集団災害医学会用語集への提案書

愛媛大学医学部救急医学 越智元郎


目次: ■送付状  通信関係   救急医療システム・心肺蘇生関係

日本集団災害医学会用語検討委員会 御中

 日本集団災害医学会用語検討委員会の御依頼により、通信関係ならびに 救急医療システム・心肺蘇生関係の重要用語をピックアップ致しました。 通信関係につきましては一部の語の英訳についてはよい情報を得られず、現代語事典などを確認する必要がございます。用語の位置づけにつきましては参考文献中の図をご参考 いただければ幸いと存じます。

 救急医療システム・心肺蘇生関係の用語につきましては American Heart Association の新しい心肺蘇生法ガイドラインが刊行され、わが国の様々 な関連用語についても見直しが必要となっております。今回、日本集団災 害医学会用語検討委員会へお送りする意見書は日本救急医学会ならびに日 本救急医療財団(わが国の新しい心肺蘇生法指針の策定を担当されます) にも送付させていただく予定です。

 以上、ご高配のほどどうぞよろしくお願い申し上げます。

平成12年12月18日

            〒791-0295 愛媛県温泉郡重信町志津川
            愛媛大学医学部救急医学 越智元郎
               TEL 089-960-5722(直通)
               FAX 089-960-5714
               e-mail: gochi@m.ehime-u.ac.jp


通信関係

 符号:
X―日本集団災害医学会用語集(一次案)から削除、または変更することを提案する語
・―上記の代案または新しく追加したい語

 短波無線 HF radio
 超短波無線 VHF radios

X高周波無線 HF radio
・極超短波 UHF radio (ultra high frequency radio)

 アマチュア無線 amateur radio(ham radio)
 社団法人・日本アマチュア無線連盟 Japan Amateur Radio League, Inc.(JARL)
 行政無線 disaster control center radio
 防災行政無線 disaster PA(=public-address) radio network

X消防無線 fire department radio communications
・消防無線 fire department radio, FD radio

X消防防災無線 disaster PA radio network for the fire department
・消防防災無線網 disaster PA radio network for the fire department

・中央防災無線網 central disaster PA radio network
・都道府県防災行政無線 disaster PA radio network for prefectures
 市町村防災無線 disaster PA radio network for municipalities
 公共機関無線 EOC radio, dispatch center communication
 警察無線 police radio
・防災相互通信用無線
・車載型無線機
・携帯型無線機
・屋外拡声器
・個別受信機
・MCA方式無線 multi-channel access
・日本電信電話(株)NTT (Nippon Telegraph and Telephone Corporation)
・日本放送協会 NHK (Nippon Hoso Kyokai)
・衛星通信車載局
・災害時有線電話
・(電話の)輻輳 congestion of the telephone lines
・一斉通報
・広域・災害救急医療情報システム

Wide-Area Disaster & Emergency Medical Information Service System
・救急医療情報センター Emergency Medical Information Service
・救急医療情報システム Emergency Medical Information System
・災害発生時自動音声通報装置
・統制局
・小型地方局(VSAT局) Very Small Aperture Terminal

・地震活動等総合監視システム(EPOS: Earthquake Phenomena Observation System)
・地震津波監視システム(ETOS: Earthquake Tsunami Observation System)
・(消防庁)防災情報ネットワークシステム
・地域気象観測システム(AMeDAS:     )
・静止気象衛星システム(GMSS:      )
・気象資料総合処理システム(COSMETS:   )
・全国中枢気象資料自動編集中継装置(C-ADESS:   )
・予警報一斉伝達装置
・気象資料伝送網(L-ADESS:    )
・地震防災情報システム Disaster Information System (DIS)
・地震被害早期評価システム Early Estimate System (EES)
・応急対策支援システム Emergency Measures Support System (EMS)
・大阪府防災情報システム (O-Dis)
・気象等観測情報収集・予測システム

参考文献

  1. 「情報収集伝達体制について」中村 顕、吉岡敏治ほか編・集団災害医療マニュアル、へるす出版、東京、2000年、pp.122-140


救急医療システム・心肺蘇生関係

 符号:
X―日本集団災害医学会用語集(一次案)から削除、または変更することを提案する語
・―上記の代案または新しく追加したい語

X覚知時間 the recognition time, the time of recognition
・覚知時刻 recognition time
 
ある1点の "時刻" を指す用語、「ウツタイン様式 日本語版」1)で採用
http://www.americanheart.org/utstein/j3uts0.html

・覚知−現着時間 call-response interval, response time*
 

ウツタイン様式日本語版1)で採用

・バイスタンダ−(居合わせた市民)による心肺蘇生
 bystander CPR, lay responder CPR, citizen CPR

 日本医師会監修 救急蘇生法の指針、1993年2)では、居合わせた市民(バイスタンダー)による心肺蘇生は "救命手当"、救急隊員によるものを "応急処置"、救急救命士によるものを "救急救命処置" と区別しているが、これらの区別は必ずしも定着していない。

・第一応答者(ファーストレスポンダー) first responder

 日本では定着していない、しかし世界的に重要な用語である。ILCOR勧告3)では本訳を使用している。ファーストレスポンダーとカタカナ表記も可と思われる。ウツタイン様式日本語版1)では「一次当事者」を用いているが、この訳はほとんど知られていない。

・心停止 Cardiac arrest

 1995年の日本救急医学会 救命救急法検討委員会の定義4)では「心肺停止 cardiopulmonary arrest」という語を用いているが、cardiopulmonary arrest はすなわち cardiac arrest であり、cardiopulmonary arrest(CPA)と表記する欧文文献はほとんどみられない。よって心肺停止は単に心停止と表記するのがよいだろう。

・心静止 asystole

 アシストール、無収縮という表現もあるが、日本救急医学会 救命救急法検討委員会の定義4)にある「心静止」が最も広く用いられている語である。

・心室細動 ventricular fibrillation, VF
・心室頻拍(心室性頻拍) ventricular tachycardia, VT
・無脈性心室頻拍 pulseless ventricular tachycardia, pulseless VT

 日本救急医学会 救命救急法検討委員会の定義4)では、心(肺)停止患者における心電図所見の分類として、心静止、心室細動、心室頻拍、電気的除細動を上げている。プレホスピタルケアにおいて心室細動とともに重視される心室頻拍を欠くことはできない。
 なお、心室頻拍、心室性頻拍はともに用いられるが、pulseless ventricular tachycardiaの訳として無脈性(脈なし)心室頻拍という表現もされるため、より短い語として「心室頻拍」を推奨したい。

・心室細動/心室性頻拍 VF/VT

 心室細動および脈を触れない心室性頻拍を総称していう。救急医療においては早期の電気的除細動を要する心電図波形として特別に扱う。逆に VF/VT以外の心停止例は non-VF/VTと分類される。

・無脈性電気活動 pulseless electrical activity (PEA)

 電導収縮解離(EMD)はウツタイン様式1)の定義の見直し作業でも定義があいまいな点が多いので、"その他"に分類されている。
 またILCOR勧告3)、AHA Guidelines 2000 5)ともに、心停止で asystole、VF、VT以外のものを pulseless electrical activity (PEA)と総称している。わが国でもこれを用いるべきである。日本語訳には定着したものはなく、われわれは「無脈性電気活動」を推奨する(代案としては「脈無し電気活動」)。

・自己心拍再開 return of spontaneous circulation (ROSC)
・生存退院 discharged alive
・一年以上生存 alive at 1 year

 上記3語はウツタイン様式1)で用いられる、心停止患者の予後を表す用語である。

・DNAR指示 Do-Not-Attempt-Resuscitation (DNAR) order

 日本救急医学会の定義4) では DNR(Do-Not-Resuscitate)orderと表記されていた。AHA Guideline 2000では DNAR が用いられたことから、われわれは「DNAR指示」を推奨する。癌の末期、老衰、治療不可能な疾患などの理由により、患者本人またはその代理人が、心停止に陥った場合に心肺蘇生法を行わないことを求める文書をいう。この語については日本語に置き換えるのは困難であろう。
 なお、日本救急医学会 救命救急法検討委員会は、患者の意思表示をもとに医師がこの指示(order)を出すものと記載4)したが、実際には指示(order)の主体は患者またはその代理人である。

 救急医療 emergency medical services EMS
 救急医療機関 registerd emergency hospital
 救急医療情報センター emergency medical information center

X救急救命士 Japanese paramedic, EMT-D
・救急救命士      emergency life-saving technician

 日本の救急救命士にparamedicの語をあてるのは適切ではない。救急救命士には米国の EMT-Dに相当するレベルの処置しか許されていないため。emergency life-saving technicianおよびemergency life-saving technician's lawは政府機関が用いる正式用語である。

X救急救命士法 the Paramedic Law
  ・救急救命士法     emergency life-saving technician's law

 救急室     emergency room ER
 救急出動    an ambulance run (response)
 救急処置    first aid procedures
救急隊員    emergency medical technician, EMT, EMS personnel
救急搬送 ambulance transportation
 救急部 emergency department ED
 救命救急センター   emergency medical service center
 高度救命救急センター critical care medical center

 (資料を持ち合わせていませんが、要調査と思います。)

  X高規格救急車 ALS ambulance, morbile ICU
・高規格救急車 ALS ambulance

 mobile ICUは通常の高規格救急車よりもサイズがもっと大きく、医師が同乗し、IABPやPCPSなども積載、稼働させ、病院内とほぼ変わらない高度医療を行うタイプのもの。フランスのSAMUで運用されており、わが国ではまだ運用されていない。

 心肺蘇生法 cardiopulmonary resuscitation CPR

・電気的除細動  electrical defibrillation
・除細動器 defibrillator
・自動式体外式除細動器 automated external defibrillator(AED)

Xadvanced cardiac life support ACLS 医療的心循環救命手技
・advanced cardiac life support ACLS 二次心臓救命処置
(advanced cardiovascular life support *)

 二次心臓救命処置の方が一般的である。なお二次救命処置(advanced life support, ALS)と短縮して表記されることもある。AHA Guidelines 2000 5) ではadvanced cardiovascular life supportが用いられており、今後は cardiac よりも cardiovascular が頻用されることになろう。

Xadvanced life support ALS 医療的救命手技
・advanced life support ALS 二次救命処置
・advanced CPR* 二次救命処置

Xadvanced trauma life support ATLS 医療的外傷救命手技
・advanced trauma life support ATLS 二次外傷救命処置

 life supporting first aid LSFA 応急救命処置

・basic life support      BLS 一次救命処置

・Emergency Cardiovascular Care ECC 緊急心臓血管治療、救急心臓血管治療

 AHA Guidelines 2000 5)より前のガイドラインでは Emergency Cardiac Care (ECC)と表記された。Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care (CPR & ECC) と併記され、緊急治療を必要とする非外傷性疾患を総称する。

参考文献:

  1. ウツタイン様式 日本語版
    http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/02/uts/j3uts0.html
  2. 日本医師会監修:救急蘇生法の指針― 一般市民のために―、へるす出版、東京、1993
  3. 国際蘇生法連絡委員会による勧告 http://plaza.umin.ac.jp/~GHDNet/99/ilcor4.html
  4. 小濱啓次、医療機関に来院する心肺機能停止に関する用語.日本救急医学会雑誌 6: 198, 1995
  5. The American Heart Association in collaboration with the International Liaison Committee on Resuscitation (ILCOR): Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care, Circulation 102, 2000.


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