火災(勝見 敦、山本保博ほか・監修 災害医学、東京、南山堂、2009、p.107-117) |
火災の種類は、建物火災、車輌火災、船舶火災、航空機火災、林野火災、その他の火災に分類されるが、日本で最も火災件数の多いのは建物火災である。総務省消防庁によると、2006年の火災発生件数は53276件、その中でも建物火災は31506件(59.1%)にのぼる。出火原因は、放火6649件(12.9%)が第1位で、コンロ5990件(11.2%)、タバコ5135件(9.6%)、放火の疑い4619件(8.7%)の順となっている。放火及び放火の疑いと合わせると11268件で約20%を占める。放火は1997年以降、連続して出火原因の第1位で、自殺とともに社会問題となっている。また、住宅火災による放火自殺などを除いた死者数1187人の688人(58%)が65歳以上の高齢者であり、多くが逃げ遅れが原因で死亡している。
建築構造の高層化や地下街など、施設構造も多様化しそれにともない火災の対応も複雑化してきている。ビル火災では、熱による火傷(熱傷)よりも煙、又はその中に含まれる有毒ガスが問題となっている。
火災の傷病者の中で、火傷による死者よりも、一酸化中毒・窒息による死者の方が多い。火災現場から傷病者が搬送されてきた場合に、まず気道熱傷を疑うことが必要である。気道熱傷は、直接の熱による障害のみならず、火災や爆発の際に生じる水蒸気、熱を吸収することによって生じる呼吸器系の障害の総称である。気管支鏡が気道熱傷の診断に最も有用であり、煤の付着、粘膜の蒼白化、潰瘍、腫脹、紅斑、びらんが認められた場合には気道熱傷と診断される。気道熱傷は障害を受ける部位によって、上気道型と下気道型に分類される。
直接の熱曝露によるものの多くは上気道の損傷が主体である。上気道自体は熱を低下させる役目があり、高圧蒸気曝露以外は咽頭反射にて熱による二次的な損傷を防御するため、気管や気管支には熱による障害は起こりにくいものとされている。咽頭、喉頭においては浮腫のため上気道閉塞が起こる。よって、上気道型では浮腫による上気道閉塞に対しての注意が必要となる。喉頭・咽頭の上気道浮腫は受傷直後にはその所見は明らかでなくても、受傷数時間後より増強し急激に気道の狭窄・閉塞を生じるので注意が必要である。気管挿管が困難な場合には躊躇せず、輪状甲状靭帯切開を行い気道確保する。気管支鏡で口腔内・声帯に浮腫、蒿度の発赤が認められ、顔面損傷、大量輸血を必要とする広範囲熱傷が合併する気道熱傷の場合には、早期に気管挿管を行うことが重要である。
下気道熱傷の呼吸障害は、燃焼によって生ずる有毒ガスによる障害によるものである。火災の際発生する一酸化炭素、シアン、塩素などの有毒ガスによって、致死的となる。気道刺激による気管支痙攣、分泌物も増加、肺サーファクタントの低下、気管内粘膜の脱落やフィブリン円柱などに気管支内デブリス、粘膜浮腫による無気肺となり、肺内シャント、呼吸換気量の低下、肺コンプライアンスの減少を生ずる。また、絨毛上皮クリアランスの低下によって肺炎と気管支肺炎を引き起こす。治療は、末梢気道の閉塞、無気肺、肺炎に対して呼吸管理が主となる。人工呼吸器の管理としては、肺虚脱、無気肺の予防に対して早期から5〜10cmH2Oの終末呼気陽圧(PEEP)をかける。肺コンプライアンスの低下、気道抵抗の上昇に対して圧外傷(barotrauma)を発生させないよう気道内圧に注意を払う。気道熱傷症例の輸液に関しては肺毛細血管の透過性亢進によって肺血管外水分量が増加するため、気道熱傷症例の輸液量は気道熱傷をともなっていない熱傷症例よりも多い輸液量を必要とする。気道熱傷は熱傷面積が増加するに従い合併率は高くなり、これらの広範囲熱傷症例においては循環血漿量減少性ショック(いわゆる熱傷ショック)の病態を呈しており、1~2ml/kg/時の尿量を確保できるよう十分な輸液量を必要とする。気道熱傷を合併した重症熱傷症例において輸液に対して一層厳密なモニタリングが必要とされる。
工場火災、住宅火災などでの煙(有毒ガス)による死亡原因には、シアン中毒によるものがあるとされている。シアン中毒は、体内に取り込まれたシアンが、ミトコンドリア内のチトクロームオキシダーゼのFe3+と結合し安定な化合物を作り、その酵素活性を阻害することにより、細胞内呼吸が障害される。症状として初期には、血圧上昇、頻脈、頻呼吸、チアノーゼは認めないが、意識障害、血圧低下、呼吸抑制などのバイタルサインの悪化と、著名な代謝性アシドーシスを認める。組織で酵素が阻害されないため、静脈血と動脈血と同じ明るい赤色を呈する。治療は、対処療法として100%酸素投与がある。解毒剤としては、亜硝酸アミル、チオ硝酸ナトリウムの投与が承認されている。また、日本で2008年に新たにシアン中毒解毒剤として、ヒドロキソコバランが販売され始めた。
災害時のトリアージは2段階あり第1段階はsieve(篩い分け)でSTART(Simple triage and rapid treatment)式を用いる。第2段階はより確実に分けるsort(選別)であり、第1段階で赤の傷病者の中から、緊急度・重傷度の高い傷病者に搬送・治療の優先順位をつけていく。
※用手的操作
まず、歩行可能な人をトリアージ緑として安全な場所に誘導します。
残った歩行不可能な傷病者を呼吸、循環、神経学的状態で評価する。呼吸があって30回以上または10回未満で赤、呼吸がなければ、異物除去や気道確保を実施して呼吸再開で赤、呼吸無しで黒。呼吸回数が10〜30回で循環の評価に移ります。
循環の評価では橈骨動脈触知と爪床圧迫法で判断します。触知不能、120回以上、再充実2秒以上で赤、触知可能、120回未満再充実2秒以内で神経学的状態に移ります。
神経学的状態の評価では、簡単な命令に応じるか否かで判断します。応じなければ赤、応じれば黄にします。「目を開けてください。」、「手を握ってください。」などで聞きます。
繰り返し再評価する。現場でのトリアージは、短時間で簡潔に行うことが要求されるため精度を要求することができないので、精度をできるだけあげるために繰り返しトリアージを行い、必要に応じて変更する。
まず到着したら、安全確認、事故概要、傷病者数等の把握。
討論型・体験型を重視し、座学講義は極力少ない。座学としては、「災害概論」「DMATの意義」、「DMATの災害対応の基本コンセプト・指揮命令系統・出動準備と安全管理」「トリアージ・治療・搬送」「遠隔地派遣」などの内容がある。実践的なものとしては、「災害対応シナリオ・机上シミュレーション」「トリアージ実技」「トランシーバーを用いた情報伝達訓練」「診療実技訓練(医師)」「災害看護(看護師)」「通信訓練(調整師)」「遠隔地派遣を想定した机上シミュレーション」などを行っている。受講生全員には、筆記試験(70分)とトリアージ実技試験、トランシーバー実技試験を行い到達度を確認している。
2.実践コース(アドバンストコース)(1〜2日間)
広域医療搬送と消防と連携した災害現場活動について研修している。
「自衛隊航空機内での医療(機内環境・気圧・加速度・騒音・照度・振動・電磁干渉・患者の配置と固定・器材の固定・使用資器材)について」「自衛隊輸送機の活用(自衛隊と災害派遣・航空機の種類と特性・自衛隊基地の使用の注意点)」「政府の広域空港搬送計画」の座学があり、さらにSCU活動のシミュレーション(航空搬送トリアージ、診療訓練、看護・記録訓練)、模擬活動実働訓練、活動の反省を実施している。
b. 消防と連携した災害現場活動
「圧挫症候群の病態」の座学、消防との災害現場での連携訓練(オリエンテーション・心構え・安全教育)、実動訓練、活動の反省がある。
3.広域医療搬送実働訓練〜UH-1(立川駐屯地)/CH-47、C-1(入間基地・木更津駐屯地)を用いた訓練〜
UH-1は陸上自衛隊が保有する中型の汎用ヘリコプター、CH-47は陸上自衛隊・航空自衛隊の大型輸送ヘリコプター、CH-1は航空自衛隊の大型固定翼航空機である。これらの実機を用いて患者搭載要領の訓練、航空機内での模擬活動訓練を実施している。
災害時の医療支援にあたって、被災者のニーズを把握したうえで適切な支援を適切な時期に、適切な対象に提供することが大事である。個々の支援チームの特性を生かしながらも、ニーズに対して柔軟に対応すること、他のチームと協調して活動することが求められる。
2)迅速評価
災害援助に関する最低基準を定めた「スフィアプロジェクト」では被災後3日以内に調査結果をレポートする迅速評価の重要性が強調されている。迅速な評価と介入は、被災の直後における傷病者への迅速な医療提供だけでなく、災害に引き続いて発生する二次災害の発見と介入の準備に役立つ。迅速評価の具体的な目的として以下のようなものがある。1.支援全体の必要性と是非の判断、2.優先事項の抽出、3.支援実現可能性の判断、4.実践戦略の作成、5.情報提供・共有。迅速評価は「早く、汚い方法」で行い、少々大雑把でも迅速に判断することが求められている。
3)被災地情報と診療情報
迅速評価のように被災地からの情報を収集する一方で、災害地での自らの活動の情報の分析の必要になってくる。それによって診療活動の円滑化、活動の展開と撤退の判断、活動の評価に役立つ。また、診療情報の分析によって被災地の保健医療ニーズに対して貢献できる。
保健医療ニーズの把握のためには必要な情報を適切な情報源から適切な方法で抽出し、集められた情報を適切に解析する必要がある。
2)問題点の抽出
調査を開始するにあたっては想定される調査対象となる問題点を抽出する。災害後の感染症などの流行状況を評価するには同じ季節、同じ地域における流行状況を把握する必要がある。迅速診断のような活動の基礎となる情報を集める場合は、基本的被災情報、人口動態、環境、主要な健康問題、人材・資機材に関する問題などが基本的な項目となる。
3)求められる指標の明確化
問題点を検討するにあたって、指標を明確にする必要がある。指標の定義づけにおいては疫学の3要素といわれる「時間」、「場所」、「人」を含める。例えば、特定の疾患の流行状況を調査する場合は「○○年△△月から□□月の間で××市内において▲▲という症状を呈した人」といった症例定義を作成する。
4)調査の対象・範囲の決定
調査の対象を明確にして正確な情報を収集するようにする。情報源の選定の原則としては可能な限り多種多様な情報源にアクセスすることである。
一次的情報とは災害現場から直接、あるいは災害に関与している機関から直接収集する情報である。自分の目で見たもの、被災民との会話、担当機関の会議もこれにあたる。
二次的情報とは各関連機関が一次情報をまとめて公式情報として発表するものである。
5)情報収集
これまでに決定された指標と調査範囲に従って情報収集を開始する。方法として以下のようなものがある。1.観察調査、2.被災者・キーパーソンへのインタビュー、3.フォーカス・グループ・ディスカッション、4.代表者とのディスカッション、5.サンプル・サーベイ、6.実験室データ収集
6)情報の解釈
7)対応、提言、共有
仮説が検証され、確かであれば保健医療ニーズに対して対応を行うことになる。個別の医療活動、公衆衛生活動など必要な対応を可能な限り提言する。調査結果を他の活動機関と共有し、各提言内容を効率的に提供できるように調整する。
一次トリアージと二次トリアージ
(山崎達枝、災害現場でのトリアージと応急処置、東京、日本看護協会出版界、12-17、2009)1.トリアージとは
2.災害時のトリアージ
3.トリアージの原則
4.トリアージの方法
順 位 分 類 識別色・区分 疾病状態及び病態 具体的事例
第1順位 最優先治療群
(重症群)赤色 ・(I) 生命を救うため、直ちに処置を必要とするもの。 気管閉塞、呼吸困難、意識障害、多発外傷、ショック、多量の外出血など
第2順位 待機的治療群
(中等症群)黄色 ・(II) ア多少治療の時間が遅れても、生命に危険がないもの。
イ基本的には、バイタルサインが安定しているもの。全身状態が比較的安定しているが、入院を要する以下の傷病者:脊髄損傷、四肢長管骨折、脱臼、中等熱傷など
第3順位 保留群
(軽症群) 緑色・(III) 軽度外傷・通院加療が可能な程度 小骨折、外傷、精神症状を呈するもの
第4順位 死亡群
治療・搬送待機群黒色・(0) 既に死亡しているもの、又は明らかに即死状態であり、心肺蘇生を施しても蘇生可能性のないもの。 圧迫、窒息、高度脳損傷、高位頚髄損傷、心大血管損傷、内臓破裂当により心肺停止状態 5.トリアージの繰り返し
6.トリアージタッグの装着部位
【一次トリアージ】
【二次トリアージ】
◎具体的な活動例
→必要な応援をする。災害医療活動の記録
(冨雄 敦ほか、丸川征四郎・編著 経験から学ぶ大規模災害医療、大阪、永井書店、2007、p.453-460)日本DMAT隊員養成
(本間正人、石原晋ほか・監修 プレホスピタルMOOK 9 DMAT、東京、永井書店、2009、68-72)
【研修の目的】
【研修の特徴】
【隊員養成研修会ができるまで】
【研修内容】
【課題】
被災者の保健医療ニーズ
(樋口まち子、災害人道医療支援会ほか・編 グローバル災害看護マニュアル、東京、真興交易医書出版、2007、p.116-122) 1.医療ニーズの把握
2.調査手法
収集された情報を特徴に従って整理することを情報の記述という。経時的な変化、特定疾患の流行曲線、地域、性別、年齢別、職業別などの視点から比較し、疫学の三大要素である「時間」、「場所」、「人」に従って特徴を整理する。
記述疫学による比較から問題点についての傾向が読み取れればそれを仮説として明文化する。
設定された仮説は解析疫学によって検証される。解析疫学には種々の手法が用いられるが小規模な症例対照研究、後ろ向きコホート研究が被災地において比較的簡便に応用可能である。解析結果が統計学的有意性を持っているか否か、示された関連性に「偶然」、「バイアス」、「第三の因子」による影響があるか否かを検討して最終的の解釈する。