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14回家庭医の生涯教育のためのワークショップ

内容の詳細

● 11日(一日目)
家庭医のための「感染症に強くなる」

   亀田総合病院  岩田健太郎氏

 感染症に強くなるのは、いきなり身も蓋もない話で申し訳ないのですが、難しいです。王道なしです。この、難しい、という現実、事実を受け入れるところからすべてがスタートします。熱が出たりCRPがでていたらとりあえず抗生剤を何でもいいからだしとけばいいや、というものではないのです。相当量の勉強も経験も、もしかしたら幾ばくかのセンス、才能も必要です。
 けれども、感染症の難しさのレベルは、あらゆる診療の難しさのレベルと同じです。診断が難しい。重症度判定が難しい。安価で効果的で、副作用の少ない治療を選択するのが難しい。感染症は、そういう意味ではあらゆる病気と同じであり、何も特別なことはありません。これまで、特別に簡単な病気だと勘違いされてきただけです。「うーん、CRPがあがってきたから、とりあえず抗生剤つかっとこ」は、「うーん、なんだか腫瘍マーカーあがってきたなあ。明日から抗ガン剤でも使ってみるか」と同じ理屈を用いています。後者は受け入れがたい暴挙ですが、前者は日常的な光景として遍在しています。
 必要なのは、感染症の異化ではなく、ノーマリゼーションです。まっとうな目で、真摯な目で感染症を見つめ直す機会にしていただければ、これ以上の喜びはありません。


● 12日(二日目)
(1)「プライマリ・ケアでの尿路感染症および性感染症」

   神戸大学医学部附属病院手術部・感染制御部  荒川創一 氏

 尿路感染症を正確に診断する3ポイントは「(1)症候(膀胱炎症状、腰痛、発熱)、(2)中間尿での膿尿、(3)エコー(残尿、水腎などの有無)」です。尿路感染症は、ほとんどが細菌感染ですが、外来で日常的に遭遇する女性の単純性膀胱炎をまずよく理解することから始まります。他方、結石が尿管に詰まって膿腎症を起こし、早くドレナージ(尿管ステント留置や腎ろう造設)が必要な病態や糖尿病での重症感染(気腫性腎盂腎炎)など、いわゆる尿路性敗血症(urosepsis)まで、幅広くご紹介いたします。
 性感染症は、HIV感染が増える中、十代の若者への教育という視点も必要ですし、薬剤耐性淋菌の問題や、クラミジア保菌の多さは看過できません。2005年10月に刊行された日本感染症学会・日本化学療法学会編集の「抗菌薬使用のガイドライン」をもとに、ディスカッションでは抗菌薬の適正使用を大いに語り合いましょう。

(2)(9)「かぜ症候群へのアプローチ、抗菌薬使う?使わない?」

   田坂内科小児科医院  田坂佳千氏

 “かぜ症候群”は、一般開業医、家庭医のとり扱う事の多い、急性のコモンディジーズですが、その取り扱いは、それほど簡単なものではないと考えています。私も常に悩みながら”かぜ症候群”の診療に当たっております。
 WSでは、世界の過去のエビデンスと小生の経験を紹介しつつ、皆様の経験を融合し、皆様とともに“かぜ症候群へのアプローチ(病歴+診察所見+日常使える検査を含め)”について、模索したいと考えています。当日は、当院の電子カルテから咽頭所見など、視覚的な症例提示も併用予定です。皆様からの症例提示も歓迎いたしますので、ファイルなどご持参いただけましたら幸いです。

(3)(10)「膝の診かた」

   西伊豆病院  仲田和正氏

 私は当初外科医になるつもりでした。しかし初めて僻地診療所を見学したとき整形外科疾患の多いのに大変驚き、途中で整形外科に志望を変更しました。就中、膝疾患は診療所ではごく有り触れたものです。整形外科診断学は解剖学そのものです。皆さん自身で自分の膝を触診して頂き膝の診断学を学びます。翌日からの診療に即使える知識を提供いたします。

(4)「家族志向のプライマリ・ケア」〜家族システム理論を用いて家族を理解する〜

   山口大学医学部附属病院 総合診療部  原田唯成氏
   東京医科大学病院 総合診療科  齊藤裕之氏
   奈義ファミリークリニック  田中久也氏

 学生時代の私は、家庭医がどのような目的で、どのような方法で家族に関わるのだろうかと不思議に思っていました。実際に、その必要性を家庭医の先生方からお話して頂いてもなかなか具体的なイメージが沸きませんでしたし、自分の疑問は一向に解消しませんでした。
 その後、医師となり自分が理想とする家庭医になるべく研修を続け、地域での実践を通じてようやくそのことを実感できたように思います。“家庭医がどのように患者とその家族に関わるのか?”WSの前半では、一般的知識として家族志向のプライマリ・ケアの原則、家族ライフサイクルを整理し、後半は家族カンファレンスのロールプレイを通じて、家族を理解する家族システム理論を紹介します。WSで参加者の皆さんと「家庭医が家族と関わる必要性」を実感できたらと思います。

(5)「ウィメンズヘルス」〜医療面接だけでここまでできる〜

   北足立生協診療所  井上真智子氏
   熊本大学総合診療部  早野恵子氏
   川崎医療生協 あさお診療所  西村真紀氏

 わが国では、月経や妊娠、更年期などの女性の健康維持に関する問題について、日頃から気軽に相談できる場所が少なく、一人で悩んでいる女性患者さんが散見されます。また、妊娠前ケア、がん検診、性感染症予防や避妊などの予防医学的知識へのアクセスが十分でない女性も外来でしばしば見かけます。一方、女性患者さんの問題にもっと取り組んでいきたいと思ってはいても、内診などの設備やスキルがないために逡巡している先生方もいるかもしれません。
 今回のWSは、ウィメンズヘルスに関して医療面接だけでどこまで対応できるかという実例を共有し、その効用や応用範囲の広さを実感するために企画しました。一般診察室で可能なことやその限界、婦人科専門医への紹介のタイミングについても、一緒に考えてみましょう。明日からは一歩前進して、普段の診察室からウィメンズヘルスに積極的に取り組んでいこう!という思いを参加者の皆様と共有しましょう。

(6)「認知症をかかえる家族へのサポート」

   佐賀大学保健管理センター  佐藤 武氏

 認知症をかかえる家族との診察を通して、介護者およびその家族の戸惑いは、次の三つの時期を相互に経過しているように思われる。それは、「自己犠牲」、「共生」、「家族崩壊」に分けられる。
 当初は介護者だけが苦しめばよいと自己犠牲的な時期を経験する。次第に家族からの援助と理解が十分な共生可能な時期を経過するが、認知症がさらに進行すれば、介護者だけでなく、家族全体が言葉を交わさなくなり、病気がちとなる。最終的には、家族崩壊さらには施設入所せざるを得ない状況に追いつめられる。それは決してネガティブな経過ではなく、認知症をかかえる家族の運命でもある。
 医療者は認知症に介在するさまざまな相談を受けることになるが、問題行動に対するアプローチおよび家族への対応を考えたい。

(7)(14)「動悸を訴える患者さんが外来に来たら」〜不整脈〜

   伊賀内科・循環器科  伊賀幹二氏

 一言で「動悸」といっても、実際には、速い動悸もあれば遅い動悸もあり、不規則な動悸から規則正しい動悸まで、様々のものが存在する。加えて、労作時の息切れや胸部圧迫感を動悸と表現する人もある。病歴をうまく聞き出すことができれば、動悸の原因は半分以上が明確になる。診断に病歴が重要であると言うことはいくら強調しても強調しすぎることはない。
 今回のワークショップでは患者からどうのようにしてうまく病歴を聞き出すか、加えて患者の解釈モデルも聞き出さないと解決にはならないという点を中心に双方向の議論をしていきたい。

(8)(15)「小児の発熱を伴う気道感染症を科学する」

   原小児科  原三千丸氏

 小児の外来診療では、毎日、高熱を主訴に沢山の子供達がやってきます。その多くは気道感染症であり、一部は腸管感染症です。
 日常的に遭遇する感染症の症状、好発年齢、流行時期、理学的所見を熟知した上で、迅速診断キット、血液検査(検血一般、CRP定量)、胸部X線写真などの検査を駆使すれば、診療の質は飛躍的に向上するはずです。
 発熱児を診た場合、まず咳の有無で選り分けます。咳と高熱の乳幼児であればウイルス性かぜ症候群を考えます。インフルエンザウイルス(迅速診断可)、RSウイルス(迅速診断可)、ヒトメタニューモウイルス(遺伝子診断)などが原因ウイルスです。肺炎も稀ながらみられます。演者は、咳と高熱の数百人の小児の前方視的検討を行ない、新しい事実を発見しました。10歳以上では、咳と高熱のかぜはいないのです。インフルエンザか肺炎です。健康成人ではどうでしょうか?さらに、咳の無い発熱児へと話は続きます。

(11)「旅行医学」

   東京厚生年金病院内科・日本旅行医学会理事  溝尾 朗氏

 日本人海外旅行者の数は年間1700万人、海外在留邦人数は100万人を超える時代になり、家庭医療における旅行医学の重要性が増しました。多くの医師が、旅行前のワクチンや英文診断書を依頼され、持病を持つ人の旅行に関するアドバイスを求められたことがあるにちがいありません。その社会的需要に応えるため、2003年から当院で旅行医学外来の診療を始めました。受診者の内訳は、予約制という制限もありますが、旅行前の相談や英文診断書、ワクチン接種が90%を占め、旅行者下痢症をはじめとする旅行関連疾患の診断・治療は10%に過ぎません。つまり、旅行医学に求められていることは予防医学なのです。
 当院における旅行医学外来における症例を紹介しながら、予防医学としての旅行医学を一緒に学びましょう。旅行好きな人もあまり旅行に行かない人も歓迎です。当日は、2002年にできたばかりの日本旅行医学会の活動も少し紹介させていただきます。

(12)(19)「めまい」

   医薬品医療機器総合機構  池田正行氏

 実はわたしもめまいが苦手です。だから、今まで、めまいの話からは逃げ回っていました。私のような神経内科医ばかりでなく、耳鼻科医や脳神経外科医の多くも、それぞれ自分の領域だけで、めまいの中でも限られた患者集団の、横断的症状しか診ていないから、自信が持てないのです。では、なぜ、今回、私がめまいの話をする気になったのか?それも、私が苦手だからです。眼振の症候学や、眼球運動生理検査の解釈の難解さ、結局MRIに頼らなければならないのかという無力感、小脳・脳幹梗塞を除外しきれないもどかしさ・・・苦手の私だからこそ、みなさんの気持ちがよくわかるのです。
 せっかくの休日を潰していらしていただいたみなさんに、三つのお約束をします。一つ、眼振の症候学はお話ししません。二つ、MRI画像のお話もしません。三つ、病歴だけで、小脳・脳幹梗塞を除外する方法をお話しします。お楽しみに。

(13)「こころアレルギー」〜不安・うつへの理解を深めるために〜

   佐賀大学保健管理センター  佐藤 武氏

 自己免疫疾患は、リンパ球が自分の身体を認識できずに攻撃する病気。不安・うつは、自分のこころを意味もなく攻撃する病気。いずれも認知のミステイクで、身体とこころを知らず知らずのうちに傷つけるアレルギー反応でもある。
 こころの病気では、一般に自分を過度に責めてしまうのが特徴で、「こころアレルギー」と命名したい。次第に、周囲との人間関係において疲れ果て、社会的に引きこもりがちとなるために、こころのケアが必要とされる。医療者の役目とは何だろうか?「自分を責めないで」「自分の思うがままに(あるがままに・ありのままに)」というメッセージを伝えてあげる仕事だろうか。一緒に考えてみたい。

(16)「市中肺炎」

   中浜医院  中浜 力氏

 2000年に日本呼吸器学会より“成人市中肺炎診療ガイドライン”が発表されて以来、市中肺炎は再び大きく見直されるようになった。また肺炎の外来診断法も肺炎球菌・レジオネラ尿中抗原検査やクラミジア・ニューモニエ検査の登場により大きな進歩を見せている。しかしわが国の肺炎治療は、未だ諸外国と異なり入院治療が主体である。
 今回はその市中肺炎の「外来治療」を中心に、解説をさせていただく。主な内容は昨年のガイドライン改訂版のポイントならびに多施設研究の成績を提示し、細菌性・非定型肺炎の鑑別診断、抗菌薬選択、スイッチ療法などプライマリ・ケアでの具体的対応について述べる。また医療環境が変化する中で、肺炎治療のクリニカルパスや患者満足度についても紹介をする予定である。

(17)「楽しく無理のない禁煙支援ノウハウ」〜日ごろの疑問や悩みをスッキリ解消〜

   奈良女子大学 保健管理センター  高橋裕子氏
   慶應義塾大学・禁煙マラソン  三浦秀史氏

 禁煙支援は、単に禁煙することがゴールではありません。禁煙を通じて、喫煙者の生活や健康など支援していく。つまり、患者さまの人生そのものと密接に関ってサポートしていくべきものです。だから、家庭医こそが最適な支援者です。4月から保険適用されたことも、家庭医が禁煙支援に携わるよいきっかけになりました。
 私たちの禁煙支援のモットーは「禁煙はするほうも、支援するほうも楽しく仲間とともに!」です。今回のWSを通して、「禁煙支援は楽しい」を実感していただくとともに、明日からの診療に直接的に役立つノウハウを提供します。これを機に1人でも、多くの家庭医が禁煙支援に携わっていただけることを願います。

(18)「臨床栄養」〜家庭医が知っていると役立つ栄養の知識〜

   北海道家庭医療学センター 登別記念病院  佐藤健一氏

 栄養管理が重要なのは知っているがどのように行ったらよいかわからない、在宅の受療者にも栄養管理を行いたいが初めの一歩が踏み出せない、そもそも医学を行うのに栄養管理は本当に必要なのか...そのような悩みを持ちながら日々の診療を行っている方は多いのではないでしょうか?
 しかし、生きるためには栄養が重要であり、栄養状態で医学的な治療効果が左右されるという事実を考えると、決しておろそかにしてはいけない知識なのです。
 今回は栄養の基礎的な考え方、栄養管理の手順、栄養剤の基礎知識、実際のエネルギー量・タンパク質量の計算、在宅でも使える体重の推定方法などを話していく予定です。今まで漫然と行っていた栄養管理から、自信を持って関わって考えていく栄養管理を行うために一緒に学んでいきましょう。
 *参加の際には電卓を持参していただけますようお願いいたします。

(20)「今晩から使える!日常診療での効率のよい情報収集の方法」

   虎の門病院分院 内科総合診療科  南郷栄秀氏

 日常診療で困ったときに何を調べればよいのか、迷っていませんか?たくさんの教科書や雑誌を買っても、ほとんど読まないまま本棚の肥やしになっているだけの方も多いと思います(私もそうでした)。医者はみな忙しいのですから、あとで読もうと思ってもどうせ読みません。疑問に思ったときこそ勉強のチャンス!でもそのチャンスは一瞬で消えてしまいます。わずかなチャンスを捉えて勉強するために、本当に役に立つ情報を簡単に調べる方法を身につけておきたいものですね。
 このWSでは、素早く検索できて読みやすくまとめられた二次資料を紹介し、実際に皆さんご自身にも検索の手順を体験して頂きながら、効率の良い情報収集の方法を提案したいと思います。必ず2〜3つ程度の診療上の疑問をご用意いただき、ご自分のノートパソコンとLANケーブルをご持参の上、ご参加下さい。

(21)「診療所実習・研修を充実させるために」

   東京医科大学病院総合診療科  大滝純司氏

 診療所で学ぶ学生や研修医が急増しています。受け入れる側、送り出す側、そして学ぶ側、それぞれが診療所で学ぶことの意義と困難を感じながら、さまざまな工夫をしています。昨年7月には、日本家庭医療学会も参加しているプライマリ・ケア教育連絡協議会から、冊子「医学生を地域で育てる:地域基盤型プライマリ・ケア実習の手引き」が発行され、同協議会のホームページでも公開されています (http://www.reference.co.jp/primary-care/model2.html)。
 診療所での医学生や研修医の実習・研修を充実させるために、関係者が集まってその問題点や対策を共有しましょう。診療所での実習・研修に関係している皆さん(医学生・研修医の皆さんも!)、ぜひご参加ください。参加される場合は、問題点や対策について相談・紹介したいことをメモしておいてください。


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