舩後が取り上げられた新聞記事
2005年3月共同通信社全国配信記事

携帯の動画で対話可能に
ベッド上から家族らと
発声装置などとつなぎ

 体が動かず、言葉もうまく話せない患者でも、病院や施設のベッド上から外の家族やほかの施設にいる患者と動画で対話ができる―。こんな便利な装置が、動画を送れる携帯電話を利用して開発されつつある。テレビ電話と違い、自由に動き回れ、さまざまな場所から画像とともに生き生きとしたコミュニケーションが図れることが特長だ。


 


 ▽送信実験
 動画の送信実験が1月上旬、千葉市美浜区の身体障害者療護施設「ディアフレンズ美浜」2階の舩後靖彦(ふなご・やすひこ)さん(47)の部屋で始まった。
 舩後さんは5年前、難病の筋委縮性側索硬化症(ALS)を発病。今は体を動かせなくなったが、人工呼吸器を装着し、パソコンと発声装置を駆使し、音楽演奏に加わったり、講演をしたり、同病の患者の相談に乗ったりするなど、活発な活動を続けている。
 今回は使用者代表≠ニして実験に参加。3週間ほどの使い勝手を報告する役目だ。
 実験を実施したのは、重度障害者向け生活支援機器の開発販売事業を行っている、松下電器産業の子会社「ファンコム」(大阪府守口市)。
 まず、カメラに患者が写るよう、舩後さんが横たわるベッドの足元の棚の上にテレビ電話機能付きの携帯電話フォーマを設置した。

「学校とか、パパの行けない所を見せてあげたい」と娘の友帆(ゆうほ)さん(16)。

 ▽患者に使いやすく
 携帯を置く台は、既に市販されている「me・to・me(メトメ)」を使う。マイクやスピーカー機能が付いており、もう一方のフォーマから電話をかけると、カメラやマイクなどにスイッチが入り、家の中などの遠隔監視ができるようになっている。
 「家族は携帯一台を持つだけで、いつでもベッド上の患者さんを見ることができる」とファンコムの松尾光晴(まつお・みつはる)社長。
 「それだけでもすごく便利」と舩後さんの妻、容子(ようこ)さん(47)。「学校とか、パパの行けない所を見せてあげたい」と娘の友帆(ゆうほ)さん(16)。
 問題はベッド上の患者にとって、いかに使いやすいシステムにするかだ
 小さい携帯の画面では見にくいので、大きなモニター画面に映るようにしたり、舩後さんがパソコンで作った音声が直接、携帯に流れ、送ったりできるように工夫されている 。

「ヤッホー、聞こえますか。こっちはバッチリ見えまーす」
 屋外に出た友帆さんから電話が入った。モニター画面には大きな顔。スピーカーからの声もよく聞こえる。「こっちからカメラの角度も変えられた」と友帆さん。

 ▽患者同士の支援に
 実験開始。「ヤッホー、聞こえますか。こっちはバッチリ見えまーす」
 屋外に出た友帆さんから電話が入った。モニター画面には大きな顔。スピーカーからの声もよく聞こえる。「こっちからカメラの角度も変えられた」と友帆さん。
 続いて仙台の国立病院機構、西多賀病院に入院中の同じALS患者、鈴木松枝(すずき・まつえ)さん(45)との通話実験だ。
 携帯はすぐつながり、ベッドに横たわっている鈴木さんの上半身と笑顔が鮮明に映った。
 舩後さんが、パソコンで作った音声を送信。「初めまして。これからよろしくお願いします」
 しばらく向こうの音声が来なかったが、まもなく「初めまして。テレビでお話しできることが、とてもうれしいです。これをきっかけに交流していきたいと思います。風邪などひかないよう気を付けてください」と、やはりパソコンでつくった声が大きく聞こえた。

 実験はまあ順調に滑りだしたようだ。「大変面白い」と舩後さん。ALSに限らず、応用範囲も広い。
 舩後さんの元主治医で、今回の開発を提案した西多賀病院神経内科の今井尚志(いまい・たかし)医長は「ALSを告知する際、精神面の支援をどうするかが問題となる。医療者だけでは限界があり、こういった装置を利用して患者さん同士の対話を積極的にやっていただこうと思っている」と話している。