トリアージ(山本光昭、大橋教良・編 災害医療、東京、へるす出版、2009、p.90-98) |
ふるい分けは、多数傷病者を短時間にトリアージしなければならないときに行うトリアージの方法である。実際にはSTART(Simple Triage And Rapid Treatment)法を用いて行う。この方法は生理学的な指標のみで4つの群に分類する。まず歩けるものを除いて、傷病者の数を減らす。そして次に、呼吸、循環、意識レベルの順に評価していき、問題があればそこで赤と判断し、後の評価は行わない。すべてをクリアすれば黄色という簡単な方法である。
sort法は、生理学的評価に加えて、解剖学的評価を行い、受傷機転、災害弱者を考慮に入れて行うトリアージの方法である。実際の手順は、まず第1段階は生理学的評価であり表に示す所見があれば赤、生理学的評価に該当しなくても第2段階の解剖学的評価の表に示す損傷があれば赤、第1段階、第2段階に該当しない場合は、黄色か緑に分類されるが、第3段階の受傷機転と第4段階の災害弱者に該当する者は、黄色以上に分類することを考慮する。
広域災害においては重症患者を広域搬送する必要がある。災害拠点病院は、重症患者を治療するのではなく、広域搬送の適応基準に従って傷病者をトリアージする。
1994年の名古屋空港での飛行機墜落事故で、自衛隊、医師会、日本赤十字社の救護班が各々のトリアージタッグを用いて現場に混乱が生じたという反省に基づき、1996年に統一された。タッグの記載は応急救護所を出るまでに完成するよう努める。取り付けは傷病者の右手首が第一千択になっている。
災害時には、小児傷病者は少なくとも20%いると仮定される。小児にはJump START法が用いられる。特徴としては、無呼吸の場合は人工呼吸を5回試みる、正常呼吸数は15回以上45回以下とする、意識レベルの見方は小児用のAVPUを使用するなどがある。
災害発生時の病院の役割および使命は、傷病者の受け入れと治療である。大規模災害の発生直後には、被災地内の医療機関であっても被災状況、傷病者数など不明で、傷病者はおのずとかかりつけや近所の病院に集中する。来院する傷病者数が自施設の医療能力を超えることが予想される時は、速やかに院内の診療体制を災害時医療体制に移行する。本稿では災害時に病院が医療を行ううえで必須の院内災害医療体制の構築と病院での医療について、イギリスのMajor Incident Medical Management and Support(MIMMS)で「マネージメントおよびサポートにおける優先事項」として提唱され、昨今の日本DMAT研修会などでも使用されているCSCATTTに準じて提示する。
C(command and control): 指揮と統制)災害時医療体制を構築するためには、院内に災害対策本部を設置することが必須である。本部の役割は 1)職員・患者の安全確保、2)災害の規模、被災状況、自施設の被害状況などの情報収集とその分析、3)医療継続の可否など病院の意志決定とその指示、4)患者家族や市町村に対する情報発信、5)医薬品を含む医療資材、水、食料の確保、などである。
S(safety:安全): 病院が被災したとき、職員各個人がまずはじめに行うべきことは安全確保である。医療人として患者の安全を優先するといいたいところではあるが、まず優先すべきは自分の安全である、そして次に職員の安全、その次に患者さんの安全を確保する。
C(communication:情報伝達): 災害発生後できるだけ速やかに、職員・入院患者の人的被害状況、病院建物・ライフラインなどの被害状況、院内の実働可能な職員数、さらに職員の参集状況などの情報を院内の災害対策本部に集約する必要がある。これらの情報は各病棟、院内の各部署からすぐ本部に伝達されるように平素から「被害状況報告書」などを用意しておき、情報伝達訓練なども行っておく必要がある。
A(assessment:評価): 院内災害対策本部では、安全を確保し、情報を収集・分析し、次に病院としての医療継続が可能かどうかの判断が必要となる。入院患者については建物の安全が確保できない場合は逃避・退場が第一となる。建物の安全が確保されていてもライフラインの状況によっては自施設では治療継続困難なこともある。この場合速やかに医療が可能な被災地外の医療施設へ転院させることを手配する。次に予想される多数傷病者について病院としての方針を立てる。災害時の病院の役割・使命は傷病者の受け入れである以上、出来る限り受け入れるべきである。病院建物の安全が確保できない場合には駐車場などを利用して応急救護所を設営することなども考慮する。
T(triage:トリアージ): 来院する傷病者は災害現場で救急隊などにより搬送されトリアージされる場合と、傷病者自ら直接来院する場合がある。また、トリアージ後の搬送であっても搬送中に容態が変化することがあるので、病院の入口にトリアージエリアを設置することが必要となる。病院におけるトリアージは病院の入口、重症傷病の治療室や中等症の傷病者の治療室、レントゲン検査、手術室の入口などで頻回に行われる。病院におけるトリアージの方法や目的は病院自体の被災状況によって変化する。病院自体が被災し建物の崩壊、またはその危険性がある場合やライフラインの途絶などがある場合現場でのトリアージと同様にすぐに緊急処置が必要な致死的な傷病者のみを選び出し、緊急処置を担当する医師の下へ送り出す。この場合のトリアージは「START方式」や「篩い分けトリアージ」などの迅速かつ簡単な方法を行う。病院自体の被害が少なく、医療が行える場合、より詳細に治療の優先順位を決定するためにトリアージを行う。意識、呼吸、脈拍、血圧、SpO2、ショック徴候などの生理学的指標、および、胸郭動揺(フレイルチェスト)、開放性気胸、腹部膨満、骨盤骨折、四肢切断など解剖学的指標をもとに評価する。病院の被害が少なく医療が行える状況であっても、重症傷病者が多数来院した場合、適切なトリアージを行っても治療できる傷病者数には限界がある。この場合、搬送に耐えられる傷病者は被災地外の医療機関に依頼し、重症傷病者の分散を図る。昨今のわが国ではDMAT体制の中でそのシステムが整備されつつある。被災地内に設立されたDMATの集散医療施設や災害対策本部、都道府県の医療担当部局などに相談しその方策を探る。
T(treatment:治療): 現場救護所での治療は傷病者を安全に病院に搬送するための処置であり、原則気道を確保し呼吸と循環の安定化、外出血の止血、脊椎損傷の悪化防止などが行われる。これに対して、病院での治療は根本的な治療が目的となる。しかし、発災初期には傷病者数、その重症度などの医療需要が不鮮明であり、人的資源にも制限がある以上、トリアージで赤の傷病者に日常と同様に大量輸血などの治療は出来ない。平素の救急医療と災害時医療の違いをよくわきまえて治療戦略を立てる。また、来院する傷病者の疾病構成は発災後2、3日は外傷が多いが、その後の時期には内因性疾患にシフトすることも考慮する。
T(transportation:搬送): 多数傷病者が発生したときの被災地内の病院の役割は「傷病者を受け入れ治療すること」である。建物崩壊の危険がある場合は、職員入院患者の安全を確保した後、駐車場での応急処置のような医療であっても医療を継続したい。そして、医療需要が不明であり、資源に限りがあ時は診療体制を災害時医療体制にシフトさせ、最大多数の傷病者に最善を尽くすことを目標に医療を行う。また、多数の重症傷病者の受け入れは日常の医療ですら困難なことなので、DMATなどの協力のもと、傷病者を被災地外の医療機関に搬送し、重傷者の分散にて傷病者にとっての最善の医療を目指す。
山形県には村山、最上、置賜、庄内の4つの二次医療圏がある。山形DMATは最も大きな村山二次医療圏に3指定医療機関、置賜二次医療圏に1指定医療機関、庄内二次医療圏に1指定医療機関が分布しており、今後最上二次医療圏に1指定医療機関を設置する予定である。これらのDMAT指定医療機関はいずれも災害拠点病院であり、山形県は日本赤十字社の病院を有しないため、急性期災害医療の要として山形県において期待されている。山形DMATは平成19年(2007年)7月16日の新潟中越沖地震、平成20年(2008年)6月14日の岩手・宮城内陸地震、同年7月24日の岩手県北部沿岸地震への出動経験を持ち、同年7月の洞爺湖サミットへ1隊が医療救護班として派遣されている。
山形DMATの出動までの手順については、1)災害発生の覚知および災害発生情報の共有化、2)DMAT待機要請、3)DMAT出動要請、に大きく分けられる。1)については、迅速に情報をすべての関係機関が覚知するために、119番通報で最初に消防機関が県担当課へ連絡し、その後DMAT指定病院へ発災情報を伝達する方法をとった。その情報を受理した段階で災害医療関係者からなるメーリングリスト「けんふく緊急メーリングリスト」を活用して、発災情報の提供を行っている。
2)については、山形DMAT運営要綱では日本DMAT自動待機基準に加え「山形県内で震度5弱以上の地震が発生した場合」を追加している。
3)については、県外大規模災害発生時は日本DMAT活動要領と同様に「国あるいは他都道府県から山形DMATの出動要請があった場合」と定め、県から指定病院へ要請する方法をとっている。県内大規模災害発生時は「県内において災害等が発生し、被災者の救出に時間を要する等山形DMATが出動し対応することが効果的であると認められる場合」としているが、実際には県内の統括DMAT登録者と協議しつつ、出動要請を行うことになる。県内局所災害発生時には「県内において、災害等により2名以上の心肺停止を含む20名以上の傷病者が発生すると見込まれる場合」という基準を設けた。
DMAT指定病院の指定要件については、1)山形DMATを出動させる意思を有すること、2)山形DMATの活動に必要な人員、装備を有する、とし、病院からの申し出を踏まえて適当と判断した場合に、県が指定病院として指定している。平成20年9月22日に山形大学医学部附属病院、山形県立中央病院、公立置賜総合病院および日本海総合病院の4病院を初めて指定し、今後体制が整い次第済生会山形済生病院を指定する予定である。
指定病院との協定の締結については 1)DMAT隊員の出動、2)DMAT隊員の身分および補償、3)DMAT活動に係る経費負担、について検討を重ね、「山形DMATの出動に関する協定書」を締結した。出動要請については県知事から要請するが、出動の判断は指定病院の長によるものである。したがって身分についても指定病院の長の管理下にあるものとしている。DMAT隊員の補償については活動に伴う事故等に対応するための損害保険に加入しているが、医療過誤に対応するための賠償保険加入についても加入する方向である。
山形県では大規模災害が発生した際には、「県内で震度6弱以上の震度を観測(自動設置)」、「大規模な災害が発生、または発生の恐れ」、「知事が必要と認めたとき」に災害対策本部が設置される。災害対策本部の構成は、県知事が本部長として、副知事、各部局長で構成される災害対策本部員会議と、その会議の事務局として、7つの応急対策班からなる災害対策本部事務局から構成される。災害医療を担当する応急対策班は本県の場合「保健医療対策班」であり、ここで県内医療機関の被災状況の把握や、他都道府県へのDMATや医療救護班の出動要請の判断、広域医療搬送の調整、医薬品等の確保等を行うことになるが、他都道府県へのDMATの出動要請や広域医療搬送の要請の是非を、県庁職員のみで構成される保健医療対策班だけで適切に判断することは困難であるので災害医療の経験・知識を有する統括DMAT登録者が登庁し助言をもらえるよう検討している。DMAT本部が県庁に登庁し、災害対策本部内で活動する際は、県知事が本部長である災害対策本部員会議には直接入らず、保健医療対策班の中で活動することが考えられる。ここで、災害医療についての対応計画を提案し、本部員会議で検討し方針が決定されることになる。統括DMAT登録者の具体的な活動として、まず災害の詳細情報や、医療機関、公共交通機関などの被災状況、ライフラインの状況、消防や警察、自衛隊等の関係機関への活動状況等の情報収集を行うことが想定される。その後収集した情報をもとに、医療ニーズを確認し、必要であれば他都道府県へDMAT出動要請を提言する。
山形DMATの今後の課題としては、1)DMAT隊員の養成、2)災害現場までの移動手段、3)他都道府県との連携が挙げられる。1)については、現在DMAT指定病院で指定している病院のDMAT養成を引き続き支援するともに、新たなDMAT病院の整備を今後検討していく。2)については、DMAT指定病院の緊急自動車の整備は引き続き検討すべきである。3)については、日本DMAT活動要領等で、ある程度の応援要請する範囲を決める必要があるとともに、各地域ブロック単位で応援要請の体制を検討する必要がある。
災害拠点病院は、大規模災害が発生すれば無条件で負傷者の受け入れ、救護班を派遣するなど被災疾病者の救護・治療に当たらなければならない。同様に、警察もメディアも被害状況や被災疾病者の情報を収集し、報道、原因の究明、二次災害の抑制などの任務がある。しかし、これら三者は、それぞれが必要とする情報内容とその収集手段が異なり、しばしば競合する。医療従事者は、疾病者の生命の安全を守ることに加えて、そのプライバシーを守ることを任務として、メディアや警察と連携する必要がある。
対応窓口の設置:最も重要なことはメディアの対応窓口を設置し、対応を一本化することである。災害対策本部の下部組織として、1~2名のメディア対応に最も経験の深い事務職員が専任、現場を指揮する医師とチームを組む。すべての対応は院内災害本部の承認の下にに行う。
家宅侵入の阻止:病院内での取材を目的に、病院の敷地内に入る記者は病院の許可を得ているべきである。しかし、患者やその家族に外来や病棟の出入りは制限されないので、記者は家族への開放されたシステムに乗って病院内へ侵入できる。彼らは取材活動が制限されたと感じたとき、必ず報道の自由を主張し、強硬に突破を図る。彼らとの折り合いは、病院側が取材の制限ではなく秩序の維持を求めることで得られるはずである。
秩序の維持:原則として、病院は院内の安全と秩序を守るために、診療を目的とする疾病者以外の出入りを管理すべきである。そのために災害対応にあたっても、取材に来たメディア記者やクルーには下記の対応を迅速に行うべきである。
職員へのメディア対応法の周知:メディアに対する病院の対応姿勢とその意味については、平時より全職員に周知しておくべきであり、災害対策本部が立ち上がれば再度、確認の通知を早期に行うべきである。
情報提供の内容と形式:
会見の場所の設定:会見場所は、トリアージポストや病棟から離れた会議室を選ぶ。できるなら別棟が望まれる。
メディアとの協力関係:今日、病院が災害情報を最初に入手できるルートは、医師会や行政の情報網ではなく、消防およびメディアである。メディアとの関係は、確実な情報提供と秩序ある取材活動を基盤とした信頼関係のもとに、疾病者の安全と早期回復を願い相互協力の関係を築くことが望まれる。
災害時の連携:警察車両を患者搬送に利用したり、身元確認などで警察の協力を得ることができれば、強大な力となる。
患者情報の提供範囲:もし、災害医療対応が現実のものとなった場合は、警察官の動きは疾病者受け入れや療養に直接影響する可能性があるので、できるだけ早い段階で、メディア対応と同様に事前調整を具体的に行うべきである。この際には必ず患者情報の保護を課題として挙げるべきである。
病院での医療
(浅利 靖、山本保博ほか・監修 災害医学、東京、南山堂、2009、p.214-219)
山形DMAT
(森野一真ほか、石原晋ほか・監修 プレホスピタルMOOK 9 DMAT、東京、永井書店、2009、231-242)
メディア、警察との連携
(山口 勲ほか、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.246-250)○メディアとの連携
○警察との連携
○まとめ