1) 肩の診かたと老人姿勢のなぞ
コーディネータ : 仲田和正(西伊豆病院)
時間 : 前半〔9:30-11:00〕 定員 : 40名
今回は「肩の診かた」と「老人の整形外科疾患」に絞ってお話します。
肩は,腰や膝に次いで訴えの多い部位ですが診断に苦慮されている方が多いのではないかと思います。家庭医の皆さんがよく遭遇するであろう疾患に絞り,その診断方法をお話します。
最近はエコーで肩のかなりのことが分かります。皆さんがお持ちの腹部用のエコーでも充分診断できますのでそのコツもお話します。
テキストも充実させて皆さんがノートをとる必要のないようにします。
老人の整形外科疾患では,まず私の博士論文でもあった「老人姿勢」の成り立ちについてお話します。腰の曲がった老人を診るとすぐ「脊椎圧迫骨折!」と断定する内科の方が多いのですが実はそうではないのです。実はとても面白いメカニズムが隠されております。
詳細は,講義をお聞き下さい。
皆様にお会いするのを楽しみにしております。
2) せん妄・痴呆へのアプローチ
コーディネータ : 山田健志(北部東京家庭医療学センター 生協浮間診療所精神科)
時間 : 前半〔9:30-11:00〕 定員 : 40名
高齢化社会を迎え,外来・病棟・施設から在宅などの臨床現場で医師の役割も変遷しています。医療・福祉の線引きから,薬物療法の功罪,判断能力の評価,ADLや予後の評価,QOL,社会資源の配分や家族の調整に至るまで,医学以外にも倫理的,文化的側面を含む諸問題が議論されています。
今回のワークショップでは,特に医師に求められる重要な役割の一つであるせん妄・痴呆の評価および治療について扱います。出来る限り日常診療に生かせるような知識を整理することを目標としています。
対象は開業など診療所勤務を志望,ないし開業したばかりの医師で,特に研修時代に老人や精神科診療を学ぶ機会が不十分だったと感じている方を主に想定しています。
まず以下の症例設定について,もしあなたが担当医となったとしたら,どのようなアプローチが必要かまず考えることから始めたいと思います。
症例 72歳女性
主訴 「元気がない」「物忘れ」が目立つとして家族に連れられて受診
既往歴 約10年前頃より腰痛・胃潰瘍・不眠症他で当診療所に定期通院
現病歴 生来健康。夫婦で酒屋を経営していた。2年前に夫に大腸癌が見つかり店を畳む。夫の病状進行に伴い1年以上在宅介護していたが,約3ヶ月前に死別,独居となる。この頃より「涙もろさ」「物忘れ」が目立ち始め,四十九日以降も増悪した。約2週間前頃より感冒他を訴え処方日数より短い間隔で定期外受診を繰り返していた。約1週間前「自宅で財布を盗られた」「夜部屋に男の人がいる」と頻回に警察に訴えた後,スーパーで勘定ができず警察に保護された。このため隣町に住む息子夫婦に連れられて診療所の外来を受診。
以上の症例検討を中心に,認知障害のスクリーニング,せん妄・痴呆の診断基準,および一般的な治療原則などを中心にお話したいと思います。
3) ウィメンズヘルス(WH : Women's Health)
コーディネータ : 早野恵子(熊本大学医学部付属病院 総合診療部)
時間 : 前半〔9:30-11:00〕 定員 : 40名
今回,女性の医学的問題について総合的に検討するウィメンズヘルス(以下WH)の部門を立ち上げるために,ワークショップ(WS)を持つことになりました。WHは米国に遅れること10年,日本ではまだ歴史も浅く,天野恵子氏が,1999年「日本女性における虚血性心疾患」のシンポジウム及び2000年に「女性における虚血性心疾患―成り立ちからホルモン補充療法まで」(医学書院)を出版し,性差を考慮した医療の夜明けというメッセージを寄せ,WHへの取り組みが始まり,女性総合外来も開設されるようになりました。
WHは,疾患の性差の把握はもちろん女性特有のQOL,心理社会的背景やライフステージを考慮した予防やヘルスプロモーション,治療が求められ,その抱える問題は広くかつ深い。そのため,産婦人科,小児科,精神科,内科,外科(「乳腺外科」,家庭医療学に関する専門知識を総合したヘルスケアが求められており,機能的かつ効果的な総合診療の果たす役割は大きく,カウンセリングも含めた総合外来機能のさらなる充実が求められています。一方,米国においてWHは
1957年にさかのぼり,近代においても10年以上の歴史があります。米国で家庭医の視点からWHにどのように関わっているかについて三重大学総合診療部の湯浅美鈴医師より報告します。
これらの報告の後,以下のテーマについてGroup Discussion(GD)形式の討論を行う予定です。WSのテーマは (1)WHのめざすもの・今後の方向性
(2)WH:なぜ必要か? (3)臨床における取り組み:女性総合外来,女性医療の問題点・対応(4)参加者から公募したテーマを考えています。討論,発表,まとめを経て今後のさらなるWHの展開と活動を考えてゆきたいと思います。
4) 診療所での外来教育
コーディネータ : 草場鉄周(医療法人 社団 カレス アライアンス・北海道家庭医療学センター)
時間:前半〔9:30-11:00〕 定員 : 30名
[背景]
現在,日本の診療所外来教育には,昨年の当学会で発表された「5つのマイクロスキル」などの海外の洗練された手法が導入されつつある。しかし,外来教育を行うという前提で構築されていない外来システムの中では,患者と学習双方のニーズを満たす効率のよい形で外来教育を行うことはいまだ容易ではなく,このことは日本の家庭医養成の大きな障害となっている。 [目的] |
- 参加者は自らが提供している外来教育の現状を多角的に分析し,改善しうるポイントを上げることができる。
- 参加者は外来教育の一般的な方法と当センターの外来教育システムの紹介,ディスカッションを通じて,ワークショップ終了後に自らの外来教育の質向上を目的として行動を開始することができる。
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[対象者]
初期臨床研修での診療所外来教育に携わる指導医
[内容]
- ワークショップ前の調査
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参加者が提供する外来教育の状況(指導歴,時間,対象人数,指導現場のタイプ,指導スタイル),解決したい問題点などを事前に把握
<方法> E-mailによるアンケート
- 外来教育の現状
◆
事前アンケートの分析結果に基づいて外来教育の問題点を参加者で共有
<方法> 分析結果の提示 + 小グループディスカッション
- 診療所外来教育システム
◆
外来教育の方法論について一般的な知識の習得
<方法> レクチャー
- 北海道家庭医療学センターの外来教育
◆
当センターが6年間で築いてきた外来教育システムの紹介
<方法> レクチャー(スライドやビデオ映像) + ロールプレイ
- 外来教育の改善
◆ 参加者の外来教育が抱える問題点に対する具体的な改善策を議論
◆ 逆に,参加者の外来教育の長所を全員で共有
<方法> 小グループディスカッション
- ワークショップ後の調査
◆
ワークショップ終了後に参加者が達成した改善点や教育の状況を報告してもらい,参加者間で共有
<方法> E-mailによるアンケート
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5) プライマリ・ケアにおける小児科診療
コーディネータ : 佐藤隆史 酒井玲子(船橋二和病院小児科)
時間 : 後半〔11:15-12:45〕 定員 : 40名
当院では,2〜3ヶ月間の小児科研修を経験した医師(内科・外科)が,一般外来(夜間外来)や夜間当直帯に来院した小児急性疾患の治療を行っています。"小児科医がいないので診られません"と言って他院で断られた病児も,当院の内科医が診察し,地域での小児一次救急から二次救急の一部を担っています。また,このシステムを機能させるために,小児科医がバックアップ体制をとっていて,相談・フィードバックなど日常的に行っています。
今回のワークショップでは,当院での経験を元に,他科の医師からの相談や質問で,よくあることを取り上げようと思います。
(1) 発疹のみかた
(2) 脱水の評価
(3) 発熱児に「いつ」「どんな」検査をすべきか
(4) 熱性痙攣
小児では,重症度の判断と同時に,保護者への指導と説明がとても大事です。今ワークショップでは,実践で役立つように,診療のコツと保護者への指導のポイントを中心にお話したいと思います。
6) プライマリ・ケアにおけるHIV診療
コーディネータ : 本田美和子(国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター)
時間 : 後半〔11:15-12:45〕 定員 : 40名
わたしは,HIV治療の専門施設で働いています。1990年代後半に,プロテアーゼ阻害剤を含む抗HIV治療が可能になってから,HIV感染者の予後は劇的に改善しています。HIVは,もはや高血圧や糖尿病のように,慢性の疾患として位置づけできるかもしれません。しかし,この時代になっても尚,重症の日和見感染を起こすまでHIV感染に気づくことなく過ごしてしまった患者さんは数多く存在し,その診断の遅れから,適切な治療を受けることができずに残念な結果を招いたというケースをわたしたちは未だに経験しています。
このような患者さんの病歴を振り返ってみると,「これはHIV感染の可能性があるかもしれない」と疑うエピソードを,誰もが過去に何度も起こしています。しかし残念なことに,一般内科の診察室でそれに気づかれることはあまり多くなく,絶好のHIV抗体検査の機会を逃してしまっています。
今回のワークショップでは,「今,そこにいるHIV」を見逃さないための病歴や身体所見のキーワードについて,実例を基にご紹介していこうと考えています。これまで,HIV感染者をご覧になった経験のある先生方のお話も,ぜひお聞かせ下さい。
7) コミュニケーションから見たEBM
コーディネータ: 名郷直樹(横須賀市立うわまち病院 臨床研修センター)
時間 : 後半〔11:15-12:45〕 定員 : 30名
EBMとは,一人の患者さんを前にし,外部から得たいわゆるエビデンスと,患者さんから得た様々な情報を統合し,その患者さんにとって,現時点での最善の医療を提供しようという医療実践の方法である。別の言い方をすれば,臨床上の問題解決のための手法であり,単なる道具に過ぎないということである。単なる道具であるからには,重要なのはその使い方である。このワークショップでは,このEBMのエビデンスをどう使うかという部分に焦点を当て,ロールプレイや小グループ学習の手法を利用しながら,EBMをコミュニケーションの点から取り上げてみたい。統計学的な部分はほとんど取り扱いませんから,統計が苦手な方にもお勧めです。ふるってご参加下さい。
8) 女性医師のキャリアとしての家庭医
コーディネータ : 武田裕子(琉球大学医学部附属病院地域医療部)
時間 : 後半〔11:15-12:45〕 定員 : 40名
【企画の意図】
家庭医を志す学生・研修医のキャリア形成を支援し,仕事もパーソナル・ライフも大切にしたい医師のネットワーキングを進める場です。プロダクトとしては,女性医師が働きやすい環境づくりへの提言作成を考えています。昨年このWSの第1回がもたれ,そのときの参加者が中心になって,「がんばれ!女性医師・医学生(プリメド社)」を執筆しました。今回託児所設置が実現したのも,このWSからの提案がきっかけとなりました。
【WSの進め方】
スモール・グループディスカッションを中心とします。
(1) WSの概要説明とファシリテータの紹介
(上記の本の執筆者がファシリテータとして参加予定)
(2) ディスカッション・テーマの決定
(3) 興味あるテーマごとにスモール・グループに分散
(1グループ5,6人〜10人程度)
(4) グループ内で自己紹介(ファシリテータが司会者)
(5) フリーディスカッション
(6) ディスカッションの内容をふまえて,家庭医療学会に組織的に取り組んでもらいたいことや,今後のWSの進め方への要望などをグループごとにまとめてもらう
(7) 全体討論 : 各グループからディスカッション内容の紹介と(6)のまとめの発表
【対 象】
上記の内容に興味のある方はどなたでも(男性ももちろん)。テーマとしては,例えば,進路の選択,キャリア形成,結婚・妊娠/出産・育児などのライフイベントに関すること,忙しい医師生活とパーソナル・ライフの充実など,参加者の興味・関心に応じて設定します。意見交換したいテーマや先輩医師に聞きたいことなどを事前に考えてきてください。
9) 地域の健康問題に取り組む ― 国際保健の事例から
コーディネータ : 錦織幸信(北部東京家庭医療学センター)
時間 : 前半〔9:30〜11:00〕+後半〔11:15〜12:45〕(通し) 定員 : 30名
患者さん一人ひとりを診る個別ケアから一歩踏み出して,地域全体の健康問題に目を向けるという視点は家庭医療学の重要な柱の一つだと思います。患者さんを診る中で生じた臨床疑問を発展させ,地域の健康問題を洞察・調査・定量化していくプロセスは研究活動にとどまらず,診療活動の改善や効果的な予防活動につなげていくことができます。言葉をかえれば個別ケアに対して,集団ケア(公衆衛生的アプローチ)ともいえると思います。
医療資源の少ない発展途上国のプライマリケアにおいてはこの集団ケアの相対的な重要性が非常に高くなってきます。それは集団に対する予防的な介入によって,コストの高い個別ケアが必要になる患者さんを減らせる余地がより大きく,医療資源がより有効に使えるからです。
このワークショップでは海外での医療活動をもとにしたシナリオを使い,参加者の皆さんと地域の健康問題を解決していくバーチャル体験をしていきます。
もちろん国際保健特有の問題や戦略について考えていただく機会も含まれますが,ワークショップの主眼は「臨床疑問から地域の健康問題を見つけ,調査し,効果的な予防活動につなげていくプロセス」に置きます。そのため基本となる考え方は日本のプライマリケアとも共通するものが多く含まれるのではないかと思います。
ワークショップはグループワークを主体として進めます。国際保健に関する予備知識は必要ありませんが,参加者の皆さんの柔軟な発想と積極的な参加を期待します。
10) プライマリ・ケアにおける診療の質の評価と改善の実際
コーディネータ : 松村真司(松村医院)
尾藤誠司(国立病院東京医療センター総合診療科)
時間:前半〔9:30〜11:00〕+後半〔11:15〜12:45〕(通し) 定員 : 30名
医療の質には大別して(1) 技術的要素Technical care,(2)
人間的側面 interpersonal aspects (3) 療養環境 amenitiesがある(Donabedian,1980)。このうち,(2)と(3)に関しては最終的なサービスの受け手である患者自身が評価し,その結果に基づいて改善を図ることができるが,(1)の医療技術に関しては患者が評価するのは困難である。したがって私たちが優れた医療サービスを提供できているのかどうかは,私たち医師が科学的に評価しなければならないのである。
さて私たちの提供している医療の質は他の医師と比べて果たして優れているのだろうか? 私たちの存在意義をアピールするためには,私たち自身が自らの診療の質を評価し,この問いに自ら答えを出し,継続的にその質を改善していくしかない。
本ワークショップでは,日常診療の質を評価し改善につなげる実践手法について概説する。また,小グループによる質改善の活動のうち,医療の質の評価項目の作成とデータ収集方法に関する討論を通じて医療における質評価・改善の実際を学び,今後の実践につなげることを目的としたセッションを行う。
対象 : 卒後5年目以上の医師。できれば診療所において継続的に日常臨床にたずさわっており,かつ管理的な業務についていることが望ましい。
ワークショップの内容 : |
- 医療の質評価・質改善についての総論の講義
- 小グループ作業
・ 評価項目の決定
・ 評価指標・評価水準の決定
・ データ収集方法,フォーマットの作成
- グループ発表 質評価項目の完成・発表
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