The future problem of out of hospital cardiopulmonary
岡山県医師会理事、日医災害救急対策委員会委員 井戸俊夫(日臨救医誌 2002;5;1)
索引:院外心肺停止(OHCPA)、バイスタンダー、救急救命士、一ヶ月生存率、ドクターカー
そこで岡山市の救急業務がどのように行われているかについて、全国と比較しながら検討を加え、さらに、救急救命士や、バイスタンダーと最も連携が必要とされる院外心肺停止患者(以後OHCPA患者)について、救急救命士制度が運用開始された平成4年11月から平成9年12月31日までについて分析を行い、問題点が何処にあるのか、またその課題をどのように解決すればよいのかについて考察する。
岡山市は人口62万の中核市で、現在10の消防署に388名の救急隊員が配置され、そのうち4本署に20名の救急救命士と5台の高規格車が配備されている。
救急業務が法制化された昭和39年以降搬送件数は確実に増加しているが、交通事故によるものは年々減少傾向にあり、ここ数年間急病特に65歳以上の搬送が増加の傾向を辿っている。
特に「急病による搬送高齢者数」を把握し始めた昭和57年を100として我が国の総人口、65歳以上の高齢者人口、搬送人員総数、急病による搬送高齢者数を指数化してみると、平成8年の急病による65歳以上の搬送高齢者数の指数は289と極めて高く、搬送人員総数の21.6%を占める。我が国における高齢化の進展が救急業務の態様にも大きな影響を及ぼしていることが解る(表1)。
昭和40年 | 昭和57年 | 平成元年 | 平成7年 | 平成8年 | |
総人口:千人(A) [上の指数] | 99,209 [84] | 118,693 [100] | 123,255 [104] | 125,569 [106] | 125,864 [106] |
65歳以上の高齢者:千人(B) [上の指数] | 6,236 [55] | 11,350 [100] | 14,309 [126] | 18,597 [164] | 19,017 [168] |
総人口に占める高齢者の 割合(B/A):% | 6.3 | 9.6 | 11.6 | 14.8 | 15.1 |
搬送人員総数:人(C) [上の指数] | 317,145 [15] |
2,049,487 [100] | 2,593,753 [127] | 3,164,483[154] | 3,247,129 [158] |
急病搬送人員数 65歳未満:人 65歳以上:人(D) [上の指数] | - - - | 705,405 242,219 [100] | 823,283 395,452 [163] | 997,629 661,714 [273] | 1,001,907 700,250 [289] |
搬送人員総数に占める 急病高齢者の割合(D/C):% | - | 11.8 | 15.2 | 20.9 | 21.6 |
岡山市においても同様な傾向を示しており、平成9年の搬送人員総数に占める65歳以上の急病による搬送高齢者は20.5%と全体の1/5を占めている(表2)。
昭和40年 | 昭和57年 | 平成元年 | 平成8年 | 平成9年 | |
総人口:千人(A) [上の指数] | 312,699 [57] | 550,378 [100] | 584,427 [106] | - [113] | 625,547 [114] |
65歳以上の高齢者:千人(B) [上の指数] | - - | 55,543 [100] | 67,356 [121] | 89,059 [160] | 93,165 [168] |
総人口に占める高齢者の 割合(B/A):% | - | 10.1 | 11.5 | 14.3 | 14.9 |
搬送人員総数:人(C) [上の指数] | 1,464 [18] | 8,343 [100] | 11,504 [138] | 13,899 [167] | 14,649 [176] |
急病搬送人員数 65歳未満:人 65歳以上:人(D) [上の指数] |
- - - | 2,210 1,141 [100] | 3,271 1,629 [143] | 3,983 2,752 [241] | 4,324 2,996 [263] |
搬送人員総数に占める 急病高齢者の割合(D/C):% | - | 13.7 | 14.2 | 19.8 | 20.5 |
平成8年の全国統計によると、全国平均は覚知から現場到着まで6.0分、覚知から医療機関到着まで24.4分、岡山市では平成9年について各々7.4分、24.4分で全国平均とあまり差がない。
表3は救急救命士制度が運用開始された平成4年11月1日から平成9年12月31日までの、特定行為が行われたOHCPA患者搬送件数と、収容時間の内訳を見たものである。搬送患者は平成9年には120件に達しており年々増加の一途を辿っている。特定行為を行った120件の疾病内容は、心疾患50件、脳血管障害8件、交通事故9件、その他32件、不明21件となっている。収容時間については、各年度とも30分前後で大きな差は見られない。
処置内容/年(平成) | 4年 | 5年 | 6年 | 7年 | 8年 | 9年 |
ラリンゲアルマスクなどによる気道確保 | 322 (3) | 2,091 (23) | 6,538 (36) | 7,769 (72) | 10,491 (92) | (109) |
除細動 | 154 (0) | 808 (2) | 1,261 (4) | 1,500 (4) | 1,918 (10) | (9) |
静脈路確保 | 122 (0) | 862 (2) | 1,888 (7) | 2,716 (21) | 3,587 (36) | (37) |
救急救命士の特定3行為「半自動式除細動器による除細動」「静脈路確保のための輸液」「ラリンゲアルマスク等による気道確保」の救急救命処置についての活動は年々増加している(表4)。また全救急隊員が行う拡大9項目でみると、心電図伝送、血中酸素飽和度測定、血圧測定などが増加しており救急業務全体のレベルアップが図られている(表5)。
処置名/年(平成) | 4年 | 5年 | 6年 | 7年 | 8年 | 9年 | |
自動心マッサ-ジ | 147 (0) | 357 (0) | 571 (0) | 875 (0) | 1,020 (0) | 1,147 (0) | |
在宅療法の継続 | 2,130 (0) | 3,865 (8) | 5,382 (13) | 3,774 (15) | 4,979 (6) | 10,048 (19) | |
ショックパンツ | 62 (2) | 162
(11) | 517 (2) | 250 (6) | 360 (3) | 419 (3) | |
血圧測定 | 61,816 (308) | 256,759 (2711) | 528,432 (4571) | 838,424 (5162) | 1,173,223 (5694) | 1,574,023 (7050) | |
心音・呼吸音聴取 | 23,831 (28) | 106,624 (395) | 197,051 (830) | 281,727 (1,932) | 370,591 (2,989) | 476,486 (3,518) | |
血中酸素飽和度測定 | 43,940 (468) | 228,379 (3,593) | 511,686 (7,088) | 836,650 (8,618) | 1,220,244 (8,744) | 1,655,731 (10,274) | |
心電図伝送など | 6,334 (29) | 34,712 (415) | 78,141 (878) | 123,916 (981) | 184,183 (915) | 236,023 (1,159) | |
経鼻エアウェイ | 2,494 (213) | 7,766 (47) | 14,818 (101) | 20,404 (110) | 25,086 (109) | 29,659 (155) | |
喉頭鏡・マギール鉗子 | 1,398 (20) | 3,310 (14) | 5,379 (84) | 6,696 (110) | 7,659 (142) | 9,510 (117) |
内容/年(平成) | 5年 | 6年 | 7年 | 8年 | 9年 | |
普通救命講習 | 47,827 (-) | 246,356 (1,103) | 395,045 (3,495) | 419,300 (3,111) | 589,798 (3,192) | |
上級救命講習 | 4,045 (-) | 10,680 (-) | 19,212 (232) | 25,758 (365) | 33,670 (240) | |
普及員講習 | 1,053 (-) | 4,646 (-) | 7,292 (91) | 6,208 (57) | 7,037 (36) | |
合 計 | 52,925 (-) | 261,682 (1,103) | 421,549 (3,818) | 451,266 (3,533) | 630,505 (3,468) |
バイスタンダーによるCPRについては、平成5年から全国的に普及啓発活動を展開しているが、岡山市においても平成6年から一般市民を対象に講習会を行っており、平成9年までに約1万2千人が受講している(表6)。
平成7年 | 平成8年 | 平成9年 | 合 計 | ||
救急隊が搬送したすべてのOHCPA患者数 | 317 (72,016) | 355 (72,542) | 311 (76,272) | 983 (220,830) | |
家族などによりCPRが実施された患者数 | 49 (9,389) | 48 (10,954) | 55 (12,901) | 152 (33,244) | |
うち1ヶ月後生存者数 | 1 (2.0%) | 3 (6.3%) | 6 (10.9%) | 10 (*6.6%) | |
家族などによりCPRが実施されなかった患者数 | 268 ( ) | 307 () | 256 ( ) | 831 ( ) | |
うち1ヶ月後生存者数 | 9 (3.4%) | 7 (2.3%) | 4 (1.6%) | 20 (*2.4%) |
年(平成) | 5年 | 6年 | 7年 | 8年 | 9年 | 合計 |
搬送人員 | 310 (47) | 355 (96) | 317 (152) | 355 (193) | 311 (182) | 1,648 (670) |
特定行為実施者数 | 1 | 37 | 74 | 100 | 120 | 332 |
救命数 | 12 (-) | 13 (1) | 15 (8) | 17 (9) | 11 (8) | 68 (26) |
救命率(%) | 3.9 (-) | 3.7 (1.0) | 4.7 (5.3) | 4.8 (4.7) | 3.5 (4.4) | 4.1 (3.9) |
平成5年から9年までの「岡山市救急概況」によると、表8に示すように特定行為実施者数は飛躍的に増加しているものの、救命率に有意の差を見いだすことは出来ない。またOHCPA患者の救命率について、II課程修了者と救急救命士を比較すると、平成6年、8年で救急救命士の方が低い傾向はあるが、5年間の合計数で見ると、両者に統計的有意差はない。搬送人員についてはⅡ課程修了者によるものが圧倒的に多い(表8)。
現場到着後早急に搬送が開始されるII課程修了者と、特定行為を行う救急救命士とのあいだに生じるこれらの時間差が、救命効果を上げ得ない要因の一つになっているのではなかろうか。勿論、特定行為を行う救急救命士自らが資質を向上させる努力も必要であるが、我々医師の側も救急救命士の教育やOHCPAについて積極的に取り組む努力が足りなかった事を認めなければならない。お互いの信頼関係を深め、この制度の内容が充実されれば、今後応急処置範囲の拡大(例えば、気管内挿管など)につながり、この時間差が逆に救命率向上として跳ね返ってくる筈である。
また最近は、高齢化に伴って心疾患も増加しており、CPRの対象となるOHCPAであるか、あるいは対象とならない所謂社会死であるかの判定をどの様に行うのか等、我が國に於いても、漸くウツタインの概念が浸透しつつあるが、救命率や生存率を論じるには問題点が多い。
救急救命士制度の導入が必ずしも救命に結びついていないこれまでの状況から、このままこの制度を運用して、今後どれほどの効果が期待できるであろうかという素朴な疑問が私には残る。
救急救命士制度が発足して6年が経過し、この間、救急医療体制の一元化、二次医療圏の整備、救急医療情報システムの整備、一般市民への応急手当の普及啓発活動等が行われてきた。OHCPA患者の救命率がほとんど改善されていない中で、既に述べたように、バイスタンダーにより応急手当の実施されたものについては、有意の救命率の向上が得られている。岡山市では学校職員、学生、医療関係者などを中心に救急蘇生法の講習を行っており一般市民が受講する機会は殆ど無かった。OHCPA患者の発見場所は住宅内が68%を占め、このうち、バイスタンダーCPRが施されたものはその殆どが家族、又は居合わせた者であるから、今後一般市民への普及啓発を推進し、搬送されるすべてのOHCPA患者にバイスタンダーによるCPRが実施され、救命効果が少しでも上がるよう努力したい。
プレホスピタルケアーを充実させOHCPA患者の救命率を向上させるために、もう一つドクターカーについて述べておきたい。 欧米諸国に於いては、すでに1970年頃から救急車に医師が同乗し、救急現場で救急処置や治療を行なって良い成績を上げている。
船橋市立医療センターの金らは、OHCPAを中心に3年間にわたるドクターカー運用の総括を行い、その中で平成7年におけるOHCPA患者の社会復帰率が12.1%に達したと述べている。因みに、この報告の行われた平成7年におけるOHCPA患者の1週間後の生存率は、全国平均で4.3%である。ドクターカーの運用がいかに功を奏しているかが解る。ドクターカーには、高度な二次救命処置や医療行為が、現場到着と同時にいち早く開始できる特徴がある。問題点としては、先ず医師確保の困難性が挙げられるが、岡山市でも既に医師がボランティアとして救急車に同乗しているし、姫路市でも数年前から同乗研修が行われている。医師過剰となりつつある今、医の原点とも云われている救急医療に関心を持つ医師は増えつつあると思う。問題点としては、身分補償、24時間体制の維持、財源問題等が挙げられる。
消防庁救急救助課によると、平成8年末までに多くは経済的理由からと思われるが、ドクターカー運用は、全国17の自治体で取り入れられているに過ぎない。また日本医師会によるとドクターカーが導入されている施設は全国で50カ所と言われている。
最も多い運用方法は、必要に応じて救急車が病院を経由し医師を同乗させて現場に行く方式である。その他にランデブー方式、救急車が医療機関に待機して医師が同乗して直接現場に行く方式、医師が消防機関に常駐する方式などがある。岡山市の場合は、消防機関を市民病院敷地内に設置して医師を常駐させ救急車に同乗する方式が検討されている。消防機関に医師が常駐するこの方式は、119番覚知後、直ちに現場に向けて出動できること、救急車が医療機関に待機するより経費がかからない等、利点の多いことが報告された。 ドクターカーによる医師と救急救命士の連携と協力体制は、大きな意義を持つ。実際に救急車に同乗してみて、走行中の狭い車内での救急活動には限界があるものの、救急救命士の研修の場としても、また医師と救急救命士との信頼関係構築の意味においても重要であることを痛感した。
救急救命士制度の再評価について、厚生労働省は救急医療体制基本問題研究会の最終報告書を受けて救急救命士の業務内容の評価を行うとしており、また消防庁も救急実態調査報告書を基に特定医療行為の拡大を検討するとするなど、これまでの救急救命士制度についての行政の対応はまちまちである。省庁間の連携を強く期待する。厚生労働省が平成11年度に研究会を設置して検討するとしている救急救命士の医行為については、これまでに述べた理由から現段階では一定の歯止めを掛けることが必要であろう。
救急救命士の教育や医師と救急救命士の連携を図る上でも、また救急救命士制度を充実させ、救命効果を上げるためにも、ドクターカーの導入は有効であると考える。ドクターカー運用問題は、ぜひ検討の俎上にあげていただきたい。
最後に、プレホスピタルケアーの充実こそが、OHCPA患者の救命率を左右する全ての鍵を握っていることを改めて強調しておきたい。
1)井戸俊夫:大規模災害時に於ける救急医療体制を考える.日本医事新報.1996.3987号.p73
2)井戸俊夫:阪神大震災と救急医療体制の見直し.岡山市医師会報1995.148号p15
3)井戸俊夫:災害時医療とトリアージ.岡山市医師会報1997.154号p25
4)井戸俊夫:災害救急医療と訓練.岡山市医師会報.1996.155号p47
6)金 弘、ほか:3年間のドクターカー運用の総括・日PC誌:1996.19.p215
7)井戸俊夫:院外心肺停止患者の対応と問題点.日PC誌:1997.20.p159