災害医学・抄読会 110128

高速道路事故

(浅井康文ほか、山本保博ほか・監修 災害医学、東京、南山堂、2009、p.143-148)

1.高速道路事故の特徴と対策

 高速道路では一般道路と比べ、事故の発生率は低いが致死率は高い。また多重衝突事故や大型車に関係する事故が多く、大規模な事故となりやすい。

 一般的な特徴としては、夜間や雨天時に速度超過して重大事故に至るケースが多い。また、カーブが多かったり、渋滞が多かったりといった高速道路の構造上の特徴は末尾の追突事故を起こしやすい。冬にはスリップ事故や視界不良による玉突き事故が起こりやすい。

対策としては、シートベルトやエアバックの開発といった自動車の安全装備面と、雨天でも滑りにくい舗装や夜でも見えやすい区画線にするなど道路の安全装備面がある。

2.特殊車両による事故(爆発・火災、化学災害など)

 高速道路上の化学災害発生時は、事故関係者だけでなく、救助活動に従事する救急隊員や医療従事者などの他、付近の住民にも影響を及ぼすため、物質に関する情報が重要となる。被害を最小限に抑え、二次災害を防ぐため、積載物の有害性や爆発性などハザードに関する積極的な情報収集や提供、その伝達が大切である。

3.高速道路事故とドクターヘリ

 厚生労働省ドクターヘリ導入促進事業によって、ドクターヘリが2001年4 月から本格運行が開始された。ドクターヘリでの救助活動では、ダウンウォッシュ(離着陸に伴い煙が周囲大気に拡散する現象)など二次災害の観点から、現場における着陸場所が主に問題となる。サービスエリアなどへのヘリポート設置や、反対車線の交通を考慮した高速道路本線上の着陸難易度ランク付け(A〜E)などが検討されている。

4.まとめ

  1. 高速道路事故は一度発生すると重大事故に発展する可能性があり、大規模事故や爆発・火災・化学災害など特殊災害の発生を念頭に置く必要がある。

  2. 事故現場へのアクセスの妨げとなるハザードに対する情報収集が重要となる。

  3. 一般道路に比較してアクセスの方法が制限される可能性があるため、日常から関係機関と調整し、事故現場へのアクセス方法を検討しておく必要がある。

 *おまけ* 高速道路で走行・追い越し車線とも渋滞している場合の救急車のかわし方? 走行車線では左に寄り、追い越し車線では右に寄る。救急車は空けられたセンターを通る。


DMAT四国方面隊

(関 啓輔、石原晋ほか・監修 プレホスピタルMOOK 9 DMAT、東京、永井書店、2009、293-300)

DMAT(Disaste Medical Assistance Team)とは

はじめに

 DMATの活躍する機会は圧倒的に近隣災害が多く、地域ごとの連携が重要である。今回、四国におけるDMAT各チームの連携、行政及び消防との連携について紹介する。

【1】 DMAT四国方面隊の名称

 DMAT四国方面隊の名称は四国DMAT連絡協議会と称している。

【2】 四国DMAT連絡協議会の意義

  1. 隊員のスキルのメンテナンス・アップデート

    DMAT隊員はスキルの維持や改良された研修項目のアップデートを必要とするため、その講習、研修の場となる。

  2. 消防との連絡構築

  3. 行政を含めた現実的な組織の構築

    災害発生時に県の行政が災害対策本部を統括することになるため、実際の災害現 場を理解してもらうことが必要である。

  4. 防災計画への反映

  5. 自県自治体との要網作成への足がかり

  6. 自県自治体との協定締結への足がかり

    要網が作成されれば、DMAT隊員およびDMAT指定病院との運用協定を締結する ための足がかりとなる。

  7. 隣接自治体との協定の必要性と足がかり

  8. 四国内での連携の必要性

  9. 災害時に顔が見える関係の構築

【3】四国DMAT連絡協議会の構成

  1. 四国4県のDMAT隊員
  2. 四国4県の災害医療担当課職員
  3. 四国4県の危機管理担当課職員
  4. 四国4県消防担当課職員
  5. その他関係機関の職員

【4】メーリングリストの作成

 四国DMAT隊員と県庁関係者の情報交換の場として作成された。災害関連情報、ITLSなど自己研鑽の教育コース開催情報などを発信している。

【5】四国DMAT連絡協議会の開催

【6】第2回四国DMAT連絡協議会と消防との合同訓練

 2008年3月15・16日に香川県で行ったDMATチームと消防の合同訓練について紹介する。

  1. 実践的な参集訓練

    訓練は地震を想定して、発災開始時刻と参集場所は事前に知らせることなく開始し た。参集地点到着後に各チームのチェックをして、参集に必要な情報処理能力と物 品調達能力を評価した。

  2. 現地災害対策本部運用図上訓練

    消防の指揮隊により現地災害対策本部を設置し、先着したDMAT隊は統括DMAT隊となって消防指揮隊と連絡することを想定した訓練を行った。統括DMAT隊は傷病者の状況に合わせ、消防指揮隊に医学的アドバイスを行い、県内で収容できない負傷者については広域医療搬送システムを利用して搬送医療機関の選定を現場災害対策本部にアドバイスした。

  3. 呼吸器装着下の傷病者救出

  4. マンホール内での輸液路確保(CSM)

  5. 閉所煙道での気管挿管(CSM)

  6. 救護所の設営

  7. ヘリコプターを用いたDMAT資器材搭載訓練

  8. 多数傷病者の救出訓練

  9. 合同訓練の反省会

  10. 講義

  11. 懇親会

    構成員の親睦を深め、顔の見える関係の構築に貢献した。

【7】今後の展望

  1. 四国DMAT連絡協議会設置要綱の成文化
  2. 四国各県におけるDMATの運用要綱の作成
  3. DMAT運用予算案の制空
  4. 四国4県合同のDMAT運用要綱と応援協定


トリアージタッグの記載法と留意点

(山崎達枝、災害現場でのトリアージと応急処置、東京、日本看護協会出版界、30-36、2009)

 傷病者が多数発生するような災害や事故現場では、トリアージは不可欠であり、トリアージをより効果的にする道具がトリアージタッグである。トリアージを実施する技術も大切であるが、トリアージタッグへの記載を明確に行うことも災害時には重要なことである。

トリアージタッグの特徴

  1. 一目で傷病者の緊急度・重症度がわかる
  2. 簡単な医療情報の記載が可能
  3. 傷病者自身の情報の記載が可能
  4. 医師だけでなく、看護師・救命救急士などがトリアージを行うことを念頭においている
  5. 傷病者の整理および集計に役立ち、広報にも利用可能な傷病者の流れがわかる
  6. 材質は雨天時などでも利用できる全天候型で、破損しにくい
  7. 規格は全国的に統一されている

 トリアージタッグに示された情報や記載内容は、傷病者の将来を左右する重要な情報につながる。収容医療機関では、それぞれの過程で傷病者につけられたトリアージタッグの記載内容に基づいて、適切な処置が開始される。

 トリアージタッグは標準化部分とタッグ制作主体の裁量部分である自由裁量部分からなる。

1)標準化部分:傷病者の同定および担当機関の同定等に関わる記載内容

2)自由裁量部分:トリアージ実施場所、トリアージ実施機関、職種、症状・傷病者、トリアージ区分、バイタルサイン、人体図、特記事項、など

記載にあたっての留意点

  1. トリアージタッグは3枚複写になっている。3枚のうち1枚目は災害現場用、2枚目は運送機関用、3枚目の本体は収容医療機関用となる。

  2. 筆記用具は、黒か赤の油性のボールペンを使用する。

  3. 収容先の医療機関から他機関へ転送する際には、トリアージタッグを使わず、紹介状を作成するのが原則である。

トリアージタッグの記載方法

  1. No.:傷病者番号
  2. 氏名、住所、電話
  3. 年齢
  4. 性別
  5. トリアージ実施月日・時刻
  6. トリアージ実施者氏名
  7. 搬送機関名、収容医療機関名
  8. トリアージ実施場所
  9. トリアージ区分
  10. トリアージ実施機関
  11. 医師・救命救急士・その他
  12. 症状・傷病名
  13. 特記事項
  14. 人体図

優先的に記入すべき項目

  1. No.、トリアージ実施者氏名、トリアージ実施月日・時刻、トリアージ区分、症状・傷病名をまず優先的に記載し、もぎりを行う。この項目がトリアージタッグでは重要な部分となる。

  2. 氏名、年齢、性別、住所、電話は必ず記載するが、完全な記載を重視して時間をかけすぎることは避けるべきである。記載の優先順位は氏名→性別→電話→年齢→住所の順が望ましい。

トリアージの繰り返しの実施

 トリアージは1回で終わらず、災害現場に到着後、搬送中、医療機関到着後など必要応じて繰り返し行うことが原則である。その理由は、傷病者は時間の経過とともに病状が刻一刻と変化することが考えられ、評価が変化することが十分にありえるからである。

傷病者の状態が変化しているときや、判定変更後のトリアージタッグへの記載方法

 一度行った判定を変更する場合は、変更箇所を二重線で消し、その上に記入する。新たなトリアージタッグを使用するときは、最初のトリアージタッグは処分せずに、大きく全体に×をつけて無効になったことを示し、2枚目のタッグを重ねて新たに加える。

死亡が確認された場合

 医師が傷病者の死亡を確認した場合は、死亡確認の月日と時間を分単位まで記載する。死因は具体的に記載する。例えば「出血による死亡確認」などの記載があると、後の検視・検案の情報提供につながる。


ご遺体

(木下博之、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.251-257)

はじめに

 災害時の医療活動においては、負傷者の救出・救護が最優先される。しかし、不幸にして死者が発生した場合には、死者に対する十分な対応と配慮が求められる。災害での死者に対する対応としては、ご遺体の収容、司法警察員による検視と身元確認、医師による死体検案(検案)およびご遺体のご遺族への引き渡しが挙げられる。

1. ご遺体の収容およびトリアージ後の対応

 現場および現地救護所で死亡が確認された場合には、ご遺体は警察の指揮のもと遺体安置場所に搬送し、医療機関に搬送すべき患者と区別する。医療機関に搬送された後にトリアージにて生命徴候なしと判断された場合、あるいは治療を行ったにもかかわらず死亡が確認された場合は、ご遺体を医療機関内の仮遺体安置場所に搬送する。

2. 遺体安置場所

 設置場所の選択基準としては、現場から比較的近く、交通のアクセスがよく、かつ救助活動の妨げにならない、報道関係者や一般人の人目につかず、広い場所であることなどが挙げられる。具体的には大規模な体育館や公民館、学校の体育館や教室、寺院、警察署の構内(道場など)、大型のテント、航空機の格納庫などが考えられる。遺体安置場所の構造は大きく、検視・検案を行うエリア、ご遺体の処置を行うエリアおよびご遺族との対面スペースに分けられる。検案の際は医師、歯科医師および検案補助者からなるチームで行うことが望ましい。災害死亡者の身元確認は警察の責任で行われ、遺体安置場所での家族対応窓口の設置、ご遺体の収容状況についての広報が行われる。家族対応窓口では、ご遺体あるいは行方不明者の家族からの情報の収集と確認が警察官によって行われる。

3. 検視・死体検案

1)検視と死体検案

 検視は、検察官または警察官(司法警察員)によって行われる死亡の状況および死因などの調査をいう。死体検案(検案)は、医師が死体の外表を検査し、死因や損傷、死後経過時間、個人識別などについての医学的判断を行うことをいい、検視の一環として行われる。災害時の死体検案の結果は、死体検案書としてご遺族に交付され、死者の戸籍の抹消および死者個人にかかわる法的問題の処理に用いられるのみならず、災害死の疫学調査、刑事訴訟法上の検証、災害復興や将来の災害対策のための基礎的資料としても用いられる。また、災害死の認定や、それに伴う社会保障の資料としても使用される。

2)検視・検案業務の流れ

 遺体安置場所に搬入されたご遺体は、頭部のある完全遺体と頭部のない部分遺体に分け、それぞれ搬入順に番号を付し、まず警察官による検視を受ける。検視の終了後、医師による検案が行われる。検案は明るい場所で行い、死後硬直、死斑、体温降下などの死体現象を詳細に観察する。体表面から観察される損傷については人体図に詳しく記録する。また、個人識別の資料となる所見や身体的特徴(手術痕、瘢痕、あざ、ほくろ、刺青など)、性別、推定される年齢についても記録する。

4.検案に際して注意すべき事項

 死体検案書に記載する死因や死亡時刻を推定する基準、外因死の追加事項の記載に関する事項、用いる名称などを、検案チーム全体であらかじめ統一しておく必要がある。死亡時刻を判断する上で注意すべき点は、死亡時刻と死亡確認時刻を混同しないことである。個人識別のための検査試料としては、血液が望ましいが、損傷が高度で血液採取が困難な場合には、毛根を含む毛髪や口腔粘膜試料なども利用できる。薬毒物検査の場合も、試料としては血液が望ましいが、採取が困難な場合には他の体液で代用せざるを得ない。採取・保管すべき試料の種類と採取方法については、検査目的に応じてあらかじめ一定の手順を定めておき、検案チーム全体で打ち合わせておくことも必要である。医師が検案したご遺体の死体検案書の控え、検案記録(人体図を含む)および写真は、できればすべて後日の対応窓口となる現地の法医学関連機関において一元的に保存する。

5.ご遺族への対応

 死体検案終了後は、速やかに死体検案書を作成して交付することが求められる。また、身元が明らかになったご遺体は、警察により速やかにご遺族と対面の後、引き渡される。損傷が高度なご遺体については、ご遺族との対面前に修復処置を施すことが望ましい。

6.大規模災害での死体検案体制

 災害が発生した地域や災害の状況によっては臨床医に検案が依頼されることがあるが、臨床医には負傷者に対する救急医療活動が優先される。可能な限り専門家である法医学者・監察医が検案活動に従事することが望ましい。日本法医学会には、大規模災害時における死体検案支援体制がある。災害現地の法医学関連機関(災害現地機関)が警察本部や行政機関から要請を受けた場合、対応する災害現地機関が窓口となり地区理事を介して日本法医学会に連絡する。日本法医学会は死体検案支援対策本部を設置し、災害現地機関と密接に連絡を取り、死体検案チームを編成・派遣するシステムとなっている。

おわりに

 大規模災害時における死者への十分な対応を行うためには、十分な死体検案が行える体制の構築が不可欠である。そのためには、それぞれの地域の実情に合わせて、死体検案に従事する医師の動員や応援要請が速やかに行えるシステムを構築しておく必要がある。


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