プレホスピタルケア関係者有志の宣言 2002

(第5回日本臨床救急医学会 2002.4.25 で発表しました。)


【プレホスピタルケア関係者有志の宣言 2002】

―救急救命士の気管挿管問題などをめぐって―

プレホスピタルケアを考える会・有志(賛同者名簿

 2001年秋、一部の地域の救急救命士が救急救命士法ならびに関連省 令で禁止されている気管挿管を恒常的に実施していることが報じられ ました。その後のわが国のプレホスピタルケアに関する、国民の関心 の高さには眼を見張るものがあります。そして厚生労働大臣の国会答 弁などをみる限り、救急救命士に気管挿管に許可したり、医師の事前 指示による電気的除細動を可能にするなど、救急救命士の特定行為を 拡大する方向に扉が開かれようとしています。

 その一面で、私達プレホスピタルケアに関与する人々の間には亀裂 と深い傷跡が残されようとしています。合法的な救命活動にとどまっ た関係者の中には、「勇気がなかったために救命のために必要な処置 を実施できなかった」と自らを責める人がいます。一方、今回公表さ れた地域以外で同様の活動をした関係者があるとすれば、事実関係に 蓋をしてしまうことで、自らを汚れた者と感じている人もいるのでは ないでしょうか。また国民の一部から、われわれに対して「法を軽視 する者」として不信感が持たれたことは否めないでしょう。

 米国のパラメディクは10年以上前から、心肺停止患者でなくとも必 要であれば気管挿管をし、静脈路確保をしています。またエピネフリ ンを投与し、経鼻挿管を行い、意識障害患者では血糖値を測定します。

 わが国の救急救命士は、米国のパラメディクのように、患者に有益 な医療行為のほとんどを病院外で実施したい、と望むのでしょうか。 そしてそれがかなうまでは、「法か人命か」と悩みながら、(例えば) 呼吸停止が迫った患者に気管内挿管を行い、医師の指示を受けるより 先にエピネフリンの投与を行うのでしょうか。そしてその行為につい て医学的検討がなされるより先に、マスメデイアや国会などで取り上 げられ、新たにまた法や省令の改正がもたらされるのでしょうか。

 私達は今後そのような流れでプレホスピタルケアに関する法や省令 が変更されることがあってはならないと考えています。私達は、今後 はあくまでも法の範囲内で救命活動を行うことを誓いたいと思います。 そして新たに採用すべき救命手順等については、白日の下で試行事業 として検討し、その科学的評価を明らかにすることを目指したいと思 います。

 もちろん、今後も救命活動の現場で、緊急避難として法や省令の壁 を乗り越えざるを得ない場合があります。私達はそのような事例の一 つ一つを、研究活動としての私達のデータベースに傷病者のプライバ シーに配慮した形で収載し、その事実が批判的な検討を受けることな く覆い被されることを避けたいと思います。


【プレホスピタルケア関係者有志の宣言 2002】

 私達は消防職員・病院職員など職種の如何を問わず、またこれまで のプレホスピタルケアでの救命活動の方針の如何を問わず、今後の救 命活動について、以下の誓いを明らかにします。

  1. いたずらに過去に拘泥せず、さまざまな経緯をたどってきた関係者相互の融和をはかります。

  2. 今後、法や省令で許される範囲内で、最善の救命活動につとめます。またそれを助言し、指導します。

  3. 「緊急避難」として実施した行為については、十分に患者や家族に説明するとともに、(プライバシーに関する配慮の上で)研究的機関のデータベースに情報を蓄積し、批判的な検討も可能とします。

  4. トライアルを含む医学的データ(文献的検討も)を積み上げ、それによって救急医療法制の改善を訴えてゆきます。

 私達は上記の宣言によって国民各位の懸念を拭い、また私達相互の 間の亀裂を埋めることを願います。本提言の趣旨に賛同し、名前を連 ねて下さる方は、以下まで御連絡をお願い致します。

________日本のプレホスピタルケアを考える会

____________連絡先 〒791-0295 愛媛県温泉郡重信町志津川
____________愛媛大学医学部救急医学 越智元郎
______________TEL 089-960-5722(直通)
______________FAX 089-960-5714
______________e-mail: gochi@m.ehime-u.ac.jp



【賛同者名簿】

2002年 9月 9日現在

消防職員など:30名

岩井伸幸(いわい のぶゆき・和歌山)、 大園雄一(おおぞの ゆういち・千葉)、 小澤正美(おざわ まさよし・埼玉)、 勝守高之(かつもり たかゆき・群馬)、 神山隆之(かみやま たかゆき・神奈川)、 鴨川冨美夫(かもがわとみお・長崎)、 北原孝夫(きたはら たかお・長野)、 黒部忠司(くろべ ただし・奈良)、 小池勝己(こいけ かつみ・新潟)、 頃末浩二(ころすえ こうじ・岡山)、 坂本伸一(さかもと しんいち・神奈川)、 佐藤秀明(さとう ひであき・北海道)、 佐藤成志(さとう まさし・千葉)、 澤田 清(さわだ きよし・茨城)、 白井恭二(しらい きょうじ・群馬)、 篠原隆史(しのはら たかし・徳島)、 立野 博(たての ひろし・千葉)、 田中啓文(たなか ひろふみ・埼玉)、 成田慎也(なりた しんや・北海道)、 野本雅也(のもと まさや・兵庫)、 原口貴博(はらぐち たかひろ・熊本)、 福岡浩治(ふくおか こうじ・愛知)、 古川 猛(ふるかわ たけし・大阪)、 松田健二(まつだ けんじ・神奈川)、 水野雅彦(みずの まさひこ・愛知)、 宮田正則(みやた まさのり・徳島)、 森 豊(もり ゆたか・北海道)、 山崎敏行(やまざき としゆき・鳥取)、 山本 功(やまもと いさお・広島)、 吉田茂男(よしだ しげお・神奈川)

医療関係者など:15名

生垣 正(いけがき せい・富山)、 井戸俊夫(いど としお・岡山)、 井原勝彦(いはら かつひこ・広島)、 遠藤晋介(えんどう しんすけ・長崎)、 越智元郎(おち げんろう・愛媛)、 金子高太郎(かねこ こうたろう・広島)、 酒主 剛(さかぬし たけし・茨城)、 末吉 敦(すえよし あつし・京都)、 鈴木 全(すずき じゅん・大阪)、 須田高之(すだ たかゆき・茨城)、 武田多一(たけだ たいち・沖縄)、 中村利仁(なかむら としひと・宮城)、 根本 学(ねもと まなぶ・神奈川)、 堀友紀子(ほり ゆきこ・東京)、 矢作友保(やはぎ ともやす・山形)

教育関係者など(一般市民を含む):3名

岡野谷純(おかのや じゅん・東京)、 中島敏雅(なかじま としまさ・大阪)、 沼上清彦(ぬまかみ きよひこ・神奈川)


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