A:アルコール摂取が、がんの再発リスクを高めるかどうかはよく判っていません。しかし、多くの研究で、口腔がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がん、乳がんや大腸がんなどでは、アルコール摂取が、発がんの危険因子になっていることが明らかにされています。したがってアルコールの過度の摂取は、がんサバイバーにとって、これらの部位に二次がんを発生するリスクを高めることは明らかです。
A:抗酸化物質は、食品中にいろんな形で含まれており、細胞や組織の酸化障害を防ぐ効果があることから、あらゆる種類のがんの発生を予防すると考えられています。抗酸化物質、すなわちビタミンC、ビタミンE、カロテノイドや抗酸化作用をもつフィトケミカル(植物栄養素)などを豊富に含む野菜や果物を多く摂取している人は、がんの発生が少ないことが多くの研究で明らかになっています。がんサバイバーは二次がんになる可能性も高いので、抗酸化物質を含む食品を毎日多く摂取することが推奨されます。なお、現在、抗酸化性ビタミンやミネラルのサプリメントが数多く市販されていますが、これらのサプリメントの摂取が、がんの発生や再発を予防するかどうかの研究成果は得られていません。抗酸化物質はサプリメントからでなく、食品から多く摂取することが薦められます。
A:サプリメントに含有される抗酸化物質(ビタミンCやビタミンEなど)は、通常の健康に必要な1日所要量をはるかに超える量が含まれています。放射線治療や抗がん剤による化学療法は、がん細胞に酸化障害を起こして抗がん作用を発揮しています。したがって、これらの治療中に抗酸化性サプリメントを多く摂取すると、治療効果を妨げてしまう可能性が指摘されています。しかし、一方では、放射線や抗がん剤による正常の細胞や組織の障害を予防する効果があって、全体からすると、抗酸化性サプリメントは有益とする意見もあります。したがって、放射線治療や化学療法中の抗酸化性ビタミンの摂取は、健常人に推奨される1日所要量を超えるような過剰な摂取は控えておいた方が良いと考えられます。
A:乳がん患者で、脂肪の摂取量と術後の生存期間との関係を調べた臨床試験がいくつか報告されていますが、その結果はまちまちです。ある大規模な臨床試験では、早期乳がん患者では、食事の脂肪の摂取量を減らすと再発率が低下し、生存率が上がることが示されています。しかし、脂肪の総摂取量ががんの予後に影響するという確実な証拠はありません。ただ脂肪の多い食事は、カロリーが高くなり肥満の原因となり、この肥満ががんの発生率を高め予後悪くする可能性があります。
A:ラードやバターなど肉や乳製品の脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸は、がんの発生リスクを高めます。一方、魚油やオリーブオイルなどに含まれる不飽和脂肪酸は、がんの発生リスクを減らすことが示唆されていますが、これには十分な証拠はまだ有りません。前立腺がん患者では、飽和脂肪酸を多く摂取すると生存率が低下し、不飽和脂肪酸を多く摂取すると生存期間が延びることが報告されています。また、飽和脂肪酸を多く摂取すると心臓疾患が増えることも知られています。こうしたことから、がんサバイバーは飽和脂肪酸の摂取を控えることが大切と言えます。
トランス型脂肪酸は、マーガリンや水素添加した油脂を含むスナック食品など含まれますが、血中コレステロールを高め、心臓疾患に悪影響を及ぼします。がんの発生率や生存期間に対する影響に関しての結論は出ていませんが、がんサバイバーで、特に心臓疾患のリスクの高い人は、トランス型脂肪酸の摂取を少なくするのが良いと言えます。
A:食物繊維は、人間の消化管では消化吸収されない様々な多糖類のことです。食物繊維は、豆類、野菜、精白していない穀物や果物に多く含まれますが、血中コレステロールを低下させ、心臓疾患のリスクを低下させる効果があります。食物繊維のがん再発予防効果に関する根拠はあまり有りませんが、がんサバイバーにとって食物繊維の多い食品は、心疾患の予防のために推奨されます。
A:疫学的研究によって赤味の肉や加工した肉を多く食べると、結腸直腸がん、前立腺がん、胃がんの発生率を高めることが示されています。油で揚げたり、煮込んだり、焼くなど、肉を高温で調理すると発がん性物質ができて、がんの発生率を高めることが報告されています。こうしたことから、米国がん協会では、赤味の肉や加工した肉を摂取することを制限しています。しかし、加工した肉や高温で調理した肉、あるいは肉自体の摂取が、がんの再発や進行にどのように影響するかについての研究報告はまだありません。
A:食道がん、結腸直腸がん、肝臓がん、胆のうがん、膵臓がん、腎臓がん、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、前立腺がん、乳がん、子宮がんや卵巣がんにおいて、肥満とがんの発生率との間に正の相関が認められています。また多くの研究で体重オーバーや肥満が、がんの再発率を高め患者の生存期間を短くし、死亡率をも高めることが示されています。さらに体重がオーバーしている人にとって健康体重への減量は、多くの健康効果が示されています。したがって減量はがんの発生や再発を防ぐだけでなく、心臓疾患など他の慢性疾患を防ぐ上でも大切です。
A:農薬や遺伝子組み換えを行っていない野菜や果物、抗生物質やホルモンなどの化学薬品を与えられていない家畜から作られた肉、鶏肉、卵、乳製品は、有機食品(あるいはオーガニック食品)と言われています。有機食品は、化学薬品を摂取することを少なくできるので、一般的には健康的と考えられています。しかし有機食品を食べることが、健康面でどのようなメリットがあるのかは十分に判っていません。有機食品が通常の食品よりも、がんの予防や再発を防ぐ上で、どれほどのメリットがあるかどうかも不明です。
A:がん治療中の運動は、安全に実施することが可能であれば、がんサバイバーの身体機能を高め生活の質を改善すると、多くの研究で報告されています。適度な運動は、倦怠感や不安を軽減し自信を高めるとともに、心肺機能や筋力を改善します。抗がん剤による化学療法や放射線療法の治療中であれば、一時的に運動の量や回数を減らしますが、できるかぎり運動を継続することが必要です。
A:がんサバイバーは、状況によっては運動することが危険な場合もあり注意が必要です。例えば貧血が強い場合は、貧血が改善するまでは運動を控えます。抗がん剤による化学療法などにより免疫機能が低下している場合は、感染症を併発する危険性が生じるため、白血球数が安全な値に回復するまでは、トレーニングジムや多くの人が集まるような所に行くことは控えるべきです。放射線治療中はスイミングプールでの水泳を避けます。スイミングプールには消毒のための塩素が入っていて、この塩素が皮膚を刺激するからです。
高齢者、骨の異常(腫瘍の骨転移や骨粗しょう症など)、あるいは関節炎や末梢神経炎がある場合には、転倒やけがの危険に注意して運動量を調節します。
A:運動が、がんの再発率を低下させたり、がんの発育を遅らせたりする効果があるかどうかはまだ分かっていません。しかしながら、体重オーバーや肥満は、多くのがんの発生率を高め、さらにがんの再発率をも高めます。規則的な運動は健康的な体重を維持する際に重要であり、さらに心臓疾患、糖尿病や骨粗しょう症を防ぐ効果もあります。したがってがんサバイバーは、運動を含め身体的活動の活発な生活習慣を身につけることが大切です。
A:フィトケミカル(植物栄養素)というのは、植物によって産生される様々な成分を意味します。イソフラボンなどのポリフェノール、リコピンやカロテノイドなどが挙げられます。これらの中には抗酸化作用やホルモン様作用をもつものが存在します。がんの再発や進行に対するフィトケミカルの効果について、研究はまだ少ないので結論を出すだけの根拠はありません。野菜や果物の多い食事はがんの発生を低下させるので、がん予防効果をもつ成分を特定するための研究が行われています。現在、フィトケミカルがサプリメントとして広く利用されていますが、そのもとになった食品、すなわち野菜、果物、マメ類や穀物などの摂取が、サプリメントの摂取よりもより効果的であるという証拠は有りません。
A:味噌、醤油、豆腐、納豆、煮大豆など大豆原料の食品は、蛋白質の供給源として非常に優れており肉の代わりになります。大豆にはいくつかのフィトケミカルが含まれており、その中にエストロゲン作用をもつ成分もあり、これがホルモン依存性のがん(乳がんや前立腺がん)の発生を防ぐ作用があることが動物実験で示されています。エストロゲン作用の他にも抗酸化作用、プロテアーゼ阻害作用や血管新生阻害作用を持つ成分などが、大豆には含まれています。
現在、大豆食品が多くのがん、特に乳がんの発生を予防するのではないかという期待から、多くの研究が行われています。大豆のがん予防効果に関してはまだ不明な点が残されていますが、乳がんの再発予防に関しては、伝統的なアジア料理で使用されているくらいの量であれば、特にメリットもデメリットも無いと考えられています。しかし大量の大豆を摂取すると、その中に含まれるエストロゲン作用を有する成分の影響で、エストロゲン受容体陽性の乳がんの進行を早める可能性が心配されます。エストロゲン受容体陽性の乳がん患者では、大豆粉末や大豆イソフラボンのサプリメントを摂取しないようにすることが大切です。
A:これは間違っています。砂糖が、直接的にがんの発生や進行を促進することを示すデータはありません。しかしながら砂糖(蜂蜜、未精製の砂糖、黒砂糖、果糖の多いコーンシロップ、乳糖を含む)やこれらを含む飲料は、カロリーが豊富であり体重がオーバーする原因となって、がんの進行や再発を促進する可能性があります。また糖分の多い食品や飲料は、多くの栄養素の補充には役立ちません。さらに栄養素の豊富な食品の摂取を妨げる可能性もあります。したがって砂糖の消費を制限することが推奨されます。また砂糖を多く摂取すると、インスリン様増殖因子という物質の分泌が促進され、これががんの発育を促進する可能性が示唆されています。こうしたことから甘いものを多く摂取することは、避けた方が良いのは確かなようです。
A:がんの治療中や治療後は、食事から十分なビタミンやミネラルの摂取が困難なことが多いので、マルチビタミンやミネラルのサプリメントを摂取することは有益です。しかし、通常の1日必要量の摂取で十分であり、ビタミン、ミネラルのサプリメントの過剰な摂取は勧められません。いくつかの研究では大量のサプリメントの摂取が、がんの発生を促進する場合があることも報告されています。
A:野菜や果物の豊富な食事が、がんの発生を予防することは、多くの研究で証明されています。さらに最近の研究では、乳がん、前立腺がん、および卵巣がんの再発率を低下させて、延命効果を示すことが指摘されています。しかし現時点では、サプリメントが、がんの再発予防に有益であるとする証拠はありません。野菜や果物から健康作用をもつ多くの成分が見つかっていますが、これらの成分は、お互いの相乗作用によって有益な効果を発揮するものと考えられています。そしてサプリメントとして利用されていない食品成分のなかにも、有益ナ成分が存在している可能性もあります。「野菜や果物に相当する栄養成分を含む」と表示されているサプリメントの中には、野菜や果物に含まれる成分の一部しか含まれていないこともしばしばあります。ビタミンやミネラルの供給源としては、食品が一番です。
A:野菜と果物を豊富な食事は、肺、口腔、食道、胃、大腸のがんの発生を減らすことが、多くの疫学的研究で明らかになっています。しかし野菜や果物の豊富な食事が、がんの再発を減らし、生存期間を延ばす効果があるかどうかの研究はまだ少ししかありません。最近の研究結果によると、野菜を多く食べると乳がん、前立腺がん、卵巣がんの再発率を低下させ、延命効果があることが示唆されています。いずれにしてもがんサバイバーが多くの野菜や果物を食べることは、がんの再発予防だけでなく、他の病気の予防にも有効ですので推奨されます。野菜や果物の中のどの成分に、がん再発予防効果があるのかは十分に判っていませんので、いろんな種類の野菜や果物を食べるというのが、最も良いアドバイスです。
A:栄養価値が異なるのは確かですが、いずれの場合も健康にはプラスになります。一般的には新鮮ものが、最も栄養価値が高いと考えられています。しかしながら、冷凍ものは、熟したものを直ぐに冷凍して製品化しているので、新鮮ものよりも栄養価値が高い場合もあります。新鮮な野菜や果物といっても、収穫してから時間が経つと少しずつ栄養素が減少していくからです。缶詰ものは、製品化する過程で高温加熱する工程があるので、熱で失われる成分や水に溶け出す成分が減少している欠点があります。また缶詰の野菜はナトリウムが多かったり、缶詰の果物は濃いいシロップの中に詰められていたりすることもあるので注意が必要です。野菜や果物は、いろんな形のものを摂ることも薦められます。
A:野菜を熱水で加熱するなど長い時間加熱調理した場合は、水溶性ビタミンが溶出して損失してしまいます。電子レンジや蒸気で調理することが、野菜の栄養成分を保持する方法として最善です。
A:野菜や果物をジュースにするのは食事に多様性を与え、咀嚼や嚥下に問題のあるがんサバイバーには特に推奨されます。ジュースにすると野菜や果物に含まれている栄養成分の吸収を高めることができます。しかしながらジュースは、野菜や果物そのものを食べるよりもトータルの摂取量が減り、摂取する食物繊維も減少します。また果物のジュースは多くを摂ると、カロリーの摂取過剰になる可能性があるので注意が必要です。
A:菜食主義の食事が、がんの再発予防に関して、野菜や果物が豊富で赤味の肉の少ない食事と比較してメリットがあるという直接的な証拠はありません。しかしながら菜食主義の食事は、飽和脂肪酸が少なく食物繊維、ビタミンや植物成分が豊富なため、米国がん協会が推奨するがん予防の食事ガイドラインと一致し、多くの健康作用が期待できるのは確かです。
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