第3回中国四国救友会・事前アンケートより

シンポジウム3.新しい心肺蘇生法を市民にどう教えるか


【新しいCPRの市民指導に関する質問と意見】

通報手順

  1. 心肺蘇生法の改正に伴う研修会では、「山の中であったり、深夜で助けを 呼んでも誰も来ないとき、大人や心疾患のある子供や乳児の場合は、まず自分 で119番通報に行き、戻ってきてからCPRを施行する」とされているが、応 急手当指導者標準テキスト(総務省消防庁救急救助課監修)では、「CPRを5 分間程度実施し、循環のサインが確認出来なければ回復体位にしてから応援を 求める」となっています。

    山の中という表現が両者に使用されていますが、これは通報可能な場所まで行 くのに時間がかかる。あるいは救急車到着までに時間がかかる場合の例だと思 われますが、前者の場合、「カーラーの救命曲線」や「CPR・除細動開始時間 と生存退院の関係」の説明との矛盾が生じます。

    当消防本部管内は森林面積が88%を占め、消防署からの距離が1Km〜40Km 地点まで、この「山の中」が続くため、どちらを優先させるのか判断しかねま す。そこで『通報までに何分以上、また救急車到着までに何十分以上要する場 合』という表現で検討して欲しいと思います。

    (添付資料に、「Phone fistとPhone fast の差異」と記したP7目の資料と、 応急手当指導者標準テキスト(総務省消防庁救急救助課監修)のP108のコピー がある。)

    救急救命九州研修所 畑中哲生:
     常識的に判断するしかないと思う。
     仮に基準を作ったとしても実用的価値はないでしょう。
     むしろ、「簡単なアルゴリズム」の障害になるのでは?
    
    尼崎北消防本部 守田 央:
      山の中などで、通報までに相当長時間かかり、しかも、救助者が
     一人しかいないような場合は、5分や10分、もしくはそれ以上CPRを
     実施してから救助を呼びに行くしかないのではないでしょうか。
      救急車到着までの時間は、Phone First/Phone Fastに影響を与え
     ないのでは?

  2. 新しい心肺蘇生法指導者用ビデオで(アンケートには東京救急協会編を使 用と記されている。)助けを求める所が2箇所ありますが、なるべくセリフを 少なくし、一般市民に蘇生法を覚えてもらうため「あなた119番通報をお願い します」は省略して良いのではないかと思う。

    守田:
      「あなた119番通報をお願いします」は、あったほうがいいと感じています。
     漠然と「誰か救急車を呼んで」というのでは、依頼された者は「誰かが119通報
     をしに行ってるだろう」などと考え、実際には、誰も119通報をしに行っていな
     いような場合も起こりえると思います。

呼吸、脈拍の観察

  1. 観察の10秒以内について

    守田: 質問の意図がつかめません。

  2. 心停止の確認が頚動脈の触知から、循環のサインの確認に変更になった が、手技の統一性をどこまでするのか。

    畑中:
     統一する必要があるほどの手技らしき手技はないと思う。
     要は、生きていると思えるような兆しがあれば良いのでは?
    
    守田:
      個人的にはAHAのvideo「CPR for family and Friends」の方法が
     気に入っています。しかし、10秒以内であれば多少の違いはかまわないのでは
     ないでしょうか。それよりも、確実に呼吸の有無がわかる、確実に循環の
     サインの有無がわかるように指導することが重要だと感じています。
    

  3. 循環のサインとありますが、市民には聞きなれない言葉と思われます。

    守田:
     そうですね。聞きなれない言葉ですね。
     ですから、はじめに「循環のサインとはなにか」の説明から
     入らないといけませんね。
     判りにくければ、「心臓が動いている印」などに置き換えても
     かまわないと思います。
     また、「呼吸はあるか、咳はするか、体動はあるか」などと具体的な
     言葉に置き換えてもいいと思います。
     大切なのは、市民がわかりやすいようにすること、CPRの手順を単純に、
     簡単にするように指導者が心掛けることだと思います。
    
  4. 心肺蘇生法の指導で、以前、脈拍の確認で頚動脈を圧迫していたのが、 新しいやり方で、循環のサインを調べるやり方に変わって、現場での指導法 も、講習用テキストでの対応では十分ではなく、補足説明が必要と感じまし た。

    守田:
     補足説明は必要ですね。
     私は、指導には、ほとんどテキストは使用していません。
    

人工呼吸と心マ

  1. 新生児CPR3対1の理由は。

    畑中(守田):
     EBMに基づくというよりも、生理学的な考察に基づく慣習的色合いが濃い。
     生理学的には、小児、特に新生児は体重あたりの機能的残気量が小さいの
     で、ある吸気から次の吸気まで(つまり、呼気終末位でとどまっている)
     間に、肺胞内酸素分圧の低下が(成人より)速やかに進行する。すなわち、
     (成人ほどの)長時間の吸気インターバルに耐えられない。よって、小刻
     みな呼吸が必要。

  2. CPRのサイクルの5対1と15対2の蘇生効果のデータ的なものを教えて ほしい。

    畑中(守田):
     これもEBMといえるほどのデータはなさそう。
     データらしきデータとして唯一のものは、動物実験で「胸骨圧迫の回数を追
     うごとに圧迫1回あたりの拍出量が増加する傾向がある」 
     →できるだけ、圧迫を中断しない方が良い。

  3. 小児のCPRで、心マを実施するときにもう片方の手を額にあてるのはな ぜか。

    畑中(守田):
    ・頭をぐらつかせない。
    ・手間を省く。額に当てた手で気道確保(軽度頭部後屈)ができる。
     人工呼吸の度にこれをいちいちやり直すと、時間のロスになります。

異物除去

  1. 気道異物の意識が無い場合のフローチャート(大人のCPR時の吹き込み回 数)

    守田:
     気道異物の意識が無い場合のフローチャート(大人のCPR時の吹き込み回数)
     ---------------------------------------------------
     意識の確認
      ↓ない
     気道確保
     呼吸の確認
      ↓ない
     ※人工呼吸
      ↓入らない
     再気道確保
     人工呼吸
      ↓入らない
     心臓マッサージ15回
     口腔内確認
     ※に戻る
    
     異物が取れるまで、または人工呼吸がはいるまで※に戻る
     人工呼吸が入れば、循環のサインを確認し、なければ
     CPRを繰り返す
     -----------------------------------------------
     こんな感じでいかがでしょうか?
    

  2. 1〜8才のハイムリック法の適応について

  3. ハイムリック法は1歳以上は適応となっているが、実施年齢が低いのでは ないか。

    守田:
      私も1・2歳児にはハイムリック法は躊躇するかもしれません。
     私は、背部叩打法→ハイムリック法という順番がいいのではないかと
     感じています。
    

  4. 異物が疑われ意識が無い場合は心肺蘇生法を指導しても良いこととなった が、人工呼吸が入らない場合も毎回2度、人工呼吸をするのは何故でしょう。

    畑中(畑中):
     おそらく「簡単」にするため。 
     基本的手技を統一したかったのでは?
     唯一の違いは、(異物を疑う場合)人工呼吸のたびに口腔内を確認すること。

  5. 乳児、新生児の意識がある時の異物除去でなぜ胸骨圧迫を行うのか。また 1秒に1回の割でおこなう理由、背部叩打と胸骨圧迫の間では口腔内確認が無 い理由は。

    畑中:
     乳児、新生児の意識がある時の異物除去でなぜ胸骨圧迫を行うのか。
     →胸骨圧迫に伴う胸腔内圧上昇(いわば人工的な咳)を利用しよう
      という意図でしょう。
    
     また1秒に1回の割でおこなう理由、
      →心臓マッサージを目的として行う胸骨圧迫の回数(リズム)が80-100/分
      なのは、これによって圧迫・除圧の時間比が1:1になる(これが最も効率
      が良い)と考えられているから。一方、異物除去を目的とした胸骨圧迫で
      は、「圧迫」が重要なのであって「除圧」はどうでも良い。よって、しっ
      かりと圧迫できるようにという意図が込められているのではないでしょうか?
    
     背部叩打と胸骨圧迫の間では口腔内確認が無い理由は。
      →?
    
    守田:
      乳児では肝損傷の危険が高いため、ハイムリック法ができませんので、
     背部叩打で異物除去ができなければ、ハイムリック法と同等/それ以上の
     効果があるといわれている胸部圧迫を行うしかないのではないでしょうか?
     また、胸郭の小さな乳児には側胸下部圧迫法は難しいのではないでしょうか。
    
      1秒に1回の割で行う理由は明記されていませんが、心臓マッサージではなく
     異物除去ですので、1回1回を異物を除去するつもりで鋭く押さえると、自然と
     1秒に1回くらいになるのではないでしょうか。
    
      背部叩打と胸部圧迫の間に口腔内確認を行ってもかまわないと思います。
    

  6. 意識の無い異物除去について、なぜCPRのみでよいのか?

    畑中: アルゴリズムを簡略化するため。
    
    守田: 
      やはり、CPRの手順を簡単にするためでしょう。そして、
     胸部圧迫はハイムリック法と同等/それ以上の異物除去効果が期待できるから
     だと思います。
    

  7. 異物除去法に第一選択が明記されておらず、対象別によって種種の方法が あるため、本来の目的である従来の心肺蘇生法をより簡易かつ確実なものにし て、一般市民の人に習得していただくという点からは相違しているように思わ れる。

    畑中(守田): 賛成!

  8. 異物除去の方法及び選択が指導者まかせであることと日赤との 突合がなされていないため、受講側にとまどいや不安が感じられるのでよりシ ンプルにAHAに沿ったものに改善されるべきではないかと感じる。

    畑中(守田): 大賛成!

  9. 異物除去についてわかりにくい。

    畑中: 賛成!
    
    守田: 
      確かに、判りにくいですね。
     基本は、意識がある完全閉塞には異物除去。
     意識がない/なくなった場合はCPR
     ということですね。
    

止血法

  1. 止血法について間接圧迫止血法を今まで通りに教えてもよいのでは?

    畑中: 賛成! AHAもこの意見に賛成のようです。
    
    守田: 
      間接圧迫を指導してもいいとは思います。
      が、直接圧迫でさえまだまだ普及しておりません。
     一般市民の場合、止血帯をかけてることがほとんどです。
     止血についても簡単にするために、直接圧迫(止血できなければ更に
     強く圧迫したり挙上したり)と最後の手段としての止血帯法の指導
     だけでもいいかもしれません。
    

全般

  1. 一般住民に対しては簡略化されて良いと思うが、指導員に対する細部の 指導要領が明記されておらず不十分と思う。?

    畑中: 賛成!
    
    守田: 不十分ですね。

  2. 中四国救急医学会で統一した指導内容を考えてもらいたい。

    畑中: ?

  3. 簡素化されてやさしくなった分、あいまいな部分が増し、かえって混乱 をまねく恐れもあるのではないか。

    畑中: ちょっと賛成!
    
    守田: 
      今は過渡期ですので混乱があるとおもいます。
     カウント方法などもかなりバラバラです。
     しかし、基本的には「必ずこうしないとだめです」といった指導ではなく
     市民がわかりやすいように、覚えやすいような指導を心がけることが
     必要だと思います。
    

  4. 以前の心肺蘇生法について講習を受けた者に対し、以前の心肺蘇生法に ついて新しい心肺蘇生法との位置付けを指導上どのように説明していったらよ いのか、統一的な指導方法を明示してもらいたい。

    畑中: ?
    
    守田: 
      従来の心肺蘇生法が否定されたのではありません。
     特に循環の評価については、医療従事者は従来とほとんど変っていません。
     「頚動脈の確認は難しく、間違いが多いので、新しい方法では
     もっと簡単になりました」これで、十分ではないでしょうか?
     また、呼気吹き込み量が少なくなったことは、「沢山の吹き込みや、強い吹
     き込みは、肺に入らずに胃に入ってしまうので、できるだけ、ゆっくり、
     やさしく、胸が少し膨らむ程度、吹き込んでくださいね」で、いいのでは?
    

  5. 新しい心肺蘇生法と従来の心肺蘇生法との融合性を説明するのが難し い。

    守田: 
     質問の意図がわかりません。
    

DNR

  1. 心肺蘇生法を中止する場合の例として、CPRを望まない意思表示を書面 等で行っている例を挙げているが、それが正当であるかないかを判断するのは 難しい。医療機関に搬送後医師が判断をしてもよいのでは?

    畑中(守田):
     DNARの書面がある場合は、心肺蘇生を「中止する」のではなく「開始しない」。
     書面が正当であるかどうかの判断が難しいというのはごもっともな意見でしょう。
     このような書面が一般的になるような努力をするしか手はない?
    


■第18回日本救急医学会中国四国地方会/ ■第3回中国四国救友会