わが国の救急医療の緊急の課題

【ネットスケープ用ファイル】

愛媛大学救急医学 越智元郎

第5回日本臨床救急医学会、2002/04/26)

プレホスピタルケアに関する提言2002  I/E用スライド 



 はじめに、メーリングリストは電子メールの同報機能を用 いた一種のフォーラムであり、職種や所属組織、地域などの 壁を超えた豊かな情報交換の場となると言われています。

 われわれの救急医療メーリングリスト(eml)、別称・救急 医療情報研究会は救急災害医療をテーマとした集まりです。 これは1996年2月にスタートし、会員数1150人、通算4万通 に及ぶメールが配送されています。


 本会ではこれまで、救急災害医療の様々な問題に関して討 議を行い、提言として発表してきました。項目のみ上げます と、用語「患者監視装置」に関する論議、救急処置シミュレ ーションに関する論議、臨界事故対策のための緊急提言、心 肺蘇生に関する用語統一の提案などが上げられます。


 2,000年8月、AHAの新しい心肺蘇生法ガイドラインの発表後 は、救急医療に関する国際的合意に照らして、わが国の現状 の様々な矛盾点が指摘されました。本会では、有志によりワ ーキンググループを結成し、市民による除細動、プレホスピ タルケア、病院内除細動体制、救急医療における研修のあり 方など、について並行して論議を進めました。


 しかし、その後、想像を上回る目まぐるしい社会情勢の変 化がみられ、われわれは推移を見守るほかありませんでした。 たとえば、昨年10月には救急救命士が違法行為である気管挿 管を実施している地域があることが大きく報じられました。 また、12月には、医師が乗り合わせていない航空機内での、 乗務員による電気的除細動が許可されました。今年3月、厚 生労働省の研究班は、気管挿管による転帰改善は証明されて いないと報告しました。一方、新聞報道などは参院予算委で の厚生労働大臣の答弁などから、救急救命士の業務拡大が既 定の事実であるかのように報じています。


 今回の気管挿管などの問題は私たちプレホスピタルケア 関係者に深い傷を残しています。それは違法行為をおかし た者にも、それ以外の者にも生じています。そして市民の 一部からは、私たちが、心肺停止にいたる前の気管挿管、 蘇生薬投与など、米国パラメディクなみの行為が許される まで、なしくずし的に違法行為を繰り返すのではないか、 とさえ見られています。


 以上のことから、私たちはプレホスピタルケア関係者有 志の宣言として、

  1. いたずらに過去に拘泥せず、さまざまな経緯をたどってきた関係者相互の融和をはかる

  2. 今後、法や省令で許される範囲内で、最善の救命活動につとめる

  3. 「緊急避難」として実施した行為については、十分に患者や家族に説明するとともに、医学的検討が可能とする

  4. トライアルを含む医学的データを積み上げ、それによって救急医療法制の改善をめざす

の4つの提案をまとめました。


 このの運動の進め方としては

  1. ウェブ上に宣言を掲示し、また賛同者の氏名を収載し、 われわれ自身の未来に向けての立脚点とします。

  2. 公的な受け皿が整うまでは「緊急避難行為」に関するデ ータベースを自主的に運営します。特に、「緊急避難」の条 件として、事実を正確に記載し、患者や家族にも十分に説明 することが重要でしす。また結果によっては患者や家族が損 害賠償を請求することもあり得ると考えるべきでしょう。

  3. これらの活動はウェブなどを通じて市民に開示してゆき たいと思います。


 結語です。緊急の課題の1つとして、プレホスピタルケア関係 者の精神的立脚点を健全で強固なものにすることが上げられ ます。われわれの提言に多数の関係者が賛同、参加して下さ ることを期待します。


■救急・災害医療ホームページ