(55ポンド)まで、身長は 127cm(50インチ)までの小児には、減衰させた小児初回用量を推奨する。1歳未満の 乳児に対するAEDの使用を推奨または否定するのに十分な情報はない。通電用量を変 更できるな手動除細動器か、小児の除細動適応の不整脈を検出可能で通電用量を減衰で きるAEDが望ましい;そのような除細動器が使えない場合は、標準的な電極パッドを 装備した標準的なAEDを使用しても差し支えない。25 kg(約8歳)以上の小児や青 年、成人の傷病者には、標準的AED(通電用量を減衰させないもの)を使用すべきで ある。
除細動抵抗性の心室細動/無脈性心室頻拍の管理
成人の研究3編(LOE 1; 小児に適用する場合はLOE 7)154,159,181か ら推定されるエビデンスによれば、アミオダロンはプラセボやリドカインと比べる と、除細動抵抗性の心室細動に対して入院生存率(入院前死亡の回避)を改善する が、退院生存率(退院できるまでに回復する割合)は変わらない。小児の研究(LOE 3)100では、致死的心室性不整脈に対してアミオダロンが有効であるこ とが示された。
推奨される治療:
除細動抵抗性あるいは反復性の心室頻拍/心室細動に対する治療法の一つとして、アミオダロ ンの静脈投与を考慮してもよい。
気管チューブの挿入位置のミス、留置位置のずれ、閉塞の危険性はよく知られてお り、エビデンスに基づく再検討で、搬送中を通して呼気CO2を監視することで、気管 チューブが適切に留置されていて閉塞していないことを確認すべき、との勧告を出す に至った。再検討により乳児でもカフ付き気管チューブを安全に使用できることが判 明した。
心停止からの自己心拍再開に続いて、有害な酸素副産物(活性酸素、フリーラジカ ル)が産生され、細胞膜、蛋白、DNAの損傷を引き起こす(再灌流障害)可能性があ る。新生児を除く小児で、蘇生中や蘇生直後に異なる吸入酸素濃度を比較した臨 床研究はなく、酸素療法が「十分」なのか「過剰」なのかを区別することは困難であ る。
バッグマスク(バッグ・バルブ・マスク:BVM)換気 W6
ある緊急医療サービス体制(EMS)の短時間搬送における、院外の小児を対象とした前向き無作為化 比較研究(LOE 1)182によれば、心停止と外傷を含む気道管理を要する 小児では、バッグマスク換気によって気管挿管と同等の生存退院率と神経学的転帰が 得られることが示された。 小児心停止に関する1編の研究(LOE 4)183と小児の外傷に関する4 編の研究(LOE 3)184,185;(LOE 4)186,187では、気管挿 管のバッグマスク換気に対する優位性を見い出すことができなかった。
推奨される治療:
院外での短時間搬送において、補助換気を必要とする小児に対してはバッグマ スク換気が第一選択である。搬送時間が長い場合、バッグマスク換気 に対する気管挿管の相対的な利点と潜在的な危険性の判断は難しい。その判断は、担 当する医療従事者のトレーニングと経験の水準や、挿管時と搬送中の呼気二酸化炭素 モニタリングが可能かどうかによって左右される。
高度人工気道
気管チューブ:カフ付きとカフ無しの比較 W11A、W11B
1編の無作為化比較試験(LOE 2)188と3編の前向きコホート研究 (LOE 3)189-191、1編の(後ろ向き)コホート研究(LOE 4) 192では、8才未満の小児の手術や集中治療にカフ付き気管チューブを使 用しても、カフ無し気管チューブと比べて合併症の危険性は増加しないことが示され た。
1編の無作為化比較試験(LOE 2)188と1編の小規模な前向き比較試 験(LOE 3)193によるエビデンスによれば、小児麻酔と集中治療のそれ ぞれの場において、カフ付き気管チューブがカフ無しチューブよりも幾分有利なこと が示された。
推奨される治療:
カフ付き気管チューブは、正しいチューブサイズとカフ圧を用いてチューブ位置を 確認すれば、乳児(生後間もない新生児を除く)や小児でもカフ無しチューブと同程 度に安全である。特定の状況下(例えば、肺コンプライアンス低下、気道抵抗増大、 多量の声門からのエア漏れなど)では、カフ付き気管チュー ブの方が望ましいであ ろう。
ラリンゲアルマスクエアウエイ(LMA) W26A、W26B
心停止中の小児へのラリンゲアルマスク使用を検討した研究はない。小児の麻酔から推定されるエ ビデンスは、小さな小児では成人にこれを使用する場合と比較して、ラリンゲアルマスクによる合併症 発生率が高いことを示している。合併症発生率は施行者が経験を積むにつれて減少す る(LOE 7)194,195。症例報告で、気道管理が困難な場合(訳者註:マ スク換気や気管挿管が困難な場合)にラリンゲアルマスクが有用な場合があることが報告されてい る。
推奨される治療:
心停止の小児へのラリンゲアルマスクの常用を支持するにも否定するにも十分なデータがない。小 児の心停止で気管挿管の実施が困難なときに、熟練者がラリンゲアルマスクを気管チューブに代わる 気道補助用具として使用することは許容される。
チューブ位置の確認
気管チューブの挿入ミス、位置のずれ、閉塞は、高い死亡の危険性に関連してい る。単独で常に正確かつ信頼できる気管チューブ確認方法は存在しない。ある研究 (LOE 3)196では、気管チューブ位置の臨床評価(胸郭挙上やチューブ 内の曇りの観察と胸部聴診)による気管挿管と食道挿管の区別が、必ずしも信頼でき ないことが示された。
3編の研究(LOE 5)197-199において、心停止でない体重2kg以上の乳児と小児で は、比色検出器やカプノメータを用いた呼気CO2の検出が、気管チューブの位置確認 に高い感度と特異度を持つことが示された。心停止時の研究(LOE 5) 198では、呼気CO2検出による気管チューブの位置確認の感度は85%で、特 異度は100%であった。循環の有無にかかわらず、呼気CO2の存在は気管へのチューブ 留置を確かに示すが、心停止時に呼気CO2が認められないことをもって、チューブが 気管以外の場所にあることの証明にはならない。
推奨される治療:
あらゆる状況(病院前、救急部、集中治療部、手術部など)において、心停 止でない乳児や小児の気管挿管は、呼気CO2検出を用いてチューブ位置を確認すべき である。確認は比色検出器やカプノメトリーを用いて行うことができる。心停止時の 気管挿管で呼気CO2が検出されない場合は、直接喉頭展開してチューブ位置を確認す べきである。
食道検知器(Esophageal Detector Device:EDD) W23
手術室での研究(LOE 2)200によれば、心停止でない20kg以上の小児 の気管挿管で、気管チューブが正しい位置にあることを、食道検知器(EDD)がとて も高い感度と特異度で検出したことが示された。小児の心停止時のEDDに関する研究 はない。幼少動物を用いた研究(LOE 6)201では、EDDに目覚ましい結果 は認められなかったが、大き目の注射器(陰圧発生用のシリンジ)を用いると精度が増 した。同じ動物実験で、気管チューブのカフを膨らませても膨らませなくても食道挿管 の検出精度に差がないことが示された。
推奨される治療:
20kg以上の小児では、気管チューブの位置確認に食道検知器(EDD)の使用を考慮 してもよい。
搬送中の気管チューブの位置確認 W24
研究では、病院前搬送において偶発的な気管チューブの位置異常が高率に認められ ることが示されている(LOE 1)202;(LOE 7)203。院内や 病院間の搬送で同様の事態の発生頻度を検討した研究はない。
2編の研究(LOE 5)204,205で、心停止でなければ、搬送中の呼気 CO2検知や測定で気管チューブの位置を正確に確認できることが示されている。2編 の動物実験(LOE 6)206,207では、呼気CO2が検出できなくなることで、 パルスオキシメータよりも早期に気管チューブの位置異常を知ることができた。症例 集積研究(LOE 5204に基けば、搬送時間が長い場合(30分以上)、比 色分析呼気CO2検出器を持続して使用すると信頼性が低下する可能性がある。
推奨される治療:
心停止でない乳児や小児を病院前、院内、病院間で搬送する際は、呼気CO2の持続 的測定か頻回の間歇的な呼気CO2検知による、気管チューブの位置と開存性のモニタ リングを推奨する。
酸素
4編のヒト対象のメタ解析による研究(LOE 1)208,209では、空気に よる新生児の蘇生は100%酸素と比較して、死亡率が低下し、有害なエビデンスがない ことが示された(第7部「新生児の蘇生」参照)。もっとも、規模が最大となる2編 の研究210,211は、盲検化されていなかったので、結果の解釈には慎重を 要する。2編の動物実験(LOE 6)212,213では、心停止から蘇生する際 に、空気による換気が100%酸素より優れている可能性が示唆されたのに対して、他の 動物実験(LOE 6)214では差が認められなかった。
推奨される治療:
心停止の蘇生中や蘇生直後に特定の吸入酸素濃度を使用すべき、もしくは使用すべ きでないと推奨するには十分な情報がない。新たなエビデンスが報告されるまでは、 医療従事者が蘇生時に100%酸素(利用できる場合)を用いることを支持する。ひとま ず循環が回復すれば、酸素飽和度をモニターして適切な酸素運搬を確保しつつ吸入酸 素濃度を下げていく必要がある。
薬剤投与ルート
成人と小児で行われた2編の前向き無作為化試験(LOE 3) 215,216と、その他の6編の研究(LOE 4)217;(LOE 5) 218-220;(LOE 7)221,222は、骨髄ルート確保によって安全 かつ有効に輸液負荷や薬剤投与、検査用採血ができることを示している。
推奨される治療:
薬剤や輸液の静脈投与を緊急に必要とするすべての乳幼児で、迅速に血管が確保で きない場合は、骨髄ルート確保を推奨する。
気管チューブからの薬剤投与
小児の研究(LOE 2)223と成人での5編の研究(LOE 2) 224-226;(LOE 3)227,228、さらに複数の動物実験(LOE 6)229-231は、アトロピン、エピネフリン、ナロキソン、リドカイン、 バソプレシンが気管から吸収されることを示している。蘇生薬の気管投与は、同量 を静脈投与した場合と比べ低い血中濃度しか得られない。しかも、動物実験 (LOE 6)232-235で、気管投与によって得られる低いエピネフリン濃度 では、一過性のss-アドレナリン作用しか示さない可能性が示唆された。これは有害 となりうる作用で、低血圧、冠潅流圧の低下と冠血流減少、自己循環への復帰可能性 の低下をもたらす。
推奨される治療:
薬剤の投与経路は、骨髄内を含む血管内ルートが気管ルートよりも望ましい。アト ロピン、エピネフリン、リドカインの気管投与推奨量は血管投与よりも多量で、以下 の通りである。
ナロキソンとバソプレシンの至適気管投与量は決定されていない。
心停止時の使用薬剤
4編の小児を対象とした研究(LOE 2)236,237;(LOE 4) 238,239によれば、心停止に対する高用量エピネフリン投与で生存率は改 善せず、神経学的転帰の悪化傾向を認めた。小児病院の院内心停止において、追加投 与およびその後の(「頓用」)エピネフリン使用を、高用量と標準量で比較した前向 き無作為化試験(LOE 2)236は、高用量群で24時間生存率の低下が示さ れた。高用量エピネフリン群をさらに詳細に解析すると、呼吸停止と敗血症に高用量エピ ネフリンを頓用使用した症例で顕著に生存率が悪化した。
推奨される治療:
小児の心停止では、初回投与であれ追加投与であれ、エピネフリン10μg/kgを血管 内投与すべきである。高用量(100 μg/kg)エピネフリン血管内投与の常用は推奨さ れず、特に呼吸停止症例で有害な可能性がある。例外的な状況(ss-遮断薬過量など)で は、高用量エピネフリンを考慮してもよい。
心停止に対するバソプレシン W19A,W19B
小児における小規模研究(LOE 5)240によれば、遷延性心停止の場合に エピネフリンに追加してバソプレシンを投与すると、心拍再開に結び付く かもしれない。動物実験(LOE 6)241,242は、エピネフリンとバソプレ シンの組み合わせが有益である可能性を示している。成人の結果は一定していない。成人 心停止に対するバソプレシン投与(LOE 7)243-247は短期的な転帰(心拍再開や入院前死亡の回避など)を改善するが、エピネフリンと比較すると、 神経学的後遺症を残さずに退院できる割合は改善しない。
推奨される治療:
小児心停止に対するバソプレシンの常用を推奨もしくは反対する十分なエビデンス はない。
心停止に対するマグネシウム W15
血漿マグネシウム濃度と蘇生後の転帰の関連性を調査した研究が、成人で2編(LOE 3)248;(LOE 4)249、動物で1編(LOE 6) 250、報告されている。成人を対象とした最初の2つの研究では、正常血 漿マグネシウム濃度が良好な蘇生成功率と相関していたが、因果関係の有無は明確で ない。成人対象の臨床研究6編(LOE 1) 251;(LOE 2) 252-255;(LOE 3)256と成人の動物モデル(LOE 6) 257では、マグネシウムを蘇生開始前、蘇生中、蘇生後にそれぞれ投 与した患者で、どの時点の生存率をとっても有意差はなかった。
推奨される治療:
マグネシウムは低マグネシウム血漿やトルサドポアンに対して投与すべ きだが、心停止時の常用を推奨もしくはこれに反対する十分なエビデンスはない。
換気
心停止患者の研究(LOE 2)258や、他の12の研究(LOE 6) 259;(LOE 2)260;(LOE 3)261-267;(LOE 4) 268;(LOE 5)269,270からの推定によれば、過換気は心臓へ の静脈潅流減少や脳虚血を引き起こす可能性があり、心停止後に意識が戻らない患者 には有害であるかもしれない。
推奨される治療:
心停止後の過換気は有害であるかもしれず、避けるべきである。目指すべき蘇生後 の換気は正常二酸化炭素状態である。脳ヘルニアの切迫徴候がある患児の一時的な緩 和手段として、短時間の過換気であれば実施してもよい。
体温管理
心停止から蘇生された直後は、患児はしばしば低体温となり、その後経過と共に高 体温となる(LOE 5)271。32℃〜34℃の低体温は障害を受けた脳に有益 であるかもしれない。小児の心停止後人為的低体温の研究はないが、この治療を支持 する次のような傍証がある。
推奨される治療:
心停止から蘇生後に意識が戻らない小児では、12〜24時間の低体温(32℃〜34℃) を考慮すべきである。
高体温の治療 W22A,W22D
2編の研究(LOE 5)271,279は、心停止からの蘇生後に発熱が普通に みられることを示し、3編の研究(LOE 7)280-282は、発熱が転帰不良 に結び付いていることを示している。動物実験では発熱が転帰を悪化させることが示 唆されている。ある研究では(LOE 6)283、呼吸停止による心停止から蘇生 されたネズミで、蘇生直後の24時間以内に高体温とした場合に転帰が悪化することが 示されている。全脳虚血脳障害(その障害により内因性の発熱が惹起される)ラット では、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAID)系統の解熱剤を用いた発熱予防が神経細 胞障害を軽減した(LOE 6)284,285。
推奨される治療:
心停止から蘇生された乳幼児では、高体温を予防すべきで、高体温になった場合は 強力に治療すべきである。
循環補助
小児の2編の研究(LOE 5)286,287や成人の多数の研究(LOE 7) 288-290、さらに動物実験(LOE 6)291-293では、心停止の 蘇生後は一般に心筋機能障害が認められることを示している。複数の動物研究(LOE 6)294-296で、心停止からの蘇生後に一定の血管作動薬を投与すれば着実 に血行動態が改善することが述べられている。低心拍出量状態の心血管外科患者に関 する複数の成人と小児の研究(LOE 7)297-302から導き出されたエビデ ンスは、人工心肺離脱後に血管作動薬を滴定すると着実に血行動態が改善すること を物語っている。
推奨される治療:
心停止からの蘇生後は血行動態を改善するために血管作動薬を考慮すべきである。血管 作動薬の薬剤選択や投与時期、投与量は患者によって異なり、利用可能なモニターの データを参考にして調節しなくてはならない。
血糖管理
院外で心停止となり入院時に血糖が高い成人は、神経学的転帰と生存率が悪い (LOE 7)303-308。重篤な小児では、低血糖(LOE 5)309と 高血糖(LOE 5)310は転帰不良に結び付く。高血糖と心停止後の転帰不 良の関連性が、原因なのかストレス反応に付随する現象なのかは明らかでない。
重篤な術後成人患者では(LOE 7)311厳格な血糖管理が転帰を改善す るが、小児に関して現時点では、血糖を狭い範囲にコントロールしようとすることの 利点が、偶発的な低血糖のリスクを上回るとする十分なデータがない。
いくつかの動物実験(LOE 6)312-316と、成人の臨床研究(LOE 4) 317は、心停止直前や心停止中に糖を投与すると転帰が悪化することを示 している。心停止後の小児に糖含有の維持輸液を投与すると有害なのかは明らか でない。
低血糖が小児蘇生で重要な考慮事項である理由は、
推奨される治療:
心停止中の血糖値を検査して、その後も注意深く血糖値をモニターして正常血糖値 の維持を目指すべきである。蘇生中は低血糖でないかぎり、糖含有輸液の適応はない (LOE 7)323。
小児心停止の転帰予測因子 W12B,W28
院内または院外心停止の転帰が患者や心停止の病態に関連していたとの研究が、成 人で複数報告されている。小児での報告は成人よりもずっと限定されている。小児を対 象とした研究は6編あり(LOE 5)3,324-328、蘇生が長引けば転帰は不 良であった。蘇生時間が短いほど転帰が良くなりそうだが、心停止が目撃されていて 即座に模範的な蘇生が実施されていれば、30〜60分間の蘇生後であっても転帰が良い患 者がいることが、小児を対象とした2編の研究で報告されている(LOE 3) 328,329。環境曝露による低体温や氷温下の溺水に伴う小児の心停止で は、心停止時間が30分を超えても極めて良好な転帰が得られる(LOE 5) 7,330。
小児を対象とした大規模研究(LOE 4)331や、やや規模が小さい研究 (LOE 5)332-336は、標準的蘇生法に反応しない院内心停止症例で、30〜 90分内に体外循環を用いた蘇生を開始すれば、良い転帰が得られることを示し た。良好な転帰が得られたのは心疾患患者が中心であった。このデータは15〜30分程 度の蘇生で心臓と脳の回復が絶望視されるわけではないことを示している。
成人では、心停止が目撃されていたり、バイスタンダーが蘇生を実施していたり、虚 脱から短時間で救急チームが到着すれば、そうでない場合よりも蘇生後の転帰が良好 なので、小児も同様に考えて良さそうである。少なくとも1編、虚脱からCPR開始ま での時間が転帰を規定する有意な因子であることを示す小児の報告(LOE 5) 328がある。
院外心停止の原因として、鈍的外傷337や敗血症性ショック 329によるものは、滅多に助からなかった。
推奨される治療:
蘇生時間が15〜20分間に及んだときは、蘇生の中止を考慮すべきである。蘇生中止の 妥当性を考慮すべき要件としては、心停止の原因、心停止前の状況、心停止の目撃の有 無、無処置のまま経過した心停止時間(「無潅流」)、有効な蘇生が実施されたかど うかと蘇生の継続時間(「低潅流」)、回復が期待できる病態に対する体外循環を用 いた生命維持治療の即応体制、そして特別な状況の存在(氷温下の溺水、毒物への曝 露)などが挙げられる。