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家庭医療学研究会会報 第44号 |
発行日 : 2002年1月1日
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特集/第16回家庭医療学研究会記録 |
主催者からの総括 木戸医院 木戸友幸
16回目の当研究会を主催した総括を述べさせていただきます。テーマは「患者満足度を再考する」でした。特別講演では京都大学の福原先生に「プロセスとアウトカム:家庭医の存在の証明」と題した、分かりやすくかつ格調の高い講演をしていただきました。この特別講演は、家庭医の存在の意義を証明するために家庭医自らが質的研究にも手を染めなければならないのではなかろうかという非常に示唆に富むものでした。この講演終了後には、福原先生のもとへ個人的な質問が列をなして相次ぎ、家庭医の研究面への関心の高さも浮き彫りにされました。会長講演は「満足度を求めての旅」と題し、自らの四半世紀を振り返っての家庭医療を巡る遍歴を語りました。患者満足度を上げるためには、医師自らが生き生きと満足して活動する必要があると言いたかったつもりです。当研究会の最近の最大の売りである、ワークショップは今回は9つ開かれ、どの部門でも非常に熱心な討議がなされていたようです。すべてが同時進行なので、一つにしか参加できないことが、ちょっともったいないという意見が聞かれ、その点の改善が今後の課題になっています。
会長講演「満足度を求めての旅」要約 座長 北大 大滝純司
最近の当研究会の盛会ぶりを象徴するかのように、ほぼ満員の会場で会長講演が始まりました。木戸先生は上記「主催者からの総括」にもあるように、米国での臨床研修、国立大阪病院での指導医活動、湾岸危機への日本医療隊隊長としての参加、パリ・アメリカン病院で初の邦人医療担当医としての診療活動、そして現在の活動の場である木戸医院の診療の様子や新築された建物など、家庭医として患者さんと御自分自身の満足度を追及し続けてきた経歴をユーモアを交えた軽妙な語り口で紹介してくださいました。このように世界を股にかけた、そして前例のない活動を展開してこられた先生の多才ぶりと意志の強さに強い感銘を受けました。木戸医院のホームページ(http://www.carefriends.com/kido/)でもその一端を見ることができますので、皆様是非御覧ください。
特別講演 プロセスとアウトカム : 家庭医の「存在の証明」要約 座長 名古屋大学 伴 信太郎
特別講演は京都大学の福原俊一先生の登場であった。卒後研修を横須賀海軍病院で開始した氏は、その後カリフォルニア大学サンフランシスコ校の内科レジデントを経て、国立東京第二病院(現在の国立病院東京医療センター)の総合診療科の立ち上げに関わった経歴の持ち主である。最近は、QOL研究での活躍が目覚ましい。氏は、家庭医という"総合する専門医"が地歩を固めるための要件として、自分たちの行なっている医療の正当性を証明する必要があり、そのためにはプロセス評価とアウトカム評価が必要であることを具体的な例を示しながら述べた。そのときに、家庭医療の研究は最終的に患者のアウトカムを改善することが究極の目標であるので、医療の質の改善、患者のアウトカムの改善につなげるための実践につながるような研究である必要があることを忘れてはならないということを強調した。そのために今すぐできることとして、データや言葉の標準化、評価指標の標準化、研究者の養成などがあることを述べた上で、ただし、現時点では我が国における研究費配分に関する意思決定システム、臨床研究を支えるインフラの脆弱性、多分野のmethodologistが協力しづらい「研究文化」、研究者を育成する教育プログラムの不足、など家庭医療学に必要な研究を阻害する因子が少なくない現状にも触れた。この講演から、家庭医にとっても研究という扉がようやく少し開かれかけている様子が窺われた。家庭医が研究や教育と無縁な存在である限り、氏の言う『家庭医の存在の証明』は永久にできない。その意味で、大学の役割は大きい。具体的な数字をちりばめた、非常に興味深いこの講演は、家庭医療を目指す若い人達の先行きに一条の光明を照らし出したと思われる。
ワークショップ担当者からの報告 (1) 家族面接シミュレーション
竹中医院・名古屋大 竹中裕昭
昨年に引き続き、本ワークショップを担当させていただいた。昨年はわずか5名の御参加であったが、今年は19名(スタッフを含めると24名)の御参加をいただいた。 [ワークショップの進行] まずコーディネーターと参加者が各々の自己紹介を行った。その後、ある家族の"食卓図"を見るだけで、ある程度の家族力動(Family dynamics)がわかることを体験していただいた。続いて症例検討を行った。まずプライマリ・ケア、家庭医療の現場でよく見られる腰椎圧迫骨折患者のClinical reasoningを行い、家族面接はあくまで日常診療の一コマで、特別なものではないことを確認した。次いで家族に関する検討(Preconference task)を、家族図(Family genogram)と家族ライフサイクル(Family lifecycle)を利用しながら行った。そしていよいよロールプレイに移った。今回は、症状が取れない腰椎圧迫骨折に対して不安を抱いた家族に、研修医、指導医がどう臨むのかという設定である。ロールプレイは医師役、指導医師役、看護士役、家族役3名、患者本人役の計7名で行った。医師役、指導医師役の方には、どのように面接を進めていくのかを体験していただき、他の役の方からのフィードバックを受けてもらった。患者役、家族役の方には、普段なかなか味わえない"逆の立場"を味わっていただいた。看護士役の方は今回出番が少なかったが、同席したナースの立場を味わっていただいた。 [振り返り] フィードバックでは、このようなケースに対しては、説明よりも患者、家族の立場、状況、気持ちなどを語ってもらうこと(Narrative)が重要であるというご指摘を受けた。今回、参加者が予定人数の2倍に膨れ上がるという"うれしい誤算"があったこと、及び事前に参加者に調査したリクエストに可能な限り応えようとしたため、時間が不足がちになり、十分なワーク、ディスカッションを提供できなかったことをこの場を借りてお詫びしたい。しかしながら今回のワークショップを経験して、家族面接ワークショップの主な教育内容は固まってきた。一方で参加者から、自己学習の際の教材、教育法の確立など今後の課題もいただいた。今後、より充実した家族アプローチ教育を提供できるように心掛けていきたい。 [謝辞] 最後にこのような機会を与えてくださった木戸友幸大会長、並びにお手伝いいただいたスタッフの先生方にこの場を借りて深謝申し上げたい。
(2) 医療面接 初級編 筑波大 前野哲博
医療面接初級編は、少人数での落ち着いたセッションになりました。最初に医療面接についての簡単な説明の後、二つのグループに分かれ、シナリオを用いたロールプレイを行いました。中にはロールプレイが初めてという方もいて、与えられた役をいきなり演じるのは難しかったところもあったかもしれませんが、皆さん精力的に取り組んでいただき、ロールプレイ後のディスカッションではかなり突っ込んだ意見交換が行われていました。特に、今回は対象として医学生、研修医を想定していたのですが、鍼灸師の方などさまざまな職種の方が集まり、おまけに、取材に来ていた記者の方までロールプレイに引き込んで、バラエティに富んだ非常に面白い議論ができました。僕自身もワークショップのファシリテーターを担当するのは初めてで、どれだけ参加者の皆さんのお役に立てたかわかりませんが、今回のワークショップで医療面接がどういうものかということを少しでも感じていただければと思っています。
(3) 医療面接 中上級編 船橋市立医療センター 箕輪良行
ジェネラリストを志向する若手の医師たちが集う本研究会にとって、学術集会は大きな出会いの場でもあるようです。総合医、家庭医、一般医というような横に広い守備範囲をもつ専門医は大きな魅力あるモデルですが、適当な養成研修の場が不足してして希望者は集会の色々な出会いを一つの選択肢にしていると思われました。そのせいか、華やかさ、魅力、活気、期待と同時にその裏返しの気分も感じられました。医療面接を医学部卒前教育のなかで指導、学習していくのは多くのところで始まり一定の成果を収めつつあるようです。コミュニケーションの基本技法や医療面接の基本構造の理解は、標準模擬患者、ロールプレイ、OSCEの実施を通してそれなりに普及してきたと思います。さてそのような基本的な素養を訓練することなく医師として、臨床経験をつみ一人前の診療をしてきた多くの臨床家にとって、医療面接の生涯教育はどうなるのでしょうか?どのような場が提供できるのでしょうか?私はそのような問題意識から、今回のワークショップをお引き受けしました。一般教育目標、個別目標を示して参加者に考えて仮想してもらいながら、一定の共通認識をもてるようなものを目指しました。本松茂先生と私の二人に加えて、医学生から総合診療部教授まで7人の参加者を得て約2時間半のセッションを行いました。臨床場面として突然の乳児死亡を経験した両親への面接、胃癌を発見されて「通知」される夫婦への面接という、ともに「悪い知らせの医療面接」という共通テーマです。実際に救急や外科、一般内科での体験を踏まえて、また家族力動、喪失体験、悲嘆反応を念頭においた面接がロールプレイで行われました。経験の豊かな臨床医同士のために、大きく場面設定してあればシナリオを自由に想定して生き生きと仮想訓練できることが分かりました。これは医学生や経験の未熟なものによるワークショップではできないと思われます。二つの臨床場面に関して用意されたプリントにそった簡単なブリーフィングがあり、質疑応答を実施しました。わが国の第一線における実際の体験にもとづいた意見が交されました。成人学習理論を基づいて、自らの体験、実際に役立てることを意識したテーマの設定、指導者と学習者との情報と感情の交流、科学的な根拠があり道理と納得できる程度の「新しい知識」の提供、小人数グループによる不安と恥ずかしさ、脅威の除去といった配慮が有用と思われました。参加者の満足感に関しては十分に検討しなかったのが反省である。今後とも上記のような問題意識から、参加者に満足していただける医療面接に関する生涯教育の場を用意していく必要があると考えました。
(4) 臨床倫理四分割法 三瀬村国保診療所 白浜雅司
臨床倫理四分割法のWSは、15名の出席でなされました。事前に参加者へのメールで、検討事例の提示と、参加者からの事例の公募をしたためか、参加された皆さんのレディネスが非常に高かったようです。前半私の方から4分割法の考え方を提示し、心不全があって食事療法が必要な高齢患者の在宅医療の事例を一緒に考えました。実際に在宅医療の経験のある方も多く、家庭背景の質問など実践的な討議が出来ました。後半は3つのグループに別れて、参加者から提示された、人工呼吸器の適応の問題、高齢者の嚥下性肺炎の治療方針、在宅ケアでの褥瘡の事例を検討しました。それぞれについて、医学的適応、患者の思い、家族の思いなどをどのように取り入れて、対応していくのか、熱心な討論がなされました。進行の不手際で、実際の事例討論の時間が少なくなってしまったことが大変申しわけなかったのですが、ポストアンケートで明日からの診療で、他の職種の方とこの方法を使って考えてみたいという意見がいくつか出ていたことはこのWSを企画したものとして一番嬉しいことでした。
(5) プライマリ・ケア外来研修指導シミュレーション パート2 北部東京家庭医療学センター 藤沼康樹,大野毎子
昨年の総会に引き続き外来研修指導の具体的な方法を学ぶワークショップを持たせていただきました。今年は、成人教育理論を背景とした、フィードバックのかけ方の講義の後、実際の研修医に模擬研修医を、指導医役を参加した方たちにやっていただき、実際にフィードバックをかけるというロール・プレイを行いました。模擬研修医に対する指導ロールプレイという手法は、奇抜ではありますが昨年、今年とやってみて、指導医養成の技法として、使えるという実感を持っています。参加は運営側を含めると34名、フィードバック用紙をご記入いただけた参加者数は28名でした。フィードバックをいただいた方からの評価は、平均8.6点で高い評価をいただきました。しかしながら、まだまだ改善の余地があるというご指摘もいただいております。例としては(1)小グループのディスカッションをもっとやったほうがよい(2)もっと多くの参加者に指導医役をやらせてほしい(3)問題をかかえる研修医(difficult resident?)の指導のシミュレーションをやって欲しい。などがありました。外来診療教育の経験をもっと交流したいというご意見も共通してみられ、今後この方面の交流の企画が必要であると思いました。できれば来年もぜひ開催したいと思います。参加をいただいた先生方に深く御礼申し上げます。
(6) 患者教育 奈義ファミリークリニック 松下 明
患者教育ワークショップには18名の方が参加されました。研修医1年目から卒後15年目以上の医師、出版者の方など幅広い参加者でした。アイスブレークの後、2グループに分かれて寝たきりの妻を抱える糖尿病男性にどう関わっていくか?どんな事を聞きたいかを15分程話し合い、全体で内容を共有しました。この際、模擬患者役を兼ねているワークショップ担当者(松下)が患者として、皆さんの質問に答えました(インスリンはうちたくない・ホームヘルパーに入ってもらうのは嫌だなど)。次にLEARNのアプローチを学んでもらった後、ロールプレイを3人一組で行いました。文化的背景が異なる医師・患者の間で用いると良いとされるこのモデルは頭文字を取ってLEARNとされています。1.
Listen(傾聴) : まずは相手を知ろう2. Explain(説明) : 共通語でしゃべろう3. Acknowledge(相違の明確化)
: 同じ土俵に立ったか確認しよう4. Recommend(推奨) : 患者にあったプランを勧めよう5. Negotiate(交渉) :
ケンカせずに患者をいかに支援できるか考えよう というプロセスを意識してみることで、患者のニーズにあったプランを提案(押しつけでなく)できるか、3人1組でロールプレイをやってもらいました。まずは相手を知ろうという点については皆さん既に意識されておられたので、感心しました。次に行動変容のステージ分類について理解していただきました。Precontemplation無関心期→Contemplation関心期→Preparation準備期→Action行動期→Maintenance維持期→Relapse再発期→上へ戻る
という流れで人の行動変容のプロセスを理解することで、無関心期・再発期の対応方法が容易になるようでした。最後に関心期の患者さんに対し、ある行動を変えることの自信度と重要度を分けて聞くモデルをロールプレイで練習してもらいました。1から10のスケールで聞いてもらいましたが、もう少し練習がしたいという意見が多かったです。この3つのテクニックに加え、患者の感情面に十分対応することが患者の行動変容に必要だとお話ししたところ、皆さんの経験からもそうだと納得していただきました。幅の広い層に対するワークショップでしたが、参加者の意識が高いためか非常に熱気のこもったものとなり、主催した側としては嬉しいかぎりでした。
(7) EBM初級編 春日村診療所 古賀義規
参加者は、年齢層も幅広く、全くの初心者から、かなり知識のある方までいらっしゃり、事前資料で予習してきた方、当日飛び入り参加の方もあった。2グループに分かれてグループワークと説明(講義)をまじえ、「実際の患者のケアで遭遇する臨床上の疑問を解決する方法のひとつとして、EBMをとらえることができる」いう目標を確認した。脳梗塞の既往のある高血圧患者にACEI(と利尿剤)を投与すると再発を予防できるか、という疑問をもとに、EBMの5stepに沿って進んだ。忙しい日常診療の合間にいかに短時間で疑問を解決していくか、ということも意識したリアルな設定で行った。文献の批判的吟味については、吉村先生の解りやすい講義で短時間で概要をつかめるものとなった。2人組での、患者と医師とのやりとりやMRの医師に対する資料説明場面では、現実的な疑問発生、情報収集方法、患者への適用場面を想定して行い、困った表情がみられたり、笑い声が聞かれたりした。
(8) EBM中上級編 札幌医大 宮田靖志,木村眞司
両隣のワークショップが多数の参加者でにぎわっている中、9名の参加者によりこじんまりと(?)セッションを行いました。周りの雰囲気にやや押され気味の感もありましたが、参加者の先生方は2グループに分かれ課題を熱心に議論し合い、2時間40分という時間があっという間に過ぎていきました。疑問の抽出、論文の吟味、患者さんへの適用について各先生方が意見を発表し合うことでいろいろな考え方があることが改めて知らされ、EBMの3つのE(Evidence, Expertise, Expectation)の統合について再考するよい機会となり多いに刺激でありました。ただ、課題を欲張ったせいもあり後半が消化不良に終わった感があり、EBMとNBM(Narrative Based Medicine)PCM (Patient-Centered Medicine)の関連についての討論、患者さんへの実際の適用である行動科学についての討論がほとんどできなかったのはファシリテーターである私の責任であり、参加していただいた各先生方には大変申し訳なく反省しております。今回のワークショップが参加していただいた各先生にとって、今後、実地家庭医療の現場での疑問をEBM, NBM, PCMで明らかにしていくことができる端緒となったなら望外の喜びです。
(9) 苦手なフィジカル コーディネーター : 内山富士雄
ファシリテーター : 武田裕子 1.皮膚病変(佐野潔先生)
たくさんの症例のスライドを提示しながらの講義であった。ポイントは1)家庭医が皮膚病変を診るときは皮膚科専門医の診かたとは当然異なり、その患者の一部分症状として皮膚病変を診るべき。2)ストラテジーとしては、"病歴と肉眼所見のパターン認識"が実際的である(cf. 皮膚科専門医のストラテジーは発疹学+病理病理診断が中心)。3)デモ:アメリカではここまで家庭医がやっているという例としてパンチバイオプシーも豚足を使ってデモしていただだいた。 2.循環器:ことに心不全のフィジカル(亀谷学先生+イチロー) 最初の30分で心不全の知識の整理をしたあと、聴診用のダミー"イチロー君"を使っての聴診の実習を行った。レシーバーとなっている聴診器を各自が持ち、講師が主にギャロップや心雑音の選んで提供するスタイルの有意義な実習であった(デモ機を無償で提供してくれた業者に感謝)。またBatesのテキストの必要な部分の亀谷先生が和訳、配布してくれたのも大変有難かった(得した感じ)。 3.意見交換:残りの30分を "診療所でどのようにフィジカルを教えるか"について意見交換したが、参加者がどちらかというと教えられる立場の人が多く本来の目的は達せられなかった(残念)。でも武田先生差し入れの黒砂糖とちんすこうを食べながらの楽しいひと時であった。 企画の時点では、診療所で学生を教える(ことになる)立場の医師の参加を想定したが、実際に集まったのは研修医が多かった。好評だったので来年も同様な企画を行いたいが、このときは参加者の年齢、職歴などを絞って募集すべきと思われた。(以上は内山先生から頂きました) [佐野先生(皮膚担当)からも御報告を頂きました] 約20名あまりの参加のもとに、外来での皮膚科疾患の診断・治療のコツやアイデアについて総論的な話しに始まり、よくある疾患それぞれについての解説を行った。小児・大人ののビールス性、炎症性、出血性、感染性、腫瘍性発疹などについて述べ、その後パンチバイオプシーのデモンストレーションと手技の解説を豚足を使って行った。最後に、実際に参加者に器具を使ってバイオプシーの経験をしてもらい、今後診療の上で実際に行えるよう器具の購入についても紹介した。 口演発表の座長からの報告 口演発表 I (卒前教育)
座長 筑波大学 前野哲博
口演発表 I は、朝早い時間にもかかわらず、たくさんの方が出席され、最初から熱気にあふれた発表となりました。第1席の発表では、地域病院における他職種学生合同セミナーを通して、学生が相互の役割に気づき、理解を深めていく様子が示され、医学教育としても非常にユニークな試みが紹介されました。第2席では、沖縄県の医療機関にアンケートを送り、プライマリ・ケア教育の必要性ならびに実習の受け入れについて調査したもので、9割以上の施設がプライマリ・ケアの教育が必要と答え、120もの施設が医学生実習の受け入れに協力するとの結果が得られたことは、今後の卒前教育を考える上で大きなインパクトになったと思います。第3席では、学生により質の高い実習を提供するために、これまで行った実習について、その評価を質的・量的に分析したもので、今後家庭医療を広く学生に体験してもらうために必要な実習のあり方について示唆に富む発表が行われました。第4席では、今年の夏期セミナーにおいて行われたアンケート調査の結果から、診療所実習に対する学生の希望について検討した発表が行われ、学生からは実習先を探す際の情報不足などが指摘され、診療所から情報を発信して実習の場を提供していくPCFMネットワークの重要性を改めて実感させられるものでした。
口演発表 II (診療・実践) 座長 北海道家庭医療学センター 葛西龍樹
[日本に適した家族アプローチ技能の検討 竹中裕昭,他]DohertyとBairdの5段階分類が日本でどうなるかを探る研究であった。ディスカッションでは、「コレスポンデンス分析の方法について知りたい」という要望があったが、方法論の説明には時間がかかるとのことで、今後本研究が論文として発表されるときに詳しい解説を期待したい。「DohertyとBairdがなぜ5段階の分類を作ったのかを探ることが、これを日本で検討する意味につながる」と座長からコメントさせていただいた。
[入院におけるターミナルケア患者評価への取り組み 一瀬直日,他]ターミナルケアでフェイススケールとIDAスコアの組み合わせる試みの研究であった。ディスカッションでは、「評価を頻繁にすることが患者の負担にならないか」との質問があったが、「IDAスコアは評価マニュアルに従って客観的に評価できる」との答だった。「フェイススケールは主観的評価なので患者に負担になるのでは」との質問が出たが、評価することをコミュニケーションに利用するという面も忘れてはならないだろう。ドルミカムの鎮静の程度、ステロイドの使用、ケタミンの使用などについての質問も出ていた。 [在宅患者の原疾患と死亡原因の関連 吉田力,他]在宅ケアの現場で悪性腫瘍があるかないかをどう見分けるのかを考えるための研究であった。ディスカッションでは、悪性腫瘍があって手術で経過が改善したケースを経験しているので「悪性腫瘍を見つける必要もあるのではないか」とのコメントがあった。個別に患者・家族と共通の理解基盤を見い出す「患者中心の医療」が前提になくてはならないだろう。「作手村では悪性腫瘍で在宅で亡くなる人が少ないのか」との質問には、「若干少ない印象がある」とのことであった。 [座長の感想]家庭医療学研究会の発表全体の中で、家庭医療現場の診療上の疑問から出発する研究がいつの間にか少なくなってしまっている中で、貴重な発表がされたセッションであった。分析・解釈するだけではなくて、対象を理解し研究のプロダクトを対象に返して家庭医療の質を高める研究が増えることを期待したい。 口演発表III (患者満足度) 座長 札幌医大 山本和利
矢田氏の「電子カルテ導入による患者満足度の変化について」の発表は、導入により研修指導効果は上がったが、患者の満足度を示す得点は変わらず、逆に待ち時間が増えた、という結果であった。それに対してもう少し対象者を増やすことで、明確ではなかった差が統計的に明確なってあらわれ、満足度が増すのではないかという指摘があった。医師の負担が減り、かつ患者の満足度(の得点)があがるような電子カルテの開発を望みたい。
前野氏の「本態性高血圧症の外来患者における患者満足度研究」の発表は、専門医と総合医で差がないという結論であったが、それに対して観察期間が短いことや交絡因子が調整されていないなどの問題点があるとの指摘があった。そのような点を考慮しての更なる研究を期待したい。特別な専門的技能を要しないcommon diseaseについては、総合医の方が専門医よりも患者の満足度が高い診療をしたいものである。 宮田氏の「大学病院総合診療科受診患者は何に満足しているのか」の発表は、患者は総合診療科には漠然としたイメージしかもっていないが、医師が話を聴いてくれて、説明をしてくれるという診療に安心しているという結論であった。フロアーより、患者数が増え診療時間を短縮せざるを得ない状況について、どのように対応すべきか質問があった。これは質問者の名大鈴木氏と発表者の宮田氏への来年度までの宿題としたい。 松村氏の「日本人・ロサンゼルス在住日系人高齢者の、かかりつけ医の医療に関する満足度・信頼度の比較研究(第一報)」の発表は、統計的に有意な差をもって日本人のかかりつけ医に対する患者の満足度は低いという結論であった。これに対して(この結論に承伏しかねて?)たくさんの質問があった。特にかかりつけ医の定義についてのものが多かった。日本全般におけるかかりつけ医ではなく、家庭医療学研究会に所属するような診療レベルの高い医師と比較したデータが欲しいところである。 福原氏の行った特別講演の内容が「満足度の研究」であったことから、来年度はこのセッションの更なる充実が期待できよう。 口演発表IV (卒後教育1) 座長 聖マリ医大 亀谷 学
このセッションでは、時期を特定しない卒後教育として、『プライマリ・ケア外来における検査および診療に関する技能教育』について、発表者の所属する私立医科大学の卒業生のうち、開業医を対象に行ったアンケート調査結果が発表されました。プライマリ・ケア外来で実施が望まれる24種類の検査項目中、回答者の半数以上が実施中または実施したいと答えた検査項目は5〜6種類のみで、現状の開業医の診療範囲が意外に狭小である点が示唆されました。検査技能の習得については、簡易血糖測定など自分でできるものと、心臓超音波検査など卒後教育に採り入れるべきものがあることが再認識されました。診療技能教育では、入院診療より外来診療での、また専門科より総合科での、臨床教育が重視されており、我が国のプライマリ・ケア医教育も、やっと世界の趨勢に近づこうとする息吹が感じられ、実地医家からこのような意見が出されたことが注目に値しました。
つぎに、初期臨床研修についてニつの演題が発表されました。一題目は『地域密着型の中小病院混合病棟での初期研修の優位性』で、二人の初期臨床研修医が「主治医機能」の獲得を目標に新方式の研修を行っている状況が紹介されました。「主治医機能」とは、患者を生物心理社会的に、かつ家族背景を含めて治療し、入院患者の退院後も指導医の援助を受けて、外来・在宅へと継続する診療を行うことであり、中小規模の病院ならではのチャレンジに、フロアーからも注目が寄せられました。今後は、さらに研修医の数が増えた段階で、再評価することが重要と考えられました。 もう一方の演題は、『初期臨床研修における自律性や充実への志向と研修内容に関する検討』で、全国の二年目の研修医89名にアンケート調査を行った結果が発表されました。臨床研修における自律性志向を「重視する群」は1日平均研修時間と1週間の平均自習時間がともに、「重視しない群」より有意に長いようですが、充実志向については必ずしもその傾向はなく、同時に、双方とも経験患者数や主要疾患数とは関連がなかったとの結果でした。初期臨床研修では、自律性(医師としての側面)もさることながら、研修の充実(研修を受ける者の立場)を重視したいとまとめられ、指導体制強化への期待が大きいものと推察されました。 口演発表 V (卒後教育2) 座長 三重大学 津田 司
国立横須賀病院の今道英秋氏は、自治医大の初期研修プログラムなどを参考にして、将来1人で診療したい医師のための研修カリキュラムを提案した。ミシガン大学に留学中の北村和也氏(名古屋大)はプライマリ・ケアを学ぶために6ヶ月以上海外に留学した医師18人にアンケート調査を行い、帰国後、その経験が教育、診療、研究のすべての面で影響を与えていると報告した。また同氏は、米国と日本の家庭医療学研修医の態度を比較検討して報告した。札幌医大の北村眞司氏は、開業医が総合病院に出入りすることによってレジデントや若手スタッフのプライマリ・ケアや開業に対する考え方に少なからぬ影響を与えていると報告した。これらの研究は対象者が少なく、今後本格的な研究に発展させて行く必要があると考えられた。
口演発表VI (患者−医師関係,医療面接) 座長 山口大学 福本陽平
このセクションでは、まず山口大学4年生の大島千代美さんが、「総合診療部を受診している患者の医師−患者関係」という演題で、患者さんが病院に求めている事はどんなことかを、インタビューにより質的に検討を行いました。その結果、患者さんは、解りやすい説明や暖かい医師の対応を望むといった一般的な返答に加え、患者と医師の上下関係では、医師が上で患者が下であるというデータを得ました。また、三重大学総合診療部からは医療面接の OSCE 評価からの研究が発表されました。横谷省治先生は、感情面への対応があると SP 評価での「理解された」とする評価につながっていること、竹村洋典先生は、促進と絞り込みを多く使用することで、「良く聞いてもらった」との評価に関連があったという結論でした。 [編集者より : ポスターセッションも盛会でしたが座長をを置かない形式でしたので内容については会誌(Vol.8 suppl.)を御覧ください] |
第10回家庭医の生涯教育のための
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第17回家庭医療学研究会は, 2002年11月9,10日 東京で開催します。 |
家庭医のためのCME
大阪府医師会学術講演会「一般臨床に必要な小児社会医療の知識」より 平成12年度の全国児童相談所における相談受付件数は18804件であり,被虐待児の年齢は学齢前が49%,虐待者は実母が62%,虐待の種類では身体的虐待が50%,ネグレクトが36。5%という特徴が認められた。 最後に本稿を作成するに当たり,ご指導賜りました大阪府富田林保健所の佐藤拓代先生に,この場を借りまして厚く御礼申し上げます。 提供者 : 竹中医院・名古屋大学医学部附属病院総合診療部 竹中裕昭
Little P et al. Observational study of effect of patient centeredness and positive approach on outcomes of general practice consultations. BMJ 2001 October 20 323:908-11 <背景> 提供者 : 名古屋大学総合診療部 向原 圭(むこうはら けい) |
家庭医療学研究会世話人会議事録 (11/10/2001)
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議 題
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事務局からのお知らせ |
メーリングリストの加入について |
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入会手続きについて 会費納入のお願い 異動届をしてください 〒514-8507 三重県津市江戸橋2-174 三重大学医学部附属病院 総合診療部内 電話 059-231-5290(総合診療部) FAX 059-232-7880(家庭医療学研究会専用) E-mail jafm@clin.medic.mie-u.ac.jp ホームページ http://www.medic.mie-u.ac.jp/jafm/ |
編 集 後 期 新年明けましておめでとうございます。今年も家庭医療学研究会をよろしくお願いいたします。 |
発行所 : 家庭医療学研究会事務局 編集担当世話人 : 大滝純司 〒060-8648 札幌市北区北14条西5丁目 北大病院 総合診療部 E-mail jotaki@med.hokudai.ac.jp |
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