舩後が取り上げられた新聞記事
2006年2月26日(日曜日)朝日新聞(全国版)

【ひと】

同じ難病患者を詩歌で励ます

舩後靖彦さん(48)


 


 自分の介護担当職員ら4人とロックバンドを結成、25日夜、六本木のバーの舞台に車いすで上がった。披露した曲「生きざま」の作詞者だ。

 ♪ただ見つめてくれよ 俺達(おれたち)のやり方 あるがままに生きる 今は苦しくとも……

 筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症(ALS)を発病して6年半。千葉市の療護施設で暮らす。人工呼吸器を着け、手足もほとんど動かない。顔の筋肉でパソコンを操り、言葉をつづる。

 商社員だった。重さ13キロもある腕時計の見本を抱えて取引先を回った。バブル期にはダイヤを年6億円売った。
 社長に信頼され、経営相談を受けるほどになったある日、腕のしびれを感じ、半年後、足がもつれた。42歳で病名を告げられ、死を思った。

 転機は2年後。医師の勧めで難病発症者の支援を始めた。他人を支えることで自らも支えられる。そう励まされた。絶望のふちにあったIT企業社長とは2年間で800通のメールを交わした。「貴方(あなた)に人生を諦(あきら)めさせない。友だから」。彼は再起し、介護事業の経営に乗り出した。

 「体験者だからわかる悩みや苦しみがある。助言にも説得力が出る」。書きためた歌詞は400を超え、今年は短歌集の出版も目指す。

 「我が身はとっくに朽ち果てている。それでも、生きる望みを失った人が作品に触れ、生の尊さを思い起こし、心癒やされるなら」

文 溝呂木 佐季
写真 上田 幸一

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