広域災害・救急医療情報システム の運用申し合わせの必要性について

第29回日本救急医学会総会(2001)・口演原稿

ウェブ作製:愛媛大学医学部救急医学 越智元郎


最初のスライド、 抄録、 学会のホームページ 関連資料

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 愛媛大学の越智です。私からは「広域災害・救急医療情報システム の運用申し合わせの必要性について」と題してお話しします。災害時 の本システム運営方法につきましては、すでに大友先生からお話があり ましたので、私は非災害時の本システム運用法についてしぼって、意見 を述べます。以下、広域災害・救急医療システムを本システム、 メーリングリストをMLと略称します。

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 本システム運用に関与すべき組織等には以下のものがあります。国及びその外郭団体としては厚生労働省健康政策局、総務省消防庁、内閣官房、原子力・中毒関連組織等があります。自治 体では、都道府県の危機管理部門、保健行政部門、同じく消防行政部 門、消防本部、保健所、救急医療機関などです。諸団体と分類した中 には、学術団体、医師会、NGOなどがあります。民間組織には、本シス テムを運営している株式会社NTTデータ、医療機 関などがあります。場合によって、NHKなど災害対策基本法におけ る指定公共機関に指定されている報道機関も含む必要があります。

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 非災害時の情報共有と合意形成の手段とし ては、同組織内または近縁組織間であれば、通達、会議、電話、FAX、 電子メールなどを用いて短時間で情報共有をはかることができます。 しかし、先に述べたような広範な参加組織等を同時に結 んで情報共有と合意形成をはかるためには、電子メールの同報機能を 用いたMLやウェブを用いる必要があります。本システ ムはインターネットの利用を前提としており、非災害時にもインター ネットを利用した情報共有に習熟しておく必要があります。一方で、 会議や集会などを通じて本システムに関与する人々の間に、顔の見え る関係を作り上げておく必要性が認められます。

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 次に本システムが運用するMLであるWDSの問題点につ いて述べます。

 まず、WDSは厚生労働省健康政策局指導課が運用しておられますが、 行政が開設されたMLとしてまだ未知数の部分があり ます。健康政策局のご担当者はこれまで比較的短期間で交代され、運用 方針は必ずいしも定着していません。本システムの担当業者 は顧客に対する企業の立場であり、情報交換を積極的にリードする スタンスではありません。WDS発足当初、大友先生と私がWDS運用 について協力要請を受けましたが、同時に「表面に出ないように」 という要請もあり、その位置着けについては疑問が残りました。

 次の問題点として、WDSの参加者には業務としての参加者と任意 の参加者が混在しています。限定された重要な情報のみを受信した い参加者と、WDS運用方法に関する論議や細部にわたる 様々な災害情報を入手したい積極的な参加者との希望は大きく食い 違っています。一方、これまでの所、運営担当者は参加者相互のネ ットワーク上の話し合いによって、運営してゆく方針をとって来ら れました。コンピュ−タ通信によるネットワークが積極的な調整 なしに円滑に発展してゆけるかどうかは、楽観視はできません。 また、メーリングリストの効率的な運用にはウェブの併用が不可 欠ですが、これまで広域災害・救急医療システムのウェブは十分 には活用されていなかったと思います。

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 WDSの問題点への対策のうち、処理できる情報量が参加者に よって大きく異なる点ですが、組織の責任者が情報の 受信・発信を直接担当する必要はありません。責任者は 限定された重要な情報のみを直接受信し、一方組織内の 情報担当者が様々な情報を入手し、また責任者の指示により 情報を発信する形が奨められます。

 参加者の処理能力に応じて、WDSからの受信メール数のレベ ルを選択するためには、全参加者が受信するMLは限定され た重要な情報を流す広報中心のものとし、これには本システムに 関与する組織等からある程度義務的に参加していただきます。 これを仮にレベル1と称します。一方、本システムを経由する 全メールを受け取るMLはあくまでも自由意志 で登録するものとし、ここではMLへの直接の 返信も可能とします。これをレベル2のMLとします。

 レベル1の登録者はレベル2のMLの交信記 録をすべて参照できるものとします。また、世話人へ連絡を することにより、レベル2のMLへも情報を流したり、 意見を述べることができるものとします。

 他方、本システム初心者への助言体制が必要となります。 新規登録の段階で適切な案内をすると同時に、誤った利用方法が あった場合には世話人から助言をする体制が必要と思われます。

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 MLの運用においては、ウェブを積極的に活用すること により参加者の相互理解と自己啓発を進めることができます。 具体的には登録者リストの整備、過去の交信記録、申し合わ せ事項や各種の重要情報をウェブに収載します。各地の防災 訓練、災害通信訓練に関する情報もウェブに 収載し、全国の関係者で共有します。一方、災害医学関連 の文献を電子ライブラリとしてデータベース化します。 そのためには科学研究費等により資料電子化のための予算 を計上します。また本システム参加者によりワーキンググループ を組み、作業を推進します。災害医療関連文献には全自治体 の地域防災計画、すべての災害基幹病院の災害医療マニュアル なども収載します。

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 本システムを通じた非災害時の情報共有と合意形成の ためには、各分野からの担当者が実際に顔を合わせて交流 する機会を持つ必要があると思われます。その手順 として、厚生労働省および関連省庁、関連学会、災害基幹病 院連絡協議会、都道府県の担当者、ネットワーク運用会社な どから世話人を選びます。そして本システム連絡会議(仮称) を毎年開催し、各都道府県などの運用状況を報告、併せて 研修会などを実施します。非災害時において、職種を超えた 関係者の顔の見える関係を作り上げておく必要があるのでは ないでしょうか。

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 最後にまとめとして、本システムを通じた 非災害時の情報共有と合意形成のためには、 まずMLとウェブを効果的に運用する必要があります。 MLを通じた情報交換とウェブの充実により、災害医療 関係者、防災関係者の相互啓発、自己啓発の場とします。 MLでは世話人が交通整理をして効率的な情報交換を目指します。 防災訓練、災害情報訓練に関する経験を共有します。また、 本システムのみならず、他の通信経路も視野に入れた、総 合的な情報伝達能力を整備します。そして、 災害時においても世話人の調整により的確な情報伝達をはかり ます。一方、定期的に協議会等を開催して、関係者の間の顔の 見える関係を作り上げておく必要があるでしょう。

 以上、ご静聴有難うございました。

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抄録(前スライドペ-ジの最初

広域災害・救急医療情報システムの運用申し合わせの必要性について

愛媛大学医学部救急医学 越智元郎
国立病院東京災害医療センター 大友康裕

お断り:都合により口演内容は抄録とは大幅に異なっています。

 広域災害・救急医療情報システムは阪神・淡路大震災の反省のもとに構 築された情報ネットワークであるが、実際の大災害時に有効なネットワー クとして機能しうるかどうかについては、大きな不安がある。その理由の 一つが本システムが電話回線に依存しており、大災害時に本システムにア クセスできるかどうか、疑問視される所である。

 もう一つは本システムの運用方法に関して、厚生労働省、自治体、災害 基幹病院、関連学会などの間で合意は形成されておらず、とりまとめを行 う場も、調整にあたる担当者も決められていないことである。筆者らは日 本臨床救急医学会総会(2000年4月)のワークショップ:広域災害・救急 医療情報システムの効果的運用法 において論議を深めたのを契機に、本 システムのメーリングリスト(wds)上で、本システムの運用法に関する論 議を行うことを提案したが、結局は実現せず現在に至っている。

 われわれが提議した具体的な問題点には、1.本システムを「災害モー ド」へ切り替える基準、2.ある都道府県が災害モード運用となった時に どの地域まで支援情報を入力するべきか、3.ある地域で災害が発生した 際,非被災地域の災害拠点病院は「いつ」支援情報を入力するべきか、4. 支援情報入力を依頼する方法、5.支援情報の更新について、6.支援対 応状況を wds上で報告する必要があるのか、7.支援情報を入力する数字 に対する責任、8.広域災害・救急医療情報システムを導入していない府 県での災害発生時の対応、などがある。われわれは関係者が本システムの 上記のような問題点について論議し、申し合わせを作成、運用世話人など による舵取りを実施することを願うものである。

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■ 救急・災害医療ホームページ□第29回日本救急医学会総会ホームページ)