大規模地震災害と病院の対応(甲斐達朗ほか、大橋教良・編 災害医療、東京、へるす出版、2009、p.132-138) |
以下、地震対応計画の準備に必要な概念を述べ、愛媛における対策の必要性について簡単に考察する。
表1:次の南海地震の発生確率(地震調査委員会、2010)
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2)ライフライン
表2 愛媛の災害拠点病院 (*は海又は川が近いもの)
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神奈川DMATは、県に5病院の指定病院を指定することで発足した。本文は、神奈川DMATが創設された経緯と課題、解決に向けた取り組み、今後の展望が書かれている。
創設当初から神奈川DMAT以下のような基準等を設けた。県内だけでなく、他県の大規模災害もその活動範囲とする。神奈川DMATの活動は、消防機関と連携したトリアージ、緊急医療などを行う現場活動、被災地内での患者搬送および搬送中の診療を行う「城内搬送」、災害医療拠点病院の指揮下に入り患者の治療等を行う「病院支援」、必要に応じて被災地内では対応困難な重症患者に対する根治的な治療を目的に被災地外に搬送する「広域医療搬送」の4種類である。DMATは原則1チーム、医師2名、看護師2名、事務1名で編成する。神奈川は東海地震でも首都直下型地震でも大きく被災するが、神奈川が被災していない場合にはできるだけ他県の応援に出向き、神奈川がいざ被災した場合には率先して支援してもらう、神奈川DMAT単独ではなく日本DMATとの繋がりも強調された。一方でDMATの消防との連携が重要な課題である。現場に着いたらどこに行けばよいのか、現地で邪魔にならずに活動できるのか。この問題の解決は、DMATが現場活動での規律を身につけ、実際の災害時に消防に認めてもらうしかなく、DMAT研修には消防との連携が意識されたプログラムが組み込まれているにも関わらず、その事が地域で十分に認知されていないのが実情である。
創設期になり、神奈川DMATの定義を含む要綱が、東京DMATに準じたものとしてできた。しかし、本当に必要なものは要綱の次にくる運用計画のようなものであった。運用計画に関しては、日本赤十字社とのネットワークが重要であった。日赤の強みは、これまでに何度も災害に出動し、いち早く救護所を開設するとともに、災害急性期から亜急性期にかけて、計画的にその活動を維持する事ができる体制を整備していることにある。したがって、日赤とのネットワークがとても重要であった。また、消防との連携もまだ成功してはいなかったが、消防本部などを直接訪問して急速に神奈川DMATが浸透していった。最後の大きな課題は、出動基準であった。最終的には、DMATは文字通り災害時に派遣されるものであり自己の場合には出動しないという思想のもと、「災害」と「事故」の区分としておおむね30人以上の重傷者が発生する事態を「災害」ととらえることにした。さらに県では、神奈川DMAT連絡協議会の下に、医師や看護師などとは別に調整員として位置づけられる「ロジ」部会を設置し、DMAT活動に必要な運用を行うこととした。
DMATの訓練には、風水害対策訓練、市合同防災訓練、大機補事故救助訓練などを行った。実際には、新潟県中越沖地震の際に、神奈川DMATは自主参集という形で出動したが、出動に際しては課題もある。また、どのように研修をしていくかについても、創設当初からの課題であった。現在では、実践的なシミュレーションを実施した研修などを行っている。
平成20年度までに、研修及び訓練を2回終えた神奈川DMATは、現在も海上保安庁、緊急消防援助隊、広域緊急援助隊との訓練を重ねその実力を高めている。DMATは訓練された災害医療に係る共通言語を学んだ医療チームであると表現されるが、それを支える県の組織、体制も同じベクトルをもち、運用と協力体制を進めていく事が求められている。
DMATとは
「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義されており、災害派遣医療チームDisaster Medical Assistance Teamの頭文字をとって略してDMATと呼ばれている。医師、看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成され、大規模災害や多傷病者が発生した事故などの現場におおむね48時間以内に活動できる機動性を持った、専門的な訓練を受けた医療チームである。
1995年1月17日に起こった阪神・淡路大震災において、初期医療体制の遅れがなく、平時の救急医療レベルの医療が提供されていれば、救命できたと考えられる「避けられた災害死」が500名存在したのではないかという報告が上がった。こうした報告をうけ、各行政機関、消防、警察、自衛隊が連携しながら救助活動と並行し、医師が災害現場で医療を行う必要性が認識されるようになり、平成17年に厚生労働省がDMATを発足した。
現在、DMAT隊員養成研修修了施設は全国で500以上となっている。
挫滅症候群(crashsyndrome)・コンパートメント症候群
挫滅症候群は、地震や工事などの際にがれきの下にはさまれ、長時間経過した被災者を救出した際に発症する。長時間の四肢・背部などの圧迫により、広範囲に筋組織が損傷されると、ミオグロビン・K・乳酸などが蓄積される。救出されて筋の圧迫が解除されると、これらの物質が血液中に一気に流れ始めることで発症する。症状としては、意識混濁・チアノーゼなどで発症、ミオグロビンによるミオグロビン尿、尿細管障害による腎不全、高カリウム血症による心室細動や心停止をおこし、重症例では死亡する。早期の輸液、利尿薬の投与、透析を行う必要がある。
コンパートメント症候群は、挫滅・圧迫・熱傷などで四肢が浮腫をおこし、壊死に陥る症候群である。筋膜・皮膚を含めて減張切開を行い、筋内圧亢進、循環障害から筋肉の壊死、筋機能障害を予防することが必要である。
東日本大震災におけるDMATの活動
東日本大震災における津波災害では、300を超えるDMATが24時間以内に被災地(茨城県、福島県、宮城県、岩手県)に入り、活動を開始し、超急性期の医療ニーズを情報共有しつつ、ほぼ適確に展開・実施することができた。
一方で、想定していた救命治療を要する重症患者の発生は津波災害では少なく、ほとんどは野外の寒い環境で長時間救出を待ったことによる低体温症だった。重症症例は骨盤骨折、重症頭部外傷、頸椎損傷や、肺血栓塞栓症などで、被災後2日間で13名、中等症を含めた入院を要する患者数は、1日30人から40人程度であった。しかし被害そのものは大きく広範囲にわたり、孤立した地域の多発や燃料不足などが重なり、急性期の災害医療も長引いた。DMATの活動は当初想定していた発災後72時間を超え、原子力発電所事故による避難地域内医療施設からの患者搬出を含め11日間となった。
参考文献
その後、流出する放射能を食い止めるためにヘリコプターから炉心めがけて総計5,000トンに及ぶ砂、鉛などが投下された。結局、事故から10日後の5月6日、ようやく大量の放射能放出は終息した、ということになっている。原発の巨大事故の災害評価をするうえで、放出された放射能の量を正確に把握することは非常に重要な出発点である。
チェルノブイリ事故から4ヵ月後、IAEA(国際原子力機関)に提出された旧ソ連の最初の公式報告書によれば、40数種の放射能をトータルした全放出量は約1億キュリーとしている。この数字は事故から10日後の量として換算されたものである。しかし、放出された放射能はそれぞれの半減期で減衰していくため、実際にはもっと放出されたのではないか、と疑いをもった京大原子炉実験所のグループの算出によると約3.5倍(3.5億キュリー)となった。この値はソ連国内だけの沈着量であるため、ヨーロッパ各地のデータを組み合わせ算定しなおすと5.3倍(5.3億キュリー)となることがわかった。
一方、瀬尾氏のシミュレーションは100万キロワットの日本の軽水炉型原発が大事故を起こしたときに放出される放射能を「Wash-1400」をベースに試算している。それによると環境中に放出される放射能は6.4億キュリーとしている。この値はチェルノブイリ事故で試算された3.5億キュリーに近い。
しかし、急性障害死者数が予想をはるかに下回るのには以下の理由があった。チェルノブイリ事故は原子炉の暴走、爆発の後、黒鉛ブロックが燃え、火柱が立ち、放射能が1,000メートル以上もの上空に舞い上がった。そのため放射能汚染は地球規模に広がってしまった。そのかわり周辺地域の汚染は予想を下回る程度に回避できた。
瀬尾氏が分類した、放射能雲が拡散する気象条件ではA型では空高く拡散しながら進み、D型では地をはうように放射能雲は進む。しかし、実際はA型でもD型でもなく、黒鉛火災の火柱によって、初期の気象条件が問題にならないほど上空まで放射能が舞い上げられた。その結果、周辺地域の汚染は予想を大きく下回ったと考えられる。
89年に公表された汚染地図を見ると長期の非難が必要な領域が中心から600キロにまで及んでいる。1キュリー/km2以上の汚染域の面積をトータルすると145,320平方キロとなり、この面積は本州の約6割を占めることとなる。1キュリー/km2という値は日本の法令上、放射線の管理区域と指定されており、関係者以外立ち入り禁止と警告されている区域である。この1キュリー/km2以上の場所に住む住民数は約600万人であり、これを被ばく線量に換算すると年間0.001シーベルト、5年住むと0.005シーベルトとなる。この値は、600万人中、最低でも1万2000人が晩発性癌死するという計算になる。
トンデルらは、スウェーデンのセシウム137の汚染地図を用い、それぞれの地域に住む住民を対象集団として選び出し、癌発生との因果関係を調べた。また正確な住民登録と確かな癌診断登録制度が整っていたため疫学調査に適していた。
調査の対象集団は、一般的な癌発生率の高い60歳以上を除外し、1988〜1996年までの8年間に、放射能汚染による癌発生と認められるような疫学調査を実施した。その結果、住民数114万3182年、癌発生率は2万2409人であった。このうち849人がチェルノブイリからの放射能汚染によるものだと見積もっている。
また、トンデルらはセシウム汚染のレベルごとに癌発生率を出し、高汚染ゾーンほど癌発生率が高くなることを見出し「チェルノブイリ事故による放射線汚染レベルと癌発生率増加に有意な関係が認められる」としている。この疫学調査は事故が起きて2年目から10年後という晩発性癌死を知るには比較的短期間であり、晩発性癌の統計的精度を得るにはまだ不十分である。今後、さらに長期間にわたる調査が必要とされるだろう。
そこで、救急現場で処置ができる救命救急士に着目し、救急隊員に対し標準化災害トレーニングを開発しているが、救命救急士に限定したCMS教育プログラムが確立されていないのが現状である。そこで、日本の現状に適した救命救急士に対するCS教育プログラムを作成し、災害医療教育の有効性を明らかにすることを目的として本研究は行われた。
対象者:
CS教育プログラム作成
1)制限された空間活動 2)部分的にしかアクセスできない患者の観察
1.救命救急士のスキルの差の検証
グループ1・2の手技1回目に有意な差はなかったため、スキルは同程度といえる。
2.プログラム受講前後の比較
グループ1では、すべての項目においても所要時間は有意に短縮した。一方グループ3では、気道確保のみ有意な短縮が見られたが、他手技では有意差はなかった。
3.コントロール群の所要時間の比較
1回目と2回目に有意差は得られなかった。
4.プログラム受講の有無による比較
すべての項目において所要時間は有意に短縮した。
このことから、CS教育プログラムの有効性が証明された。さらに、常に臨機応変な対応を求められる救命救急士といえども、慣れや経験のみではCS環境に順応することができず、トレーニングが必要であることも分かった。
グループ3においては、気道確保以外の手技で有意差が見られなかった。医師においては救急隊員に比べ災害現場に慣れていない場合が多く、このため1回の受講では結果がでなかった。
このことから、医師も日ごろから災害現場を理解し、災害現場を想定したトレーニングを行うことが必要であると考えられる。
今後救急救命士に関する法整備が進められ、今以上に能力を発揮できるようになってほしいものである。
国際保健・災害医療活動においては、様々な情報を収集し、さらに自らのチーム力を評価したうえで、より成果を生み出すためにチーム全体の活動方針を検討し、計画がアドミニストレイタ―によって戦略として策定されていく。その計画を実行に移していく具体的戦術をロジスティクスという。以下、災害救助派遣時にロジスティクス担当者に想定される業務について述べる。
1.移動手段確保と運行管理
2.サイト想定
まず優先すべきファクターとして安全や医療ニーズ、他のロジスティクスが挙げられる。さらに対策本部の意向、他チームとの連携、後方病院へのアクセスや患者の利便性、排水などの立地条件なども考慮する必要がある。
3.サイト設営
4.宿舎(生活環境)の確保
被災地などでは限界があるが、出来うる限り安全で快適な生活環境を整備することが重要で、これがなされて初めて医療チームメンバーの能力が発揮できるといってよい。宿舎確保のために必要なファクターとして活動現場からの距離、衛生状況、ミーティング・業務室・倉庫の確保、保安設備、二次災害の危険性、通信手段の確保、派遣員の休息・安眠可能環境の確保が挙げられる。
5.通信環境整備と通信業務
通常の通信手段が制限される被災地において、通信の確保はチームの生命線と言える。平常時から行っておくべき業務としては通信機器の取り扱いに慣れておくこと、関係者のコンタクトリストを作成しておくこと、充電やメンテナンスなどがある。派遣中・活動中の業務としては機器の設営・通信環境の整備、コンタクトリストの管理、電源の確保、チームが分散した際に相互に連絡を取れる体制の確保が挙げられる。
6.報告・連絡
通信手段の確立においては、関係者・各機関と情報を共有するとともに、チーム活動上の問題点や課題をクリアしていくことが大きな目的である。そのためには、事実の正確な伝達報告や日々の活動日報を作成し送付するとともに、併せて広報素材となるトピックスなどの情報提供も必要である。
7.安全管理
ロジスティクス担当者にとって、安全管理は最重要項目に任務と言ってよい。特に海外での活動では治安状況が悪い場合も多く、日本国内と同じ感覚でいると盗難や最悪の場合であればチームメンバーの死傷の可能性もある。
まず、チームメンバーは自己の行動に伴う危険要因は自ら排除するという、自己防衛意識を持つことが肝要である。
8.資機材管理
基本的には自己完結型の装備が求められるが、それにも限界がある。したがって必要な資材を現地で調達する可能性も十分にある。そのために被災地周辺や災害対策本部などでどのようなものが、どれくらい調達できそうか、ある程度の確認をしておくことも重要である。また、調達については買占めをしないなど被災地への配慮も大切である。
9.調達(人員も含む)・管理
資機材と同じく自己完結型が望ましい。しかし、通訳・ドライバー・役務提供者については現地で雇用及び契約が必要となる。そのためには、現地情報収集やキーパーソンの発掘が重要である。
10.会計
会計処理の透明性が重要で、保有資金・支出額・残金の関係が明確になっていることが求められる。また、日々の帳簿管理を行うとともに、盗難・紛失がないように留意する。
11.メディア対応・記録
災害発生時には各種メディアを通じた情報提供が重要な役割を果たす。担当者はメンバー数、応対者の立場、活動期間、活動内容、診療状況、必要な物や人員、医療面からの留意事項などについてコンパクトにまとめて取材に応じる必要がある。
12.隊員の健康管理
活動前から定期的な健康診断を受けておくことが必要であり、必要な予防接種を極力行っていることが望ましい。活動中には時差ぼけ、ストレス、各種感染症、気温や日光などに対する対策を行う。活動終了後も発熱・下痢については慎重に対応し、精神的に不安定になった場合には専門家のカウンセリングを受けることを勧める。また、隊員が健康を害した場合にはすぐにチーム内で情報を共有し、その原因についての評価を行い、チームとしての今後の対応を検討するのが望ましい。
13.撤収の調整・事務
撤収する際は、少なくとも2日前には現地の患者さんに対して、診療所を撤収することを伝えたい。また、診療を引き継いでくれるチームの検討や紹介、必要な患者さんには現地語で紹介状を用意することも大切である。その他、撤収に必要な各種報告・事務処理を行う。
神奈川DMAT 自治体の立場から
(石神 猛、石原晋ほか・監修 プレホスピタルMOOK 9 DMAT、東京、永井書店、2009、193-206)
チェルノブイリ その実際の被害が物語るもの
(高橋繁行 別冊宝島1469号、2011年 p.50-57)
■概要
■予想とたがわぬ放出全放射能
■予想外だった急性障害死者数
■本州の6割分の高汚染域
■チェルノブイリからの放射能汚染によりスウェーデンで癌が増えている?
救急救命士に対する瓦礫の下(Confined Space)の災害シミュレーション教育の有効性について
(中山友紀ほか、集団災害医学会誌 15: 171-178, 2010)
■研究目的
■方法
グループ2…コントロール群の救命救急士(30人)
グループ3…CS教育プログラムを受講した医師(30人)
JMTDRマニュアル(国際緊急援助隊マニュアル)、標準的な教科書、NGOの活動等を
参考に6項目のプログラムを作成。各項目30分(座学10分、実技20分)、計180分。
3)気道確保 4)静脈路確保・薬剤投与 5)患者パッケージモニター 6)救出・搬入■結果
気道確保 静脈路確保
薬剤投与気道確保・薬剤投与
静脈路確保保温・全身固定
グループ1
(受講前)771.4±11,5 765.6±7.6 1,378.8±13.4 1315.7±12.4
グループ1
(受講後)682.5±13.1 686±8.6 1,275.8±9.8 1,272.0±11.7
グループ2
(1回目)776.5±11.2 789.2±13 1,395±12 1,353±16.5
グループ2
(2回目)757±11.1 798.5±17 1,374.2±13 1,374.5±14.4
グループ3
(受講前)807±15 832±18.5 1,486±19.7 1,608.0±26.7
グループ3
(受講後)775±11.3 836.5±17.11 1,486±19.7 1,608.0±26.7 ■考察
■まとめ
災害看護 活動支援と具体的運営管理
(中田敬司、災害人道医療支援会ほか・編 グローバル災害看護マニュアル、東京、真興交易医書出版、2007、p.262-277)